Noble Blood

機動戦艦ナデシコ 二次創作

Chapter 1. Incomprehensive




  ネルガル会長、アカツキ ナガレと再会したのはエジンバラ城館にて。 私の日本留学時代以来六年間つづく友との、一年ぶりの再会である。 ナガレは己の会長という立場にもかかわらず、ネルガル第一次遣英隊のエステバリス隊の隊長を自ら務め、英国救援の剣を振るってくれたのだ。 彼が我々英国暫定政府首脳の前に姿を現したのは、件の急造空母がエジンバラに軟着陸したその日の夕刻。 軟着陸の直後に重力波ジェネレーターを近郊の諸都市に移送した後、領空侵犯と無許可の領域内戦闘行為をわびるために訪問したのであった。  
  ナガレは重鎮たちを目の前にして、かなり流暢な、だが宮廷英語としては決して褒められたものではない英語で一礼の後に挨拶を述べる。 彼が汚れたパイロットスーツを着たままであることといい、優雅さとは程遠いが、それでも彼の示そうとしている敬意と誠意は確かに伝わった。

「この度の大英帝国王室の御方々のご不幸、まことに心痛ましく存じます。 私、ネルガルの会長を務めるアカツキ ナガレと申す者。 我らネルガル、かねてより貴き御方々より多大なご愛顧を受けていました身ゆえ、差し出がましき所業ながら、またあまりにも遅まきながらも、彼の方々の愛しておられました大ブリテンを助けるために微力を尽くさんがため、義によって馳せ参じました。
 まずは許しもなく領内に侵入、勝手に戦闘行為を行ったことを謝罪させていただきたく存じ、また願うならば今後も些細なれども貴国の力に成るべく、滞在、戦闘行為の継続をさせていただくことのご許可を下さるよう、請願いたします」

  それに答えるのは貴族院議長にして暫定政府首相、デューク・ティモシー。 空の玉座の左側に静かに立つ柔和な目をもつ老獪な羊(陰険な老人)
  だが今日ばかりは何一つ裏も無く、その瞳に、言葉に百万の感謝を乗せて頭を下げる。

「サー・ナガレ、今は亡き陛下、そして大英帝国国民全てに代わって礼を申します。 私は帝国議会の壊滅に伴い、王室の御方々の代わりに暫定的に責任者として帝国を率いさせて戴いているエジンバラ公ティモシー・リビングストンと申します。
 このあまりに突然の侵略、いや、侵略と呼んでよいのかどうかすらわからない突然現れた破滅に、我々はただ手をこまねいているだけでした。 いえ、正直に申しましょう。 おそらく御存知でしょうが、我ら大英帝国の誇る精鋭たちは、彼の敵に対して無力です。 例え這ってでも貴方がたネルガルに助けを請い、そして帝国国民たちを救うための術を御教授賜りたいのはこちらのほうです」

「この身にかけて、そして大英帝国と我らネルガルの友誼にかけて、微力を尽くさせていただきます」

  エジンバラ公は頭を上げるようにと伝え、そして二人は大きく、固く手を握る。

「心の底から、礼を申しあげます。 御入用のものがあれば、なんでも仰って戴きたい」

  それでは、と一言くぎり、

「早速で申し訳ないのですが、私どもの機動兵器、エステバリスを運用するためには重力波ジェネレーターが不可欠なのです。 
 6体のジェネレーターを搭載してきましたが、船が落ちてしまったがために代わりの動力源が必要となります。 そのジェネレーターを守るための時間が惜しく、無断で近郊の主要都市に1体ずつ運ばせていただきましたが、それを実際に設置、またエネルギー供給をする許可をいただきたいのです」

「無論ですとも、サー・ナガレ。 詳細は各都市の官僚と話していただくことになるとは思いますが、重力波ジェネレーター、ですかな? それに電力を優先的に供給することを貴族院議長、エジンバラ公の名において約束いたしましょう。 今後の折衝役は、そうですな……」

  辺りを見回しつつ考えるそぶりを見せる老公。 そこに私が口を挟む。

「恐れながら、老公。 私に任せて頂けないでしょうか?」

「ロード・エドワード?」

「私とサー・ナガレとはかつての学友です。 双方にとってやりやすいことも多いかと愚考致します」

「そうですな、貴殿は日本の事情にも詳しく、日本語も流暢にこなすと記憶しています。 サー・ナガレ、ロード・エドワードが折衝役となりますが、よろしいでしょうか?」

「願ってもないことです。 久しいね、エド」

「ああ、ナガレ。 こんな時勢でなかったら酒でも酌み交わすところだが」

  互いに歩み寄り、固い握手、そして抱擁を交わす。

「それでは決まりですな。 諸侯、意見はありますか? 
 ……無いようですな。 それではセント・アンドリュー候エドワード・K・サイモンが今後ネルガルへの窓口となります」


