POWER    第2話「夢とは正しくて間違っている物」



―RURI―

アキトさんが消えてしまいます。

原因はランダムジャンプです。

私はまたアキトさんを失ってしまうのでしょうか?

前のように何もできずに……


「ユーチャリス、レーダーよりロストしました」


ハーリー君の口から出たその言葉は絶望でした。

絶望の中でも私は冷静でした。

あの時のように。

アキトさんとユリカさんが死んだと思ったあの時のように。

でもあの時と同じようにはしません。

まだアキトさんは生きているんですから。


「ハーリー君、極冠遺跡へ進路をとってください」


「艦長あれをやるんですか!?」


「はい、やります」


イネスさん考案、ウリバタケ印の『ジャンプ追跡君』を使います。

これを使ってアキトさんのボソンジャンプを解析しデーターを得てこの機械を使ってトレースします。

でも問題もあります。

これはテストさえしていない試作品です。

どんな効果が現れるか分かりません。

……でもこれを使わなければアキトさんを連れ戻すことはできない。

本当なら私一人で来て全てを終わらせるつもりでした。

でもこの二人は頑なについて来ようとしました。

最終的に私は止められませんでした。

残される彼らの気持ちがわかってしまっているから。

残された者の悲しみと苦しみを私は知っているから。


「艦長!」


ハーリー君が反論してきます。 

当たり前の反応です。

これを使ったらどうなるのか分かりません。

三人全員がB級ジャンパーと言っても生きているかは予想も付きません。

オモイカネの計算結果も”不明“と出ています。

死を回避するという人間の生存本能からくるものです。

特に彼はまだ幼いです。

死という未知の領域を怖がるのはしかたありません。

しかし今は時間がないんです。

私はハーリー君を説得しようしたところ先にサブロウタさんが口を開きました。


「ハーリー!……進路をとるんだ。  

 俺たちは連合軍からこのナデシコCを奪ってきたんだ。

 ……これがどういう意味か分かるよな?」


ナデシコ級の強奪……

私とハーリー君がマシンチャイルドだろうと銃殺刑にされるでしょう。

ミスマル提督は私たちの味方になってくれるでしょう。

でも火星の後継者の事件後マシンチャイルドは危険視されています。

私がやった火星全土のシステム掌握が原因です。

このままここで時間をつぶした所で見つかるのがおちです。

今回はA級ジャンパーであるイネスさんを連れてきていません。

もう私たちに残された道はアキトさんをユリカさんに会わせて、その後逃亡するしかないんです。

ハーリー君もそれは分かってるはずです……


「分かりました……」

ブリッチは沈黙し、静かに極冠遺跡へと向かい進路をとりました。




















―AKITO―


――ナデシコA――

前の時の俺にとってかけがえのなかったもの。

そして今、全てをやり直す為再び戻ってきた場所。

全て変えるためにこの1年いろいろな事をやり、自分を鍛えてきた。

あと10日もすればナデシコAは出航する。

俺は皆を守る事ができるのだろうか……

勿論その為にいろんなことをしてきた。

それでも漠然とした不安が残っている。


「……嫌なもんだな、心配症というのも」


最近独り言が多いな。

それだけ不安が大きいということか。


「君なんかが心配症なら、僕はいったいなんだっていうんだい?」


後ろからいきなり声を掛けられた。

しかし俺はその声の持ち主を知っている。


「アカツキか……」


そうネルガル会長のアカツキ・ナガレである。

俺は全てをやり直す為ダッシュの言うとおりネルガルと協力関係を作った。

ボソンジャンプのことは全て伏せたがな。

協力する条件としてだしたのは、前北辰と戦った時の武器データー等だ。

その時は時間がなく試作段階で終わった物も多く完成したのはサレナフレームだけだったけが。

俺は協力関係を作った後住む所がなかったので、今アカツキの私邸で世話になっている。

ここの暮らしに別段問題はない。

ただ、アカツキが日に日に気配を殺すのがうまくなっているのだ。

理由を聞いた所こう答えられた。


『だって僕がどんなにうまく隠れてもすぐ見つけるから、面白くないでしょう?』


だった。

なんともアカツキらしい答えだった。


「明日ナデシコに乗り込むって聞いてね。

 ナデシコについて報告をしようかと思ったんで来たんだけど」


「頼む」


「とりあえずA計画はほぼ予定通り進んでるけど、B計画とN計画は出航には間に合わないね。

 特にB計画は今の技術じゃ作れない所が多いから難航中だそうです」


「B計画は遅れることを承知だから問題ない。

 それよりN計画はどうしてだ?

