ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……


『間もなく、当機は着陸態勢に入ります。震動はございませんが、万全を期すため、ご搭乗のお客様は

 お席をお立ちにならず、座席でお待ちください――――――』

添乗員の妙にイントネーションが揺らぐ声が機内に響く。

「ん……………………」

その声で、漸く意識が混濁しながらも覚醒し始めた。

普段からスクランブル出動の訓練を続けているのにもかかわらず、こういう時は何故か目覚めが悪い。

久方ぶりの、故郷だからだろうか。

既に生産量全てが珪素化合物ではないにもかかわらず、相変わらずガラスと呼ばれ続けているその窓から外の景色に目をやる。

自分が生まれたときから変わらぬ赤褐色の大地。

モザイクをかけたように点在する人口樹林プラント。

そして、人々が安住を約束される人類の砦、コロニー。

「帰って…………きたんだ。六年ぶりかな……」

意識したわけでもないのに、口からそんなセリフがこぼれた。

余程この故郷を出て行ったことが未練がましかったのだろうか、思わず苦笑する。

ようやく取れた長期休暇を利用しての帰郷。

コロニーを中継して往復で六ヶ月以上かかるのだ。なかなか機会があるものではない。

実際に火星にいられるのはたった三日、だけれども。

ふと、後頭部に鈍痛を感じる。

「あぁ……髪縛ったままじゃない…道理で」

いつもなら解いているはずのその髪留めの紐は、母親からこの故郷を離れるときに記念に貰ったものだった。

当時は肩にやや掛かる程度だった髪は、今では背中にまで伸びている。

ずぼらな自分の性格を見抜いていた母親に貰った髪留めの紐は、今もこうして役立っている。

だが、今はそれが恨めしかった。

「うう、ジンジンするぅ」

長時間の圧迫によって蓄積されたその痛みは、ぐにぐにと指でマッサージしてみてもなかなか解消されない。


『この度は、私どもMSLをご利用頂き真にありがとうございました。あと二百三十秒で機体前方のドアが開きます。

 添乗員の指示に従い――――――』




「あっと、もう行かなきゃ」

周りの人々が少しずつざわつき始め、それぞれが一様に降りる準備を始める。

もっとも、ほとんどの人が荷物は預けてあるため少量の手荷物を持つだけなのだが。

手元に備えてあるミュージックプレイヤーの電源を落して、席を立つ。

荷物はない。

余計なものは携帯しない、そういう主義なのだ。

必要なものがあれば大抵すぐに手に入ってしまう現代、特に珍しいというわけでもなかったが。

一つ目のドアをくぐり、懐かしい匂いが鼻腔に微かに広がった。

二つ目のドアをくぐったとき、機内のものとは明らかに違う空気が全身を刺激する。

帰ってきた。

そう、感じた。





「ホント、変わってないなぁ……火星は」
















終わり無き旅

第二十二話「滑稽なまでに残酷な、始まりの顛末」






「イツキ!」

「母さん!?」

宇宙港のターミナルを歩いていたイツキは、数十メートル先から手を振って呼びかける自分の母親に気付いた。

帰省すると連絡はしたが、どの便かは伝えていない。

だからこそ母親が何故今ここにいるのか分からなかった。

「おかえり、イツキ。こんなに大きくなっちゃって…」

「ただいま、母さん……っじゃなくて!」

抱擁してきた母親につい流されかけたイツキは、なおも強く抱きしめようとする母親を無理やり引き剥がし問う。

「イツキったら酷いわぁ、私とのスキンシップなんてどうだっていいのね!?」

「そうじゃなくてっ、何で母さんがここにいるの。私どの便で帰るかは伝えてなかったはずだけど」

「あらあら、そんなこと?簡単じゃない。イツキの性格を考えたら、連絡するのは絶対シャトルに乗り込む直前だもの。

 あとは、ちょこちょこっと管制局に問い合わせればすぐよぉ」

イツキは眩暈がした。母親のアクティブさにではなく、自分の行動パターンの単純さに。

いくら母親とはいえ、こんなに簡単に読まれてしまうものだろうか。

それともこの母親が特別なのだろうか。

「仕事はどうしたの」

「ああ、あの人に任せてきたわ。泣いて喜んでたわよ」

「父さん……相変わらずみたいね」

あれから六年も経つというのに、両親の行動パターンはまるで変わっていない。

否が応にも自分がこの両親の血を継いでいると痛感してしまう。

なんでこういういらないところばかり、とつくづく思うのだが、大体にして子供とは親に対してそういう考えを持つものだ。

「あ、もうこんな時間。早くしないとリニアが出ちゃうわ。さささ、イツキ、急ぎましょ急ぎましょぉ〜」

「あっと、母さん引っ張らないで!」







      

「あぁ〜よかった。間に合ったわね」

そう言って二人が座った座席は、空調の効いた見晴らしのいい席だった。

「まだ発車まで二十分はあるわよ…?」

そんな席を取れるのだから、当然の如くまだ人はほとんど乗り込んではいなかった。

母親のせっかちさは相変わらずだと頭を抱えるが、別段この席自体が不満というわけでもないので文句は口にしない。

昔からこの人は変わらない。

少なくとも、この両親に再会したときには既に今とほとんど変わらぬ母が居た。もちろん、容姿を含めて。

母は外見こそ垂れ目でポヤッとした印象だし、口調もどこか間延びしている。

にも拘らずこの母は行動だけは他人の五割増しで素早い。

今回の出迎えだってきっと父にすら告げていないに違いない。

外見とのギャップはともかく、行動が素早いのは遺伝してほしかった。

特に自分が今働いている職場では、秒単位の正確さが求められるときさえ多々ある。

根っこがずぼらなイツキにとって最も似合わない職かもしれない。

「それにしても、背ぇ、伸びた?」

頭頂部に手の平をつけて自分と娘の背比べをする。もっとも、座っているので実際には座高だが。

「デランドルコロニー、っていうか月のコロニーは一.〇二Gだからね。火星は確か…」

「九.八九G。やっぱりGが高いと背が伸びるってホントだったのねぇ。

 中学卒業したときにはもうそんなに伸びないと思ってたけどぉ」

火星の重力は、本来地球の約三十八パーセントしかない。

だがそれでは地球・月・火星間の円滑な移住計画に支障が出るため、コロニーを初めとする人の生活範囲に関しては

重力を制御し、可能な限り地球のそれに近づけている。

微妙な誤差があるのは重力制御に使用している機器メーカーの違いのためだというのは公然の秘密である。

「まあそれだけ伸びればもうチビなんて言われることもないでしょ〜ね〜」

ほほほ、と笑いながら母はそう言った。

そんな母にばつの悪そうな表情をしながらイツキはやめてよ、と軽くぼやいた。




やがて定刻になり、ゆっくりと音もなくリニアは発車した。

移り行く、けれど変わり映えしない景色をぼ〜っと眺めていたイツキは、ふと視界の隅に記憶にない施設があることに気付いた。

「ねえ、母さん。あれ何?」

「ん〜どれぇ〜って、ああ、あれね」

身を乗り出して窓を覗き込んだ母に、僅かに場所を譲りながらイツキはその施設を眺める。

平地に建造されたそれは、約数キロに渡って存在し、きっちりと区画整備がなされているようだった。

「知ってるの?」

「知ってるも何も、イツキも知ってるはずよ。ほら、月でも採用が始まったらしいじゃない、人型機動兵器。

 その機動兵器の腕前については右に出るものがいないとまで言われてるフライトナーズの駐屯基地よ」

「っ!?フライトナーズ!」

思わず口調が強くなった。

それだけの効果がある言葉だった。少なくとも、イツキを初めとする現場の軍人、特に機動兵器のパイロットにとっては。

「あれが…」

思い起こせば一年前。




初めて人型機動兵器というものを見たのは、仲間内のパーティーで飲んだくれて二日酔いになり不機嫌バリバリの勤務の日だった。

月では特に飲酒に関して年齢制限はない。二日酔いは、薬でどうにでもなる。問題なのは、その薬が不味くて後味最悪なことだ。

人型機動兵器については前々から噂にはなっていた。

前日の酒の席でも笑い話として出ていたくらいだ、知名度だけなら下士官の間では嫌な性格の将校と同じ程度にあった。

誰もが使い物になるなどとは思っていなかった。

人型機動兵器の先祖を辿ると、真空中整備作業用ロボットに辿り着く。

あんなのろまでずんぐりむっくりな物がどんな劇的な進化を遂げたところでたがか知れている。

誰もがそう思っていたのだ。

宇宙空間での戦闘において戦艦が幅を利かせる中、装甲も薄い、武装も貧弱、長時間活動もできないと欠点だらけの機動兵器が

一体なんの役に立つというのか。

せいぜい、機械弄りに人生の半分をつぎ込む整備班連中が泣いて喜び、後は倉庫の肥やしになる、というのが大多数の意見だった。

イツキに関しては、ややそれらの意見とは異なっていた。非常に微妙な差だが。

実はイツキが火星を発つ以前から、火星軍は機動兵器を正式採用していた。

ただ、運が悪いのか何なのか実際見たことはないのだが、開発元のスノーフレークに関してそれほど悪い話を聞いた記憶もない。

そしてイツキが今回の月面軍の採用する機動兵器に対して半信半疑なのは、開発したのがネルガルだからだ。

ネルガルといえば、地球のアジア地域を中心に展開するコングロマリットだ。

その経営母体となっているネルガル重工は宇宙軍の主な発注先で、軍事企業としては最近下降気味のクリムゾングループをも

越す勢いである。…………地球と月では、だが。

火星はと言えば地球と月の二つと大きく事情が違ってくる。

火星において軍需産業を占めているのは大きく分けて二つの企業。

明日香インダストリー、そしてスノーフレークだ。

明日香は元々ネルガルやクリムゾンとは比べるべくもない小さな企業だった。

けれど、テラフォーミング技術に関してだけは他の追随を許さず、火星の移民計画にも大きく関わっている。

計画の成功を記念して本社を火星に移し、火星の住民の生活の柱として今も存在している。

スノーフレークという企業が誕生したのは随分前のことらしいのだが、実際に軍事企業として名を挙げたのは十年ほど前となる。

確か、薄くて軽くて丈夫で長持ちで形状自在でしかもコストがハッピーな気密服が大当たりしたのだとか。

それから様々な製品を矢次に売り出していった。明日香とは主力製品の層が異なっていたために衝突はしなかった。

そして、明日香と製品の層が被るものに関しては共同開発という形を取ることによってさらに成長した。

現在では生産ラインなどを共有化するなど、企業提携にまで至っている。

主力製品が違っていたのは、そして共同開発という形を取ったのは実に上手いやり方だと思う。

明日香が、インダストリーと言う枠を超えて幅を利かせている火星において、その影響力は無視できない。

これはイツキの勘なのだが、スノーフレークはおそらく最初から明日香との企業提携が目的だったのではないかと思う。

スノーフレークは、技術力と言う点において明日香に引けを取る部分は無かったが、流石に資本力の差、生産力の差は埋められない。

新参企業の欠点であるこれを、明日香との企業提携によって克服しようとしたのではないか。

勘だが。

それはともかく、この二大企業は経営、生産を主として火星で行っている。

当然、その職員は火星の民ということになる。

特に明日香インダストリーは大企業であるが故に、火星では大口の就職先となっていた。

その経歴もさることながら、人口が比較的少ない火星で就職率トップの明日香インダストリーは、信用が何より大切である。

隙を見せれば、シェアに飢えているクリムゾンやそれを潰さんとするネルガルにとって格好の獲物となる。

で、結局なにが言いたいかといえば、火星出身のイツキにとって明日香は信頼に足る企業であり、その明日香が提携した

スノーフレークもまた、信用に値する企業である、ということだ。

対して、地球ではどうだか知らないが、火星じゃあ何やら火星考古学やナノマシンを研究しているらしいネルガルやクリムゾンは

イツキにとって信用には値しない。まあその主因が、火星だと研究許可が下りやすい、という安直なものであるからだが。

偏見、贔屓、と言われればそれまでなのだが、結構火星でこの考えを持っているのは多いだろう。

だったのだが。


それまでのイツキを苦しめていた二日酔い特効薬の副作用は平方次元の彼方へと吹っ飛び、一気に目が覚めた。

ネルガルが技師官込みで送りつけてきたその全く新しいコンセプトをもった兵器は、まさにイツキ達の度肝を抜いた。

何とか機構がどうだの、何とかシステムがどうだの、こちらが理解できないのを分かっていて内心ほくそ笑んでご高説のたまる

技師官を暑苦しい軍人約二十人が取り囲み胸倉を掴んで貧相なそいつの体を持ち上げてこう言った。

俺たちもあれに今すぐ乗せろさあ乗せろさもなきゃ真空に放っぽりだすからな!