  かくして、大ブリテン防衛における責の多くを、私とナガレとで分けあうことなった。
  これが大ブリテン復興の第一歩であり、また私の個人的な戦いの始まった瞬間と言っても良いだろう。



  城館での会談が終わった後、私はナガレを伴って市内の仮の住居兼事務所として使っているホテルに戻った。
  その道すがら、車中にてナガレと実務的な話し合いを行い、必要な決定をいくつか下し、各方面に連絡を取りあう。 現在戦時中ということで実質的に操業の停止している各都市の民間の空港をエステバリス隊用の拠点、ならびに整備場として供用し、重力波ジェネレーターを設置して基地として使用可能にする。 国内の物資の確保やその供給ルートの確定、そして帝国軍とネルガルの協調のガイドライン作成を軍部に要請する。 
  ホテルのスィートにたどり着いたときには大枠は出来上がり、それからは文書化して正式な命令書として出す作業が続いた。 瑣末な現実的な問題は後に現場からの報告があってから考えればよし、現場に即した人間の判断も必要になるというものだ。

  とりあえずすぐに終わらせなくてはならない仕事が終わり、一息をつけることができたのはその日の夜半になってからであった。 優雅とは程遠い遅い夜食を食しながら、ようやくナガレと話をする時間ができた。
  サンドウィッチを頬張りながらで、世間話をするにも作法に構ってられないくらい時間が惜しかった。

「改めて言うが、助かったぞ、ナガレ。 君達が来てくれなかったら、あるいは来てくれるのがあと1週間遅かったら我々は全滅していたかもしれない」

「ビジネスのためさ。 気にしないでいいよ。
 ネルガル商品の宣伝には最高だっただろ?」

  テーブルの上の水差しからグラスに水を注ぎいれながら笑うナガレ。 こういう偽悪的なところは昔から全く変わっていない。 正義感は人一倍強いくせに自分自身を正義の味方だと思うことにアレルギーじみた抵抗を感じる男だ。

「ビジネスだろうがなんだろうが構わんさ。 助かった命の数を考えたら、英国におけるネルガル商品のマーケットシェアを100%にする政令をだしても構わんくらいだ」

「それでこそ、来た甲斐があるってものかな?」

「まあ、欲を言えば後……
 いや、これは言っても仕方が無いことだ」

  溜め息を思わずついてしまった私に、ナガレはその意を汲んで言葉をつづける。

「ロイヤル・ファミリーのことか。 あと一週間早く来ることができたらってことだろ?
 まさか、こんなことになるとはね」

「……晴天の霹靂、というのは日本の言い回しだったかな?」

  私の軽口にしかし彼は答えず、暫しの沈黙の後にその貌を真剣な物に変えて質問を返してきた。

「エド、君はこの事態をどれだけ把握している?」

  態度をがらりと変えたナガレをいぶかりながらも、その質問の真意を問いただす。

「この事態、とは具体的に何をいう?」

「この侵略戦争の発端、そして連合軍の現状。 そして敵の正体」

  表情を一切変えずに淡々と語るナガレ。
  その口調から、私は一つの確信を得る。

「その口振りだと――
 知っているのか、ナガレ! 
 なぜこんな事態に突然なったのかを、知っているのか!」

「いいから答えてくれ。 とても大事なことなんだ」

  あくまで淡々とした言葉で、だが射抜くような鋭い視線とともに言葉を紡ぐ。
  その真剣な様子に、まずは自分を落ち着けなくてはならないと、軽く頷いてから己が知ることを語り始めた。

「……わかった。 戦争の発端は演習目的で火星近辺の宙域に展開した連合軍艦隊の、地球への落下コースをたどる岩塊群に擬した敵性物体との遭遇に始まる。 
 後にチューリップと呼称されるようになる母艦らしき三機の物体は、その機首より多数の機動兵器サイズ、艦船サイズの無人兵器群を排出し、連合軍と戦闘に入る。 戦闘は連合軍がほぼ完全に殲滅されて終わり、脱出できた者はごく一部の将兵のみ。 彼らによって初めて地球側に敵の存在が伝わり、その敵兵器の情報が伝わった。
 三機の母艦のうち一機は連合軍旗艦が体当たりすることで沈めることができたが、その残骸が火星のユートピアコロニーに落下、コロニーは事実上全滅した。 一機は火星近辺の宙域に留まり、排出した兵器群とともに火星に防衛線を張っている。 そして、最後の一機は……バッキンガム宮殿に落下し、その排出した無人兵器とともに英国王室を全滅せしめる」

