終わり無き旅



第十七話「タチバナミズキの秘密」









そういえば、大分昔に見たオールドムービーの一つに少年探偵ものがあったと思う。

その作品は毎回毎回主人公の行く先々で事件が起こり、それを解決するというものだ。

そして、主人公が散々死人が出てからようやく謎を解き明かし、犯人を暴くシーンでこう叫ぶ。

真犯人は貴方だ!

ミズキはそのセリフを聞くたびに思う。

そんな謎解きする前にさっさと警察に連絡してとっ捕まえたほうがいいんじゃないかと。

大体、いくらその人物が凶悪犯だろうと人権というものは存在するのだから、人前でお前が犯人だと

連呼するようなことは犯罪にはならないのだろうか?

ついでに言うなら犯人も犯人だ。

何だって犯人とばれたからって事件の発端から現在に至るまで洗いざらいしゃべるのか。

そんなことして、その場にいた誰かからマスコミに情報が漏れて自分の過去を面白おかしく脚色されて

世間に公表されれば自分が後々困るだろうに。

警察だってそうだ。

何故わざわざ密室トリックなど解かなくてはならない?

そんなことしなくたって、部屋から指紋と髪の毛が発見されたからお前が犯人と言えばそれで済むだろう。

他人が作った迷路にいちいち迷い込むよりも、外を回ってゴールに直接向かったほうがよっぽど早いのと一緒だと思う。







ま、それはともかく。






今ミズキは、その少年探偵もので言うところの真犯人であり、謎解きタイムの時間に直面していた。



















「で、何だって?」

ミズキは愛用のペン型マーカーで肩をとんとんとリズミカルに叩きつつ、目の前の少女を見つめていた。

このマーカーに限らず、ミズキが使用しているツールというのは全てオーダーメイドで発注したもので

宇宙に唯一つしかないミズキ専用品である。

どこが違うのかといえば、単に黒いだけで他は何も変わらないのだが・・・・まあそこはこだわりという物だろう。

場所はミズキの部屋。なお、マーカーとは整備班やアキトが機体チェックのときに使う端末入力装置のことだ。

「とぼけても無駄ですよ。もう分かっているんです。貴女があの時ユーチャリスに乗っていたオペレーターですね」

その言葉に、ミズキは左手で右頬を撫でつつどうしたものかと思案する。

別にこれといって隠す理由もないので、ばらしたって問題は無い。

強いてあげるとすれば、ばらす相手がホシノルリだということであろう。

ミズキはルリが好きではない。

細かい理由を挙げればきりが無いのだが、最も大きなものは勝手に行動した挙句、その余波がアキトに行くあたりであろうか。






(少し遊んであげるか・・・・・・)

