第6話「リターンマッチ・・・生まれ変わるトゥデイ」
”あの事件”の翌日。
何度夢だったら・・・そう思っただろうか。
けれど、悪夢はまだ続いたままだった。
「小早川と辻元の二人は、車の修理が終わるまでテンカワの車に乗る事になる。
その間、テンカワと影護の二人にはウリバタケ製の自転車に乗ってもらう事に「質問で〜す。」なんだ二階堂?」
「自転車で警邏ってできるんですか?
ま え
過去に有栖川君もかなり大変だったって言ってましたけど。」
「その点については問題ない。
ルリ君に聞いたところ、二人共走るだけで時速60kmは軽いとの事だ。
二人が自転車に乗れば、時速200kmは軽くいくだろう。
尤も、自転車が耐えれればの話だがな。」
「マジ・・・」
そんなやりとりも、私にとってはどこ吹く風だった。
「おーい!小早川!!
そ い つ
シューティングスターはハッキリ言って以前のやつとは大違いだ。
今日の所は違反車見つけても無理しないで、そいつになれることだけを考えろ。」
「分かりました・・・」
そうして私達は警邏に向かうのであった。
初めて乗ったシューティングスターの乗り心地は最高だった。
アクセルを踏めばぐんぐん加速し、ブレーキを踏めば挙動が乱れる事もなく静止する。
クラッチをつなぐ感覚が妙に心地よい。
いつもの草原で、ブレーキングドリフトをやってみたけれど、かなり楽勝でコントロールできた。
「やな奴だな、私って。」
「何で?」
「だって・・・素直にあの子よりこの車の方がいいって思ってるんだもの。」
「・・・・・・」
そう・・・私は今”思い出”よりも”実用性”を選ぼうとしている。
私のトゥデイに対する思い入れってこんなモノだったの?
そう自分を責める気持ちがある。
「美幸が今考えている事はなんとなく分かるわ。」
夏美が話し掛けてきた。
「けれど、私思うんだ。
私達も変わらなくちゃいけないの、トゥデイと一緒に。
今の私達に必要なのは”過去の思い出”じゃなくて”これからの思い出”じゃないのかなって。」
夏美の言葉一つ一つが私の心に響く。
夏美のおかげで私の心が救われていくような気がする。
・・・ありがとう、夏美。
それから二日後・・・
「これが新しく生まれ変わったトゥデイだ。」
私達の目の前にはあの時と同じトゥデイがそのままの姿であった。
「エンジンの方はネルガルが製作した簡易型相転移エンジンを搭載した。
本来はサブロウタのハチロクに載っけるつもりだったんだが、俺の一存でコイツに載せる事にした。」
「すみません。
サブロウタさんにはなんか悪い事してしまいましたね。」
「いいって事よ。
ヤローの事より女性の事・・・それが俺のポリシーなんだからよ。」
ちなみに、サブロウタ君は三日三晩、理不尽な現実というものをハーリー君に熱く語ったそうだ。
「ついでにボディの強化・軽量化もしといた。
駆動方式は4WDのまま。
まさかすでにFFから4WDにしてるとは俺も思わなかったぜ。
ならしは無用!エンジンは11000までしっかり回せ!!
