「アーキト!」


ユリカの声だ。

俺が昔追い求め、今は少し距離をおいてる人。

俺――テンカワ・アキトの大切な人。


「なんで言ってくれなかったの。

 火星で別れてからずっと心配してたんだよ。

 お父様はテンカワの人間は死んだって言ってたけど、私は生きてるって信じてたよ」


「ありがとうな。俺だってユリカがあのユリカだと思ってなかったからな」


適当な嘘を言う。

まだ俺の正体を知られたくないから。

いつか話せる時は来るだろうけど……未だ待っていて欲しい。


「私達が地球いった後どうしてたの?」


それから俺は過去と同じようにユリカに全てを話した。

かなりショックを受けていたようだが、それを宥めつつ話していく。


全て話し終わり


「持ち場に戻ろうか。そろそろ大気圏突破の時間だろう」


「うん」


すぐに別れる。


今回はっきりした事がある。

やっぱりまだ俺の体はユリカを求めてる。

しかもこちらのユリカではなくテンカワ・ユリカを。

このままの気持ちで今のユリカの気持ちを受け入れる事は出来ない。


すまないユリカ……


POWER    第5話 「サツキミドリ」




―RURI―


実は今サツキミドリにいたりします。

地球防衛ラインは、いけるかな〜という感じで前に使ったパスワードを入れてみたら見事解除できてしまったので、すたこらさっさと突破してきてしまいました。

プロスさん辺りは怪しんでましたけど、可愛く『解除できちゃいました』と笑って誤魔化しておきました。


……いいんです。これは少女の特権ですから。

その後は全てを忘れるように操作に集中していたら、それが良かったのか予定よりも大幅に早くサツキミドリについてしまいました。


そして今の状況はというと


「はじめまして!! 新人パイロットのアマノ・ヒカルでーす。
 
 年齢は18才、独身、女、好きなものはピザのはしの硬くなった所と、両口屋の千なり。

 後は山本屋の味噌見込み。それから、スリーサイズは上から84,56,84でーす」


サツキミドリで合流となったヒカルさん、リョーコさん、イズミさんの歓迎パーティーを行ってたりします。

リョーコさん達がいくら綺麗とはいえ、ステージに乱入しそうな勢いな整備班の皆さんはどうかと思いますけど……


「はい、ありがとうございました。

 元気のいい女の子でしたね。これからよろしくお願いします」


プロスさんはプロスさんでのりのりで司会してますし。

ちなみに他の人は何をやってるかといいますと。

ミナトさんはホウメイさんとゴートさんの三人で飲んでます。

シノブさんはウリバタケさんに絡まれてますね。はずれの席を引いたみたいです。

メグミさんは整備班の方の中にまじってるようです。ヤマダさんもまじって結構楽しそうにしてます。

ユリカさんは端の方で暇してるみたいです。

一応艦長ですから騒ぐわけにはいきませんから仕方ありません。


アキトさんはというと……しっかりと私の横にいます。


まぁ私がユリカさんとフクベ提督以外の席を電子くじで決めると知ったので、オモイカネに頼んで細工して貰ったんですけど。

下手にウリバタケさん達の近くに行ってしまったら命が危ないような気がしますし、久しぶりにアキトさんとお話ができるので私も嬉しいので問題はありません。


ないと言ったらないんです。


「それではエントリーNO.2、スバル・リョーコさんです。よろしくお願いします」


どうやらリョーコさんの自己紹介に移ったようですね。

あいも変わらず整備班の方々は奇声とも聞こえる雄叫びを発していますが……


「俺は、スバル・リョーコ。18歳、よろしく。

 特技は居合い抜きと射撃。好きなものはオニギリ、嫌いなものは鶏の皮、以上だ」


相変わらずボーイッシュです。

整備班の中からは


「俺はこの子に決めた。普段はパンツ穿いてるのに俺とのデートの時だけはスカート穿いてくるんだよ。

 それで『スカート穿いてきたんだけど変かな』って聞いて来るんだよ。

 これに萌えなきゃ漢じゃねぇ!」


という声がやはり聞こえて来るので女性としても人気のある方なんですね。

整備班の方の持論はともかくとしてですが。


「リョーコそれだけじゃ駄目だよ。スリーサイズとかも言わなくちゃ」


壇上に残ってたヒカルさんが煽ります。


「うるせぇ、なんで自己紹介でそんな事言わなきゃいけないんだよ」


「えー、でもー、絶対みんな期待してるよ。

 ほら私も言っちゃったんだからリョーコもぱっと言っちゃおうよ」


みんな期待の部分で男性陣の皆さんが反応したみたいで、やんややんやと喝采を送ります。


「ほらーやっぱりみんな期待してるよ。

 リョーコが言わないなら私が発表しちゃうよ」


「てめ、やめろ。喋ったら殺すぞ」


リョーコさんがヒカルさんに襲い掛かりました。

ヒカルさんは予測してたみたいであっさりとかわして逃げの体勢に入っています。


「リョーコのバストは……」


「待てこらー、んなこと人前で喋る事ではないだろう」


そのまま部屋中を使っての追いかけっこになってしまいました。

喧嘩するほど仲がいいと言いますのでほっときましょう。

問題は次の方です。


べべん!


