……ど〜でもいいけど、撫子の花言葉って艦長にすごいピッタリなんですね by
ホシノ・ルリの呟き
(無邪気、純愛、大胆、才能、陽気な恋、私を愛してなどなど)
ここ格納庫では戦闘後の混乱(?)も一段落して、アキトの処遇に付いてゴートとユリカが話していた。
「・・・で、俺はどうなるんですか?」
「問題は山積みだが、軍ではないのでお咎めは・・・」
結果的に囮になったものの、元はと言えばアキトの行動は機動兵器を勝手に動かし自分だけとっとと逃げようとしてたのだ
本来の軍の規則に当てはめれば”敵前逃亡”で銃殺でもおかしくない
まぁもちろん軍の規則などアキトが知るはずもなく、そんなつもりでとった行動ではないのだろうが・・・
もちろんその事を理解しているゴートは、結果的にナデシコの為になったので穏便に済まそうとしたが
「ないわきゃないっしょ!勝手にロボットに乗ったりして!!」
そこにヤマダが急に割り込んできたのだった
「「「「「(いや、お前は人の事言えないだろう!!)」」」」」
ヤマダは既に何度も勝手にエステバリスに乗っては整備班に迷惑をかけていた。
ゆえに整備班の皆さんの心の叫びも当然である
「大体こいつは馴れなれしいんすよ!か、艦長の事呼び捨てだし!!」
「「「「「(うんうん)」」」」」
・・・だがどうやらそこの点だけは皆の思いが一つになったらしい
「あら、私とアキトは幼馴染ですもん。今更他人行儀な呼び方されてもね〜♪」
「おい、よせよユリカ……ってチョットマテ!ユリカ、お前艦長だったのかよ!!」
「あれ?言ってなかったっけ?」
アキトは驚いていた。勿論、前回の歴史と違うのでユリカの性格から艦長が想像できなかった訳ではないが・・・
「聞いてねえ!大体なんで艦長が囮になってんだよ!!」
そう思うのがもっともな話である
「だって正規のパイロットの人が怪我してて他に囮ができる人いなかったから・・・」
ユリカは少し顔を俯いてそう話し始めた
そしてそれを聞くと、さすがのヤマダも罰が悪そうな顔をして縮こまっていた・・・
「私は艦長としてクルーの命を危険に出来ないもん!」
今度は一転して少しアキトに迫りながらそう言った
話を聞いていた周りの男達は感激の余り涙を流していた・・・
「「「「「(あぁ、この人が艦長でよかった・・・)」」」」」
尚、ユリカは計算してこの一連の仕草・行動を取っているのではない。
流石に10数年振りの生アキト(食堂でも一度会ったが)を前にすると冷静にはなりきれないのであった。
だが、その生来の感情をストレートに表現する部分が今回は周りにもクリティカルヒットしたと言えよう
「それに艦長はその艦でもっとも優れた者がやるから機動兵器も操縦するってどこかで聞いた事があるよ?」
それは某敵対国の話である
『あの〜艦長、そろそろブリッジへ戻ってもらえないでしょうか?』
ブリッジよりユリカのコミュニケに連絡が入る
先程までは有事だから仕方なかったと言えるかも知れないが、
危機が去った以上はいつまでも副長に任せっぱなしと言うのも艦長として駄目である。
「あ、わかりましたプロスさん」
それを解っているユリカは、本当はアキトとゆっくり話していたかったがブリッジに戻る事にする
「じゃあアキト、また後でね♪」
「と・・・とりあえず補充が済むまでは臨時のパイロットとして待機してくれ、コックよりは給料も上がるぞ」
ユリカとゴートはそう言うとブリッジに向かい歩き出す。
だが、その去っていく背中に向けてアキトはポツリと言葉を漏らす
「・・・俺はコックなんです・・・コックになりたいだけなんです・・・」
その言葉を聴いたユリカは、ブリッジに向かい歩きながらだが改めて心に誓った・・・
「(今度は絶対にアキトにはコックさんになってもらうんだから!)」
機動戦艦ナデシコ
〜revenge of SNOW WHITE〜
第02話「『王子様』には任せとけん?」
ナデシコが佐世保を発ってからすでに3日
現在は各部のパーツに問題ないかを確かめ、クルーに仕事を覚えてもらうための慣熟飛行中である。
さて、あれから3日経ったにも関わらず、アキトとユリカは未だにまともに話をしてなかった
と言うのも、緊急発進だったせいもあり艦長としてのユリカの仕事は山のようにあって時間が取れず、
一方のアキトの方もプロスに色々説明を聞いたり、部屋で荷物整理をしたりで結局会いに行ってなかった
(もちろん色々あってユリカに会いづらいって理由もあったが・・・)
尚、アキトの部屋はヤマダとの相部屋であるが、彼は骨折後安静にしろと言う事で現在は医務室にいる為一人である
通路を歩くユリカの顔は満面の笑みだった
ここに来てようやく時間が取れてアキトに会いに行けるからである
アキトの部屋の前に着いたユリカはおもむろに扉をノックする
コンコン、コンコン
「アキト〜、ア〜キ〜ト〜」
・・・その呼びかけに対する中からの反応は無い
コンコン、コンコン
「ア〜キ〜ト〜、ユリカだよ〜」
「はいはい、わかってるよもぉ・・・ちょっと待ってくださ〜い」
反応はあったが扉が開く様子はない為、ユリカは更に強めにノックをする
ゴンゴン、ゴンゴン
「ア〜キ〜ト〜、あ〜け〜て〜」
