サモンナデシコ
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第十一話 処刑台の騎士 〜 Kill or Die 〜
結局、何も真相は明らかにならないまま・・・逆に謎だけが増えた。
森の奥にアメルのお婆さんが居らず、逆に下級悪魔に襲われる始末だ。
これ以上、禁忌の森に用は無いので、あたし達は翌日にはルウの家を旅立っていた。
何時もなら、下級悪魔が襲ってきた原因を調べたがるネスですら、この急な出発に賛同してくれたし。
「・・・アグラさんはどうして、こんな嘘をついたのかな」
「・・・全てが嘘とは、限らないんじゃないのか?
少なくとも、禁忌の森の悪魔はアメルちゃんを狙ってた。
何らかの手掛かりが、あの場所にはあるのかもしれないな」
あたしの独り言に、返事をしてきたのはアキトだった。
何時ものように大荷物を背負った状態なのに、その足取りは軽い。
「だからと言って、こちらから危険に近づく必要はないだろう。
人が住めない土地である以上、あの禁忌の森にはもう用事は無いさ」
アキトの言葉について考え込むあたしに、ネスが少し怒ったような口調で諭す。
う〜ん、下級悪魔の襲撃を受けてから、どうも機嫌が悪いなぁ?
「何か機嫌が悪いね、ネス?
もしかして、置いてきぼりにした事を恨んでる?
そんな事で拗ねたら駄目だぞぉ」
「・・・・・・・・・・・・・遠足に行けなかった幼稚園児じゃあるまいし、そんな事で拗ねるか」
手に持っていた杖で軽くあたしの頭を叩き、重い溜息を吐くネスだった。
あたしはそんなネスに舌を出した後、少し後ろをアキトと一緒に歩いているハサハちゃんの隣に向かった。
何故ならば!! アキトの近くで、アメルとカイナがまた睨み合ってるので、それを茶化す為に!!
「禁忌の森に近づいた所で、誰も幸せにはなれないよ・・・トリス」
どういった心境の変化か分からないけど、あたし達の旅にカイナとルウが同行を申し出てくれた。
・・・ま、カイナに関しては今更考えるまでもないけど。
アキトも居るし、実の姉(記憶喪失のままだけど)であるケイナもいるパーティだからね。
それに二人の実力は、禁忌の森で一緒に戦った事で分かっている。
ルウに関しては・・・・・・・・・・・・・当分様子を見よう。
多分、困るのはあたしじゃなくて、アキトの奴だし。
わいわいと騒ぎながら、それでも周囲の警戒を怠る事無く。
あたし達は無事に森を抜け、ファナンへと続く街道に出た。
そして、一休みをしようかと皆に提案しようした時、その黒煙があたしの目に映った。
「アキト!! ネス!!
あの煙!!」
「・・・何かあるみたいだな」
「方向から考えて、国境沿いにあるローウェン砦だ!!」
デグレアとの国境沿いにある砦に異常が?
もしかすると、襲撃を受けているのかも?
・・・あたし達にどれだけ手助けが出来るのか分からないけど、様子は見ておいたほうがいいかも。
「皆、疲れてると思うけど、ちょっと走るわよ!!」
当たって欲しくない予想ほど、よく当たるものだ。
あたし達がその場に辿り着いた時には、ローウェン砦は殆ど陥落寸前だった。
その上―――
「・・・黒の旅団」
ローウェン砦を取り囲む兵士の姿は、あの黒の旅団のものだった。
「どうしよう、殆ど決着はついてるみたいだけど?」
あたしと一緒の木に隠れているネスに、意見を聞いてみる。
「・・・今からファナンに助けを求めに走っても、絶対に間に合わないな。
辛うじて跳ね橋を上げている事で、全滅は免れているが、それも時間の問題だ」
火の手が上がっているローウェン砦を見て、ネスが冷静にそう判断する。
確かにこのままでは焼け死ぬか、打って出て完璧な布陣を敷いている黒の旅団に殺されるかの違いだ。
どうにかして、砦の人達を助ける方法は無いだろうか?
あたしがそんな事を考えていると、ネスが釘を刺してきた。
「おい、馬鹿な事は考えるじゃないぞ?