受けた屈辱は倍にして返してやりな!!」
「「分かりました!!」」
私はシートに座ってまずハンドルを握ってみる。
いろいろ手を加えたところがあった所為か、何故かトゥデイが全く違う車のように感じた。
けれど・・・悪くない。
「行こう、美幸。」
「ええ。」
マ ー
ク
私達とこのトゥデイMKUはここから始まった・・・
「どう、美幸。
調子のほうは?」
「かなりいいわね・・・
やっぱりシューティングスターである程度慣らしといたのがよかったのね。」
後で課長に聞いてみたら、私達をあの車に乗るように頼んだのはセイヤさんだったそうだ。
何から何まで迷惑かけっぱなしだな・・・
「美幸。
まず最初に私達がする事は分かってるわよね?」
「ええ、勿論。
あのムカツクエボVを逮捕してやるんだから!!」
そういう事で私達はあのエボVを探していた。
まあすぐに見つけれるとは思ってはいなかった。
「あの時言ったはずだ。
我と競りあえる車に乗りかえるまで勝負は預けておくと。」
まさか7秒後に見つかるとは・・・
交差点を左折してジュースでも飲もうと思ったら、そこに奴は何故か腕組みをしながら自販機の前に立っていた。
「以前のこの子と一緒にしないで下さい。
この子が私にとってはいい車なんです。
ダメですか?この子じゃ・・・」
私はすでに、並大抵の事では驚かなくなってしまった。
なにせ、非日常的な出来事があの日から毎日といっていい程起こっているのだから。
本当、ナデシコの人達と関わってからは精神的にタフになったわ。
「まあよかろう。
我としてもやり残したバトルだ。
この勝負受けてたってやろう!
外道の名にかけて!!」
そういうと奴は、すぐさまエボVに乗り、そのまますごいスピードで加速していった。
「あいつは一体、何がしたくて暴走しとるんじゃ!!」
「追うわよ!夏美!!」
キュイイイイン・・・
グワイイイイン・・・
すごい・・・この車。
何とかエボVにくっ付いていけてる。
それでも奴の方が直線では速い。
「遅かりし復讐人よ・・・」
相手は好き勝手言ってきている。
確かに、まだ突破口は見出せていない。
けれどこの子の限界はこんなものじゃないはず。
「怖かろう、悔しかろう・・・
たとえ車を直そうと・・・
心の弱さは治らないのだ!!」
「ニトロON!!」
一瞬、あの事故の事を思い出してしまった・・・
動かなくなってしまったトゥデイ・・・
自分の無力さを呪っていた私・・・
それらを振り切るようにニトロのスイッチをONに切り替えた。
ギュイイィンンンン・・・
くっ・・・めちゃめちゃ速い!?
こんな事初めて!!
「美幸!?」
「大丈夫!まだいけるわ!!」
とは言ってみたけれど、自分でも冷や汗をかいているのがよく分かる。
このままいってもいつまで集中力が持つか・・・
そう思ったら奴がいきなり止まった!?
何故?
「は〜い、皆さ〜ん。
横断歩道を渡る時はきちんと手を上げて渡りましょうね〜。」
「は〜い。」
奴が止まった先には、横断歩道を渡っていた幼稚園児達がいた。
何故か全員が女の子だった。
「あんた・・・まさか・・・・・・」
「・・・(ポッ)」
夏美の質問に無口になったエボV。
エボVのバックミラーには奴の照れている顔がはっきりと映っている。。
ゾクッ・・・
(コノオトコニチカヅイテハナラナイ・・・)
私の本能は全開でそれを私自身に教えようとしていた。
幼稚園児達が渡り終わったら奴はさっさと赤信号を走り去っていった。
「美幸・・・アイツってもしかして・・・」
「夏美・・・私達は何も見なかった・・・
そうでしょう?」
「そうね。」
私達は、目の前で起こった事を即座に忘れる事にした。
私の集中力はすでに散漫状態だった。
そして左の急コーナーに差し掛かった時、私は戦慄した・・・。
前のエボVのブレーキランプに合わせて今までブレーキのタイミングを計ってきたのを見抜かれたのか、
相手はサイドブレーキを使ってスピードを殺し、ブレーキランプの点灯をさせなかったのだ。
「しまった!!」
気付いた時にはもう遅かった。
私は絶望的なスピードでコーナーに差し掛かってしまった。
エボVのコーナー進入速度およそ70kmに対し、私達は今からフルブレーキをしても100km。
この急コーナーではこの30kmの差はとてつもなく大きい。
おまけに左コーナーだから足ブレーキも使えない。
「迂闊なり、小早川美幸。」
キキキキキキキ・・・
考えるよりも先に体が反応した。
いつものドリフトよりもリアを思いっきり大きく振り出す。
カウンターを大きく当て、ハーフスピン状態にする。
トゥデイは今にもガードレールに衝突しそうな勢いだった。
(お願い!戻って・・・!!)
