サモンナデシコ
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第零話 旅立ち 〜Brand New Start〜
「・・・ろ、起きろ!!」
「ふみゅ?」
遠くから、あたしを呼ぶ声がする・・・
「起きないか!! トリス!!」
「ふみゅぅぅぅ」
あまりの声量に、耳を押えながら起き上がると・・・そこには兄弟子のネスが居た。
細身で高い身長をしていて、整っているけれど神経質そうな顔に眼鏡をしている。
―――実際、神経質なんだけどね。
私と同じ師匠の元で、召喚術を習っている男性で、名前はネスティという。
ま、私は何時も略した感じで、ネスと呼んでるけどね。
「まったく、幾ら君でも今日は寝坊をしないと思っていたが。
・・・分かっているのか、今日が何の日なのか?」
怒り心頭という感じで、あたしを口早に責めるネス
ぼやけていたあたしの頭に、今日という日がどういう日だったのかを・・・やっと思い出す事が出来た。
「・・・えっと、あたしが一人前の召喚師になる為の試験の日」
「分かっているのなら、早く着替えないか!!」
「・・・そこにネスが居ると、着替えられないんだけど、あたし
それとも、ネスはあたしの裸が見たいのかな?」
一応、これでもあたしは女の子だったりするんですけどぉ?
ショートカットの黒髪を怒りで震わせながら、あたしはネスの遥か下の位置から彼を睨みつけた。
確かに年齢の割に小柄な身体付きで、胸も小さいけどさ・・・
「だ、誰が君の裸なんか!!」
そんな捨て台詞を残して、ネスはあたしの部屋から慌てて出て行った。
・・・さすがのあたしも、ちょっと傷付いたよ、ネス(怒)
今でもまだ、信じられない・・・生まれも定かでないあたしが、こんな場所にいる事
きっかけは、事故だった。
自分がたまたま拾った綺麗な石が、召喚術を使う上で必要な魔石だった・・・
そして、あたしの無意識に放った「召喚術の暴走」により、街はメチャクチャになってしまった。
リィンバウム―――この世界に住む人達にとって憧れである召喚師
あたしにはその召喚師になる素質が、眠っていたわけである。
そして今まで、あたしは『蒼の派閥』という名前の、召喚師を育成する組織に預けられていたのだ。
まぁ、あたしには他に選択の余地は無かったしね・・・
「蒼の派閥、新人召喚師 トリス
ただ今参りました」
「おお、遅かったなトリス」
私の師匠にして、ネスの父親でもあるラウル師範があたしを見て優しく微笑んだ。
白くなった髪を短く切り揃えた、初老の優しそうな人だ。
「ふん、時間ギリギリか・・・てっきり試験が恐くなって逃げ出したと思ったぞ」
・・・試験官のフリップ師範が蔑んだ目で、あたしを馬鹿にする。
ラウル師範に比べて、随分と贅肉のついた身体に、はげかけた頭を薄い色の金髪が覆っている。
この人はとことんまでの権威主義者で、何処の馬の骨とも知れないあたしを毛嫌いしていた。
あたしとしては幾つか言い返してやりたい事もあるけれど、立場上それは無理な事だった。
ストレスが溜まるわ、まったく!!
「まあ時間が惜しい、さっそくこのサモナイト石を使って護衛獣を呼び出せ」
「はい」
サモナイト石とは、召喚術を使う上で触媒になる石だった。
あたしが引き起こした事故も、このサモナイト石に触れてしまった事で起こった。
今からする儀式は、自分の相性に合わせて異界に住む住人を、あたしを護衛する獣として呼び出す術だった。
「古き英知の術と 我が声によって 今ここに召喚の門を開かん・・・
我が魔力に応えて 異界より来たれ・・・
新たなる誓約の名の下に トリスが 命じる」
呪文を詠唱し、一つ大きく息を吸い込み―――
「呼びかけに応えよ・・・異界のものよ!!」
ドゴォォォォォォォォォォ!!!!
「のわぁぁぁぁぁ!!」
「何だ、この大爆発は!!
術の失敗か?」
「あ、あれ?」
今まで経験した事のない大爆発と振動に、ラウル師範とフリップ師範が慌て。
あたしは額に汗を滲ませていた。
そして、大爆発による粉塵が治まった後には―――
「・・・ここ、何処だ?」
黄色いヒヨコがプリントされたエプロンを着けた、短い黒髪と眼鏡をした青年が、料理に使うお玉を持って立っいた。
今の爆発の後なのに、何処かのほほんとした雰囲気を漂わせている。
そして、その青年の隣には・・・
「ここ・・・どこ?」
異世界の一つ、シルターンの特有の『着物』を着た、小さい少女が居た。
黒い髪を背中で綺麗に揃えた、10歳前後の少女・・・
でも、その頭から生えているキツネの耳を見る限り、召喚獣である事は確かだと・・・思う。
ま、それは別として、どうして2人も召喚しちゃったんだろ、あたし?
