漆黒の宇宙、星の輝きしか存在しない空間にポゾンの光が満ちた。

光の粒子は寄り集まり、一つの影を形成した。

現れた白亜の機体はしばし宇宙を漂っていた。



「ううう、どうやら何とかジャンプアウト出来たみたいだね・・・」



白亜の機体―フェンリルの中で、コハクはその身を起こした。



「フェリス、今ボクたちはどこに居るの?」



周囲を見回した後、フェンリルのAI『フェリス』に問いかける。しかし・・・。



『ふにゃあ、星がぐるぐるきれいだなぁ〜』

「ふ、フェリス?」

『あれ、マスターがいっぱいいっぱい・・・』

「いい加減起きなさいって・・・」



スポコン!!



コックピットの天井を1回どつく、しかし、それで機能が回復するわけはない。



『ふぇ?なんですかマスター?』



するんかい!!



「とりあえず現状の位置、それと機体の状況を報告して!」

『あっ、はい。え〜と・・・・・・、結果でました。2196年、火星と地球とのちょうど中間距離です。機体にはジャンプフィールド発生装置を除いて、深刻な損傷はありません、フレスベルグも二機、ちゃんとついてきています』

「そっかぁ、火星と地球の中間か・・・」



つぶやいた後、コハクは怪訝な顔をして腕を組んだ。何か違う気がする。

その違和感を思い出そうとコハクはもう一度フェリスに話しかけた。



「もっかい、言ってくれない?」

『はい、2196年、火星と地球とのちょうど中間距離です。機体にはジャンプフィールド発生装置を除いて、深刻な損傷はありません、フレスベルグも二機、ちゃんとついてきています』



二回目でコハクはようやく違和感に気づいた。



「2196年?」

『はい、2196年です』

「まじ?」

『おおマジ!』



「過去へとジャンプしたわけ?」

『おそらくは・・・』



コハクはしばし考え込んだ。2196年には彼は生まれていない。

しかし・・・、



「ねぇ、ナデシコAに乗ってみない?」



そう、この時代には亡父の『家』ナデシコAがある。



『ナデシコAですか』

「そっ、アカツキに頼んでさ」

『しかし、今のアカツキさんと私たちに面識はありませんが?』

「この時期はネルガルもポゾンジャンプの解析に躍起になっていたでしょ?ポゾンジャンプで取引をするんだよ」

『なるほど、その手がありましたか』

「そっ、どっちにしろアカツキとは接触を持っておいたほうがいいだろうし、それに元気な父さんと母さんも見てみたいし」

『わかりました、ではまず地球までジャンプしましょう』

「判ってる」



コハクはCCをポケットから取り出し握り締めた。



「ジャンプ!」





時の流れにアナザーストーリー

コハクの君



・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



ネルガル社長室

極楽トンボ、もといアカツキは脇で鳴った電話を取り上げた。



「はい、こちら愛の伝道師アカツキ・ナガレだよ」



電話先の相手がしばし沈黙したような空気をアカツキは感じた。

事実その通りなのだが、



『・・・昔も今も変わらないんだな、アカツキ』

「おや、君は誰だい?僕のプライベートコールを知っているのはボクの知り合いだけなんだが」

『あ、そうそうちょっと取引があったんで電話したんだ』

「へぇ、何の取り引きだい?」

『ポゾンジャンプに関して、というのはどうかな?』

「!?」

『あっ動揺してる、今からちょっとそこに行くね。楽しみにしてて』



言いたいことだけ言って電話は切れた。

アカツキは電話を受話器へと戻した。



「あら、誰からだったの?」



エリナがアカツキの様子を不振に感じ、問いかける。



「ん〜、それがね。ポゾンジャンプのことで話があるってさ」

「!?ポゾンジャンプはネルガルのトップシークレットよ!?なぜもれているの?」

「いやはや、困りましたな」



プロスが眼鏡を中指で押し上げる。



「それで、相手はなんていってきたのよ」

「今からここに来るってさ」

「ここに?」



突如、社長室の扉側の方向にポゾンの光が満ちた。

光は一つの小柄な影を構成して行く。

光がなくなると、そこには黒いコートに白いバトルスーツを着、ミラージュタイプのゴーグルをかけた銀髪の少年だった。



「はじめまして、でいいのかな。ネルガル会長さん?」

「ああ、そうだね。君がさっき電話してきたのかい?」

「ええ、そうですよ」



銀髪の少年がこくりとうなずいた。

エリナとプロスは事態を見守るばかりだ。

アカツキが問いかける。



「ところで、君の名前はなんだい?」

「テンカワ・コハク」

「テンカワ・・・?」



プロスが怪訝そうな表情を作る。

(はて、確かテンカワ夫妻にはお子さんがおられましたが、年齢が合いませんね・・・。どういうことでしょう?)

