サモンナデシコ

 

 

 

 

第五話 はかなき平穏 〜 Black chasers 〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日、ピクニックに行く」

 

「・・・は?」

 

 夕食が終わり、全員が食後のお茶を飲んでいる食堂で、ミモザ先輩がそんな宣言をした。

 あたしを含めて、全員が動きを止めている中・・・ギブソン先輩がお茶を啜る音だけが、やけにはっきりと耳に聞えた。

 

「そういう訳でアキト、明日のお昼は人数分のお弁当を作るように」

 

「うん、了解」

 

 何の疑問も持たないのか、ミモザ先輩の言葉に気安く頷くアキト。

 本当に今の事態が理解できているのかどうか、そののほほんとした脳味噌に直接問い質したい気分だわ。

 ・・・本当に何を考えてるんだろう、この男?

 

「あのミモザ先輩・・・アメルが狙われている以上、ピクニックなど自ら危険に飛び込むだけだと思いますが?」

 

「それは、そうかもね。

 でも今のままだと、敵に連れ去られるより、貴方達と一緒にストレスで倒れる方が先だと思うわよ?」

 

 恐る恐るという感じで、ミモザ先輩に自分の意見を述べるネス。

 しかし、先輩はそんなネスの意見を聞きながら、テーブルに座るあたし達を見回してそんな返事をした。

 その眼鏡越しの鋭い視線に気圧されたように、あたし達は思わず椅子ごと少し後退る。

 

「・・・この中で、精神的に参っていないのは〜

 辛うじてフォルテだけかな、アキトは問題外」

 

「そりゃ、どうも」

 

「・・・酷い」

 

 フォルテが片手上げて微笑むのに対して、アキトはブツブツと小声で文句を言っていた。

 あたしを含む他の面々は先輩の言葉を否定したかったけど、実際にかなりの閉塞感を感じてもいたので強く反論は出来なかった。

 

 黙っているあたし達を見回していたミモザ先輩は、いじけているアキトを指差しながらこう宣言した。

 

「この『のほほん男』は別問題として、皆揃って鬱状態じゃない。

 フォルテは辛うじて自分を保ってるけど、このままだと皆揃って潰れるわよ?

 ちょっとは気分転換でもしないと、自爆するのが落ちね」

 

「ですが、アメルが狙われているのは事実ですし・・・」

 

 ネスがミモザ先輩の勢いに圧されながらも、何とか反撃を試みる。

 

「そんな時の為に、あんた達が揃って付いて行くんでしょうが?

 心配しなくても、私とギブソンも付いて行くし、そこのイジケ男がいる以上、下手な手出しはできないわよ」

 

 ―――その一言が最後の決め手だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようぅ〜アキト〜、アメル〜

 朝早いね・・・アンタ達」

 

「・・・トリスちゃんが遅いだけだよ」

 

「あ、おはようトリス」

 

 寝惚け眼をこすりつつ、あたしが顔を洗おうと洗面所に行くと、そこには洗濯物の山を担いだアキトとアメルが居た。

 現在の先輩宅での家事一般は、この二人が担当をしている。

 誰が頼んだわけでもないけれど、アキトは自分から食事担当を申し出て、アメルは掃除や洗濯をすると言い出した。

 まあ、アメルからすれば動いている方が気が紛れるという部分もあったと思うけど。

 

 ・・・アキトの奴は純粋に趣味だろうと、あたしは思っている。

 

 何しろ、お玉が自分の武器だと言い張る奴だし。

 

「お昼前には出掛けるからね、ちゃんと身支度をするように」

 

「するように」

 

 アキトの小言に追加する形で、アメルまでが小言を言う。

 外に出られるのが嬉しいのか、前日まで懸念されていた暗い陰のようなモノは見られない。

 やはり人間、閉じ込められた状況に何時までもいるのは、心身ともに宜しくないという事かな。

 

「はぁ〜い、了解でっす。

 ・・・あれ、ハサハちゃんは?」

 

 バシャバシャと顔を水で洗いながら、ふと思い出したハサハちゃんの事を尋ねる。

 今朝まで一緒の部屋に寝ていたはずなのに、あたしが起きた時にはその姿はもう無かった。

 あたしはアキトの側に居ると、思っていたんだけどな? 