何か思いついたのか、顔には出さず内心だけでほくそ笑む。

「つまり貴女は、私がそのなんだかってやつのオペレーターだって言うのね?」

「その通りです」

「それで?」

「それで、とは?」

「私が仮にそのオペレーターだとして、それが貴女に何か不都合が生じるのかって意味」

人のことを言えた口ではないが、ルリもアキトが絡むと何故か後先考えずに突き進む感がある。

ミズキは確かにルリの幸せ復活計画の邪魔をしたかもしれないが、だからといって今の状況でルリにとって

ミズキが何らかの障害になるとは考えにくい。

「それは・・・その・・・・」

予想通り、ルリは返答に詰まる。

大方、こっちが何らかのリアクションを返してくれることを期待していたのだろう。

そして、行き詰まったルリにミズキは餌を与えてやることにする。

「大体、私がそのオペレーターだっていう証拠はあるの?」

「・・・・っええ。もちろんです」

ルリは一呼吸おいた後、謎解きを開始した。






「まず、タチバナさんを疑い始めたのはタチバナさんがアキトさんと接触するたびに度々マイクとカメラが故障します。

 しかし、実際後で見に行くと何の異常も発見されませんでした。

 一度きりなら偶然で済ませられるかもしれませんが、三度も四度もあるのは明らかに不自然です。

 次に、艦長がアキトさんに会いに行ったとき貴女にそれを邪魔された。そして去り際に連合宇宙軍総司令官との交渉のことを

 言っていたそうですね?この時点では、プロスさんと艦長以外このことを知るものはいなかった。

 最後に、格納庫でタチバナさんとカザマさんが話していたとき貴女こう言いましたね?アキトもえげつないことするわね、と。

 あの時シミュレーションの様子は外から見ることは不可能でした。

 何故、貴女がアキトさんのしていたことを知っていたんですか。

 この三つの事象を成し得るためにはユーチャリスのオペレーターの能力と未来を知っていなければなりません。

 つまり、これらは貴女がユーチャリスのオペレーターであることを示唆しているというわけです」

一見、何の隙も無い推理。

だが、ミズキは愉快だった。

こうも自分のトラップにものの見事ひっかっかってくれるとは。

「ふふふ・・・・・」

「・・・・・・何がおかしいんですか」

「いやあ、ね・・・・つまり貴女は『私とアキトが会うたびにマイクとカメラで密かに監視』して、

 『あの時点で艦長とプロスペクターしか交渉のことを知らないという、その事実』を貴女が知っていて、

 『私とイツキちゃんの会話も監視』していたわけだ?

 ここまでくるといくらプライベートルームじゃないとはいえちょっと悪趣味よねぇ・・・。

 あ〜、アキトが知ったらなんていうだろ?まさか信頼しているホシノルリが、ねぇ〜〜〜〜〜?」

おもいっきり嫌みったらしくミズキはルリを見る。

というか、こんなことをするためだけに情報をちらほらと漏らす辺りミズキの性根の悪さが窺える。

ルリは苦虫を噛んだかのような表情でミズキを見上げ・・・口を開く。

「そ、そんなことより・・・・貴女のその能力はいったい何なんですか?

