終わり無き旅



第十八話「素潜り作戦」









「前方にコロニー確認。映像出します」

ルリの声と供に、ブリッジ中央にコロニーのようなものが映し出される。

ような、とうのはユリカは最初それがコロニーであるとは分からなかったからだ。

「うわぁ………ボロボロだねぇ………」

その言葉の通り、コロニーは見るに耐えないほどあちこち破損していた。

「本当にあんなところで戦闘するの?」

ミナトは心配そうな声でそう言った。

そう、ナデシコがわざわざ航路を外れてまでこのコロニーに来た理由。

それは、戦闘をするためであった。











「レーダーに反応。チューリップですね。活動はしていないようですが…」

「ほ〜ら、あっただろ?」

ルリの報告に、ジルはふんぞり返って自慢げに答える。

「はあ………。来ちゃったものは仕方ないですけど……わざわざ危険を冒す必要、あるんですか?」

「だから、言っただろ?このナデシコは完全な状態での戦闘をまだやってないんだ。

 あらゆる訓練に実戦は勝るってね。いきなり火星まで行くのは危険だろう」

ジルの言い分としては自分達がどの程度の規模と戦えるのか、それを知ることで無駄な戦闘を回避できる、ということだが

ユリカはあまり気乗りがしなかった。

だが、プロスまで賛同しているのに無下に却下することもできず、結局こうしてきてしまった。

っていうかユリカが承認したとき既にナデシコの進路はこのコロニーに向けられていた。

「…むう………じゃあ、作戦開始します。エステバリス部隊は予定通り出撃。

 何らかのアクシデントがあった場合は、臨機応変に対応してください」

『『『『『了解』』』』』












「素潜り開始〜」

「言い得て妙ね…」

今回の作戦では、あくまでエステバリス部隊とナデシコの連携でどの規模の敵まで対応できるか、がポイントである。

活動していないチューリップ相手にグラビティブラストかましてハイ勝ちました、では意味が無い。

そしてその肝心のチューリップはコロニーの奥に埋まってしまっていた。

つまり、エステバリス部隊でコロニーに潜行、敵を誘導、コロニーより脱出、ジョロバッタを迎撃しつつ後退、

ナデシコのグラビティブラストでチューリップ殲滅、というのが今回の作戦の段取りである。

そもそもこのコロニーは、火星と月を結ぶ航路の中継点として建造された。

このタイプのコロニーとしては地球圏最大規模のもので、大きさはゆうに数十キロメートルを超える。

ナデシコは相転移エンジンを搭載した半永久活動(厳密には違うのだが)が可能な戦艦だが、それ以前の宇宙船は

燃料の補給が必要だった。

その役目を担うためにこのコロニーは発展し、巨大化していった。

今回エステバリスの単独行動時間は、バッテリーを余分に積むことで長時間を実現した。

もちろん、設計上想定していないことなので戦闘になれば廃棄しなければならないが、それまでエステバリスは

搭載されているバッテリーを消費することが無く行動が可能だ。

この巨大コロニーに潜行するためにはそれぐらいのことが必要なのだ。







エステバリス部隊は、大型搬入路をゆっくりと進んでいく。

搬入路には何とか原形をとどめているといった程度の作業機械がごろごろと転がっており、何かの破片らしきものも

周り中に浮いていた。

「静かだね〜………」

ヒカルは、周囲を警戒しつつそう言った。

幾分、呑気さが含まれていたが。

「まあ、しばらくは暇だろうさ。気楽に行こうぜ」

静かな雰囲気は性に合わないのか、リョーコは場を盛り上げようとする。

「それにしても、わかんねえよなあ…」

「何が?リョーコ」

「何だってわざわざこんなことすんだ…?」

「ジルさんが言っていたじゃない。火星に行く前に自分達の戦力を把握しておくためだって」

「そりゃ分かるよ。だがそれをここでする必要は無いだろ、なあ隊長もそう思うだろ」

隊長、という呼びかけに反応したのは当然…イツキだった。

リョーコ自身も隊長になることを望んだのだが、やはり経験の差が決め手となりイツキが隊長に選ばれた。

「…ここでする必要は確かにありません。しかし、それはどの時点でも同じことです。

 火星に近づくほど危険性は増すわけですから早いうちにやっておくべきだとは思いますが」

「そんなもんかね……」











「………?いま、下のほうで何か光りませんでしたか」

コロニーの中を進み、ファクトリーエリアに差し掛かった頃イツキが突然何かに反応する。

他の四人もその声のした方に注目するが……そこにはただ闇が広がっているだけだった。

レーダーでも確認してみるが、特別変わったことは無い。

