終わり無き旅
第八話 「ナデシコ発進 前編」
ゴウッ!
肌が焼けるように熱い。
目の前は赤。
赤。
紅。
あか。
「ここは・・・?」
(あの時ランダムジャンプをして・・・・)
熱風が肌を焼く。
おもわず体を捻り、それから逃れようとしたその時、体の異変に気付いた。
「体が・・・・・縮んでいる」
アキトの体は、大体六歳の頃の子供の体型になっていた。
着ている服まで違っている。
黄色いシャツに短パン、こんな服はここ十数年着たことが無い。
いや、そもそもサイズが違うのだが。
ゴウッ!
「っ!!!!」
再び熱風がアキトの柔肌を焼く。
「熱い・・・・熱い?・・・・五感が戻ってる?」
リンクをしても、触覚や味覚、嗅覚は元に戻らなっかたというのに。
熱さを感じている。
焼けた臭いを感じている。
アキトは呆然と周りを見まわす。
そこは見覚えのある場所だった。
ある意味、全てが始まった場所。
両親の死亡の原因を知るためにアキトはナデシコに乗り込んだのだから。
両親が事故に見せかけて暗殺された空港。
アキトは燃え盛る空港の前に立ち尽くしていた。
(これは・・・まさか・・・・・・・過去に戻ったと言うのか!?)
アキトは以前、過去に戻ったことがある。
相転移を起こし、自爆しそうになったマジンと供にボソンジャンプをした時、アキトは二週間過去に戻っていた。
その時は結局なにも出来ずに終わってしまったが・・・・・。
(またなにも出来ずに終わるんじゃないのか?
俺一人が足掻いたところで何が出来るわけでもない。
ましてや今の俺は子供だ・・・・・・)
俺は未来をから来た、などと言えば間違い無く精神病院行きだろう。
その時、後ろの方で人の気配を感じる。
失った五感の代わりに鍛えられたアキトの第六感は、それが敵ではないことを告げていた。
(敵意は無い・・・。レスキューか?)
これだけの大惨事だ。そういうものが居てもおかしくは無い。
「おい!ここに子供が居るぞ!」
オレンジ色の防火服に身を包んだレスキュー隊員がアキトに駆けつけて来る。
「大丈夫かい?坊や」
やさしい声でそう語り掛けてくる。
アキトとしても、ここでどうこうするつもりも無かったのでレスキュー隊員に合わせた。
「・・・・・大丈夫」
普段であれば、その容姿に似合わぬ物言いだろうが
この状況では、情緒不安定になっているとレスキュー隊員には判断された。
「もう大丈夫。おじさんがついてるからね」
アキトを抱きかかえると、空港から遠ざかる。
やがて、輸送機で病院に運ばれ精密検査を受ける。
アキトが何もせずとも周りが勝手に動いていた。
数日病院に滞在していたが、やがて看護士が言いにくそうにアキトの両親が死んだことを伝える。
だがアキトは、そうですかと答えただけだった。
そして身寄りの無い自分が孤児院に移されることを告げられ、孤児院を経営しているらしい、
いかにも優しそうな妙齢の女性がアキトに話し掛ける。
その女性がいたわるように語り掛けてくる。
アキトはそれに喜ぶでもなく、悲しむでもなく、ただ淡々と答えた。
別段アキトは普通に接しているつもりなのだが、十歳にも満たない子供がそんな対応をしていれば、事故の凄惨さが
この子から笑顔を奪った、とかドキュメンタリーな想像をされても仕方なかった。
確かに事故はあった。ボソンジャンプの事故が。
だがそのことに気付く者が居る筈も無い。
誰が想像できよう?