 マシンチャイルド三人を相手に立ち回れるその力、一般人としては少々高すぎる気がしますが」

一般人どころか軍だってミズキにとっては赤子のようなものでしかない。

ミズキはルリの言葉を聞いた途端、表情を一気に曇らせた。

「・・・・・・・・・・・・私の能力は・・・・・・。

 そうね・・・・・・・話してもいいけど、つまらないわよ?」

「構いません」

「そう・・・・・・・・・・・・・・・」

そしてミズキは、一言一言かみ締めるように言葉を紡いでいった。







「そもそも私の両親はネルガルの研究者でね。とある高名な科学者と共同研究していたわ。

 もっとも、当時の私はまだ子供だったからそれがどれほどのことか全く分からなかったし、

 ましてや両親の研究がどんなものかなんて気にもしてなかった。

 ま、今だから分かるんだけど・・・・・・・・・」

そこで一端間を置き、ミズキはルリを正面から見据える。

その視線から逃れようともせず、ルリもミズキを見る。

「私の両親が研究していた場所はスウェーデン」

水。

「プロジェクト『H(ヒトゲノム)』」

水の音。

「そう・・・・・・・・・・」

存在しなかった両親。











「遺伝子強化体質者を生み出すための研究よ」




















「現在生存している当時のプロジェクトの被験体の中で最年長者は貴女だけどね・・・・・・。

 実際はそれ以前にも被験者はいた」

既にルリの表情にはミズキに対する侮蔑の表情は消え去っていた。

そこにあるのは、ただただ真実への驚愕。









「事もあろうに、自分の子供を使って・・・・・・・・・・・」

「それが・・・・・・・タチバナさん」

「そう。まあ、おかしいとは思わなかったわ。何しろ比較対象がいなかったから。

 子供のころから研究所の中だけが私の世界だった。その外に何があるかなんて気にもしなかったし

 何で私の他に子供がいないのかも・・・・・・・・ただそういう事実として私は受け止めていたんでしょうね」

「いつ・・・・・ですか?」

「何が」

「貴女が外を知ったときです。いつ、なんですか」

「そうね、確か国際条約でマシンチャイルドの研究が禁止された年だったかしら。

 何しろそれまで研究一筋だった両親だから、そのせいで・・・・・・・自殺したの」

「・・・・・・・・・」

何も言えなかった。

両親の温もりを知らないとはいえ、まだ両親が生きているだけルリのほうがマシであろう。

「両親だけ先に逝っちゃって・・・・・・個籍に登録されて無い私がまっとうな道を進めるはずが無かった。

 裏社会を否応なしに味あわされて・・・・・この辺りは貴女に話すのにはちょっと刺激が強いかしら。

 少女が裏社会で生きていくのにそう選択肢は無いからね」

火星に比べればよほど治安のいい地球ではあるが、だからといってそういう需要が無いわけではない。

ましてや世間を知らない少女では・・・・選択肢を選ぶ知識すらなかったのであろう。

「ある程度成長してから、IFSを持つようになって・・・・・それからね。自分の能力に気付いたのは。

 他の追随を許さない電子ネットワークに潜む天才ハッカー。当時は結構有名だったのよ?

 ま、もっとも・・・・・裏社会でのみ、だけどね。

 それからはそういう関係でお金を稼いで、自分の個籍も買った。

 タチバナミズキってのはね、私の本名じゃないわ。

 本名はとうの昔に忘れたけど、両親にもろくに名前を呼ばれたことも無かったし大して未練も無い。

 そんなこんなで戦争が始まって、裏社会も表社会も関係なくなりつつあった。

 私が住んでいた町も木星蜥蜴の襲撃で戦地になって・・・・住処を追われた私は世界各地を転々とした。

 戦争が終結したころ、職に困っていた私は適当に経歴を誤魔化してネルガルに入った。

 特に理由はないわ。どこでも良かったから。

 強いて言うならテストパイロットの募集をしていたからかしら。せっかくIFSを持ってるんだし

 使えるスキルは有効活用したかったからね。

 後はまあ操縦の腕を評価されて、シークレットサービスに入って、で、そこからはどうでもいいわね。

 要するに一日の長、あんたより私の能力のほうが高いのは当然ってこと。受けた実験にも違いはあったんだろうけど。

 立場的には貴女の先輩・・・・・・・・?自覚なんて無いけどさ」



「・・・・・・・・・・すいません」

「気にしていないって言うのは・・・・・・ま、嘘になるかな?

 でも、そういう過去があったからこそ今の私がいるって思えばね。

 ・・・・・・あなたを見てると羨ましかった。

 聞いた話によると、あんた最初は人形みたいだったんだって?

 感情があるってのは・・・諸刃の刃よ。

 悲しいことや辛いことばかりだと、いっそ感情が無ければいいって思うものよ。

 そうすれば、心が壊れることも無いって。

 辛いときに感情が無くて、楽しいときに感情を手に入れた。

 そんなあなたに私は少し嫉妬していたのかもね・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・さ、私の話はこれでお終い。

 まだ、何か聞きたいことある?

 無いんだったら・・・・・・・・・少し一人にしてくれない?

 昔話をしたのは久しぶりだったから・・・・・・・・・・少し思い出してね・・・・・・。

 慣れたと思ったんだけど・・・・・・・・・・・私もまだまだね」

ミズキの問いに、声は出さずに頷くと、ルリは立ち上がって部屋を出て行く。

それを確認すると、ミズキは座っていたベッドに倒れこんだ。










「・・・・・・・・・・・・・・くっ」

僅かな呻き。

それをかみ殺すように歯を食いしばる。

やはり心のどこかでは禍根もあるのだろう。

「くくく・・・・・・・・・・・・・」

禍根・・・・・・・・・・?












「あははっははっははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!」


ピッ


そこに通信が開かれ、アキトの顔が映る。

「あっははははっは!!!!あ〜アキト!あんた覗いてたわね!?

 いや〜それにしてもホシノルリ。まさか本気であれ信じたのかしら!!?

 いやもう可笑しくって可笑しくって、ホシノルリのあの表情!ったらもう〜最高ね!!!!」

『全く・・・・・・いったいどうしたらあんな嘘を付けるんだ?』

尚も大笑いしつつ、ミズキは腹を抱えてベッドを転がる。

「いやん♪アキトったら。そろそろばれそうだな〜って昨日寝る前に一生懸命考えたのよ!三分ぐらい!

