ナデナデしちゃうぞ






第5話「さようならトゥデイ・・・何よりも大切な物」



 その日の美幸は、かなり不機嫌だった。



「大丈夫です。

 この子には異常はどこにもありません。」

「そうは言っても、エンジンがそろそろヤバくなってきてるぞ。

 早いうちに載せかえたほうがいいぜ。」

「平気です。

 この子の事は私が一番知っています。

 余計な口は出さないで下さい!」

「あ〜そうかい。

 なら勝手にしな!」



 警邏に行く途中セイヤさんに呼び止められ、トゥデイのエンジン不調を警告された美幸。

 けれど私も大丈夫だと思うんだけどなぁ?


「ねぇ美幸。

 本当にこのトゥデイ、何の問題ないよね?」

「当たり前でしょ夏美?

 あんたまであの人の言う事信用するの?」

「まっさか〜。

 美幸が大丈夫って言うなら大丈夫っしょ。

 こいつは私と美幸の思い出。

 そして美幸は、最高のメカニック。」

「・・・ありがと、夏美。」


 そう言った美幸の表情は沈んでいた。

 セイヤさんに1ヶ月程前に食堂で言われた事、まだ気にしているのかな?





「!!・・・美幸!!

 あれスピード違反車!!」

「追うわよ夏美!!」


 全く、朝っぱらからいい度胸じゃないの。

 けれどあの車・・・速い!!


「こちら辻元、

 今現在暴走車を追跡中。

 車種はえ〜と・・・黒のエボV

 ナンバーは・・・」





「ふっふっふ・・・
 汝らは我が野望の礎となるのだ・・・」






「全然追いつけない!?

 さすがはランエボ!!」


 確かに・・・コーナーではなんとか喰い付いていってるけど、

 ちょっとでもストレートがあるとドバッと差が開いてしまう。


「ふふふ・・・

 そこの墨東署の職員よ・・・

 そんなポンコツでは我には勝てぬぞ・・・」


 相手からの通信!?・・・と思ったらスピーカーを使って話し掛けているだけだった。

 近所迷惑だっての!!


「どうするの美幸!

 やっぱりエボVとトゥデイじゃ性能の差がありすぎるわよ!!」

「わかってるわよ!」


 ニトロを使ったとしても追いつけるのかな?

 そう思っていたら


「ひっさびさの登場〜!!」


 現れたのはハチロクに乗ったサブロウタさんだった。


「班長!相手はエボVだ!!

 『例のヤツ』頼むぜ!!」

「任せとけサブロウタ!!」


 ガシャン・・・ウィーン・・・ガチャガチャ・・・


 セイヤさんの通信が切れた後、いきなり道路の脇にが出来た。


「こんな事もあろうかと!!

 馬力で勝てない車が出てきても大丈夫なように、密かに街全体を改造した甲斐があったぜ!!

 といっても、この溝を上手く使いこなせるのはアキトとサブロウタだけだろうがな!

 ともかくだ!

 今この瞬間、ここ東京都は『対暴走車逮捕要塞都市――第3新東京市』となったのだ!!

 うははははははは〜〜!!」


 私と美幸は呆れて声も出なかった。





 私達とサブロウタ君はあのエボVを追い回していた。

 サブロウタ君はコーナーというコーナーでタイヤを溝に引っ掛け、ものすごい速さで曲がっている。

 さすがにこれには私達も驚いている。


「このままじゃ離されちゃう!!

 夏美!『アレ』お願い!!

 タイミングは次の右コーナー!!!!」

「りょうか〜い!!」


 サブロウタ君はなんとかついていってるけど、私達はもうちぎられそうになっていた。

 この時には、ニトロは全て使い切っていた。


「うおりゃああぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ズザザザザザザザ――!!


 右のコーナーに差し掛かったところをオーバースピードでドリフト。

 その時、私が足を使って横に流れるのを抑える。

 これぞ私の必殺技「足ブレーキ」。

 サブロウタ君が唖然としていたが、なんとかあたし達は離されずについていっている。


「やるではないか・・・

 汝らのコーナリング。

 実に素晴らしい。」


 また相手がスピーカーで話し掛けてきた。


「しかし、我は外道!

 汝らが我に勝つなど10年早いわ!!」


 そう言ってヤツはオーバースピードでコーナーに突っ込み、他の一般車に体当たりをしながらコーナーを曲がった。


「な、何よそれ・・・」

「反則じゃないのー」

「あの声・・・もしかして・・・」


 私達が驚いている内に、あのエボVは高速道路を走っていた。

                 こ   い   つ   ら
「高速に逃げられたら、もうハチロクとトゥデイじゃ追いつけませんね・・・馬力自体が違いますし。

 ここは一旦、出直しましょうよ」


 ちなみにあのエボVにぶつけられた哀れな車は、電柱にぶつかって大破していた。

 さらに、急に出来た溝のおかげでそれに引っかかった車が横転するなどの事故も起こった。

 始末書、書かなきゃだめよね・・・はぁ・・・・・・





「ま〜〜ったく!!