焦ってはならない・・・
アクセルが少しでも弱ければそのまま横に流れるだけ・・・
逆に少しでも強ければリアが流れてスピンしてしまう・・・
カウンターもあまり切りすぎると、今度はフロントが流れてしまう・・・
ほぼ制御不能に陥ったトゥデイを、微妙なカウンターとアクセルワークで立ち直らせようとしていた。
キキキキキキキ・・・グァン!
「よし!抜けた!!」
「ふぃ〜〜。」
何とかトゥデイはぶつけずにすんだ。
夏美も溜め息を吐いている。
私は・・・
(・・・・・・絶対逃がさないわよ!!あの外道爬虫類!!)
かなり怒って・・・いや、キレてしまった。
「美幸!?ち、ちょっと・・・美幸!!」
夏美の声も聞こえなくなってきた。
今はただ、目の前にいるエボVをとっ捕まえる事だけを考えていた。
ギャギャギャギャギャギャ・・・
コーナーというコーナーをブレーキをあまりかけず、直ドリで曲がり続ける私。
ニトロもそろそろ切れそうになってきている。
もはやタイヤの負担なんて考えてる余裕もない。
「よくぞここまで・・・人の執念、見せてもらった。」
「前回の事といいさっきの事といい・・・あなたさっさと捕まりなさい!!」
いよいよニトロが切れると思った時、目の前には大きな右コーナーがあった。
「夏美、お願い!!」
「え!?わ、わかった!!」
私はサイドブレーキで車を横に傾け、コーナーに進入した。
当然、ブレーキペダルは1ミリも踏んでいない。
「馬鹿な!無理だ!!
曲がれるはずがない!!!」
「いえ、曲がる!!
曲がらなくとも夏美なら曲げてくれる!!!」
「その通り!!
おりゃあああああ!!!」
ガガガガガガガガ・・・
夏美の渾身の足ブレーキ・・・
それでも、トゥデイはものすごい勢いで横に流れている。
「くっ・・・いい加減に曲がりなさぁい!!」
ガガガガ・・・ガッ!!
「な、何と・・・」
唖然とするエボV。
私達は奴より速いスピードで立ち上がった為、余裕で前に出る事が出来た。
「見事だ・・・」
そう言って、エボVは止まった。
「さて、教えてもらいましょうか・・・
何故こんな事をしたのかしら?」
私は早速この男に問いただした。
「それは私達も興味ありますね・・・北辰!」
慌てて振り向くと、そこにはルリちゃんとサブロウタ君。
それにアキト君と北斗君がいた。
何やらただ事ではなさそう。
皆の表情を見ればそれがよく分かる
北辰と呼ばれた男の方を見ると、何やら震えていた。
「さて、答えてもらおうか親父。
どうして貴様がここにいる!?」
え!?この人が北斗君のお父さん!?
「北斗〜〜!!パパはあいたかったよ〜〜〜!!!!!」
「「「へ?(はい?)」」」(アキト君、サブロウタ君、ルリちゃん)
そういっていきなり北斗君に抱きついた北辰さん。(一応年上だし、北斗君のお父さんみたいだからさん付け)
「何しやがる!!」
ズガァ!