頷く以外技師官に道はなかった。



そう、結果は地球が何色かを説明するより明らかで簡単だったのだ。

確かに装甲は薄かった。それこそミサイル五・六発で沈むほどに。

確かに武装は貧弱だった。それこそ三十分も戦闘したら殴る蹴るしか出来なくなるらいに。

確かにエネルギーは持たなかった。中継器から供給されなければ二時間と持たないほどに。

トップスピードはスクラムジェット戦闘機にも劣るだろう。

戦艦にも採用されている電磁フィールドを搭載しているにはいるが、総エネルギー量の関係からものの数秒しか展開できない。

だがしかし、ご先祖様のマイペースな動きとコロコロした愛らしいフォルムは影も形もありゃしなかった。


そしてその機動兵器の真骨頂たる機動性にイツキたちは心奪われた。

軍人、しかも現場の叩き上げな連中というものは得てして単純なものだ。

自分達がこれだと決めたものは軍規違反なんぞいくらでもかますし(もちろん、上に対する偽装工作も)

自分達がどうしても気に入らなきゃ上官命令だろうが黙殺レッツゴー(もちろん、もっともらしい言い訳も添えて)である。

僅か五トン弱の金属の塊は、宇宙空間を軽やかに動き回りダミーバルーンや自動制御砲台をいとも簡単に潰して見せた。

あれが十機あったなら、少なくとも接近戦においては戦艦でさえも撃沈することが可能だろう。

大体、戦艦は何十人という人がそれぞれの役割を果たして初めてまともに動く。

けれど、その分一人当たりの仕事総量に占める割合は激減し、正直自分の職務にどれほどの意義があるのか疑問に思うときがある。

それがまるで戦闘機のように少なくとも操作は一人だけで全てをこなすことができる。

責任は重くなる、けれど同時にプライドも生まれる。

時代が宇宙空間戦闘に移った現代、地球以外で一人で一つの兵器を所有することはまずなかった。

宇宙空間という特殊性故に、一人で扱うことのできる情報量が限られてしまうためだ。



あれを操作するためにはまずナノマシンとかいう見た目液体な物を注入しないと駄目だという話を技師官がして

その数が四人分しかないと言った瞬間、まず普段から下士官組のパシリに使われている二等兵五人組が謎の衝撃を食らって脱落した。

次に脱落したのは下士官組の軍曹のジュンジと曹長のケニーだった。

いつもつるんでいるこの二人は、こんなときも一緒だった。

仲間内で最も腕っ節が強いと言われているマッスルなミリィ軍曹がその次に脱落したのには他の連中を驚かせた。

よく見ると顔色が悪かったので、劇薬物オタクなサザーランド伍長が即時集中攻撃を食らって床に沈んだ。

チュンファ准尉は持ち前の頭脳を生かし、遠巻きに虎視眈々と生き残りを図っていたが、虎視眈々過ぎていつの間にか脱落組に

加えられていた。抗議は明日以降受け付けるとのこと。

フォア伍長はカンフーが得意だったため幾人もの連続攻撃を退けていた、が、恋人のブランケット伍長が裏切って弱点である首筋に

息を吹きかけたところ隙ができまくって敢え無く脱落、ついでに隙を突いたブランケット自身にも隙ができて一緒に脱落した。

ヨウイチ准尉はイツキ伍長と結託して他の連中を圧倒。ちなみにこの二人、昨日は酒の席で好きな犬の種類について談義したところ

意見が真っ二つに割れて店を一部損壊させた仲である。

二人によってマリア伍長とミール軍曹が脱落。この二人は全治一週間の怪我を負ったにもかかわらず翌日には職場復帰していた。

フルール一等兵とジグニッド伍長は結局最後まで二人だけの世界で決闘してた。最終的にフルール一等兵が残った。

マイ曹長とミドリ伍長は何が何だかよく分からないうちに残ってた。

フジマ軍曹は初めから勝てないと踏んでいたので事態が収まるまで隅っこでぼ〜っとしてた。


で、結局イツキ伍長、ヨウイチ准尉、マイ曹長、ミドリ伍長、フルール一等兵が残った。

四人分しかなかったのだが、争奪戦の途中でイツキは自分がIFSを持っていることに気付いたからだ。

月に来てからほとんど使った覚えが無いため存在自体忘れていたのだ。

周りから馬鹿だ馬鹿だと言われたので第二回戦勃発、十分後終結。

目の前で繰り広げられた人外のデッドヒートに呆然としていた技師官は、ヨウイチ准尉の鮮やかなハイキックで何とか目覚めた。



スターティングメンバーの五人の感想は概ね良好だった。

何より新採用したIFSはそれまでのデジタル制御機器とは違い直感的な操作を可能とし、十分かそこら講義を受けた五人ですら

機動兵器を乗りこなしたのである。

意外に単純な兵器かと皆が思ったところ、五人の模擬戦でそれが覆される。

イツキ伍長とヨウイチ准尉の独壇場になったのだ。

他の三人ははっきり言って状況に追いつくことができず置いてけぼりだった。

どうやら、本人の資質が直に出るものらしいと認識したイツキたちは揃って興奮した。

つまりそれは、この機動兵器の腕はそのまま本人の実力だということだからだ。

昨今の凄腕機動兵器パイロットが半分英雄的な扱いを受ける理由はこのためである。



とにもかくにも月での好感触を得ることのできたネルガルの機動兵器は、地球での兵器シェアを得られ“なかった”。

理由は簡単、重かったからである。

月面上はまあいい。コロニー以外の空間の六分の一という重力は実に小さく、エネルギーの節約となり関節の磨耗を和らげた。

宇宙空間なら尚更だ。無重力条件下ではエネルギー消費効率が最も良くなる。

だが地球上の重力はデリケートな人型機動兵器には強すぎた。

動かないわけではないが、高出力ジェネレーターとの兼ね合いがそりゃもう口にできないぐらい酷かった。

これが、軍上層部の機動兵器に対する印象を薄いものとし、戦争が始まるまで機動兵器の配備が遅れた理由である。

何を隠そう軍のお偉いさんは空の向こうがよく見えていなかったのだ。ずっと地球上で生活していれば当然だが。

現場側と管理側の意識格差はこうして生まれ、今も尚根強く残っている。

そもそも、ネルガルが今の今まで人型機動兵器の開発を渋っていたのは、ひとえに利益の見込みがなかったからである。

連合軍の上層部といえば、年功序列でのし上がったどいつもこいつも頭がちがちな連中で、揃ってどっかん大砲信奉主義者だ。

まあ、近年ろくに戦争も起こらず、あるといえば小規模のテロ程度。仕方がないと言えば仕方がない。

シェアが見込めないものに金を割くわけにはいかない。企業とは、営利を追求する組織なのだから。

先も述べた通り、地球上で人型を形成しながら汎用的に使用できる兵器を開発することのできる技術がなかったのも一因している。

人型でないというのなら、いくつかネルガルも開発していた。特殊環境下用の局所展開機動兵器である。

ちなみに、これらの評判もよろしくない。戦艦が使えないような、特殊な場所での使用を想定した兵器なのだが、

特殊すぎてほとんど出番がなかった。開発者は自信があったらしい。

曰く、『深海六千メートルでコイツは自由自在に動きます』

馬鹿だ。

にもかかわらず何故人型機動兵器の開発に踏み切ったかというと、まあいろいろある。

火星で好調なスノーフレークと明日香インダストリーに、妙な対抗心と嫉妬心を燃やしたこと。

多少損失を出そうとも、将来的には成り立つだろうとネルガルの新会長が判断したことなど。

英断、といえば聞こえはいいが実際のところ『きっといつかはどうにかなるだろう』という軽い気持ちだったとか。

機動兵器で一度失敗している自分達だが、いつまでも負け犬のままでいるわけにはいかない。

採算度外視で突っ走った人型機動兵器の開発の結果は、まあ、知っての通りだ。

対して、火星で機動兵器が軍に採用されたのには、これまたいろいろと理由がある。

その最たるものが、金がない、だ。

連合軍傘下の火星軍に何故金がないかといえば、単に火星が地球から見て僻地だったからだ。

火星は治安が悪い。そりゃもう地球、月、火星の中ではダントツトップだ。

当然軍の出番も頻繁にあった。商船が海賊に襲われただの、組織的な誘拐事件があっただの。選り取りみどりだ。

それに対抗する軍もいろいろ考えた。考えたが、何をしようにも金がなかった。

繰り返すが、火星は地球から見てとんでもない僻地だ。

たとえば、火星軍側が犯罪が増加しているから金を寄越せ、と言ったとする。

すると連合議会はこう言うわけだ。実情はどうなんだと。

まあ、当然である。たかだか万引きがいくら増加したところで金を増やす理由にはならない。

火星軍はこう答える。なら査察に来い、と。

ここで問題が出る。査察をする以上、それを行うのは火星軍とは関係ない、つまり地球か月の誰か、ということになる。

しつこい位繰り返すが、火星は僻地だ。

誰も行きたがらないのである。これは痛い。

査察してくれ、という要請がたらい回しにたらい回しされた挙句、来るのは観光気分のやる気無しか、あと数年で退職かという

窓際でぼ〜っとしてるような閑職の老人だ。

そんなやつらが何百人来たところで火星の実情が地球側に伝わるはずもない。

いや、何人かはまともに職務をこなそうとしたのかもしれない。けれど、できなかった。

飯を食っては腹を壊す、水を飲んでは腹を壊す、心を癒すはずの空は虹色、大地は赤。一体ここはどこだろう。

もうどうしようもないくらいどうしようもなかった。

そう、火星軍は金が無いのだ。

もともと、歳入は少ない。

居住面積が少ない割に人が多く住んでる月や、居住面積も人口もトップの地球とは、税金の実入りも雲泥の差だったりする。

火星軍は必死に考えた。

戦艦を地上で運用するのはどうか。

却下。あんな巨体が四六時中空を飛んでみろ、人々に与える不安は無尽蔵すぎる。

戦闘機を警戒に当たらせるのはどうか。

却下。飛ぶしか能のない一直線野郎がいくら地球よか狭いとはいえ広大な土地で二十四時間何をしていろと。

白兵要員を増やすのはどうか。

却下。要所を抑えるだけで手一杯。肝心の住民が蔑ろになる。

大体、火星軍には宇宙、空、地上とフレキシブルに運用できる兵器がない。

それぞれに個別の兵器を使っていたら、金がいくらあっても足りないではないか。

どうしよう。

困った火星軍に救いの手を差し伸べたのが、件のスノーフレークだった。

最初はパイロットスーツを開発して、その後もいろいろ軍に提供してきた企業だ。鼻だけは利いた。

もっとも、明日香インダストリーが家具を開発していたと例えるなら、スノーフレークが開発していたのは日用雑貨だ。

あまり火星軍も期待してはいなかった。

で、スノーフレークがこれぞと持ってきたのが、人型機動兵器だった。

火星軍のお偉いさんは最初開いた口が塞がらなかった。

兵器なのだ。求めているのは。なのに何故それが人型をしているのだろう。

僕とっても疑問。教えてプリーズ。

そんな軍のお偉方にスノーフレークはこう言った。汎用性という点においてこれを超えるものはない、と。

成る程納得、するわけがない。

ただ、確かに宇宙でも空でも地上でも市街地でもついでに災害活動でも運用できるのは画期的だった。

お金がない火星軍にとって、大量生産により一機辺りの生産コストが抑えられるのは非常に嬉しい。

問題は、それの有効性だった。これを見て犯罪者がすごすご引き下がってくれるだろうか。

火星軍は、冒険に出発した。死んでも教会には戻されないだろう。

まずは実験採用。どうなるかとハラハラドキドキだった火星軍の上層部は、連日気が気でなかった。

