時の流れに after story
『ダブル』とは関係ありません。
どこかで何かが切れた音がした。
「なあ、三姫。何かが切れたような音がしなかったか?」
慌てて隣にいる三姫に確認する。
「私も聞いた。………クッ」
三姫がたまらず足を踏ん張っているが俺も似たような体勢だ。
しかし、凄まじい闘気だ、いやこれは鬼気か。
こんな気を発せられるのはこの世の中に2人しかいない。
究極の武人。伝説上にしかなかった口伝を最初に発現した2人。
しかし、その内の1人はこの艦にはいない。
そう、俺が拾得したテンカワ流の師範テンカワ=アキトその人しかいないのだ。
凄まじいばかりの気だね、これは。
あの北辰とか言う奴、いったい何を言ったんだろうね。
あのテンカワくんがここまで凄まじい気を発するなんて。
鍛錬の時にどれだけ押さえていたのかがよく分かる。
時々、北斗君と2人だけで行っていた鍛錬の時ですら押さえてやっていたんだろうね、この状態からすると。
そんなことを考えている僕の目の前にコミュニケが開いた。
「アカツキさん、そちらはどうです?」
「あれ?ルリくん、ひょっとして今動いてる?背景がいろいろな方向に流れてるんだけど」
ブリッジにいるルリくんによって開かれたコミュニケは背景が動いてルリくんが動いていることを示していた。
「ええ、今北辰の部下5人がブリッジを強襲しまして、睨み合いが続いていたのですが先ほどのアキトさんの気に触発される形で
奴らが仕掛けてきたんですよ」
「フーン、で?今、ルリくんは何人を相手に戦ってるんだい?」
「2人ですよアカツキさん。ほかはユリカさんが1人、ジュンさんが2人です」
「プロスくんとゴートくんは?」
「あの2人は私たちに前線を任せて、他のクルーの守りをしています」
「じゃあ、1人も倒さなかったら減俸だって伝えてもらえるかな?それと、こっちはテンカワくんがこの状態になってから動きがないよ」
「分かりました」
コミュニケを閉じるとテンカワくんの方を見てみる。
あ!北辰の部下が僕の方を睨んでる。格納庫には僕らの他には誰もいない。
タカスギくんは三姫くんと支え合って立ってるし、枝織くんは何気なく立っている。
他の優華部隊の面々はまだシャトルの中。仮に外にいたとしても、同じ木連の人間では人質としての効果は薄い。
となると……僕しかいないのか。
この皆が気合いを入れて立ってなければならない状況下でコミュニケを開いていられる人間なんて2通りしかいないのにさ。
それはこの鬼気を感じない人間か受け流す人間か。
ちなみに僕は後者だ。枝織くんは前者になるのかな。僕がテンカワ流で学んだのは体術なんだね。
それに、僕独自の柳の心を合わせて、その状態が自然体になるように鍛錬したのさ。
そんなことの鍛錬をしていたから僕の実力はテンカワくんはおろか師範代であるルリくんにも遠く及ばない。
しかし、手合わせをしてみるとそこそこやれるんだよね、これが。
お!仕掛けてきたかな?
北辰の部下Aが小太刀を片手に斬りかかってくる。
この構え、背格好から判断するにテンカワくんが言っていた『烈風』とかいう名前だったかな。
って僕も結構冷静だね。
此奴は確か木連式抜刀術の使い手だったよね!