 

「先に朝御飯を食べてるよ。

 トリスちゃんが来るまで待ってるって言ってたけど、全然起きてくる様子が無かったからね」

 

 ・・・・・・・・面目無いです。

 

 あたしはアキトのジト目とアメルの笑い声を聞きながら、急いでハサハちゃんが居る食堂に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん、あの店に行こうよ」

 

「え、出店?

 ・・・ハサハちゃん、一度入った事あるの?」

 

 朝食が終った後、あたしはハサハちゃんと一緒に散歩に出ていた。

 ピクニックは昼前からだし、まだ時間は余っていた。

 

 そんな散歩の途中で、ハサハちゃんが指差したのは『蕎麦処あかなべ』と書かれたのぼりを出す屋台だった。

 

「いらっしゃい。

 おや、ハサハちゃんじゃないか、今日はアキトさんと一緒じゃないんだね?」

 

「・・・(コクコク)」

 

「え、アキトの知り合い?」

 

 髪の毛を肩の辺りまで伸ばしている、浅葱色の服を着た男性がハサハちゃんにそんな挨拶をした。

 笑っているせいなのか、目が糸目になっているのが特徴的だ。

 そしてその男性の挨拶を聞いたハサハちゃんが、何時ものように小さく頷く。

 あたしはその屋台の店主らしい人物の言葉に、思わず聞き返していた。

 

「おや、貴方は?」

 

「あたしは、このハサハちゃんとアキトを召喚した召喚師です」

 

「ほぉ・・・それはそれは。

 貴方があのアキトさんを召喚した方ですか」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・微妙に驚いてない?この店主?

 

 一瞬、糸目を大きく開いた店主に、あたしはアキトとこの店主の関係を疑う。

 しかし、「あのアキトさん」って・・・またあたしの知らない所で、何か仕出かしたのか、あの男?

 

 などと取り止めの無い事をあたしが考えていると、店の店主が微笑みながら話し掛けてきた。

 

「そういえば自己紹介をしていませんでしたね。

 私はこの『蕎麦処あかなべ』の店主をしている、シオンというものです」

 

「あ、あたしの名前はトリスです」

 

 結局、その後はアキトの事を聞くタイミングを外されてしまい、シオンさんに何も聞けなかった。

 時間の都合を考えて、お蕎麦も食べずに店を出たけれど。

 ハサハちゃんは油揚げをシオンさんから貰って、凄く嬉しそうだった。

 

 ・・・・アキトと蕎麦屋の主人に、どんな繋がりがあるわけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、あたしは獣人の少女ユエルと再会した。

 アキト(本当はアメル)に叱られてから盗みはしてないと、あたしに話してくれた。

 うんうん、それは良かった♪

 

 ちなみに、帰り道の途中で紅いチャイナ服を着た女性と、アキトらしき人物が何か話をしているのを見かけた。

 大分距離が離れていたから、確信は持てないけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜、良い天気だねぇ〜」

 

「・・・・・・・・君はトリスより能天気だな。

 いいか、僕達は謎の武装集団に狙われているんだぞ?」

 

 何時もの如く、大荷物を背負ったアキトの台詞に。

 ネスが額に青筋を浮かべて噛み付いている。

 そんなに怒ってばかりだと、禿げるよネス?

 

「あ、あの休憩所だ〜

 何だか懐かしいね、ハサハちゃん」

 

「・・・(コクコク)」

 

「え、あの休憩所で何かあったの?

 ねえねえ、トリス教えてよ」

 

 遠目に見える例の休憩所に、あたしとハサハちゃんがはしゃぐ。

 それを聞いて、隣を歩いていたミニスがあたしにその時の話をして欲しいとせがんできた。

 ・・・ネスはもう何も文句を言う気になれないのか、ブツブツと小声で何かを呟きながら一人で歩いている。

 

「まあ、実際息が詰りそうな感じだったからな〜

 こうやって気分転換するのも悪くないな」

 

「フォルテは何時ものびのびしてると思うけど?」

 

「俺もそう思う」

 

「・・・・・・・お前等な」

 