普通、呼びかけに応えるのは一人だけのはずなのに?
「君・・・誰?」
「お姉ちゃん・・・誰?」
同時にあたしを見つけた目の前の二人は、首を傾げながら質問をしてきた。
彼等は混乱している・・・ま、無理は無いか。
「ほう、シルターンの妖怪か・・・変化して日は浅いようじゃが、なかなか強い魔力を持っているようじゃな」
「あの、俺の質問・・・」
ラウル師範、思いっきりヒヨコ柄エプロンの青年の質問を無視
「へ〜、そうなんだ・・・見た目で判断しちゃ駄目って事ね」
あたしもその尻馬に乗って青年を無視・・・あ、部屋の隅でイジケてる。
「・・・ともあれ、お前と共に試験を受けるべき護衛獣はここに召喚された」
フリップ師範もあたし達の発言に力を得たのか、落ち着きを取り戻した声でそう宣言する。
―――この瞬間、間違い無くあたし達3人は心の通った仲間だった。
青年は壁に向かって何やら呟いており、そのエプロンの裾をキツネの護衛獣が掴んで懐いていた。
ま、まあ悪い人ではないのだろう・・・多分
「トリスよ、お前の召喚した僕達と共に、これより始る戦いに勝利せよ!!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!!
こんな小さい娘と、お玉が武器な青年と一緒に戦えって言うんですか?」
あまりの出来事にあたしは思わず叫んでいた!!
その大声にキツネの少女は怯え、その少女をヒヨコ柄青年が慰めている。
・・・どう見ても、戦力にならないぞ・・・あの二人
「お前達の敵は・・・コイツだ!!」
うわ、聞いて無い振りするし!!
「ヴォォォォオオオオオオオオ!!!!」
そして、なし崩し的にあたしの初戦闘は始った・・・
「一応、名前とかある?」
精一杯の笑顔を作り、背後の二人に尋ねる。
まるっきり無関係の上、こっちの都合で異世界から呼び出した二人・・・
あたしは呼び出した本人として、この二人を確実に守ろうと決意をしていた。
大丈夫、あたしが戦闘不能になれば・・・きっとラウル師範が助けてくれるはずだし。
その時は、あたしは既にこの世に居ないって事だけどね。
「・・・ハサハ」
ちょっと緊張しながらも、あたしの笑顔に少しは安心したのか、キツネの耳を持った少女が名前を名乗ってくれる。
「えっと、テンカ・・・じゃなかった浦島・・・ってココじゃ偽名の意味が無いか。
面倒だな、俺の事はアキトって呼んでくれ」
緊張感ゼロで、気軽にあたしにそう話し掛けるアキト
今も片手でハサハの手を握り、もう片手ではお玉をピコピコと振っている。
・・・なんで、こんな奴召喚しちゃったんだろ、あたし
「ああ、そうそう、質問があるんだけど・・・まさか、ここリィンバウムとか?」
「あら、知ってるのこの世界?」
意外な青年の言葉に、驚くあたし・・・
だけど肝心の質問をしてきた本人は、その場で頭を抱えて蹲っていた。
「やばい!! やばすぎる!!
何でまた呼び出されるんだよ!! 俺が何かしたっていうのか?」
「お兄ちゃん・・・大丈夫?」
・・・ハサハに心配される青年を見ながら、あたしはこの人駄目だ、と見切りをつけていた。
あたしの敵は俗に言うスライム系の敵だった。
確か青い2匹の敵はブルーゼリーで、背後に控えている黒い奴がダークジェル
・・・どちらかと言えば、魔術が得意なあたしにこの3匹を倒す力があるだろうか?
いや、諦めちゃ駄目だ・・・後の二人の為にも、あたしが倒してみせるんだ!!
「・・・お姉ちゃん、私も手伝う」
「え? ハサハちゃん!!」
あたしの隣に並び、震えながらも決意を述べるハサハ!!
その健気な態度に、あたしは感動をした!!
「あ〜、何か特異点でも集中してるのか・・・俺の周辺って・・・」
ピコピコとお玉を振り回して嘆いているアキト
・・・やっぱ駄目だ、あの人
「お姉ちゃん・・・くるよ!!」
「うん、無茶したら駄目だよハサハちゃん!!」
そして、あたしとハサハちゃんの戦闘が始った。
「はぁ、はぁ・・・ハサハちゃん、大丈夫?」
「うん、大丈夫・・・」
そう言いながらも、あたしもハサハちゃんも青白吐息だった。
ブルーゼリー二匹を何とか倒した時点で、あたしの魔力は尽き、ハサハちゃんも怪我を負っていた。
初めての戦闘による緊張感に加え、何かと理不尽な現実に対する怒りから・・・
あたしは自分の実力を出し切る事無く、危機に追い込まれていた。
・・・残りはダークジェルのみ
だけど、相手はブルーゼリーより強く、ましてや無傷の状態だった。
そして、まるであたしを嘲笑うようにゼリー状の身体をくねらせ、最後の敵が近づく!!