 あぁもうここまで見事に引っかかってくれるなんて・・・・・ぷっくくくくくく・・・・・・。

 ははははははははははは!も〜だめ。あ〜面白すぎ!」

ダンダンダン!

ミズキは込み上げて来る笑いを抑えるかのように壁を叩く。

『お前の性根の悪さには本当に驚かされるよ・・・・』

「何言ってんの!アキトと私の仲じゃない!」

思考回路が壊れ始めたのか意味不明なことを言い出すミズキ。

というか笑いすぎ。

「あははははははは・・・・・はあ・・・・・お腹痛い・・・・くくくく・・・・・・・」

『なんにしてもこれで当面の心配事はなくなったな。ルリちゃんも協力的になるだろうし』

「ははは・・・そのことだけどアキト。どうやらNSSがあなたの正体に気付いたみたいよ?さっき通信してたわ」

ようやく笑いも収まったのか、目元に涙を浮かべつつもベッドに座りなおすミズキ。

足を組み、上側の膝に肘を置いて頬杖をかく。

『・・・・そうか。プロスさんはいつこっちに接触してくると思う?』

「さあね〜。単純に協力を求めるだけなら今にでもしてくるだろうけど・・・・・・。

 向こうはこっちの目的が分からないからね。そこをどう判断するかってところじゃない?

 少なくとも放って置くって事は無いでしょ。スノーフレークとも繋がりを持ってるんだから」

『明日香インダストリーとも、な。それぐらいは調べているだろう。暗殺を謀るって事は?』

「私はアキトをそんなやわに育てた記憶は無いわね」

『・・・・それもそうだな』

「何かあったら私かサユリがうごくことにしますか。アキトが動くと変に勘ぐられるだろうし・・・・よっと」

ベッドの脇に置いてあるクーラーボックスから、アルコール飲料を取り出しそれを一気に呷る。

「それにしても・・・・・仮に私がただのマシンチャイルドだったらアルコール摂取すれば酔えるのにねえ」

『二日酔いにならないのは羨ましいと思うがな・・・・・』

「んぐ・・・一遍アキトも体験すれば分かるわよ。二日酔いの連中を見てると時々羨ましくなるわ」

缶を逆さにしても、もう望みのものが出てこないと分かると片手で缶を潰しダストボックスへ放り投げる。

缶は緩やかな円弧を描き壁に当たる。そのまま跳ね返りダストボックスへとゴールした。

「これも自分の望んだこととはいえ、やっぱり・・・・・・・・ねぇ。

 睡眠薬を飲んでも眠れない。致死量がピコグラム単位の毒を大量に投与したって死ねない。

 媚薬も弛緩剤も鎮静剤も麻薬でさえも。

 おまけにあれだけ苦労して手に入れた力は今は役立たず。ほんっとやってらんないわ」

『だが、その力が無かったら今俺達はここにはいない』

「感謝感謝大感激。私は銀河一の幸せもんだわ。まあ愚痴っても仕方ないし・・・・・。

 今は目的を達成するため粉骨砕身頑張りますか」

『ああ、そうだな』



 


 



