サモンナデシコ

 

 

 

 

第十話 封印の森にて 〜 The Guardians 〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暴れる褐色の肌の少女に、あたし達がこの森を訪れた理由を説明するのは手間だった。

 そう、手間だったからアキトに全部任せた。

 ・・・5分後、褐色の肌の少女はアキトに懐いてた。

 

「・・・さすが」

 

「変な感心をするなよ、フォルテ!!」

 

 さすがに、全員の白い目に耐えかねたのか、アキトはそう叫ぶのだった。

 

「・・・だって、なあトリス?」

 

「・・・そうだよね、フォルテ」

 

 さらに温度の下がった視線を受け、黙り込むアキトだった。

 

 

 

 

 

「私の名前はルウ

 どの派閥にも属さず、この封印の森を守り続ける召喚師の末裔だよ」

 

 とりあえず、あたし達が敵じゃないと納得したルウは、家に招き入れてくれて自己紹介をしてくれた。

 全員にお茶を配った後、あたし達もそれぞれ簡単に自己紹介をする。

 ちなみに、本能の成せる業なのか・・・ここでも、人様の家の台所を占拠してるアキトだった。

 たまには落ち着いて座ってなさいよ、この男。

 

「あたし達は説明した通り、アメルのお婆さんを探しにこの森に来たんだけど・・・それらしい人を知らない?」

 

「う〜ん、それもおかしな話だよね。

 だってこの森で人が住める最深部は、このルウが住んでる家なんだよ」

 

 あたしの質問に考え込んだ後、そう返事をするルウ。

 彼女の話では、この家より奥は封印の森に直ぐ繋がっているそうなのだ。

 しかも、噂通りその周辺には封印から逃れた悪魔が、多数うろついているらしい。

 

 ・・・つまり、とてもじゃないけど、お婆さんが一人で住める環境ではないのだ。

 

「じゃあ、アメルのお婆さんがここに住んでるって話は?」

 

「アグラさんがついた、嘘・・・だろうな」

 

 モーリンの疑問は、渋い顔をしたネスによって断定された。

 それを聞いて、ロッカとアメルの顔が歪む。

 二人にとって育ての親というべきアグラ爺さんが、何故そんな嘘をついたのか?

 聞きたい事は山ほどあるのに、アグラ爺さんは行方不明のままだった。

 

「この場合、悩んでも仕方がないよ、真相を知るアグラさんが居ないんだから。

 それより、この後の行動をどうするか・・・それが問題だね」

 

 一人落ち着いているアキトが、お茶を飲みながらそう告げる。

 その隣では、ハサハちゃんが嬉しそうに油揚げを食べていた。

 

 ・・・やけに大人しいと思ってたら、油揚げを作ってたのか、この男。

 多分、ハサハちゃんに頼まれたな。

 

「危険を承知で、封印の森に近づくか?

 一応、こちらの戦力が万端ならば、結界周囲の悪魔程度なら勝てると思うが」

 

 ネスのその提案に、あたしとアメルは頭を捻る。

 アメルとしては、自分の身内の話とはいえ、危険だと分かっている場所に、仲間を連れて行きたくないだろう。

 あたしにも、アメルのその気持ちは簡単に予想できる。

 ・・・逆に、このリラックスしきってる男なら、一人でも散歩気分で奥に入って行きそうだけど。

 

「ん? 誰かこの家に向かって歩いてるぞ。

 気配は二つ・・・だが、足音は3つ」

 

「よく分かるな、そんな事?」

 

 お茶を飲む事を止めて、そう警告を発するアキトに、呆れた声で話しかけるレナードさん。

 ハサハちゃんも注意されて足音に気付いたのか、その耳がピクピクと動いている。

 

「いやぁ、これも日常生活の賜物ですよ」

 

 

 どんな日常生活を送ってたんだ、あんた

 

 

 色々とその台詞に突っ込みたかったが、とりあえずはお客様の正体を知る方が先だ。

 特にアキトが動こうとしていない以上、相手は敵意とか害意は持っていないのだろう。

 その手の気配にも、この男は凄く敏感だし。

 

     キィ・・・

 

 扉の開く音と一緒に、黒髪を三つ編にした少女が顔を覗かせる。

 部屋の中に居るあたし達を見て、少し驚いた顔をしたけれど、直ぐに真剣な顔になって尋ねてきた。

 

「・・・貴方達は何者ですか?