結果はストレスが溜まり過ぎてハゲた。じゃなくて、大成功だった。

それまでの常識を覆すような兵器は、犯罪者共もびっくりした。

宇宙でも空でも地上でも市街でも同じ兵器に追っかけられたら、そりゃトラウマにもなるだろう。

これに気をよくした火星軍は、実験機の不備をまとめてスノーフレークに差し出す。あとは、これだけやってくれ。

結構欲張りだった。

そして、生まれた機体がユーコミスと呼ばれる後世にまで語り継がれる名機だ。

汎用性、コストパフォーマンスの高さはそれまでのあらゆる兵器を凌駕した。

特に、ユーコミスから採用されたパーツチェンジシステムは、コアとなる部分が共通仕様であるため、大幅なコストダウンとなった。

市街地は別としても、火星の重力が軽かったことが幸いしたのだ。

そして度重なるバージョンアップの中、遂には明日香インダストリーがその技術力に目をつけて、スノーフレークとの企業提携に至る。

とあるバージョンアップの際、それまでの時とは違い大幅な変更が加えられた。

この仕様変更は民間には伝えられずイツキは詳細を知らない。軍に入った今でも。

ある人物がこの仕様変更に大きく関わったとかいないとか、噂は星の数ほどあれど、真実は闇の中だ。

そしてこれに前後して戦艦にも大きな仕様変更が加えられたらしいのだが、民間には仕様変更自体知らされていない。

まあとにかく。こうして人型機動兵器は火星軍に広く普及し、月と地球に差をつけたのだ。自覚はなかったが。

余談だが、これで犯罪件数が減ったかというとそうでもなかった。

力を加えれば加えるほど反発力を強めるバネの如く、犯罪者達もレベルアップして行ったのだ。

とはいえ、犯罪件数は変わらなくとも、実質的な被害は低減していったので、その点は火星軍も一安心した。やれやれ。






ところで、イツキ達デランドルコロニー駐屯部隊に送りつけられた機動兵器のデモを行ったのは火星軍からの出張軍人だった。

もちろんネルガルにテストパイロットとして登録されている人材が居ないわけではない。

だが、火星軍は既に人型機動兵器を正式採用しているためにパイロット育成のノウハウが存在する。

加えて火星ではIFSを使った生活が常識であるため、例え新人パイロットであってもネルガルの抱える並みのテストパイロットより

機動兵器を上手く扱えるのだ。

企業であるネルガルとしては、その育成ノウハウが欲しかったし、華麗なデモを見せることで軍にアピールしようとした。

だからネルガルのテストパイロットではなく火星軍のほうからわざわざ出張してもらったのである。


で、その出張軍人は二人居たわけだが、その二人対イツキ達デランドルコロニー駐屯部隊代表五人の戦闘は圧勝に終わった。

もちろん、出張軍人が。

手も足も出なかった、と言えばさすがに嘘になるが、経験の差をまざまざと見せ付けられたと言えば本当になる。

ルイカ・オールドと、ウェン・ミシュート。両軍曹は模擬戦中に漫才(としかイツキ達には見えなかった)をしながら勝って

見せたのである。正直ムカついた。

とはいえ、その二人が人型機動兵器の運用論を教えてくれると言うのだから素直に従った。

ただし、最初から最後まで実地教習だったが。

様々なことを彼らから教わった。その内の一つ、といっても雑談の中だったが、彼らの属している部隊はフライトナーズと

呼ばれているということを聞いた。

軍隊内で部隊にニックネームをつけるのはよくある事だ。

そして火星軍中最強の部隊はフライトナーズだ、というウェンの声を聞いた途端イツキ達は途端に聞く気が失せた。

ああ、こいつは自慢話がしたいだけなのだと。そう感じたからだ。


その時は誇張した自慢話だと思っていた。

ところが、月のコロニーに機動兵器の配備が始まると、件のフライトナーズに関する噂は広まっていった。

噂自身、背鰭尾鰭はもちろん胸鰭尻尾、果ては手足まで生えてくるものだ。

しかし、火星軍から派遣された軍人や退役軍人の話を総合していくと、どうにもフライトナーズ最強伝説は実際のものらしい。

それほど噂が広まったにもかかわらず、部隊自体に関する情報はほとんどなかったのが不思議ではあったが、それが逆に

神秘性を持たせて、噂が広まった主原因でもあっただろう。







フライトナーズ。

二度目に訪れた指導教官は、その部隊を目指せと言ってきた。それほどまでに強いのだと。

今イツキの視線の先にはそのフライトナーズの基地がある。

何故か、少し感動した。

「で…フライトナーズって強いの?」

「もちろんよぉ。火星の大地と空と宇宙を駆ける最強部隊。若い世代じゃちょっとした英雄扱いらしいわねぇ」

どうやら、あの時のパイロットの話は真実らしい。

しかし。

「一個部隊が使用するにしてはちょっと大きくない?」

「さあ?私は軍人さんじゃないし、その辺りのことはよく知らないわ」

当然と言えば当然だった。

民間人である母が施設の内情について詳しく知っているはずがない。





「イツキ!」

公共の場で名を叫ばれるのは本日二度目のことだった。

だけれども、またイツキは驚いた。

一度目も二度目も、叫んだ人物がイツキには意外だった。

「あっ………カイトォ!」

イツキの顔が、一気に喜色満面になった。

母のときとは違い、駆け寄ってくるカイトと互いに熱い抱擁を交わす。

「カイトォ…」

「お帰り、イツキ」

「ウン……ただいま」

ユートピアコロニーのリニアの発着場で、二人はそのまま暫く抱き合っていた。

後ろで、カイト君いいなぁ、という母の呟きは誰にも聞こえてはいなかった。












カイトと出会ったのは、小さい頃入れられていた施設時代にまで遡る。

今の両親とは実際に血の繋がりがあるわけだが、実は生まれた時に入院していた病院がゴタゴタに巻き込まれた際の混乱で

両親と私は離れ離れになってしまったのだ。

八歳になったときに両親と再会した……らしい。

どうにも私は生来の性格のためか小さい頃の記憶が鮮明ではない。

そして、それまで私の傍にいつもいてくれたのがカイトだった。

彼には、本当に両親がいない。

というか、そもそも火星出身かどうかすら分からないそうだ。


カイトとは物心ついた頃から一緒にいたため、お互い共にいることが自然な状態だった。

そんな二人が、何時の間にか恋人になっていたとしても、周りはかけらも驚かなかった。むしろ、やっとか、と溜息つかれた。

そして、私は七年の義務教育を終えたその身で連合軍入隊斡旋所へと足を運んだ。

何故、と周りからは散々言われた。

両親と再会し、恋人ができた、一体何が不満なんだと。

この頃のご時世から考えれば、連合軍に入って火星軍に配属されようとも、またその他であってもあまり喜ばしいことではない。

前者は、このお世辞にも治安の良いとは言えない火星で死と隣り合わせの最前線で戦うこととなるわけだし、後者はこの火星から

ひどく遠い場所に勤務することとなる。民間航宙会社の登場により安くなった宇宙旅行とはいえ、未だそう易々と手の出せる

金額ではない。何より、三ヶ月以上もかかる旅行日程に問題がある。

それでも、私は自分の意思を変えることはなかった。

私がそれほどまでに意固地になるのにはそれなりに理由がある。

私が生まれた病院、そこで起きたいざこざというのは、病院丸ごとを狙った人身売買組織の襲撃である。

幸いにして、軍の対応が早かったため私を初めとするほとんどの人が助かった。

その時の記憶はあるわけがないのだけれども、それでもその当時のことを知る人々から話を聞いて私は決心した。

私のような幸せなケースばかりではない。助けられることなく、そして死んでいった人々もいる。

つまらない正義感かもしれないし、馬鹿な英雄願望だと罵られるかもしれない。

だが…私は自分自身で入隊を決めたのだ。


私と最も付き合いが長く、私より私のことを理解しているカイトなら、賛同してくれると思っていた。

思っていたのだが、彼から返ってきた言葉は否定の色が混じったものだった。

私は問い詰めた。

私の境遇を知っているカイトが、何故反対するのかと。

この時、初めて私たちは殴りあいすら混じった本気の喧嘩をした。

喧嘩して、結局そのまま別れ、その翌日は久しぶりに寝不足になった。

お互いの顔を見て…笑った。

まあ、長い付き合いの所為か、よく分からないまま仲直りしてしまった。

もう一度、お互いの心を完璧に理解しているなどとは思わずに、心の内を全て曝け出して話し合った。

今度こそカイトは私の意見に賛成してくれた。


両親は意外にもあっさり納得してくれた。

私を軽く見ているのではなく、『私たちよりイツキを理解しているカイトが賛成していると言うのに、何故反対なんて』だ、そうだ。

だけど、その時の両親の顔はどこか寂しげだった。

私が軍に入ることを悲しんでいるのではない。

私のことをカイト以上に理解してあげられない自分達の不甲斐無さが悔しいのだと、両親はそう言った。

その悔しさは、まだ私には分からない。けれど、いつの日か私も子供を持つことがあれば、理解できる日がくるのだろうか。



とにもかくにも、両親と恋人であるカイトの了解も得て、私は無事試験もパスして連合軍への入隊を果たした。

所属は…月面軍となった。

危険度と言う点では、火星と地球の丁度間に当たる。

月と火星を結ぶ航路を通る商船を狙った海賊紛いの連中がいるからだ。

ただ、航路事情などにより月は火星に出現する海賊より質も数も下だ。

そういう点では、安心した。

カイトとは、時々連絡を取り合う程度で、ゆっくりと話す機会はほとんどなかった。

何しろ、入隊したての私は毎日が訓練だった。

それはもう自慢したくなるぐらい規則正しくて不健康極まりない生活だった。

朝定時に起きて、訓練。

朝食を食べたら、訓練。

昼食を食べたら、訓練。

夕食を食べたら、訓練。

風呂入って死人のように朝まで寝る。

この六年間、まともにカイトと話したのは両手で余る。














久しぶりの再会の抱擁は、母の目立ってるよ〜、という囁きで漸く止まった。

「あっ、っと……ごめん」

「何で謝るの、私たち付き合ってるんだから…気にしなくて良いのに」

言ってるイツキ自身、恥ずかしさで顔から火が噴きだしそうだ。

「ひゅ〜ひゅ〜、お二人さん、熱いね〜。母さん羨ましいわぁ〜」

明らかに冷やかし半分妬み半分で母がそう茶化す。

「母さんっ!」

この母には、当分勝てそうにない―――そう思ってしまう、イツキだった。





「は〜い、カイト君。お・ま・た・せぇ。待った?」

「い、いえ……」

「母さん、お茶出したんならさっさとお父さんの手伝いに行ったら…?」

「えぇ〜ん、まだイツキとたくさんお話してないぃい〜」

エコーを残しつつ立ち去る母を監獄の守衛のように見送ったイツキは、久しぶりの実家のリビングで

ソファーに腰掛けカイトと向き合う。

なんだか、じわりと込み上げて来るものがある。

自分はこんなにも感受性豊かな人間だったろうか。






「随分伸びたんだね、背」

「母さんにも言われた」

「だろうね」

「カイトは、あんまり変わらないね」

「イツキが伸びすぎなんだよ。これでも、結構伸びたんだ」

「あっ、それって何、皮肉?」

「ははっ、違う違う」

「カイトの方は、調子どうなの。仕事は順調?」

「あぁ〜、今はまだ親方にしごかれてるよ。半人前以下だってさ」

「そんなことないよ、タキさん、カイトが来てくれたことが嬉しいから、つい厳しくしてるだけだって」

