あれは半年前の事だった。

俺はその時ネルガルのエージェント達と行動を共にしていた時の事だった。

目的は『マシンチャイルド』である。

身元が分かっているルリちゃんはいいとして、この当時身元がわからないマキビ君とラピスの救出が目的だ。

ラピスは最後にいた場所が最悪な所だったので最優先で救出する。

そこにいたラピスは昔俺といたラピスそのものだった。

大変驚いたが、冷静に考えると当然の結果だ。

俺がこうしているのだから、ラピスがこうしてここにいるのは考えの範疇のはずだ。

それを考えに入れなかったのは俺のミス。

お互い違う体になった為リンクは途切れていたが、ラピスが嬉しがってるのは分かった。

その顔が見れたので、俺もほっとする事ができた。

そうしてラピスと再会した俺は次にマキビ君の救出に向かう。

彼もすぐに救出する事ができた。

その彼からでた言葉はこれだった。


「あなたが、テンカワ・アキトですね」


驚きでしばらく声が出なかった。

ラピスなら俺とジャンプしたのでこちらにいるのが分かるが、彼はジャンプから逃れることができたはず。

それなのに……なぜだ?


「艦長はあなたをずっと待ってたんです。

 それなのにあなたはなぜ逃げるのですか?」


「俺はもう仲間の所には戻れなかった。

 血塗られた手で戻ってもユリカやルリちゃんを幸せにする事はできない。

 こちらに来てこんな事をしてるのにも理由があってのことだ。

 ……しかし俺がよくあのテンカワ・アキトだと分かったな」


「簡単です。

 艦長から聞いていたテンカワ・アキトなら今ここにいないはずです。

 しかも、戦法がプリンス・オブ・ダークネスのあなたそっくりでした」


「そうか」





そしてしばらく彼と話をした。

内容としては簡単な物だ。

なぜ彼らはここに来てしまったか等お互いの情報を交換を別れた。

そして彼もラピスと同じくネルガルに保護してもらった。

マキビ君は前と同じくマキビ夫妻に、ラピスは前懐いていたエリナに任せる事にした。

エリナは反論したが、アカツキが会長命令として無理矢理認めさせたのだ。

勿論その時のアカツキとエリナの顔は正反対だった。

ただ物凄くおかしかったがな。


「それじゃあ頼む」


「了解しました」


ネルガルのエージェントの一人に彼を託す。


「テンカワさん……艦長をお願いします。

 僕と同じならジャンプして来た時には高熱にうなされると思いますから。

 その時はテンカワさんが一番最初にそばにいてあげてください。

 一番艦長が喜ぶと思いますので」


去る間際、マキビ君は俺に向かってそう言った。


ルリちゃんが喜ぶか……

彼の言葉が本当かはわからないが、彼の言葉の通りその時はそばにいようと決心した。

別れたとはいえ俺の義妹だからな。





その半年後マキビ君の言うとおり、ルリちゃんと再会することができた。

余程うれしかったのか無茶苦茶泣かれたけどな。


POWER    第4話 「ムネタケ・サダアキ」



―RURI―


今日は正月です。

ナデシコがついに火星へ向かう日がやってきました。

地球連邦政府にビックバリアを解いてもらう日です。

勿論ユリカさんは着物です。


「ねぇルリルリなんで艦長着物着てるの?」


「ミナトさんもそう思いますよね?」


そんなユリカさんを見て、ミナトさんとメグミさんはある意味あきれてるみたいです。

ちなみに答えは『ユリカさんだからです』としか答えれませんね。

ついでに言うとなぜか私のあだ名が既に決定してるみたいです。

前回は火星到着時の時だったはずです……悪い気はしないので問題ないんですが。


「正月だからじゃないですか」


とりあえず答えは当たり障りのなさそうな事を言いました。

……答えになってないような気がするのは私だけでしょうか。


「正月というのはわかるけど……さすがに軍のお偉いさんと話すのにあれはちょっとねぇ」


それから私とミナトさん、メグミさんとで世間話が始まりました。






「それではお手柔らかにお願いします」


結局今回も交渉は決裂に終わってしまいました。

まぁあんな格好で交渉されても向こうは怒ってしまうでしょうけど。