来ました。イズミさん特製ウクレレの音です。


「ヒカルとリョーコのバスト……ヒカルとリョーコのバスと……轢かれる旅行のバスと……クックック」


何回聞いても寒いです。寒すぎます。

整備班の皆さんも聞こえなかったふりをしてリョーコさんとヒカルさんの追いかけっこに野次を飛ばしてます。

他の人達も自分達の事に集中して聞こえなかったふりをしてるみたいです。

俗に現実から逃避してるとも言います。


あぁやっぱりステージでイズミさんのオンステージが始まったようです。

他の人達もそれにつられる様に自分達が夢中になれそうなことで騒ぎはじめました。

やっぱり私がこの言葉を言わなきゃいけないみたいですね。


「ばかばっか」


















―AKITO―


歓迎パーティーが一段落したのでルリちゃんと話をしていた。

壇上では隠し芸大会が繰り広げられていてみんなの注意がそちらに向いてるので丁度よかった。


「これからはB計画主導で進める事で問題ありませんね」


「あぁ。少し前にアカツキに連絡をとったらN計画は全てコスモス以降に移すそうだ。
 
 それなら俺達が進められるのはB計画だけだろう」


「ナデシコ武装強化案をコスモス以降に移すんですか?」


そうN計画とはナデシコのパワーアップを目的にしたものだ。

元々武装の少ないナデシコである。ディストーションフィールドがあった所で防御力は低い。

後々の事を考えると必要になるだろうという俺の判断からだった。


「たぶんだがN計画はカキツバタとシャクヤクに移されると思う。

 コスモスは設計思想がナデシコとは違うからな。

 ナデシコは電子関係の装備の充実に務めるらしい。

 最終的にはナデシコを指揮艦とした運用を目指したいのが、ネルガルの思惑だから」


「でも過去の事を考えると難しいですね。

 コスモスは連合軍に徴収されてますし、シャクヤクにいたっては出航前に大破してますから」


「それは俺らがどうにかしていくしかないだろうな」


そして水を飲む。


未来を変えていく。


これは俺とルリちゃん、ラピスにハーリー君全員の願いだ。


しかし現実はかなり難航している。

なるべく自分達の正体をばらす事はしたくない。

これはナデシコ全体のレベルアップの為だ。

正体をすればみんな俺達を頼る事になるだろう。

未来という最大の情報を持っているから。

でも正体をばらさない事によって発生するデメリットもやはり存在する。

今回のような場合がいい例だろう。

未来を変えようと動いても全ての事象が思い通りに行く訳はない。

それでも望みの為にはどうにかしていかなきゃないだろうがやはりうまく行かない。

ちょっとした無限ループにはまっている。


「アキトさん……たぶん大丈夫ですよ。

 前もいろんなピンチがあったけど大丈夫だったじゃないですか。

 もっと皆さんを信頼しましょう」


心配そうに俺を見てくる。


そんな視線を感じながら、みんなを見てみる。

未だに隠し芸大会をしていて馬鹿騒ぎをしているが、どこか俺を安心させる。そんな人達がここには居る。


「そうだな。駄目そうな所は俺達がちょっと頑張ればなんとかなるし、もっとみんなに頼ろうか」


「それでこそアキトさんです」


ルリちゃんもいい笑顔が出来るようになったもんだ。


みんなの笑顔を続けるように。

みんなと一緒にこれから頑張っていこう。


















―SHINOBU―


ふー酷い目にあった。

今は新しいパイロットの歓迎パーティーを抜け出し展望室にいる。

理由はウリバタケさんにある。

ノンアルコールビールで騒いでるはずなのに酔っ払ったおっさんの様な感じで絡んでるのだ。

さすがにそれに耐え切れなくなりここに逃げてきたという訳である。


「んー、やっぱりここは気持ちいいな」


ホログラフらしいのだが、ここには自然がある。

宇宙空間ましてや宇宙船の中なら自然なんかあるはずがない。

元々自然が好きだった俺にとっては特にありがたかったりする。

ボクサー時代はわざわざいい景色を見たいが為にかなり長い距離をロードワークして見に行ってたりもした程だ。


それはそれでジムの会長に喜ばれたけどね。


昔の事を思い出すと体を動かしたくなってくる。

最早職業病と言ってもいい程だな。


ランニングを始め少しずつ体をほぐしていく。

しばらくして体が暖まってくると走る速度を上げていく。


そして全力でダッシュする。

400mぐらい走ると止まりシャドーを始める。

ジャブから始まり、コンビネーションを加える。

ワンツー。左ボディーから右フック、右アッパーへとパンチを繋げていく。


しばらくそれを繰り返していった。









黙々と運動をしていたが、突然展望室の扉が開く。

中に入ってきたのは一人の女の人だった。


確か先ほど合流したパイロットの一人で……名前はアマノ・ヒカルだったはず。


「ありゃー、先客がいましたか」


さっきの紹介でも思ったけど、明るい子だ。


「いや別段きにしないよ」


「大丈夫です。私も気にしません」


よく分からないけど即答だった。


「冗談ですよ。それより何をしてたんですか?」


「いやある人のせいで酷い目に会ったので、逃げてきた。

 君こそどうしてここに?主賓が会場抜け出してきちゃ拙いでしょ」


「いやー。リョーコに追いかけられてたんですけど、しつこく追ってくるんで逃げてきました」


俺と似たような物か。



「えーともう一つ聞いていいですか?」


「別にいいけど。何?」


「お名前教えて下さい」


そういえば向こうは自己紹介をしていたが、こちらはしてなかったな。


「俺はカスガ・シノブ。一応パイロットをしてる」


「それじゃあ私と同じですね」


「これから一緒に敵と戦っていく訳だから仲良くしようか。

 よろしく」


「こちらこそ」


二人共右手を出して握手をする。


「ちょっと汗かいてますね」


「ごめん……臭う?」


やばい。

本当は軽い運動で終わらすはずだったんだけど、どうやら本格的にトレーニングをしてしまったらしい。

あまり汗が外に出ない体質とはいえしっかりトレーニングをして汗が出ないはずはなかった。


「いえ別に臭いませんけど。何してたんですかー?」


なぜか眼鏡を光らせて聞いてきた。

その行動がよく分からなかったので。


「いや軽い運動のつもりだったんだけど、気づいたら普通にトレーニングしちゃってんだよ」


普通に答える。


なんかちょっとつまらないような顔をしたが、すぐに笑顔に戻って


「トレーニングしてたんですか。偉いですね」


「いや職業病みたいなもんだよ。元ボクサーだからさ」


「えっ!?ボクサーなんですか!」


そういえば会ったばかりだから知らないんだな。


「後でテンカワかヤマダ辺りに確認とれば分かるよ。

 こいつらもパイロットだから」


なんか体が震えだした。

どうしたんだろ?