「そうかなぁ」

「そうだって。それに、タキさん火星っ子だから」

「ただの頑固者なだけな気がするんだけど」

「タキさんの代になってから初めての弟子だよ?もっと自信持っていいって。私が保証する」

「イツキが?」

「うん」

「う〜ん、医療費は負担してくれるの?やっぱり、入院一日目からだよね」

「あっ、ひっど〜い、信用してないなぁ!?」






その日は、深夜までカザマ家から明かりが消えることはなかった。













「んん………ふあ、ぁああぁ〜……」

同僚が見たら、間違いなく襲い掛かりそうな下着にシャツという扇情的な格好でイツキは目覚めた。

長い軍隊生活の反動か、この火星に来る旅程の中次第に自堕落になっていた。

いや、それよりも。

「ん……なんでわひゃひリビングで寝へるの……?」

ふと、足元を見る。


…カイトが床に転がってた。


「ヒャイトォ?」

習慣と言うのは恐ろしい。恐ろしすぎる。

特にイツキは、久しぶりの火星ということもあり以前の感覚がそのまま残っていた。

イツキは“そのままの格好”でカイトを起こしにかかった。


ユサユサ

なんだか、カイトを起こそうと動かす右腕が痛い。

ソファーで寝っ転がっていた所為か、他にも体の節々が痛い事にイツキは漸く気付いた。

腰をひねってみる。

パキボキペキ、と他人が聞いたら気味悪がりそうな音を鳴らす。

(ああ、ひ持ちいい……)

他人には秘密だが、イツキは結構これが好きだ。

首をひねってみる。

ボキッ……と結構大きな一回があった。痛い。

でもやめられないのだ。

(あうぁ〜……)

思考回路は未だ半分まどろみの中。

それでもイツキは再びカイトを起こそうと試みる。

「カイィト〜?朝だよ〜」

何となく、悪戯を思いついた。

イツキは自分のポケットに突っ込んであった髪留めの紐を取り出し、カイトの中途半端に長い髪を縛る。

可愛い。

「にゅふふふふふ。きゃ〜。カイト〜」

漸く呂律も回ってきたのか、恋人の名を今度こそ正確に発音する。やってることは怪しいが。

「うん……うぅ」

ごろっ、とカイトはそれまで下になっていた顔を仰向けにする。

頬の部分が触れていたのか、床の模様が頬にくっきりと赤く写っていた。

だけれどそのあどけない寝顔は、イツキの寝ぼけ頭にクリティカルヒットした。

「か、可愛い……」

指先を小刻みに震えさせながらそっとその唇に触れようとする。

五センチ、四センチ、三センチ、二センチ…………あと少し、というところで、不意にカイトが身動ぎする。

「ウヒャ!?カ、カイトォ……起き、た?」

限りなく小さな声でイツキは顔を覗きこみながらそう尋ねた。

「んむぅ…………」

「て、ないみたいね…ふう」

「可愛いわねぇ、カイト君の寝顔」

「ヒャァアアアアア!!!!???」

突然背後から声をかけられたイツキは先程よりも大きい悲鳴を上げてしまう。

「ふふぁあ……あれ、イツキ、とおばさん?…………ってイツキその格好!」

「へ?あ、あぁ!?きゃあああああああああああああああああああああああ!」

本日三回目の悲鳴は、お隣に住むウラワさんご夫妻の目覚まし代わりとなった。

「おはよぉイツキにカイト君。朝食、食べるわよね?」

慌てふためく二人をよそに、母だけはのんびりとそう尋ねたのだった。









「んもうっ!いきなり背後から声かけないでよね!」

キツネ色に焼き上げられたトーストを口いっぱいに頬張りながらイツキはそう吐き捨てた。

「大体…ってうわ、不味っ」

「どうしたの、イツキ」

(しまったぁ……月の味に慣れすぎた…)

元々の環境が農業向きでない火星で、食事に味を求めるのは土台無理な話。

久しぶりの火星に、そんなことも忘れていた。

月も食糧事情は良好とはいかないが、食材は地球産の物も多く含まれるため味に関してはこだわらなければ満足できるレベルだ。

六年もいれば、馴染みもする。

イツキはそれとなく両親とカイトを見る。

三人とも並べられた食事をいたって普通に食している。

美味くはない、けれど、他に食べるものもない以上現状に甘んじるしかない。

これが、火星での当たり前なのだ。

モフ…としなびた、というか元々こういう触感のレタスサラダを口に運ぶ。

ドレッシングは、まあまあだった。


住めば都、と言ったのは誰だったろう。

そんなことを考えるイツキだった。
















そしてそれは。

















カザマ家、そして火星に住む人々にとって、最後の平穏な朝食となったのである。



















「ふんふふん〜♪」

キッチンから母の調子の外れた歌声が聞こえてくる。

機械音痴な母は、食器を洗うのに食器洗い機は使わない。

穏やかな朝の光に包まれながら、イツキはカイトの傍らでネットを見ていた。

「う〜ん…」

とりあえず唸ってみる。

もっとも、唸ったからといって現状が変化したことなど今まで一度もない。

「う〜ん…」

けれど唸る。

「どうしたの、イツキ」

さっきから唸りっぱなしのイツキに苦笑しながらカイトはそう尋ねた。

「うん?いや、あのさぁカイト」

「何?」

「火星ってホント変わってないよね〜」

「まあ、確かに娯楽施設とかは増えてないけど……でも、結構前よりは住み易くなったよ」

イツキの見ていたものが火星のガイドサイトであることから、イツキが何を考えているのか察したカイトはそう返す。

貴重な休暇、それをたっぷり楽しみたいのだろう。

「休暇何日取れたんだっけ」

「六ヶ月とちょっと。でも実際こっちに居られるのは三日だけぇ〜、やんなる」

「ははは、ご愁傷様…」

「何それ、可愛い恋人がたった三日しか居られないってのに、それだけ?」

「ん?だって、僕はいつだってイツキのことが一番好きだもん」

さらり、と赤面するようなことを言ってのけるカイト。

けれどこれが意図的なものでないことぐらいイツキは分かっている。天然だから。

だからこそ、余計に性質が悪いのだが。

「わ、私も……好きだよ」

ぼそぼそと俯きながらイツキはそう呟いた。

恥ずかしさが先に立ってどうにも素直にカイトの方を向いて喋ることができない。

指先をもじもじとさせながらちらりとイツキはカイトの方を窺う。

カイトがこちらに身を乗り出していた。

(ふえっ!?ななな、なに?もしかして、キキキキキキキキキスゥ!?いや、だって、まあ、ええ!?)

ドキドキ。

(でで、でも恋人なんだし。うん、いいよね……………ん〜)

と。

二人の体が交差した。

「う〜ん、僕もあんまりこういうところ行かないからなぁ。あっ、これなんてどう?あれ……どうしたの、イツキ」

「うん、分かってたよぉ…。こうなることぐらい……。でもでも、期待したっていいじゃない、うう〜」





「はあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁ〜」

深い深ぁい溜息を一気に吐く。

イツキは今現在とっても不機嫌である。まる。

とでも日記に書きたくなるような気分だった、いや、そもそも日記なんぞ書いちゃいないが。

…年記ならどうだろう。一年に一回だけ。

(そんなの次の年には絶対忘れてるわね)

そんなどうでもいいことは意識の片隅に追いやって、とりあえずカイトに予定を聞いてみることにする。

彼女たるもの依存しているだけでは駄目だ。彼氏の都合ぐらい気遣ってあげられるようでなくては。もちろん、その逆もまた然り。

何しろ二人とも立派な社会人なのだから。

けれど。

「ねえ、カイト――――――――――」

その問いは、もう、繰り返されない。





ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!




けたたましい轟音が鳴り響く。

耳が劈くようなこの音は、イツキにとって聞きなれた、そう。

「非常警報!?」

「イツキッ!テレビつけて!」

キッチンにいた母が、慌てて飛び込んでくる。

その表情は真剣そのもので、いつものポヤッとした母はまるで見受けられない。

そして、母がそう叫ぶ前にカイトがテレビの電源を付けていた。

チャンネルを合わせる必要は、なかった。



『―――よって、火星管理政府は現時刻を持って第一級非難警報を発令。住民の皆様は慌てずに避難訓練通り速やかにシェルターに

 移動してください。繰り返します。本日未明、本惑星に向かって正体不明の艦隊が多数接近。再三の警告にもかかわらずこれを無視。

 アステロイドベルト付近に展開していた火星軍第三艦隊はこの艦隊と交戦。現在も戦闘は継続中、しかし予断を許さない状況である。

 正体不明の艦隊は明らかに本惑星に対し敵対意思を持っており、連合条約に基づき火星軍は総力を持ってこれと交戦する。

 よって、火星管理政府は現時刻を持って第一級避難警報を発令。住民の皆様は慌てずに避難訓練通り速やかにシェルターに移動して

 ください。繰り返します―――』



「どういうことだ…?」

カイトが呆然と呟いた。

第一級避難警報。

それは、この火星からの避難を意味している。

つまり。







火星全土、ひいては付近宙域全てをを巻き込むほどの戦闘が始まる、と言うことを意味しているのだ。











「とにかく、ただ事じゃないわ。すぐ二人とも準備して!シェルターに避難するわよ!」

母は迷うことなく避難用の装備をロッカーから取り出す。

準備がいい。六年前とは、違う。

(…避難訓練でもしてたのかな)

「イツキ、さあ早く」

「えっ、あ、うん」

状況は、静かに流転する。














「皆さん!落ち着いてください!我々が誘導します!」

兵士が拡声器で叫びながら指揮を執っていた。

余程入念に訓練しているのだろう。

ざわついてはいるが、人々はそれほど混乱することも無く素直に指示に従ってシェルターに入っている。

けれどその表情は一様にして張り詰めていた。

誰もがこの状況が自分たちのように素直には進まないことを理解しているのだろう。

シェルターの入り口はコロニーの各所にあるが、分散させているにもかかわらずここは人でごった返している。

見渡す限りは、全て人で埋め尽くされている。

そして、その全員が例外なくシェルターの入り口に飲み込まれていった。

イツキも、そんな人々の一人だった。










軍人とはいえ、今は休暇中でありしかも月面軍の所属。

余所者が勝手に割り込むわけにはいかない。

ただでさえ、火星軍は月や地球の上層部と仲が悪いのだ。この辺りは企業の利害関係も関わってくるが。

重厚な隔壁をくぐり、イツキはユートピアコロニー第七番シェルターと名付けられた場所に入れられる。

ある程度人が入ると、重武装した兵士達が入り口付近に立つ。

(物々しい装備…、嘘、AKRTT−60!?対艦用大型ライフルじゃない………!)

明日香インダストリーの開発したこのライフルは、偏流さえなければ、二十キロ先にいる人間の頭を吹っ飛ばすという威力を持つ。

グリマルディ条約によって、対人使用は当然のこと、平時における装備が禁止されている曰くつきの銃である。

これを持ち出したということは、既にそこまでの状況を想定しているということだろう。

(避難が終了しない内の火星侵攻……軍は、そこまで事態を重く見ているの…?)