 それと、この家の主がルウさんだと知っていて、この家に来られたのですか?」

 

 入り口に現れたその姿は、ケイナと同じような巫女姿だった。

 それに良く見ればその顔立ちは、ケイナそっくりだ・・・胸の大きさが、かなり違うけど。

 そう、彼女の方がケイナより大っきい。

 

 ・・・思わず自分の胸を確認して、肩を落とすあたしだった。

 

「あ〜、大丈夫だよカイナ。

 この人達は悪い人じゃないみたいだから」

 

 家の奥の方に座っていたルウが、三つ編の少女にそう話しかける。

 なんだか名前までケイナに似てる・・・

 

 それを聞いて、警戒を少し解くカイナだったが、ルウの隣に座っている人物を見て凍りついた。

 

「やぁ、久しぶり、カイナちゃん」

 

「お久しぶりでござる、カイナ殿」

 

「ア、アキトさん!!」

 

     ドガッ!!

 

「へべっ!!」

 

 アキトと入り口の直線上に居たカザミネさんを弾き飛ばし、アキトの胸に飛び込むカイナ。

 あたし達はその二人を視界に収めつつ、床で痙攣しているカザミネさんに注意を向ける。

 見事なまでに無視されてたもんね、カザミネさん・・・

 

 あ、何か呟いてる。

 

「・・・・・・・・・・・・これが、これが『殺意』というモノでござるか」

 

「・・・・・・・・・・・・返り討ちにあうだけだから止めてろ」

 

 レナードさんの忠告に、全員揃って頷いた。

 ま、何にしろ彼女はアキトの知り合いらしい。

 

 

 

 

 

 

「・・・入るタイミングを逃しちゃったね、エスガルド」

 

「仕方ガ無イ、全テハあきとノセイダ、諦メロ、えるじん」

 

 

 


 

 

 

「つまりさ、このアキトお兄さんと僕は、二年前に一緒に戦った仲なんだ。

 その時にカイナもエスガルドも、仲間だったんだよ」

 

 ゴーグル付きの帽子を被った、緑色の髪の少年・・・エルジンがそう説明をする。

 そのエルジンの隣には、赤銅色をした鋼の身体を持つ人物、エスガルドが立っている。

 彼はエルジンの守護獣で、ゼルフィルドと同じ機械兵士なのだ。

 

「ついでに言えば、ミモザさん達と知り合ったのもその時期だな」

 

 アキトがエルジンの説明に、付け足すようにそう呟く。

 

「ふ〜ん」

 

 先輩達とアキトが知り合った時の話は、これが初めてだった。

 特に誤魔化されていたわけじゃないけど、日々が忙しくて何となく聞きそびれていたのだ。

 それにしても、リィンバウムに結構知り合いが多いのね、アキトって。

 2年前は、一体何をしでかしたんだろう?

 

 ・・・部屋の隅でいじけてるカザミネさんも、その時の仲間の一人か。

 

「で、どうしてこの封印の森に来たの?

 ちなみに、僕達は封印の森の結界に用事があって来てたんだ」

 

「まあ、君達は仕事が仕事だしね。

 俺達はちょっと人探し・・・アメルのお婆さんなんだけど」

 

 エルジンとアキトがそんな会話を交わす傍らで・・・

 カイナとアメルが、凄い視線で睨み合っていた。

 どうやらお互いに、相手が『ライバル』である事に気が付いたらしい。

 

「ねえケイナ、あのカイナって娘・・・ケイナの身内じゃない?」

 

「そうだよな、俺も顔立ちとかがそっくりだと思ってたんだ。

 名前も何となく似てるしな」

 

 あたしの問いかけに、フォルテも同意する。

 

「・・・う〜ん、そうなのかな?」

 

 記憶喪失のケイナにとって、身内かもしれないカイナの存在は貴重だ。

 服装からして、ケイナと同じような巫女姿だし。

 身内でなくても、何らかの情報が得られる可能性はありそうだ。

 

「でもさ・・・どうやってあの二人の間に入るの?」

 

「う〜〜〜〜」「う〜〜〜〜」

 

 ・・・ま、当分は話を聞ける状態じゃないみたい。

 一番の元凶は、楽しそうにルウとエルジンの三人で談笑してるし。

 

 

 

 

 日も暮れてきたので、その日はルウの家に厄介になる事になった。

 アキトはこの世の定めとばかりに、厨房で鼻歌を歌いながら料理中だ。

 ・・・その背後で、お手伝いをしようとしてアメルとカイナが睨み合った状態に陥ってる。

 ハサハちゃんがエプロンをして、黙々とアキトの隣でお手伝いをしてるのが、なんだか笑える。

 

「相変わらず、トリスは手伝わないんだな?」

 

 フォルテ達と一緒に鍛錬をしていたロッカが、部屋に入って来るなりあたしにそう言う。

 ミニスはルウと一緒に、例のピンク色の召喚獣と遊んでいるらしい。

 あたしとネスは、ルウの家に置いてある書物に興味があったので、家に残っていたのだ。

 

「あたしは作るより、食べるほうが好きなの。

 ちなみに、次に好きなのは昼寝!!」

 

「・・・自慢気に言う事か」

 

 胸を張ってそう言い切るあたしに、読んでいた本から視線を外さずネスが突っ込んだ。

 ロッカはロッカで、実にあたしらしいと笑いながら部屋を出て行った。

 ・・・何だかあたしについて誤解をしてないか、皆?