「ど「今度取材させて下さい!!」


どうしたの?と聞こうとしたら、急に前のめりになってきた。


「……う……うん、いいよ」


よく分からないけどO.Kしてしまった。

何もなくて良かったけど……って取材!?


「ち……ちなみになんの取材」


「私の書く漫画に決まってるじゃないですか」


「へー漫画書いてるんだ。良かったら今度見せてくれる?」


「ええいいですよ」


んっ?なんかおかしい。


「そうだ!漫画の取材?なんで俺を」


雰囲気に騙されてスルーしてしまう所だった。


「やっぱりプロの方に聞いた方がリアリティーあるじゃないですか。

 拳で語り合う漢同士!やっぱ燃え燃えじゃないですかー」


ぐっ!と拳を握りながら力説する。

俺は漫画とかアニメとかは良く分からないけど、この子はヤマダと似たような所がある。

たぶん滅茶苦茶気が合うと思う。


「ちなみに言質はとってありますので今度取材させて貰いますね」


逃げ道を自ら断ってしまっていたようだ。

可愛い女の子に取材されるだけまだましだな。


「了解」


取材をしてもいいよというサインをなぜか敬礼付きで送る。

なんとなくこんなのりなような気がしたから。


でもヤマダ辺りにこんな事言われたら即答でNOと言ってやる。


「それじゃあお願いします」


向こうも敬礼で返してくれる。

ちょっと……いやかなり可愛かった。

ボクサー時代の名残からか人に自慢できるぐらいの禁欲生活を送ってたりするからさらにやばい。


体の一部が反応してしまいそうだ……





ビィーー!ビィーー!!





