「お仕事中失礼しま〜す、みなさ〜ん、私が艦長で〜す!」

 現在、ナデシコ出航の一週間前である。

 ユリカ(とついでにジュン)は各部署を回りながら一足早く着任の挨拶をしているのだった

 何故今回は遅刻もせずこんな早く来たのかと言うと・・・ただ単純にナデシコに早く来たかったのである。

 ・・・前回のユリカの人生の中で最も自分らしく生きられた場所であるから・・・

 勿論、それだけじゃなくて(アキトへの)策謀の下準備があるので早めに来たのではあるが・・・

 だが、さすがに”ぶいっ!”は恥ずかしいのかと思ったが、ただ単に同じネタを2回やるのが嫌らしい

 腐っても・・・・いや、輝いていても根はミスマル・ユリカと言う事だ

「おぉ、俺はこのドックの整備班長のウリバタケだ!よろしく頼むぜ!!」

「は〜い、整備部の皆さんもよろしくお願いしま〜す」

 そう言うとユリカは皆に向かって大きく手を振った

「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」

 ・・・男達は本気でこの職場にして良かったと思ったらしい










 ・・・彼女の王子様が現れるまでは


機動戦艦ナデシコ

〜revenge of SNOW WHITE〜

第01話「『艦長らしく』でいこう!」


「いやいや・・・それにしても艦長は早くも予想以上に良くやってくれてますな〜」

 プロスは自分の眼に狂いがなかった事を早くも実感していた

 すでにナデシコ出航まで後2日となっていたが、ユリカは順調にクルーとの交友を深めていたのだ。

 前史ではその性格や言動から”可愛い艦長だけどちょっと・・・”的な存在だったが、今回は表向きの良さからかなりの人気であった。

 既に保安部員、整備員等男だらけの職場では半ばアイドル化されてる節もありすでに一部ではファンクラブまで出来ていたのであった




「る〜り〜ちゃん、仕事の方終わった?」

「はい、午前中の仕事は既に終わっていますが・・・」

 ・・・やはり前史での事があるせいか、ユリカはルリの事を何かと構っていた。

 妹として引き取ったのに何も出来なかった所か、ただ悲しい思いをさせただけだった・・・

 だからこそ幸せにしてあげたい・・・たとえそれが自分のエゴだとしても・・・

「じゃぁ食事に行かない?さっきおいしい中華屋さんがあるって聞いたから一緒にね♪」

「え?いえ、私は栄養さえ取れれば良いですし、それに私なんかと食事しても楽しくないです・・・」

 ホシノ・ルリはこの艦長が来てからというもの、自分のペースに持っていけなくて苦労していた

 最初こそ何かと構ってくる艦長を邪険にしていたが、構っては来るが邪魔をしてくるわけでもなく、

 今まで見た事が無いようなやさしい目で誘われると何となく断りづらいのである

「私はルリちゃんと食事するの楽しい〜、それに艦長たるものクルーとの仲は良いに限るからね♪」

「・・・わかりました。どうせ断っても無理なんですよね?」

「そんな事無いけど、ルリちゃんってば本気で嫌じゃないんでしょ?」

「・・・」

 ルリは正直困惑していた。だがそれは自分のペースに乗れないせいではなく、

 今までなら”馬鹿”の一言で片をつけていたのに、自分から相手のペースに乗ってしまっている事実に・・・

「ミナトさんとメグちゃんも一緒に行きませんか?」

「私は遠慮しておくわ〜、まだやる事が残ってるし此処の食堂の味も気に入ってるし〜」

 今回の誘いは断られたが、ユリカとミナトは早くもマブダチと言えるほど仲良くなっていた

 そのきっかけは何であろう”ルリ”である

 隣の席の神秘的な容姿をした無愛想な少女を、ミナトは生来の放っておけない性格で何かと世話を焼いていた

 そんな中、艦長としてやってきた彼女はルリに色々と世話を焼き始め、二人は何とも言えない共感を感じたのであった

 ・・・放って置けばルリも含めて3人で『義姉妹の契り』でも交わしそうな勢いだ

「私もパスです〜、ノルマが全然終わらなくて」

 前史では犬猿の仲と言えたかも知れないメグミとも、今はまったくわだかまりも無いのだった

 諍いの元(アキト)も無く、メグミからユリカへの印象は前史のような奇行を見ていないためけっして悪くない。

 何より一度は妻の座を射止めたユリカにとっては”同じ男を愛した強敵(とも)”と言った感じだろうか・・・

「じゃあプロスさん達はどうですか?」

「おや、ご一緒してよろしいのですか?」

「はい、実はちょっと遠いので車の運転をお願いしたいのですよ!」

 もちろんそれだけが目的ではないが・・・

「そう言うことでしたら構いませんよ、ゴート君もよろしいですね?」

「もちろんです、ミスター」

「それじゃ先に休憩行きま〜す、後お願いしますね♪」

 そう言うとユリカはルリの手を引っ張ってとっととブリッジから出て行くのであった

「・・・僕は誘ってくれないのかい」

 尚、そこにいたのにも関わらず声をかけられなかった”一番のお友達”は一人涙するのであった







 さて、突然だがホウメイの料理の腕はプロスが選んだだけあって味は当然超一流であり、そのレパートリーも信じられない量である。

 そんなホウメイの料理が食べられるナデシコ食堂を利用せずに訪れる店とは?