「隊長の気のせいじゃないか?」

「一応確認してきます。四人はここで待機。何かあったらスバルさんが指揮を執ってください」

「あ、おいっ!ちょっと待ってくれよ!」

リョーコの静止にも耳を貸さず、イツキは一人で進んでしまう。

「いいんじゃない?自分で行くって言ったんだし」

「そういう訳にもいかねえだろ。単独行動させるわけには…」

リョーコは心配気にイツキが向かった方を見つめる。

後を追うかどうか迷っていると、それまでずっと黙っていたアキトが通信を開く。

「なら、俺が行く」

それだけ言うとすぐに通信を閉じてしまい、言葉の通りアキトのエステは噴射炎の軌跡を残して

リョーコたちから離れていった。

「………はっ!?あ、おいっ!」

そのいきなりのことに頭が追いつかず、リョーコたちが現状を認識したのはアキトのエステがレーダーレンジ外に

外れてからだった。














イツキが向かった奥、そこには使われなくなって久しい機械類が散乱していた。

ただ搬入口とは違って、木星蜥蜴から受けた直接的被害ではなく、重力がなくなったことによる間接的被害のみのようだ。

そのため、ある程度は原形をとどめて現存している。

その機械に囲まれながら、イツキはエステバリスから降り、簡易宇宙服を兼ねるパイロットスーツに真空作業用のヘルメットをして

一つの端末に向かい何かを操作していた。

「これ……ですね………」


バシュウウウウウウウ

『なるほど、そういうことか』

エステの噴射音の中、アキトは外部スピーカでイツキに話しかける。

「…………テンカワ」

イツキは後ろから声をかけられたことにも驚かず、冷静に後ろを向く。

『おかしいとは思った。何でわざわざこんなところで戦闘をしなくちゃならないんだってな。

 その手に持っているのは軍の機密データか?』

「ええ。新機軸のエネルギー理論を取り入れた研究だそうです。木星蜥蜴の襲来によってプロジェクトそのものは

 既に打ち切られているらしいですけどね。

 この研究が完成すれば、従来不可能と言われてきた機動兵器の長時間単独行動が可能になるんだとか……」

イツキは、操作していた端末からそのデータが入っているであろう薄っぺらいメディアを取り出す。

『そんなこと俺に話していいのか?』

「構いませんよ。どうせあなたなら勝手についてくるだろうと思ってましたから」

『…………そりゃまたどうも』

勝手についてくると何故機密事項を話せるのかよくは分からなかったが、とりあえず何も隠すつもりは無いようだ。

(と、なると…誰かがイツキにデータの回収を命じたって事か………ま、そんなことするのは一人しかいないけどな)

「で、どうします?ここであったことを艦長かプロスペクターに話しますか」

『軍務じゃないのか?』

「構いません、とさっきも言った筈ですが。大体、パイロットである私がこんなことをする理由はないんです。

 それに、守秘義務も言い渡されていませんし」

守秘義務は任務の大前提なのだから誰もあえて言ったりはしないだろう。

従って、守秘義務を言い渡されていない事もまた事実なのだろうが、そのあまりの不敵さにアキトは苦笑してしまった。

「なにがそんなに可笑しいんですか」

『いや…偏屈なんだな』

「あなたに言われたくありません」

『ははは………そうだな』

「…本当に分かってるんですか」

『もちろん』

明らかに分かっていないその声に、イツキは憮然とした表情をしながらもそれ以上は何も言わなかった。

もしかしたら何を言っても無駄だと諦めたのかもしれない。

『戻るのか』

エステバリスのアサルトピットに乗り込むイツキをにアキトは声をかける。

その声にイツキはアキトのエステに向かって睨んだだけで、そのまま何も言わずピットを閉じた。







「お、やっと戻ってきたか…おいコック!お前素人なんだから勝手にひとりで行動するんじゃねえっ!」

戻ってくるなりリョーコはアキトに向かって怒声を飛ばす。

どうやらかなりご立腹のようだ。

「リョーコったらねえ、ず〜っと心配してたんだよ〜」

「な、何言ってんだヒカル!だ、誰がコックの心配なんて…」

「あれ〜、誰もアキト君だなんて言ってないよ〜?」

してやったりといった感じでヒカルはリョーコをからかう。

「お前は!」

『『コック〜!お前素人なんだから一人で行動するんじゃねえ〜』』

「お前らなあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「きゃーリョーコが怒ったぁ!」

「リョーコ、怒る。リョーコ、った。良好だ。…くくくく」

(…ギャグ?)