 あんな方法でコーナー曲がるなんて!!

 あれじゃあグランツーリスモ3やってる作者と一緒じゃないの!!(作:今はやってません)」


 私はもうキレる寸前だった。

 かつ丼大盛4杯に天丼特盛3杯食べても満たされる事はなかった。


(そんなポンコツでは我には勝てぬぞ)


 やつの言った事が妙に頭に残っている。

 ・・・美幸はどう思ってるんだろう。


「ねぇ美幸・・・あのエボVの言ってた事どう思ってる?」


 私は食事に来た美幸に聞いてみた。

 ニトロを使ってもあのエボVを捕らえる事は出来ないというのは、美幸も思い知らされたはずだ。。

 サブロウタ君が言うにはあのエボVは軽く300馬力を超えてるって話だもんね。


「トゥデイからは絶対乗り換えないわよ。」


 美幸はそうとだけ言った。

 けれど、少々意地になっているところもあった。

 つまりは美幸も薄々は感じてるんだ。

 トゥデイの限界を・・・



「本当です。
 間違いなくアレは北辰でした。」

「アキトさん。
 どういうことでしょうか。」

「分からない・・・
 仮に北辰だとしても、なぜあんな所であんな事をしていたのか・・・」





 午後の警邏の美幸はかなり不機嫌だった。


「あのエボV。

 今度見つけたらタダじゃすまさないわよ。」


 けれど本当にエボVに勝てるだろうか?

 美幸の運転の上手さは知っているけど、車の性能の差はどうしようもない。


「ねえ美幸。

 どうしてもトゥデイでやりたいなら、セイヤさんに改造頼もうよ。」


 セイヤさんなら何かいい方法を知っているかもしれない。

 けど美幸はいやって言うんだろうな。


「あの人に頼るのは絶対にいや!!」


 やっぱし・・・ん!?


「美幸!アレ!!

 例の黒いエボV!!」


 とたんに美幸はトゥデイを思いっきり加速させた。


「夏美!!墨東署に連絡!!

 今度こそ捕まえるわよ。」



「あれ〜、セイヤさん。
 どこ行くんですか?」

「ああ、頼ちゃんか。
 いや、ちょっとな・・・(嫌な予感がするぜ)」



 やっぱりめちゃ速い!

 コーナーでは互角だけど、ストレートで思いっきり差が開いてしまう。


「汝の車で我がエボVに勝とうなど、片腹痛いわ。」

「そう言っていられるのも今のうちよ!!

 ニトロON!!」


 美幸は一気にニトロをONにしてエボVを追いかけた。


「夏美!準備しといて!!

 ニトロが切れる前に短期決戦で行くわよ!!」

「任せといて!!」


 そういって私は足ブレーキの体勢をとった。  その時!!


 グシャ!!!


 嫌な音がした・・・

 トゥデイが制御不能になり、タコメーターの針は「0」に向かって落ちていく・・・

 美幸は精一杯ハンドルを切り、車の挙動を落ち着けようとしている・・・


「このおぉぉーーー!!」


 私も足ブレーキを使って、トゥデイは何とか止まった。


 プシュー・・・


 完全に動かなくなってしまったトゥデイ。

 私達は、ただ呆然とするしかなかった・・・


「未熟者よ・・・」


 そう言って現れたのは、あのランエボに乗っていたやつだった。


「おそらくはそのエンジンはすでに寿命なのであろう・・・

 余程、そちらのメカニックは大した腕ではないようだな。

 こんな状態の車を使わせるなど言語道断!」


 そう言われ、美幸の肩が震える。


「まあよいわ・・・

 これを機会にトゥデイは潰したらどうだ?

 もっとよい車に乗りかえるまで我との勝負は預けておこう。」


 そういって、やつは走り去っていった。

 私達の時間は、しばらく止まったままだった・・・







 いつまでそうしていただろう・・・

 墨東署のレッカー車がここに向かってきていた。


(あれ?・・・連絡してないのに・・・・・・)


 止まるレッカー車。

 中から出てきたのはセイヤさんだった。

 そしてトゥデイのボンネットを開けて中を覗いた。

 私達も恐る恐るといった感じでその様子を見つめていた。

 セイヤさんは渋い顔・・・美幸に至っては絶望しているかのような顔をしていた。

 私が思っているよりもヤバイ状況なのかな??