「……」

「敵は現在木星蜥蜴(Jovian Lizard)と呼称されるが、それは来襲した軌道・速度などから逆算して木星近辺より来たものだと推測されるからである。 現在もその正体は不明であり、その技術レベルは地球のそれを凌駕、もしくは異なる技術経路をたどって発展してきたと思われる。
 連合軍が一方的に殲滅された理由は、連合軍の主力兵装であるレーザー砲が敵の持つ空間歪曲技術による障壁によってほぼ完全に無力化されたが為である。 そのディストーション・フィールドと呼称される障壁に対するには実弾兵装、あるいは体当たりなどの方法が最も有効であるとわかっているが、現在連合軍の持つ兵装では威力不足、あるいは絶対数の不足によって太刀打ちができない。
 だいたいこんなところだ。 私が知っているのは。
 さあ言ってくれ、ナガレ。 何を知っているんだ!?」

  再び激し始める私に対するナガレの表情は、過去に見た中でももっとも冷ややかなものだった。

「それを、本気で言っているのかい?
 本気でそれしか知らないというのかい?
 もし本当なら僕が最初に言わなければならないことは、エド、君には失望した、ということだ」

「!」

  彼の言葉のナイフが私の胸に深く突き刺さった。

「君は外務連邦大臣、英国における外交の長だよな? なぜ、その程度しか知らないんだい?
 諜報というのは汚い言葉だけど、国を守るために情報をあつめ、有事に備えることは絶対的に必要なことだろう? MI5(英国情報局)は何をやっていたんだ? MI5と外務省との連携はどうなっているんだ? 
 君の立場だと、知らなかった、というのは言い訳にすらならない。 もしもその辺りを怠っていたのだとしたら、今落ち込んでいる君にはすごくきつい言葉だということだけれども、あえて言わせてもらう。 王室の方々のご不幸は、君に責任がある」

  この氷のナイフは、私の心を深く、深く抉った。 ここ最近南米経済圏との通商交渉にかかりきりだったなど、反論したいことがないわけではない。 だが我が敬愛する陛下たちの死が私の無知ゆえだというのならば、私は知らなければならない。 そして、その上で己を裁かなくてはなるまい。

「……全くもって、返す言葉もない。 確かに、私はこの事態が起こりうることを知らなかった。
 国の外交を司る者として、言い訳をする資格すらないのだろう。 だが、教えてくれ。 私は何を知らなかったんだ?
 何を知らなかったがゆえに、この事態を招き寄せたというのだ?
 頼む、ナガレ! 頼む!

  日本の礼に則り、頭を深く下げる私に、ゆっくりと頷くナガレ。 彼の瞳から冷ややかさが少し薄れ、だがその鋭い視線にはまぎれもない激怒が混じっていた。 その激情は私に向けられたものではなく、これから語るその内容に対してのようであった。

「ならば、彼らモクレンについて話そう。 英名はJovian Federation。 彼ら曰くの正式名称は、
 『The States of Ganymede, Callisto, and Europa's Anti-Earth Cooperative Federation of the Jovian Realm(木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ及び他衛星小惑星国家反地球共同連合体 )』。 紛れもない地球人類だ」

「木星圏にも人類が移住していたというのか!」

  思わず握り締めてしまったサンドウィッチが無残な形に潰れる。

「その通り。 彼らはもともとは100年前に勃発した月独立紛争を起こした運動家たちの末裔だ」

「月独立紛争――あのテロリストどもか! だが、奴らは逃亡した火星で開発していた核兵器の実験失敗によって全滅したはずだぞ?」

  あの、超長期開発プランによってようやく赤字から黒字に転換できるという時に、それを台無しにし、月経済圏の経済的自立を15年遅らせることになった根源。

「細かいところはさすがにわからない。 だが、生き残りが存在したことは現在の彼らの様子からわかるように確実のようだ。 いずれにせよ、その生き残りが火星からさらに脱出して木星圏を漂流している際にあるものを発見した」