避難してきた人々の視線が一斉に兵士達へと向けられる。

五人いる内から、指揮官らしい一人が一歩前に出る。

視線は、自然とその一人に集まった。

「これより、状況の説明をします。皆さん、落ち着いて聞いてください」

「その前に、一つ聞かせておくれ」

不安の色がありありと感じられる声でそう言ったのは、兵士の近くにいた老婆だった。

見覚えがある。

近所に住む、アリアおばさんだ。

確か、彼女の孫は。

「おばあさん、質問は後で聞きます。今は、状況の説明の方が先ですので」

「あ、あぁ。分かった、後でちゃんと答えておくれ」

渋々ながらも引き下がったのは、決して断られたからだけではないだろう。

答えを聞きたくなかったのかもしれない。

彼女の孫は、そう、確か第三艦隊に属する艦の艦長だったはずだ。

大出世だって、パーティーに招かれた記憶がある。

六年。

艦長という要職の者が異動するには―――――。


「本日、火星標準時午前七時二十分。火星軍第三艦隊は正体不明の敵艦隊と交戦を開始。十分前………全滅を確認」



ああっ…と、アリアおばさんが泣き崩れた。傍らにいた男性がそれを慰める。

それをわざと視界からはずしてその兵士は続ける。

(でも………なんで全滅するまで撤退しなかったの…)

それは、軍人であるイツキにとって当たり前すぎる思考。

この時はまだ知らない。

相手が、そんなことを許すような感情を備えた“物”達ではないということに。

「あと約一時間で第一次防衛ラインと接触することが予想される。

 住民の皆様は、避難用のシャトルの準備が整い次第、第三宙港からシャトルで火星を脱出。

 地球、もしくは月に到着次第避難民登録がされます。……現在は、以上です。何か、質問は」

ぱらぱらと手が上がる。

兵士はその内の一人、黒髪の男に視線を合わせ、どうぞ、と言った。

「いつになるんだ、シャトルの準備ができるのは」

「……現在大至急準備中です」

「だからそれはいつになるんだと聞いている!」

あまりにマニュアル的過ぎる対応に、思わず男は声を荒げる。

「……現在準備中です」

「くそっ」

男はこれ以上聞いても無駄と判断したのか、床に拳を叩きつける。

兵士は、次の質問にもただ淡々と答えた。






「イツキ…ちょっと変よぉ……」

それまで一言も喋らなかった母が、小声でイツキに話しかけてきた。

「何が?」

「もう二時間だってのに、まだシャトルが準備できないなんて……」

警報が発令されてから、二時間弱。

確かに、おかしい。

民間のシャトルも、この非常時なら接収できる。

管理政府所有のものも合わせて、順次火星から脱出できるだけの数はあるはずだ。

なら、何故未だにそれが始まらない?

二時間という時間は整備には不十分かもしれない。

けれど、民間機ならすぐにでも発つ事ができる機があるはずだ。

それとも、全機用意できるまで待っているのか?

それもおかしい。

これほど事態を重く見ている政府、そして軍が、そんな手間の掛かる事をするだろうか。


周囲は、何も起こらない時間がただただ過ぎている所為か、幾分落ち着きを取り戻している。

結局杞憂だった。あるいは、そんな希望を抱いているのかもしれない。

微かながらも笑顔を浮かべて談笑する者たちもいる。



「ちょっと……聞いてくる」

「イツキ」

立ち上がろうとしたその時、イツキはカイトに呼び止められる。

「……何?」

カイトは、逡巡し、

「…………なんでもない」

とだけ言った。

「…大丈夫だよ。軍はつまらない縄張り争いが好きだから。戦いに駆り出されたりしないって」

「そっか」

こんなときだというのに、ほやんとした表情でカイトは笑顔を浮かべた。

思わず見惚れる。

「じゃ、じゃあ…ちょっと行ってくる」









「すみません」

入り口に待機している兵士にイツキは問いかけた。

「トイレなら、あっちだが」

「違います。聞きたいことがあって」

「状況説明なら、あと一時間待て」

「待てません。それに、“正確”な情報は教えてくれないでしょう?」

「何を言って……」

そう、おかしい。

何よりもおかしいのは、この兵士達の顔。

何故そんなに張り詰めた表情をしているのか。

百戦錬磨と音にまで聞こえる火星軍。

その彼らが、何をこれほど恐れるのか。

彼らは、強い。

それはこの火星に来るまでにも実感したことだ。

海賊共が横行する宙域。たった一機の民間シャトルが通るだけで二隻の戦艦が護衛をしていた。

そして実際に彼らの役目はあった。

護衛艦が傍を離れる宇宙コロニーの存在する宙域、そこでイツキの乗るシャトルは襲われた。

対応は極めて迅速なものだった。

離脱していた戦艦は直ぐに舞い戻って、機動兵器部隊を投入。海賊を拿捕。

見事な手際だった。

その彼らが、何故。

イツキは兵士の顔を真正面に見据えながら、そして識章を見せてもう一度問う。

兵士の表情が変わった。

「月面軍……軍人が、居たとはな」

月との往復距離を考えれば、相当珍しい。

イツキだって、上官に何度も何度も切願してようやくこの長期休暇が叶ったのだ。

「………ここはレオス隊長が指揮を執っている。隊長に聞いてくれ。俺じゃあ、話していいのか判断が付かない。

 この通路の先に指揮所が仮設置されてる。そこにいるはずだ」

「ありがとう」

その兵士の指差した方向に、イツキは歩き出す。

「だが……聞かないほうが、俺はいいと思うがね」

「その判断は、私がします」

迷いは無かった。










「レオス隊長はいらっしゃるか」

軍隊口調でテントの入り口を警護している兵士に問いかけた。

テントとはいっても、シェルター内部であるために周りからの視線を隠すといった程度の意味でしかない。

兵士はイツキが私服であるために訝しがる。

それでも、雰囲気から軍人だということを感じ取ったのだろうか。対応は、事務的なものだった。

「所属と名前を言え」

「月面軍第七艦隊所属デランドルコロニー、一〇八駐屯部隊カザマイツキ伍長。現在は休暇中。レオス隊長に会いたい。できるか?」

「識章を」

持っている識章を渡す。

リーダーでIDを確認すると、兵士は敬礼して一歩引いた。

「少し待て」

兵士はそう言って中に入った。

ものの一分で再び現れる。

「許可が出た。入れ」

「はっ」






「はじめましてカザマ伍長。これでもいろいろ忙しい身でね。用件は手短に頼むよ」

レオス隊長は、黒髪に白髪交じりで、体格もそれほどではない。

所謂デスクワーク系の風貌だった。

けれど身に纏う気配は先程の鍛えられた兵士と変わらないどころか、その上をいっているように感じる。

伊達に隊長をしているわけではないということだろう。

「ああそうそう。それから、さっきテントの前でしたような堅苦しい話し方は止めてくれないか。君は私の部下ではないのだから」

「…分かりました。聞きたいことは一つだけです。現在の正確な戦況を聞かせてください」

「……それを知ってどうするのかな。吹聴でも、するかね?」

レオスは、穏やかな表情でそう言った。

例え実際にそういう行動に出ても止める気は無いかのように。

「それは聞いてから判断します」

そのセリフを、イツキは後悔した。







「な、なんですって………!?」

イツキは愕然とした。

あまりに、これは。

「事実だよ。シャトルは民間機公有機問わず今火星にあるシャトルの全てが何者かの手による工作で事実上航行不可能となっている。

 現在は明日香、スノーフレーク、MSL、軍総出で修理に当たっているが…最低でもあと四十時間はかかる。

 最初のシャトルの準備が整うまでに四十時間、だ。火星に住む人々全員を避難させるまで実際どれだけかかるか…。

 最終防衛ラインが破られ、この火星が戦場になるのもそう先のことじゃない。まず間違いなく、避難が未完の内だろう。

 敵に関しての情報はほとんど無い。せいぜい木星の方からやってきたということ。

 そして規模は、確認されているだけでも約百万。もっとも、母艦らしきものがあるからこれはあまり当てにはできないな」

「そんな……」

そういえば妙に兵士が少ない。

この指揮所とて、入り口の兵士は一人。

おそらくこの部隊からも人員が駆り出されているのだろう。

「まあ、一年前ほどから彼らの存在は確認していたんだがね。今回のような本格的な侵攻は初めてだ」

「どういうことですか!?知っていたのなら、何か対応策を…」

その言葉を聞いた途端レオスの柔和な表情は消え、一転して厳しいものとなる。

まるで、そう、何かを恨んでいるかのようにイツキには感じられた。

「何ができるというんだね。この、火星で。住民を総避難させる?この火星に一体どれだけの人々が住んでいると思っている。

 火星管理政府が許可したとしても月と地球の政府がまともに取り合うかね?謎のエイリアンが攻めてきそうだという不確かな

 情報で一体どうやって説得する。避難民として登録されるためには、様々な条項を満たさなければいけないんだよ。

 連合軍に助けを求める?ああ、それぐらい我々も考えたさ。一年前から連合軍とは何度も折衝を行ってきた。

 渋々ながら四ヶ月前にようやく五個艦隊を派遣してきた。だが…………。

 実際戦闘が始まってみればどうだ!?やつら、第三艦隊があっさり負けたと分かるといきなり逃げ出した!

 我々は何も戦ってくれと言ってくれるんじゃない!ただ火星の人々を連れて避難してくれるだけでよかったんだ!

 分かるか!?火星は!地球と月に、同じ人間に見捨てられたんだ!!!」



火星軍は、イツキが考えているよりもずっと優秀だったのだ。

孤軍奮闘といえば格好良いかもしれないが、助けが期待できないこの状況で負け戦をしなければいけない。

死ね、と言われたも同然だ。

そんな中、彼らは臆することも無く、逃げることも無く、ただ人々を守るために。

(これが……火星軍)

強いはずだ。

いつかの、自分が生まれた病院の事件を聞いた時のことを思い出す。

彼らもまた、立派に戦ったと聞いている。


「………正直に言おう。私は君を殴りたい」

それはレオスにとっての精一杯の意思表示だっただろう。

火星を見捨てた月と地球。けれど、隊長としてここで取り乱すわけにはいかない。

強く強く握り締めた拳は、解かれる気配は無かった。

「…………失礼、します……。情報、ありがとうございました……」

イツキには、何も言えなかった。












先程通った道のりを逆に辿る。

表情もまた、逆になっていた。

母とカイトに問い詰められたら、自分はこれを黙っていられるだろうか。

……分からない。

火星軍がわざわざ第三艦隊が負けたという情報を流したのは、危機感を伝え、かつこの絶望的な状況を伝えないためだったのだろう。

軍機だの何だの言っている時ではない。

敵は、直ぐそこに来ている。







「イツキ、お帰り」

「うん、ただいま」

おかしな会話だった。ここは家ではないのに。

けれどそんなカイトの気遣いが今のイツキには嬉しかった。例によって天然なのだろうけど。

「どうだったのぉ、イツキ」

「ぜんぜん駄目。何も教えてくれなかったよ」

こう言う以外に、イツキには答えようがなかった。











昼食夕食と、味気ない保存食品が続く。

イツキにはまるで美味しく感じられなかったが、カイトと両親は『これはこれで』だそうだ。

……どうにも疎外感を感じてしまう。味覚というものはこんなにも変わるものなのだろうか。

時間は夜になっても、光の無いこの空間では実感が湧かない。

眠気が無いわけではないだろうけど不安な気持ちは拭い切れないのか、いつもの就寝時間にイツキが眠るまで

ほとんど眠る人はいなかった。一応、子供は素直に寝ていたが。

朝。

またも味気ない食事。



そして、それは遂に来た。





ズズン………




低い震動が、微かに体を伝う。

「来た」

未だにユートピアコロニーのこのシェルターに移動命令は出ていない。

シャトルが用意されているのは、三つのコロニー共用の宙港。

ここからリニアなら十分の距離だが、もうこうなってはリニアを使用するのは厳しいだろう。

おそらく軍用トレーラーを使うはずだ。



ズズン………



先程よりもやや強い振動。

一度目で気付かなかった人も、今度は気付いた。人々の顔に、不安の色が浮かぶ。

(私は…………ここで、何してるんだろ)