 

「ねえ、ネス・・・皆、あたしについて誤解してると思わない?」

 

「トリスちゃん、ネス。

 晩御飯の準備が出来たからさ、皆を呼んできてよ」

 

「は〜い♪」

 

 あたしはスキップをしながら、表の広場で鍛錬をしてる皆を呼びに行った。

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・限りなく、正確に理解してると思うぞ皆」

 

 

 


 

 

 

 その日の晩、意外な客がルウの家を訪れた。

 

「いやぁ〜、真夜中に乙女の一人歩きは危険ですよねぇ」

 

 ・・・・・・・・・・パッフェルさん、その返り血は何デスカァ?

 

 何時もの黄色いウェイトレス姿に、点々と血の跡をつけたパッフェルさんが訪れてきたのだ。

 しかし、言ってる台詞とその姿に凄いギャップがあるんですけど・・・

 

「あれ、アキトさんに聞いてません?

 実は私、雇い主の意向で皆さんのお手伝いをする事になったんですよ」

 

「はぁ・・・そうなんですか」

 

 横目でアキトを見ると、顔の前で手を合わせていた。

 実にこの男らしい、間の抜けた失敗である。

 

「で、ちょっと用事があったので、皆さんから遅れてファナンを出発したものですから。

 到着するのに、こんなに時間が掛かっちゃいました」

 

 ・・・悪魔の徘徊すると言われるこの森を、こんな夜中に一人で踏破するなんて。

 ゆるそうな態度と声に騙されていたけど、この人もしかしてツワモノ?

 でもニコニコと微笑んでるパッフェルさんに、何も聞けないあたしだった。

 そして、なし崩し的にパッフェルさんも、あたし達の仲間になったのだ。

 

 

 

 

 

「で、アキトさん、シオンさんから伝言なんですけどぉ」

 

「ん、何?」

 

 

 その後、怪しいカップルが怪しい会話をしているのを目撃したけど、小声だったので聞こえなかった。

 すごく気になる・・・

 

 

 

 

 

 次の日、アメルの希望で森の奥に探索に行く事になった。

 ルウの話では人は住んでいないそうだけど、アグラさんが本当に嘘をついていたのか、その確証が無いからだった。

 もしかすると、アメルはアグラさんの事を信じたかっただけかもしれない。

 あれだけ愛情を注いでくれたアグラさんが、何故アメルにこんな嘘をついたのか?

 その真意は分からないけれど、森の奥に何か手掛かりがあるのだろうか・・・

 

「パーティはアメル、アキト、あたし、フォルテ、ケイナ、カイナ、ハサハちゃん、ルウで行きます。

 後の人は万が一に備えて、ルウの家で待機しててね」

 

「え〜、私も連れて行ってよ〜」

 

 不満を漏らすミニスを宥めすかし、あたし達は昼前に出発をした。

 大人数で移動するには、この森の道は適していない。

 ・・・それに下手に大人数で動いて、迷子が出たら洒落にならないし。

 そもそも、カイナとアメルが揉めなければ、もうちょっと別のメンバーを組めたのに。

 

「う〜〜〜」「う〜〜〜」

 

 相変わらず、張り合ってる二人を見て、そっと溜息を吐くあたしだった。

 このあたしに溜息を吐かせるとは・・・ある意味凄いぞ、二人とも。

 

 

 

 

 

 

 そしてルウの家を出発し、ある程度進んでからお昼となった。

 アキトが早起きして作ったお弁当を囲み、皆でわいわいと話してる途中、ふとアキトが動きを止める。

 その動きに何を感じたのか、すぐさまフォルテが剣を引き抜き、ケイナが弓を構える。

 

「グオォォォォ!!」

 

 次の瞬間―――瘴気を纏った怪物が、一斉に襲い掛かってきた!!

