サモンナデシコ

 

 

 

 

第三話 再会と別れ 〜 Parting Road 〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 謎の兵団に襲われたあたし達は、夜明けまで休む事無く逃げ続けた。

 何度も何度も、背後に敵が居ないかと確認をしながら・・・

 

 そして、ゼラムの街に辿り付いた時、一気に緊張が抜けたあたしは気を失ってしまった、

 その後は誰かに背負われて移動をしてた様な感覚が、微かに残るだけだった。

 

 

 

 

    チチチチ・・・

 

「う、ん〜・・・」

 

 朝日の光と、鳥の囀りに起されたあたしは寝惚け眼をこすりつつ身を起した。

 ベットの上に上半身だけを起こし、周囲を見渡す・・・

 そこは全然記憶に無い部屋だった。

 

「・・・スースー」

 

 直ぐ側で寝息が聞えたので隣を見てみると、そこにはハサハちゃんが寝ていた。

 この子も昨日の強行軍の疲れがあったのか、隣であたしが起き出しても起きる気配は無い。

 着ている服が寝巻きに変わっている事が、かなり気になるけど。

 

 ・・・少なくとも、あの兵団に捕まったとかなんてオチだけは無さそうね。

 

 ベットの隣にある小物入れの上に、あたしの着替えがきちんと畳まれているのを見て、あたしはそう判断した。

 

 

 

 

 

 

「おはよう、身体は大丈夫か?」

 

「あ、ネス・・・おはよう」

 

 服を着替えて、それでも用心しつつ部屋を出たあたしは。

 少し進んだ所にある広い応接室の様な場所で、ソファーに座るネスと遭遇した。

 

「何をビクビクしている?」

 

 あたしの不自然な動きを怪訝に思ったのか、ネスがそんな事を聞いてきた。

 あたしは寛いでいるネスを不思議に思いつつ、周囲を見ながらネスに逆に質問をした。

 

「だって・・・気が付いたら知らない部屋に寝かされてるし。

 このお屋敷ってネスの知り合いが住んでるの?」

 

「ああ、そういえば君は知らなかったんだな。

 この屋敷はギブソン先輩とミモザ先輩が住んでいる屋敷だ」

 

「ええええええええ???!!!!」

 

 ・・・し、知らなかったわ、先輩達がこんな豪邸に住んでるなんて。

 う〜ん、お金持ちなんだ先輩達って。

 

「朝から騒がしいな、トリス

 お陰で目が醒めちまったぜ」

 

 頭を掻きつつ、フォルテ登場

 寝癖が付いている髪を見る限り、本当に今まで熟睡してたんだろう。

 

「あなたは寝過ぎなのよ、トリスとハサハちゃんと違って身体が資本の戦士でしょう?

 アキトなんか朝市にまで顔を出して、今じゃアメルと一緒に厨房で朝御飯を作ってるわよ」

 

「・・・あのアキトと比べられてもなぁ」

 

 ケイナの台詞に、頬を引き攣らせて反論をするフォルテ。

 でも、その気持ちはあたしもネスも理解出来るので、何も言うことはなかった。

 

 ―――その時、あたしの脳裏に浮かんだのは、蒼銀の輝きを宿した左腕を振るうアキトの姿だった

 

 本当に、何者なんだろう・・・あの男は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 和やかな筈の朝食は緊張に満ちていた。

 何時ものラフな格好のミモザ先輩と、何時ものローブ姿のギブソン先輩の視線は一ヶ所に集中している。

 それなのに、無言のまま食事を続けるものだから、同じ席に付いてるあたし達は無闇にプレッシャーを感じていた。

 あのフォルテでさえ、何時ものふざけた態度をとれずに大人しくしている。

 

 で、この雰囲気を作り出した大元の元凶と思われる人物は・・・

 

「お代わりは沢山用意してあるからさ、じゃんじゃん食べてよね」

 

 ニコニコと朗らかに笑っていたりした。

 アキト、あなた一体先輩達とどんな関係があった訳?

