最終話







誰もが静止する火星。その中、新たな動きが生まれた

「・・・クク」

ブラックサレナのアサルトピット。その中に突き込んでいた拳を、夜天光は引き抜いた

引き抜かれた拳と、それが突き込まれていたブラックサレナの胸部から、細かな部品が雪のように舞う

その光景を恍惚とした顔で眺めながら、北辰は脇にあるウインドウを見つめる

二つあるそれの内、片方はすでに砂嵐によって情報を遮断されている。本来ならブラックサレナのアサルトピットを映し出すはずのそれは、しかし先程の一撃の影響で、その機能を失った

そしてもう片方のウインドウに映るのは、今も尚残酷なカウントダウンを続ける、数字

残り時間がすでに三分を残すのみとなったそれを見つめ、北辰は笑う

まだだ。と

まだ、終わっていない。と

それは別に、この後にナデシコCを沈め、もはや完全に人類から希望を奪う作業が残っているという意味ではない。すでに北辰にとって、そんなことなど思考の外だ

もう、ナデシコCなど、爆発など、歴史の改竄など、世界の終わりなど、どうでも良い

北辰の興味は、先程の衝突で再び自分に負けた、目の前の男にしか、すでにない

「這い上がって来い」

歪んだ口と、そして表情から紡がれたその言葉は、しかし異様なほどの真摯さと必死さに、満ちていた

「・・・・まだ、後三分もある」

それは誰もが耳を疑うような、まるで迷子の子供のような、そんな、小さくか細い声だった

「待ってやろう。テンカワアキト」

そう言うと同時、夜天光の拳という支えを失ったブラックサレナが、崩れる

膝を折り、身を前に倒し、しかしそれは途中で火星の大地に阻まれる

まるで正座のようにその身を地へと落としたブラックサレナを見て、北辰は、ポツリと呟いた

「だから」

漏れ出るような言葉が、小さく落ちた

「早く・・・・来てくれ」










機動戦艦ナデシコ

 Lose Memory 』






『 テンカワアキト 』

 

 