 そう、この佐世保で料理が美味しい店と言えば、前史では看板娘までやったココ雪谷食堂である

 先ほどの展開はまるで”ミナトとメグミに断られたからプロスたちを誘った”ように見えるが、

 実はこれは全てユリカの戦略(と言うより謀略?)の一部だったのである。

 ミナトが面倒くさがって食堂を選ぶ(もちろんホウメイの料理がおいしいからだが)事も、

 メグミの仕事が終わりそうに無いのも全て予定の通りであり、

 自然にプロスをココに誘い、アキトと面識を作りナデシコに乗せやすくする為だったのである

 ・・・とても過去の戦いで、殆どの作戦を(それで成功したとは言え)行きあたりばったりで決めた人と同じとは思えない

 自分が幸せになるためとは言え、本当に無駄な事にばかり長けてくる人である

「いらっしゃいませ〜ご注文の方お決まりでしょうか?」

 ・・・何も知らない純朴そうな青年・・・テンカワ・アキトが注文を取りに来る。

「私は炒飯大盛りと餃子で!ルリちゃんはどうする?」

「じゃあ私も同じ物で」

「それじゃ私は酢豚定職をお願いします」

「俺はラーメンセットで頼む」





「へい、お待ちどうさまです!」

 目の前には注文の品が並んでいた。もちろんどれも美味しそうな匂いを醸し出していた

「「「「いただきます」」」」

 と言ってそれぞれの料理を食し始める

 プロスなどは今度スカウトしようかなどと考えていた

「・・・おいしい」

 美味しいと呟いたルリだったが、その表情は何故か複雑な物だった。

 今まで食事の事等気にしてなかったルリだが、ここ最近ユリカに連れられてナデシコ食堂に通っていた

 そしてその為か料理の美味しさの基準に”ホウメイの料理より美味しいか不味いか”と言う物が出来ていた。

 だが、ココに来て食べた炒飯は美味しさと言う点で、単純にホウメイの料理と比べる事が出来ずにいたのだ。

 それは味の個性のせいであり、そんなものは本来誰でもわかる当たり前のことなのだが、

 幼少の時期をまともに育てられず、何時何処で食べても同じ味のジャンクフードばかり食べていたルリには理解できなかったのだ。
(人の個性すらも殆ど馬鹿とそれ以外と言う認識しかなかったのだからしょうがないであろう・・・)

「炒飯は単純な料理だからこそ味付けに個性が出るし、料理する人の腕が良くわかるんだよ!ルリちゃん」

 ・・・不思議にも料理に関してまともな事を言うユリカさん

「(だからサイゾウさんに認められた時嬉しかったって昔教えてくれたんだよね・・・)」

 ・・・どうやらアキトの受け売りだったらしい・・・




 さて、食事が終わったユリカはじっとアキトをじ〜っと見つめていた

 

「な・・・なんでしょうか?」

 視線に気づいたのか、アキトは思い切ってユリカに声をかけてみた

「あの〜、不躾な質問ですけど、どこかでお会いしませんでした?」

「い・・・いやぁ、俺もそんな気はするんだけど・・・」

 ・・・自我が発達しきってない幼稚園位の歳の事等、本来覚えてなくて当然なのである

 どれほど楽しい思い出でも、思い出す事が無ければそれは色あせていく物であり、

 10数年離れていた二人が唐突に顔を合わせても覚えていろと言う方が無茶なのである

 ・・・あるいは地獄のような光景を目にして楽しい思い出を封印してしまったのかもしれないが・・・

「・・・そうですかぁ、でもどこかで会ってるのだったらそれはステキな事ですね♪」

 強引に問い詰めれば思い出すかもしれないが、それでは悪い印象になりかねない、

 ユリカは作戦1の失敗を認め問い詰める事を止めた。

 ここで思い出してくれれば偶然再会する二人と言う運命的な再会になったのだが・・・

 しかしすかさず作戦2に予定を切り替える、前史と同じくアキトが自分を追いかけてきての劇的な再会と言う・・・

「そろそろ時間ですよ、ユリカさん」

 プロスはユリカに帰ることを促す、二人の会話を聞いて興味を持ちはしたが、

 あくまで昼の休憩である為、午後の仕事に支障を出さない為にも余り時間を取るわけにもいかない

 一方アキトはユリカと言う名前に懐かしさを感じていたが・・・

「あ、はい!それじゃご馳走様でした〜」

「あ、はい毎度〜!」

 もう少し時間があれば自然に思い出せたかも知れないが、会計を済ませたユリカはすぐに外へ出て行ってしまった




 その時ユリカは自分の座っていた席に何かを置いていた、それは誰にも気づかれる事の無い行動であり、

 ユリカ達が店を出た後、アキトは食器を下げようとした時にようやくその何かに気づくのだった

「アレ?何だコレは・・・・」

 それは一見折りたたまれた紙・・・いや写真であった。

「さっきの人が落して・・・・!?」

 アキトは驚いた・・・その写真に写っているのは間違いなく自分、

 そう、前史でトランクから落ちたまま忘れられたあの写真である・・・(何故か前史と違いアキトは満面の笑みだが)