幾ら自分達の戦力がアップしたからといっても、数の暴力には敵わない。
ましてやあれだけの練度の軍隊だ、散り散りにされて各個撃破されて終わりだぞ」
「ぬ〜」
あたしの頭を地面に押さえ込みながら、ネスが冷たい口調でそう諭す。
自分でもその結果を予想できるだけに、余計に腹立たしい。
ちらりと横を見ると、アキトがアメルを相手に何かを諭している。
アメルの性格からいって、アキトにローウェン砦の人を助けられないかと言ってるのだろう。
さすがのアキトも、ここで一人で突貫するほど非常識ではない・・・という事かな。
それに自分一人の問題で終わらないもんね、後ろには沢山の仲間が居るんだし。
「トリス、砦から誰か出てきたぞ」
「え?」
ネスに注意をされて、あたしがローウェン砦に視線を戻すと。
そこには跳ね橋の上に、白い鎧を纏い赤いマントをした精悍な顔の騎士の姿があった。
自分を包囲する黒の旅団の前に堂々と姿を現した騎士は、大声で叫ぶ。
「貴様等の隊長と話がしたい!!
私はこの砦の守備隊長のシャムロックだ!!」
その言葉を聞き、暫くすると旅団の後ろから黒尽くめの姿をした、一騎の騎士が現れた。
禍々しい形の兜と、遠目からでも感じる全身を包む雰囲気を、あたしは知っていた。
そう、アキトを前にして一歩も引かなかった男・・・黒の旅団の指揮官、黒騎士ルヴァイドだ。
「私がこの黒の旅団の団長、ルヴァイドだ。
要望通り来たのだ、話を聞こうか?」
「・・・残念ながら、この砦を守り抜く事は最早不可能だろう。
これ以上無駄な死傷者を出すだけならば、降伏するしかない。
だが、私には騎士としての誇りがある!!
貴君にも手柄を立てるために、騎士の首級の一つは必要だろう!!
砦を明け渡した後の守備隊の無事と引き換えに、私の首をやってもいい。
だが、戦いの中で果ててこそ騎士の本望・・・私は貴君との一騎打ちを望む!!」
静かな闘志を漲らせるシャムロックさんという騎士と、ルヴァイドの間に張り詰めた空気が漂う。
白い鎧を着るシャムロックさんと、漆黒の鎧を着ているルヴァイドの姿は見事なまでに対照的だった。
「・・・よかろう、その一騎打ち、受けて立つ。
結果はどうあれ、守備隊の生き残りにも手は出さん」
「感謝する」
圧倒的に有利な立場のルヴァイドがその提案を呑んだ事に、あたしは驚いた。
ルヴァイドからすれば、シャムロックさんの一騎打ちを受ける必要は無かったはず。
すでに相手が白旗を揚げている以上、何もしなくても陥落するのは時間の問題だったのだから。
現にルヴァイドの隣に居たイオスが、何やら慌てた様子で騒いでいる。
ルヴァイドが戦うくらいなら、自分が一騎打ちをすると言ってるんだろうな。
「生き残りの守備隊のために、死ぬ気かあのシャムロックという男は」
「・・・みたいだね」
―――ネスの低い呻き声に、あたしも顔を顰めて返事をするしかなかった。
そして降ろされた跳ね橋の上で、シャムロックさんとルヴァイドの一騎打ちが始まった。
キィン!!
カン、カカン!!
素人のあたしには分からないけど、お互いの腕は互角に見えた。
ただ、隣にいるフォルテやカザミネさんを見る限り・・・シャムロックさんは不利らしい。
なぜフォルテ達がいるかと言うと、黒の旅団が一騎打ちのために陣形を崩したので、あたし達も一箇所に集まったのだ。
「アキト、何時ものように出鱈目で理不尽な事して、シャムロックさんを助けられないかな?」
「う〜ん、それをやると守備隊の人達の安全がねぇ・・・
一騎打ちの邪魔をしたと判断されたら、全滅だよ。
さすがに全員を庇いながら、黒の旅団の人達と戦うのは無理だ」
・・・出鱈目で理不尽なマネは出来るんだ?
普通、否定する箇所が違うでしょうが。
そんな馬鹿な事を考えて、襲い掛かってくる焦慮感を紛らわせる。
だけど確実に『その時』は迫ってきていた。
「くそっ!!