「負けた、らしいじゃねえか」

夢か現か幻か、そのナデシコAの格納庫の中、ガイとアキトは、近くにあったベンチに座り、話していた

ガイの呟きに、アキトは答える

「・・・ああ」

ここが一体どこなのか、なぜ自分はナデシコAの格納庫にいるのか。そもそもこれは夢なのか現実なのかすら、アキトは聞かなかった

それはアキトにとって、聞くまでもないことだったから

本能と、もはやそう言えるレベルの不思議な確信の下、その事実はあった

きっとこれは、俗に言う、今際の夢だ

走馬灯、三途の川と似たような物。きっと北辰の一撃に意識を失っている自分が、死ぬ間際に見ている、夢なのだ、と

だからアキトは、その告げられた言葉の内容とは裏腹に、妙に清々しい口調で答えた

「ああ・・・・負けたよ」

「悔しいか?」

「いや」

首を振り、アキトは言う

「やれるだけ、やった・・・その結果、俺の力が及ばなかった。それだけの話だ」

自嘲するように、笑う

「俺の役目は、終わったよ。後はきっと、ユリカやルリちゃん達が、なんとかしてくれる」

だが、横に座るそんなアキトの言葉を聞きながら、相変わらずただ前を見つめながら、ガイは呟いた

「悔しいか?」

再度問い掛けられた、その言葉。しかしアキトは、また首を振った

「いや」

「悔しいか?」

「そんなこと、ないさ。やれるだけやった。全力で、やったんだから」

「悔しいか?」

「俺の力は及ばなかったけど、それでも、きっとユリカ達なら」

「悔しいか?」

まるでこちらの話を聞かず、ガイはただそれだけを、問い掛け続けた

アキトの返答など、まるで無視して、そんな言葉を聞くためじゃないとでも、言うように

本当のことを言えと、そう、言うように

黙ったアキト。それに追い討ちを掛けるように、ガイは言う

「悔しいか?」

その言葉に、アキトの体が、ピクリと震える

顔を俯け、バイザーから覗く歯を噛み締め、なにかに耐えるように、ただ震える

そんなアキトの様子を見もせず、ガイはただ前を向いたまま、もう一度だけ、呟いた

「・・・・悔しいか?」

最後の問い掛けだった。それにアキトは、両手を握り締め、震わせ

唇をわななかせながら、そのバイザーに隠された目に、涙すら浮かべながら

震える声で、答えた

ただ一言、答えた

「・・・・悔しいよ」







突如光が満ちたその浴槽に、エリナもクラシキも眼を見張った

呆然とする二人を置き去りにして、その部屋に、次々と新たな動きが加わる

部屋を埋め尽くすほどに満ちた光に包まれ、クラシキが顔をそむける

二人の眼前には、その光を発している張本人、アウインの本体とも言える浴槽がある

その光景を見たとき、ゾクリ、と、エリナの背筋を寒気と嫌な予感が駆け巡った

「ラピス・・・ちゃん?」

呆然と、声を出す。そのエリナの心には、なぜかこの光景と良く似た景色が、映っていた

それはもう随分と昔のように感じ、まるで昨日起こった出来事であるかのように鮮明に思い出せる、映像

『あのとき』回収されたブラックサレナのアイカメラの映像に映っていた、その光に、それはとても良く似ていた

「ラ・・・ピス―――」

『行きます』

言葉を遮るように現れたウインドウ。その内容に、エリナもクラシキも、驚いたように目を丸くした

「行くって・・・どこに?」

『世界が決まる場所へ』

クラシキの問い掛けに間髪入れず、返される返答

その意味がわからずまだ呆としている二人になど構いもせず、アウインのウインドウは告げた

『私の試算では、彼女達の実力を持ってしてもプロテクト解除に24秒程足りません』

ウインドウが浮かぶ

『しかし幸いなのはそれは実力が届かないためではなく、単純に手が足りないというだけの話』

次々と浮かぶウインドウ。その内容に、クラシキは頭に冷水を浴びせられたかのような衝撃を受けた

それは、多少なりともアウインの仕組みについて知っているクラシキだから気付いたこと

『ならば、私が彼女の刃となって行きます。そうすれば間に合う』

「馬鹿なこと言うな!」

アウインの言葉、それがどういう意味を告げることか理解できていないエリナの横、クラシキが声を荒げた

その突然の怒声に驚くエリナを尻目に、クラシキは尚も声をあげる

「君は自分の言葉の意味がわかってるのか!?」

『わかっています。クラシキ』

「だったら!」

『アナタの言う通りです。確かに私に本来そんな機能は付いていない。私が使えるのは、私のオリジナルとなったこの少女の能力の極一部。テンカワアキトの五感サポートのみです』

そして、アウインは言う。クラシキの言葉に答えることで、未だ意味がわかっていないエリナに対して、説明するように

『その制約を解き、今火星で戦っている彼女達の元へ行くということは、即ちこの少女の脳を焼ききるということ』

その単語に、エリナの顔が跳ね上がった

『しかし安心してください。計算上、そのオーバーロードで消えるのは私のこの、今お二人とお話している、微かに残った自我の残滓だけです。テンカワアキトの五感サポートには然程の支障はありません』

告げられる言葉に、しかしエリナは、自分の頭が真っ白になるのを自覚した

あの、先程見た光が、脳裏を過ぎる

それは、とても良く似ていた。あの日、あの時、あの場所で見た。あの光と、とても似ていた

ブラックサレナのアイカメラに捉えられていた、あの光

ユーチャリスの、爆発の光に

「ダメよ!!」

掠れたような声で、エリナは叫んだ

『エリナ。わかって頂きたい。アナタにも理解出来ているだろうこの状況を』

言葉に答えるように、二人の眼前にウインドウが浮かぶ

『残り時間二分』そう書かれたウインドウが

だが、そんな物眼に入っていないように、エリナは叫ぶ

「嫌よ!」

涙に潤んだ瞳を隠そうともせず、エリナは叫ぶ

それは、不安と焦燥の具現化

思い出した。思い出したくもなかったその光景を胸に宿したエリナは、ただただ意味のわからない不吉な予感に突き動かされるように、叫ぶ

それは、ずっと溜め込んで来た言葉。言いたくなく、しかし誰かに言いたかった言葉

三年前、五感を失ったアキトを見て、思った言葉

そのアキトのために連れて来られた、一人の少女を見たときに、思った言葉

その少女が、アキトのために死んだと、そう告げられたときに、思った言葉

その少女の脳を抉り出し、配線につなぎ、アキトのサポートに使うと提案されたときに、思った言葉

「どうして!」

言っても意味がないと、わかっている、言葉

「どうしてアナタはいつもそうなの!? なんでいつも一人で背負い込むのよ! アキト君を庇ったときも、今回も! どうしてアナタが背負わなきゃいけないの!? こんなの酷すぎるじゃない! どうしていつもアナタが、アナタだけがこんな・・・・辛い、役目を」