この子供が、実は未来から来たなどと。
ここでもやはり、アキトが何もせずとも周りが勝手に動きそしてアキトの処遇を決めた。
アキトに口を挟む余地など無かった。
孤児院に行く前にお父さんとお母さんのお墓参りに行こうかと女性が言うとアキトは深く考えずにそれを承諾する。
「それじゃあ、私はちょっとその辺りを散歩してくるから・・・・」
そう言って孤児院の院長、ミア・ウェルディ(途中自己紹介をされた)はアキトから離れていった。
ユートピアコロニーの一角にある、小さな集合墓地。
コロニーとはいえ、地球や月の都市部と違い土地が余っているのでこうやって墓を立てるのが火星では一般的だった。
そこにアキトは連れられて来た。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
アキトにとって二度目の体験。
(なんだか不思議な気分だな・・・・)
死人は生き返らないというが、ボソンジャンプはそれを覆してしまうのではないか?
(ばかばかしい・・・)
不可能ではないかもしれない。しかし不可能なこと。
そして未来において苦しんだ自分が馬鹿らしくなる。
なんのための力か、なんのための後悔か。
目の前には綺麗な直方体をした石があり、そこにアキトの両親の名前が刻まれている。
何となくそれに触れてみる。
降り注ぐ日差しに暖められたのか、想像していたよりは冷たくない。
ザッ
不意に足音が聞こえる。
(!?)
アキトは勢いよく振り向く。
(気配を感じなかったぞ!?)
気が緩んでいたわけではないのに、自分に気配を悟らせなかった・・・。
この時代の火星と言うのはあまり治安がよくない。
子供を誘拐して売買する非合法組織もあったほどだ。
今のアキトにそれらを退ける力が有るはずもない。
アキトに気配を感じさせず近づいたその人物は、子供だった。
「子供・・?」
アキトが洩らしたその呟きに、その子供、女の子は反応する。
「な〜にが子供よ。自分だってそうでしょ。まったく探すのに苦労したわよ・・・」
目の前の女の子は透き通るような亜麻色の髪を肩まで伸ばし、その瞳は碧眼、
シンプルにまとめられたその服装にアキトは覚えが無かった。
年の頃は今のアキトと同じぐらいなので、もしかしたら子供の頃の知りあいかもしれない。
この頃の記憶は曖昧だが、友達と呼べるものが僅かながら居たような気がする。
「ん、何?もしかして私が分からない?・・・まあ、確かに髪も目も違ってるけど・・・そんなもの気配で読み取りなさい。
五感が戻ってもあんたは鈍感なのね」
「この物言いは・・・・・まさかお前ミズキか?」
確かに外見こそ違っていたが、身に纏うその雰囲気はタチバナミズキそのものだった。
「一体どうしたんだその格好は・・・」
「私は昔はこうだったのよ。ナノマシンによって黒髪黒瞳になったの。
まあ、マシンチャイルド特有の金色の瞳と似たようなものね」
「何か違う気がするが・・・・」
ふと、安心している自分に気付き、驚く。
(やはり寂しかったのか・・・・・・・)
「そ・れ・で!これからどうするの・・・・って前にも聞いたような気がするけど」
「その前に確かめておきたいんだが・・・戻ってきたのは俺達だけなのか?ルリちゃんやラピスは?」
ミズキも戻っているなら可能性はある。
「ん〜、一応アキトの居場所を探るついでに調べたけど・・・分からないってのが本音ね」
「分からない?」
「原理はよく分からないけど、この格好を見る限り私達は精神のみのジャンプをしてしまったようね。
勝手な推察だけど、遺跡が何らかの事故によって精神体になった私達の器に近いものに
無理矢理詰めたんじゃないのかしら」
「遺伝子的にはさほど変わっていないからな・・・。
つまり器の無いルリちゃん達はこの時代には跳ばなかったと?」
「それなんだけど・・・、アキトは一体何処で目覚めたの?」
「空港での事故現場だ。気がついたらそこに居た」
ふん・・・とミズキは思案顔になる。
右手で左頬をなでるような仕草をするのは癖だろうか。
「これも私の勝手な推察だけど・・・・・。
ランダムジャンプはジャンパーの記憶の中から無作為に情報を取り出して
ジャンプするのかもしれない・・・・想像だけどね。
仮にランダムジャンプが本当にランダムだったらこの無駄に広い宇宙の何処に出るか分からないのよ?