イツキが軍に入ったのは人々の安らかな生活を守りたいから。

だというのに、今、ここで、この状況で、軍人である自分が一体何をしているのか。

何故、自分がここで守られる側になっているのか。

ギュ…

地に付けた手を誰かが握る。

隣を見れば、少しだけ頭がぼさぼさになったカイトだった。

疲れの色が若干見えていたが、いつものその笑顔だけは変わらない。

そういえば、縛った紐はどうしたのだろうと視線を彷徨わせると、ポケットから少しだけはみでているのが見えた。

何となく嬉しくて、ニコリとイツキも微笑み返す。

けれど、いつものようにイツキの心の迷いは消え去ることは無かった。




ドオン……



地中深くに作られたこのシェルターにも、段々と激しくなる戦闘の様子が分かる。

初めは断続的だった震動も、今では何分かに一回は伝わってくるようになった。

入り口付近に待機している兵士は、頻りにどこかと通信しているようだ。

もう、我慢の限界だった。

決心したイツキは、勢いよく立ち上がって入り口に向かう。

「イツキッ」

恋人の声にも、振り向かなかった。



「イツキッ!」

通路に出るとがしっと腕を掴まれ静止させられる。

「放してカイト。私は行かなくちゃならないの」

「ここは月じゃないよ、火星だ。なんでイツキが戦闘に行く必要があるの」

やはり、この恋人には全てお見通しらしい。

「…ごめん。だけど、もう我慢できない。私が行ったところで何か変わるわけじゃないけど、でも、一人でも多くの人を救いたい。

 私は、そのために軍に入ったんだから。今、ここで戦わなくちゃ絶対後悔する。だから、お願い」

「駄目だ。イツキに行かせるわけには行かない」

「…どうしてっ」

「僕だってイツキを守りたいんだ!そりゃ、僕には何の力も無いけど、でも一緒にいていざという時身代わりになるぐらいはできる!」

パシンッ

通路に乾いた音が響いた。

イツキは思わず振り上げた右手を見る。

一瞬そんなことをした自分に驚くが、カイトの言葉をようやく飲み込めたイツキはカイトを睨む。

「私はっ…!そんなことされたって嬉しくない!力がある無いじゃなくて、私はカイトを、そして皆が助けたいだけ!

 私自身を身代わりにしたいなんて思わない!カイトのは残された人が、誰よりも私が悲しいんだよ!?」

そこまで一気に喋ると、イツキは一息ついた。

ふと気がつくと、視界が涙で滲んでいる。

泣いて……いたのだろうか、自分が。

「………だから、もうそんな悲しいこと言わないでよ」

「っ………だから、だからって!」

「……ごめん」




「分かった………」

「!ありが―――」

「ただしっ!」

イツキの言葉をカイトが遮る。

その表情は、イツキの知っているいつものカイトとは違っていた。

過去に一度だけ見たことがある、本気で喧嘩したときの、あの表情だ。

「僕は、イツキが迎えに来るまでこのシェルターで待ってる」

「……!?なっ、どうして、避難警報が出てるのよ!?いずれシャトルで火星を脱出しないと!」

「分かってる。そんなことは分かってる。でも、ここから脱出できたとしても絶対に安全だというわけじゃないんでしょ?」

その言葉に、イツキはハッと息を呑んだ。

カイトの言う通りなのだ。

この火星から脱出できたとしても、それは一時凌ぎに過ぎない。

この火星と月、地球を結ぶ航路には各所にステーションやコロニーが建造されている。

この火星から最初に辿り着く、直ぐ先にあるコロニーでシャトルから惑星間航行用の長距離旅客機に乗り換える。

大気圏突破機と惑星間航行機を分けたほうが、寿命が延び、結果的に安上がりになるからだ。

そのコロニーが落されたなら―――。

火星軍は、今必死にそのコロニーを防衛していることだろう。

しかし、世の中に絶対は有り得ない。

尚且つ、そのコロニーに辿り着くまでに敵が襲ってこない根拠はないし、それはコロニーを発った後でも同様だ。

敵が、火星を落しただけで満足すると、一体誰が断言できよう。


けれど、ここにいるよりはずっと生存率が高い。

カイトの言うことは間違っている。

「…分かった。もう勝手にして。私はもう行くから」

「何だよそれ。迎えに来ないつもり」

「行ってあげるわよ!恋人ですからね!」




その言葉を最期に――――――彼らは独りとなった。






互いに互いを思う余り、互いにすれ違う。

分かりすぎてしまうからこそ、彼らはそうなった。


カイトは誰よりもイツキのことを信頼していた。

だからこそ、自分がイツキのことを信頼しているという証を見せたかった。

彼女を自分自身よりも深く愛するが故に。


イツキは誰よりもカイトのことが愛しかった。

だからこそ、自分がカイトのことを愛しているという誇りと自信を持って戦うことができた。

彼の笑顔を何ものよりも美しいと思うが故に。

















昨日訪ねた指揮所に着くと、その慌しさに驚く。

二十人程度が皆重戦闘武装をしていた。

中には見慣れない火器も多々ある。

白兵戦で、このシェルターを守る……ということは、戦艦ではない、人のサイズに近い兵器を敵は所有しているということだろうか。

イツキはとりあえず見知っているレオスに近づいた。

「レオス隊長!」

「君は昨日の…一体何の用だ?もう戦闘は始まっている。“一般人”はシェルターに避難していたまえ」

明らかに含みのあるその声にも、イツキは怯まない。

昨日とは違う、今は、戦わねばならない。

指揮所が地上に近い所為か、戦闘音はより激しく聞こえる。

「私も軍人の端くれです。一緒に戦わせてください」

「…所属は、確か駐屯基地だったな。なら、銃の扱いは分かるな」

「はい」

今は迷っている暇も無いのか、一瞬戸惑いの表情をのぞかせたが直ぐにイツキを戦力と見なした。

指揮官としては有能な部分だろう。


「レオス隊長!外の部隊から通信です!」

その時、一人の通信兵がレオスを呼んだ。

「貸せっ!」

「はっ」


「ああ……一機なんだな?分かった、丁度こっちに一人余りがいる。何?…月のやつだ。……今はそんなこと言っている

 場合じゃないだろう。ああ、確か、ネルガルのEプロトのテストケース部隊だ。フライトナーズが指導したんだ、腕は確かだろう。

 ………STDFはどうせ使えないんだ、問題ない。分かった、すぐ向かわせる」


月、という単語が出たところで自分のことを話しているのだと気づいた。

おそらくパイロットが負傷したため機動兵器―――火星のは、確かユーコミスといったか―――に余りが出たのだろう。

まさか、こんなところで機動兵器に乗るとは思わなかった。

「イツキ伍長っ」

「はっ」

「聞いていたと思うが、このシェルターの資材搬入入口を守っている部隊でパイロットが負傷したらしい。

 機体はまだ動ける状態らしいから、今すぐA3エリアに向かってくれ」

「了解」

断る理由は、無い。








軍用バイクでシェルターの通路を駆ける。

このユートピアコロニーは全部で八つの区画に分けられ、端から端まで約二十キロほど離れている。

A3は、ほぼ一番シェルターに近い搬入路で、このシェルター建造時に使用された場所らしい。

大型の作業用機械を搬入するために、他の入り口よりも大きいのが特徴で、それ故に進入されやすい。

どうやら、既にこのシェルターのすぐ傍にまで敵は来ている様だ。


「……あれか!」

通路の壁にもたれかかる様に白い人型機動兵器が倒れていた。

その傍らでは、兵士らしき男がファーストエイドキットで自分の手当てをしている。

遠目ではまだよく見えないが、どうやら腹部をやられたらしい。

「大丈夫ですかっ!?」

「お前は………一般人が何故ここに、ん、ああ、もしかしてお前がイツキ伍長か…」

「はい。それで傷の方は」

近くで見ると、その傷の深さがよく分かる。

培養皮膚の上から包帯を当てているようだが、白い包帯は見る見るうちに赤く染まっていく。

左腕も折れているのか、動きが不自然だ。

これでは、ファーストエイド程度では足りない。

「この深さでは…」

「助からんなぁ、間違いなく。まあ…いいさ、どうせ安い命だしな。それより、こいつの説明を軽くさせてくれ。

 これでも、五年来の愛機でね。大事に扱ってくれよ」

男から、このユーコミスの操作方法を聞く。

基本的なインターフェースはイツキ達が使っていたタイプと変わらないらしく、すぐに使えそうだった。

「それから、STDFっていう電磁フィールドの親戚みてえのがあるんだが、欠点は電磁フィールドと変わらなくてね。

 ここじゃ周りに及ぼす影響がでか過ぎて使えない。注意してくれよ。

 あと、SSINは…いや、これは周りがやるからどうでもいいか……げふっ、げっがぁ……」

突然蹲り、吐血する。

傷は内臓にまで至っているらしい。

「それから…それからな、これが最後だ。上で戦ってる部隊の指揮をしてるのが、レミル中尉って言ってな、俺の妹なんだわ。

 俺よか階級上なんだけどよ。あいつに、伝言頼めるか」

「それぐらいなら」

自分で言え、とは言わない。

肉親の死というものは、動揺を生む。

もう、長くないこの男が、自分の妹とはいえ死に際を見せたくないのだろう。

「負けたら容赦しねえ、ってな。よろしく頼む」

「分かりました。必ず伝えます」




イツキはユーコミスに乗り込むと、外部カメラを男の方に向けた。

相当酷いようだ。顔は青ざめて、脂汗をかいている。

『あの…』

「っなんだ、イツキ伍長」

『貴方の名前を、教えてくれませんか』

「けっ、生意気な姉ちゃんだな。ボイル。ボイル・フォートナーだ。ほら、これで満足だろ、さっさと行け!」

腹部を押さえながら急かすように叫ぶボイルに、イツキは素直に従う。

もう、限界が近いということか。



イツキは、黙ってユーコミスを起動させる。

若干コンソール周りの配置が違っていたが、すぐに記憶連合野に叩き込む。

システム起動。エネルギーエリア圏内感度良好、脚部腕部頭部アサルトピットまとめて駆動系もオールオッケイ。

通信感度も良し、装備確認、意味不明の単語があったがこの際無視。

動く。

パイロットスーツを着ていない所為か、モーターの微かな音と震動を体に感じつつ、イツキはユーコミスを立ち上げる。

外部マイクは破損、けれど問題ない。

IFSの恩恵よろしくイツキはイメージをユーコミスに伝える。

電子回路は忠実にその命令を実行し、気を付けの格好で踵を鳴らす。

その音は少々大きかったようで、ボイルは苦笑いしていた。

右手を頭部に当て、イツキはボイルに敬礼した。

ボイルも、自身から止めどなく流れ出る血で真紅に染まった右腕で、同様に敬礼する。

立つことはもうできないのか、壁に寄りかかったまま。

ボイルの階級は知らないが、そんなことは関係ない。

今、ここで、彼はイツキにとって尊敬すべき英雄だった。

言葉はない。

語る必要などなかった。


(イツキ…カザマイツキ…か。もしかして………)


彼の腕が、力なく垂れ下がるのを見届けて―――――イツキは急速反転して階上に向かった。








まさにそこは戦場だった。

入り口間際に陣取ったユーコミスは、通路内にいるものが支援、外にも多くのユーコミスが敵を撃破していた。

ズガガガガガガガガガガ!

ドンッ!ドガッ!

『レミル中尉!』

『ウン?あんたがイツキ伍長?始めまして、レミル・フォートナーよ。この部隊の指揮をしているわっとぉ、うりゃあ!!!』

ヒュン………ドオオオオオン!

飛び掛ってきた黄色い塊をグレネードで撃ち落す。

『ちょっと忙しいんだけどねっ、手短に状況を説明させてもらうわ!現在このシェルターを襲撃してる敵の数はあと二百三十!