叫ぶ内に萎んだ言葉、その残りを吐き出すように、エリナはポツリと漏らす

「お願いだから、お願いだから考え直して・・・アナタを二回も失うなんて・・・・私には」

『大丈夫ですエリナ。本来、あるはずのない存在がなくなる。それだけの話です』

そのウインドウに、エリナはカッとなった

まるで自分のことを歯牙にも掛けていない言葉。どうでも良いとすら思っているように見えるそのウインドウに、心底腹が立った

「ふざけないで!」

叫んだ声が、部屋中に響き渡る

なぜこんなにも感情的になっているのか、自分ですらわかっていない。だがそれでも、言わずにはいられなかった

それは、エリナ自身気付いていなかった、ある感情の下に、紡がれる言葉だった

「自己犠牲なんて、そんなの馬鹿げてるわ! アナタはそれで本当に満足なの!? 本当にそんな―――」

『黙れ』

だがそんなエリナの悲痛な叫びも、たった一枚のウインドウに遮られた

ただの、二文字。しかしそこに込められた、怒気とも覇気とも言える強すぎる感情に、エリナは気圧された

『私の名はアウイン』

固まるエリナとクラシキ

『ある一人の男に救われ、そして数え切れぬ程たくさんの命に救われ、しかしそんな命を気付けば投げ出していた、そんな史上最低の愚か者であり、史上最高の妖精の一欠片』

二人の周りを取り囲むように、次々とウインドウが展開する

『そして今再び、見たことも聞いたこともない存在達の為に命を投げ出そうとしている、最高に愚かな一欠片』

言葉も無い二人の前、しかし言葉は紡がれていく

『だが』

『誰にも否定させはしない。私は笑って滅び、誇って消えるのだから』

『誰にも馬鹿にさせはしない。私はそのとき誰より笑い、そして泣いているのだから』

沈黙を挟む、アウインはさらに続けた

『だから、私はゆきます』

『私は世界を救い、彼もまた世界を救う』

『素敵なことです。然るべき人間がおこなえば、それは英雄として未来後世に渡るまで語り、描き告がれていくことでしょう』

『しかし私達は罪人です。破壊者です。極悪人です。復讐者です。被害者です。加害者です。殺戮者です』

『ですが』

口元に手を当てるエリナには、そのときはっきりとわかった

もう、止められないことが、自分のどんな言葉も、態度も、行動も、目の前の彼女と、そして今膝を折っている彼を、止められないことを

絶句するエリナの前、そしてアウインは告げた

『ですが、世界は救えます』

『ならば救いましょう。簡単です。勝てば良いのですから』

『だから、私はゆきます』

『悪人にも善人にも成り切れなかった彼と私が、世界に恩を売る最後のチャンスです』

『利子分くらいには、なるでしょう』

『誇って死にます』

『這い蹲って生きます』

『踏み越えていきます』

『終わりはもう、目の前なのですから』

『だから』

そこで、動きが止まった

別れと、そして終わりを悟り、涙を流すエリナを気遣うような、そんな沈黙が

『最後に一つだけ、言わせて欲しい』







エリナもクラシキも、知らなかった

そのとき、その瞬間、彼らだけではなく、その別れを告げるウインドウが、ネルガル月ドッグにいる全ての人間の元に送られていたことを

そしてそれは、格納庫に一人佇むセトの前にも、届いていた

白髪の混じり始めた髪を押さえ、表情を隠すように手を動かすセトは、ポツリと告げる

「・・・・行くのか」

『はい』

「そうか」

二人の別れは、それだけだった

『さようなら』

最後のウインドウが、閉じる。それを見届け、そして上を見ながら、セトはポツリと呟いた

「・・・・しっかりな。ちびっこ」







その日、ネルガル月ドッグを、一つの言葉が埋め尽くした

それは、すでに死んでしまった少女の言葉

そして、今を生きる機械の送る言葉

ただ一言、さようなら、ありがとうと告げる言葉に、彼らもまた、答えた

さようなら、ありがとう、と







泣き崩れるエリナと、そしてそれをただ見ていることしか出来ないクラシキ

膝を床につくエリナの瞳に、涙が込み上げてきた。ドンドンと、溢れるように

泣いてはいけない、泣いている場合ではないことはわかっていても、それでも、その涙は止めようが無く、後から後から溢れてくる

胸を過ぎるのは、後悔と謝罪か

膝を落とし、右手で口元を押さえ、左手で床を引っかくように掻き抱きながら

エリナは、思い出す

――― 『最後に一つだけ、言わせて欲しい』

彼女はもう、行ってしまった。自分の手の届かないところに

火星に。世界を決める場所に

――― 『アナタは私を、最後までラピスラズリとしてしか、見てくれなかったけれど』

伸ばした自分の手を、笑顔で優しく拒絶して、行ってしまった

――― 『それでも、言わせて欲しい』

涙で歪む視界の中、残り時間を告げるウインドウは、すでに一分を切っている

――― 『私を生み出してくれて、ありがとうございました』