惑星より宇宙空間の方がよっぽど広いんだし、過去の火星に跳ぶ確率なんて
天文学的確立を通り越してほぼ不可能よ」
「つまり今回のジャンプは俺の記憶の中から選ばれたというわけか・・・」
「だから、ホシノルリ達も自分の記憶の中から何処かに跳んでるんでしょうね。何となく予想はつくけど」
アキトにとって空港での事故は始まりの場所・・・・・。
ルリにとって始まりの場所は・・・・・。
「ナデシコ・・・・」
「たぶん、あの時近くに居た最も強いジャンパー能力を持っていた人物に周りが引きずられたんじゃないかしら。
私はアキトに、ナデシコBの連中はホシノルリに」
「しかし、ジャンプ先に器が無かったら?」
「恐らく・・・・消えるでしょうね」
「・・・ユーチャリスやブラックサレナ、エニアがいないのはそのせいか」
そもそも精神のみのジャンプになってしまった理由は分からないがそれが分かった所でどうにかなる訳でもない。
「まあ、起こってしまったことをうだうだ言ってもしょうがないし。
これからどうするの、アキト」
アキトの手に力がこもる。
「俺は・・・・・・・・・・」
歴史を変えることは不可能か。
「・・・・・・・・・・・・」
それとも可能なのか。
「俺は・・・・・・・・・・」
「もしも歴史を変えることが出来るのなら・・・俺はみんなを助けたい。それがせめてもの償いだ」
「誰に対する?」
「・・・本当のことを言ってしまえば、未来でしでかした事については後悔なんてものはしていない。
その原因についてはしたけどな。
だから俺は、不甲斐無い自分自身に対して償いたい。
俺は今こうして生きていられる。
なら、少しでも自分を変えたいじゃないか?」
先ほどまでの全てを諦めきったアキトとは違う、明日を信じる者の表情。
(いい顔をするようになったじゃない・・・・)
ミズキはそれを優しく見つめる。
「分かったわ。一度手伝うと言った以上、とことん手伝うわよ」
「いいのか?」
「まあ、その代わり幾つか面倒を引き受けてくれると嬉しいんだけど」
「それぐらいなら・・・」
「細かいことはおいおい決めていきましょう。
そろそろあの女も帰ってくるでしょうから私も帰るわね」
「ああ」
「あとで連絡先教えるから」
「ああ」
旅人の、終わり無き旅がここから始まる。
(あれからもう十四年か・・・・・)
アキトは自転車を漕いでいた。
すでにとっぷりと日も暮れ、子供は寝る時間である。
「このあたりだったか?」
アキトはゆっくりと自転車を漕ぎながら風を感じていた。
過去に戻り、五感が戻ってからこうした感覚をアキトは大切にしていた。
それを邪魔するかのように後ろから車のライトが当たり、タイヤの地面を噛む音がする。
電気自動車のようでエンジン音は聞こえない。
やがて車は何事も無く過ぎ去っていく・・・わけはない。
バラ!
車のトランクに無理矢理詰め込んだ旅行ケースを縛り付けていたロープが突然外れる。
カオス理論という不確定要素に裏づけされた、確実な『偶然』。
必然的に、容量の限界を超えていたトランクは過剰分を吐き出す。
ガン!・・・ガン!
