「閣下準備が整いました」
「うむご苦労早速実験に取り掛かろう」
――実験――
耳元で確かにそう聞こえた。
なにをするかはわからない……でもこれだけはわかる。
もう二度と外を歩けない。
そして俺の隣にいる親友もだ。
「あら、あなたもいたんですか。
珍しいですね」
「ふん実験体の一人は我が愚息だぞ……それを見に来て何が悪い」
「へー息子を思いやる気持ちがあったんですねぇ。
……冗談だから殺気出さないで欲しいなぁ」
親父もきてるのか。
……殺す!!
俺はただそれだけを思った。
貴様のせいで……貴様のせいであの人は……あの人は!!
全てを奪ったあいつを俺は許さない……俺が死のうとも!!
力が欲しい……力が欲しい……あいつを殺せる力が!!
――憎悪――
それが今の俺の力の源になった。
その力に任せ四肢を縛る鎖を解き放とうとする。
しかし俺の体が自由になることはなかった。
「ふん所詮はこの程度か。
……実験はまだか?」
「はいはい……それじゃぁポチっとな」
ぶぅぅぅぅぅぅぅん
急に機械音が聞こえてきた。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
機械音と共に頭に物凄い痛みが走った。
そして急速に意識が遠のいていく。
「……姉……さん……」
俺は意識を失う前にこうつぶやいていた。
そしてそれが俺の全てだった。
POWER 第1話「START」
火星……全ての始まりの地にして終わる場所。
そしてまた俺は物語を始めようとしていた。
「どうして戻って来てくれないんですか。
……もうすべて終わったんですよ!」
ルリちゃんか……君の言うとおりだ。俺が消えればな。
「ユリカさんだってもう退院するんですよ」
「もう君達と交わる事はない。俺の事は忘れて生きろ」
はっきりとした拒否。
いくら叫んだって昔には戻れないのだから。
「……そんなことできません!
なにより私がアキトに戻ってきて欲しいと願っているから」
「礼だけは言っておこう……だけど俺はユリカしか見てやることができない」
「なら……なんでです。
何で帰ってきてくれないんですか……」
泣いているのだろう口調がはっきりしていない。
しかしこのままでは埒が明かないな。
「……ラピス、ジャンプの用意を」
そう思いジャンプフィールドの生成を準備させた。
「……アキト本当にいいの?」
「……ジャンプの用意を」
明らかに躊躇ってしまった。
だけどもう引き返せない……もう未来を決めたのだから。
「了解。ジャンプフィールド生成開始」
これで全てを断ち切ることになる。
「ジャンパーのイメージング開始」
「……ラピスどこへ行きたい?」
「アキトの行くところならどこでも」
ラピス……お前が俺の唯一後悔していることだよ。
お前にはこんな復讐に付き合うことなく生きて欲しかった。
「アキト準備完了だよ……」
「そうか……ジャン「させません!!」
ドカァァァァァン!!
「ぐはっ!……ラピス状況は?」
「ナデシコよりアンカーが打ち込まれたみたい」
俺もつくづく運がないな。
『ジャンプフィールドに異常発生』
突如ウインドゥが開く。
この報告により事態は急な展開を見せていった。
「フィールド強制カット。
その後対ショック防御用意」
「了解……だめアンカーが制御部分に刺さってる」
このままだと俺がイメージできてもその通りに行くと限らない。
なら俺ができることをするのみ。
「ルリちゃん聞こえているか!ジャンプフィールドが暴走し始めた。
至急この空域から離れるんだ!」
「解りました!?ハーリー君アンカー切断。
高杉さんディスートーションフィールド展開全速でこの空域より離脱します」
まずはナデシコをここから遠ざける。
そして次に……
「ラピス!脱出ポットに乗って艦の外へ出ろ」
こんな事に他人を巻き込むわけにいかない。
しかしラピスの言葉が全て終わった事を告げた。
「アキトもうだめ。
ジャンプ開始……」
そして二つの戦艦はその日を境に歴史から消えた。
「おい!……おい!……朝だぞ!
何回起こせば起きるんだ!」
う……うん……ここはどこだ。
俺はなんとなく違和感を感じた。
今聞こえるのは昔……それも火星に居た頃の友人の声だ。
俺はたしかラピスとユーチャリスにいたはずだ。
……夢か?
人生の最後に見る走馬灯という奴だろうか。
なら次はナデシコの時か……
ぱかーん
痛い……
これは現実なのか。
「いい加減起きろ。
バイトに遅れるぞ」
とりあえず俺はこれを現実と受け止めることとした。
目を開くとそこには眩しい朝の光があった。
「……綺麗だ」
素直な感想が出てしまった。
何年も朝日を見ることのなかった俺はその光景に感動してしまった。
そんな感動も友人には伝わらなかったようだ。
「寝ぼけてるのか。
ならこうしてやる……起きたか!」
思い切りつねられた……痛いって。
反撃しようとする心を何とか沈めて何とか返事をした。
「……ひゃい」
つねられてるから何か変な返事になってしまった。
「そうかなら良し」
やっと離してくれた。
まだヒリヒリする頬をさすりながら昔の友人に聞いた。
「なぁ今日の年月日なんだっけ」
「まだ寝ぼけてるのか?」
もしかしたら未来から来たかもしれないから教えてなんていえないだろう。
だからお願いだからその手に持ってるものをしまってくれ。
「そこまで教えて欲しいなら教えてやるよ。
地球暦で2195年10月21日だ」
土下座までする俺に対して手に持っていた木刀をさげ教えてくれる。
友人の言ってた言葉そして俺の今の姿から統合すると今日は第一次火星大戦の日のはずだ。
「ありがとう」
とりあえず友人に礼を言う。
「そういえばよ、こっから一番近くのプラントに黒いロボットが現れたらしいぞ」
黒いロボット?