「お前さんも自分で確認しなきゃ安心して眠れないクチか?」

整備班班長ウリバタケセイヤは、エステバリスのコクピットにもぐりこんだ人物、カザマイツキに話しかける。

「・・・・・・も?」

確認が終わったのか、コクピットからイツキが降りてくる。

ウリバタケの声は聞こえていたらしく、疑問点を聞き返す。

「ああ、テンカワのやつも自分で確認するんだよ。まあ俺達も人間だから絶対に!失敗しねえとは言い切れねえけどよ。

 もうちっと信用してくれたっていいんじゃねえか?」

「気分の問題ですよ」

イツキは確認のために使っていた端末とマーカーをウリバタケに渡す。

ウリバタケは一度見た内容のために子細まで確認しようとはせず、ざっと目を通す程度にとどめた。

「テンカワはどうか知りませんが少なくとも私はそうです。

 こういうことは何度やったってやりすぎということは無いでしょうから」

それでは、と軽く会釈をしながらイツキはその場を離れる。

後に残されたウリバタケは頭を掻きながら、

「どうもやりにくいんだよなあ・・・・・・」

と、一人愚痴るのであった。












パイロットという職業は、当然のことながら戦闘があるまでは機体の整備かシミュレーション、後は日課の鍛錬ぐらいで

ほとんどすることは無い。

鍛錬をするのは鈍らない程度にだし、女性であるイツキとしてはぞれほど筋肉を付けたいとは思はない。

機動兵器を操縦する上で必要な分だけで充分だと考えている。

今日は既に二時間のトレーニングを終了しているので、どうやって暇を潰そうかと思案している最中であった。

そんな時、トレーニングルームに入っていくアキトを見かけたイツキは、吸い込まれるように

自分もトレーニングルームへと足を運んだ。







「ん?イツキもトレーニングか?」

「いいえ。今日のノルマは既に終えています」

「そうか・・・・・・・」

アキトは更衣室でトレーニングウェアに着替える。

下は薄い伸縮性のある黒い生地でできているズボンで踝より五センチほど上の長さだ。

上はランニングシャツ。こちらは白だが、上下共に吸湿性はいい。

更衣室から出てくると、イツキは壁際で何をするわけでもなくただアキトの方を見ていた。他に見るものも無いが。

その視線を気にすることなく、アキトは日課であるトレーニングを始める。

最初は準備運動としてストレッチを始める。

体中のあらゆる筋肉を伸縮させ、ゆっくりと体を動かす。

こうしていると簡単そうだがこれが意外につらい。

自然体でいるときとは違い、留める、という動作をしているために全体で見れば瞬間的に激しい動きをするよりも

ずっと疲れるのだ。

時折演舞のような動きを見せつつ、アキトは延々と準備運動を続けていた。












そして一時間が経過した。

先程と状況はほとんど変わっておらず、変わっていることといえばアキトがうっすらと汗をかいていることぐらいだろうか。

イツキは、壁にもたれかかりながらじっとアキトを見ていた。

さらに三十分が経過したころ、ようやくアキトが一息つく。

すっと自然体で構え、目を閉じる。

手は軽く握ったままだらりと下げている。


トンッ


というその音がアキトが移動したことによって生じた音だと、イツキは最初気付かなかった。

それぐらい違和感無く、アキトは自然に動いていた。

ひゅひゅっと風を切り裂く音がしたと思うと、いつの間にか拳撃や蹴りを繰り出していた。

見慣れない歩方で、軽やかに移動しながらも安定した動きをしている。

それままるで、見えない敵と戦っているようにも見え、実際アキトには敵が見えているのかもしれない。

時々無意味にも思えるバックステップや何かをかわす動作をしているのはそのためだろう。

それらの動作を、イツキは無表情でじっと見つめていた。









「ふううううぅぅぅぅ・・・・・・・」

大きく息を吐き、呼吸を整える。

かれこれ三時間半ほどトレーニングをしていたアキトだが、その顔に疲れは見えない。

「さて、俺はこれで上がるけど・・・イツキはまだここに残るのか?」

「貴方が終わるのならもうここにいても仕方ないでしょう」

「なるほど」

苦笑しつつ、アキトは更衣室へ入りシャワーを浴びる。

着替えてトレーニングルームへと戻ったときには、イツキの姿は無かった。

「さて、何を考えているのやら・・・・・・・・」












「暇だね〜・・・・・・・」

ユリカは暇だった。

というかブリッジクルーは皆暇だった。

「暇ですね」

通信士であるメグミがユリカに相槌を打つ。

「ルリちゃ〜ん。何か暇つぶしできること無いかなぁ?」

「アキトさんはどうしたんですか?」

「う〜ん、それがねぇいっつも後ちょっとってところで逃げられちゃうんだあ。

 ユリカ嫌われてるのかな・・・・グスン」

「そういえばこの間食堂でサユリちゃんと楽しげに話しているところを見かけたけどな?」

爆弾を投下したのはジルだった。にやついているところを見ると故意なのだろう。

「「「それいつの話ですか!!!」」」

ユリカ、ルリ、メグミの声が重なる。意外に息はあってるのかもしれない。

「俺の記憶が正しいなら確か昨日だ」


だっ!!!!


