・・・現在2195年、木星蜥蜴は火星を制圧し、その勢力範囲を月にまで延ばそうとしていた

 だが、一方その頃、ここ日本のある非合法の研究所にて軍による強制制圧戦が行われようとしていた。




 その研究所では国際法で禁止された遺伝子操作による強化体質者・・・いわゆるマシンチャイルドの製作や、

 それらによって作られた戸籍の無い子供を使っての人体実験が行われていた。

 本来ならばこう言った物の取り締まりはその国ごとの警察組織がする物だが、

 200以上の国と地域が一つになった地球連合では治安維持の名目で軍にも査察権・逮捕権などを持っているのだった。

 ・・・まぁこう言った特権が多いほど権利を持つ者達は腐敗していく物なのだが・・・




「良いこと?証拠はバッチリと揃ってるんだから遠慮する事は無いわよ!!」

 指揮を執っているこの男は、階級は大佐らしいが軍にしては珍しくどちらかと言うと痩せた男だ

 切り揃えられたおかっぱの髪とその特徴的な喋り方が目をひいていた。

 ・・・この男は周りから無能なくせに出世欲が強いと見られており、今回の行動も当然”点数稼ぎ”だと思われていた。

 だだ一言だけ言わせて貰うとしたら、お役所仕事となっているこの国の警察にこの研究所の事を任せたとしても

 人体実験も行われている以上のそのそとしている間に最悪は幼子の命が消えるのである。

 更に言えば非合法の研究所である為にここの警備員の武装はテロリストとなんら変わるものでは無い。

 ・・・この男の真意がどうなのかは解らないが、その行動は”点数稼ぎ”だとしても単純に非難できるものではない。

「各班準備良いわね?、突撃開始よ!」







 ・・・あらかた制圧が終わり、男が研究所の中へ入っていくと部下が近づき報告をしてきた

「大佐、被験者と思われる少女を発見しました」

 報告を聞き、窓には格子が降りていて内側からは扉が開かないまるで牢獄のような部屋を訪れると、

 その部屋には薄桃色の髪をした幼稚園児くらいの女の子が一人俯いて座っていた

「こんな小さな娘を・・・ちょっとあんた、聞こえてるかしら?」

 少女はその声に反応して顔を向ける

「・・・・ダレ?マタジッケンスルノ?」

 少女が今まで会った大人は全て自分を実験する者だった

 だからここに来た見知らぬ大人もまた自分に実験しようとする者だと思っていた

「違うわよ、私達は馬鹿な奴らからあんた達を助けに来てやったのよ!」

 その言葉を聴き少女は戸惑っていたが、男に近づいて一言だけ言った

「・・・・アリガトウ・・・」

 おそらく生まれてから初めて言うであろう感謝の言葉であった・・・

「フン、お礼ないんて良いからさっさと外へ出るわよ!こんな場所にいつまでもいてもしょうがないわ!」

 ぶっきらぼうに言い放つが、男は移動する為に少女の事をやさしく抱え上げていた



 その後、被験者であるこの娘は自分を助け出してくれたこの男の養女になる事となった。

 男の名はムネタケ・サダアキと言い、その娘には”サクラ”と言う名前が付けられた。

 ・・・こうしてこの世界に”ラピス・ラズリ”と呼ばれる少女が現れる機会は永遠になくなった。


機動戦艦ナデシコ

〜revenge of SNOW WHITE〜

プロローグ3「伝説へとつながる『歴史』」


 ムネタケ・サダアキ・・・・・彼はけっして優秀な軍人などではなかった

 若い頃の彼は、彼の父である”ムネタケ・ヨシサダ”を尊敬して正義に燃えて軍に入隊した。

 だが、平時における軍などと言うものは利権や権力に眼が眩んだ者達の争いの場でしかなく、

 特に極東方面と言う場所は宗教的な対立も人種的な対立も無く、

 皮肉ではあるが平和だったが為に軍の上層部は一部の例外を除き腐りきっていたのだった。

 ・・・そんな現実を前に彼の理想は少しずつ崩れ去って行ったのだった。

 そして気がついたときには自身の身を守る為、そして父親の名を汚さぬ為に保身に走るようになり

 周囲の者は彼の事を”親の七光りだけで出世してきた無能者”だと判断するようになっていた。

 無論、大佐と言う階級はそう簡単にまったくの無能者に与えられるものではなかった

 特に保身がかかっているとは言え失敗を避ける為に臆病なほどに慎重な所などは

 上から見れば無能かも知れないが下から見れば生還率を上げる頼もしいものでもあった

 ・・・そして勿論、彼の父親などは息子のそう言った所は正当に評価していた