 記憶がフラッシュバックする、あの忘れえぬ楽しかった頃の思い出が・・・

ユリカ・・・・ユリカ・・・・ユリカ・・・・!?ユリカだ!あいつはミスマル・ユリカだ!!」

 そう言って慌てて外へ飛び出すと、その眼で見たのはユリカが乗った車が走り去っていく所だった・・・

 外へ出てきたアキトをバックミラー越しに確認したユリカは賭けに勝ったことを確信してニヤリと微笑むのだった

 ・・・勿論アキトは策謀と言う名の糸に絡まれているなどと知るはずもなかった










 いよいよナデシコ出航当日となる日、今ここ雪谷食堂では二人の男が真剣な面持ちで向かい合っていた

「とりあえず、今日までの給料だ」

「・・・クビ・・・ですか?」

「臆病者のパイロットを雇ってるなんて噂が流れちゃあな・・・」

「そ・・そんな!これは違うって!」

 IFSを見せつつアキトは叫ぶ、

 だが何と言おうと、ここ地球でIFSは軍のパイロットくらいしか付けてないから・・・

「それにだ、お前この前の美人さんが来てからまったく落ち着きがねぇ・・・」

「そ・・・それは・・・」

 それは自分でもわかっていた

 両親が死んでから色々な意味で一番気になっていた人物に唐突に会ってしまったのだから・・・

「何にせよ、何から逃げてんのかは知らないが逃げてるうちは一人前になんてなれねえよ・・・」



 何かから逃げているかなんて事は自分ではわからない物である。特に認めたくない事ほど・・・

 ・・・ただしアキトはユリカから逃げている事だけは理解できた。

 彼は両親の死に付いて、ミスマル提督(もしくは軍)が何か知ってるんじゃないかと考えていた
 (何しろ地球へ帰るユリカを見送りに行ったその日に両親が暗殺されたのだ)

 だがひいてはその事をユリカが何か知ってるのじゃないかと思っているが、それをユリカに聞くのが怖かったのだ。

 ・・・もしも彼女が両親の死に関わっているのだとしたら彼女を許す事が出来ないかもしれないから・・・

 そう、それはかつての初恋の人(本人は気恥ずかしいのか否定しているが)に対する複雑な感情なのだ。



 ・・・クビにされたとは言え、そして行くあてが無いとは言え、サイゾウのその言葉にアキトは背中を押された気分だった・・・

「・・・・・わかりました・・・親方、今までありがとうございました!」

「おう」

 そう言うとアキトは荷物をまとめる為に自分の部屋へと駆けていった

「ふぅ、ほんとに若いってのは良いもんだぜ・・・失敗しても良いから悔いの残らねえようにやんな・・・」

 サイゾウは走り去った方向に向かいそう呟くと、厨房に戻り夜の仕込を再開するのだった





 さて場所は変わり、ココはナデシコブリッジの上部デッキ。

 ユリカとジュンは着任してきた一応の上官に当たるフクベ・ジンとムネタケ・サダアキに挨拶をしていた。

「艦長のミスマル・ユリカです!お二人のナデシコへの着任、歓迎いたします!」

「副長のアオイ・ジュンです!よろしくお願いします!」

 その見事な挨拶と敬礼に対してフクベとムネタケも敬礼をもって返す

「提督のフクベだ・・・とは言ってもあくまで形ばかりの物だと思ってくれ、艦の事は艦長達に一任するのでよろしく頼む」

「副提督のムネタケよ、貴女の噂は聞いているわ。私の為にもしっかりとやってちょうだい!」

 上部デッキでは良い意味で緊張した雰囲気が流れていた・・・

 