突然警報が鳴り出した。


『サツキミドリに木星蜥蜴が接近中』


コニュニケからのウィンドウと警報は俺の救いとなった。

た……助かったー。

俺はちょっと反応してしまってる体の一部を見せないように全力で格納庫へ向かう。


「待ってよー」


悲しいけど後ろに残ってるヒカルさんを残して。














 
―YURIKA―


「んーどうしたらいいのかな?」


「目標あと30分でグラビティーブラストの射程に入ります」


「ユリカー、そろそろ決断しなきゃやばいよ」


木星蜥蜴の襲来という事で警報が鳴ったけど、実際はチューリップ1機のみだった。

サツキミドリからの報告では活動は停止していて、宇宙を漂ってここまで来てしまったというのが見解らしい。

一応こっちでも確認したけど活動は完全にストップしてるみたい。


「一応捕まえたら今後が楽になりそうだけど。念のため壊した方が危険はなさそうだし」


「ネルガルとしましては、出来るなら捕獲して欲しいですね。

 やはり生きた資料となりますと中々手に入りませんから」


「ですよねー」


「僕は反対です。自ら危険を冒すこともないでしょう」


「そうなんだよねー」


みんなの意見も別れてるので私が決断しなきゃいけないんだろうけど、まだ悩んでる。

ここは提督の意見も聞いてみよう。


「提督はどうお考えでしょうか?」


「うむ……ここはパイロットの中で志願者を募り、いなければ破壊。いれば捕獲すればいいだろう。

 しかし危険を冒させる訳にはいかない。ナデシコの主砲はいつでも撃てるようにしておけば問題なかろう」


「提督ありがとうございます。みなさん問題ありませんね?」


反対がないか少し間をおく。

特に反対の声が上がらないので話を進める事にした。


「メグちゃんパイロットのみんなに回線開いて。ルリちゃんはグラビティーブラストのチャージを。

 ミナトさんナデシコを発進させます。射程ぎりぎりの位置まで行って下さい」


「はいはーい。ナデシコ発進しまーす」


「……了解。グラビティーブラストチャージ開始」


「艦長繋がりました。どうぞ」


「パイロットの皆さん。話し合った結果チューリップを捕獲する事にしました。

 そこで志願者の中からこちらで選抜して行ってもらいます。

 誰も志願する人がいなければチューリップは破壊します」


するとすぐに返答あった。


『俺が『待てユリカ本気か?』


明らかに行く気満々のヤマダ君の声を退けアキトが通信してくる。


「勿論本気だよ。大丈夫だって何かあったらすぐにグラビティーブラストが発射出来る位置にいるから。

 それに捕まえれればアキトの危険がへるでしょ」


『まぁ……そうだろうけど』


「アキトったら心配症なんだから。もっと気を楽にしていこうよ」


『そういう訳には行かないだろう。


 …………分かったよ。その作戦でいこう』


「それじゃあ今度こそ。誰か志願者いませんか?」


『俺『俺、志願します』


あっまたヤマダ君邪魔された。


『俺も行く』


『俺は今回はパスしとくぜ』


『私もー』


『サッカーで重要なもの……パスする。クックックッ』


イズミさんのは意味不明だけど、行くのはシノブさんとアキトかな?

一応ナデシコの周りには何機か欲しい所だからちょうどいいかな。

……よしこれで決定。


「それじゃあアキトとシノブさんお願いします。

 作戦10分後スタートとします。二人はきちんと作戦の内容を頭に入れてから出発して下さいね」


『だー!みんな俺の邪魔をしやがって。

 艦長!俺も志願するぞ』