 さて件の制圧戦から数日が経ったある日、ここは極東方面軍司令部、ミスマル・コウイチロウ提督の執務室であるが、

 現在彼は彼の参謀長であるムネタケ・ヨシサダから報告書を受け取っていた

「ふむ・・・ヨシサダ君、今回のサダアキ君の判断は評価に値するな」

 ミスマル・コウイチロウは正直言ってムネタケ・サダアキの事を余り好いてはいなかった

 軍の命令に忠実なのは良いが、余りやる気があるように見えなかったからだ

 だから、今回の素早い対応に正直驚いているのであった。

「いえいえ・・・それにしても、あの馬鹿息子が子供を引き取ると聞いた時には驚きましたよ・・・」

「マシンチャイルド・・・でしたか。報告書は読んだが子供に対して良くあんな事が出来るものだ・・・」

 ミスマル・コウイチロウはけっして人種やIFS強化などで差別をするような人間ではなかった

 それは前史でホシノ・ルリを養子にする事を認めた点からもわかるであろう。

 そんな彼からすれば非合法の研究所で行われているような事は当然許されざるものであった

「・・・娘と言えば今回の情報を掴んだのは提督のお嬢さんでしたな」

 そう、実は現在2195年、ユリカは戦時と言う事もありここ極東方面軍にて士官候補生として情報・参謀部に従軍しているのであった。

 実は前史でラピスがいた研究所に関して聞いていたのだが、ユリカには個人で救出するような力は無い為、

 この機会に自分の掴んだ情報と上に報告してラピスを助ける事にしたのだ。

 ・・・まさかムネタケが救出劇の指揮を執って、ラピスがムネタケの養女になるなどとは考えていなかっただろうが・・・

「いやぁ・・・妻に先立たれ男手一つで育てたものの、良くぞここまで立派に育ってくれたと・・・」

 ・・・現在、木星蜥蜴の勢力が月から地球に迫っていた。彼らは明日にでも出撃しなければならないかもしれない。 

 だが今この瞬間、ここはこれ以上無いくらいに平和であった・・・・







 さて、少しばかり前回の話より時間が跳んでしまったので

 ここで火星でテンカワ・アキトと出合った後のミスマル・ユリカの話をしよう




 まず彼女がアキトと別れるまでの数年間だが・・・この間は彼女は基本的に何もしなかった。

 何故なら下手にこの時点で何かをしても、子供の力で良くなることなど何も無く下手をすれば悪化してしまう恐れがあったからだ。




 例えばユリカがアキトの両親を助けようとするとしよう。

 もしも一度は助けられてもボゾンジャンプの秘密の鍵を握るテンカワ博士の命は、

 ネルガルはおろかクリムゾンや木蓮からも狙われて下手をすればアキトが巻き込まれて死んでしまう恐れもある。

 また、生き延びたられたとしても下手に前史よりも早くボゾンジャンプを実用化されてしまったら、

 自分も含めて火星の人たちは人体実験の対象にされかねない。

 個人の力に限界がある以上、死ぬのが解っていても助けられない物もある・・・

 正直言って未来を知っているのも良し悪しだとこの時彼女は思った。

 ・・・何故ならそれほど遠くない未来で火星の人たちは為す術も無く死んでいくのを止められないのだから・・・







 と言う訳で、何もしない事を決めたユリカは、ただ一点”アキトになるべく負担をかけない事”だけに注意しつつも楽しく暮らしていた

 そしてユリカがアキトを振り回さなかったその結果、見事にアキトはユリカに好意を持ってくれたのだった。

 その為幼稚園に手をつないで行く、一緒にお風呂に入る、おままごとでほっぺにチュー等など

 密かに前史よりも良い思いをたくさんしているのであった・・・

 そして『今度会ったら結婚しよう』と言う約束をして、地球行きの船に乗るのだった。

 ・・・わかってはいた事だが別れの際にこれから10数年会いたくても会えないと思ったら自然と涙が出てきた






 地球に帰ったユリカは 前史の記憶がある為正直言って学校で学ぶ事は無かった

 その為ユリカは実益と暇つぶしを兼ねて、色々な習い事をする事に決めた。

 退屈ならば社会的な地位を強くする為に飛び級でもすれば良いかとも考えたが、

 下手をすると一番の友達であるアオイ・ジュンと仲良くなれない可能性がある為にあっさりと諦めた。

 彼女にとって”ミスマル提督の娘”じゃ無く”ユリカ”として見てくれる友達は何物にも代えがたかったからだ