 こちらはフォルテとケイナとリューグの三人の会話。

 アメルとミモザ先輩、それにギブソン先輩はアキトと一緒に少し後を歩いてる。

 ここからは微かにしか聞え無いけど、どうやらミモザ先輩がアキトをからかってるみたい。

 

 そんな風に賑やかに騒ぎながら、あたし達はピクニックの目的地・・・フロト湿原に辿り付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえねえ、お姉ちゃん。

 湿原・・・って何?」

 

「う・・・」

 

 ハサハちゃんの真っ直ぐな視線と、真っ直ぐな質問に動きを止める。

 視線でネスに助けを求めると・・・・視線を逸らして笑ってるよ、あの男。

 

「湿原っていうのはだな、湖や沼に生えていた植物が腐らずに堆積した土地の事を言うんだ。

 この堆積した植物が、時間が経つと泥炭に変化するんだ。

 それとこういう排水の悪い、平坦な土地だと湿原になりやすいわけだ。

 ついでに注意をしとくけど、湿原は足を踏み入れると、その部分には二度と植物が生えなくなる。

 だから、設置されている木の板の上を歩くんだぞ?」

 

 ・・・意外な人物が、意外な知識を披露した瞬間だった。

 

「おお〜〜〜〜〜〜」 × フォルテを除く全員

 

「・・・お前等、俺の事なんだと思ってるんだ?」

 

「だって、そんな知的な説明って、フォルテのイメージじゃないもん」

 

「ぐはっ!!」

 

 全員から『信じられないモノを見た』視線攻撃を受け、さすがに額に汗を浮かべるフォルテだった。

 そんなフォルテに、ミニスの一言が止めにクリティカルしていた。

 でも本当に驚いたね、あたしは。

 

 その後は、いじけるフォルテをケイナが慰めたり、全員で楽しくお昼を楽しんだりした。

 フォルテの忠告を守って、あたし達は湿原には降りずに、鳥や魚を見付けてはしゃいでいた。

 アメルも大分明るく笑っていたので、あたしも何だか嬉しくなってしまった。

 

 

 そんな風に楽しくピクニックを満喫している時、あたしはアキトの姿が消えている事に気が付いた。

 今までの経験上、それが何を意味しているのか・・・あたしは直ぐに理解した。

 

「ネス!! アキトが居ない!!」

 

「何だって、それは本当かトリス?」

 

「何だ、また女性を追いかけてるのか?」

 

「「「「「「そんな訳あるか!!」」」」」」

 

 フォルテ、見事に先程の知的なイメージをぶち壊し。

 全員のジト目を受けて、今度は違う意味の汗を掻くフォルテだった。

 

「・・・やっぱり、アイツ等だ!!」

 

 そんなあたし達も、例の兵団を見つけたリューグの叫びにより、一気に気持ちを引き締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!! 足場が悪すぎるぜ!!」

 

       キン!!

 

 敵の繰り出した剣の一撃を弾き、返す刀でその胴を豪快に薙ぎ払いながらフォルテがぼやく。

 その背後では、ケイナが弓で確実に敵の足止めをしていた。

 

「ミニス!! リューグより前に出たら駄目だよ!!

 ハサハちゃん、後ろから敵がこないか見張ってて!!」

 

「分かってるよ、トリス!!」

 

「うん、お姉ちゃん」

 

 あたし達は一本道の木の板の上で、リューグを盾役にして背後から召喚術を行使する。

 リューグとしては攻撃より守備に専念できるので、まだまだ敵の攻撃に耐えられると思う。

 

「ヒポス&タマス!!」

 

「リプシー!!」

 

 先輩達は少し離れた場所で、アメルを庇いながら戦っている。

 あそこのペアはあたし達より遥かに実力が上だから、アメルの心配をする必要は無いかな?

 

「ぐっ!!」

 

「リューグ?」

 

       ドカッ!!

 

 突然後に吹き飛んできたリューグに巻き込まれて、あたし達は木の板の上に転がる。

 一番下にされたあたしは呻き声しか上げられない!!

 

「うにゅ〜、何があったの〜?」

 

 ミニスが目を回しているのか、呂律がまわらない声で悲鳴を上げている。

 ハサハちゃんが一生懸命に、一番上のリューグをどかそうとしているけど、力が足りないみたい。

 

「・・・悪い、強敵が出てきたんだ」

 

 リューグが怪我をした肩を庇いながら立ち上がる。

 その視線の先には、隙も見せずに槍を構えたイオスが居た。

 

「そちらから出てきてくれたのは好都合だ。

 俺達をおびき出すとは度胸は良いが、実力が足りなかったみたいだな」

 

「くっ、馬鹿にするな!!