という訳で今回も無理矢理突破する事になりそうです。

どうせユリカさんがジュンさんを置いてきぼりにしてナデシコに戻すので突破しなければならならないんですけどね。

ちょっと影は薄いんですが、ナデシコクルーだけあって優秀な事は優秀ですから。


……そういえばまだジュンさんに会ってませんね。

ちょっと探してみましょう。

私はミナトさんとメグミさんに見えないようにジュンさんの行動をウィンドウに表示させました。




















―JUN―


――ネルガル所有機動戦艦ナデシコ副艦長――

それが僕の役職だ。

この役職に文句はない。

むしろ嬉しいぐらいだ。

だけど、この有様はどういう事なんだろうか……

部屋には散乱した書類とこれから見なければならない書類が山ほどあった。

なぜこうなったかというと、ナデシコの出航が早まったのが原因だ。

サセボで木星蜥蜴の襲来があった為、サセボドックは壊滅状態になり出航が1週間早まった。

本来ならその1週間でユリカと僕で処理するはずだった書類が溜まった。

違うドックに駐留できれば良かったんだけど、軍から反対にあってしまいそのままテスト航海に出ることになった。

そうして積み重なった結果がこれだったりする。

あと半日も整理すれば終わる量なのが唯一の救いだね。


『ジュンさん、書類の方は終わりましたか?」


急に通信が入った。

毎日掛かってくる催促の通信だ。


「あと半日もすれば終わります。

 これが終わり次第ブリッチの方へ行きますよ」


いつもなら謝って書類を待ってもらうんだけど、今日は終わりが近づいたので普通に受け答えができた。


『そうですか。それでは終わり次第通常勤務へ戻ってください。

 後クルーのほとんどとあってませんので自己紹介だけは忘れずに』


「分かってますよ。それでは仕事に戻ります」


『それでは頑張ってください』


そう言って通信を切る。

……さて、もう一踏ん張り頑張るか。

そうして僕はまた仕事へ戻っていった。




















―RURI―


………………………………

ジュンさん中々凄い事になってますね。

今回は前回と違いユリカさんもまじめに仕事されてるのにこんなに仕事をされてたんですね。

前よりも5倍以上の量ですよ……

その仕事量を見て絶句していた私にミナトさんが声を掛けてきました。


「そんなもんよメグミちゃん……ん!ルリルリどうしたの?」


「いえなんでもありません」


あわててウィンドウを閉じてなんでもないような仕草をしました。


「そういえばこの船ってこれからどうするか知ってる?

 今までテスト航海してたけど、どうするかまだ聞いてないよね」


「そういえばそうですね。

 これからどうするんでしょうね」


まだ火星に行く事をプロスさんは言ってませんでしたね。

そろそろ知る時期ですから、プロスさんに話を振って見ましょう。


「私は知りませんが、プロスさんなら知ってるんじゃないですか?」


「それもそうね。プロスさ〜ん」


呼ばれてプロスさんが出てきました。


「はいはいなんでしょうか」


「この船ってこれからどうするんですか?」


「そろそろいい時期ですかね……それではルリさん艦内に放送を流してください。

 これからのナデシコの目的を話しますので」


「分かりました」

プロスさんの言葉に従い艦内にプロスさんのウィンドウを表示させました。










プロスさんは艦内全てに通信が繋がったのを確認して話をしました。


『目的地は火星だと』


それからは前とほとんど同じでした。

ムネタケ副提督の反乱があり、ミスマル提督が現れ軍にナデシコを渡すよう言ってきました。

勿論断りましたが、相手が相手なのでユリカさんとプロスさんが交渉をしに向かいました。

前と同じならジュンさんも行くはずでしたが、今回は行かなかったようです。

残ってというより自室で仕事中に勝手にユリカさん達が行ってしまっただけですが。

そうして交渉へ行くユリカさん達を見送る事もなく私達は食堂に軟禁されてしまいました。




















―SHINOBU―


なぜ俺達はここにいるんだろうか?