しまった!奴がアカツキさんに向かうのは充分推測できることだった。
北辰がテンカワさんに係り切りになっている今、一人きりになった奴が俺と三姫に襲いかかるわけがない。
それでなくても先刻、俺達の連係攻撃で北辰が吹き飛んだばかりなのだ。
しかし、隙をついたとはいえあそこまできれいに決まるとは。
テンカワさんと北斗殿の連携を真似しただけなんだがな。
あの構え、奴が烈風か!過去の世界において月臣さんに襲いかかり木連式柔であっさり返された奴。
なら心配することもないかな。
なんて俺が考えていると、アカツキさんが烈風の小太刀を右手の甲で捌き左手のアッパーカットをきめた。
あ〜あ、ありゃ30分は動けないぞ。俺は見逃さなかった。
アッパーカットを決めたアカツキさんの拳が紫銀に輝いていたのを。
「おい、サブロウタ。何を惚けていると?彼奴、アカツキにかなわないとこっちに来るかもしれんとよ」
「三姫。見逃したのか?アカツキさんの拳が紫銀に輝いていたのを」
「え?でもアカツキは昂気を使えんかったはずばい」
「そう!昂気が使えなかったから師範代になれなかった。しかし、ネルガルの会長から逃げるために火星に来た人だぜ?
元々、責任のある役職が嫌いな人だからね。そんな人が昂気を纏って望んで師範代になると思うか?」
「思えんばい。しかし、私が見逃したものをよく見れたとね」
「俺のことを見くびってないか?昂気が使えなくて師範代になれなかったとはいえ、動体視力は流派ナンバー3だぜ?
しかし、さっきの連係攻撃うまく決まったな」
「あの2人の連携を真似しただけばい。次に何かあったらオリジナルの連携を決めるとよ」
「ああ、そうだな」
足に気合いを入れながら上半身は馴れ合う。俺達もすっかりナデシコクルーだな。って俺はかなり以前からだけど。
「遅い!遅すぎる」
アキトの奴を驚かしてやろうと思ってサツキミドリに残っていた0G戦用エステに乗って待っているのにあいつは何をやっているんだ?
そんな俺の目の前に通信の画面が開いた。どうやらこれが地球側で使われているコミュニケとかいうものらしい。
画面に映ったのは俺とまったく同じ背格好。
「どうした?枝織、緊急時以外連絡するなと言ってあったはずだぞ」
「でも、北ちゃん、その緊急事態なの。北辰が強襲してきたの」
枝織が奴のことを北辰と呼んだ。つまり最早奴のことを父親として認識しない状態になったということだ。
枝織の前で例の笛でも使ったか?
裏切られた思いが決別に繋がったか。
しかし今はそんなことを考えているほどの暇はない。
「枝織!迎えを待っている時間はない。このエステバリスはマニュアル操縦が出来るタイプのようだ。
今からそちらに向かう。艦長に伝えておけ」
それだけ言うと、俺は通信を切った。
俺達と優華部隊がこの時代に跳んだとき最も驚いたことがこの枝織との分離だった。
飛厘の話によると、俺が女であるということを部分的に受け入れたことが一因にあるらしいが、詳しいことは知らん。
俺は俺だ。
エステバリスの操縦方法はアキトに教えてもらって完全にマスターしてある。
俺のエステがサツキミドリの中で動き出した。
プロスさんとゴートさんの加勢もあって(無くても出来ましたが、悲しいですねサラリーマンは…いや、マジで)私たちが
北辰の部下を取り押さえたところに枝織さんが入ってこられました。
「コロニーからエステバリスが接近してきても撃たないでね?敵じゃないから」
それだけ言うと、唖然としている私たちを残して、ブリッジを出て行かれました。
私はぼろ布(数分前までは敵でしたが)の後処理をプロスさんに任せ、定位置であるオペレーター席に着きました。
が、どうせこの背格好なら艦長席がよかったかな、なんて考えてもみます。
その時、
『サツキミドリからエステバリス1機接近中だよ』
オモイカネがウィンドウを開きました。
「艦長、エステバリスが接近しています。先ほど枝織さんがいってたエステバリスだと思われます」
艦長が席に着きました。
「ルリちゃん!エステバリスに通信送って。前部格納庫は都合により使用不可。後部格納庫に回るように」
私は艦長の指示をそのまま伝えました。相手がウィンドウ通信にプロテクトをかけているので一方的な通信ですが。
よほど顔を見られたくない人なんですね。でも、いったい誰なんでしょうか。
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まだ終わらない
それにリョーコ以下パイロット3人娘がまったく出ていない。
実はこの回が書きたくて書き始めたのがこのお話。