 お前一人くらい、僕で十分―――」

 

 

「マタ、貴様カ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

 

 その時全員の視線が、空を飛びながら叫ぶ黒い物体に吸い寄せられていた。

 そして黒い物体は減速をするはずもなく、そのまま湿原の外れにある大地に突き立った。

 

 

   ドゴォォォォォォォォンンンンン!!!!!

 

 

「・・・・・・・・あ、何だかあたし空を飛んでた人が予想できちゃった」

 

「・・・・・・・僕はそれをした犯人まで予想できるよ」

 

「ゼ、ゼルフィルド〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

 今回は頭から地面に突き立ってる相棒を心配して、急いでその場に駆け寄るイオス。

 頭部が完全に地面にめり込んでるので、そのまま倒れる気配は無いけど。

 

 イオスが近くにいた兵士を呼びつけ、何とかゼルフィルドを回収するのをあたし達は見ていた。

 その隙をついて、分散していた皆もあたし達の所に集まる。

 

「イ、イオス・・・スマナイ、背後カラの奇襲ハ失敗ダ。

 マタアノ男ニ邪魔ヲサレタ、ガガガガガガガ」

 

「喋るんじゃない、ゼルフィルド!!

 何だか不気味なスパークが身体中から出てるぞ!!」

 

 あ〜、それは確かに恐いわ、うん。

 青い顔でゼルフィルドに安静にしろと言うイオスの意見に、あたしを含めて数人が頷いた。

 

「貴様!! 一度ならず二度ならず三度までも邪魔するのか!!」

 

 イオスの視線の先には―――

 

「・・・いや、どちらかと言うと君達の執念深さに驚いてるよ、俺も」

 

 今回はお玉で肩を叩きながらの登場だった。

 

 

 

 

 

 

「貴様に!! 貴様に何が分かる!!

 団長の苦しみも何も知らないお前が!!」

 

 次々と繰り出されるイオスの槍を、体捌きだけで避けるアキト。

 あたしの目からは当たっているとしか思えない攻撃も、実はギリギリの距離でアキトが避けているんだろう。

 

「と言われてもな〜

 俺はその団長と会った事無いし?」

 

       キン!!

 

 お玉の玉の部分で槍の先を受け止め、イオスの動きを止めるアキト。

 それだけの行為なのに、何故かイオスは槍を引く事も出来ず視線でアキトを睨み付ける。

 

「我々にはどうしても聖女が必要なのだ!!」

 

「本人の意思を無視している以上、俺はアメルちゃんを渡すつもりは無いね」

 

 イオスの懐に一瞬にして潜り込んだアキトが、少しだけ動いた瞬間―――

 

「―――っ!!」

 

 イオスはゴムボールのように凄い勢いで後方に飛んでいった。

 その軌道を呆れた顔で追い駆けるあたし。

 そしてイオスが着地した先は、ゼルフィルドが横たわる大地の上だった。

 

「う・・・まだだ、俺は負けていない!!」

 

 震える手を地面に突き立て、何とか立ち上がろうとするイオス。

 その姿に、先程のアキトの攻撃の凄さが伺える。

 アキトはそんなイオスの姿を静かに眺めていたけど、何故か再び構えをとった。

 

「ここは下がれ、イオス」

 

「団長!!」

 

「あ!! あの野郎はレルム村を襲撃した兵団の、親玉じゃねぇか!!」

 

 漆黒の鎧と兜を身に付けた人物の登場に、敵も味方もその動きを止めた。

 でもその正体だけは、フォルテの叫びにより判明した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・しかし、見事な腕前だな。

 我が団でも屈指の実力者である、イオスとゼルフィルドを子供扱いとは」

 

「幾ら誉めても、アメルちゃんは渡さないぞ?」

 

 漆黒の鎧の兵士と向き合いながらも、アキトの声も態度にも動揺は無かった。

 逆にあたしは、その漆黒の兵士から放たれる威圧的な雰囲気に飲まれて、身動きが出来ない。

 

「我々としてもこれ以上、無駄な怪我人は出したくない。

 貴様がどれほど強くても、これはデグレアという国が動いている作戦だ。

 個人の力では、最早どうにもならないレベルなのだ。

 ・・・今ここで、その聖女をこちらに渡す方が利口だと思わんか?」

 

 デグレア・・・そんな、あの崖城都市デグレアがこの事件の黒幕なの!!