 尚、彼女の習い事は書道、華道、柔道、合気道、剣道、日本舞踊、琴、ピアノなど多岐にわたり、

 節操無くやってみては面白くない物はすぐにやめてしまい、叉別のものを始めたりしたが、

 合気道と日本舞踊だけは高校を卒業するまでやめる事は無かった。








 そしてユリカは前史と同じくジュンと共に連合軍極東士官学校に入学した。

『士官学校始まって以来の天才』

 一見すると前史と変わらぬ評価に見えるが、前史のそれは戦術、戦略シュミレーションにおいて無敗であった事から言われた物だが、

 今回はそれ以外の格闘・射撃術や機動兵器操縦など実践的な教科全てにおいて完璧といえる成績を出しているのであるから。

 そしてこれらはあの白い世界で遺跡の管理人に色々と教わったり小さい頃から基礎体力を付けていた為でもあるが、

 火星から地球に来た後、護身の必要を感じていたので習い始めた合気道が予想以上に自分に合っていた為である。

 軍隊式の格闘術とは違うといっても、合気道の間合いの取り方や気の流れを掴むやり方は十分に生きたのだ

(ただし料理に関しては相変わらず殺人級である。サバイバル訓練で彼女と一緒の班になった者達は、
最初は大喜びだったのだが彼女の作った料理を食べた結果、全員病院送りとなったのであった・・・・・・合掌)




 もちろん戦術・戦略シュミレーションにおいては無敗を通していた

 それも同学年の生徒のみならず、学校の先輩や教官達をも相手にしての無敗だ。

 何せ実時間で1年足らずとは言え本当の戦争を体験してきたのである。

 それもその時点で軍の誰もが体験した事が無いであろう『不利な戦争』をだ。

 たった一艦で数十倍の敵艦と数百倍の敵機動兵器と戦った経験

 自分より射程が長く強力な武器を持ったものと戦った経験

 こちらの防御を無視できる砲弾をワープさせる武器を持つ艦と戦う経験

 全てが成功した物だけではなく失敗した事も含め、平時しかしらない者が相手になるわけが無いのである。




 尚、余談ではあるがこの時期には既にアオイ・ジュンはユリカに対して恋心は持っていなかった。

 前史ではテンカワ・アキトの影も形も見えなかったためナデシコに乗るまで友達から恋人に変わる希望を持っていたが、

 今回は明らかにユリカは自分ではない誰かに恋心を持っていることを傍目にも気づいているからである

 だが、その才能に素直に尊敬し(男女関係では嫉妬しまくりだったが、こう言う部分で嫉妬しない所は彼の美点である)

 そして彼女の一番の友達でありたいと思いユリカに負けぬよう努力を重ねていた

 努力と忍耐の人アオイ・ジュンの面目躍如と言った所か・・・











 そして今、彼女の元にはある意味もっとも待ちわびていた二人が訪問してきたのである

 一人はちょび髭に眼鏡の見るからに人の良さそうな男性

 一人は良い体つきをした表情が変わらない無愛想な男性

 言わずもがなネルガルからのスカウトの二人であった。

「・・・と言うわけでミスマル・ユリカさん、
貴女には是非我が社の最新鋭の戦艦『ナデシコ』に艦長として乗って頂きたいのですよ」

「はぁ、そうですか」

 プロスの説明を受けたユリカだが、前回とまったく変わらない為懐かしいのが半分、飽き飽きなのが半分と言った所だ

 何せ答えはすでに決まっているのだ。だがこれから先の展開を自分の都合の良いように事を運ぶ為にも、

 ここではプロスらをいずれ味方にする為の下準備として自分を切れ者だと思わせる事にした

「で、どうでしょうか?我が社としては悪いようには致しませんよ?」

「あの〜、先に幾つか質問をしたいのですがよろしいでしょうか?」

「はい、なんなりとどうぞ」

「そのナデシコが最新鋭の戦艦だと言うことはわかりましたが、
艦を私的に運用すると言っている以上目的はただ単に地球の防衛なんかじゃないですよね?」

 いきなり核心を突かれたのかプロスさんの顔から一瞬笑みが消える

 一方ユリカの方はニコニコしていたが、これは相手に悪い印象を与えずに自分の考えを読ませない、

 交渉を有利にする手段であり、本来はプロスペクターの常套手段であったが完全にお株を奪っていた。

「・・・宣伝の為と言うことで納得頂けないでしょうか?」

「宣伝と言うのなら実際に軍で使ってもらったほうが良いでしょう。その方が実際に使ってみた方からの意見も聞きやすいですし、
何より戦艦なんて物を買うのは軍だけなのですから宣伝ならそれで良いと思いますけど?」