「っ」

思い出した言葉に、エリナは泣いた

――― 『さようなら』

その叫びは泣いているようにも、まるで謝っているようにも聞こえる

顔を両手で押さえ、エリナはただ泣いた

それしか出来ないとでも言うように、ただ、泣いた





――― 『さようなら、お母さん』







「全戦艦の回線を回せ! もう時間が無いぞ!」

連合宇宙軍総司令室で、コウイチロウは声を張り上げた

その彼らの目の前に展開するウインドウには、世界が終わるまでのカウントダウンが刻まれている

今も刻一刻と減る数値は、すでに残り一分を切っている

『やっています! しかし現在突破出来た防壁は未だ全体の93%です! これではどう足掻いても』

「無駄でもやるんだ! でなければ全ては終わりだぞ!」

『しかしすでにホシノ中佐も限界です! もう現状、我々に打てる手はありません!』

「っ」

告げられた言葉に、思わず拳を目の前の机に叩きつける

ブルブルと震えるそれを押さえ込むように押し付けながら、コウイチロウは搾り出すように言葉を漏らす

「ここまで来て・・・!」

脳裏に、今までに侵した自分の数々の所業がよぎる

クサカベハルキの野望を防ぐために、なんの罪もない人々を見殺しにし、世界を分け、たくさんの同胞を失った

己を呪うような、最悪な手も数え切れないほど行った

「ここまで来て」

だが、それが、その全てが、この土壇場で全て水になろうとしている

たった一つの不確定要素の浮上で、たった一人の、狂人によって

目の前のウインドウが、残り三十秒を伝えてくる

「後三十秒が・・・・止められんのか!!」







「・・・・時間、か」

ポツリと呟く言葉には、憐憫のような複雑な感情が込められている

火星の白い大地の上。膝を折る黒い機体の背後に立つ赤い機体が、その手に持った錫杖を鳴らす

『残り時間二十秒』

そう示すウインドウを面倒そうに横目で見ながら、北辰は目を細めた

目の前の機体の背中を、ただ無感情に見つめる

カウントダウンは、未だ止まる気配が無い。それは元より、想定の通りだった

そもそも、クサカベハルキが戦争に勝つためのもっとも汚く卑怯な最終手段として用意していたものだ。その目的は本来脅しと脅迫が主だが、それでもナデシコCに止められるような生半可な代物では、そもそも脅しの役割すら持たない

だからこうなることは、当然の結果なのだ

間に合わないのは、当然の結果なのだ

胸を過ぎるのは、微かな後悔

死ぬことは、消えることは別に構わない。元より自分の命にそれほど愛着があるわけでもない

だが目の前のこの男と二度と再戦が叶わないという事実だけが、北辰の心に僅かな影を落としていた

勿体無いと、そう思う。しかしこうしなければ、この男が自分の目の前に現れなかった、否、現れたとしても、自分の相手にならなかったことは確かだ

事実、世界を背負ったこの男は、自分をとても愉しませてくれた

だがそれもやはり一瞬のことだ。過ぎてしまえば物足りなさが残る

否、それは物足りなさというよりも

「・・・・ふん」

胸に浮かんだ感情を鼻で笑い、北辰は錫杖を構える。目の前にある、ブラックサレナの背中に

『残り時間十二秒』

世界は、もう消える。もう後僅かな時間の後に

だからせめて、最後の仕上げとして、せめてこの男の息の根だけは止めようと思う

意味などない。愉しいからでも、愉快だからでもない。ただの儀式として、そうするだけだ

「・・・・残念だ。テンカワアキト」

誰とも無しにそう呟くと、北辰は目の前の背中に向けて、勢い良く錫杖を振り下ろした







「そうか」

答えるガイの声は、冷たかった

まるで揶揄しているようにも、バカにしているようにすら聞こえるその言葉の響きに、ベンチに項垂れているアキトの両手が硬く握り締められる

だがそんなことなどお構いなしに、ガイは告げた

「じゃあなんでお前は、こんなところにいるんだ?」

響いた言葉の意外な内容に、アキトは思わず顔を上げる

何を言っているんだ。と問い掛けるように

「だって、俺は・・・・負け」

「悔しいんなら、なんで今お前は、こんなところにいるんだ?」

口調は、相変わらず厳しい。この夢のような空間で会ったときから、ガイの言葉にはどこか、まるで批難するような感情がこもっていた

責められている。そう悟ったアキトは、再び顔を伏せた

「ガイ・・・・」

ポツリと呟く

「俺は、負けたんだ」

「・・・・」

「その瞬間のことは、覚えていない・・・だが、俺がここにいることが、なによりの証拠だ」

脳裏に過ぎるのは、自分が最後に見た光景

伸ばした自分の手は届かず、北辰の猛った笑みと共に運ばれた拳が、ブラックサレナに直撃した。その光景

自分がいつ意識を手放したのか、思い出すことは出来ない。だが先ほどガイに告げた通り、自分がこの夢のような不可思議な場所にいることと、そしてその光景が、なによりもアキトに突きつけてくる