 その一方・・・・

「・・・なんか〜、ちょっとやな感じよね〜」

「・・・軍人さんってホントに偉そうなんですね〜」

「・・・まぁ実際偉いんでしょうけどね、うちの艦長より」

「・・・もう少しかっこいい人だったらよかったのになぁ〜」

「・・・・(あの人なんでオカマ言葉なんだろう・・・)」

 オペレーターデッキの方ではヒソヒソ話に花が咲いていた・・・



 挨拶が済んだ二人はプロスと話す為に去っていき、ユリカは艦長席に腰を下ろしたが

「(あぁ〜アキトはまだ来ないのかなぁ・・・もう今日出発なのにぃ〜・・・)」

 ・・・すぐにアキトの事を考えていた

 実はユリカは雪谷食堂から帰る際にアキトが自分に気づいたそぶりがなければ直接迎えにいく作戦3があったのだが、

 車の中から確認したアキトは慌てて自分を追いかけて来たようだった。

 だったら前回は首になったその日にユリカに会って追いかけて来たのだと聞いていたので今日なのは間違いない

 そう考えてアキトが来るのをナデシコで待ってることにしたのだった・・・


 ちなみに、ユリカはアキトが”写真の内容に気づいていない””自分を追いかけてこない”とはまったく考えてなかった。

 ”常に最悪の事態を想定する”のは戦略家として重要な事だが、

 さすがにアキトが関わるとまだまだ冷静になりきれないのか、”常に物事を良い方向に考える”生来の癖が残っているようだ・・・

 人の意識(特に深層心理)と言う物は変えようと思ってもそう簡単に変わる物ではないと言う良い例であろう・・・







 ブリッジの様子を見たところでアキトのほうに話を戻そう

 ・・・ユリカに会おうと思った彼は、ユリカが着ていた服にネルガルのマークが入っていたのを思い出し、

 車が走りさった方向からこのネルガル佐世保ドックに向かっただろうと予想してここまで来たのである。

 だが戦艦を作っているドックに一般人が入れるわけも無く、門前払いされそうになり暴れたのであった

「・・・と言う訳で、入り口前で大暴れしていた自転車男を保護しました」

「ユリカに会わせろぉぉぉぉ!!ユリカァァァァ!!!」

 ・・・後の闇の王子とは思えないほど直情型の男である

「おやおや、あなたどこかで見たことがあるような〜・・・あぁ、確かこの前の食堂で働いてた人ですな」

「あ・・・あんたは・・・・頼む!ユリカに会わせてくれ!」

 アキトは”ユリカと一緒にいた人だ”とすぐ気づいて嘆願した

「ふむ、彼女はうちの重要人物なのでそう簡単には・・・・ちょっと失礼」

 そう言うとDNA判定機をアキトの舌に当てる

 身元のはっきりしていない人物を大事な艦長に会わせる訳にはいかないからだ

「あ〜なた〜のお名前さがしましょ!」

 そう言ってる間にデータは検索された、だがそれは予想外にとんでもない内容だった・・・

「ほらでたぁ・・・・・全滅したユートピアコロニーからどうやってこの地球へ!?」

 プロスは表情には出さないが内心ではかなり驚いていた、

 何せ今正面にいる青年は、かつて自分が火星に赴任していた際起こった事件・・・会社に謀殺された博士の息子なのだから

「良く覚えていないんだ・・・あの前後の事は・・・・気が付いたら地球にいた・・・」

 実はこの件に関して誰よりも信じられないのは自分自身であった。

 通常、シャトルで火星から地球に来たのなら数ヶ月かかるのだから、それなら良く覚えていないなどとは言うまい

 例えばそのとき大怪我をしていて地球に着くまで意識が無かったと言う事もないし、何よりそんな記録はどこにも残って無い

 ・・・どれだけ冷静に考えてみても理由がわかるはずもない

「・・・ユリカさんとはお知り合いで?」

「火星のコロニーで・・・あいつとあいつの家族は・・・・俺の両親が何故死んだのか知ってるかも知れないんだ・・・」

「そうですか・・・貴方も大変ですねぇ・・・」

 ・・・プロスはこの時点でボゾンジャンプに関してそれほど詳しく覚えているわけではなかった。

 だが、あのテンカワ博士の息子であり、火星から地球への一瞬での移動からそれは連想される

 彼の事を知ってしまった以上、見て見ぬ振りは出来なかった・・・

「確か、コックさん・・・でしたね・・・・・・よろしい、貴方は今日かららこのナデシコのコックさんです!」

「お・・・俺はユリカに会えれば・・・」

 アキトは何かを呟くがそれを遮るようにプロスは言う

「ユリカさんも部署は違いますが同じ職場になりますので会う機会も多いと思いますよ?」

「ほ・・・本当ですか?」

「もちろんです、しっかり働いてくださいよ」

「は・・・はい!」

 こうして、ナデシコに新しいコックさん(見習い)が増える事になったのだ





「就航はまだ先だから、艦内をあっちこっち見学しとくと良いよ」

 教えられた部屋に荷物を置いたアキトは、言われたとおりに艦内を見て回る事にした

 そして、格納庫に来た時に不意に足を止める

「レェッツゴー!!ゲェキガンガァァァ!!!」

 ・・・そこでは人型の機動兵器がロボットとは思えないとても滑らかな動きをしていた

「・・・あの馬鹿また勝手にエステバリス動かしてる・・・おい!ヤマダ!」

 ウリバタケは拡声器を使って声をかける

「何度も言ってるだろウリバタケ博士!それは世を忍ぶ仮の名前で、魂の名前はダイゴウジ・ガイだって!!」

 ウリバタケはもう聞き飽きたとばかりに嫌そうな表情をする

「あぁあ、わかったからとっとと降りろヤマダ〜、お前が乗ってたら整備できないだろ!」

「全然分かってねぇじゃねぇか!!!」

「そりゃ俺のセリフだ!!!」

 ・・・ウリバタケは本気で切れかけていた

「大体パイロットは本来はあと3日後に乗艦だろ!!なのに出航の3日も前から毎日邪魔しやがって!!!」

「いやぁ〜、ゲキガンガーみたいな本物のロボットに乗れるって聞いたらいてもたってもいられなくてぇ〜」

「いいから人の話を聞け!!」

「しょうがない・・・そこまで言うのなら諸君だけにお見せしよう・・・このガイ様のスーパーウルトラな必殺技!!」

「「「「「は?」」」」」

 ・・・展開に周りの者達はついていけない

「ガァイ!スゥパァ〜!ナッパァァァァァァァ!!!」

 勢いをつけて拳を振り上げたエステバリスはその機体を限界まで伸び上がらせた

 ・・・だがそんな無茶な体勢で静止し続けられる訳もなく

「どわぁぁぁぁ」


ズシィィィィン


 ・・・盛大に転げるのだった

 ・・・一方、そんな様子を見つめていた青年は

「(ゲキガンガーかぁ・・・)」

 その様子に思わず苦笑していた

「まったく・・・何度も何度も迷惑かけるんじゃねぇよ」

 しょうがないと思いつつもウリバタケはヤマダを助ける為に周りの整備員を集める

「ふぁははは、やっぱ何度乗ってもすげぇよなぁ・・・思い通りに動くんだぜ!?ロボットだぜ!?」

IFS付けてれば子供だって動かせるっちゅーに・・・

「ん?なんか言ったか」

「いや、それよりもいい加減起きろってんだよ!」

 それを聞くとヤマダは勢いよく立ち上がる

ふふふ、木星人どもめ!来るなら来い!!・・・・・・アラ?」

 だがその最初の威勢の良いセリフとは裏腹に体勢は崩れていき、

 そしてその顔は見る見るうちに青ざめていくのであった

「どうした?ヤマダ?」

「いやぁね、足がね、痛いんだなコレが・・・」

 ・・・ガイだと訂正する余裕もないくらい痛いらしい

「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたがホントに馬鹿だねぇ〜、折れてるよコレ

「うわあぁぁぁぁいてててててて・・・」

 それを聞いて理解したのか急に痛がり出すヤマダ

「お〜い、そこのしょうね〜ん!!」

「・・・え?俺?」

 急に声をかけられアキトは驚くが

「あのロボットのコクピットに俺の大事な宝物があるんだぁ!すまぁん、取ってきてくれぇぇぇぇ!!」

「はぁ?」

 いきなり何を言うんだとも思いつつも、生来の人の良さから素直にお願いを聞いてしまうアキト

「宝物ってゲキガンガーの人形かよ・・・ったく幾つだあいつ・・・」

 などと悪態をつきつつも大事な宝物、”超合金ゲキガンガー”を取ろうとするが

 