「こら!今風呂から出たばっかりなんだって!!」
しかしそれでもユリカはノックを止めない
ドンドンドンドン
「あら〜♪私達の仲だから気にしなくて良いよ♪あ〜け〜て〜」
「気にするわい!!」
「・・・馬鹿ばっか」
どこかで少女がそう呟いた気がした
結局、急かされたアキトはパンツとズボンだけ履くとドアを開けるのだった
(マスターキーを使わないだけ前回よりマシにはなっているが・・・)
「まったく・・・着替える時間くらい待ってろよユリカ!」
上着を着ながらアキトは言ったが、それを見ているユリカには笑みが浮かぶ
「ふふふ」
「?何笑ってんだよユリカ?」
「あのね、アキトと10年以上も会ってなかったのに昔と変わらなく接してくれて嬉しいの♪」
懐かしい火星の光景が思い浮かぶ
それは幼稚園からの帰り道、河原の土手で二人並んで歩いている光景だった
『アキト〜、ねぇアキト〜』
『なんだよ〜ユリカ』
ユリカは
『今日は帰ったら”しんこんさんゴッコ”で遊ぼうよ〜!』
ユリカはこの”しんこんさんゴッコ”が大のお気に入りだった。
・・・実際の新婚だった時代に勝手な都合で無理やり引き裂かれたのだからしょうがないかも知れないが
『ちょっとまってよ!それは昨日もやったし今日は公園で遊ぼうって言ったじゃないか!』
一方のアキトは別にユリカと遊ぶ事自体は決して嫌じゃなかった
とは言ってもユリカの好きな遊びは基本的におままごとのような物ばかりであり、
アキトが腕白盛りの男の子である以上、身体を動かして遊びたいと思うのも当然である
『アキト〜、いやなの?』
アキトの言葉を聴くとユリカは瞳を潤ませながらアキトの手を取って訴えかけた
『……しょうがないなー、そのかわり明日は公園行って遊ぶよ!』
手を振り払いそっぽを向きながらそう言うが、その顔は真っ赤である
『わーい、だからアキト大好きー♪』
そう言って今日もユリカはアキトに抱きつくのだった・・・
・・・何と言うか今も昔も更に過去もアキトはユリカに敵わないらしい
(前回の歴史のように面倒事に無理やり引きずり込むような事は無いとは言え)
まぁ、今のアキトとユリカは精神年齢が20歳違うのだから上手くあしらわれても仕方がないと言えるのかも知れないが・・・
「ば、馬鹿!そんな昔の事思い出すんじゃねーよ!恥ずかしいだろ・・・」
「でも、本当にアキトにあえて嬉しい・・・おじ様とおば様の事を知った時、私凄く心配したの・・・」
その一言を聞くと、途端にアキトの顔は険しいものになっていった
「・・・ユリカは知っているのか?あの事件のことを!オヤジとお袋の死の事を!!」
「あの頃は子供だったしあまり詳しくは知らないの。ただおじ様達が殺されたと言う事以外は・・・」
ユリカは心の中で自分を責めて暗い顔になっていた。
勿論自分の中では”どうにもならない事”と決着が付いていた事だが、
それでもこのアキトの様子を見るとやりきれない思いがあるのであった
「俺は、真相を知りたい!親父とお袋を殺した奴を!!」
ユリカはその真相を知ってるが今は話せない為にさらに暗い顔になっていた。
今話しても(元々事件と関係が無いユリカの口から言った所で)証拠も何も無いのだ。
その上思い余ったアキトがネルガルに詰め寄ったりすれば良くて門前払い、最悪消されるだけである。
「その真相次第ではお前だって殺す……かも知れない」
そう言ったアキトの姿は”闇の王子”を彷彿とさせるものであった。
前回は”殺す”と言われて妄想に走っていたユリカも、今回はアキトの心情を昔より理解してる為
食堂へと向かうアキトを追いかけることも出来ずに、只泣きそうな顔をしていた・・・
それから更に数日後である。
気を取り直し仕事をしているユリカの元にプロスが訪れていた
「艦長。そろそろ大気中での慣熟飛行もよろしい頃かと・・・」
もちろん暗にとっとと火星に向かってくれと言っているのである
「そうですね、それじゃあそろそろ地球から脱出しましょうか」
だが、ユリカはあくまで”火星に向かう”とは言っていない。
勿論、最初の交渉で貰った”危険だと思ったら火星に行かない”権利があるためである。
「ではクルーの皆さんに目的地をお伝えしなければいけませんな。」
「その事なんですけど、先に責任者クラスの方に話をしたいんですよ」
「おや?それは何故でしょうか?」
「今後のナデシコの運営を円滑に進める為です」
まぁストレートに言ってしまえば上のほうに先に根回ししろと言っているのである
「ほほう」
プロスはユリカのこの判断にまたしても感嘆の声を上げるのであった。
「いきなり言われたら暴動を起こそうとする人もいるかも知れないですし、辞めて艦を降りると言う人も出ると思うのですよ」
「いやぁ・・・しかし彼らも契約書にサインしてくれてますし充分なお給料も支払ってますので」
まぁ元を考えれば目的地、と言うか目的をよく確認しないでこの艦に乗ってる自分達のせいなのだが
そう言う意味では契約に不備が無い以上プロスの言い分も正しいのである。
「企業側としてはそれで良いと思いますけど現場は違います。何より地球と火星じゃ危険が違いますから」
(過去の歴史で)艦長をやったユリカはクルーの士気の大切さと言う物を重要視していた