コハクがプロスに向き直る。



「多分、あなたの思っている人たちの血をボクは確かについでますよ。それにネルガルをどうこうしようという考えはないから」

「そ、そう。さて、君は僕たちにどんな情報をくれるのかな?」



コハクはにっこりと微笑んで返答した。しばし三人の時が止まる、さすがテンカワ・ジュニアいく人もの女性を魅力したその笑みは息子にも受け継がれていた。ましてやコハクは実年齢9歳。その笑みは母性本能、父性本能に強く働きかけるものがあった。



「ボクが渡せるものはポゾンジャンプについての情報だね。この情報は結構ほしいんじゃないの?」

「・・・たしかにねぇ、見返りは何を要求するつもりだい?」



コハクの笑みに見とれていたアカツキがわれに返って返答する。ちなみにエリナはまだ逝っている。

コハクは二本の指を立てた。



「二つくらいかな、一つはボクの身元を引き受けてもらうこと、もう一つは・・・」

「もう一つは?」



アカツキが問い返す。



「ボクをナデシコに乗せること」

「あなたなんでナデシコのことを知っているの!?」



ようやく復活したエリナが思わず口を挟んだ。



「落ち着きなよ、エリナ君。ポゾンジャンプのことを知っているんだ。ナデシコの事を知っていてもおかしくないよ」



アカツキがエリナをなだめる。



「そのことはわかったよ。しかし、君はナデシコに乗って何がしたいんだい?」



コハクは、少し首をかしげたが、すぐに口を開いた。



「父さんと母さんが再会した場所、そこを見てみたいな、とおもったからね」



「?」



思わずハテナ顔になる三人組。



「まぁ、ポゾンジャンプの事から説明するよ。ポゾンジャンプがそのままできるのは、火星に生まれ育った人たちだけ。遺伝子いじれば誰にでも飛べるけどね。ついでに言うならポゾンジャンプっていうのは瞬間移動じゃないんだ」