自分は、負けたのだという、その事実を

再びこみ上げてきた悔しさに、唇を噛む。結局自分は、またダメだった

まだ、倒せなかった。ラピスを殺され、自分を殺され、そして世界を人質に取られても、自分はまた、勝てなかった

「俺は・・・負けたんだ」

「違うな」

突如響いた、否定の言葉

伏せた顔の中、アキトは驚きに目を見開いた

顔を上げるより早く、ガイの声が響く

「お前は、負けたわけじゃねえ」

「なに・・・言ってんだ」

自分は、負けた。完膚無きまでに

全てにケリをつけて、全てに納得して、全てを受け入れて挑んだ。それでも、自分は負けた

ならばもう、これ以上は、無理だ。これ以上、自分に捨てられる物なんてない

あの男に、勝てない

そう言おうとして、しかし再びガイの言葉がそれを遮った

「お前は、負けたわけじゃねえ・・・・勝てなかっただけだ」

告げられた言葉に、こみ上げて来るものがあった

それは

「・・・・屁理屈だよ」

驚きでもなにもなく、ただの嘲り

「・・・・屁理屈だよ・・・・それは」

嘲るような笑みが、口元に浮かぶ

それを自覚して、アキトは目を閉じた

ああ、最低だな。と、そう思いながら

歪んだ口から、言葉が漏れる

「お前は・・・・本当に変わらないな」

告げられた言葉が、しかし決して褒め言葉ではないことは、明らかだった

その事実に、アキトはまた自嘲を深くする。八つ当たりに近い感情を、吐露しようとしている自分に

こんな、夢とも幻とも付かない、かつての自分の友すら、見下そうとしてる自分に

「現実はさ、そう、甘くないんだよ。ガイ」

蔑むような口調で、顔を伏せたままのアキトは、ガイへと言葉を投げる

「屁理屈言って、立ち上がって、勝てる奴なんて、いないんだよ。そんなのは、アニメや漫画の世界だけだ」

チクリと、胸が痛む。今自分の横にいる男を否定すること、それは、かつての自分を否定することと同義だ

それを当然のことだと思いながら、あんななにも知らない子供だった自分を否定するのは当然だと思いながら、それでも胸に、小さな痛みが浮かんでは消える

「・・・俺が」

それでも、それだからこそ、それを振り切るように、アキトは呟く

「俺が・・・・なにをした?」

アキトの心に、今更な感情が蘇る

ガイへの否定の言葉に触発され、押し込めていた想いと感情が、ドロドロと溢れてきた

「俺が、俺たちがなにをした? なにもしてないじゃないか、ただ平凡に生きたかっただけじゃないか、両親を殺されて、火星でたくさんの人達を守ることも出来ずオメオメと生き延びて、望んでもいないのにパイロットになって、戦いに巻き込まれて、その果てでやっと掴んだと思った幸せが・・・・奪われた」

口調がどんどん荒く、そして早口になっていく

「確かに俺は人殺しだ。ナデシコAに乗ってるときに、たくさん殺したよ・・・だけど、それは俺だけか? 違うだろ。俺だけじゃない。誰だってそうだ。皆そうやった。そうしないと生き残れなかったから、だから殺した。確かに俺も人を殺した・・・・でも、だからって・・・・なんでだよ」

怨嗟をぶつけるように、崩壊したダムのように、まるで呪いのような言葉は、次々とアキトの口から漏れ出していく

「なんで俺だけ、こんな目に遭うんだよ。A級ジャンパーだからか? そんな、俺の意思なんて関係ない、無関係なことで、たったそれだけのことで、俺の人生は狂わされる決まりだったのか? 脳味噌弄くられる運命だったのか? 幸せを、手に入れた端からもぎ取られていくのか? 目も、耳も、鼻も、感覚も、味覚も、全部、全部奪われる宿命なのか?」