「あるもの?」

「僕らはプラントと呼んでいる。 古代火星人文明の遺産と思われる超技術の集大成。 彼らの使う無人兵器やディストーション・フィールドはそのプラントの技術を用いて作られたものだ」

「……ネルガルが発見した火星極冠遺跡のようなものか?」

  首肯するナガレ。

「同じ技術体系に根ざしているらしい。 遺跡の施設が持つ役割はそれぞれ違うみたいだけれどね。 
 発見時期がぜんぜん違うから実用化のレベルがぜんぜん違う。 あちらさんはそれこそ侵略に使えるほどの数があるけれども、こっちはなんとか市場に出せるかどうかってところさ」

「火星古代技術が、実用化されているのか」

「例えば、エステバリスだね。 あれに使われているディストーション・フィールドがまさに火星古代技術発。 あとは相転移エンジン、グラヴィティ・ブラストと呼ばれる重力波を使った兵器が実装可能になりつつある。 ただ、どうしても今まである艦船にフィットするような設計ができなくて、完全に新しい艦種を作っているところだ」

「奴らにエステバリスが対抗できたのは、そういう理由か」

「技術の実用化はモクレン側のほうがずっと昔からしていたようだけれども、技術そのものの洗練度としてはこちらのほうが上だね。
 こっちも数が欲しいから、なんとか設計をもっと煮詰めて、既存の艦船の動力ユニットや兵装ユニットとして使用可能なものに変えていく予定だけれど、まだランチアウトしたばかりの技術だからどうにも時間がかかりそうでね。
 ……話が逸れた。 まあ、それがモクレンが持っている超技術の内訳だね。」 

  私はゆっくりと頷く。

「そして、奴らはプラントの生産力に支えられて生き残り、そして独自の生息圏を作り出し、細かい経過はわからないにせよ地球に通信を送ってきた。 モクレンは自分たちが火星から落ち延びた月独立派だということを明らかにした上で、『百年前の過ちを認め、公表し、謝罪をするのなら共にまた歩もう』という文面で」

「なんだ、その『百年前の過ち』とやらは?」

「それはこれから話すことに関係している。 使用言語が同じゆえか、そのコンタクトを受けたのは日本国。 正直あまりに困惑した日本の首脳陣はこれは国連で動議にかけるべきであろうと国連に働きかけ、審議は安保理の常任理事国たちの間で秘密裏に行われた。
 だが、知っての通り月独立派はテロリストとして地球圏では記録されている。 だから、彼ら曰くの『百年前の過ち』の意味を含めて情報の信憑性が争われたんだけど、その間に一週間も何の回答も無いのは不誠実だと宣戦布告をしてきたんだ」

  左手を髪を掻きあげる形で止め、ゆっくりとナガレの言葉を吟味する。 テーブルに肘をつき、視線をやや下に向けながら答えられていない質問の答えを再び促す。

「で、その『百年前の過ち』とやらは?」

「正直言って、わからない。 連合軍の政治・軍事アナリストは核実験失敗の自爆のことをさしているのだろうと推測しているらしい。 あの自爆に関して地球側が何かを隠匿しているか、でなければモクレン側が情報を歪曲して子孫に伝えたのでは、ということらしいよ」

「例えば、あの核爆発が地球側からの核攻撃だったとかいうのか?」

「ようやく冴えてきたね、エド。 それがアナリストがもっとも推していたシナリオだよ。
 ともかく、その宣戦布告に対しては迅速な対応が急務であることと、あくまで国連はモクレンを国家として認知していないので、対テロリスト・対海賊の場合と同様に理事国間の中で連合軍の派遣を決定し、世論の混乱を防ぐために演習目的という体裁で連合軍最大の第一、第二艦隊を火星宙域に送り出した」

「そんな大事なことを、何故秘匿して……」

「エドには悪いが、これを秘密にしていたことに関しては僕は安保理を責められないね。 結果としてはともかく、指揮権の統一という意味では後方で雑音が入ることは軍隊にとって妨げにしかならないからね。 
 結果論としてでも聞くけど、エドが安保理の立場だったら違う行動が取れたとでもいうのかい?」