ズゴォォォォン

 

「う・・・うわ!」

 その振動でコックピットに身体を持っていかれるアキト

「奴らだ・・・奴らが来たんだ・・・」

 ・・・その瞳はまたも脅えきっていた




 ・・・少し時間を戻して、ここはブリッジである

 ユリカは格納庫の騒動の連絡を受け、その様子を記録映像で見ていた

「「「「「・・・・」」」」」

 その光景にもはや誰も何も言えなかった・・・

「・・・・馬鹿?」

 いや、一人だけ言えた

「・・・・プロスさん・・・・ヤマダさん減棒3ヶ月でお願いします」

 ・・・艦長にはクルーを信賞必罰する権利・・・と言うより義務がある

 エステバリスが壊れなかったから良いようなものの、だからと言って何も無しと言うのも周りに影響が出る

「・・・わかりました」

 さすがにプロスも何も言えない・・・艦長の判断と言うよりも自分の選んだパイロットの醜態に何も言えない



ズゴォォォォン



 不意にブリッジに振動が走る・・・・

 それぞれが何事かと思っていると通信が入ってきた

「た・・・大変です!蜥蜴の虫型兵器が地上に大量に出現しました!」

 途端にパニックになるブリッジ







 少し離れた高台の上、ココでは佐世保に住む人々が戦闘を眺めていた・・・

「なんであんな所攻撃してるんだ?」

「木星人の考えはわからねぇな〜」

 そう、彼らは何気に言った言葉だろうが、この余りにも場所とタイミングが良い攻撃・・・

 それは果たして偶然なのか?

「・・・あいつ・・・またどっかで震えてやがるのかな・・・」





 設備である固定砲台による対空砲火は敵の機動性の前にたいした成果がなかった・・・

 地上はすでにほぼ壊滅状態ではあったが、あえて言うなら砲台が無人制御のものだった為人的な損失は少なかった

「敵の攻撃は我々の頭上に集中している」

「・・・敵の狙いはナデシコか・・・」

 このナデシコは敵に唯一対抗できるかもしれない艦である・・・

 狙われる理由はわかるし、だからこそ落とされるわけにはいかない・・・

 だが、その情報を誰がどのようにして知ったのか?そして誰が指示を出したのか?

 それを考える者も答えられる者も、この場には予めカンニングをしている一人を除いて誰もいなかった・・・

「そうとわかれば反撃よ!主砲を上に向けて敵を下から焼き払うのよ!!」

「上の軍人さんとかはどうなるんです?」

「・・・全滅してる可能性のほうが高いわ」

「それって〜非人道的って言いません?」

「ふん、どっちみちこのまま何もしなければ上も下も全滅するだけだわ・・・そんなの私は嫌よ!
それに彼らは軍人よ、民間人を死なせるくらいなら喜んで死ぬわよ!」

 自己の保身の為に言ってるよう聞こえるが、よくよく聞いてみればもっともな話でもある

 このまま何もしなければ全滅は間違いないのだから・・・

 もっとも、固定式である主砲”グラビティブラスト”の事をもっと詳しく聞いていればそうは言えなかったかもしれないが

「・・・艦長は、何か意見はあるかね?」

 不意にフクベが口を開きユリカに意見を求める

「海底ゲートを抜けて一旦海中へ・・・その後浮上して、敵がまとまってる所を背後から主砲で殲滅します!」

 そしてユリカは前回同様の作戦を提案する

「でも、発進までにまだ時間がかかってしまう・・・敵を引き付ける囮が必要じゃないかユリカ?」

「そこで俺の出番って訳だ!」

 この時、皆の注目がヤマダに移るが、その間にユリカはジュンにだけ聞こえるように話しかけた

「・・・ジュン君・・・」

 ユリカの顔はこれ以上無いほどの笑顔であり、

 こう言うときのユリカは何かをたくらんでると知っているジュンは・・・

「・・・なんだいユリカ?」

 勇気を出して聞いてみるが、それは予想通りの答えであった・・・

「私が囮になるから艦の指揮の方は任せたよ!」

 彼女はそれだけ言うと返事も聞かずに格納庫の方に走り出す。

「お・・・おい、ユリカ!!・・・くっ」


 一方、ヤマダの演説の方も今まさに最高潮に達していた


「・・って訳だ!かぁ〜、燃えるシチュエーションだぁ〜!!」

「・・・オタク、足骨折してるよ」

「何!?・・・・しまったぁぁぁぁぁぁ・・・」

 ジュンはユリカを追いかけたかったが、その場を任された責任の為に思考を切り替えて指示を出す

「すぐに囮が出ます!こちらも発信準備を!」

「・・・囮ならもう出てます」

「何!?早すぎる、ユリカじゃない・・・そのエステバリスに通信を繋げ!」

 コクピットに映像がつながるとブリッジは一層ざわめく、そこには見知らぬ青年が乗っていたのだった

『もう閉じ込められるのはゴメンだ・・・俺はコックなんだ・・・・戦いで死ぬのはゴメンだ・・・生きて・・・生きてユリカに会うんだ・・・・』

 コクピットではアキトが現実逃避するように呟いていた

「誰だ君は?パイロットか!」

「あぁ〜!俺のゲキガンガーに勝手に乗るんじゃねぇ!!」

「所属と名前を言え!」

 急に目の前に通信ウインドウが開き、問い詰められるアキト

『て・・・テンカワ・アキト・・・コックです!』

 乗っているのはコック!?

