HappyBirthday For 『My Dearest』
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「かぁんちょお〜」 とうとう我慢できなくなったハーリー君が可哀想になったので、私はハーリー君をひざ枕で寝かせました。 それにしてもハーリー君、あなたの寝言にはもう少し種類が無いの? 「そうそうルリちゃん、ラーメンの味はどうだった?」 ユリカさんが唐突に私の方を見て言いました。ユリカさんは、私がアキトさんからもらったレシピを参考に作っているようですが、料理下手のユリカさんが作るラーメンは、とてもあの味には及びません。 でも、いちおう感想を言った方がいいでしょう。 「前にハーリー君と行った時よりも良くなってますよ」 それを聞いたユリカさんは、驚いて言いました。 「ホントぉ!?ありがとルリちゃん!」 お礼を言われても困ります。私は思った通りに言ったんですから。 ただし、「前より良くなった」と言っただけで、「それでもあんまり美味しくない」と後には付け加えませんでしたけど。 でも、本当に言いたい事はそれではありません。ユリカさんが、私がラーメンを食べている間中私の顔を気にしていたのは、味がいいか悪いかの問題ではないはずです。 意を決して、私はユリカさんに言いました。 「ユリカさん」 「なぁに?ルリちゃん」 どんぶりを片付けていたユリカさんは、くるっとこっちを向きました。 「味の事は、そんなに気にしないで下さい。いくらレシピ通りに頑張って作っても、それは『アキトさんの作ったラーメンと同じ味のする、ユリカさんのラーメン』です。『アキトさんの作ったラーメン』にはなれません」 私がそう言うと、ユリカさんは少し寂しそうな顔をしました。 ユリカさんが気にしていたのは、自分か作ったラーメンがどこまでアキトさんのに近いかという事です。 私の顔を気にしていたのも、私に解るかどうかを気にしていたという事です。 「そっか・・・。やっぱそうだよね・・・。どんなに頑張って作っても、『アキトの作ったラーメン』じゃあないよね・・・」 ユリカさんは、まるで『しこり』を吐き出すように言いました。 確かにそうです。「もう一度食べたい」と思いますけど、それはあくまで『アキトさんが作ったラーメン』です。 頑張って同じ味にしようとするユリカさんの気持ちは解りますが、いくら頑張っても『アキトさんの作ったラーメン』にはなれません。 でも、私にアキトさんのラーメンを食べさせようとしてくれるユリカさんの気持ちが、嬉しいです。 「私は大丈夫ですよ。確かに食べられないのは寂しいですけど、でも、私ももう子どもじゃありません。いつかもう一度合って食べさせてもらうまで、我慢できますよ」 そう言うと、ユリカさんは少し救われたような顔をして言いました。 「そっか・・・、そうだよね、ルリちゃんもう子どもじゃないもんね。我慢できるよね・・・。ごめんね」 何に対する「ごめんね」なのかは解りませんが、ユリカさんが少し楽になったように見えたので、これ以上深く突っ込むのはやめます。 ハーリー君が寝返りを打とうとするので、少し立ち上がって寝返りを打たせて、また足の上に頭を乗せます。 ユリカさんは、割り箸もお冷やも片付け終わったようです。 何だか静かになってしまいました。 私のせいでユリカさんが無口になってしまったように思えたので、私は慌てて話題を繕いました。 「でも、今日は本当にありがとうございました。私は今日がアキトさんの誕生日だってこと、すっかり忘れていたので」 我ながら、下手な繕いです。 するとユリカさんは、笑いながら、そして少し寂しそうな顔で、ブリッジから見える空を見上げました。 「ルリちゃんはどう思う?」 唐突にユリカさんが言いました。 「えっ?何がですか?」 いきなり聞かれた私は、すこし慌てて言いました。 「アキトはさ、今日がアキトの誕生日だって気づいてるかなぁ?」 ユリカさんが私の方を見て言いました。 「さあ、どうでしょう」 私は言いました。 「でも、きっとアキトさんのことだから、忘れてるんじゃないですか?」 そう言うと、ユリカさんが嬉しそうな顔をしました。 「そうだよねぇ。アキト、そういう事に全然気づかないもん」 そう言って、ユリカさんはまた空を見上げました。 「だから、私たちがお祝いしてあげなきゃね」 ふと、ユリカさんの顔を見ました。 「ユリカさん、アキトさんは今何処で何をしているんでしょうね?」 言った途端、私は「しまった」と思いました。 「そんなこと解らないよ、ルリちゃん。でもね・・・」 ユリカさんは再び空を見上げて続けました。 「でもね、アキトのことだから、きっと何処かでラーメン作りながら元気にやってると思うよ」 ユリカさんは嬉しそうに言いました。 「私はチャーハンだと思いますよ」 珍しく、ボケてみました。 「あははははっ。そうかもね」 ユリカさんが笑って言いました。 「でも、ユリカさん・・・」 私はユリカさんに聞きました。 「どうしてアキトさんは元気だって思うんですか?」 するとユリカさんは私の顔を見て、満面の笑みで嬉しそうに言いました。 「だって、アキトだもん」 その言葉には、何の根拠もありません。
非科学的です。 「そうですね。アキトさんですから」 私も空を見て言いました。 ユリカさんが私を見て、驚いたように言いました。 「ルリちゃん、何か嬉しそうだね」 ・・・そうかもしれません。 END 解説 どうもこんばんは、Duo−R(でゅおあーる)といいます。 「とっても良かった。他にもなんか無いの?」という方! |
管理人の感想
いや〜、どうも投稿有難う御座います!!
感想メールからHPのアドレスまで全部記入されているので、Benも楽です(苦笑)
ストーリーは文句無しですしね!!
アキトの帰りを待つユリカとルリ・・・
これもまた一つのカタチですね。
綺麗で優しい雰囲気のSSです。
Benも頑張ってこんなSSを書きたいですね。
・・・ドタバタは得意なんですけどね(汗)
では、アドリブさん投稿有難うございました!!