 

「くっ!! 皆さん、これは下級悪魔です!!」

 

 カイナが小太刀を取り出し、構えながらそう注意をする。

 見た目は人型だけど、下級悪魔達はおぞましい瘴気を纏い、その存在を際立たせていた。

 一応の知恵はあるのか、それなりに連携をしながら攻撃をしてくる。

 

「アアアアルルルミミミネネネェェェェ!!」

 

「!! アメルを狙ってる??」

 

 下級悪魔達は、あたし達への攻撃は殆どおざなりで。

 何故か集中してアメルに攻撃をしようとする。

 そのアメルは、アキトの背後に庇われていた。

 

「・・・うるさい奴等だ」

 

 出会い頭に拳の一撃で、アキトは先頭の下級悪魔を吹き飛ばす。

 吹き飛ばされた仲間に邪魔をされる形で、後続の悪魔達も動きを止める。

 その隙を今のあたし達が見逃すはずもなく、次々と攻撃を打ち込んでいった。

 

「アアルルルミミネネネェェ!!」

 

「やっぱり、アメルを狙ってる!!」

 

 傷だらけになりながら、地面を這いながら、下級悪魔達はアメルを目指す。

 その光景を見て、あたしやケイナに困惑が浮かぶ。

 動きを止めない悪魔達に、戦い慣れをしているルウとカイナが止めをさしていく。

 どうやら、生命力自体が普通の生き物より、並外れているみたいだ。

 

「畜生!! 気分の悪い戦いだぜ!!」

 

「全くね!!」

 

 フォルテの悪態に、珍しい事にケイナが相槌を打つ。

 レベルアップをした分、苦戦はしない相手だが・・・気が重かった。

 相手は手足を失っても、平気な顔で動いている。

 少々の傷も、殆ど気にしていないみたいだ。

 

「大技、いくよ!!」

 

「こちらも仕掛けます!!」

 

 ルウとカイナが同時に神経集中に入る。

 どうやら大きな召喚術を使うつもりのようだ。

 そのサポートをする為に、二人の側にあたし達は集まった。

 

「邪魔だ!!」

 

 

     ドウゥゥゥゥゥゥゥンンン!!

 

 

「消えろ!!」

 

 

            ドゴォォォォン!!

 

 

 ・・・・もう片方の戦場では、アキトが何やら大ハッスル中だ。

 アキトの怒声と同時に、次々と大気と大地が振動する。

 ハサハちゃんとアメルを同時に守っているため、手加減無しで戦っているんだろう。

 しかし、どうやったら大地が振動するような攻撃を連発出来るかなぁ?

 

 ―――そちらも気になるけれど、今は自分達の身を守らないとね。

 

「出て来い、ブラックラック!!」

 

「出でよ、鬼神将ガイエン!!」

 

 ルウの召喚した骸骨の耳障りな笑い声と、カイナの呼び出した大太刀を構えた鬼武者の攻撃が、完膚なきまで悪魔を消滅させた。

 

 

 


 

 

 

 下級悪魔達の襲撃を退け、あたし達は悟った。

 どう考えても、この地に人は住めない、と。

 そして、また新しい謎が生まれた。

 何故、下級悪魔達はアメルだけを狙い続けたのか・・・

 

「なんだか、謎が増える一方ね・・・」

 

「そうだな〜

 こりゃあ、ケイナの記憶を取り戻す暇も、なかなか無いぜ」

 

 戦闘後の呼吸を整えながら、ケイナがそう呟き。

 フォルテが剣をしまいながら、相槌を打つ。

 

「あの・・・もしかして、ケイナお姉さまですか?」

 

「え・・・私の事を知ってるの?」

 

「やっぱり!!

 ケイナお姉さまですね!!」

 

 嬉しそうにケイナに飛びつくカイナ。

 どうやら、カイナの話を信じる限り、ケイナとは実の姉妹らしい。

 しかし、今まで気付かないって・・・どういう事よ?

 

「推測だけど。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・つまりあれね、今までアキトしか見えて無かった、という事」

 

「ああ、なるほど」

 

 ルウの推測に、凄く納得をするあたしだった。

 再会を喜ぶカイナと、戸惑った表情のケイナから少し離れた場所では、アキトが難しい顔で悪魔の残骸を見ている。

 そしてアメルもまた、困惑した表情でアキトと同じものを見ていた。

 

 

 

 

「本当、謎ばっかり増えていくんだから・・・」

 

 ―――あたしには、そう呟く事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

うぉぉぉ、パッフェルさんとルウが活躍しきれてないぞ〜

っていうか、キャラ多すぎ(汗)

 

 

 

 

 

代理人の感想

え〜い、活躍させられんのなら最初から出さないの!(爆)

あるいは描写する人数を絞ってその分新規キャラに尺=行数を回すとか。

ロボットアニメでもなんでも、初登場の回は妙に強いのは

そういう「全員を描写してられない」という尺の事情があるからな訳で。

 

 

 

・・・ちなみに今何人ですか〜?