ケースがまるでアキトを狙っているかのように狙い定めて飛んでくる。
(別に当たってもかまわないが・・・痛いのは嫌だしなぁ)
アキトは自転車を飛び降り、ケースの力のベクトル向きを変えながら難なく受け止める。
トランクを落としたのに気付いたのか、車が止まり中から二人、男と女が出てくる。
「あのっ、お怪我はありませんでしたか!?」
女・・・ミスマルユリカが心配そうに尋ねてくる。
「だから荷物を減らそうって言ったんだよ、ユリカ」
男・・・アオイジュンがユリカをそう嗜める。
「だって〜、三日かけてお気に入りを選んだんだよ〜。全部持っていきたいじゃない」
ユリカはまったく懲りてない。
「はいこれ」
アキトが中身の詰まったケースをユリカに手渡す。
しかしユリカはアキトを見つめたまま動かない。
「あのぅ・・・不躾ですがですが何処かでお会いしたことありませんか?」
「・・・いや、初対面だけど?」
平静を崩さずそう返す。
「そうですか?う〜ん、じゃあ私の勘違いですね。ご迷惑をお掛けしてすみませんでした」
ユリカは一礼してケースを受け取ると車に向かって走り出す。
ジュンがもう遅刻だよ・・・と言っている辺り、以前とあまり変わっていないらしい。
再び車が走り出すと、すぐに見えなくなった。
「さて、そろそろ俺も行くか・・・」
アキトも再び自転車を漕ぎ出す。
「いやあ、お待たせいたしました」
前回と同様、適当に衛士達と遊んでいると狭い個室に連れて行かれた。
ついでに拘束もされている。
「あんたがここの責任者か?」
アキトはこの人物、プロスペクターと交渉を求めた。
さすがに名指しでは怪しまれるので、責任者を出せと暴れてみた。
手加減はしたが、何人かの骨を折った気がする。
「まあ、そのようなものですな。・・・おや、パイロットですか?」
アキトの手の甲に写るIFSを目ざとく見つけると、プロスの顔つきが変わる。
「一応、コックなんだがな・・・」
「それで、ここに一体何の用ですか」
「ここにミスマルユリカってのが居るだろう?そいつと会わせてほしい」
今のアキトにとってそれは意味のあることではなかったが、とりあえずの口実にはなる。
「ユリカさんとお知りあいで」
「火星で幼馴染だった。あいつなら、いやあいつの父親なら何故俺の両親が殺されたのか知ってるはずなんだ」
「ふうむ・・・・。ところで貴方のお名前は?」
「テンカワアキト」
アキトがそう言うと、僅かながらプロスが反応する。
「とりあえず、遺伝子データを確認させてもらいますよ」
懐から携帯端末を出し、それに付属するペン型採取器をアキトの舌に近づける。
ピッ
「あっなったのおっ名前なんて〜の♪」
大量のデータベースからアキトの情報を引き出すと、画面に表示する。
アキトと共にそれを見つめていたプロスは驚愕する。
「なっ・・・全滅したユートピアコロニーからどうやって地球に?」
「その前後のことはよく覚えていない。ただ気が付いたら地球に居た。俺はみんなを救えなかった・・・」
その時のことを思い出したのか、アキトの表情が暗くなる。
交渉において、相手の言っていることの真偽を判断するのは重要な要素の一つである。
もちろん、交渉のプロであるプロスは、アキトの表情からそれを読み取ろうとする。
(なんと深い目をしていらっしゃる・・・・)
気を抜けば引き込まれてしまいそうな、深い、深い瞳。
その奥にある『何か』をプロスには読み取ることが出来なかった。
正直、底の知れない人物を雇うのには抵抗がある。
だがプロスは、自分でも分からない感情に突き動かされてアキトを信じてみる気になった。
交渉人としては失格かもしれないが、人間という種として正しい選択をした。
そんな思いをいだかせてくれる。
「そうですか、貴方も大変でしたな・・・。
コックさん、でしたな。
分かりました。貴方を雇いましょう!」
「それとユリカと会うのにどんな関係が?」
「いえ、ユリカさんは現在貴方がお会いになるのには少々面倒な立場にあるのです。
しかし!私どもにコックとして雇われて頂ければユリカさんとお会いになるのも
容易になる、とそういう訳でして。
貴方、今無職のようですしまさに一石二鳥。
どうですか?悪い条件ではないと思いますが」
なお、ここまでの会話でプロスは一体どんな職場で働くのかを一切説明していない。
メリットだけを話すあたりは、さすがに交渉のプロである。
「分かりました」
とアキトが返答すると、一体何処に持っていたのか契約書をアキトに手渡す。
「そ〜ですか。ではここにサインを・・・」
カキカキカキ・・・・・・・・
「はい、ではこれでOKです」
プロスは何も映っていないディスプレイの前に移動する。
目配せで、近くに居た男が端末を操作する。
(演出に凝るなぁ・・・・)
なんと言うか無駄だ。
「さあ、あなたもこれでナデシコのクルーです!