しかもナデシコクルーの半数がだ。

はっきり言って狭い。

百数十人を食堂に詰めれば当たり前の話だが……

なぜここにいるかと言うと


『軍にナデシコが占拠された』


という事だ。

プロスさんがナデシコの目的が火星だということを発表したのが始まりだった。

その後なぜかムネタケ副提督が乱入してナデシコを占拠してしまった。

さすがに元ボクサーの俺といえどマシンガンには勝てるはずもないのであっさりと捕まりここにいる。

向こうでは

ウリバタケさんがノンアルコールのビールをやけ飲み。

女性陣は世間話。

ホウメイさんは夕食の下ごしらえ。

とざっと見ても軟禁状態ではないような気がするのが気のせいだと思いたい。

そうじゃなきゃさっきまでどうこの状況から抜け出そうか考えていた俺の頭が虚しくなってしまうから。

そうした中熱血なヤマダはこう言った。


「なんだ、なんだ!みんな暗いぞ!俺がものすご〜く良い物を見せてやろう。

 じゃぁぁぁん!!」


交換音付きで出されたものはどうみても2世代は前の記憶媒体だった。

古すぎなので名前は忘れてしまった。

そんなヤマダを尻目に唐突にドアが開いた。


プシューーー


みんな一斉にそっちを見る。

そこには……テンカワが居た。


「木星蜥蜴が攻めてきた。みんな持ち場に戻ってくれ」


いきなり指示をいう。

みんな呆けていたが、木星蜥蜴に反応して慌しく持ち場に戻っていく。

その中で俺もエステで出撃する為に格納庫へ行こうとした。


しかし


「シノブさん申し訳ないがブリッチまで行ってくれないか。

 格納庫はゴートさんと解放したんだが、時間的にブリッチまで手が回らなかったんだ。

 相手はチューリップ1機みたいだから、ガイ一人で出撃させる」


「テンカワは?」


「俺はムネタケが船内を逃亡中だからそっちを追う。

 ブリッチは頼む」


「了解」


そう言って二人は別々の方向に走り出した。



















―GUY―


ついに……ついに俺の出番だぁ!

意気揚々と出撃させる。

相手はキュアック……もとい木星蜥蜴だ。

戦える事に俺のエステも喜んでるぜ!


「マニュアル発進……ヨーイドン」


確かホシノ・ルリだったか、そんな名前の少女の声で発進する。

勿論マニュアルだから走って船外に出る事になる。


「だ〜かっこ悪りー!」


そう毒付きながらも俺は発進して行く。

どんなシチュエーションだろうとロボットは燃えるからな!





「ゲキガンゴー!」


そして俺は初の戦闘へと歩を進めていった。




















―AKITO―


艦内の状況からしてどうやらガイが出撃したようだ。

それなら俺も早くムネタケを見つけなくてはいけない。

なぜから前回のようにガイを殺させないようにする為にいろいろする事があるからだ。

その為に今回の戦闘にはガイのみを出撃させたりとしてきた。

ムネタケをどうにかしなければガイの死はまた起こってしまう可能性もある。

だからムネタケを今のうちにミスマル提督に引き渡してしまいたいのだ。





艦内を捜し歩く事十数分ついに俺は通路でムネタケを発見した。

見つからないように近づき後頭部に銃を突きつける。

多少手荒かもしれないが、ムネタケには最善の方法だと思う。


「ふん……年貢の納め時って奴かしら」


このピンチにも毒付く。

ある意味凄い奴だ。


「そういう事になるな。

 これから提督の艦へとお前達を送り返す……こっちに来てもらおう」


連行しようとする俺に対し、ムネタケは着いてこようとしない。


「どうした。行くぞ」


催促する俺。

しかし


「そういう訳にはいかないわ。

 私には後がないのよ!」


いきなりムネタケが消える。


どん!


それと同時に腹部に痛みが走る。

腹部に肘を入れられたらしい。



さらに手を蹴られ銃を取られる。


「これで立場は逆転したわね」


顔を上げるとそこには俺に銃を向けているムネタケがいた。


「あなたを人質にしてもう一度ナデシコを占拠させて貰うわ」


油断した。

あのムネタケがここまでできる奴だとは思っていなかった。

勿論正面から戦えば確実に俺が勝つ。

しかしこの状況では少し微妙な所か……


「さぁ立ちなさい。

 ブリッチに行くわよ」


くっ!ブリッチに行かせる訳には行かない!

