”エルゴ”の街からある程度離れた上空に、一機の飛行艇が佇んでいる。
その下腹部の装甲の一部がゆっくりと開き始めた。
まるで獲物を捕食するかのように・・・。
装甲が完全に開ききった数秒後、その内部から無数の光点が”エルゴ”に向かい解き放たれる！！
「フフフ・・・、さてどの程度の能力を持っているのか・・・アレは。
期待はずれにならないといいがな。」
モニターに映し出された複数の光点を一瞥した後、
ガルデンは踵を返し、艦橋から出ようとする。
「やはり、ガルデン様も出撃なされるのですか？」
「当然だ。それにあそこにあるかもしれない”秘宝”が、本当に私の求めるもの
であるかどうか、確認せねばならぬからな。」
黒色のマントを翻し、通路の闇へと消えていくガルデン。
イドロからは見えないその顔には、冷徹な笑みが浮かんでいた。
（それに、我が”リュー”の札が何かに反応している。恐らくはあの街に
上位級の”リュー”がいるはず。少しは私を楽しませてくれれば良いのだがな・・・。）
それから程なくして、飛行艇からガルデンの姿は、忽然と消えていた・・・・・・。
ガルデンが飛行艇から消えた時間帯とほぼ同時刻、
アキトが寝ているベットに置かれた”剣”の宝玉が、一瞬鈍い光を発した。
と同時に、ある声がアキトに届く！
〈《・・・・い、・・・・兄ぃ、 ・・・・キト兄、・・・・・アキト兄！！》〉
（！！！？？？、何だいきなり！）
突然、俺の頭の中に二人の声が響く。
その声に、俺の意識は瞬時に覚醒をしていった。
〔一体、どうした！？〕
二人の呼びかけに、何かただならぬ事を察し逆に二人に聞き返す！
〈何かが、この街に接近してくるよ！〉
《それも、邪悪な意志を持つもの達が！！》
「それは一体どんな・・・・・・・・。」
詳細を聞こうとした時、俺の耳に大気を切り裂くような音が聞こえてきた。
直後！、巨大な爆発音が周囲に響き渡る！！
そして、街の至る所で警鐘が鳴り続けていた！！
俺は、窓を勢いよく開けて外を見る！
街の外れに、巨大な黒煙と火柱が立ち上っているのが見えた！！
その上空には、複数の飛行体が空を舞っている光景が広がっている！！
俺は、その飛行体に見覚えがあった。
”リュー”を得た地下神殿で、札の記憶から知る事ができた５００年前の大戦において、
この世界を襲った闇の側が用いた兵器！！
「誰が奴等を操っている！？ レオーネ！！」
「うん、早く奴等を倒して街の人たちを助けないと！！」
レオーネもこの事態を察し、既にベットから起きあがっている。
そして、紅い宝石が付いているネックレスを首に掛け、両目を瞑る。
すると、宝石が一瞬灯ったかと思うと、宝石から紅い光りの粒子が溢れ出し、レオーネの身体を覆う。
光りが止まると、其処には紅を基調とする、鎧のような服を身に纏うレオーネが佇んでいた！！
レオーネが身に付けているネックレスは、レイピアと一緒に
ナジーから貰ったもの。
ネックレスに付いている ”紅い宝石” は、装着者に鎧を纏わせる効果を持つ！
そして纏った鎧も、見た目とは裏腹にかなりの防御力を誇る！！
俺もベットに備え付けていた剣を持つと、軽く念じ、
漆黒の鎧を身に纏った！！
俺たちは窓から外に出て、屋根に駆け上がり互いの”リュー”を召還する。
「リュー・ソルダート！＝ブローディアッ！！」
「リュー・ワルキューレ！＝フリージアッ！！」
上空に飛び立つ２つの巨体。
片方は蒼銀、もう一方は純白の翼を羽ばたかせ、この街を襲う”邪悪なもの”に向かっていった・・・。
ブローディア内部にいるアキトは、全方位スクリーンの端に出現している幾つかのウインドウを見ている。
映像は大きく分けて２つ。一つは眼下の街の状況。そこには、逃げまどう多くの住民の姿が映し出されていた。
ギリッ！
その音は、アキトが歯を食いしばった音。アキトは、溢れ出そうな激情を押さえつけ、もう一つの映像を凝視する。
そこには、”敵”の画像と共に詳細なデータが映し出されていた。
「やはりアレは、”ドゥーム・グレムリン”・・・か。」