  視線を天井に向け、大きく息を吸い込んで脳に酸素を送る。
  冷静になった私の頭脳が伝えることは、安保理に賛同するものだった。

「……確かに、当時の状況からすると最善の手だったであろうことは認めざるを得ない」

「僕もそう思うよ。 
 思い上がったテロリストの末裔を、とりあえずその攻撃の牙を叩き潰してからまともな会話ができる相手としてテーブルに導く、というのが安保理の思惑だっただろうし、そのために抽出した戦力もかなりの大盤振る舞いだったからね。
 ただ誤算が二つあったんだ。 モクレン側が持っていた技術がまさに連合軍の主力を無力化するものだったことと、その戦いに投入してきた物量がまたとてつもなかったことだね。 報告を見る機会があったけれど、あの戦いは生き残りが帰還できたこと自体が不思議なくらいの一方的な殺戮だったらしいよ」

「そして投入されたチューリップのうち一機がバッキンガム宮に落ち、王家の御方々が……。 宣戦布告も無しに攻撃し、王家の方々を、そして民間人を殺戮したというのか……」

「奴らが地球にいくつの国が存在しているのか理解しているのか怪しいところだね。 奴ら、地球圏全てに宣戦布告したつもりだったんじゃないのかい?
 とりあえず、僕が知っていることは全部話したよ、エド。 友達だからこそ厳しいことを言うけれど、今夜一晩自分の不作為がどんなに罪だったのかを考えるんだね。
 それじゃ、明日また来るよ。 僕にできることだったらいくらでも手を貸してやる。 だから、それまでにどうするかを決めておいてくれよ」

  私は天井に視線を向けたままナガレが部屋を出てゆくのを黙って見送った。
  情報を再び頭の中で吟味させ、脳の働きをクリアーにするために水差しから直接浴びる様に水を飲む。
  だが、清明となった頭脳に浮かび上がってきたものは、私を兄のように慕ってくれた王女のもの。 そして、彼女が虫型無人兵器、Black Widowの放つ機銃に倒れる様。
  私の心に湧き上がってくるのは紛れも無い憤怒。
  自分に対する怒りであり、くだらぬ理由で殺戮に走ったJovian Federationに対する怒り。
  掛け替えのない方々を私から奪った憎しみ。
  心に沸き起こる怒りから、左手に掴んだ水差しを壁に叩きつける。 ボヘミアン・カットグラスの破片が飛び散り、ガラスの破片が頬に何本かの赤い筋を作る。 左手に残った大きな破片を更に強く握り込み、掌の中で砕けたガラスが深い切り傷を作り血飛沫が散る。

「忘れん。 私の愚かさを、そしてJovian Federattion、モクレンとやらの愚かな行いを、私は決して忘れん。
 この左手の痛みと共に、私は決してこの愚かさを忘れん!」



「モクレンを、JFを滅ぼす。 力を貸して欲しい」

  翌朝やってきたナガレに投げた第一声が、この言葉だった。 受け入れてくれたこの生涯の友に、心の底からの感謝を。




(注) 貴族・騎士の男性の尊称(称号にあらず)はSir、 Lord、 そしてDukeに分かれる。 Sir は騎士、男爵、子爵に使われ、Lordは伯爵、侯爵に、そしてDukeは公爵に対して用いられる。 

 

 

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

うーむ、えらいきっついなぁ、アカツキ。

エド氏(いかん、こう書くと喋る馬みたいだ)も常任理事国から外された事がここまで響くとは思わなかったんだろうなぁ。現在の国連と違って、ナデシコ世界では国連(に当る組織)そのものが独立した勢力として自前の軍事力・権力を持っている訳ですからねー。

・・・まぁ、それもアカツキが真実を語っていれば(あるいは彼の認識が正しければ)の話ですが。

認識の違いか、この時点での情報量の差か、今回語られている開戦の経緯はナデシコの正史とは随分違うようです。プロローグを読むに、事が終わった後でもアカツキに対する感謝は変わっていないので、アカツキが故意に事実をゆがめて伝えたということは多分無いのでしょうが・・・・。

まぁ、無償で救援を出す時点でTV時点の彼とは半ば別人と言われりゃそれまでですが(笑)。

 

>軟着陸の直後に重力波ジェネレーターを近郊の諸都市に移送した後、領空侵犯と無許可の領域内戦闘行為をわびるために訪朝したのであった。

明らかに「訪問」の方が適した言葉だと思うのでそのように直しておきましたが、何か意図があって「訪朝」という言葉を使ったのかな? 宮廷を訪れる場合でも「訪朝」とは言わないし(宮廷なら「伺候」ですかね)、官庁などでもわざわざ「訪庁」という言い回しは使わないかと。いや、単なるケアレスミスならそれでいいんですが。