前回の歴史での”蜥蜴の正体は人間事件”などでまったく艦の運営ができなかった事もあるだけに、
ユリカはこのように早いうちから不満の芽を摘むように行動しているのであった。
「だから、その対策の為に責任者クラスの人に先に話して意思の一本化をしておくのです。
だって何か不満があったときまず最初に相談するのは身近な上司ですから」
まぁ更に言うならば、責任者が冷静であれば周りが慌てても静まりやすいだろうし、
何より責任者が暴動を起こせば部下を煽って規模が大きな物になりえる
(これは前回の歴史で火星へ向かう途中で起こった”ウリバタケの反乱”を見てもらえば解るだろう)
「確かに、これは私の配慮が足らなかったと言えますな。わかりました、艦長の言う通りにやりましょう」
そう言うとプロスは早速責任者達を呼び出す準備をしていた。
さて、そんなナデシコ各所の責任者を集めた説明会の準備が行われている頃
アキトの部屋にはそこの先住民だった者が帰ってきていた
「おう、なんだコックじゃねーか!」
「あぁ、アンタだったのか。同室のヤマダさんって・・・」
正直言ってこの時点でのアキトはヤマダに良い印象を持っていなかった
まぁ、あの格納庫の惨状を見てしまい、その上一方的に因縁をつけられては当然であろう
「チッチッチ、それは世を忍ぶ仮の名前だ。俺の名はダイゴウジ・ガイ、”ガイ”って呼んでくれ!」
「俺はテンカワ・アキト、改めてよろしく」
さすがに二人共同室の者と険悪になってもしょうがないと重い無難な挨拶をしていた
だが、アキトが何かを考え込んでいる様子を見てヤマダはたまらずに声をかけた
「お前、何か悩み事でもあるのか?」
「え、いやその・・・」
その事を聞かれるとアキトは暗い顔をする
さっきはユリカにあぁ言ったものの、実際にユリカが事件に関わってるとは思ってない(当時幼稚園生だし)
結局半端な自分への怒りからやつ当たりしてしまったのではないかと考えていたのだ。
「ふん、俺も医務室でずっと悩みっぱなしだったからよ。景気づけに一緒に良いもの見ようぜ!」
ヤマダはヤマダで格納庫でのユリカの言葉に少し思うところがあったらしい
こうして、早くも男二人だけのゲキガンガー上映会が早くも始まるのであった
場所が変わって、ここナデシコの会議室ではプロスから重大発表があると言われて責任者が集めらた
副長やブリッジ勤務者はもとより、整備班班長のウリバタケや食堂の責任者であるホウメイらかなりの人数が呼ばれていた
だが、その中にフクベ、ムネタケ両提督は呼ばれていなかった。理由は勿論軍の人間だからだ
「と言うわけでナデシコの目的地は火星になります。さて、此方からは以上です、質問のある方はどうぞ」
そんな会議室ではたった今プロスの説明が終わった所であった。
そして質問を受け付けると真っ先にウリバタケが立ち上がった
「プロスの旦那よぉ、俺は自由を求めてこの艦に乗ったのだから目的地なんてのは何処だってかまわねぇ」
ウリバタケは自由と刺激を求めて乗ったため、火星だろうが木星だろうが行く気であった
・・・美人の奥さんを貰っておいて、それでも女房の尻の下と言うのが嫌なのだろうか?
「だけどよぉ、それを今まで黙っていたと言うのがどうにも納得できねぇんだ。その辺りを説明してくれねえか?」
ウリバタケは趣味に走りがちな不真面目な男と思われるかも知れないがけしてそのような事は無い。
筋を通して仕事をきっちりこなしてるからこそ、誰も文句を言わずに黙認しているのである
そんな彼だからこそ、筋の通って無い事が嫌いな為にこの質問に至るのであった
「それは今まで妨害者の目を欺く為に黙っていたのです」
「「「「妨害者?」」」」
周りはその意外な理由に思わず言葉がそろう、プロスは何でもないかのように言ったが、
「えぇ、例えば軍の方とか」
「馬鹿な!軍がそんな事する訳無いじゃないか!!」
プロスの言葉に質問をしていたウリバタケじゃなくジュンが叫んでいた
「ジュン君落ち着いて考えてみて。理由もなく言ってる訳無いでしょ?」
ユリカからそう宥められ、ジュンはすぐに一つの答えを出した
「・・・先日の戦闘か?」
「はい、さすがは副長ですね。軍ではこの艦を現在地球上で最も木星蜥蜴と戦える船と認識をしました」
その解答に答えたのはユリカではなくプロスであった
「事前にこの艦はあくまでナデシコ級壱号艦と言う事になりますのでなるべく多くのデータを取って
後継艦の製造を早める為に我が社の方で運用すると軍の方に説明して快諾していただきました」
ココが畳み掛ける場面と見たプロスは一気に説明を始めた
「ですがまさか軍の方もこれだけの戦闘力を持っているとは思ってなかったようでして、
先日よりネルガルへナデシコについての問い合わせが凄いそうですよ」
そこまで言うと今度はもう一度ジュンに問いかけた
「そこで地球圏で戦うのならともかく、そのナデシコが火星に行くと言ったらどうなると思いますか?」
勿論愚鈍などではないジュンは、ここまで言われて答えに気が付かないわけがない
「無理にでも徴発して使おうと思うとでも?」
ジュンの顔は混乱の為か何とも言えない表情となっていた。