それは、アキトがずっと胸の内に留めてきた、言葉。誰にも吐き出さず、みっともないと自分で蓋を閉じ鍵を掛け、仕舞い込んでいた言葉達

だがそれが、不意に開けられた。かつての自分の、幸せだった頃の自分を象徴するような男の出現と言葉に、半ば自暴自棄のように、言葉が漏れた

「ふざけるなよ・・・・ふざけるなよ! なんだよ、なんだよそれ。それじゃあ俺は、生まれたときから、どう足掻いても不幸になるって決まってたんじゃないか!」

言葉が、不意に途切れた

呪いが切れたように、アキトが言葉を止める

熱くなっていた自分を恥じるように、力が入っていた肩を沈め、息を吐き出す

「もう・・・・疲れたんだ」

疲れ切った老人のように、アキトは言葉を落とす

「俺の役目は、もう終わったよ・・・・もう、俺は死人だ。後は、ユリカ達がやってくれるさ。俺なんかより、ずっと上手く」

項垂れたまま、アキトは自分自身に言い聞かせるように、呟いた

「もう・・・・俺の役目は、終わったんだ」

「そうかい」

だがガイは、そのアキトの呟きを、たった一言で切り捨てた

それはまるで、癇癪を起こした子供が疲れ切った瞬間に声を掛けるように、酷くあっさりと、たった一言で終わらせた

靴が床を叩く硬い音と、横に座るガイが動く気配だけが、伝わってくる

立ち上がったガイが、そのまま数歩前を行く。思わず顔を上げたアキトの視界に、その赤いパイロットが着る制服が目に入る

「じゃあ、一つ聞くが」

そして、ガイは言った

「全部終わって、疲れて、役目が済んで、自分のことをもう死人だって言ってるのによ」

振り向かず、アキトに背中を向けたまま、ガイは少しだけ顔を動かした

余りに僅かで、なにも変化は無い。後ろから見ているアキトが気付かないほどのその極僅かな挙動の後、ガイは尋ねた

たった一つの問い掛けを

「なんでお前は、拳を握ってるんだ?」







自分の無力を、これ程までに呪ったことは無かった

白い仮想世界の中、ルリは心底自分を卑下した

その挙動は、すでに止まっている。もはや限界に達した体が、脳が、言うことを聞かない

残り時間は、もう無い

それを自覚して、ルリは具現化された体に力を込める

後、少しなのだ。もう後ホンの少しで、この防壁を突破して、時限装置を止められる

だが、力を込めたはずの体が、糸の切れた人形のようにガクリと項垂れた

限界など、とうの昔に越していた。そしてそれは自分だけではない、先程からすでにアキヤマ達の援護もなくなっている。過度の処理が許容量を超えたために、オペレーター達は全員、気を失った

自分、だけなのだ。もう残っているのは、止められるのは

そう自分に言い聞かせ、ルリは自分を鼓舞する

ガクガクと震える右腕を持ち上げ、力を込める

頭が破裂しそうな頭痛が、ルリを襲う。まるで脳味噌に直接針を突き刺されているような気分だ。だがそれを超人的な自制心で堪え、ルリはこみ上げてきた吐き気を飲み込みながら、右腕にさらに力を込める

光が、微かに宿る。なけなしのような、光が

「がっ」

蛙が潰れるような、自分でも無様だと思うような声を漏らしながら、ルリはその右手を振り下ろす

光が行く。弱々しい光は、しかし黒一色の壁にあっさりと弾かれ、消える

その光景に、ルリの顔が絶望に染まる

だが、すぐにそれを振り払うと、再び右手に力を込める。頭が再びキリキリと悲鳴を上げ、五体全てを気が遠くなるような激痛が苛む

全身をくまなく、巨大な加圧機で押し潰されているようだ

だが、それでも

――― 私が、やらなきゃ

他にもう、誰もいない。自分がやらなければ、後が無いのだ

「ぐっ」

動けと、呪うような願いを込めて命令する。自分は、もうどうなっても良い。だから後少し、ほんの少しだけ頑張って欲しい

痛みに、視界が歪むのを自覚した。泣いているのかとも思ったが、具現化されたイメージだけの自分が涙を流すわけがない。単純に、いよいよ自分の意識も危うくなったということだろう

ここで退かなければ、恐らく自分の命も危ない。だが、そんなことがなんだと言うのだ

退いても退かなくても、結局辿り着く結末は同じだ。ならば、やることは一つだ

覚悟を、決めた

「がっ」

全身に、力を込める。明らかなオーバーロードに、警告のような激痛が全身を突き抜ける

だが、構わない。さらに力を込める

「がああああっ」

本能が叫ぶ。これ以上は無理だと

だが、それすら無理矢理胸の奥に仕舞い込み、ルリはさらに全身に力を込めた

「ああああ」

意識が、視界がぼやけていく。虚脱感が胸を満たすが、力は緩めない

脳が焼けるように痛い。今現実で艦長席に座っている自分は、間違いなく泣いているだろうと思いながら、それでもルリは止めなかった

右手に、微弱な光が生まれる。先程よりもさらにずっとずっと弱い、バカらしくなるほどちっぽけな光が

だがルリはそのまま、右手を振り上げた

最後っ屁で構わない。無意味な一撃だ。だがそれでも、諦めるなんてしてたまるものか

ルリの周囲を、警告の赤いウインドウが取り囲む。しかしそんなものなどまるで歯牙にも掛けず、ルリはその光を投げ放った

微かなその光は、吸い込まれるように目の前の壁へと突き進み

そして、そのまま消えた

それを見届けるルリの視界が、もはや限界とばかりに曖昧な物になっていく

――― 結局私は、こんな程度・・・・だったんですね

今度こそ指一本動かせなくなった体で、ルリはそう思った

史上最年少艦長がなんだというのだ。火星の後継者事件を、事実上たった一隻で鎮圧したから、なんだというのだ

そんなもの、なんの意味も無かった。こんな大事なときに通用しない自分の力なんて、結局なんの役にも立たない

視界を、白が満たしていく

頭が痺れ、自分はこのまま気絶するのかと、落胆と絶望と共にそう悟った

だが

――― え?