どうにかして、助けてやる事はできねぇのかよ?」
レナードさんが歯軋りをしながら、一騎打ちをする二人を見て叫ぶ。
シャムロックさんは勝っても負けても、あの場から生きて出られないのだから・・・
「守備隊の人達の事を考えると、どう考えても動きようが無い。
あれだけの人数を逃がす方法は・・・」
ネスも辛そうな目で、シャムロックさんの戦いを見守っているローウェン砦の守備隊を見た。
彼等は守備隊長のシャムロックさんの一騎打ちを、砦の上から並んで見守っていた。
・・・自分達のために死地に立つシャムロックさんの姿を、彼等はどんな思いで見ているのだろうか?
一騎打ちはかなりの間続いた。
そして徐々にだが、シャムロックさんとルヴァイドの実力差が明らかになってきた。
五分五分に斬りあっていた二人が、何時の間にかルヴァイドの一方的な攻撃になりつつあった。
何とかシャムロックさんは攻撃を防いでいるけど、みるみる動きが悪くなっていく。
「パッフェルさん、何か手は無いかな?
こういう裏技じみた事って、得意そうですよね?
っていうか、無茶苦茶得意でしょ?」
「・・・・・・・・・・・・トリスさんが、私の事どういう目で見てたのか良く分かりましたけどぉ
それはそれとして、さすがにどうしようも無いですよ。
天変地異でも起きない事には」
自分でもちょっと混乱してるなぁ・・・と思いつつ、パッフェルさんに無理難題を言うあたし。
人間、切羽詰ると本音が出るものだと、この時つくづく思った。
とりあえず、パッフェルさんの笑顔が怖いので、アキトに矛先を変える。
「アキト、天変地異一丁!!」
「・・・・・・・・・・・・・昼食のオーダーのように、気安く頼まれてもねぇ」
アキトにまでジト目で見られた時、一騎打ちの会場が大きくどよめく。
「まさか、決着が!!」
「違う!! もっと最低の結果だ!!」
慌てて砦のほうを向くあたしを残して、アキトがその場から飛び出す。
他の皆もそれにならい、隠れていた場所から飛び出していた。
遅れて飛び出したあたしが見たモノは―――
「グエェェェェェェェ!!!」
「ゴハァァァァ!!」
次々と変貌していく守備隊の人達
それを呆然とした表情で眺めるシャムロックさん
そして、あのルヴァイドすらその動きを止めて、変わり行く元守備隊の人達を見ていた。
「キャハハハハ!!
こんな砦一つに、何を手間取ってるのさ?
そんな事だと、黒騎士の名が泣いちゃうよ?」
「貴様・・・ビーニャか!!」
変貌を終え、人間外に生まれ変わった守備隊の後ろに、顔色の悪い少女が立っていた。
ルヴァイドの言葉を信じるなら、彼女の名前はビーニャといい・・・デグレアの人間らしい。
「・・・どういうつもりだ、ルヴァイド!!
貴様、守備隊には手を出さないと言っておきながら!!」
「・・・」
「馬鹿にするな!!
団長が約束を違えるはずが無いだろう!!
この仕業は、全てあの女がやった事だ!!」
何も言わないルヴァイドの代わりに、シャムロックさんの非難に反論するイオス。
二人とも激しい視線でお互いを睨んでいたけど、それはあたし達がこの場に乱入する事で終わった。
「ちょっと、今はそれどころじゃないでしょ!!
何か敵味方構わずに攻撃してきそうよ、あの人達!!」
「き、貴様は!!」
あたし・・・というより、隣に立っているアキトを見て、イオスが激高する。
手に持っていた槍を構えるイオスを、今度はルヴァイドが止める。
「・・・ここは引くぞ、イオス。
命令通り、ローウェン砦は落とした。
ビーニャの魔獣で、今更部下を失うわけにはいかん」
「・・・了解しました!!」
一瞬だけ躊躇った後、忌々しそうにアキトを一瞥してイオスは部隊に撤退の合図を送る。
ルヴァイドは部隊の指示をイオスに任せているのか、シャムロックさんと無言で睨み合っていた。
そして部隊の撤退が始まると、そのまま何も言わず立ち去ろうとする。
どうやら、アメルの事について・・・今は何もするつもりはないみたい。
「っ!! 待て!!」
「お前こそ落ち着けシャムロック!!