勿論ジュンは軍を正義の味方だと思っているのでその言い分には納得できない、
だが言われた事はどれもこれも間違ってるとは言いきれない物だ。
「さぁ、それは私どもの方ではわかりません。ただそう言った可能性がある以上慎重にならざるをえないとご理解ください」
そう言われては何も言い返せなく、完全に納得しない物のジュンは腰を下ろすのであった
「さて、他に質問は?」
この後も多岐にわたる質問を答えるプロスであった。
ユリカの提案で行われたこの会議は、この時点ではまだ効果が現れてるとは言い難かったが、
この後に起こった事件のせいもありクルーの意思の統一に多大な影響を与えたのだった
ゲキガンガー上映会が続いていたここアキトの部屋だが、二人はいつの間にかお互いの悩みを相談していた
本来会って間も無い(しかもガイは敵意すらあった)者同士であったが、
ゲキガンガーという作品を見ているうちにお互いにいつの間にか打ち解けあったらしい。
「なぁ、アキトよ。コックになりたいってのは俺にも理解できた。だがお前の本当の悩みはそれだけじゃないだろ?」
ゲキガンガーが好きゆえにパイロットになろうと思った為、コックになりたいと言うアキトを小馬鹿にしていたガイだったが
コックになりたい理由(以前は火星でメグミに話した事)を聞いた後は自分の見識の狭さを少し恥じていたのだ。
だがその一方でアキトの本当の悩みを無理やり”パイロット”にされた事ではないとも感じていた
「俺さぁ、火星で何も出来なかったんだ……小さな女の子一人守れないで気が付いたら地球にいた。」
迫り来る木星からの無機質な死神、炎の中に消えていく人々、そして”お兄ちゃん”と自分を呼んだ少女
それはもはやアキトに対する呪縛となっていた記憶であった
「でもここに来て自分にパイロットして誰かを守る力があるってわかった。
それなのに自分がパイロットが出来るのにコックになりたいなんて言うのは結局逃げてる事になるんじゃないかって・・・」
アキトは周りの人たちにコックとしては半端な自分がパイロットとしてなら期待されていると考えていた
だから”パイロットじゃなくてコックだ”と言ってるのは逃げてるのだと思ってしまっていたのだ
無論それは守ることが出来なった人の代わりに何かを守ろうとする呪縛であったが・・・
まぁ、実際はヤマダが怪我している上に予定外の戦闘で軍と険悪になったため早急にパイロットが必要だっただけで、
前回の歴史においてもヤマダが早々と死んでしまった為に元々少ないパイロットが減った為の処置だった。
そうでもなければ普通は素人のコックを無理に使おうとするわけが無いが、無論アキトは知る由も無かった
「馬鹿言ってんじゃねえよ、これから正規のパイロットも乗ってくるし俺の怪我だって治る。
別にお前がちょっとくらい操縦できたって無理にロボットに乗る必要なんて無いんだ!!」
そんなアキトの思い上がりをヤマダは感じ取り強く諌めた
やりたくも無い奴に無理にパイロットなんてやらせても早死にするだけだと知っているからだ
「だから本当にパイロットが嫌だったらコックとしてしっかり働け!この艦は俺が命をかけてでも守ってやる!!」
アキトはその言葉を一瞬理解できなかったが、すぐに理解して泣きそうな顔になる
この艦に来てから初めて面と向かってパイロットが嫌ならやらないでいいと言われたのだ
(無論ユリカもそう思っていたがアキトが勝手にエステを動かしたのは事実のため艦長という立場上言えない)
「その代わりパイロットになりたいなら一番に俺に言えよ!
頼もしい仲間が増えるのは大歓迎だが今のお前じゃ心配だ。みっちりと鍛えてやるさ!」
「ヤマダ・・・いや、ガイ!!」
お互いに誤解からすれ違っていた二人だったが、今は涙を流して抱き合っていた。
元々二人共(程度の差はあれ)”熱血馬鹿”の為分かり合えればすぐにこうなるのも当然であろうか
さて、そんな二人の元に突如通信ウインドウが開くのであった
「これより、艦内の全クルーに対して艦長より重大発表があります」
正直って重大発表とやらに興味が無かった二人だったが、
フクベが言った一言にアキトは反応する
「我々の目的地は火星だ!」
その言葉にアキトの瞳に炎が灯る
「火星に行けるのか!?」
画面の向こうでは相変わらずプロスが何かを喋っているがアキトの耳には入ってこない。
ただ、あの後気にはなっていたが情報がない為に状況もわからず
月まで木星蜥蜴が攻めてきている状況で行けるわけもなくどうすることも出来なかった火星に行くと言うのだ。
「その必要はないわ!」
一方、アキトが思考の海に身を寄せている間、ブリッジは銃を持った軍人達がおし寄せていた
「ムネタケ!血迷ったか!?」
「血迷った?状況が見えないほど耄碌しましたかフクベ提督?」
良く見れば軍人達の手に持たれているのは本物の銃ではなく暴徒鎮圧用のゴムスタン銃である。
それでも血迷ってると言われるかもしれないが少なくとも考えもなしにやっている訳ではないとわかる。
「それにこんな強力な艦を民間人が使う方が血迷ってるんじゃない?」
この間なら軍の艦が何十艦も相手にしても勝てるかもしれないのだ、それももっともな話である。