突如、その視界が高速で輪郭を取り戻していった

痛みが、虚脱感が、自分を束縛していたあらゆる要素が、取り払われていく

意味がわからない。その突然の信じられない事態に呆然としているとき

ルリの右手に、光が宿った

唖然としたまま視線を移す。その手の中には、とても小さな、しかし眩しさに目を細めるような、強い光があった

――― これは・・・・

そのとき、ルリは確かに聞いた

微かな、少しでも気を逸らしていると聞き逃してしまいそうな、弱々しい、しかしどこか懐かしく、聞き覚えのある声

それは、小さく、だが確かに、聞こえた





――― がんばれ





視界の端を、なにかが横切った。慌てて目を向ける

しかしそこには、すでになにもなかった。どこまでも広がっていくような、だだっ広い純白の空間があるだけだ

だが、それでもルリは、確かに見た

自分の視界を、桃色の髪が一筋、流れるのを

そしてそれだけで、ルリにはなんとなく、わかった

――― ・・・・そう

自分の手の中、生まれた光を見る

頭に浮かぶのは、かつて一度だけ、ただ一言だけ言葉を交わしたあの少女

自分と同じ名を持つ、あの少女だ

理屈は無い。説明も出来ない。証明なんて夢のまた夢

だがそれでも漠然とした、しかし不思議な確信と共に、ルリはそう悟った

――― アナタはもう・・・・いないんですね

なぜいないのか、どうしてそうなったのか、ルリに知る術はない

だが、分かる。きっと彼女は

――― ・・・ありがとう

笑って、逝ったことだろう

ならば、答える自分の行動は一つだ

右手を掲げる。光が一際強くなる

それを握り締めると、ルリはその光を包む手を胸へと持って行き、そして振りかぶった

「・・・・行け」

光の弾丸が射出される。駆けて行く

一人の少女の全てを乗せた光が

「行け」

壁を、貫いた

「行けっ」







瞬間、時が止まった

問われた本人であるアキトは、一瞬意味が掴めなかった

だが、すぐに答えが来る

右の二の腕近くで、酷く曖昧な、しかし確かな痛みが答えたからだ

まるで、ガイの問い掛けに反応するように

自分の存在を、主張するように

痛みの根源を、呆然と見下ろす。答えは、目の前にあった

自分の右手。かつてあの男との戦いでへし折れ、それ故に、彼女を失うこととなった、その腕

それがまるで、自分とは全く別の意志を持ったかのように、硬く握り締められていた

かつての無念を主張するように、そして、まるでアキトを叱り付けるように

俺はまだやれると、そう、訴えるように

「色々複雑に見えるけどよ。人間なんて結局は単純なもんさ」

自分の右手を見下ろすアキトの耳に、ガイの言葉が届く

「口でどれだけ取り繕っても、心にどれだけ言って聞かせても」

右手が、さらに硬く握り締められる

「お前の右手は、言ってるぜ。悔しいってよ・・・諦めきれないってよ」

背中が、言葉を発する

「お前はどうだ? テンカワアキト」

まるでその問いが引き金のように、アキトの心に一つの感情が浮かんだ

それは、妄執と言えるような、しつこく、諦めが悪く、そして傍から見れば酷く汚れて見えるような、身勝手な願い

なにを今更と、そう鼻で笑われても、仕方が無いような、そんな願い

――― 「幸せになりたいのだろう?」

「・・・それが答えさ」

声が、再び響く。視線を移せば、相変わらずの背中が目に入ってくる

そして、かつての友の懐かしい声が、アキトの背中を押す

「行けよ」

声は響く

「行けよ。テンカワアキト・・・・オメエは、ここに来るにはまだ早い」

そして、アキトも答えた

足に、力を込める。全身に意識を集中し、力を込める

立ち上がり、アキトは正面から見つめた。ガイの背中を

「・・・立てるじゃねえか」

「そう・・・みたいだな」

苦笑のような響きで、アキトは答える

「全く・・・・しぶとい上に単純だよ。俺は」

「まっ、こっからが大変なんだ。それくらいしぶとくねえとやってらんねえよ。きっと」

「・・・そうだな」

言った瞬間、アキトは自分の視界が霞むのを自覚した

目の前の背中の輪郭が、僅かにぼやける

先ほどまではっきりと見えていたナデシコAの格納庫が、徐々に色を失っていく

それを実感して、アキトは不思議と、動揺もなにもなく、悟った

もう、大丈夫なのだ、と

これで、この夢か幻かもつかないような曖昧な、しかし確かに自分に残るであろうこの再会も、終わるのか、と

ならばガイの言った通り、大変なのはこれからだ

目覚めたら、自分にはやらなければならないことが山程ある

気の遠くなるような、長い長い道が

薄れていく視界の中、自分を押してくれた人物の背中もまた、霞んでいく

「・・・なあ、ガイ」

気が付いたら、疑問は口から零れていた

「ん?」

「これは・・・本当に、夢なのか?」

どういう意図があり、そしてどういう返答を期待して問いかけた言葉だったのか、それはアキト自身にもわからない

肯定も否定も、さして意味はない。それはアキトもわかっている。だがそれでも、聞きたかった

それはもしかしたら、この不可思議で曖昧な再会を、確かな形で自分の心に留めておきたかったからなのかもしれない