 

 相手から明かされた衝撃の真実に、あたしは自分の顔色が青くなっていく事を感じた。

 

「ふ〜ん、国が相手ね・・・」

 

 一人だけ何時もの口調と態度のアキトは、視線をアメルに向けた。

 そして、アメルが青い顔で震えてるいるのを確認すると・・・何時もの笑顔で頷いた。

 

「急な話なだけに、アメルちゃんも混乱してるみたいだな。

 とにかく今は・・・消えろ」

 

           ビシッ!!

 

 ・・・そこでお玉じゃなくて、剣で相手を指差したら・・・ヒーローなんだけどな、コイツ

 デグレアの将軍らしき漆黒の鎧の男性も、どう反応していいのか迷っているみたい。

 

 暫くの間、あたし達とアキトを見回していたけど。

 

「・・・今日はここで引き上げよう。

 良く考えておくんだな、今後の身の振り方を。

 愚かな答えを出さないようにな」

 

「それを決めるのは俺じゃない」

 

 背中を向けて歩き去る漆黒の鎧の将軍に、アキトがそんな返事をしていた。

 

「待ちなさいよ!!

 あんた、名前くらい名乗りなさいよ!!」

 

 あたしがやっと搾り出せた言葉は、それだけだった。

 

「・・・ルヴァイド、それが俺の名だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵の正体が分かったのは収穫だけど・・・余計にややこしくなったわね」

 

 その日、どうにも寝付けないあたしは、食堂で明日の料理の仕込をしているアキトを見付けた。

 そのまま作業を続けるアキトの隣で、椅子に座ったまま愚痴をこぼす。

 

    ジャッジャッ・・・

 

 ジャガイモの皮を器用にナイフで剥き、そのまま水が満たされた鍋に入れる。

 ・・・明日はシチューでも作るつもりなのだろうか?

 

「う〜ん?

 それはそれで仕方が無いよ。

 それとも相手が一国の兵団で、国の陰謀に巻き込まれそうだから・・・アメルちゃんの事は見放す?」

 

 何時もの口調で、何時ものように笑いながらアキトはあたしに尋ねてきた。

 

「そ、それは・・・分からない」

 

「そうだよね、これは本人の問題だから。

 アドバイスや、気休めの言葉は掛けれても、決めるのはアメルちゃんだ。

 アメルちゃんが「もうどうでも良い」って諦めるなら、俺達が何をしても無駄かもしれない。

 本人に生きる意思がなければ、その場を凌げても、自滅するだけだしね。

 でも「何が何でも逃げ延びる」って叫ぶなら・・・どうする?」

 

「何がなんでも逃がしてみせるわ!!

 国一つが女の子一人を狙っているんだもん、きっと酷い事にしかならない!!」

 

 握り拳を作りながらあたしは即答した。

 

「じゃ、それでいいじゃないのかな?

 俺はトリスちゃんに召喚された立場だからね、理不尽な事を言われない限りその命令を遂行するだけさ。

 そう、だから国の思惑なんて関係無いんだ」

 

 ・・・その割には勝手に出歩いて、裏で暗躍してると思うんだけどな、この男。

 

 ジト目であたしが背中を見ているのを気付いてると思うけど、アキトはそしらぬ振りで料理を作っている。

 でもこの男は、国を相手に個人が戦いを挑む困難さを、本当に理解しているのだろうか?

 

 昼間の疲れが出てきたのか、閉じそうになる瞼にその背中を焼き付けながら。

 あたしは眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

このシリーズもとうとう第五話ですか。

う〜ん、頑張ってるな〜(笑)

 

 

 

代理人の感想

最近後がきが短いなあ・・・・・・托塔天王さんも余裕が無くなってきたか(爆)?

 

 

※「托塔天王」は某管理人の商標です。