艦長の許可を取らず、艦長自身職場放棄してアキトの元へと駆け出す。




「ま、それにしてもだ・・・・・・・最近やっこさんはおとなしいねえ。そうは思わないかいプロスの旦那」

三人がブリッジから出て行くのを横目で確認してから、ジルはプロスに話しかける。

「そうですな。ここのところは威力偵察のみのようですし」

「こりゃ火星は大変そうだ・・・・」

「といいますと?」

「威力偵察ってのは自分達がどれだけ力を出せば相手を倒せるかってことを調べるためにするもんだろう?

 つ〜ま〜り、火星でナデシコにこれなら勝てるってだけの艦隊を投入してくるはずさ。

 もっとも、木星蜥蜴がこのナデシコを脅威と判断した場合の話だがね」

その言葉に、まだブリッジに残っているフクベ提督は片眉を吊り上げる。

が、些細な変化であるために誰も気には留めなかった。

そう、フクベ提督が気付いたものも些細なことだった。

まるで『木星蜥蜴が人と同じ思考を持っている事を知っている』ようなジルの物言いは。

「ナデシコが負けると?」

「そうは言っていないだろ。何しろこのナデシコの戦闘回数はわずか二回だ。

 その二回に併せて射程距離外からちびちびグラビティブラストを撃ってるような威力偵察。

 これだけじゃどうやったってまともなデータは取れやしないさ。

 つまりやっこさんがナデシコを過大評価するか過小評価するかでナデシコの命運は決まるって事だ」

「それって私たちが何したって運命には逆らえないって言ってるようなもんでしょ?

 私そういうのはあんまり好きじゃないなぁ〜」

もう一人ブリッジに残った人物、ハルカミナトは話を聞いていたのかぼやくように話に加わる。

「しかし、ナデシコは未だ本来の実力を発揮していません。

 過大評価過小評価どちらにするにしろ、ナデシコは相当戦えると思いますが?」

「そう!そこなんだよプロスの旦那ぁ〜。つまりだ!このナデシコは未だ真価を発揮していなぁい。

 これは戦艦にとって致命的だと思うね。なんせ慣熟航行していないのと同じだからな。

 そこでプロスの旦那、ちょっとお耳を拝借・・・・・・・・」











「は・・・・・・・いやしかしそれは・・・・・・・・・」











「ふむ・・・・・・・・・まあ言われてみれば・・・・・・・・・・」











「しかし費用が・・・・・・・・・・それはそうですが・・・・」










「ううむ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」













「分かりました・・・・・・・・何とかしてみましょう。あまり気は乗りませんが」

苦渋の表情ながら、とりあえず納得はしたプロス。

「おおっ、さすがプロスの旦那。話が分かるじゃない!」

対してこちらはうれしそうな表情だ。

「ねえ〜、二人して何のお話?」

目の前で、というわけではないが自分の認識範囲内で内緒話をされるのはあまり気分がいいものではない。

フクベ提督は相変わらずだんまりだが、僅かに意識はジル達のほうを向いている。

「それじゃあ諸連絡その他細かいことはよろしく頼みますよ、プロスの旦那。

 俺の方でできることは済ませておきますんで。それじゃ」

「ええ、分かりました」






「いったい何なのよう〜・・・・・プロスさん?」

「ミナトさん、ちょっと頼みたいことが・・・・・・・・」

「はい?」














後書き

藍染児:思うに、後書きの醍醐味というのは執筆時における裏話やら体験談なんかだと思うんだが。
ミズキ:・・・・・・・・・・ねえ。
藍:まあそういう観点から見れば私の後書きというのは失敗かもしれない。だからといって悲観する必要も無い。
ミ:・・・・・・・・・・・・ちょっと。
藍:なぜなら後書きを書くのは文の後ろに書くから後書きなのであって、醍醐味が失われた後書きだろうがなんだろうが
  そこまで読んでもらえた事実は変わらないわけだ。
ミ:・・・・・・・・・・・・あのさ。
藍:文庫本だといきなり後書きから読み始める輩も居るらしいがこういった媒体でそういう行為をするのは少々ナンセンスだ。
ミ:・・・・・・・・・・・・・・・。
藍:文庫本ならいきなり裏から読み始めることも可能だが

ゲシィッ!!!