”ドゥーム・グレムリン” ― 破滅の巨像と同様に、 かつて闇の覇王の強大な魔力によって動いていた破壊の化身達。
ゴーレムを地上の手駒とするならば、グレムリンは主に空中戦を主としたドゥーム！
その姿は、元の世界で戦闘機と呼ばれる兵器の両主翼の下に腕が付き、
前部には、魚の頭の形を連想させる物体と、さらにその下に鳥のような二本足が生えているような形で付いている！
そして、頭頂には人型の頭があった。
勿論、”魚の頭の形を連想させる物体”には、ドゥームの特徴ともいうべき
凶暴な二つの目と大きな口があるのは言うまでもない！！
「レオーネ！ 二手に分かれて、こいつ等をこの街から掃討するぞ！
これ以上、街に被害を出すわけにはいかない！！」
「うん、分かった！！ でもアキト、無理はしないでよ。
まだ本調子じゃないんだから・・・・・・。」
「心配するな。此奴等ごときに遅れは取らないから。」
「それは・・・分かるけど、油断しちゃ駄目だからね、アキトは全力を出しにくい状態なんだから。いい？！」
そう言うと、フリージアは純白の翼を羽ばたかせ、反転すると敵へと向かっていった。
「・・・さて、ディア・ブロス！ 俺たちも行くぞ！！」
〈ＯＫ！ あんな奴等は、早く片づけよう！！〉
《サポートは僕たちに任せて！》
ブローディアの背中にある一対の蒼銀の翼が一際輝きだし、
漆黒の巨体は、爆発的な加速を得て敵陣へと突っ込んでいった！！
眼前にあるモニターでは、不可解な現象が起きていた。
「一体あの街で、何が起きている？ ドゥーム・グレムリン等が次々と消えておるだと？！」
艦橋ではイドロが、モニターを見ながら叫んでいる。
モニターにはドゥーム・グレムリンを示す複数の光点が映し出されていた。
それが、目の前で次々と消えている！！
イドロが驚くのは無理もなかった。
エルゴの街に解き放ったドゥーム・グレムリン。並のリューとその使い手では、
手も足もでない戦闘力を誇るドゥームなのだ。ましてや並のリューは飛行能力など持ってはいない。
にも関わらず、グレムリンの反応が消えていくという事実。
この事が意味する事は・・・、
「・・・まさか、Ａ級 以上のリューがいるのか、あそこには？！
ええい、セフィアと連絡を取れ！！ 状況を報告させるのだ！！」
状況を把握できない苛立ちからか、大声で部下に対し命令を飛ばすイドロ。
しかし、帰ってきた声は意外なモノだった。
「駄目です、繋がりません！ セフィアからキャンセルされています！！」
「なんだと？！ 連絡が付くまで何度でも呼びかけるのだ！」
（こんな事なら、ドゥーム・グレムリンの制御をこちらでやるべきだった。
そうすれば、こんな事態は起こらなかったはず。奴が戻ってきたらそれ相応の処罰をせねば。
・・・いや、いっそうの事死んでくれればいいのだ。あのような役立たずは・・・・・・。）
イドロはモニターに向き直り、グレムリンを示す光点とは違う色をしている一点を見つめていた。
イドロが異変に気づく少し前、エルゴの街のちょうど真上、それこそ雲の上に
一機の巨体が、街を見下ろすような形で静止していた。
白銀の美しいボディを持つその巨体。その体躯は女性を連想させる。
しかし、その美しさとは裏腹に、両肩の前部にそれぞれ一つずつ
禍々しき巨大な目が付いている！
さらに、背中には同系色で重厚で巨大なマントを背負っていた。
正確には、”マントの形をした装甲”と言うべきか。
その巨体 − ドゥーム・ヴァルキリーの内部にいるのは、一対の漆黒の翼を持つ美しい女性 − セフィア。
セフィアは、スクリーンに展開されている複数のウインドウを見ている。
ウインドウには、街に解き放ったドゥーム・グレムリンから送られてくる光景が映し出されていた。
が、何の前触れもなく、突如として二，三のウインドウがスクリーンから消滅する！！
こちらから、何の命令もなしに消えたという事実。
これは、ドゥームが倒された事に他ならない事を示していた。
「何者？ グレムリンを倒すとは並の使い手ではない！！」