一人で向かっていっても、無駄死にしかならんぞ!!」
ルヴァイドを追いかけようとしたシャムロックさんを、フォルテが引き止める。
頭に血が昇っていたシャムロックさんは、引きとめたフォルテの腕を振り払った後、その顔を見て驚く。
「な、何故、貴方がこんな所に?」
「うるせぇ、成り行きだよ成り行き・・・それより、もっと気の重い作業が残ってるみたいだぜ」
何故か狼狽しているシャムロックさんを、不思議に思ってあたしが見ていると、フォルテが話しかけてきた。
「なあトリス、あの守備隊の人達・・・助けられるか?」
「どうなの、ネス?」
「・・・少しは自分で物事を考えてみろ、素振りだけでもいいから。
結論から言うと、残念ながら無理だ。
あれは人間に悪霊を憑依させた外法。
既に憑依元の人間は、心身共に変貌している。
今、あそこに居るのは―――血に飢えた魔獣だ」
それは、つまり・・・
「苦しまず殺してやる事が、俺達に出来る最後の手、か」
アキトが悲しそうな目で、今にも襲い掛かろうとしている魔獣を見ていた。
ただ、シャムロックさんだけが、砦の上の方で笑っているビーニャを憤怒の目で睨んでいた。
「皆、こうなったら守備隊の人達を楽にしてあげるよ!!」
「おう!!」
あたしの号令に、皆がそれぞれの武器を手にして気合を入れた。
「・・・手伝っていただけるのは嬉しいのですが。
・・・本当にこの方達と一緒に、あの黒の旅団と渡り合ってこられたのですか?」
そう言って、戦闘態勢に入ってるあたし達を見回すシャムロックさん。
まあ・・・統一性のない集団だという自覚は、あたしにもあるけどねぇ
「槍を持った戦士や、刀を持つサムライ、それに召喚師達は分かります。
弓兵の存在も心強いでしょうし、銃器を扱える方も同様です。
無手で戦う拳法家らしき女性も、まあ戦力として期待できます。
傷を治せるという聖女の存在は、とても心強いでしょう。
・・・ですが、10歳前後の子供が二人、ウェィトレスに踊り子は何です?」
「いやぁ、最後の人物達こそ甘く見ると痛い目にみるぞ、お前」
シャムロックさんの非難に、逆に気の毒そうに肩を叩くフォルテ。
前半に名前の出ていたあたし達も、その言葉に深く頷いて同意する。
「ねぇねぇ、何だか凄い言われようだねぇ、ハサハちゃん」
「・・・(こくこく)」
「あははは、やっぱりこの姿だと浮いちゃいますかねぇ?
お気に入りですから、仕事の時は何時もこの格好なんですけどねぇ〜」
「ルウも何時もこの格好だよ」
・・・ま、戦闘が始まれば彼女達の実力は嫌でも分かるだろう。
フォルテとシャムロックさんの方を見ると、まだ何やら騒いでいる。
「・・・・・・・・・・・・・分かりました、年齢とか格好とかにはもう言及しません。
一応、召喚師と護衛獣らしいですし、武器も持っていますから
ですが、アレは既にそれすら問題外ではないですか?」
シャムロックさんが震えながら指差した先には、お玉を手にした男が立っていた。
「コックですよコック!!
しかも、この戦場にお玉を持って立ってるんですよ?
最早場違いとか、そういうレベルじゃないですよ!!」
「・・・・・・・・・・・・・いや、お前の言いたい事は良く分かる。
分かるけどな、世の中理屈じゃ説明できない事もあるんだよ」
何故か一同揃って、遠い目をしながらアキトを見詰める。
さすがにその視線は怖かったのか、大きくのけぞるアキトだった。
「ねえ、そろそろ攻撃命令だしていい?」
暇そうなビーニャが、魔獣達におあずけをさせながら、呆れたような口調で尋ねてきた。
グオォォォォォォォォォォ!!
雪崩のように襲い掛かってくる魔獣達を、こちらは陣形を組んで迎え撃つ。
相手が本能のままに戦う獣なだけに、戦闘自体は冷静に戦えれば有利だ。
・・・相手が元は人間だったという事を、なるべく思い浮かべなければの話だけど。
「くそったれが!!