 その事実に周囲はまたもざわめく・・・

「コックだって!?なんで素人が俺のゲキガンガーに乗ってんだよ!」

「君、すぐに戻って来るんだ!素人には危険すぎる!!」

 当然素人を敵の中に放り込むわけにもいかず、すかさず戻そうとするが

『駄目だ、もうエレベーターに乗っちまった以上戻れねえ!』

 格納庫のウリバタケからそう通信が入る、

 冷たいかも知れないが技術的に無理な以上は現実だ

「くそぅ!・・・整備班!もう一機すぐ出せるように用意してくれ!」

『お・・・おぅ!任せておけ!!』

 格納庫に連絡を入れ、 ジュンは熱くなりかけながらも冷静に次の命令を出す

「・・・テンカワ君だったか、聞こえているか!?」

『は・・・はい!』

「残念ながら戻す事は出来ない・・・すぐに援軍が向かうからしばらく逃げていてくれ!」

 このまま戻しても戻す間にナデシコが落とされる可能性もあるし、戻そうとした所を虫型兵器が入り込んでくる可能性もある

 今は少しでも時間が惜しい以上酷ではあるが最善の判断である

『ちょ・・・そんな・・うわぁぁぁぁ!?』

「エレベーター停止、地上に出ます」

「頑張ってくださいね♪」

「俺のゲキガンガー返せぇ!!」

『無茶を言うなぁぁぁぁぁ』

 周りの言葉に理不尽さを感じながらも叫ぶが・・・そこは既に地上だった

「作戦を説明する、ナデシコが外に出るまで10分はかかる、数分後に援軍が出るのでそれまで何とか逃げ回ってくれ。健闘を祈る」

 通信がきれ周りを見ると目の前は一面の赤・・・そこはジョロによって周囲を包囲されていたのだった・・・

 獲物を見定めるようにカメラを動かすそれは、今にも飛び掛らんとしていた・・・

「あ・・・・あぁ・・・・」

 恐怖が彼の身体を支配する・・・火星以来取り付かれた病はこの土壇場でも治ろうとはしなかった

 だが恐怖に抗おうとしたのか、それとも走馬灯か、彼の思い出がフラッシュバックする

『よろしくね、アキトくん♪』

 隣に引っ越してきた可愛い女の子・・・

『次に会えたら・・・』

 その直後に両親の死があった為に忘れてしまった大切な約束・・・

『でもどこかで会ってるのだったらそれはステキな事ですね♪』

 自分の前に現れた美しく成長した彼女・・・

「(・・・・せっかく会えたんだ、思い出したんだ!こんな所で死ねるか!!)キタネエよまったく!!」

 そして彼は覚悟を決めた






 ・・・テンカワ・アキトは必死に逃げていた・・・

 つい先ほどまで無人兵器の襲撃の警報だけで身体が縮み上がっていたのだ、

 正面から向かい合って闘えなどと事情を知ってれば誰も言えなかっただろう

 ・・・もっとも敵も味方もそんな事は気にしてくれないだろうが

「いやはや、中々良い逃げっぷりですなぁ〜」

 プロスは思った以上に動きの良い彼を素直に賞賛する

「おい!逃げずに戦え〜卑怯者〜!!」

 ヤマダはアキトに対して野次を飛ばす

 ・・・彼が出ている原因の一端が自分にあるなどきっと分かっていないだろう・・・

「無理よ!素人のコックが戦えるわけなじゃない!逃げてるだけで十分よ!」

 ムネタケは意外かも知れないがアキトの事を心配している。

 民間人で専門でない素人を乗せている以上当然の事だが・・・

「そうですね、一人でどうにかなる数でも無いですし・・・」

 ジュンは冷静に状況を見つつ、援軍の到着を待った

「後7分・・・7分も逃げられるかぁぁぁぁ!」

 だが、すでにアキトの精神は限界に達しようとしていた

「ちくしょう・・・ちくしょう・・ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょぉぉぉぉぉう

いい加減にしろぉぉぉぉぉ!!!!

 振り返りざまにワイードフィストを放ち、それが命中したジョロは爆発した

「な・・・なんだ、俺って結構やれんじゃん・・・」

 しかし、動きが止まった瞬間をジョロは見逃さなかった。

「「「「危ない!!」」」」

 見ていた者たちは思わず声を上げて叫び、

 せまりくるジョロにアキトは火星での事を思い出し軽いパニックに陥っていた・・・

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」






 だが・・・






ガキィィン・・・・・・チュドーン!!