手早く手元にコンソールを出現させると、ドゥームに敵の姿を探させる命令を出す。
すると、２つのウインドウが出現し、ドゥームを破壊している
”漆黒”と”真紅” のリューが映し出された！！
「ほう・・・、中々の手練れだな。なるほど、グレムリンでは荷が重いか。」
突然、彼女の目の前にウインドウが出現し、ある人物が姿を現す。
その人物は、彼女の主であるガルデンであった！
「！！っ ガルデン様、見ておられたのですか？
申し訳ありません！ 貴方様から預かったドゥームを！！」
ガルデンから預けられ、指揮をしていたドゥーム・グレムリン部隊。
それが大した成果も挙げられず、次々と破壊されている実態。
端から見れば、セフィアはガルデンの期待に添えられなかったのは、誰の目から見ても明白！
こういった場合、普通であれば、何らかの罰が与えられるのが”闇の側”での常識なのだ。
つまり、・・・「役に立たぬ者は価値無し」 ・・・というように。
だが、ガルデンから返ってきた言葉は、
セフィアの想像していたものとは大きくかけ離れていた。
「ふっ、気にするな。咎めはせん。やはり過去の遺物だな、アレは。
たいした役にも立たん。それだけ分かっただけでも良しとしよう。
・・・セフィアよ。」
「はっ！ なんでしょうか？」
ガルデンの言葉に対し、緊張した面もちで次の言葉を待つ。
「あの”漆黒のリュー”は私の獲物だ。
貴様は、私の楽しみが邪魔されぬように”真紅のリュー”を始末しておけ。良いな？」
ウインドウが消え、彼女の周囲は静けさに包まれた。見た目的には・・・。
だがその直後！ 白銀のドゥームは、直視できない程の大気魔力の光りに包まれる！！
その後、マントを三分割にし後方に展開すると、”真紅のリュー” ― フリージアにもの凄い速さで向かい始めた！
ズドォォーーーン！！
「よし！ これで、ここら辺りのドゥームは片づいたかな。」
レオーネは周囲を見渡し、敵がいない事を確認する。
驚いた事に、レオーネは息を切らしてはいなかった。十数機ほどの相手をしたにもかかわらず。
これだけで、彼女とフリージアのレベルの高さを伺い知る事ができた。
「後は、アキトの方だけど・・・、時間の問題だろうね。街にも対した被害が出ていないようで良かったよ。
・・・それにしても、一体誰が此奴等を操っていたのだろう。 っ！！」
レオーネは強烈な殺気を感じ、その場から瞬時に後退する。
直後！ 巨大な白銀の塊が、先程までレオーネがいた空間を貫く！！。
常人には、”白銀の塊”としか見ないが、レオーネの優れた動体視力は、
その正体を的確に捉えていた。
「・・・あれは ”ドゥーム・ヴァルキリー！！” ・・・という事は、首謀者は魔族なの！？」
”敵”の正体を看破すると同時に、フリージアはもの凄い速度で、空高く舞い上がる！
これ以上、街への被害を避ける為に・・・。
白銀の塊は直ぐさま反転し、フリージアを追い始めた。
エルゴの上空。それもかなりの高度に達すると、フリージアは静止する。直後！
白銀の塊はレオーネから２０メートル程離れた所で止まり、静かにこちらに振り返った！！
「貴女ですか。我が僕達を倒した使い手とリューは。でもこれ以上、好き勝手にはさせません。」
口調は静かだが、それとは反し、とてつもない圧力を浴びせてくる眼前の敵。
しかし、それに怯む事など無くレオーネは言い返す！
「それはこっちの台詞だよ！ あなた一体何もの？なんで街を襲ってきたの？
それに、あの”ドゥーム・グレムリン”は何処から持ってきたのよ！！」
抱えていた疑問を次々と口に出す、レオーネ。
明確な答えが返ってくるとは思っていない。しかし、どうしても聞かずにはいられなかった。
彼女も、アキトと同様、”力無き弱者”が虐げられている現実が許せないが為に・・・。
「これから死にゆく輩には、知る必要の無い事です。ですが、冥土の土産ぐらいは必要でしょう。
そうですね・・・、名ぐらいは教えて差し上げますよ。我が名は”セフィア”。そして愛機の名は”クンツァイト”。
我が主の行動を邪魔する奴は、排除するのみです！！」