しっかり働いてくださいよぉ」
それが合図のようで、後ろのディスプレイにナデシコの外観図が次々に映し出される。
何故だかやたら力が入ってるので、返さないのも悪い気がする。
マジックショーの観客気分だ。
・・・・・・・つまりはネタを知っているためにつまらないということだが。
「ナデシコ?」
調子も乗ってきたようで、振りも大きくなる。
「そう!ナデシコです!」
「就航は三日後の予定ですから、それまで艦内を見学していてください。なんなら、私が案内しましょうか」
「いえ、俺一人で大丈夫です」
「そうですか・・・ところで」
「なんですか?」
キラリ、とプロスのメガネが光る。
「アキトさんは格闘技か何かをやっておられるのですか?」
やはりネルガルシークレットサービスをまとめるだけのことはある。
プロスは、アキトの体つきや歩き方からが何らかの格闘技を学んでいるものと気付いたのだ。
(さて、どうするかな・・・)
ここで白兵戦が出来ることをばらしてもかまわないが、アキトは適当にはぐらかすことにした。
「料理人は体力が基本ですから」
やや苦しいが、嘘でもない。
特に中華はやたらと体力を使う。
「そうですか」
納得したわけではなさそうだったが、とりあえずプロスは引いた。
「では、私はこれで・・・・・おや、ルリさん?」
プロスが向いたその先、そこにはルリが居た。
「お久しぶりです、アキトさん」
「ふむ、・・・アキトさんと知りあいなのですか?」
箱入り娘のように育ってきたルリに知り合いが多いとは考えられない。
「久しぶりだね。ルリちゃん」
嬉しいような悲しいような、そんな微妙な表情をアキトはする。
「どうやら本当に知り合いのようですなぁ。一体何処で?」
「以前地球に来たときに偶然・・・。今も、ですけどね」
その言葉にプロスは疑惑の眼差しを向けるが、ルリという人材を手放すことは出来ないため深くは追求しない。
「では、アキトさんの案内はルリさんに頼むとしましょうか」
「ええ、いいですよ」
その言葉にルリは微妙に笑顔になる。
「では行きましょうか。アキトさん」
「あ、ああ・・・・」
自分よりも小さいルリに引っ張られながら、アキトは後をついていく。
その姿は、さながら親子のようだった。
「ルリさんがあのような表情をなさるとは・・・。
ますます謎な人物ですな・・・」
プロスの位置から見えないところまでくると、ルリは手を離して歩き出す。
その方向から格納庫に向かっているようだ。
「案内、必要ですか?」
もちろん、皮肉である。
「いいや」
アキトはルリの歩調に合わせて、数歩後ろを歩く。
「ずっと・・・不安でした」
アキトは答えないが、そのままルリは続ける。
「もしかしたら、アキトさんは戻ってきていないんじゃないかって。
私だけが、過去に戻ってきたんじゃないかって」
アキトは黙ってルリの後ろを歩く。
「ずっと・・・不安だったんですから・・・」
ふと、ルリの歩みが止まる。
ルリは少し俯いているようだったが、その表情はアキトの位置からは見えなかった。
「・・・・・心配かけて、済まなかった」
いたわるように優しい声。
ルリが振り返り、アキトに抱きつき顔をうずめる。
一瞬見えたその顔には、間違い無く涙が流れていた。
「やっと・・・・やっと会えました・・・・。
墓地であったときも触れることさえ出来ずにアキトさんは去ってしまったんですよ?
こうやって触れるのは、新婚旅行での空港の時以来です。」
「・・・済まなかった」
「それさっきも言いました。
少しでもそう思うなら・・・もうちょっとこのままでいさせてください」
ゆっくりとルリの髪をなでる。
会う事が出来なかった空白の時間を埋めるように。
どれくらい経ったのか、ルリはアキトから離れる。
少し目が赤くなっていたが、その表情は晴れやかだった。
「まだこの言葉を言ってませんでしたね」
「?」
「・・・お帰りなさい、アキトさん!」
「ただいま、ルリちゃん」
「だーははははははは!!!!!!!