イツキにはそのセンスはいまいち理解できない。

いや、普通の感性を持ったものなら誰でもそうだろうが。





「待てこら、ヒカル!」

「待ったないよ〜」

「ふ、無様ね……」

追いかけるリョーコと逃げる二人。既に三人(特にリョーコ)の頭の中に任務の文字は存在していなかった。






「………ま、なんだ。イツキが俺をどう思っているのかはこの際置いておいてとりあえずあの三人止めないか?」

「…………どう思ってるなんか分かりきっています。大嫌いですよ。しかし提案には賛成します」




ドカーーーーーーーーーーン

「次は当てるからな!動くんじゃねえ!」

「そんなこと言われたらますます止まらないよ〜!」

「問題ない」

何がだイズミ。









「…………撃つか?」

「…………そうですね。一撃必倒です」










南無三。






















「何だ………コックもエステバリス操縦したことあるのかよ……それならそうと早く言えよな」

リョーコが勝手に素人だと決め付けていただけなのだが、そんなことは気にせず一人頷いている。

リョーコのエステの右腕の塗装が焦げているのは気のせいではないはずだ。





「なかなかの腕ね………」

何故だかシリアスモードに突入しているイズミ。

そんなイズミのエステは右足の塗装が焦げている。



「リョーコったら慌てんぼさんなんだから〜」

ヒカルは軽く笑いながら、それでもやはり左腕の塗装が焦げていた。




「んだよ、ヒカルがからかったりしなけ」

ガシャッ!

リョーコがヒカルに文句を言おうとしたその瞬間、イツキのラピットライフルはリョーコのエステを

これでもかというぐらい正確にポイントしていた。

「…………すまねえ」

無言の圧力に屈したリョーコは素直に引き下がる。

「とにかく……ある程度余裕があるとはいえ私達の活動時間には限界があります。

 迅速に任務を達成しなければ宇宙の藻屑と化すんですからね。以後気をつけてください」

「「「はぁい」」」

「はははは……」

(なかなかどうして………結構様になってるじゃないか……)