「どういうことかしら?」



エリナが問いかける。



「簡単なこと。ポゾンジャンプはいったん使用者をポゾン粒子に変換してその後、目的地まで飛ばすんだよ。移動にかかる分の時間をさかのぼりながらね」

「時空間移動って事?」



エリナの問いにコハクはうなずいて肯定した。



「そう、さらにいうならば特に位置を指定しないでジャンプしてしまったときには、過去にさかのぼっちゃうこともある。ボクみたいにね」

「えっ・・・」



固まった三人にコハクは淡々と事実のみを告げた。



「ボクは未来から来た。テンカワ・アキトの子供だよ」



そのままコハクは言葉をつむいだ。



「それじゃ未来の話をしようか・・・・・・・・・・・・」



コハクは淡々と言葉をつむぎ続けた。

ナデシコの出向時のトラブルでアキトが偶然乗り込むことになってしまったこと。

火星に到着した後、ナデシコがジャンプしてしまい八ヶ月音信普通だったこと。

木連の存在をしり、和平にこぎつけようとしたが失敗したこと。

そして、火星での最終決戦。



「本当の悪夢はこれからだよ」



終戦後ミスマル・ユリカとテンカワ・アキトが結婚したこと。

そして、新婚旅行に行くところを『火星の後継者』にさらわれたこと。

人体実験につぐ、人体実験。

そのなかで自分が作られたこと。

ネルガルによって、父とともに救出されたこと。

そのとき、初めて父に出会ったこと。

戦闘に告ぐ戦闘。

父の死。

そして、ポゾンジャンプ。



「以上が未来で起こったことだよ」



重いコハクの話にアカツキたちは沈黙した。



「ボクは元気だったころの父さんを知らない、コックを目指していた父さんを見てみたい。母さんに会ってみたい・・・。ボクがナデシコに乗りたい理由だよ」

「・・・わかったよ。取引は成立だ」



アカツキの言葉にコハクはぱっと顔を明るくした。



「ありがとう、アカツキ!・・・そういえば未来から一緒に来た機動兵器があるんだけどそれを持ち込んでもいい?」



アカツキは面白そうな表情をした。何とか自分のペースに戻ってきたようだ。



「未来の機動兵器かい?おもしろそうだねぇ、それの情報ももらえないかな?」



アカツキの言葉にコハクは少し悩んだ表情を作る。なんといっても十年以上先の技術である。渡してよいかどうか、さすがにそれを即決するのは難しい。



「フェリス、どうする?」



悩んだコハクはフェリスに助けを求めることにした。



『そうですね・・・、さすがに一部の情報は秘匿するべきだと思いますが・・・、ある程度ならかまわないと思います。こちらで選択しておきますね』



フェリスを一目見て早速ナンパしようとするアカツキをすばやくエリナがにらみつける。



「誰?その人は」

「フェリスって名前でね。ボクの機動兵器―フェンリルっていうんだけれど。その機体のAIだよ」

「ほう、AIですか、とてもそうは見えませんなぁ」

「うん、ナデシコAのオモイカネがベースなんだって、ボクの友達だよ」

「ははぁ、そうですか」



話が一段落したところでアカツキが口を挟む。



「それじゃぁ、機動兵器の情報はもらえるんだね?」

「うん、それと少し壊れているから修理もさせてね」



コハクの言葉にアカツキはうなずいた。

ここにネルガル会長と異邦人が協力関係になったのだ。時はナデシコ出航三ヶ月前。



時をさかのぼること暫し前・・・。





草むらで一人の青年がめざめた。

しばし、草木のささやき声や、虫の鳴き声に耳を済ませていた彼はつぶやいた。



「何故・・・月が見える。」



彼は両手を握り締め、体の各部を触っていた。



「視覚が・・・戻っている?聴覚が、嗅覚が・・・五感を俺が感じている!!」



その世界に現れたもう一人の異邦人・・・。彼とコハクの未来は運命の船、ナデシコで交わりあう。

だが、それには暫しの時間が必要なのだ。

・・・それまでの、少しの間この者たちに安らぎを・・・。









座談会

A・・・さぁ、お茶とお菓子はいきわたったね?伝統ある座談会第二回を開催します!

F・・・って二回しかやっていないのに、伝統もないんじゃないですか?ねぇ、マスター

K・・・ふぇ?(もぐもぐ、ごっくん)フェリスも食べたら?この羊羹おいしいよ

F・・・ま、マスター・・・(汗)

A・・・まぁ、流れに身を任せときなさい、そうでないと生き残れないよ。

F・・・ははははは、努力します・・・

K・・・でもさ、最後に出てきた人ってあの人でしょ?

F・・・ですよねぇ

A・・・シィー!!この世の中わかっていても、言っていけないことはたくさんあるの、ほっときなさい

K&F・・・は〜い!!

K・・・そういえばさわかって居ても言っちゃいけないことってたくさんあるよね

F・・・例えば?

K・・・ウルト○マンは三分しか活動できないはずなのに、テレビでは三分より長く活動していたりとかさ

A・・・うんうん

K・・・ヒーローもので主人公に行方不明の兄がいてさ、敵に仮面をつけた幹部が居て・・・

F・・・実は正体が死んだはずの兄であるとか?

K・・・うん、そう

A・・・そういえば『種』にも仮面の幹部がいたな、俺は最初、金髪のお姫さんの兄だと思っていたぞ・・・。別に居たけど・・・。

K・・・一応、弟扱いだったよね

A・・・生まれ方の違う双子だから良くわからないけどな

F・・・弟クン、人工子宮。姉さん、母体出産

K・・・だけど、お姫さんほんとに『自然』だったのかな?何か最終回で特殊能力使っていたけど

A・・・ああ、種が割れる奴ね

F・・・その辺のことが良くわからないんですよね

A・・・そうだね、さて、宴たけなわではありますがそろそろお開きにしますか。

K&F・・・は〜い!!



管理人の感想

カラクリ亜戯斗さんからの投稿です。

ふむ、ここで拙作とクロスするのですか?

そうなると、コハク君の寿命に関する問題が大きな要素になりそうですね〜

伝え聞いている亡父と、あまりに違うその姿に彼はどんな感想を抱くのでしょうかね?w