 

 で、朝食終了後・・・その事を問い詰める前に、アキトはギブソン先輩とミモザ先輩に連行されてしまった。

 あたし達は手を振ってアキトを見送る事しか出来なかった。

 

 ・・・だって、ミモザ先輩の目が本気で恐かったんだもん。

 

「ネス、あなた何か先輩達から聞いてる?」

 

 あの二人のあそこまで真剣な表情は初めて見た。

 

「いや、昨日は僕が先輩達に簡単に事情を話して宿を貸してもらったんだ。

 ロッカとリューグが逃走途中ではぐれた以上、アメルの事を先輩に相談しようと思ったからな。

 ・・・了解を得た後で、アキトには君とハサハを運んで貰った。

 どうやら、先輩達とはその時に顔を合わせなかったみたいだな。

 だから僕にも先輩達とアキトの関係は何も知らない。

 ああ、心配しなくても君を着替えさせたのはアメルとケイナだ」

 

「そ、そうなんだ」

 

 自分が寝巻きに着替えていた事を思い出し、赤面していたあたしの誤解をネスが解いてくれた。

 しかし、何処で知り合ったんだろう・・・先輩達とアキトは?

 

 

 

 

 

 

 

 その後あたし達は、アメルの身の振り方を相談したり。

 ロッカとリューグの事を心配したりと、色々と頭を悩ましていた。

 ・・・少なくともあたしの記憶では、レムル村に続く森から逃げ出す所までは一緒だった。

 最後まで殿を務めていたアキトも知らない以上、何処ではぐれたのかは分からない。

 でも彼等もそれなりの強さを持つ戦士だ、そうそうやられるとは思いたくないな。

 

 それとアメルは、当分あたし達と行動を共にすることになった。

 彼女に不思議な力がある事は確かだし、その身柄を謎の兵団が狙っている事も確かだった。

 王宮に保護を依頼する案もあったが・・・彼女を保護するより、その身を兵団に渡す可能性が高かったのだ。

 王国の平穏を得る為ならば、個人の犠牲はやむをえないと判断されるかもしれない。

 もしくは、その神秘性を利用される恐れもあった。

 それに、兵団が何故アメルに拘るのか・・・あたし達にはそれが一番気になったのだ。

 確かに癒しの力は興味深いが、村を焼き払ってまで手に入れる価値があるものだろうか?

 兵団の狙いがはっきりしない今は、下手にアメルの身柄を扱う事が躊躇われた。

 

 故郷であるレムル村を焼かれ、幼馴染とはぐれ、育ての親ともはぐれてしまった・・・

 それでも気丈に振舞おうとするアメルを、あたしはただ応援する事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

    ダダダダダダダダダダダ!!!

 

                     バタン!!

 

「ミ、ミモザ先輩?」

 

 大きな音を立てて開かれたドアに、全員の視線が集中する。

 そこには大きく肩で息をするミモザ先輩が居た。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・アキトの奴は来なかった?」

 

「いえ、ここには来ていませんけど?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・しくじったわね、三階の窓から両手両足を縛られた状態で飛び降りるとは思わなかったわ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・は?」(その場に居た全員)

 

 両手両足を縛って、って。

 何をしてたんですか、先輩達は?

 

「以前も人間離れした奴だと思ってたけど、更に進化してるとは思わなかったわ。

 こっちの質問はのらりくらりと誤魔化すばっかりだし!!」

 

 ・・・・・・・・本当〜に、どんな関係なんだ?

 ぶつぶつと何やらアキトに対する文句を言うミモザ先輩を前に、あたしは首を傾げる。

 

「ミモザ!! 壊れた手枷と足枷を庭で見つけたぞ!!」

 

 そう言って部屋に入ってきたギブソン先輩は、鋼鉄製の歪んだ枷を手に持っていた。

 あの枷を素手で捻じ切ったの・・・あのアキトは?

 

「くっ!! やはり以前より格段に進化してるみたいね!!

 ギブソン、直ぐに探索にでるわよ!!」

 

「ああ、分かった」

 

 そして、二人は入って来た時と同じ様に、凄い勢いで部屋を出て行った。

 あたし達はそんな先輩達を、ただ見送る事しか出来なかった。

 

 

 

 しかし、何処に行っても騒動の火種になる男ね・・・アイツは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お代わりは沢山用意してあるからさ、じゃんじゃん食べてよね」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」(食卓の全員)

 

 朝と変わらぬ笑顔で、同じ台詞をぬけぬけと言うこの男・・・晩御飯時には先輩達の屋敷にきっちり帰っていた。

 疲れた顔で後から帰ってきた先輩達は、憮然とした表情でアキトを見ながら食事をしている。

 ・・・まあ、作る料理自体は凄く美味しいので文句は無いんだけどね。

 

「で、昼間は何をしてたの?」

 

「ん? 特に何も用事が無いから市場を散歩をしてたよ。

 そうそう、ミニスちゃん・・・えっと、あの金髪の女の子と会ってね。

 何でも探し物をしてるらしくてさ、その子と一緒に探し物の手伝いをしてたんだ」

 

 へ〜、あの子も逃げ出すのは止めたんだ。

 でも話してみれば結構気の良い奴だと分かるしね、このアキトは。

 

「・・・・そっちも相変わらずなわけね(ぼそっ)」

 

「・・・そうみたいだね」

 

 ・・・先輩達の小声の呟きが、ちょっと気になるけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして次の日、市場に買い物に出ていたあたしとハサハちゃん、それにネスとフォルテはあの兵団に襲われた。

 

       ―――キィン!!