レッツゴー!ゲキガンガァァァァァァァァァァ!!!!!」
「おい!パイロットの乗艦は三日後じゃなかったのか!?」
「いや〜、ロボットに乗れるって聞いたらいてもたってもいらんなくなっちゃって」
「いいからさっさと降りろ!」
「そんな堅いこと言うなって〜。
今俺のゲキガンガーで必殺技を見せてやるからな!」
「だからそれはエステバリスだ!」
「いくぜ!スーパーウルトラダイナミックボンバーアタック!
ガァァァァァァイスウウウウウナッパアアアアアアアア!!!!!!!」
ズガアアアアアン!!!
「ああ!このやろ、せっかく塗装したのにもう傷付けやがって!
もういい!降りろ!」
「すげえすげえ、手があって足があって思い通りに動く!」
「最新式のイメージフィードバックを付けてるからだよ。
これがありゃ、子供だって動かせるぜ」
「ふふん、俺のことはダイゴウジガイと呼んでくれ」
「あれ、ヤマダジロウになってるけど?」
「それは世を忍ぶための名前だ。
魂の名前、真実の名前はダイゴウジガイなんだよ・・・・ぐっ」
「・・・どうしたぁ?」
「い、いやあ・・・足が痛いのね・・・・・」
「ああっ、おたくそれ足が折れてるよ!」
「何い!?」
「おい、担架持って来い!」
「ばかばっか」
「久しぶりに聞いたな、そのセリフ」
格納庫でのガイとウリバタケのコントを前回アキトが居た位置から見下ろす。
前回との違いは隣にルリが居ることだ。
「それで、どうするんですか?やっぱり出ます?」
「ナデシコを沈ませる気は無い――――――――」
「お〜いそこの少年!コクピットの中に俺の大事な宝物があるんだ!
すまないが取ってきてくれないか!」
担架に乗ったガイがアキトに頼んでくる。
大声で叫ぶので、ウリバタケ達にとって迷惑以外の何物でもない。
「それじゃ、行ってくるよ」
「じゃあ、私はブリッジの方に戻ります」
二人はそこで別れる。
タラップを降りてエステバリスのコクピットの所まで辿り着くと
中に超合金製(一体なんの合金なんだか・・・)のゲキガンガーが置いてある。
それに手をかけようとしたその時、警報が鳴り響いた。
同時に、ゴートの声が艦内スピーカーに流れる。
「艦内戦闘態勢。艦内戦闘態勢。
ブリッジクルーは速やかにブリッジに集合せよ。
繰り返す・・・・」
「さて、行くか・・・・・・・・・」
そして誰に伝えるでもなく、一人呟く。
「テンカワアキト。出撃する」
後書き
藍染児:はい、第八話をお届けいたしました〜。
ミズキ:・・・私のこの髪は自前じゃなかったのね。
藍:自分のことだろ、おい。
ミ:それより私の出番が少ないんだけど?
藍:今まで散々出てるだろ。
ミ:この腐れ作者。
藍:何!
ミ:このごろエセ三人称にも疲れたとか言って、一人称にしようとか思ってるくせに。
藍:ぐ!何故それを!?
ミ:大体あんたの文は状況描写ばっかりで面白みがないのよ!
藍:ぐはあ!
み:それにその状況描写も中途半端だし。
藍:ごへえっ!
ミ:そもそもキャラの個性ってもんを出せてないのよね〜。
藍:ううっ・・・えぐえぐ・・・・しくしく・・・。
ミ:構成もいまいちだし・・・。
藍:ああ・・・・自分のキャラにいじめられる・・・・・・。
ミ:一人前にスランプとかほざいてるし・・・・・・。
藍:精進しますぅ・・・・・・・。
代理人の感想
ううっ、一言一言が肺腑を抉るようなこの舌鉾の鋭さよ。
なんちゅうキツイキャラだコイツは(苦笑)。
ちなみに、超合金といえば「超合金Z」に決まっているでしょう(笑)!
(実際には錫や亜鉛などの合金)