アキトはそんなことを考えていたのだが、それを口に出せば自分も巻き込まれそうだったので心の内にとどめることにした。














「しかし………静か過ぎるな…………」

「ええ、そうですね」

「確かになあ…蜥蜴野郎が一回も襲ってこねえ。いくらチューリップが活動停止しているからって

 こりゃちょっと変だぜ………」

五人は、それぞれコロニーが異様に静か過ぎることに違和感を抱いていた。

既にチューリップまでの道のりの三分の二に達しようとしているというのに一度も木星蜥蜴の襲撃がない。

辺りには、爆発に巻き込まれでもしたのか完全に機能停止しているジョロやらバッタやらが散乱しているだけに

この静けさは一層際立っていた。

そんな会話をしていると、先頭を行っていたイツキが突然止まる。

「どうしたんだ、隊長?」

「…行き止まりです」

イツキの言う通り、イツキ達の進行方向上にあるゲートが瓦礫で完全に埋まっていた。

ゲートは縦が約十四メートル、幅五メートル。

このゲートが完全に埋まるだけの瓦礫の量だ。

イツキ達の今の装備ではこれを退かすことは無理ではない、が、時間と装備の節約のためには別ルートを選ぶほうが無難だ。

「仕方ありませんね。別ルートを行きましょう。幸いここからならそれほど遠回りせずに行けます」

イツキは端末でルート検索をした後、回り道をすることにした。

特に反対意見もなく、そのまま十メートル戻ったところから別れ道のもう一方を進む。











「………また行き止まりです」

「またかよ。あと少しだっていうのに…」

イツキ達の前には、先程と同じような状況があった。

巨大なゲートは、相当な量の瓦礫によって塞がれている。

「………別の道を行きましょう」

渋々来た道を戻るイツキ、リョーコ、ヒカル、イズミ。

アキトだけは、その場にとどまり上を見ていた。

「おい、コック。何ぼさっとしてるんだ。置いてっちまうぞ」

「…………ああ」

リョーコの声に反応こそしたものの、そのままアキトは動かない。

再び声をかけようと思ったとき、アキトは見上げるのをやめて四人に近づく。

「すまない。少し気になることがあった」

「何かあった?アキト君」

「いや……別になんでもない」

「ふ〜ん……」

ヒカルは特に気にしているわけでもなかったのか、それ以上聞いてはこなかった。









そして

「また…………」












「ここも……………」














「ここも…………?」
















エステバリスが通ることのできる通路は限られている。

しかし、そのどれもが悉く瓦礫やら何やらによって塞がれ進入不可能な状態にあった。

そして何度目かのルート変更。

当然、イツキは先頭を行く。

ただ少し、今までと違ったのはイツキに通信が入ってきたということだ。

発信元は、テンカワアキト。







「何か異常でも?」

「気付いてるか?」

前振りとかそういったものは一切なく、アキトは通信を繋ぐなりそう言った。

それはイツキの方も心得ているのか、特に気分を害した様子もない。

「木星蜥蜴が何をしているのかは分かります。しかし何をしようとしているのかは正直今の状況では

 判断の仕様がありませんね」

「………そうか。これは俺の予想だが、おそらく次の次、B2−47通路が通れると思う」

「根拠は」

「…これは俺の完全な推測に過ぎない。この推測を信じるか信じないかは」

「私が決めます。ですからさっさと言ってください」

「つまり……こういうことだ」




































ゴウン……

その場が真空でないのなら、辺りには重低音が響いていただろう。

生憎とここにはそのゲートが開かれたときに生じた振動をエステバリスの中のパイロットに伝えるものは何もなかったが

たぶんこういう音がするだろうという先入観は確かにイツキ達にこの音を耳に届けていた。

「やれやれ、やっと通れるぜ………」

「行き止まりばっかりだったからねえ」

リョーコとヒカルは、長い道のりを焦らされた所為で精神的に参っているようだ。

明らかに、声には疲れの色があった。


「各機、よく聞いてください」

「なんだ?隊長」

イツキはオープン回線で全員に語りかける。

リョーコ達にしてみれば、無感情無表情を体現したようなイツキが珍しく緊張しているように見えた。

「B2−47通路を抜けると、チューリップ一基が確認された広い空間があります。

 今まで木星蜥蜴の襲撃は一度もありませんでしたがこの先もそうとは限りません。

 加えて余計な回り道をした所為で補助バッテリーの残量が残り僅かです。

 よって、以降何らかの危機的状況に陥った場合コロニーよりの脱出を最優先。

 僚機を見捨てても構いません。いいですね」

「ちょっと待てよ隊長!それは!」

「命令です。拒否は認めません」

「…………ちっ、分かったよ」