やっぱり無視できないよね。

でもなんかヤマダ君って危なさそうだから、ちょっと心配なんだよね。


「なんかヤマダ君って危なっかしいから」


『それは言えてる』


それをストレートに口に出し、アキトが援護攻撃をしてくれる。

やっぱり私とアキトの相性は抜群だね。


『ははは、ヤマダ言われてるの。

 いいじゃないか前回いい所持ってたんだから。今回は譲っとけよ』


シノブさんがさらに援護し


『ちぇ。でも今度は譲れよな』


素直に折れた。


「それじゃあ作戦を伝えます」



















―SHINOBU―


「テンカワどうする?」


俺とテンカワはナデシコを出発しチューリップの近くまで来ていた。

ナデシコのフィールド外に出てしまうので、背中には追加のエネルギーパックを背負っている。


『ディストーションフィールドは展開されていないみたいだな。

 外から少しずつ偵察していって、安全が確認出来たら捕獲しよう』


「俺はこのまま左の方から見て回る。

 お互い気を付けて行こう」


『それじゃあ気を付けて』


そして通信を切る。

さて行きますか。


エステは直進させて慎重にチューリップを調査していく。

バッタの反応はない。チューリップの活動反応もない。

それでも電源を落としているバッタがいないかを注意しながら進んでいく。


そして中を確認するだけに終わり、テンカワに通信を送る。


「こちらカスガ・シノブ。チューリップ外周に異変なし。

 念のために中を調査する」


『待ってくれ』


急に慌てた声で言う。


「活動反応はない。しばらく外で見張っていたけど……!?」


『チューリップ活動開始しました』


ナデシコから通信が入る。

そしてチューリップは不気味に光っていく。


『グラビティーブラストを発射します。

 射線より離れてください』


離脱しなくては。


スラスターを吹かしその場を離れようとするがチューリップの内部に機体が入ってしまった。

入ってしまった部分から少しずつ機体が吸い込まれていく。

全力で離脱しようとするが、それ以上の力で中から引っ張られていった。


もう駄目だ!そう思ったとき


『シノブさん大丈夫か!?』


テンカワがこちらにやってくる。


『もう間に合わない!お前だけでも離脱しろ』


これ以上の損害はしてはいけない。

しかもテンカワならなおさらだ。


『そういう訳には行かない!もう誰かが死ぬ所は見たくないんだ』


それでもこちらに向かってくる。

そしてついに俺の機体を掴む。


『スラスターを全開にするんだ。早く!』


「わ……分かった」


一度死を感じだが、まだ死にたくないという思いはある。

すぐにスラスターを全開にして脱出を試みる。


中に吸い込む力も二機分の力には敵わないようで少しずつ機体が外に出て行く。


「もう少し。もう少し」


あとちょっとまで来た。


――助かった。


この呪縛から開放される。

安堵した時にそれはやってきた。


『EN残量後残り5%』


最悪なウィンドウが開いた。

こんな時に限って……持ってくれ。



元々宇宙用の0GフレームはEN上限が高くない。

かなりの予備電源を持ってきたつもりだが、ナデシコのエネルギーが貰えない所ではそんなに持たない。

しかも今回はスラスターを全開にしている。

そのせいでエネルギーの限界が早くきてしまった。


『この野郎!』


しかしそんな状況でさらに力が加わる。

テンカワの機体がエネルギー残量を気にせず力を出しているからだ。


『はー!!』


ブン!