 何とか誤魔化そうとするプロスだがその指摘は更に鋭くなっていた

「いやいや、これは中々お厳しい。ですがまだ貴女と契約していない以上、これをお教えすることは出来ないのですよ・・・
なにせ、このプロジェクトには我が社の社運が掛かっているものですから・・・」

「それは納得できますが、私もそちらで厄介になると決めたら軍を辞める事になるのですし、
それにもし契約を盾に『単艦で木星に突っ込め!』とか言われたら私は違約金を払ってでもすぐに艦長を辞めますよ!」

「むぅ・・・」

「い・・・いえ、そんな無茶な事は流石に言いませんよ。」

 これには流石のプロスどころかゴートまでも焦り、思わず呻いてしまう。

 何せ説明していない以上そう取られても仕方が無いのだから・・・

「ですが大体士官学校を卒業したての若造を艦長にって事が可笑しいじゃないですか、
まるで危険な任務だから死んでも良いようにあまり重要な人は選べなかったとか?」

 ニコニコしながら厳しい事を言ってるユリカ、

 プロスも笑みを崩さない辺りは流石と言えるが、内心はもう冷や汗ダラダラと言った感じだった

「はぁ〜・・・どうやら話さなければ契約していただけなそうですな・・・しかし、この事は我が社でも最重要機密でして・・・
契約していただけなくても他言無用と言う事でお願いします」