だが、返答は、アキトの考えの外にあるものだった

ガイは、いつもの通り、彼らしく、アキトの予想もしてないような行動と答えを、簡単に打ち出す

もはや、視界は零に等しい。辛うじてガイの背中が示す制服の赤と、彼の髪が示す黒が見えるだけだ

だが、その酷くぼやけた景色に、微かな変化が起こった

それが、ガイがこちらを振り向いたことによって起きたものだと、不思議と確信しながら、アキトは思った

きっと今の彼の顔には、あの、真っ直ぐで無邪気な、子供のような大人の笑顔が浮かんでいるのだろうと

そして、声が聞こえた

苦笑のような響きで、しかし妙な嬉しさと、そしてどこか悲しげな響きを持って

「バーカ」

そして、夢は終わる







「!?」

それは一瞬にも満たない瞬間だった

なにを考えただろう、なにを想っただろう

思い出そうとしても、おそらくアキトはそのときのことを、覚えてはいないだろう

だが、それは確かに起こったことだった

右ブーストを点火、その慣性をそのまま利用して半回転

突き出されたその錫杖が、微かに機体を掠る。だがそんなことなどまるでお構いなしに、さらに速度を跳ね上げたブラックサレナは、そのまま右腕を振りかざし―――





スクリーンに映る光景が、セトにはやけにゆっくりに見えた

口元に、笑みが浮かぶ

―――・・・・・見てるか?ラピ坊

『セト・・・・サレナを』

『サレナを、強化してくれ』

『復讐じゃない』

『奴を・・・・・越えたい』

『・・・・超えたいんだ』

手が震える

―――お前の兄ちゃんは・・・・お前の大好きな・・・・テンカワアキトは・・・・!!

それを強引に握り締めると、セトは声を張り上げた

聞こえているかと問うように、見ているかと叫ぶように

届いているかと、確認するように

天まで届く、大きな声を

―――乗り越えたぞ!!

「ぶちかませ!!」

直撃した







アララギは目の前のウインドウを、ただ固唾を飲んで見守った

残り時間は、すでに五秒を切ろうとしている

「・・・目を閉じるな」

背後にいる自分の副官が、恐怖と恐れで祈るように両目を閉じるのを横に見ながら、アララギは呟く

その顔には大量の脂汗と、いつもの人を喰ったような笑みが浮かんでいる

残り時間、二秒

「前だけ見てろ」

そして、そのアララギの眼前

「・・・そうか」

アララギの声を皮切りに、ブリッジにいた各々の人間が、それぞれの反応を返す

皆呆然とした態度で、目の前のウインドウを見つめる

まだなにが起こったのか理解しきれていないような表情で、しかし、それが徐々に塗り変わっていく

「よくやってくれた、妖精」

『残り時間、二秒』

そう示したまま一切の動きを示さないそのウインドウを見て、アララギは息を吐く

そしてブリッジのあらゆるところから、歓声が爆発した







その日、世界のあらゆるところで歓声が巻き起こった

「やった! やったー!」

そしてナデシコCのブリッジでも、当然それは起きていた

飛び跳ねるユキナが、そのままミナトに体当たりのような勢いで抱きつく

ブリッジに上がってきていたリョーコ達は、互いに手を叩き、サブロウタは長い溜息をついた

そしてそんな彼らのやり取りを聞きながら、ルリは意識を現実へと引き戻した

ウインドウボールが解除され、皆が口々に賛辞の言葉を述べてくる

それを聞きながら、ルリは渡されたタオルで、流れていた涙や汗を拭いた

そして、ふと思考を巡らせる

――― ありがとうございました

それは、あのとき確かに力を貸してくれた、ある少女へ送る言葉

――― アナタのお陰で、世界は救われましたよ

そのとき

「お、おい・・・・あれ」

リョーコの、僅かに緊迫した声が響く

その言葉に、視線を移す。静止したカウントのウインドウの横に並ぶ、もう一つのウインドウへと

そして、ルリは口元を笑みの形に変える

――― そうですか・・・

そのウインドウには、静めた体から右拳を繰り出しているブラックサレナと、その一撃にアサルトピットを直撃されている、夜天光の姿がある

――― 決着、つけるんですね

そして

その、夜天光の胸部に突き刺さったブラックサレナの右手に、黒い人影が乗っていた

そして

開いた夜天光のアサルトピットから、めり込んだ金属にその身を半分以上押し潰されながら、それでも辛うじて命を繋ぎとめている、北辰の姿があった

口から血を吐き出しながら、それでも笑う北辰と、ただ黙ったままそれを見下ろしているアキト







こうして世界は救われ、そして二人の男の三年にも及ぶ長い戦いの話も、今幕を降ろそうとしていた








あとがき



本命は緑です。だから大丈夫です



こんにちは、白鴉です



というわけで、最終話をお送りいたしました

最終話なのに終わってねえよと思われたりするかもしれませんが、どうもすみません

エピローグでちゃんと決着をつけたいんですが、もしかしすると二本立てになる可能性もあったりなかったり

エピローグなのに前後編ってのはダメだろうと自分で思いながら、じゃあどこを削るかと悩む日々です





それではエピローグで