いきなり抱きつかれた北斗君は、朱金の輝きをした右ストレートを北辰さんの顔面に炸裂させた。
そしてそのまま地面を真っ赤にして横たわる北辰さん。
その顔を見る限りだと、ご臨終は近い。
呆然としているアキト君達。
北斗君は肩で息をしながらも全身に鳥肌が立っていた。
ピー、ピー・・・
ここは墨東署の医療室。
一部の人達の間では「地獄への扉」とも呼ばれているようだ。
北辰さんに取り付けられた心電図はほぼ真っ直ぐな線を引いていた。
「どうですか、イネスさん?」
「説明しましょう!」
ああ、またこの人の説明が始まるのね・・・
「まず、この男の正体は北辰で間違いがないはず。
遺伝子データが本人と一致しているんですもの、疑いようがないわね。
けれどおかしい事に、この北辰にはブーステッドを受けたような後が全然ないの。
性格も私達の知っている北辰とは天と地ほどの差があるわ。
これはつまり、この北辰は別の世界からのボソンジャンプでこっちの世界に来た可能性があるわけ。
さらに言うならば、昂気の一撃をまともに喰らって生きているという事は、彼も昂気を使えるという事。
解ったかしら。」
全然解りません。
だって訳わかんない言葉とかが多かったし。
「つまりはこの北辰はボソンジャンプによって別世界・・・というより、パラレルワールドからやって来たという事ですね。」
ルリちゃんはどうやら理解できたようだ。
でもボソンジャンプって一体・・・
「その通りだ。」
北辰さんがいつの間にか気が付いていたようだ。
「我の世界では戦争すら行われなわれる事もなく和平が成立した。
尤も、互いに衝突することもしばしばあったがな。
そこで地球と木星の中間に位置する火星に大規模な学園を建造し、若者同士の交流の場を作り出した。
そこは通称ナデシコ学園と呼ばれていた。
おぬし達もそこに通学・通勤する学生・教師だったのだ。」
その言葉に驚くアキト君達。
私は話についていけないから、静観を決めた。
「その学園で我はイネスに捕まり、ボソンジャンプの実験をされ、この世界に来てしまったというわけだ。」
全員の目がイネスさんの方を向く。
「何よ・・・やったのは”向こうの世界の私”でしょ。
だったら私は何も関係ないじゃないのよ。」
何はともあれ、この人の出生の秘密はなんとなく解ったけど・・・。
「まあ大体のいきさつはわかりましたが、なぜスピード違反をしていたのかを教えていただけませんか?
あなたのおかげでどれだけこっちが迷惑したか・・・」
ルリちゃんの質問に
「ふっ・・・簡単な事よ。
ここには我が愛する北斗がいる。
我が警察に行くとなればそれすなわち”お縄”につく時。
しかし我は外道!
そう易々と捕まる訳には行かなかった訳よ。」
「まあ外道かどうかは別として・・・
とりあえずは、自分を負かす事ができる奴の手で捕まりたかったという事だな。」
「その通り。」
はぁ〜〜・・・
結局私達は、この男一人の為に振り回され続けたって訳ね。
なんとも言えない緊張感の中で、プロスさんが一言。
「北辰さん。
ここで働いてみませんか?」
・・・勘弁して。
後書き・・・
ついに登場!ピンク北辰!!(ちょっと表現の仕方が悪いかな?)
おまけに作者、外道の意味まるっきり理解していない!(今回の話を振り返ってみて)
それにしても、トゥデイとエボVのバトル・・・本当に街中でしてるんでしょうか?
・・・まいっか。。
皆さんもあまり深く考えないようにして下さい。
北辰の台詞を確認する為に、ナデシコと頭文字Dの劇場版にしばらくは缶詰状態だった今回のお話。
本当スカパーに感謝!!(両方ともスカパーで録画。Dに関してはTV版も)
ここは電波が悪いからフジテレビが映らない。
田舎だから東京系列もない。
逮捕しちゃうぞも友人のビデオ&スカパーだったし・・・
はっきり言って、こっちで見られるアニメはほとんどスカパーくらい。(泣)
・・・話が脱線してしまいました、すいません。
本当に今回のレースシーンは書くのが疲れた。
小説でレースってちょっと無謀だったかな?
代理人の感想
相手が相手だし。シチュエーションがシチュエーションだし。
てっきり復活したトゥデイに黒い追加装甲がつくかと思っていたのにッ!
その状態で
「たとえ鎧をまとおうとも
心の弱さまでは隠せないのだ!」
って言って欲しかったなぁ(爆)。
無論ラストは破壊された追加装甲の下から出現するトゥデイと
北辰の「人の執念、見せてもらった・・・」のセリフで締め(笑)。