 黄色いのと赤いの二種類、黄色いのが体ん中ミサイル詰まってるから気をつけて!あんたは後方支援!

 ライフルで確実に撃ち落しなぁ!味方に当てんじゃないよ!』

手近にある大型工作機械を倒し、バリケードにする。

厚さ三十センチはありそうな入り口の隔壁はどうやって吹っ飛んだのか、敵影の向こうに見えた。

味方機は二十四。まだまだ余裕があるように見受けられる。

しかし、いつまでここを守ればいいのか。

とりあえず。

『レミル中尉!』

『何!?』

『中尉の兄から伝言です!負けたら容赦しねえ、だそうです!』

『あんの馬鹿兄貴が生意気な口叩いちゃってえ!私を一回でも負かしてみろってんだ、ま、とりあえずありがとね!』

レミルはそう言い放つと、白色のユーコミスをかっ飛ばし敵陣に突っ込んだ。

自殺行為―――とイツキが思ったのも束の間、飛び掛った三十体程の黄色いのや赤いのが一斉に吹き飛んだ。

私に勝とうなんざ百年早い!とでも言うかのように火星式侮蔑のジェスチャーをかます。

通じていないだろうけど。

ドンッ!ドンッ!ドンッ!

イツキは正確無比な狙いで丸っこい金属の塊共を確実に撃ち落す。

それにしてもこの部隊は…いや、火星軍の機動兵器部隊は皆こうなのだろうか?とにかく、自分とは操縦の腕が一線を駕していた。

このユーコミスに乗ったとき、レスポンスの良さに驚いた。

ネルガルのほうが後発であるにもかかわらず、機動兵器の性能は雲泥の差だ。

これに乗っているのなら、強いのも当然…などと思った自分が浅はかだった。





『ハア、とりあえず粗方片付いたわね。オールター准尉、戦況は?』

『司令部からは特に命令の変更はありません。SSINは未だ稼働率三十パーセントのまま推移』

『あ〜もうっ!あのゴキブリ女!肝心なときにいないんだから!』

機体のチェックをしながらも、レミルは毒づく。

よくは分からないが、そのゴキブリ女、とレミルが称する人物がいないとSSINとやらの本領が発揮できないのだろう。

『隊長ぉ〜、そんなこと言ってるとまぁた何かやられますよ?この間も耐久訓練やらされたばかりでしょうや。

 俺ぁもう勘弁してください。七十二時間もピットに入ってると汗っ臭くて適いません』

『何言ってんの、あと二十時間は楽勝って言ってたのはどこのどいつよ』

なんだか恐ろしい会話が聞こえる。

(七十二時間…!?この中で?本気ですか?)

『隊長こそあと三十時間は楽勝って………?レーダーに反応!前方三千七百、プラス百二十!団体さんのお着きです!』

『いくらでも来なさいっ!各員、補給は終わってるわね!?迎撃用意…………ってーーーーーーー!』

レミルの掛け声でフルファイヤをする。

火線は赤く綺麗な弧を描き、遠方に見える黒点に降りかかる。

ズガァァァァァァァァァァッ!!!

『…………やめ!さあ、弾数節約エコロジー!白兵戦でお出迎えよ!丁重にもてなして上げなさい!』

『了解!』

部隊全員の声が揃った。






戦闘は続く。終わることなく。

イツキが戦線に入ってから、既に三十時間が経過した。

このユートピアコロニーにも、二桁に上る数のトレーラーが行き来し、シェルターにいる人の大半が宙港へと向かった。

戦線は、ぎりぎりのラインで保たれている。

レミル中尉以下二十四機中、十九機が火星の大地に散った。

物資も着実に底を突きつつある。

限界は近い。

『…………戦況は?………………オ、…コモナ曹長』

『…司令部通信途絶。以後の指揮は第一艦隊旗艦プラタナスが引き継ぎました。SSINは五十パーセントを割ってます。

 依然下降中、回復の見込みはありません。それから……………………先程、オールターが息を引き取りました』

『…………そう。ありがとう。引き続き警戒に当たって。SSINもいつまでも持つわけじゃないから』

『了解』

誰もが疲れていた。

イツキは、連続する戦闘と、短い時間とはいえ共に戦った仲間の死に心身ともに疲労困憊だった。

辛い。

今、シェルターに残った人々を見捨てて逃げることができたら、どんなに楽なことだろう。

そんな甘い誘惑さえ、心の闇から滲み出て来る。

通路から見える空には、音無く開く死の花々。



謎の敵。

彼らは、一体何の目的でこの火星に侵攻してきたのだろう。

ちょっと前に月で見たムービーで、こんな話があった。

突如襲来するエイリアン。

逃げ惑う人々。

出動する軍。

初めはその手のもののお約束として、圧倒的な技術力の差で人類はやられる。

けれど、一人の勇敢な兵士が、敵の弱点を見つけ出し、一斉に反撃に移るのだ。

あれよあれよという間にエイリアンを倒し、死んだと思っていたヒロインも実は生きていた。

そして最後はハッピーエンド。

……滑稽だ。その監督は、まさか本当に謎のエイリアンが攻めてくるなど夢にも思っていなかったことだろう。

そして、現実などこんなものだ。

敵に弱点など無い。仮にあったとしても、見つけられないのでは意味が無い。

たかだか現場の兵士ごときが、なんだって敵の弱点など判別できよう。

死傷者はもう数え上げるのも嫌になる程に増えている。

この部隊だって、イツキを含めあと六人しか残っていない。

シェルター内に侵入してきた敵を迎え撃ったレオス隊長の部隊も、もうまともに戦えるものは三割もいないらしい。

ここが落されるのも時間の問題だ。

シェルターの全避難民が宙港に移送されるのが先か、ここを守る軍が駆逐されるのが先か。



『イツキ伍長』

俯きながら、少しでも体力の回復を計っていたイツキに語りかける者がいた。

『……何ですか、レミル中尉』

『大分お疲れみたいねぇ、まあ、無理もないか。月じゃあ、こんなに長時間戦闘するなんて無かったでしょ?』

『まだ、いけますよ』

嘘だ。

イツキの体は、そう叫んでいた。

レミルの言う通り、訓練でも実践でも三十時間もの戦闘をしたことなどない。

『あはは…強気ね。そういうの、好きよ。でもさ、恋人と二人っきりのときぐらいちゃんと甘えるんだよ?』

『……うえ!?え!は、はい!?な、何言ってんですか!!!』

『あら〜ん、やっぱりいるんだ。こ・い・び・と。どんな子?カッコイイ?年下?年上?同い年?どこに住んでるの?』

畳み掛けるように質問を投げかけるレミルにイツキは慌てる。

『隊長〜、伍長殿が困ってますよ。それくらいにしておいたらどうですか』

オープン回線で開いていたレミルとイツキの会話に、コモナが混ざってくる。

『何よコモナ。あんただって知りたいでしょぉ、もう私たち若くないんだしさ。楽しみなんて若い子の恋愛話くらいよ』

『なんですか若くないって。私はまだ二十九ですよ、隊長とは違います!』

『何言ってんだいコモナ、君だってあと三ヶ月もすりゃ隊長のお仲間だろう?』

『あんですってコウヘイ!?言っていいことと悪いことの区別ぐらいつくお年頃よねえ?』

『ほ〜う、コモナ、コウヘイ、あんた達も言うようになったんじゃない?まるで私が売れ残りみたいに聞こえるんだけど』

底冷えするようなレミルの声に、コモナとカジは互いに言い合いをピタリと止める。

『ま、ま、ま。三人ともそのくらいで止めてくださいよ。あとでお小言言われるの絶対僕なんですからぁ』

『我肯定。ケニーの言う通りだ。隊長、そこら辺でやめないとケニーがまた神経性胃炎で入院しますぜ』

『ケニーが入院するなんていっつものこっとじゃ〜ん』

『酷いよぉ〜コモナ!神経性胃炎ってさ、すご〜く辛いんだからね!?』


『あのぉ………皆さん?』

一人取り残されたイツキに、今度は集中砲火が浴びせられる。

『ね!?ね!?酷いですね!?そうお思いになりませんか!?』

『ケニーの言うことなんていちいち真に受けてたらきりがないよ』

『ケニー君も大変だなぁ』

『我黙したり。こういうときゃ関わらないのが一番だ』

『あんた達!全員黙れーーーーーーーーーーーーー!!!』

全員黙った。

『まったく騒がしい奴らばっかなんだから…。でもま、イツキ伍長、こんなやつらだけど、あんたの心配してるんだよ?

 もちろん……わたしもね』

『私の心配…?』

『そうそう。辛気臭い顔しちゃってもう。見てるこっちまで辛気臭くなるわ。大方、彼氏と喧嘩でもしてたんでしょ』

『………』

『ふう………もう十年以上前かしら。私がまだレオス隊長の下だった頃の話よ』

前振りもなく語りだしたレミルに、イツキは訝しむ。

一体、何を言いたいのだろうか。

『ある時、人身売買組織が病院を狙ってるっていう情報が入ってね。急いで駆けつけたら、丁度組織が病院を襲撃しているところだった。

 私たちはすぐにそいつらと交戦し始めた。幸い、ろくな武装もしてなかったんですぐに片がついたわ。

 けれど、一人の赤ん坊が行方不明なことに気付いてね。捕まえた連中を尋問したら、一人が赤ん坊連れて逃げたって言うのよ。

 私たちはすぐにそいつを追ったわ。なんとかトンズラされる前に追い詰めたんだけど、そいつがいきなり赤ん坊を殺すって

 言い出してね。持久戦になったわ。一瞬の隙を突いて、どうにか取り押さえたんだけど、赤ん坊が資材の下敷きになりかけた。

 もう無我夢中でその赤ん坊を抱きしめて何とかこの子だけでもって…。

 奇跡、って言っちゃうと安っぽい感じになっちゃうんだけどさ。私は本気でそう思った。

 なんとまあ私のところだけ運良く資材が落ちてこなかったんだから。

 結局組織の襲撃の所為で登録データがパァ。多くの子供が施設に引き取られたわ。

 私はその子の名前も知ることなく任務を終えた。それから……何年経ったんだけかな。

 私が助けた赤ん坊が、無事両親と再会できたって情報部から通達がきてね。

 あいつらそういうことだけは熱の入りようが違うんだから……。

 それから、何度かこっそりとその子を見に行った。幸せそうだったよ。

 ある時、いつも一緒にいた男の子とな〜んか雰囲気が変わってるのに気付いたわ。ぴぴ〜んときたね。

 ああ、恋人になったんだって。

 自分の子供ってわけでもないのに、なんか嬉しいような悲しいようなそんな気分になったわ。不思議なものね。

 そして………』

『………その子は、連合軍に入隊し月面軍となった』

レミルは何も答えなかった。

イツキは胸が締め付けられるような思いだった。

こんなにも。

こんなにも自分は周りの人々から愛されて育った。

なのに、自分はその愛に気づくことなく、今はこうしてカイトとすれ違ったまま。

申し訳が立たない。自分はとことん馬鹿だ。

『………隊長、レーダーに反応。奴らです。もう………こちらの武器はほとんどありませんよ?』

暗く、重い声。

さっきまでの陽気さは、自分達を奮い立たせるための芝居だ。

実際には、仲間も次々と死んでいるこの状況で疲れない訳がなかった。

『わかってる。兄貴の“遺言”はきちんと守らないとねぇ。さあ、行くよ!』

『『『『『了解!』』』』』

けれど、負けるわけにはいかない。

イツキは、強い思いを心の内に秘めた。










『隊長!来ました!あのトレーラーで全員収容完了です!』

『イヤッホウ!長かったわね!さあ皆、こいつら蹴散らしたらあのトレーラーの護衛にあたるよ!』

『『『『『了解!』』』』』

最後のトレーラーが火星の整備されていない大地を走る。

その脇を、宙港からの護衛を含め十機のユーコミスが守る。

幾度となく無人兵器の襲撃を受けるが、既に弾切れしたライフルやマシンガンを惜しげもなく振り回して撃退した。

設計者はきっと泣いているだろう。


宙港に着くと、大急ぎでトレーラーに乗せている人々を降ろして、シャトルが準備されている滑走路へと急がせる。

宙港も悲惨なものだった。

あちこちに戦闘の痕が見られ、残っている滑走路は一本だけだった。

その時、イツキの視界の隅に見慣れた姿が映る。

あれは……。

「母さん!父さん!」

ハッチを開けて呼び掛ける。二人とも、慌てた様子で何か探しているようだった。

嫌な、予感がする。

「あぁ!イツキ!無事だったのね!良かったわ!ねえ、トレーラーはあれで最後なの!?もう無いの!?」

「ええ!もう全員こっちに来たはずよ!」

「そんなはずないわ!カイト君後から行くって、私たち先に来て、さっきのトレーラーに乗ってなかったのよ!?」

「――――――――――――――――――――――――――――――え?」

その後も母が何か言っていたが―――イツキの耳には入らなかった。

まさか。

本気で。

私を、待っていたというのか―――?