 

「ちっ!! 王宮のお膝元で随分大胆だな!!」

 

 襲い掛かってきた敵の攻撃を防ぎつつ、フォルテがそう叫ぶ。

 確かに王宮のある街で騒ぎは起こさないだろうと油断したあたし達も迂闊だった。

 しかし、それ以上に形振り構わぬ敵の強引さに、あたしは戦慄を覚えた。

 

「トリス!! ハサハ!! 二人は背後を警戒してくれ!!

 僕はフォルテの援護をする!!」

 

「分かった!!」

 

「・・・うん」

 

 ネスの指示に従い、遠距離から目の前の敵を召喚術で攻撃する。

 初めての戦闘の時に比べて、あたしも成長はしている!!

 使える召喚術も増えたし、なにより戦闘という場の緊張感に萎縮する事は無くなっていた!!

 それはハサハちゃんも同じで、的確にあたしのフォローをしてくれている。

 

「貴様等!! 名前ぐらい名乗ってみろ!!」

 

「・・・冥土の土産に教えてやる、僕の名前はイオスだ」

 

 鋭く槍を繰り出すイオスと名乗った少年の攻撃を、なんとかギリギリで防ぐフォルテ。

 この黒い服を着た金髪の少年・・・イオスがこの兵団に命令を出していたのだ。

 ただでさえこちらの方が数が少ないのに、イオスは相当の手錬のようだ。

 あたしやネスもフォルテの手伝いをしたけれど、他の敵が押し寄せてくるので手が放せなかった!!

 

 そして、フォルテがイオスの槍を避けた時にバランスを崩した瞬間―――

 

「一人でも生き残っていれば、聖女の居場所は聞きだせる!!

 貴様に恨みは無いが、死ね!!」

 

「待て!! そうはさせんぞぉぉぉ―――??????」

 

 

      ドゴォォォォォォォォッォォォォォォ!!!!!

 

 

「「ぐはぁ!!」」

 

 ・・・突然現れた、見覚えのある赤毛の少年と、フォルテに止めを刺そうしていたイオスを弾き飛ばし。

 これまた以前と同じ様に、見覚えのある黒いモノが石畳を抉って止まる。

 何が起こったのか理解出来ないまま、その場にいた全員の動きが止まった。

 

「ググッ、マタシテモ貴様!!

 何処マデ我等ノ邪魔ヲスルツモリダ!!」

 

 ギシギシと音を立てながら、例の機械人形が身を起す。

 その漆黒のボディにお玉の形に凹みが出来ているのが、何だか笑えるのは何故だろう?

 

「・・・いや、どちらかというとそれは俺の台詞」

 

 前回と同じ様に、アメルやミモザ先輩やケイナを庇いながらお玉片手に現れたのは、アキトだった。

 どうやら、敵は部隊を二つに分けていたみたいね・・・あっちの部隊に居た兵士は運が無かったわけだ。

 

 

 

「リュ、リューグ!! 死ぬな!! 死ぬんじゃない!!」

 

「あ、兄貴・・・親父とお袋が俺に手を振ってるんだ・・・」

 

「リュ〜〜〜〜〜〜〜グ!!」

 

 

 ああ、リューグだったんだ・・・さっき機械人形に跳ねられた人。

 なんともタイミングが悪いと言うか、御愁傷様と言うか・・・

 じゃあ、リューグの肩を揺すってるのは兄のロッカかな?