「まぁまぁ、副提督が理由もなくこんな事をする訳ないじゃないですか」
そう、ユリカは(歴史を知ってる為でもあるが)分かっていた。ムネタケと言う男は良くも悪くも慎重なのである。
この作戦はリスクが高い、木星蜥蜴と戦える艦を手に入れる為とは言えやってる事はテロリストと変わらない
命令も無くこんな事をして、それでも接収できれば良いかも知れないが失敗した時は切り捨てられ社会的に死にかねない
つまりムネタケが独断でこんな事をするとは考えられなく、上の誰かの命令でやっていると・・・
「・・・ゴメンナサイね艦長、直接交渉する為にはこうでもしないとこの艦の性能だと逃げられちゃうのよ」
「いえ事情もある事でしょうし、しょうがない事です。ムネタケ副提督」
そう言い放つユリカの顔は、銃を向けられてるにも関わらず変わらない笑顔であった。
「それに、来たみたいですよ」
そして目の前のモニターで海中から浮かび上がる艦に視線を移す
連合宇宙軍極東支部所属、戦艦トビウメに・・・
「こちらは、連合宇宙軍第三艦隊提督ミスマルである」
トビウメからの通信をつなげると当然ながら其処にはユリカの父コウイチロウが移っていた
「お父様、これは一体どう言うことでしょうか?」
スクリーンに映る父に対して艦長として冷静に返すユリカ
(まぁミスマル提督とは呼ばずにお父様と呼んではいるが、軍人でもないのでその程度の公私混同は良しとしよう)
「おぉユリカァァ!!!!」
だが、コウイチロウは娘の姿に早くも冷静さを欠いていた・・・
「お父さんは心配したんだぞ、佐世保が木星蜥蜴に襲撃されたって聞いて・・・」
「心配していただけるのは嬉しいですけどそんな事を言いに来たのでは無いですよね?」
ユリカは笑顔だが言ってる事は結構きつかった
「うむ、これよりナデシコは当艦の指揮に入ってもらう!!あぁユリカ、これも任務なんだ許してくれ・・・」
「無理です!」
即答するユリカに思わず周りの皆が固まる
「いやいや、困りますな軍の上層部とはもう話はついているのですよ?」
いち早く場の空気から抜け出したプロスがコウイチロウに話しかける
「我々が欲しているのは今確実に木星蜥蜴と戦える戦艦だ。それをみすみす見逃すわけにもいかんのだよ」
コウイチロウの顔はユリカのせいで苦い物になっていた
「でも正直言ってお父様と交渉した所で無駄としか思えません」
ユリカの言葉にその場の全員が目を見開く
「私達には交渉する権利がないんですよ、特に交渉と言って置きながら銃を突きつけるような人とは」
そう言われる軍人達は居心地が悪い気分になっていた
「ですからそう言った交渉ならネルガル本社の方へ言って下さい・・・ですよね、プロスさん♪」
「あぁ、確かにその通りです。現場の判断で戦艦を引き渡したなんて言ったら私達皆クビになってしまいます」
そう話を振られたプロスもまた満面の笑顔だった
「ま、待ってくれユリカ!こっちは交渉する為の人間もこの艦に乗って来ているんだ」
何とかしようとコウイチロウは必死に説得を試みる
「だからせめてこっちの艦に来て交渉してくれないか?」
「嫌です♪」
その言葉に再び固まるナデシコとトビウメのブリッジ
「お父様を信用しない訳ではないですが、人質に取られる可能性もありますから」
「いやいや、まったくですな。まぁそんな事になればマスコミが黙っていないでしょうが」
取り付く島も無いとはまさにこの事だが、言い分は間違っていない
まぁ、現状でもブリッジを制圧してる以上すでに人質に取られてるとも言えるのだが
「・・・わかった、そこまで言うのならば此方からナデシコに出向くのでせめて交渉させてもらえないだろうか?」
苦い顔をしながらも更に譲歩するコウイチロウ。
本来はナデシコのブリッジを制圧している為高圧的な態度で交渉するように命ずれば良いのだが、
それをここまでするのも彼個人は(娘のこともあるとは言え)この無理な徴収を良しとしてないからである
「一応交渉したと言う事実だけでも作っておかないと上の者達がうるさいんで何とかお願いできないだろうか?」
ここで交渉しても無駄だと理解しつつも、任務である以上何もしないで帰るわけにもいかない
交渉も出来ずに門前払いくらいましたなどとなれば軍の面子が傷つけられたとうるさく言う者達がいるのだ
「わかりました、そこまで言われてはお断りする訳にもいきませんな、
ただしいつまでも占拠されてると落ち着きませんので武装は解除してくれるようお願いできませんかね?」
せっかく艦長のおかげでミスマル提督が友好的なのに、面子を潰して険悪になっても面白くない
プロスはそう判断して交渉を受け入れる事にした
「うむ、ムネタケ君!」
「わかりましたわ」
そう言ったムネタケが合図を出すと武装した兵達は銃を下ろしてブリッジから出て行った。
「あ、後ムネタケ副提督、クルーの艦内での自由は保障してもらえますよね?」
「構わないわ、ただし軍の者に危害を加えようとしたら一箇所に集めて監視するわよ」
ムネタケも無駄な仕事はゴメンであったのでそれだけ言ってとっととブリッジから出て行った
「ブリッジ要員は万が一の敵襲に備えて待機、格納庫も念のためエステバリスの発進準備だけお願いします」