最近こんな後味の悪い戦いばっかりだな!!」
「文句を言っても仕方ないでしょ!!」
ケイナが弓矢を構える隙を狙った魔獣を、切り伏せながらフォルテが叫ぶ。
その叫びに応えながら、ケイナが構えた弓矢を放ち、魔獣の眉間を貫いた。
召喚術を使う人間は、どうしても戦士に比べて身体的な強さが劣る。
それを考慮して、あたし達の前にはロッカやモーリン、それにカザミネさんが居てくれた。
三人の連携の前に、魔獣達は一歩もあたし達に近づく事は出来ない。
レナードさんの援護射撃も、適切な場面で活躍をしていた。
「これはまた・・・見事な連携ですね。
予想以上の実力者達だ」
「あ、まだ動かないで下さい!!」
怪我はしていなかったが、ルヴァイド相手に長時間戦っていたシャムロックさんは疲れきっていた。
今は一番後ろで、アメルの癒しの術を受けて回復に努めている。
「ふふん、ミモザさん直伝〜
ヒポス&タマス〜」
「・・・遠異・近異」
「これはオマケね、パラ・ダリオ!!」
ミニスの召喚した、ミモザ先輩の得意とするブレス攻撃の得意なカバ二匹
ハサハちゃんが召喚した、火炎と氷雪を操る鬼二匹
ルウが最後の止めとばかり、凄い瘴気を纏った幽鬼を召喚した。
そして、それぞれの攻撃が集中した地点の魔獣が、瞬時にして綺麗に消し飛ばされる。
「何と・・・」
「ほら、凄く強いでしょあの三人」
外見に反する二人の強さに、絶句するシャムロックさんだった。
そしてその三人の近くでは・・・
「はいはい、大人しく眠りましょうねぇ〜」
魔獣のスピードに負けない動きで、背後を取ったパッフェルさんが、一撃でその首筋を切り裂いていた。
良く見れば、首を掻き切られて事切れている魔獣がそこら辺に倒れている。
・・・何時の間に、ここまで倒したんだろ、この人?
「・・・・・・・・・・彼女、私の言葉に怒ってませんよね?」
青い顔で、ウエィトレスさんのその早業を見ていたシャムロックさんが、アメルにそう尋ねる。
「さあ?」
アメル、そこは嘘でも『うん』という所だよ。
考えてみれば、あたしもパッフェルさんが怒りそうな事言ったよね。
当分、アキトの側を離れないでおこう。
で、あたしとネス、それにカイナが大技を唱えてる間に、アキトの奴は一人でビーニャの居る砦の近くまで進んでいた。
魔獣達とあたし達の戦いを面白そうに見ていたビーニャが、アキトを見つけて不思議そうに尋ねる。
「あれ〜、君はあの人達と一緒に戦わないの?」
「ああ、手助けが必要なほど苦戦はしてないし。
今の皆のレベルなら、油断さえしなければ大丈夫だろう。
俺はとりあえず、頭を潰す事にしたのさ」
そう言いながら、背後から襲い掛かる魔獣を、お玉の一撃で跳ね飛ばす。
お玉の威力に負け、魔獣は頭部を一瞬にして失った。
まあ、あの男は心配するだけ無駄なので何も言わないが・・・そのお玉で料理だけはするなよ、絶対に。
色々な意味を込めて、あたしはアキトに当分張り付く事を自分に誓った。
もともと、守備隊の人達の数は多くなかったので、あたし達は殆どの魔獣を倒していた。
今は魔獣の攻撃を警戒しながら、アキトとビーニャの動きを見守っている。
「ふ〜ん、君ってもしかしてガレノアが言ってた人かな?
珍しいくらい怒ってたよ、人間に馬鹿にされたって。
キャハハハハハハハハ!!」
何が可笑しいのか、大笑いしているビーニャに、全員の視線が集まる。
そういえば、味方(死体)を悪霊に憑依させて戦うこの方法は、あのガレノアと同じ・・・
それにしても、人間に馬鹿にされたって・・・どういう意味なの?
「・・・どうやら、色々と聞き出す必要があるみたいだな」
「ふふん、私を捕まえられるかな?