イツキの強い語調によって押し黙るリョーコ。

ここまでの鬱憤も重なってか、相当苛立っている。

「では行きます。編隊の変更はありません」

アキトを除く以下部隊三名は、その理不尽――――とは言っても前線じゃ多々あることだが――――な命令の裏に

この先に『何か』があると自分達の隊長が既に確信しているのだと、そう解釈していた。

リョーコは感情的になりやすいところはあるが、だからといって自分の状況が全く理解できないほど馬鹿ではない。






自分達はナデシコの援護を受けられない――――――これが如何に危険な状況であることか。







かつてリョーコ達にエステバリスの操縦、並びに戦略を教えた教官の言葉を思い出す。

『お前達はおそらく最初の戦闘で最大の恐怖を味わうだろう。まあ誰だって初めては怖いもんさ。

 だが人間ってのは不思議なもんでな、最初の戦闘で撃墜されなきゃ、その次でも撃墜されなきゃ、自分に自信が付いちまうんだ。

 最初の戦闘で最大の恐怖を味わうってのは、つまりそれ以降恐怖がその自信によって薄められていくって事だな』

『それっていいことなんじゃないんですか?』

『そうだな、スバル。確かに戦場で恐怖に怯えて何もできないチキンは田舎で畑耕すほうが似合ってる。

 だが恐怖が薄らいでっちまうのはいただけねえ。戦場じゃいつでも恐怖に怯えていなきゃいけねえんだよ。

 なんでだか分かるか?恐怖しないやつってのは逃げることを選択肢の中にいれねえんだ。

 戦略的撤退じゃないからな?実質的敗北においての逃走だ。

 いいかお前達、これだけは覚えておけよ。戦場でお前達より遥かに経験豊富な先輩方がお前達に逃げろって言ったら

 脇目も振らず逃げろ。先輩方の心配なんてするんじゃねえ。そんなことしたら後でぶん殴られるからな。

 とにかく安全地帯まで突っ走れ。命令がない限り仲間なんぞ助けるような色気なんぞ出すんじゃねえ。

 とにかく逃げろ。いいか、これがお前達に教えてやれる最後のことだ。分かったな』









B2−47通路を通り、通路の終端であるゲートが目の前に現れる。

先程のゲートとなんら変わるとことはない。

まあ、そこかしこが汚れているだのそんな程度だ。

「この先のエリアにチューリップがあります。まず、私とテンカワが先行します。

 続いて私の合図で三人が援護、陽動作戦に移ります。いいですね」

「「「「了解」」」」

「テンカワ」

イツキの声で、それまで最後尾だったアキトは先頭のイツキに近づく。

それを確認したイツキは、電源が切れたゲートを手動で開く。

リョーコたちは十メートル後方。

潜入。










「大丈夫かなぁ……」

「平気だろ。隊長はあの月で機動兵器部隊所属の猛者だったらしいし、コックもいい腕してる。

 それに俺達が後方支援するんだからな」

「あら、テンカワ君のこと買ってるのね?」

「自分より強いやつとしか付き合わないって言ってたもんね〜。その点、アキト君ならばっちり合格ってわけだ」

「んだよ、ヒカルもイズミも…」

何気ないお喋り。

全ては、この先の未来が確定されているからできたことだった。

そう、全員無事帰還。

決定されたシナリオだった。


























はずだった。 











































『『逃げろ!!!!!!!!!!』』






















この言葉が聞こえるまでは。




































その言葉を頭がハッキリと理解する前に三人が感じたのは振動だった。

真空のコロニーで揺れを感じた。

それが、爆発だと最初に気付いたのはリョーコだった。

普段感情的になりやすい分、こういう状況でも本能的な頭の回りが早いのだろうか。

教官の言葉、イツキの命令が頭をよぎる。

しかし、リョーコがとった行動は二人の援護だった。

なんだかんだ言って義理人情に厚いリョーコだからだろうか、しかしそれは叶わぬものとなる。

先程の爆発によってゲートは完全に閉じられていた。

すぐさまリョーコは中の二人に通信をとろうとする。

だが、酷いノイズだらけで極至近距離通信にすら影響が出ていた。


次に行動したのはイズミだった。

まずは頭で状況を分析する。

二人が逃げろといった。

それはつまり、想定する状況を超えた何かがあったということだろう。

そして爆発。

自分達には大して被害は出なかった。

それはつまり、内部の奥で爆発が起こったか、ゲートを封鎖するためだけの指向性爆薬のどちらかだろう。

だがそのどちらにしても内部の二人にとって歓迎できることではない。

事態を分析すればするほど二人の危機的状況が浮き彫りにされていくだけで何の足しにもならなかった。

イズミはそんな自分の冷静さに苛立った。


最後はヒカルだった。

復帰に時間が掛かった分、リョーコとイズミよりは何が最善の選択を選ぶだけの余裕があった。