テキパキと必要な指示をするユリカ、そして・・・
「その他の皆さん、今から軍との交渉が終わるまで休憩にしま〜す!」
そのユリカの言葉に艦内の緊張は一気に解かれるのであった
交渉は軍の偉い人とプロスペクターに任せることにして、ユリカとコウイチロウは会議室で話すことにした
(何故会議室かはナデシコに余分なものは余り無い為応接室は1つだけなので、プロスらの方が使う為空いてないからだ。)
そこでユリカはある人物を連れて行くために食堂まで寄って誘いに来たのだ。
「アキト!ちょっといい?」
「ユリカ、いったい俺になんの用だ?忙しいんだからくだらない事なら後にしてくれよ」
その人とは無論テンカワ・アキトである
ちなみにユリカの一言で休憩となったのだが、他の部署が休憩の時ほど忙しいのがここ食堂である。
「これからお父様とお話しするんだけど、アキトの方がお父様に聞きたいことがあるんじゃないかと思って!」
「・・・俺が行って大丈夫なのか?」
アキトの反応は上の話し合いに自分みたいなコックが参加して良いのかと言う意味と、
仕事を放って話しに言って良いのかと言う意味があった
「大丈夫よ、重要な話はプロスさんに任せてるし、ホウメイさんアキト借りていいですか〜?」
「あいよ、わけは聴かないからいっといでテンカワ」
ホウメイの許可もおりたのでアキトはこの機会を見逃す理由はなかった
ユリカとアキトが会議室に着くと、そこには既にコウイチロウが到着していた
「ユリカァ!お前のためにお土産を持ってきたぞぉ!さぁ食べなさい」
すでに会議室のテーブルの上にはケーキが文字通り山のように置いてあった
誰がどう見ても個人で食べきれる量ではない
「それは嬉しいのですけど、その前にお父様とお話がしたい人がいるので連れて来ました」
「ふむ、私にかね?」
そう言われるとアキトはコウイチロウの前へ進み出た
「おじ・・・ミスマル提督、おひさしぶりです」
昔と同じように呼ぼうとしたが、相手の立場を考えて言い直した
「君は・・・・はて、誰だったかな?」
コウイチロウは自分に語りかける青年の顔にどこか見覚えがあったが思い出せずにいた
「テンカワ・アキトです。火星で隣に住んでいました・・・」
「!?そうか、アキト君か、いや大きくなったな・・・」
それを聞いて驚き目を見開くが、少し落ち着くと目の前の青年をじっくりと見つめていた
そんな中、アキトから用件を切り出そうとしていた
「実は俺はミスマル提督に聞きたいことが」
そう言い掛けるアキトをコウイチロウは一時制する
「いや、そう他人行儀にならないでくれ、火星に住んでいた時と同じで構わない」
「じゃあミスマルのおじさん・・・俺の両親の死について何かを知っていませんか?」
その言葉をある程度予測していたのか、コウイチロウは驚く様子はないものの何とはなしに喋りにくそうに髭を弄っていた
「うぅむ、だがそれは・・・」
コウイチロウはチラッとユリカの方を見ると、ユリカは真剣な顔になっていた
「お父様、私が何も調べていないと思いますか?」
そう返されてコウイチロウは黙るしかなかった
自分の娘の行動力は良く解っているからである
「と言ってもニュースで見たくらいなので詳しくは知りません。だから私も聞きたいですわお父様」
その一言でコウイチロウは話す覚悟を決め、アキトをまっすぐに見つめなおした
「そうだったな・・・とりあえず、まず始めに謝らせてくれ。すまなかった、アキト君」
そう言うとコウイチロウはアキトに向かって深々と頭を下げた
「!?おじさん?」
アキトはその行動に驚いていた
確かにコウイチロウが事件に関して何か知っているかもとは思ったがいきなり頭を下げられるとは思っていなかった
もちろんコウイチロウ本人の人の良さは覚えていたが、それでも彼は軍人であり軍の重要な地位にいる人物である
アキトは(火星を見捨てた)軍人に関して”偉そうなだけ”と良いイメージを持っていないのだから驚いても仕方が無い・・・
「あの時・・・クーデターの事を知った直後、何とか君に連絡を取ろうとした・・・
だが、連絡を取ろうにも気が付いたら君が何処へ行ったのかわからないようになっていたのだ」
コウイチロウは静かに語る、その当時を思い出すかのように
「・・・あの事件で火星での軍の発言力は減ってしまって、あまり無茶な事を言えなくなってしまってな・・・
私も軍人である以上、自分で火星に行けるほどの長い休暇も取れない・・・全ては私の力が及ばなかったからだ
今更こんな事を言えた物ではないが、君さえ良ければうちに引き取ろうとも思っていたのだ・・・本当にすまなかった」
この件に関して『一人の少年が苦しんでいるのを知っていながら見捨てた』と人は非難するかもしれない
だが、コウイチロウはユリカの唯一の親であり、その逆もまた然りである。
当時のコウイチロウは今ほどの地位に無く、ユリカの生活を第一に考えれば下手に手を出せなかったのである。
だから人は今更何を言っても言い訳に・・・偽善にしかならないと言うかもしれない。
けれども、『もし軍を辞めさせられたらユリカはどうなる?』と彼が考える事を誰が非難できようか?