……まさか!?
「おい!それ見に行くぞ」
「待てよ……」
言ったと同時に走り出した。
友人のことなんか構ってられなかった。
俺の予想が正しければあれは……
はぁ……はぁ……何とか着いた。
黒いロボットは?
……あった!!
見た先にあったのはやはりブラックサレナだった。
発見した俺は急いでコックピットに乗り起動させる。
外傷はかなりあったが動かせるだろう。
「ブラックサレナ機動開始」
『音声確認』
『IFS動作確認』
『IFSより搭乗者テンカワ・アキト確認』
『マスター照合問題なし』
『生命維持装置動作問題なし』
『ブラックサレナ起動』
全ての確認動作をおえブラックサレナが起動した。
「ダッシュ起きてるか?」
ブラックサレナのAIオモイカネダッシュ――通称ダッシュに語りかける。
こいつはナデシコAのオモイカネのコピーの一つなのだが、変なところで人間臭い。
平時なら寝る、起きることは勿論食事の時間やトイレの時間もあるらしい。
『マスター起きてるよ』
「現在の状況を」
『了解……現在2195年10月21日位置火星ユートピアコロニー第4農業プラント。
日にちからみて第一次火星大戦の日で間違いないと思う』
さっき俺の昔の友人が言ってた事と変わりないことを言われる。
やはりランダムジャンプが原因だろう。
俺はこれからどうする……
『マスターもう一つ言い難いのですが……マスターの体が若返ってるようなんですけども』
「えっ!?」
『ですからマスターの体が若返ると言ったのですけども』
えっと……そういえば目が見える。
あちこち体を触ってみるが、触った感覚もある。
着ている服も昔よく着用していた寝巻きだ。
……そういえば着替えてないな。
『マスター集中すると周りが見えなくなる癖そろそろ直してください』
「……善処する」
痛いところを突かれた。
『それよりマスターこれからどうしますか?
状況から見て過去に戻ってきた事は明確です。
しかも昔の肉体に今の精神が乗り移ったようですが……』
「そう考えるのが適当だろう。
これからを考えるのに材料が必要だ。テンカワ・アキトについて全検索してくれ」
『了解。それからこの場所は立ち入り禁止になってるようですが離れる必要があると思うのですが』
「そうだな。他人に見つかる訳にもいかないしな。
適当なところに移動しよう」
移動を終えダッシュが俺についての検索をしていた。
10分程が経ち検索が終わったようだ。
『マスター、テンカワ・アキトについて調べ終わりました。
ウィンドウに表示します』
そう言って映し出された情報は過去の俺そのままだった。
「ダッシュ俺はこれからどうするべきだと思う。
それについてお前の意見を」
『マスターが取る行動は二つです。
歴史をなぞりナデシコAに再び乗り込むか、地球にジャンプし戦争のことを考えずに過すかの二つです』
「なら俺は……俺は歴史を変える」
身勝手な思いかもしれない。
でも、何をしないままこの戦争を過す事はできない。
今度こそ本当の意味で木連との和平を目指していきたい。
『それでしたら条件を一つ。
ネルガルと同盟を組むこれが私から付ける条件です』
「そうだな。
……ブラックサレナの状況は?」
『いままでの戦闘でもうまともに戦闘できる状態でありません。
ボソンジャンプの方も制御部分が大破している為使えません』
ぼろぼろだな。
ここまで持ったのも俺の周りにいた人たちのおかげか。
これだけはしたくないがこいつともここでお別れだな。
「ダッシュ……ブラックサレナを破棄する。
お前は自爆装置の設定後メイン部分を他に移し変えてくれ」
『了解ですマスター』
「それじゃあ行動開始だ」
その後は前と同じだった。
第一次火星大戦が始まったが連合軍は敗退を繰り返し火星全土が木連の手に落ちた。
それを俺は見てることしかできなかった。
俺とダッシュはそのことについて何も話さなかった。
このことが解っていたからだ。
なんとかしたかった。
でも何もかもが遅かったのだ。
後悔している間にも時間は進んでいく。
そして俺は歴史通りアイちゃん……イネスさんと共にジャンプした。
ジャンプ後俺は泣いた。
誰に対してかは解らないが懺悔をした。
そして誓う……もう誰も殺させやしないと。
修正版後書き
副題付けましたそれだけです(爆)
代理人の個人的な感想
ん〜、出だしだけだとよくある逆行物と言うか何と言うか(爆)。
「親友」くんがキーキャラのようですので彼の扱いかたに期待でしょうかね。