ミ:いいから聞けこのへぼ作者。
藍:痛い・・・痛いよう・・・小指が、足の小指がああああ・・・・・・。
ミ:聞きたいんだけど。
藍:うう・・・・小指がぁ・・・・・。
ミ:なんで私が後書きにいきなり復活してるの?
藍:無視ですか。
ミ:いいのよあんたの足なんざどうだって。手があれば書けるでしょう?
藍:ひ、酷い・・・あんまりだあぁ!
ミ:しかしあんたも根性なしって言うかなんていうか・・・社会不適格者?
藍:うわ更に酷。
ミ:で、なんで復活してるの?
藍:代理人がいいって言った(言ってない)から。
ミ:・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



藍:あぁっ!そっちは!そっちは駄目だ!そっちには悪魔の化身が!オキシジェンデストロイヤーを開発した某博士によって
  生み出された(正確には違う)凶悪怪獣がぁ!!!うっっぎゃああああああああああああああああああああああああ!!!
  ・・・・・・・放射能熱線てなんやねん・・・・・・・・・・・・・ぐふぅ。
ミ:・・・最後に見た作品?




<すっげえ関係ない話×3>

>両親だけ先に逝っちゃって・・・・・・『個籍』に登録されて無い私がまっとうな道を進めるはずが無かった。

・・・まあこの過去話自体大嘘ですからこんなこと言うのもなんですけど。
戸籍ではなくて個籍です。うん。
とりあえずこの時代星間抗争(月独立運動)が起きるぐらいなんだから、戸籍はなあ・・・ってことで
全世界共通(月、火星含む)で個籍制度(個人単位登録制)です。
ま、今現在戸籍採用してる国は僅かですしスウェーデンも戸籍制度じゃないですけど。
ちなみにこの作品では木連は夫婦同姓であり戸籍制(笑)
女性は尊ぶものであり守るべきものというような風潮が木連にはあるようですから。だからきっと夫姓優先。
ま〜こんな意味の無い設定しても絶対使わないでしょうねえ・・・。


>TV版ナデシコで火星から地球にボソンジャンプ、及びナデシコに乗って地球から出て行ったアキト君の話。

住民登録制度とかこの時代には無いんでしょうか?
いやさすがに住民登録制度はあるだろう・・・税金取れなくなるし。
それとも戦争難民は好き勝手に国外(星外)移住が可能なんですかね?
う〜む・・・好き勝手な移住が可能な線が濃厚。うん、これに決定。
・・・て、これも意味無いなあ・・・。


>テンカワ夫婦に引き取られた某電子の妖精の話。

アキトの両親もイネスのセリフから察するに夫婦同姓。アキトと結婚したユリカもテンカワ姓を名乗ってましたねえ。
なのに劇場版でルリだけホシノ姓のまま。・・・この時代夫婦別姓かどうかは知りませんが養子とも別姓で構わないんですか?
それとも事実婚のように事実養子みたいなもの?でもきちんと結婚したアキトとユリカじゃ考えにくいなあ。
ついでに、テンカワ姓を名乗ったにもかかわらずミスマル家の墓に入れられたユリカ。って実際には入ってないですけど。
これは・・・慣習・・・・?あ、テンカワ家の墓があるわけないか・・・納得。
よし、じゃあ選択的夫婦別姓制度で養子もこれまでの姓か新しい親の姓を名乗れる・・・ということで。
・・・・・・・・・・もちろんこの設定に意味なんて無いです。一応。

※注 作者は法関連の知識は素人です。上記三項はジョークの一種としてお受けとめください。

 

 

 

 

代理人の感想

まぁ、藍染児さんの作品です。

書きたい様に書けばよろしいのです。

 

ただ、それで受けるかどうかは私の知る所ではありませんが(爆)。