「おじさん・・・俺はおじさんに謝られる理由がありません」
アキトはもちろんそんな事情を全て察したわけではない。
だが、彼にしてみれば直接両親の死に関係しているわけではない以上謝られても困ってしまうのだ
「それに俺はおじさんが親父達の死に関わってるんじゃないかと疑ってしまった・・・俺のほうが謝りたいくらいです」
・・・場に沈黙が走る
だが、その雰囲気をぶち壊すようにユリカが口を開く
「じゃあ、アキトの話も一段落ついた所でそろそろ私の話を聞いてもらえませんか?」
「「え?」」
その場の雰囲気を読まないユリカに二人は何事かとユリカを見る
「お父様に認めて欲しいの、私とアキトの結婚を前提としたお付合いを♪」
「それはまだ早いぞユリカアァァァ!!!」
「そんな話俺は聞いてねぇぞぉぉぉ!!!」
嗚呼、実に恐ろしき場をぶち壊す天然娘・・・
だが、それをきっかけにその後は場が和やかな雰囲気になっていたのだった
暫くしてプロスがこの場に訪れ、交渉の結果を伝えた。
もちろん結果は『軍の命令を聞く必要はない』と言う物で、それを聞いたコウイチロウは彼の艦へと帰って行くのであった
・・・トビウメへと帰る彼の顔は”ナデシコ”と言う問題が何も解決したわけじゃないのに来る前より晴れやかな物だった
ミスマル・コウイチロウは良くも悪くも軍人である前に人の親なのである
もちろん、もし正当な理由でナデシコを攻撃しろと言われれば彼は攻撃するであろうが・・・
「なぁユリカ」「ねぇアキト」
コウイチロウが帰ろうとしている頃、不意に会議室に残っていた二人がお互いに話かけるが、
そのタイミングが余りにも合っていた為なんとも言えない沈黙が場を支配する
「・・・アキトから言って」
まずはユリカが譲った。自分の話のほうが長くなりそうだから
「俺、お前に謝らなきゃいけないよ。殺すかも知れないなんて言っちゃって」
「ううん、そんな事は全然気にして無いわ。私もお父様が殺されたらそう思うかも知れないから」
そう言ったユリカの笑顔に、アキトはまたしても赤くなっていた
「それで、ユリカの話は何なんだ?」
なんとなく気まずかった為、話を変えようとアキトがそう返した
「そう!アキトはさっきの話、余りにもタイミングが良すぎると思わない?」
さて、アキトとコウイチロウの話の間、ユリカの発言が少なかったのは考え事をしていた為である。
実はこの事件に関してユリカが知っている事は少ない
知っていることと言えば前回の歴史でプロスペクターとコウイチロウが話した事くらいで、
自分で調べようにも、何せ事件が起こったとき彼女は小学生だったのだ
ユリカはルリ等とは違いハッキングなど出来ないのでこの辺りはどうしようもないと言えよう
「軍はお父様が帰るタイミングで事件が起きた為に力を減らした、これって逆に言えば・・・」
「!?まさか……」
話を聞いて色々と考えていたが、その中で最も気になった部分がこの事
そう、偶然良いタイミングだったと言う事は逆に言えばそのタイミングを狙っていたのかもしれない
事件には関わってたのじゃなくて関わらせられていたと・・・それも知らないうちに・・・
「お父様が連絡を取れなかったと言うのも変よね、幾らなんでも」
普通、引っ越してたにしろ何にしろ全く連絡が取れないのはおかしい、それこそ住所不定にでもならない限り・・・
だが、現にアキトは行方不明などではなく苦しいながらも普通に生活していた
これはもちろん事件を表立たせたくないネルガルが裏から手を回したからだ
「それにアキトのお父様もお母様も優秀な科学者だったのよ?まったく遺産が無いなんておかしいと思わない?」
これは確かにあきらかにおかしい、優秀な科学者であるアキトの両親は幾つもの発明の権利を持っていたのだ
そしてこの件は実はネルガルの上層部は知っていない
ネルガルの会長・・・アカツキ・ナガレの父親ははテンカワ博士の研究成果を掴む為に自宅の隅々まで調べろと命令した
しかし研究成果はともかく、一科学者のの財産など会社としては微々たるものである
(無論エジソンやノーベルのように世紀の大発明をしたのならば別だが・・・)
もしそれを横領して何かの際に世間にばれた時の手間を考えれば放って置いても良いものなのだ
(”ネルガル利権の為に科学者夫妻謀殺か?”等と噂(無論事実だが)されたらイメージは底に落ちよう)
だが、その家宅捜索の際に金目のものを自分のポケットに入れた奴が当時の火星にいたのだった・・・
「・・・仕組まれていたと?」
「そして、もし仕組んでいたとしたらそんな事を出来るのは」
答えは以前のプロスから聞いていたので出ているが、アキトを誘導するようにそう言う
(ちなみにユリカの頭の中にはそんな事が出来る候補が3つほどあったがアキトは他の2つを知る由もない為)
「ネルガルか・・・」
話の流れからその答えを出すのは当然なのである
「でも証拠は無いわ。もう10年以上前の事だし、ネルガルの会長もその当時とは違う」
「それでどうする?真相の一部を知ってしまって、この船からから降りたい?」
「いや、俺はナデシコからは降りないよ」
「確かに親父達を殺したかもしれない奴らの為に働くのはしゃくだけど、俺は火星に行きたい。
軍も見捨てた火星に行こうなんて艦はこれからも出ないだろうしな」
そう言ったアキトは今確かに過去よりも未来を見つめていた。
まだ火星に縛られていると言えるかも知れないが、それは確かに逃げ出さないで前に踏み出した瞬間であった
そしてその言葉にユリカは感動してアキトを見つめ、その視線に気づいたアキトは顔を赤くするのであった・・・
『お取り込み中申し訳ありません』
「「うわっ!!」」
そんな雰囲気をぶち壊すかのように彼らの間にルリからの通信ウインドウが開く
『艦長、緊急のお知らせです。海底のチューリップが活動を急に再開しました』
「「!?お父様(おじさん)が危ない!!」」
そう叫ぶとユリカはブリッジへ、アキトは格納庫へと向かって走っていた
格納庫に着いたアキトの目の前では、ガイが出撃する為にエステに乗ろうとしていた
「ガイ!お前足を怪我してるだろ?まだ無理だ!!」
IFSは操縦者のイメージを敏感に読み取るシステムである。
それ故、雑念が混ざればイメージが崩れる為足を怪我していると言うのは言うまでも無く不利なのである。
「いや、今回は空戦だから振動が少なくて済む。無理なわけじゃねぇぜ!」
ガイはこう言っているが、それは実際は大きな間違いである
確かに空戦は陸戦よりは振動が少ないのだが空戦のスピードでパイロットにかかるGは陸戦より上なのだ、
足を怪我して踏ん張れない状況は余計に危険なのである
「それに、俺が出なきゃ誰が出るってんだ?」
そう言いながらガイは笑顔でアキトを見る
「俺が出る、いや俺に任せてくれガイ!」
そう答えたアキトの瞳はまっすぐ前を見つめていた
「ち、少しはマシな顔になりやがったな……任せたぜアキト、やばくなったら俺がすぐ出るからな!」
ガイはそう言うと右手を大きく上に挙げた
パンッ!