即ち、命令遵守。

「リョーコ!イズミ!撤退!!!」

文法として成り立ってはいなかったしノイズも未だ酷いものだったが、それでも二人には充分伝わった。







「撤退!?そんなことできるか!この瓦礫ならすぐどかせる!」

壁の向こうでは明らかな戦闘音が鳴り響いていた。

凄まじいものだった。

音そのものは伝わってこない。

だが、コロニー全体が揺れていた。

この巨大なコロニーが。

「ここももう持たないよ!すぐにでも脱出しないと!」

「けど、けどよ!」

「教官の言葉!隊長の命令!忘れたの!?」

「!!!……………分かった…………」











「畜生、畜生ぉぉぉぉぉ!!!!」

リョーコの悲痛な叫びは、崩れ行くコロニーの爆発よりもハッキリとヒカルの耳に届いていた。






















「え………これは…………?」

「どうしたの、ルリちゃん」

それまでじっとコロニーを見守っていたユリカは、ルリが上げた声にすぐさま反応した。

「コロニー内、エステバリス部隊付近に熱源反応……」

「数は?」

一瞬作戦の成功を想像する。

だが、ルリの様子がそうでないことを教えていた。

「百…二百…五百……千……三千…」

急加速でつり上がっていくルリの報告にユリカは、ブリッジクルーは言い知れぬ不安を感じる。

チューリップはまだ活動していないというのに…いや、仮に活動していたとしても

たった一基のチューリップだけではこれほどの増加率はありえない。

そう、あってはならない。

















「コロニー内の熱源反応………五、五千…………です…………」













圧倒的過ぎる戦力差。








希望は、未だ見えない。






















後書き

藍染児:と、いうわけでさ。サツキミドリ二号の代わりな感じのコロニー編です。

ミズキ:別にサツキミドリ二号でも良かったんじゃないの?なんで態々。

藍:いやだってねぇ…。少し考えりゃおかしいと思わない?
  だってさあ、何で連合軍の第一次防衛ラインを突破したその先に地球側のコロニーがあるのさ。
  ましてそのコロニーのほとんどがネルガル職員と来た日にゃあアカツキさんもしかして島流しですか?
  とか疑問が尽きなかったり疑ったり。だって第一次防衛ラインだよ?第一次。
  その先にあるコロニーなのに木連のちょっとした(?)攻撃で潰されちゃうような脆弱な警備。
  何?ネルガルって使えない職員は島流し…。

ミ:…かつてネルガルシークレットサービスには伝説的な対武装集団制圧部隊“ゲルニカ”と呼ばれる部隊があり
  その実力は連合軍の艦隊を軽く超えていたりいなかったりまあそんなもんだから某ロンゲの会長さんは安心したの
  か妄信したのかやっぱり秘書にいい様に操られているとかそんな噂が広報部に流れつつもやがて生じた歪は中枢部
  を蝕むようにネルガルを侵食しそれがクリムゾンに覚られると木連と結託して作戦コードネーム“火の夏虞鎚”を
  発動一気にネルガルの拠点サツキミドリ二号を襲撃そのついでに近くまで来ていたナデシコへの嫌がらせのために
  バッタを適当に改造してエステバリスに憑依させてそのまま放置てなもんでまあやっぱり無茶あるわねこの話。

藍:……ついに気でも違ったミズキ?そんなに出番が無いのが辛いんなら無理せずに言ってくれれば私だって…。

ミ:勢いだけで書いてるどこかの駄目作者が?設定ころころ変えるどこかの屑作者が?

藍:あうっ。まあ、とにかくサツキミドリの位置は多分地球と月の間だろうし、通り過ぎちゃったもんは仕方
  ないとして今回の話ができたってこと。うん。

ミ:なんでわざわざ…。

藍:ん〜。作中で言っていた理由も本当だよ。火星に行くまでにまともな戦闘をさせておきたかったし。
  さすがにいきなり火星で初戦闘っていのはいろいろまずいしね。

ミ:考えてないようで少しは考えてるのねぇ。……だからバッテリーが云々とか通信範囲とか音がどうとか細かいところが
  うそ臭いのね?レーダーレンジとか熱源反応は感知できたりとか。

藍:言い方が酷いな〜…。でも、まあ大体そんなとこ。どうにか理由はこじつけたいけど下手に言い訳すると
  泥沼にはまりそうだからここで言って置きます。お願い見逃して。

ミ:やれやれ、まあ、頑張んなさい。

藍:そんなこんなでなんだかアキトとイツキが大ピンチだけど、どうなる次回!?

ミ:ところで五千ってのは多いのかしらね、少ないのかしらね?

藍:多いってことにしておいてくれよ………。

 

 

 

代理人の感想

十分多いでしょう(笑)。

 

それはともかく、ナデシコ出航時点では地球連合軍は月と地球を辛うじて守っています。

ですから、地球の周りを回っているサツキミドリも一応守られていたと考えていいんじゃないでしょうか。

「第一次防衛ライン」はあくまで「地球本星の」第一次防衛ラインと考えればよいかと。