そう言い切ると、白銀のドゥームは右手を挙げ上空に手をかざす。
すると手の中に光りの粒子が集中し、ある物体を出現させた！
ソレは身の丈の倍くらいもある巨大な得物！！
ソレを握り、もの凄い速度で襲ってくるセフィア。
レオーネは回避は無理だと判断し、剣で受け止めようとする。
が、攻撃を受けたその瞬間！ 後方に思いっきり飛ばされた！！
「レイピア如きで、我が戦斧、”デヴァイン・アックス”の一撃を受けきれると思わない事です！」
”デヴァイン・アックス” 、セフィアが駆るドゥーム”クンツァイト”の武器である戦斧。
機体の半分以上の大きさもある肉厚の刃を二つ備え、両腕で持っている柄も長くかなり太い！！
それほどの超重量級の武器を、セフィアは意のままに操っていた。
突撃の勢いを殺さず、第二撃を与えようとするクンツァイト。
その攻撃は、見事にフリージアを切り裂く！！
・・・はずだった。しかし、攻撃はフリージアを抵抗無く通過する。
「残像・・・・・・・・・！？ くっ！！」
直後！ クンツァイトは急転回しながら、その遠心力を利用し、
巨大な戦斧を、片手で横一文字に振り抜く！
ガキィィッ！
鈍い金属音が辺りに響く。
フリージアとクンツァイトが、互いの得物で斬り結んでいる光景が其処にあった！！
「無茶苦茶な動きをしますね。確かに、あなた程の腕ならばグレムリンでは相手にならない・・・。」
「ボクも、まさか今のを見切られるとは思ってもいなかったよ。
フリージアの動きについてこられる相手なんて、そうそういなかったから・・・ねッ！！」
再び距離をとり、空中で対峙する２つの巨体。
「さて、あまり貴女に時間を掛ける訳にもいきません。早急に決着を付けさせて貰います。
でも名前ぐらいはお聞きしたいですね。・・・貴女の遺言の代わりに。」
「貴女の冥土への土産になると思うけどね。いいよ、名前ぐらい教えてあげる。
ボクの名前はレオーネ、”レオーネ・デビッシュ！” それに時間を掛けられないのは、こっちも同じだよ！！」
二人の戦いは、より激しさを増していく。
周囲に閃光と爆音をまき散らしながら・・・・・。
そして、場面はもう一つの戦いの場へと移り変わる。
より、激しい戦いの場へと・・・・・・。
＜続く＞
後書き（という名の言い訳）
どうも”時の番人”です。『アキトレジェンド』の”第８話−前編”をお送りします。
前話から二ヶ月強ほど空きました・・・・・。空きすぎですよね（汗）。
ちょっとスランプ気味になっていて筆が進まなかったんです。仕事が忙しいというのも理由の一つですけど・・・・・・。
さて、今回は”前編”といった形での投稿となりました。
ツッコミどころは多々あるかもしれませんが、何とぞご容赦を・・・。
一つ、”リュー”内部の描写（ウィンドウ等）は一応原作基準で書いています。それらしい表記があったものですから。
今回、『８話・９話』とするか、『前編・後編』といった形にするか最後まで悩んだんですけど、
話しの流れからこのような形に収まりました。ここで出てこない人物は後編で出てくる予定です。
どのような形かは次回で・・・・。
後編はなるだけ早く投稿します。が、戦闘シーンが主となりそうで書くのが怖いです。
最後になりますが、感想を下さった、
ケインさん、satoshiさん、彼のΣさん、kenitiさん、ノバさん、零さん
誠に有り難うございました！！
最後に、此処まで読んで下さった方々、貴重なお時間を使って読んで頂けた事に感謝致します。
稚拙なＳＳで、読みにくい所があるかとは思いますが、よろしければ次回も読んでやってください。
では、これにて失礼いたします。時の番人でした。
管理人の感想
時の番人さんからの投稿です。
こんかいは戦闘に入るまでの導入部分ですね。
しかし、敵の存在をセンサーで感知するのなら分かりますが・・・悪意で感知するディア達って（苦笑）
その上、アキト達より感度がいいし（爆）
ますます人間臭くなっていくなぁ、この二人ｗ
さて、それでは後編の戦闘シーンに期待させていただきます。