「もちろんわかってますって♪」

 結局、この交渉はプロスの方が折れる形となった

「・・・・・実はナデシコの目的・・・と言うか目的地は火星です」

 プロスは珍しく笑みを消して真剣な表情になっていた

「火星・・・ですか」

 すっとぼけた感じでユリカは言った

「はい、ひょっとしたらまだ生き残りの方がいると思いますし、何より火星の研究施設は我が社にとってとても重要なものでして・・・」

 腹の探り合いを無駄だと判断したプロスは(流石に遺跡の事は言えないが)そこまで言ったのだった

「(さて、契約するにしてもこのままだと先の戦いを考えると不安なんだよなぁ〜・・・)・・・わかりました」

 ここで、ユリカは賭けに出ることにした。

 一歩間違って、向こうから「それなら契約しなくて良い」と言われたらお終いだが、

 交渉のプロであるプロスが、ここまで教えてまで誘っている以上その様な短絡的な行動を取るとは思えなかったからだ。

「これだけはどうしてもお願いしたい!って事があるのですけど、それを認めてくださるのならOKです♪」

 その言葉にプロスの眉がピクリと動く

「・・・とりあえずお聞きしましょう。」

「正直言って机上のスペックだけじゃ不安なんですよ、クルーの命を預かる者としては」

「はぁ、それは当然と言えますな」

「ですから火星に行く前に何度か実戦をしてみて、それで駄目そうなら行くのを止める権利を私に貰えませんか?」

 正直言って艦長としてクルーの命を預かる以上これは聞かなければ可笑しいのである。

 何せいざ火星に着いた後に「主砲が思ったより敵に効かなくて全滅しました」ではすまないからだ

 ・・・勿論ユリカは実戦でのナデシコの性能など誰よりも詳しいのだが

「!?いや、それは流石に私の一存で決められるものでは・・・本社の方に確認を取りますのでちょっとお待ちいただけないでしょうか?」

 さすがにプロジェクトを中止する権利を交渉人が独断で与えるわけにはいかない

「別に契約なら後日でも良いですから会議でも何でも開いたらどうですか?」

 正直ユリカもそんなすぐに決められる物なのかと思っていたが

「いやいや、恥ずかしながら余り私どもの方も時間がありませんでして・・・・ではちょっと失礼して」

 プロスは既にユリカ以上の艦長はいないだろうと思っていたので、

 ここで契約を取らないで後日になって気が変わられたら不味いと思っていたのだった

 そしてプロスは少し離れてアカツキに電話をかける

「もしもし・・・・はい・・・実は・・・・・えぇ、そうなんですけど・・・・・・・・・はい、ありがとうござます」

 電話を切ったプロスは一安心と言ったばかりの笑顔であった

「本社の方に確認しました所、それで良いとおっしゃってましたので大丈夫です」

 プロスの言葉を聴いたユリカはニッコリと笑い・・・

「それじゃあそれは良いとして・・・」

「ま・・・まだ何かあるでしょうか?」

「いえ、ココから先は私が足らないと思う物で、どちらかと言えば要望なんですけど・・・」

 その”要望”という言葉にプロスは笑みを取り戻す。

 あまり無茶を言われても今度は上の方が文句を言うかもしれないからだ。

「はい、それでしたら責任を持って私がお伝えしますよ」

「でわですね〜、パイロットの数が圧倒的に足りないと思うのですよ。これってもう少し増えないですか?」

「いや〜、今は戦時ですから軍からの引き抜きは難しいですし、正直民間の優秀なパイロットなんて中々見つからないものでして・・・」

「それなら・・・」

 そして、ユリカは次々と要望を挙げていった

 ・・・この後、昼ごろから始まった話し合いは結局日暮れまで終わる事が無かったと言う・・・

 ちなみにゴート・ホーリーは二人の話に付いていけなくなり、途中から密かに眠っていたらしい・・・・



「あ、契約書のこの項目は消させてもらいますよ♪」

「・・・気づかれましたか、」











 ネルガルの会長室、その本来の主と影の主とも言える秘書に対して報告がされる

「・・・と言うわけでして、何とか契約する事は出来ましたが、以下の要望を受け取ってまいりました・・・」

 その内容は主に挙げれば”パイロットの増員”や”エステバリスの予備機の用意”など戦力に関係する物であり

 要望という形だがどれもこれも本気で火星から帰ってくる気なら必要だと思われる物である為、無下には出来ない

「なるほど、噂以上の切れ者だったって訳か・・・今度一緒に食事したいね〜」

「馬鹿言ってんじゃないわよ・・・って事はこの評価も全部本当なの?」

 そこにはおそらく士官学校の物と思われるミスマル・ユリカの能力に関する評価があった。

 それは他の候補者達と見比べても群を抜いた成績であり、その最後の備考欄にはこの様に書かれていた。

『ミスマル提督の指揮統率能力とムネタケ参謀長の作戦立案能力を併せ持つ極東方面軍の鬼札』

 ・・・ミスマル・ユリカを直接知る者はその評価に異論を挟む物は殆どいなかったが、

 余りかかわりの無い大半の者は、これはミスマル提督の親馬鹿っぷりからでた言葉であろうと思っていた

「僕もさすがにこれは過大評価の方だろうと思ってたんだけどねぇ・・・プロス君、実際会ってみた感じはどうだったかい?」

「正直、余り敵に回したく無いタイプですね・・・1を聞いて10を知るとは良く言いますが、
この要望だけを聞いても彼女には先のことまで全部読まれてる感じがしましたよ・・・」

「それで・・・扱いきれるのかい?」

「話して見た限りですが・・・こちらが裏切らない限りは少なくともネルガルに敵対するような事はないかと思います」

 日ごろから客観的に物事を見るプロスがそこまで言うので、エリナは驚きアカツキは面白そうにニヤリと笑っていた

「まぁ、契約してくれた以上は我が社の社員だ。せいぜい役に立って貰うとしましょうか」

 大企業の会長としては扱いきれない駒は危険なはずだが、果たしてこの判断が後にどう出るのだろうか・・・




 尚、後日アカツキはパイロット増員のどさぐさに紛れ、こっそりと自分がナデシコに乗ろうと画策したが、

 書類の段階でエリナに見つかり、これ以上ないくらいこっ酷く怒られたらしい・・・・

つづく


後書き

YU-TAです。今回は今後の布石でもある冒頭のムネタケに関して少し書きます。

ムネタケは本編の中でも自己保身と利己主義の塊、歪んだ軍の象徴みたいな感じで描かれていましたが、

しかし自分の命が大切なのは人間誰しも当たり前ですし、自分に従えというのも階級社会の軍の中なら当然のことです。

最後は軍に裏切られて現実から逃げてしまいますが、そんな彼はナデシコ一人間らしく生きた男かもしれません。

特にホウメイに呟いたシーンと発狂した最後のシーンを見れば、ガイのようなヒーロー願望こそ彼の本音だったように思えます。
(尚、個人的に「それは『遅すぎた再会』」はナデシコで一番好きな話です)

腐ったリンゴでは無いですが、政治家や軍などの権力闘争何て言う物の中で生き残るには

ムネタケのように本音を歪めて、自分を守っていかなければならなかったのかも知れません・・・

えぇ、もちろんこんな事を書くのは今後ムネタケを活躍させる為ですとも!

この作品は切れ者ユリカ&有能茸でお送りいたしております(死

さて、この話でプロローグは終わって以降はTV版の流れに沿った感じになるかと思います。

ようやくナデシコ登場となり、ユリカさんの本格的な活躍が始まりますので応援よろしくです。

 

 

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

おー(ぱちぱちぱち)。

これは又意外な展開ですが・・・個人的にラピスは再登場したりせずに

このまま平凡な一市民として歴史の裏に埋もれていって欲しいかなぁ。

絶対そのほうが幸せですって(笑)。