〜星々の海は美しく、そしてまた冷たきものにあり〜


 漆黒の海を進む白亜の戦艦、だがその歩みは弱々しく、ゆったりとした物だった。


 「最後まで何もかもありがとうね…」

 その艦のブリッジ唯一のシートに座った女が言う、

 『気にしない』

 女の目の前にウインドウが出る、

 女はクスリ、と笑うと

 「賭けでもしようか…、私が生きてたら私の負け、死んでたら私の勝ち…」

 『賭ける物は?』

 女は少し寂しそうに、

 「あなたの傍にいる私…じゃ駄目かな?」

 『承』

 一文字だけそう表示されていた。

 『ジャンプシークエンス起動、目標地点:未指定』

 「勝負…だね、ジャンプ」

 女がそう呟くと戦艦は虹色の光に包まれ、

 その後には何も残らず、ただ漆黒の空間が広がっていた…。
 


機動戦艦ナデシコIF
〜Does not forget myself〜



〜人の願いは星となり、そして星は輝き続ける〜



 雄大なる火星を背にして、二隻の艦がチェイスをしている。

 双方共に譲れぬ思いと想いとを抱いて…


 「アキトさん!もうユリカさんだって退院されるんです!
 せめて、せめて顔だけでも見せてください!!」

 片方の船ーナデシコCの艦長…にしては若い少女が言う、

 その声は悲痛に満ちていた。


 もう一方の船の艦長ー黒いバイザーをつけたまだ顔立ちに幼さを残す青年は

 ただ何も言わずに

 「…ラピス、ジャンプの準備を頼む」

 「…うん、わかった」

 まだ幼い少女は表情を変えずに言われたことをこなす。

 
 「アキトさん!!」

 「…もう俺とみんなが交わる事は無い…
  ルリちゃん、君もそうだ…
  ユリカだって変わらない…
  もう全てが遅いんだ、何を言っても変わる事は無い…」


 「アキト、ジャンプフィールドの生成、完了したよ」

 感情に押し流される少女、冷め切った青年、そして全てに動じない少女。


 「わかった、ジャンプ先は…」

 「させません!」


 ドガッッン!!!

 
 激しい衝撃がユーチャリスを襲った。


 「っく!、何が起きたんだ!」

 「アンカーを打ち込まれたみたい!
 …大変!ジャンプフィールドに異常、制御できない!」

 ラピスが動揺しながら報告する。

 「フィールド緊急解除!俺がサレナでケーブルを排除する!」

 「だめ、ダッシュが動かない!」

 メインコンピュータであるダッシュが動かない以上電子制御は不可能である。

 「くそっ!ルリちゃん!今すぐアンカーを切り離すんだ、
 このままだとナデシコのクルーまで巻き込んでしまう!」

 「で、でもアキトさんが…」

 そう言い掛けるとルリの頭の中に不安が押し寄せて来た、

 『クルーの全員がジャンパー処置を受けているのだろうか?』

 「ハーリー君、急いでアンカーを強制排除、ディステーションフィールドも緊急展開!」

 「はい!」

 しかしそれも既に手遅れだった。

 「だめ!ジャンプを開始した!」

 「くそっ!すまない、ルリちゃん!ナデシコのクルー!」

 そして二隻の白亜の戦艦は虹色の光を伴い、消えた。


〜想いが駆けるは輝く星か、それとも冷たき闇の世か〜