「あの・・・セイヤさん・・・」

「話は後だ・・・トゥデイを乗っけるぞ。」


 セイヤさんはトゥデイをレッカー車に乗せた。

 私達はただ立ちすくんでいるだけだった。


「何ボ〜ッとしてるんだ。

 早く乗れや。」

「は、はい・・・」





 美幸の表情は暗い。

 私も多分、皆には見せられない顔してるんだろうな。


「あの・・・セイヤさん。」

「何だ?」


 私はセイヤさんに、聞きたい事を聞こうとした。


「どうしてこうなってるって思ったの?

 それとどうやって私達の居場所を見つけたの?」


 違う・・・私が聞きたいのはそんな事じゃない。


「最初の質問に対しては・・・まあメカニックとしての『勘』ってやつかな。

 次の質問に対しては、アキトのやつに無線で聞いた。

 アイツの付けているバイザーにはナビがついているからな。

 お前らの車を探す事ぐらいわけねえんだよ。」


 トゥデイは直る・・・その言葉を私は聞きたい。


「あのさ、セイヤさん!

 トゥデイのエンジン直すついでに、パワーアップも頼めないかな?

 もし古いやつだからお金がかかりすぎるって言うなら、私が出しとくから。

 私と美幸のを合わせると貯金は確か・・・」

「金の事なら心配はいらねぇ。

 ちょいと頼めばネルガルの方で援助してくれる。」

「ならそれを使って「だめなのよ・・・」・・・美幸?」


 美幸が震えた声で話し始めた。


「セイヤさんの後ろからエンジン見てみたんだけどね・・・

 クランクシャフトとコンロッドをつなぐピンが折れてるの・・・

 それで、暴れたコンロッドが内側からブロックを突き破って大穴が空いちゃったの・・・

 エンジンはもうダメ・・・載せかえるしか・・・ないの・・・・・・」


 私には、美幸の言う事が信じられなかった。。


「載せかえるって・・・それじゃあ私達のトゥデイじゃなくなるって事じゃない!

 ねえ、どうにかならないの!セイヤさん!?

 あなた一流のメカニックなんでしょう!?直してよ!!

 お願いだからさ・・・直して頂戴よ・・・・・・


 私自身、セイヤさんに無茶なお願いを言ってるという事は分かっている。

 それでも・・・


「直せるもんなら直してやるさ。

 言われなくてもな。

 だがダメなもんはダメなんだ。
  こ い つ
 エンジンはもう・・・使えねぇ。」


 セイヤさんの口から発されたのはトゥデイの死刑宣告だった。

 思い出がなくなる。

 そう思った時、私は目頭が熱くなるのを感じた。


「ごめんね夏美ぃ。

 私がきちんとセイヤさんの言う事を聞いていたら・・・

 何が最高のメカニックよ・・・

 あの子の事を一番理解しているよ・・・」


 美幸はすでに泣き出していた。

 その目からは、涙が止まる事を知らぬかのようにあふれ出ていた。


「お前の所為じゃねえよ小早川・・・

 たとえ俺の言う通りにしたとしても、結局はエンジンは載せかえるしかなかったんだ。

 お前の所為じゃねえ・・・」


 そう言って、セイヤさんは・・・少しためらいながら美幸の頭を撫でていた・・・





 第5話へ続く














 後書き・・・

 まずは言い訳からお願いします。

 最初に、美幸主役のシリアスな話を創りたかったんです。

 夏美の一人称でしたけど・・・

 それでですね。

 美幸→トゥデイ→車→バトル→イニシ○ルDという風になっちゃったわけです。

 あまり他の作品とごちゃ混ぜにしちゃいけませんよね?

 これはあくまで、ナデシコと逮捕しちゃうぞのクロスオーバーなんですからね。

 この後の展開は想像出来る人もいるかもしれませんが、とりあえずトゥデイは直します。

 エボVに乗っていたのは勿論、北辰です。

 何故北辰が!?・・・それは多分次回で明らかになると思います。

 ・・・なんかセイヤさん、この作品で一番目立ってるんじゃないでしょうか?

 作者は彼の事は好きだけど、主役にした覚えは一度もありません。(笑)

 ちなみに「足ブレーキ」は本来は車を止める緊急手段として使われています。

 それではまた

 

 

代理人の感想

北辰とレッツ峠バトル!に爆笑。(いや、峠じゃないし)

すいません、美幸のシリアスよりこっちの方が目を引いてしまいました(笑)。

 

 

 

後、今回の「気になった文章」のコーナー。

北辰の

「余程、そちらのメカニックは大した腕ではないようだな」

と言うセリフですが、

「大した〜ではない」と言うのは「最悪ではないが良くもない」という「部分否定」の表現なので

「余程」という「強調」の言葉とは馴染みません。

「とても良い」「とても悪い」と言う言い方はあっても、

「とても中くらい」という言い方は普通しないのと同じです。

 

文章のリズムをそのままに修正するのであれば

「ふむ、そちらのメカニックは大した腕ではないようだな」とか、

「余程、そちらのメカニックには使える者がおらぬと見える」くらいが適当かと思われます。