 背後から飛び掛ってきたジョロは横から跳んできた拳によって吹き飛ばされ爆発した

 そしてアキトが拳の戻る先を見るとそこには白いカラーリングのエステバリスが居たのだった

「おまたせ、アキト♪」

「ゆ・・・ユリカか?その機体に乗ってるのはユリカなのか!?」

「そうよ、貴方の為に急いできたの♪貴方のミスマル・ユリカよ、ア・キ・ト♪


















「「「「「「「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」」」」」」














 ナデシコの各所で男達の悲鳴が上がっていた・・・

 ユリカはもはや艦の独身の男達の憧れのスターだった・・・そのスターにいきなりスキャンダルが発覚したのだ・・・

「な・・・なんか通信がすげぇことになってるんだけど・・・」

 先ほどよりアキトのエステバリスには通信越しに様々な罵声が飛び交っていた・・・

「話は後でね!生きて帰ってからた〜っぷりしましょ♪」

「!?わかったよ!」

 真剣な顔になったアキトは集中して敵のほうに向き直る

 ・・・もうその顔に恐怖は微塵も感じさせなかった








 ユリカの乗るエステバリスは元々逃げようと発進したアキト機と違い、ライフルを準備して持っていた。

 そしてライフルを構えると先ほどまでアキトが逃げ回っていた為に一列になっていたジョロを次々と撃っていくのであった。

 その射撃は的確であり、それを眺めるブリッジの面々は(自分の仕事はやりながらも)ただただ呆然としていた

「・・・まさか、パイロットとしてもこれほどの腕をお持ちとは・・・」

 ・・・プロスは驚いていた。彼が見た書類では確かに機動兵器の操縦は優秀であると書いてあったが、

 それはあくまでも(機動兵器操縦を専門に学んでたわけでもない)士官学校の1教科レベルでの事だと思っていたからだ。

 プロスがそう思うのは理由があり、ユリカが通っていたのは士官学校でもキャリア育成コースとも言える戦略科であり、

 戦略科での機動兵器操縦と言う教科は、あくまで予備的なものでIFSではない旧来の操縦法で行うものでだった。

 ・・・地球ではまだまだナノマシンには差別があり、IFSは上級指揮官が付ける物では無いと言うのが一般的である為だ。

 だが、実はユリカは前史より遡る際にIFSをそのまま持ってきてしまっていたのだ。
(ユリカは自分の意思で手の甲のパターンを消す事ができる為、小さい頃は誰にも知られていなかったが)

 そしてそれを知ったユリカは”あるのなら使わないと勿体無い”とばかりに機動兵器の操縦を練習する事にしたのだ

 ・・・IFSを付けた機動兵器の操縦を専門としてる学科の者達を相手に・・・

 そう、この書類での評価の優秀と言うのは戦略科の中で優秀と言う物ではなく士官学校の中で優秀と言う評価だったのだ





 ライフルを撃ちつくした白いエステバリスが新たな敵の群れの中に飛び込んだと思ったのも束の間、

 飛び掛ってくる敵の力を受け流し弾みをつけているだけだが、密集した相手は勝手に別の敵と激突していく

 その動きは戦闘と言うよりもまるで舞っているかのようだった・・・




 それを見た数人の頭のお中には、同時に新たな疑問が浮かんだ

(何故こんな動きが出来るのか?)

 ミナトは操縦士と言う立場からもわかるように一通りの乗り物のライセンスを持っているし、

 機動兵器も操縦した事は無いがその動きを見たことはある。だからこそユリカのエステバリスの動きが信じられない

「ねぇ〜え、副長。艦長って何であんな動きができるかわかる?」

 そこで、この中で最もユリカに詳しいと思われるジュンにこの疑問をぶつける事にした

「あぁ、あのエステバリスの操縦方法・・・IFSってのは操縦者のイメージどおりに機体を動かす物なんだけど、
ユリカは小さい頃から合気道やら日本舞踊やらをやってたらしいからその動きが身体に染み付いてるんだろう・・・と思う」

「最新のエステバリスと艦長、優秀なソフトとハードが揃ってるからあんな事ができるんでしょうね」

 そう、当然の話だがエステバリスは実際に優秀なハードなのだ。

 よく人型は兵器には向かないと言う。技術の無駄遣いと言う者もたくさんいるだろう

 だが充分な耐久性と機動力、それに自分の思うとおりに細かい動きが出来るとなると話は違ってくる。

 それは以前はこれと同じ状況で素人同然のアキトが以前は一人で囮を務められたことを思えば良くわかるであろう・・・

 そんなさ中、誰もが気づかないほど小さなアクションだったが確かにルリまでもがユリカに見惚れていたのだった

「でも、敵を倒すのなら普通に殴ったりした方が効率よくないですか?」

 メグミも自分の疑問を口に出すが、それにヤマダが答える

「馬鹿言ってんじゃねぇ・・・普通殴ったり蹴ったりした後ってのは反動が残って隙ができるものだ・・・
だが艦長の動きには隙が全然ない上に、次の動作への動きが早いから効率も良くなる・・・すげえぜ」