流れるように動き足と手を狙う。


「俺も負けるわけにはいかないんでね!」


攻撃は見事当たりムネタケの手より銃を落とさせる。

そしてさっきと同じ轍を踏まないように銃を遠くへと蹴り飛ばす。


手荒になってしまうが、生身をもってムネタケを気絶させ連れて行く!


そう決意し体勢をくずしているムネタケへ突っ込む。


「あんたは甘いのよ!

 こっちにも銃ぐらいあるわよ」


銃をこっちへと向けてくる。

しかし……遅い!

構え終わる前に間合いを詰め鳩尾に掌底を叩きこむ。

そして相手が崩れ落ちる前に胸座を掴み壁へと体を押し付ける。


「観念しろ。お前ではどう足掻いても俺には勝てない」


遠まわしに降伏しろと言い放つ。

しかしムネタケは


「後がないって言ってるでしょ。

 どんな手を使ってでも私はこの任務を果たさないといけないのよ」


まだ降伏はしないと宣言する。

ムネタケの言い方から何か理由があるようだが……


「この状況でよくそんな事を言ってられるな。

 孤立無援、そしてお前自身にも逃げ場のない状況で」


胸座を掴んだまま連れて行こうとする。


「私はねこの任務が果たせなかったらこうすると決めてるの!」


壁という接点を無くし拘束力がなくなってしまったのかムネタケの体から手が離れる。

まだ鳩尾のダメージでそう動けるはずはないのにもかかわらず。

そして走りだし、近くのエアロックを外す。


「ムネタケ何をしている」


そんな俺の声を無視し、ドアを完全あけた。


「私はねもう後がないのよ。

 この任務が失敗してしまったら、私がしてきた悪事が全部ばれてしまうの。

 ……そうしたら私だけじゃなくパパまで降格させられてしまうわ。

 それだけは避けなきゃいけないの!なんとしてでも!」


そう言い放ち体を宙に放り出す。


ユリカがもう戻っているのだろう。

外にはディストーションフィールドが張られていた。


ぐしゃ!


小気味悪い音が俺の耳へと入ってきた。

それがムネタケの最期だと嫌が応でも知る事となった。




















―RURI―


今回も戦闘は楽勝でした。

なんだかんだ言ってヤマダさんの腕前は前回のアキトさんよりも上ですしね。

これからが大変ですね。

ビックバリア突破、サツキミドリ、火星。

アキトさんもいろいろ策を練っているようですが100%前回のように戻れるとは限りませんから。

私が考え事をしているとユリカさんがいきなり口を開きました。


「ねぇルリちゃん……エステバリス隊の隊長ってテンカワ・アキトって名前だよね。

 もしかしたら私の知ってる人かも知れないんだけど、プロフィール見せてくれる?」


…………やばいですね。

ついにアキトさんの正体がばれてしまいそうです。

私としては『違います』と言いたいのですが、言えないので素直にプロフィールを見せます。

艦長の手元にウィンドウを表示させてあげました。


しばらく食い入るようにそれを眺め凄く嬉しそうな声を出し


「やっぱりアキトだ!」


やっぱりばれたみたいです。


「ねぇ艦長。その人とはどんな関係なの?」


「アキトはね私の王子様なの。

 私がピンチな時はいつも駆けつけてくれるの」


「艦長本当ですか?いいなぁ私もそんな人欲しい」


「艦長、テンカワさんとお知りだったんですか。

 お二人共火星出身だったのは知ってますけど、テンカワさんは何もおっしゃってませんでしたよ」


「アキトは照れてるんだって。

 プロスさん後で会いに行ってもいいですか?」


「えぇよろしいですよ」


「で艦長アキト君ってどんな人なの?」


その後ブリッチクルーの皆さんはアキトさんの話で大盛り上がりしました。

私はその合間を縫ってアキトさんにこうメールを送信しました。


『ユリカさんに正体がばれました』


アキトさんがどんな反応をするのかわかりませんが、これからが大変そうです。



















後書き


作者逃亡中の為後書きはありません。

 

 

代理人の感想

代理人死亡中の為感想はありません。

 

 

 

 

 

 

嘘です。ごめんなさい。

 

 

 

さて、冗談はさておき・・・・・ムネタケ惜しいですねぇ。

こう使うんなら最初からもっとスポットを当てて動かせばかなり印象に残るものになったかと思うんですが。

そこがちょっと残念ですね。