そしてアキトはそれに答えてハイタッチするとエステバリスに乗り込むのだった
『よし、テンカワ!準備良いか?』
ウリバタケがモニター越しに声をかける
「はい!」
良くしてくれたおじさんを助けたいが為、再びエステバリスに乗り込んだアキト。
そのモチベーションは言うまでも無く最高であった
『発進の指示を待つぞ!』
ウリバタケはいつでも出られるように整備員達に指示を出しブリッジからの連絡を待った
ブリッジに着いたユリカのその目の前、メインモニターに映し出される光景は
今まさに護衛艦クロッカスとパンジーがチューリップに飲みこまれる所だった
・・・歴史を変える(必要でない被害を減らす)難しさを感じつつもユリカはすぐに周りとアキトに指示を出す
「ミナトさん、チューリップに艦首を向けてください!ルリちゃん、グラビティブラストのエネルギーをチャージ開始!」
「りょ〜かい♪」
「了解しました」
「メグちゃん、アキトに通信繋げて!」
「はい!艦長」
そして直後、メインモニターにアキトの顔が映る
『ユリカ!俺は何をすれば良い?』
「アキト、お父様のヘリが戻るまで囮をお願い!」
『わかった!』
「テンカワ機、発進します」
『うおぉぉぉぉぉぉぉ!!』
気合を入れて飛び出していくアキト。
その姿は恐怖に身体がすくんでいた佐世保の時とは違い、十分に囮を任せられるものであった
飛び出したアキトはチューリップをライフルで牽制してコウイチロウの乗るヘリの進路を確保する
「おじさん!大丈夫ですか!?」
『アキト君が操縦しているのか!?』
コウイチロウはその通信に驚き、そしてアキトのその立派な姿に喜んだ
「そうです、おじさんが戻り次第ナデシコの主砲が発射されます急いでください!」
『了解した!』
チューリップがアキトのエステに気を取られている為、コウイチロウは事も無げにトビウメへと到着した
「ミスマル提督の乗ったヘリ、トビウメに到着しました。」
それを確認したルリがユリカに報告を入れる
「グラビティブラストは!?」
「いつでも撃てます」
「アキト!射線からどいて!!」
「了解!」
・・・結局今回は最初から空戦フレームで出た上にナデシコも動けたため、あっさりと片がついたのであった
まぁ、ユリカにしてみればアキトが前よりも危ない目に会わなかったのでヨシと言った所か
戦闘が終わったナデシコのブリッジに通信が入る
『行くのだな、ユリカ』
「えぇ、お父様」
短い言葉だがお互いに色々な思いが込められていた
『私の立場上頑張れとは言えないが、せめて諸君らが無事に帰ってくるように祈っている!』
そう言ってミスマル・コウイチロウは画面越しに敬礼をする
その姿にブリッジのクルー達(フクベ・ムネタケ両提督)は敬礼を返し、そしてユリカは艦内に号令を出す
「これよりナデシコは発進します!目標はとりあえず大気圏の離脱です!!」
飛び去っていくナデシコを見つめるコウイチロウの目は遠くを見つめていた
「(ユリカ・・・パパよりも恋人が良いなんて、本当に成長してしまったんだなぁ)」
まぁ考えている事はいつも通りだった
余談ではあるが、コウイチロウが持ってきた大量のケーキはブリッジの女性陣+ホウメイガールズの胃に全て収まった
(アキトがケーキをお裾分けされたのだが一人で食べきれる量でない為職場の同僚であるホウメイガールズに分けたのだが
大量のケーキがあっという間に消えていく様を見てアキトは女性は甘い物が関わると凄いと感じるのであった)
尚、ホシノ・ルリの好物に新しく”モンブラン”が加わる事になったらしい
つづく
後書き
毎度毎度しょうもない後書きとなってますがYU-TAです。
本編と大分内容が変わってきた為に食堂でのゲキガンガー上映イベントは無くなりました
そしてその代わりと言ってはなんですがアキトとガイの二人きりの上映会となりました
二人きりだった為、前回より余計に本音をぶつけ合ってもはや”親友”を通り越した”心友”と言えるかもしれません・・・
これから先この二人は競い合って成長していくかと思います。
それと今回もまたユリカさんが企みの種をせっせと撒いております。
おそらく芽が出るのは火星から帰ってきた後かな?(陰謀はアカツキが出てからが勝負です)
さて、今回の展開を受けて次回の展開が大きく変わるのはもう確定です。だってあの人が残ってるもの・・・
代理人の感想
あらま、ムネタケ艦に残ったままですか。
制圧イベントがあったのにこれはちょっと意外でしたねぇ。
ともあれムネタケに関しては火星へ行ってからが本当の勝負っぽい気もするので、そのあたり期待してます。