 ヤマダは艦長の動きを分析していた。さすがにプロスの眼に適った(操縦だけなら)一流のパイロットである

 ・・・正直言って”人の振り見てわかるなら我が振り直しなさい”と言いたい所である







 一方その頃、アキトも負けじとばかりに機体のバーニアを噴かして空中のバッタの群れに突っ込んでいた。

 だが先ほどのワイアードフィストのイメージのままにバッタを両手に捕獲するも後が続かない

 初めての実戦で焦るなという方が可笑しいが、その両手に先ほど掴んだバッタが邪魔で攻勢に転じられない

 なんとかミサイルの群れをバッタを盾にして避わすが、爆風で崩れた体勢はそう簡単に立ち直らない

 ほとんど飛行能力のない陸戦フレームではそのまま海に着水するだけ・・・かに見えたが



ゴォォォォォォォォォォォ・・・・・

ザパァァァァァン



 水しぶきを上げながらアキトのエステバリスの足元、水の中から戦艦ナデシコが浮かび上がってくるのであった。

「ま・・・まだ10分経ってないぞ?」

「さっすがジュン君、仕事が早いね」

 ユリカはいつの間にかアキトのすぐ横にいた。もちろん射線に入って邪魔をしないようにだ

『敵・残存兵器、有効射程内にほとんど入ってる』

「やっちゃえ!!」

『目標!敵密集地域!!グラビティーブラスト発射!!!』

 その一撃で200機近く残っていたであろうジョロとバッタは欠片も残さず消えていった

「・・・すっげぇ〜」

 ・・・火星以来彼の恐怖の対象であった虫型無人兵器が花火のように消え去る

 アキトはその光景から眼を放すことが出来なかった・・・






「戦況を報告せよ!」

「バッタ・ジョロ共残存0!地上軍の被害は甚大だが戦死者数は5!」

『それではミスマル・ユリカ、及びテンカワ・アキト両名。ナデシコへ帰還いたしま〜す』

「「「「わぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」

 艦内で歓声が巻き起こる

「流石にやるわね・・・悔しいけどパパが認めるだけの事はあるわ・・・」

「うむ、認めざるをえまいあの判断の早さに行動力・・・よくやった艦長!それに副長もだ!」

「いやぁ〜まさに逸材!」

 勝利に沸きあがるのはここブリッジも例外ではなかった

 男性陣は手放しで褒め称え

「機動兵器の操縦も上手いなんて艦長って凄いですねぇ〜」

「そうね、これから面白くなりそうじゃん♪」

 女性陣は未来に希望を抱く

「そんな事より俺のゲキガンガァァァァァ!艦長と並んで戦うのは俺だぁぁぁぁ!!」

 ・・・どうやらヤマダも”ユリカファンクラブ”らしい・・・

 だがヤマダの言う事に同調するものも多くいた

 その際たるものが格納庫の整備班であろう、

『いよぉ〜、艦長もお前さんも良くやってくれたぜ!!』

 そんな一触即発の中降りてきたユリカとアキトの様子がブリッジにも流れていた

『ところでぇ〜ちょっと聞きたいんだが・・・・・艦長、そいつとはどう言う関係なんだい?』

『アキトは私の幼馴染で憧れの人でファーストキッスの相手で一緒にお風呂に入った事もあります♪』




ピキッ




 今、間違いなくアキトの周りの場が凍った・・・

 ユリカはその雰囲気に気づかず頬を赤らめ”何を言わせるのイヤンイヤン”と身体をくねらせる

 そして場の男達からアキトに向かって悪意で人が殺せたら間違いなく死んでるような視線が降り注ぐ

『ちょ、ユリカ・・・そりゃ全部小さい頃の話で・・・・そんな言い方じゃ誤解されて不味いって!!』

『『『『『ぶっ殺す!!』』』』』

『うわぁぁぁぁぁ!!』

 格納庫では整備部VSアキトの壮大な鬼ごっこが始まり、スパナやドライバーが次々に投げつけられる

 ブリッジでは男性陣は呆れて女性陣は1人を除いて楽しそうに笑っていた

 だが一見無表情な妖精さんもまた、この光景を見てクスリと笑っていたのだった

「馬鹿ばっか・・・・・・なんて、私も人の事言えないかもね」

 ・・・1週間のユリカの教育の賜物かルリも早くもナデシコに毒され始めたようだった・・・

「(ふふふ、やっぱりアキトはアキトだね・・・今度こそ一緒に幸せになろうね♪)」

 とにもかくにも、後に『藍色の髪の戦乙女』『白百合の魔術師』とも呼ばれるミスマル・ユリカが表舞台に出てきた瞬間であった

つづく


後書き

ども、YU-TAです。いよいよ本編になりましたがユリカは歴史を変える事が出来るのでしょうか?(もう既に大分違いますがね)

ところでユリカってあの性格とアキトの事が無ければルリほどとは行かなくても人気が出ると思いませんか?
(キャラクターとしての人気じゃなくて作品中での周囲からの人気ってことで・・・ちなみに作者は天然娘のユリカが大好きだが)

TV本編でも晴れ着で登場した際思わず歓声が上がり、(内面を知らなかった為と思われながらも)アカツキが粉をかけ、

一番星コンテストでは大差の同着2位とは言え艦長に再選。

そう、ミスマル・ユリカは間違いなく美人です、”黙っていればお嬢様”と言うのが的確な評価でしょう。

多分これからナデシコ内では艦長派とルリルリ派に分かれるかと思います。(一番星コンテストが楽しみだ・・・)

話は変わりますが今回ユリカがエステに乗ってますが、ユリカの腕前はけしてメチャメチャ凄い訳じゃありません。

特に今回のような舞うような戦いなんて地上以外でできないですし(これから敵のフィールドも強くなるし)

現在の三人娘よりは上ですが(この時点では三人娘は実戦経験が足りないですし)

劇場版当時のリョーコやサブよりは下で、闇の王子様や外道な人とは比較にならないと思ってください。

ユリカの本職はあくまで艦長であり戦術家であって、突き詰めた本職のパイロットには勝てないって事です。

まぁ、これから全ての戦闘でエステに乗ってれば勝てるようになるかもしれませんがそんな展開にはなりませんので・・・

最後に、この物語のアキト君は小さい頃にユリカに振り回される事も無かった為、最初からユリカに好意を持っています。

まぁアキトの両親の事や女難の相による複雑な人間模様があるので簡単にラブラブにはなれませんがね・・・

それでは次回はパパ登場ですがどうなる事やら・・・

 

 

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代理人の感想

・・・・・・・・・ジュン哀れ。

そう言う星って言うか、キャラクターなんでしょうかねぇ(笑)。

 

それと文章なんですけど、三点リーダーをちょっと使いすぎなのが目立つかなぁ。

多用されるとイライラする、って人も多い(私もその一人)ようなんで、使いどころは絞った方がいいかと思います。

まぁ三点リーダーに限りませんけどね>使いどころは絞ったほうがいい

 

本日の誤用

>対空砲火は敵の機動性の前にたいした成果がなかった・・・

「対空砲火は」と主語の形になってるのに述語部分であるはずの「大した成果がなかった」が
主語不要(「大した成果」が主語になっちゃってるから)の形になっている。
語尾を変えるなら「たいした成果を上げられなかった」というのが正解。

あるいは「大して効果がなかった」のほうがYU-TAさんの意図としては近いのかな?

>・・・もうその顔に恐怖は微塵も感じさせなかった

上の逆。主語がないのに「感じさせなかった」と主語が必要な形で締めている。
「もうその顔は内面の恐怖を微塵も感じさせなかった」
或いは逆に語尾をいじって
「もうその顔に恐怖は微塵も感じられなかった」とするのがよかろうかと。