 今のネルガルの技術力なら問題ないはずだが」


「元々そういう仕様にしてないからというのが技術部からの返答だそうだよ。

 パーツは出来上がってるけど本体の改造が必要だから、出航が一年ぐらい遅れるってさ」


「出航が遅れるくらいならそのままでか?」


「そういうこと、ネルガルとしてもこれでシェアを狙ってるから出航は遅らせれないよ」


「そうか」


困ったな。

このままではナデシコが火星についても無事脱出できるか微妙だ。

……これはウリバタケさん達に任せるしかないな。

後は北辰が歴史より早く出てこない事を祈るだけだ。

「とりあえず今日はゆっくり休んで明日にそなえてくれ。

 あとクルーの名簿置いていくからメインクルーの名前覚えておいてね」


「……わかった。

 それじゃ仕事頑張れよ」


「怖い怖いエリナ君にどやされながら頑張ってくるよ」


「しっかり仕事をすれば、エリナも何を言わないさ」

「肝に銘じておくよ、それじゃあね」


そういってアカツキは俺の部屋を出て行った。

俺はアカツキが出て行った後念の為クルーの名簿に目を通した。


『ナデシコクルー名簿  
 
 艦長 ミスマル・ユリカ
 
 副長 アオイ・ジュン

 提督 フクベ・ジン

 副提督 ムネタケ・サダアキ

 オペレーター ホシノ・ルリ

 操舵主 ハルカ・ミナト

 通信士 メグミ・レイナード

 会計係 プロスペクター

 保安部 ゴート・ホーリー

 エステバリス隊隊長 テンカワ・アキト

 同パイロット スバル・リョーコ        

         アマノ・ヒカル

         マキ・イズミ

         ヤマダ・ジロウ   

         カスガ・シノブ

ここまで来て手が止まった。

カスガ・シノブ?