宇宙空間だから音は聞こえないが、聞こえそうな程勢いよく機体が飛んでった。


助かった!

凄い安心感があったが、テンカワの機体が気になりすぐに周囲を確認する。


「テンカワ!」


テンカワはまだチューリップの真正面にいた。


「大丈夫だ!ナデシコ聞こえるか」


『アキト!アキト!』


通信に出た艦長はほとんど泣きそうな顔をしている。

本人は大丈夫だと言っていても状況は最悪だった。


「シノブさんは射線から出ているな」


『大丈夫です。後アキトさんが離脱すれば問題ありません』


しかし俺の機体にはEN残量0のウィンドウが出ていた。

助けに行こうにも助けに行けない。

2機でなんとかなったが、1機ではどうにもならない。


「俺は大丈夫だ。すぐにグラビティーブラストを発射しろ。

 バッタが出てきそうな気配がある」


そんな状況でもテンカワは大丈夫だと言う。


『でも。そんな事したらアキトが死んじゃうよ』


「ユリカ……俺が信じられないか。俺は絶対生きて戻る。

 だからグラビティーブラストを撃て!」


ちょっと間があったが、すぐに泣きながらも笑顔になり


『うん分かった。アキト信じてるから……グラビティーブラスト発射!』


『発射』


グラビティーブラストを発射する。


テンカワ……俺もお前を信じてるからな。

死んだら絶対許さないぞ。

















―RURI―


「チューリップ破壊確認」


発射されたグラビティーブラストはチューリップに命中し、一撃で完全に活動を停止させました。


後はアキトさんです。


「ルリちゃんアキトの機体を探して。

 メグミさんパイロットのみんなにシノブさんの機体を回収して貰って。回収後はアキトの機体の探索を。

 ミナトさんナデシコを前進させて下さい。念の為周囲に気をつけてください」


ユリカさんの必死さが凄く伝わってきます。

そして私や他の人達も必死でアキトさんを探します。









「カスガ機回収しました。シノブさんは多少衰弱が見られますが、無事です」


まずシノブさんが回収されました。

後はアキトさんだけです。

アキトさんはいざとなったらボソンジャンプが出来るので、たぶん大丈夫でしょうが楽観はできません。

もしかしたらジャンプ出来ない状況に陥ってる可能性もありますから。





10分程たったでしょうか?

その間はとても長く、苦しい物に感じました。

ついに私達の元にアキトさんからの通信が入りました。


「こちらテンカワ機。場所は照明弾を打ち上げる。回収頼む」


『アキト!……良かった……良かった』


ユリカさんは本当に安堵したのか倒れてしまいました。

他の皆さんも艦長を心配しながらもアキトさんの無事を喜んでいました。


「よいしょっと、テンカワ機回収後サツキミドリに後退。

 サツキミドリに収容後、第2種戦闘配置に切り替え。敵影がなければ戦闘配置を解除して下さい。

 すいませんゴートさん、ユリカを医務室へお願いします」


「うむ」

そうしてユリカさんは医務室へと運ばれていきました。



今回は少し心配させられました。

でも誰も死ぬ事はありませんでした。

これからもうまくいってくれればいいのに……

これが偽りのない私の思い。



















後書き

こちらは久々になってしまいました。

これからどんどんかいてきますのでお許し下さい。

次はAction1000万HIT記念SSとSonataを書いてからになると思います。

 

 

代理人の感想

・・・どうやって助かったんだろう?

種あかしは後で、ということにしてもそれなりの伏線とか描写とか入れといたほうがいいと思うんですけど。