悪いことは重なるものだと、イツキはこの時そう実感した。

そんなもの、洒落にもならない。

カイトが、一人であのシェルターに?

中で誘導していた奴は一体何をしていたのか!

ふと、イツキは突然自分の体が影に遮られるのを感じた。

いや、これは、自分だけではなく、この辺り一帯……。

バッ!

勢いよくイツキは上を見上げた。

間違いない。あれだ。

まるで馬鹿でかい植物の種のような。

『イツキ伍長!まずいわ!なんかデカブツがまっすぐこの宙港に落下してきてる!落下まであと一分!』

そんなこといわれても、このユーコミスで一体何ができるのか。

特攻をかけたところで、あの大きさではビクともしないだろう。

今この付近に戦艦はいない。手段は無い。このまま……死ぬのだろうか?



死ぬ。


それもいいかもしれない。

カイトの言葉を、最後の最後で信じなかった自分の罰だ。

これで全てが終わる、そう思ったときだった。



白を基調カラーとしたユーコミスで、その黒は異様だった。

東の空から、それは現れた。

ユーコミスの身の丈を超える長身ライフルを構えたそれは。

見たことの無い兵器だ。サイズそのものはグレネードに似ているが、形が違う。

その黒いユーコミスは、砲身を空から落ちてくる巨大な物体へと照準を合わせる。

まさか、あれで撃ち落せるというだろうか。

『フライトナーズ………の隊長機……!?』

レミルのそんな呟きが、妙に耳に残った。


ドンッ!

相当離れているにもかかわらず、その重たく低い一撃はイツキ達にまで聞こえた。

一発の大きな砲弾は、そのまま巨大な種へと突き進んだ。

グシャァ!!!

砲弾が巨大な種の右側面に当たり、金属の拉げる嫌な音が、辺りに響く。

駄目か。

誰もがそう思ったその時だった。












グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!









まるで巨大な獣が力の限り叫んだようなその異様な音は、黒い奇妙な空間を形成されたのと同時に現れた。

『何、あれ……?』

レミルが知らないものを、イツキが知るはずも無い。

黒い空間は、そのままの位置で巨大化していく。

そして、そのまま巨大な種をその黒い空間の中へと飲み込み、滅茶苦茶に丸めながらも弾き出した。

戦艦ほどはあろうかというその巨大な種は、宙港の上空から逸れていく。

その先は。

「やめて……」


落ちて行く。

「やめて………!」


まるで狙い澄ましたかのように、引き寄せられるかのように、そこへ落ちて行く。

「やめてぇ…………!!!」






ユートピアコロニー、それも、第七番シェルターの直上に。








「やめてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!」









目の前が白い光で埋め尽くされる。

光が収まったとき、その先に“あった”ユートピアコロニーは、クレーターを残してそのほとんどを消失させていた。

イツキは、ほとんど無意識にユーコミスのハッチを閉じてユートピアコロニーに向かった。

『ちょ、ちょっとイツキ伍長!?単独行動は危険よ!』

誰もイツキのことは止められなかった。


















カラン……

シェルターの建材の欠片が、イツキの足に当たり真下に落ちて行く。

熱気の立ち込める中、イツキはただ呆然と立ち尽くしていた。

敵がどうしただの、そんなことは頭に無かった。

ただ、目の前の現実が。

見覚えのあるその髪紐を手に持った、瓦礫の下から覗く腕だけのそれが。

「何で…?」

嗚咽交じりにイツキはそう呟く。

後悔しても、しきれない。

せっかく仲直りしようと思ったのに。

「何でよぉ……カイト………カイト……カイト…カイト、カイトォ…………ねえ、もう一度、笑ってよ。

 お願い、私、カイトがいないと、駄目なんだよ………ねえ、カイト…………」


「カイトオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

泣き叫ぶ。

涙で鼻水で顔はグチャグチャになるが、もうそんなことは構わなかった。

ただ、カイトが生きていればそれでよかった。

なによりも、ただそれだけを。




『もうすぐ敵が来る。今すぐここから逃げろ』

直感的に、振り向かずともそれが誰なのか分かった。

フライトナーズとか言う、機動兵器の腕前は一級品の戦闘集団。その、隊長。

それがどうした。

それが、今この状況で何をしてくれる?

「何で……ユートピアコロニーなんですか?あんな強力な兵器があったんなら、最初から使ってれば良かったじゃないですか。

 何故っ、何故っ、何でなのよぉ!……あ、う、あ、うあわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



















そこから先は、よく覚えていない。

ただ、気付いたときにはイツキはシャトルに乗っていて、火星から脱出していた。

復讐を誓った。

彼を、必ず殺すと。

彼にしてみればいい迷惑だろう。彼だって、必死だったのだろうから。

けれど、イツキにも譲れない。


そんなイツキの思いは、フライトナーズの隊長機が撃破されたという話を聞いて、行方を失った。

神様とやらがいるのなら、一度殴ってやりたい気分だ。

何故決心した先から失わねばならないのだろう。

そう、彼女の両親も。


呆気ないものだった。

たった一機乗るシャトルが違っただけで、こうなってしまうのか。

敵に一瞬の隙を突かれ、シャトルは爆発炎上したそうだ。

逃げ出す暇さえなかったらしい。

もう、なにかもがどうでもよくなった。

慰めるレミルの言葉も、イツキの心には届かなかった。





































こうして、第一次火星会戦は火星軍の敗退により終結した。

この後彼ら―――木星蜥蜴は電光石火の如く月にまで攻め入る。

事前に火星軍の敗退を知った連合軍は、木星蜥蜴の約五十倍という途方も無い戦力によって退ける。

そして第一次火星会戦から一年後。

ネルガルがその技術の粋を結集した新造戦艦、ナデシコは地球を発ち火星を目指す。

その道中、月で。

彼と彼女は、再び因縁の再会となった。

彼女は気付かなかった。

彼は気付いた。

ただ、それだけのこと。

そう、たった……それだけのこと。















後書き

藍染児:し、死ぬ…長い、長すぎる……!

ミズキ:長いわね。最長記録更新おめでとう。

藍:うう…辛かったぁ。何せ過去話だから二話に分けると間が空きすぎちゃうと思ってね…。

ミ:うんうん。突っ込みどころも多いしね。イツキちゃんの両親の仕事とかタキさんって何してる人?とか。
  いくらでもでてくるわよ〜。

藍:うわああああ!!!!

ミ:もう技術的なことから設定的なことまで、突っ込みどころ満載。サービス?
  あら何故だかこんなところに箱が。中にはお葉書こんなに沢山。じゃ、質問その一。

藍:え、なに本気ですか!っていうか葉書ってなんだよ!?そんなもん募集した覚えは無いぞ!

ミ:え〜なになに。

藍:相変わらず無視ですか!



<突っ込みどころ満載の第二十二話補足説明>

>STDF?

何かカッコ良さ気な名前してますが、要するにディストーションフィールドのことです。
Space-Time Distortion Feildの頭文字を取ったものです。実際こういう風に略すかは知りませんが。
まあ、略語なんて結構無理やりなものが多いですし、いいですよね?


>SSINとはどんな意味?

これまたカッコ良さ気で…って私の偏見ですか?
Super-wide area Strategic Intelligence Networkの頭文字を取ったもので、超広域戦略情報網と訳します。
兵士達が今自分がどういう状況に置かれているのかを一目瞭然にしたり、敵の侵入予測経路を表示したり
敵個体個体に識別番号を割り振ったりといろいろ便利なシステムです。火星全域をカバー。


>MSLって?

火星の民間航宙会社です。Mars Space Lineとでも思っていただければ。Mars Universe Lineの方がよかったかな?
あんまり詳しく決めてないので気にしないでください。
ちなみに月から火星まで一番安いプランで三十代の平均収入十一ヶ月分。地球からだとほぼ一年分になります。
イツキは頑張ってこつこつ溜めてたんでしょう。


>エステバリスって八百キログラムぐらいじゃなかった?

ナデシコに搭載された最新型エステバリスが八百キログラム弱です。各フレーム装備時によって若干前後しますが。
この話に出てくる人型機動兵器はまだプロトタイプで、フレームに金属素材を使用していた、というオリジナル設定です。
また、ナデシコに搭載されているものより結構独立稼働時間が長いのも特徴(環境によって左右される)です。
プロトタイプが開発されてから、構成素材やエネルギー周りなどを徹底的に見直し、ナデシコに搭載された型が最新型。
イツキが初登場時から乗っていた(コロニー編で壊れたやつ)のは、その一代前の型です。
フレームの素材とディストーションフィールドが装備されていない点が最新型とは異なります。
どうにもTV版ナデシコを見ていると、ヒカルが、あたし達のが最新型だって聞いてた、とかそれっぽいことを言ってますので
確実に数代前まで存在していたはずです。


>識章ってなんですか?

軍人の身分証明書みたいなものです。ID化されているので専用のリーダーで読み取れば持ち主の素性が一発で分かります。
何で休暇中に持っているの?とか、識章って服についてるワッペンみたいな奴じゃないの?
とかそういういうのは気にしちゃいけません。


>軍隊で六ヶ月も休暇取れるんですか?

それを言ってしまうと大前提が総崩れですので気にしないでください。


>フライトナーズの隊長が使った兵器って何ですか?

あれですか?いや、まあ、アレです。アレの元です。
コロニー編でイツキが気付かなかったのは、気絶していて実際に見て(聞いて)いなかったからです。


>で、アイちゃんはどうなったんですか?

気にしたら駄目なんです。たぶん、いやきっと立派に旅立ったことでしょう。


>結局誰が死んだんですか?

名前がついている人で死んだと明記しているのは二人。回りくどい言い方も混ぜるなら三人。
両親混ぜたら五人。部隊の方々混ぜたら二十三!?火星会戦で犠牲になった方々数えたらキリがありません。
第三艦隊って何人いるんでしょうねぇ。あ〜、アリアおばさんのお孫さんを混ぜたら二十四ですか?
………え、まさか、カウントされませんよね?一話だけの登場で?一気に三人も?
え、もしかしてマジですか?外○大王なんて名誉極まりない称号なんて私いりませんですよ?うわああああ……!


>突っ込みどころが多すぎます。もっとしていいですか?

ごめんなさい。もう許して。




代理人の感想

ふぅん…………欲しいの?(爆)



は、置いといて。(笑)



やー、面白かったですねぇ。

後書きで突っ込みどころがどうのこうの言っていますが、

ンなこたどうでもいいんですよ、面白ければ(笑)。

世の人は色々言いますが、私にとって物語の絶対的基準はただ一つ。

面白いかそうでないか

ただこれあるのみです。

そしてこの作品は面白いと、私はそう断言しましょう。

よって、話の筋とは関係ない書割に突っ込みをいれるような不粋な真似は致しません(笑)。