 

 リューグの危機を知り、アメルが急いでその元に駆け出していた。

 そのアメルを捕まえようと兵団が動こうとするが、ミモザ先輩達や後から現れたギブソン先輩が邪魔をする。

 アキトは先輩達に任せればアメルは大丈夫だと判断したのか、ゆっくりと機械人形に向けて歩を進める。

 

「さて、と・・・何故アメルちゃんを狙うのか話して貰おうかな?」

 

 相変わらず、お玉を片手に緊張感の無い声と顔でそう問い質すアキト。

 だが、その底知れない実力の凄さは、二度も吹き飛ばされたこの機械人形が一番知っているだろう。

 

「うううう、ゼルフィルド・・・一体何が起こったんだ?」

 

「イオス、気ガ付イタノカ?」

 

 気絶から醒め、身を起そうとするイオスを機械人形・・・ゼルフィルドが押し止める。

 どうやら意外と打たれ弱い少年のようだ、あのイオスは。

 ゼルフィルドに助け起されながら、周囲の状況を見たイオスは瞬時に自分達の不利を悟ったみたいだ。

 凄い目で目の前に居るアキトを睨みつけ、歯軋りをしている。

 しかし、アキトはそんなイオスの視線を軽々といなしていた。

 

「・・・引くぞゼルフィルド、予想以上に時間が掛かりすぎた」

 

「・・・了解シタ」

 

 逃げ出そうとする二人を捉えようとアキトが動こうとした瞬間、ゼルフィルドが自分を指差して叫ぶ!!

 

「動クナ!! 私ノ自爆装置ヲ作動サセルゾ!!

 半径100mハ吹キ飛バス事ガ可能ダ!!」

 

 その叫びを聞き、憮然とした表情でその場に止まるアキト。

 アキトだけならば迷わずゼルフィルドを倒したかもしれないが、ここは市街地だった。

 流石に市民を爆発の犠牲にする訳にはいかず、アキトも追撃を諦めたみいだ。

 

「・・・貴様、名前は何と言う?」

 

 ゼルフィルドに背負われながら、イオスが尋ねた。

 

「テンカワ アキト・・・職業はコック」

 

「くっ、最後まで馬鹿にしてくれる!!

 貴様の顔は絶対に忘れないぞ!!」

 

 そんな捨て台詞を残し、兵団は逃げて行った。

 下っ端が大した情報を持っているとは思えず、逃げ出す敵をこちらも追いかけるつもりは無かった。

 

「・・・・本当に職業はコックなのに」

 

「それを信じろと言う方が無謀だ!!」

 

 仲間全員の突っ込みを受け、地面に指先でのの字を書くアキトだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜半・・・傷の癒えたリューグとロッカとアキトが、屋敷の庭で何やら口喧嘩をしているのをあたしは見かけた。

 手を出せば一瞬で決着がつくのが分かっているのか、リューグは最後までアキトに口で文句を言っていたが・・・

 やがて、悔しそうに唇を噛みながらその場を後にした。

 その後姿を、ロッカは複雑な顔をして見送っていた。

 

「ねえ、何を喧嘩してたの?」

 

 何時までも立ち尽しているロッカに、あたしは話し掛ける。

 アキトは既に自分に割り当てられた部屋に戻っていた。

 

「ああ、トリスか・・・リューグがね、復讐の為に自分を鍛えてくれとアキトに頼んだんだ。

 それをアキトが断って、復讐よりアメルを守るべきだって説得しようとした。

 ・・・それで、リューグと口論になってね」

 

「ふ〜ん・・・」

 

 故郷を滅ぼされた怒りはロッカも持っていると思う。

 リューグの怒りももっともだし、アキトの言い分も分かる気がする。

 ・・・だけど、あたしにはどちらが正しいのかはっきりとは判断出来なかった。

 ただリューグからすれば、アキトの強さは喉から手が出るほどに羨ましいだろうと・・・それだけは嫌でも分かってしまった。

 

「リューグ、大丈夫だよね?」

 

「アイツも頭が冷えれば、復讐よりアメルを守る事のほうが大事だと気付くさ。

 ただ、今はまだ無理なだけさ」

 

 そう言って、ロッカは自分の部屋へと向かって行った。

 あたしは、故郷を失った気持ちとはどんなモノなのだろうかと想像しつつ、自分の部屋へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 そんなあたし達の悩みや悲しみを、月だけが静かに見ていた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

 

・・・・おお、何か後書きを書くのが新鮮に思えるな(笑)

まあ、この時間のアキト君はちょっと芯の強いアキト君を目指しています。

物語の視点はトリスのもので進みますけどね。

宜しければ、最後までお付き合い下さい。

 

それでは。

 

 

代理人の感想

そういえば前回は後書きがついてなかったな〜。

余裕ができたってことでしょうか?(笑)

 

芯が強い・・・・う〜ん、僕にはよくわかんないや(爆)。

 

ところで托塔天王さんはサモンナイト2のヒロインではウェイトレスと半裸少女がお気に入りとのこと。

・・・・・なんとはなしにいかがわしい取り合わせと思うのは私だけか(爆)?