「・・・くっ、こんな所で!!」
歯を食いしばり、待ち受ける運命に逆らおうと己を叱咤する!!
「あ〜、まあ初戦闘にしたら頑張ったんじゃない?
後は経験を積めば良い召喚師になれるよ、うん」
・・・気軽にそんな事を言いながら、アキトがあたしとハサハの前を通り過ぎて行く。
突然の事態に驚き呆れるあたしとハサハの目の前で、ダークジェルの前に立ったアキトは・・・
「実力的にはコイツ等に負けてないよ、二人共
まあ、無駄な召喚術の連発と、敵の攻撃の見極めが失点だったけどさ」
背後から襲い掛かるダークジェルの攻撃を、まるで予定通りのように避ける。
馬鹿にされていると分かっているのか、敵の攻撃は激しくなる一方なのに・・・アキトにはかすり傷一つ付けられない!!
軽くステップをするだけで、尽く相手の攻撃を避け、次の瞬間には一瞬にして敵の背後に回りこんでいた!!
「とにかく、さっさっと片付けちゃおうかな?」
ブン!!
アキトは手に持つお玉を振り下ろした・・・ダークジェルの頭上に。
軽く振り下ろした感じのそのお玉は、敵の頭部にめり込み―――
メキャメキャメキャ!!
身体を押し潰しつつ―――
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
・・・召喚補助用とに石畳に書かれた、魔方陣を砕き―――
ズゥゥゥゥゥゥンンンンンン!!!!
「のおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「今度は何じゃ〜〜〜〜〜〜〜〜????」
『蒼の派閥』の一角・・・試験の間を壊滅においやった。
「・・・とにかく、合格おめでとう、トリス」
「・・・はぁ」
瓦礫から抜け出してきたラウル師範に祝いの言葉を貰いながら、あたしは冷汗をかいていた。
あたしとハサハは、アキトによって崩れ落ちる試練の間から助け出されたが・・・師範達は無視されたのだ。
アキト曰く――― 「あの高圧的な態度が気に入らなかったから」 だ、そうだ。
・・・過激派なのね、コイツ
ちなみに、ラウル師範の事は影が薄くて、忘れていたらしい。
とにかく、瓦礫に埋まったままのフリップ師範を、あたしの頼みにより瓦礫をお玉の一撃で粉砕して救い出し。
(どんな強度を誇ってるのよ、あのお玉(汗))
何とか合格の言葉をあたしに告げた後、フリップ師範はアキトから逃げる様にその場から去った。
『蒼の派閥』の一員と正式に認められたあたしは、今後、派閥の指示に従って働かなければならないそうだ。
追って沙汰があるまで、自室に居るようにとの事だった。
それが、フリップ師範の捨て台詞だった。
そりゃあ・・・ねえ・・・
ハサハの話し相手をしているアキトを見ながら、あたしは何てモノを召喚しちゃったんだろうと悩んでいた。
―――その後、ネスにアキトやハサハを紹介して、ラウル師範にも誉めて貰ったりした。
ネスがしきりにアキトの服装やお玉を不思議そうに見てたけど、その気持ちはあたしも一緒だ。
試練の間の崩壊の原因を告げると、気は確かか?と逆に心配された。
馬鹿にされたみたいで悔しいので、今度アキトの奴をネスにけしかけてやる事を心に誓う、勿論お玉で。
お玉にボコボコにされて、屈辱に震えるネスを想像したら一気に心が軽くなったのは、あたしだけの秘密♪
ハサハはあたしの護衛獣になる事を承諾してくれて、アキトは・・・面白そうだから、と快諾してくれた。
・・・まあ、非常識な一面を持っているけど、戦闘では頼りになりそうなので良しとしよう。
ハサハも懐いているしね。
暫くして、フリップ師範から手紙で今後の指示が届いた。
どうやら、本格的にアキトを恐れているらしく、あたし達に会おうともしない気のようだ。
手紙の内容は・・・まあ、旅に出て見聞を広め、世間に認められる活躍をしてこい、って感じだったな。
つまるところ追放だ、とネスは憤っていたけど・・・あたしは承諾した。
これ以上、あたしを庇ってラウル師範やネスが不利になるのは心苦しいし。
結局、あたしがこの派閥に無理矢理連れてこられて、召喚師になるように強制されたのと同じ。
・・・そう、同じ事なんだ。
夜空の月を、長年過ごした自室から見上げながら、あたしはそんな事を自分に言い聞かせていた。
代理人の感想
・・・・つける必要、あるのか?
などと思わないでもありませんが、まぁ一応(爆)。
しかし、私はサモンナイトは知らないんですが、召喚される方からしてみれば召喚師って
「勝手に別世界に呼び出した挙句、人をただでこき使う極悪人」なんじゃなかろうかと。
皆さんはそう思いません(笑)?
(そう言う意味では某召喚教師を思い出しますね(^^;)