前回のナデシコクルーにはいなかった名前だ。

余計な詮索をされたくないので、クルーの人選に口はださなかった。

一応彼の詳しいプロフィールを見ておくか……


ページをめくっていき彼のページを見ていく。


『エステバリス隊パイロット  

 カスガ・シノブ23歳 男性  178cm 69kg  

 経歴

 元ボクシング日本スーパーウェルター級チャンピオン

 2195年6月17日A級ライセンスを返上

 2196年7月19日ナデシコクルーとして契約  』  

そこには彼の簡単な経歴が書いていた。

前回いなかったのは、今回と違いなにか身の危険に合っていたのかもしれない。

その後いろいろ思案してみるが、これだというのは浮かばない。

だけどこれだけは言える。

すでに歴史は書き換えられてきている。

歴史が動くのはもっと先だと思っていので、こんなに早く変わっていくとは正直思ってなかった。

だけどこれでいい。

少しずつでも歴史が動いていけばあの結果には繋がらなくなるのだから。

絶対繰り返させない。

俺がこちらに来て全てに干渉したのだから。

これが俺にできる唯一の贖罪だと思うから……




















―RURI―


――テンカワ・アキト――

私がこの世で一番会いたい人。

私がこの世で一番大切な人。

その人を連れ戻す為にすべてを捨ててきました。

でも……でもこんな事態が起こるなんて……


「ハーリー!ハーリー!!」


「……はぁ、はぁ……サブロウタ……さん……」


ハーリー君の体はすでに赤く染まっています。

サブロウタさんが必死に呼びかけています。

でもハーリー君の反応が徐々になくなってきてるのがわかります。

ハーリー君がこんな風になってしまったのは、私のせいなんです。

私があの時ミスをしてしまったから……


「ハーリー君死なないで……死んではだめです」


もう私の周りで誰かが死ぬのは嫌です。

もうあの苦しみを味わうのは嫌です。

だから、ハーリー君死なないで……

自分でも顔色が悪くなってるのが分かります。

私も何かしなければならないのは分かっていますが、体が動きません。

まるで金縛りにあったように。


そんな私を見て、サブロウタさんが意を決したように話掛けて来ました。


「艦長こうなったらジャンプするしかありません。

 俺たちは死ぬ事を覚悟してここにいるんです。

 勿論死ぬのは嫌です。

 でもどの道ジャンプしなければハーリーは死にます…… 

 なら可能性のある方へ賭けてみるしかないんです」

そうしなければいけないのは分かっています。

でも……でも体がいう事を聞いてくれないんです。


「……艦長……僕にはかまわず……ジャンプの準備を……」

「ハーリー君……」


わかりました。

今は私にできることをやります。

もう二度と家族を失わないように。

そうしてなんとか体を動かし、遺跡へと装置をリンクさせていきます。





大急ぎで準備に取り掛かり


『計算完了!よくできました』


なんとかできたようです。

これを使えばB級ジャンパーでもA級ジャンパー並みのジャンプができるはずです。

本当ならイネスさんも研究を封印し、試作としてこれ一つを作ったのみ。

すいません。

私はイネスさんに謝りました。

イネスさんが一生封印するはずだったこの機械を自分の為に使う事に対して。

そして覚悟を決め


「サブロウタさん、ハーリー君行きましょう」


二人を呼びました。


「はい」


サブロウタさんは返事を、ハーリー君はなんとか頷き行くということを肯定しました。


そして……


「オモイカネ私たちがジャンプしたらナデシコCを自爆させてください」


『わかったルリ』


「そしてあなたは本体をナデシコBへ写してください」


『それじゃ気をつけて行ってきてください』


「うんそれじゃあ行ってきます」


そしてシステムを立ち上げました。


『システムスタート』

『極冠遺跡中央演算装置とリンク開始』


『システムオールグリーン』


『ジャンプ座標固定』


『ディストーションフィールド発生開始』


『ジャンプカウントダウン開始』


『5』



『4』




『3』





『2』






『1』







『0』

『ジャンプ』

それぞれの思いを秘め私たちは火星極冠遺跡をジャンプしました。




















―???―


俺の目の前で人が殺された。

しかし何も感じない。

なぜならこれは夢だからだ。

ここ最近毎日というほどこの夢をみる。

このあとも全て分かる。

人を殺した奴はこの後その周りにいる人を全て殺していく。

――1対10――

数の上では圧倒的に有利だ。

だけどそいつには誰もかなわない。

次々と人が殺されていく。

戦闘……いや一方的な殺戮もすぐに終わった。

ものの10分もかかっていない。

そこで終わりかと思うが奴は別の場所へ向かって走り出す。

森の中を走ってるはずだ。

しかし奴の走りには一切の無駄がなく、平地を走ってるのと変わらない速度で走っている。

途中襲ってくる人がいるが奴は、その速度を落とす事なく殺しその足を進めていく。

やがて森を抜け少し開けた所に出てきた。

そこには一人待ち構えていたようにたたずんでいた。

そして二人は戦い始めた。 両者は互角だった。

何時間戦っただろうか、二人とも攻撃の手をやめようとしない。

そんな中でも決着はいつかつくものだ。

奴の方が有利になっていき傷をつけていく。

段々と避けきれなくなっていき、ついに致命傷といえる所に奴の持っていたナイフが刺さろうとしていく。


だめだ!


なぜかいつもここでこう思ってしまう。

なぜかはわからない。

だけどだめなんだ。


その人を殺せばだめだ!


……その女性を殺してはだめだ!










うわぁぁぁぁぁぁ!!!

















修正版後書き

こっちは加筆修正と副題を付けました。

  

管理人の感想

アイハラ・ヒカルさんからの投稿です。

ハーリーが死にかけって・・・何があったんでしょう?(汗)

何気にオリキャラが混じっていましたが、何かの複線ですかね?

まさかサブロウタとか?

・・・・無いですよね、木連にいるはずだし(苦笑)

 

それと趣味で穏行を極めるなよ、アカツキ(爆)