う〜ん、君を魔獣にしたら、面白い作品になりそうだねぇ。
後ろにいる人間達も、面白い素材だし」
まるでモノを見るようなビーニャの視線を受け、あたしは凄い鳥肌を立てる。
ビーニャの視線には、何処か人とは決定的に違う何かが潜んでいた。
「上から人を見下してばかりだから、そんな台詞しか言えないみたいだな。
―――なら、同じ高さまで引き摺り下ろしてやる」
「やれるものなら、やってごらん〜♪
ここの守備隊の人達みたいに、泣き叫んで許しを請うのが関の山だと思うけど」
アキトを小馬鹿にするような台詞に、逆に不安を覚える。
ビーニャに対してではなく、アキトに対してだ。
この男はなんだかんだと言いながら、仲間を大切にする男だ。
しかも、自分の労を厭わずに、他人に尽くすタイプ・・・でなければ、自ら進んで炊事等を引き受けはしないだろう。
そのアキトが―――咆えた
「俺はな・・・
他人の人生を弄ぶ奴が、一番嫌いなんだよ!!」
―――ドン!!!
一瞬にして、あたしの視界は蒼銀の光に埋め尽くされた。
そして鈍い振動と共に、何かが崩壊していく音だけが響く。
暫くしてから目を開けると、そこには本体の半分を抉られたローウェン砦の姿があった。
その砦に比べて、あまりに小さな存在・・・アキトが、拳を振りぬいた状態で立っている。
「ちっ、口も達者だが、逃げ足も速いみたいだな」
砦の右側にある森を暫く凝視した後、あたし達を振り返る。
正直に言えば、この時ほどこの男が怖いと思った事はない。
明らかにあたし達とは、強さの次元が違う。
―――この男は、本当に何者なんだろうか?
しかしアキトは、ビーニャの魔力が途絶えたせいなのか、時間切れだったのか、動きを止めた魔獣達をやり切れない目で見ていた。
その目を見ていると、この男に対する恐怖が和らぐ。
少なくとも、人の死を悲しみ、仲間のために本気で怒れる男なのだ、コイツは。
今は、それだけでいい。
「埋葬、しようか・・・」
「うん」
アキトがポツリと呟いた提案に、あたしは小さく頷いた。
そして、日が落ち―――
また騒がしい一日が終わりを告げる。
オマケ
「本当に彼と彼女は怒ってませんよね!!」
「あ〜、まあ人を見かけで判断したお前が悪い。
諦めろって・・・死ぬ事だけは無いと思う・・・多分」
「最後の多分ってナンデスカー」
「って言ってもな〜
凄腕の暗殺者に、砦の半分を拳で吹き飛ばすコックだぜ?
俺にどうしろと言うんだよ?」
「うっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ま、アキトの奴は大丈夫だろ、自分の悪口は気にしないタイプだからな。
ある意味、一番厄介なのはパッフェルだ。
トリスの奴、何時の間にか痺れ薬を飲まされて、一晩呻いていたらしいからなぁ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ま、強く生きろよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
後書き
お、今回は結構思い通りにキャラが動いたな〜
良かった良かった♪
この調子で、今後も頑張って欲しいですね。
私じゃなくて、キャラが(爆)
コメント代理人 別人28号のコメント
とりあえず一言
ユエルはどうした?
確か この話の中でイベントがあったはず
場所がファナンだから この話の中では無理だったのでしょうか?
・・・あれはある意味 サモンナイトの闇の部分が集約されたイベントですけどね
サモンナイトの持つ闇と言えば今回の話もそうでしたね〜
以前に登場したガレアノもそうですが ビーニャも死体を弄ぶ屍人使いですから
設定的には けっこうエグいキャラなんですよね
ビーニャのキレっぷりは 割と好きなんですが
流石にヒロインになるのは無理でしょうから
せいぜい、おいしいヤラレ方をさせてやってください
アキトに関しては まぁ自業自得でしょう
サモナデ1でも似たような状況ですが
ただ、1人1人の強さは こっちの方が上っぽいですね
特にぱっへるさんやパニック召喚娘
サモンナイト2ってケイナやモーリンもそうですが
男性陣も含めて戦いに近い位置にいる人が多いんですよね
国同士の戦争という一面もありますから そのあたりの影響かもしれません
ま、それで被害を被るのはアキト1人でしょうから そっと生暖かい目で見守りましょう
シャム? 彼に関しては次回に 多分次回が最大の見せ場でしょうから