時の流れに after story
 
『ダブル』とは関係ありません。
 
6機の『夜天光』。そしてそこから聞こえてきた声は・・・。
 
『…『クククッ、我らのうち一人を倒したくらいでいい気になっていたのか?テンカワ=アキト』…』
北辰が6人、そこに確かに居る。しかし何かがおかしい。
顔を見た瞬間はどす黒い感情に押しつぶされそうになったが言葉を聞いているうちにその感情は収まっていく。
リンクで解るラピスも落ち着いている。
(ラピス。あの北辰を見てどう思う?)
(べつに?今更、北辰が出てきても、ブーステッド北辰でもない限り、怖くもないよ。それに、あの北辰、左目も黒いからね)
そこだ!北辰を忌避する俺達にとって北辰とは『左目の赤い爬虫類顔』なのだ。
しかし、今目の前にいるのは顔は爬虫類顔だが、両目が黒いのだ。
クローンにしろ影武者にしろ俺達を混乱に陥れるつもりだったのだろうが。
「各艦!これだけ北辰が居るということは他にもいる可能性がある。侵入者に注意しろよ!」
『アキトさん、その忠告、ちょっと遅かったみたいです。更に北辰タイプが7人ブリッジに直接侵入してきました』
「ん?北辰タイプって何だい?ルリちゃん」
『左目が赤いのがオリジナルとして、黒いのを北辰タイプと呼ぶことにしました』
「そう。あっ、ルリちゃん今回の戦闘は許可できないからね」
『解りました、アキトさん。で?今回の戦闘レベルは?』
「そうだねぇ、前回はレベルSで楽勝だったから、今回はレベルAでいってみようか」
『アキトがレベルAなら、こっちはレベルRだ』
北斗が会話に割り込んできた。
「だってさ。ブリッジクルーに伝えてくれ」
『解りましたアキトさん、こちらはおよそ5分間援護が出来ないと思いますので気を付けて下さいね?』
「了解」
 
会話が終わるのを待っていたかのように6機の『夜天光』が襲い掛かってくる。が遅い。
欠伸が出るくらいに遅い。俺一人で南雲を含めた7機を翻弄している。
しかし、他の面々はそうも言っていられないようだ。
ナデシコBはリョーコちゃんが文字通り獅子奮迅の大活躍。
セレスは隊長機を除いた殆どが既に被弾して帰艦。
ナデシコCの面々は無傷ながら他の方面の分をフォローするために大わらわ。
『ダリア』2機が流星のように戦場を駆け回っているが敵は後から後からジャンプアウトしてくる。
 
とその時
レッドガンメタルとでも言えばいいのか非常に微妙な色をした1機の機動兵器が敵機の後を追うようにジャンプアウトし、敵機を蹴散らしていくのが目に入った。
「あ!あれは!」
『まさか・・・瑪瑙・・・なのか?』
俺の声に反応したのは北斗だけだった。
そう、火星にいた中でも数人しか知らない瑪瑙の存在。
戦後に解ったことだった。草壁の命令でヤマサキが実行した極秘計画。
『戦神』と『羅刹』の子供。
そう、瑪瑙は俺と北斗の子供だ。
しかも、瑪瑙の外見は15歳程度だ。そして、その目は金色。
遺伝子を操作されたマシンチャイルドなのだ。
草壁の計画から考えれば手元にマシンチャイルドが必要だったのだろう。事実、ラピスもその被害者だ。
瑪瑙は俺と北斗で助け出したとき、案の定とでも言えばいいのか感情が欠落した状態だった。
それがなんとか日常生活が送れるくらいになり、高杉 三重(みえ)の子守が出来るようになっていたのに、今回の時間逆行に巻き込まれ当然消えてしまったものと思っていた。
しかし、此処に出てきたということは・・・。
『父上、母上、遅くなりました。このテンカワ瑪瑙、お詫びといっては何ですが此処にいる無人兵器全て殲滅します』
瑪瑙は何処で覚えたのかひどく古風なしゃべり方を好む。普通の時や他人が居ない時は結構砕けた口調で喋るのだが、戦場ではこの口調になる。
しかも、瑪瑙の膝の上には高杉 三重ちゃん(4歳、女の子)が座っていた。
瑪瑙の愛機『ディアス』はブローディア2号機と呼んでもいい機体だ。
当然、その性能は折紙付きだし、瑪瑙自身の戦闘能力は草壁の目論見通り俺や北斗に匹敵する。
 
瑪瑙の参戦はパワーバランスを大きく変えるものだった。
宣言通り無人兵器を一掃した瑪瑙と北斗、枝織ちゃんが俺の横に付く。
戦闘型テンカワファミリーは伊達じゃない。
まして俺一人でも翻弄できる相手となれば・・・瑪瑙の参戦から15分後、全エステバリスが所属艦に帰艦した。
 
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高杉 三重
 高杉夫妻の長女。
 名前の由来は日本の地名ではなく両親の名前に『三が重なっている』から。
 現在?4歳であるが両親の英才教育の賜物なのか、各闘技が得意。
 当然、両親同様、B級ジャンパー
 
テンカワ瑪瑙
 ヤマサキによって作られたアキトと北斗の子供。
 マシンチャイルド。名付けの親はホシノ=ルリ。
 格闘能力は両親に匹敵するほど。昂気の色はレッドガンメタル。
 
 瑪瑙の存在を知っているのはアキトと北斗の他には高杉夫妻とルリ、ラピスのMCコンビのみ。
 
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「皆様、大多数の方はお初にお目にかかります。テンカワ瑪瑙と申します。
 木連側で作られましたが私の親はそこにいるテンカワ=アキトと影護 北斗です。
 両親の手によって助け出された後は火星で暮らしていましたから火星にいらした方とは面識があります」
予備機を退かしたところに愛機『ディアス』を置いた瑪瑙は三重ちゃんを抱いて降りてきた。
当の三重ちゃんは瑪瑙から離れ、両親の元に駆け寄って再会を喜んでいた。
「瑪瑙、どうやって此処までジャンプしたんだ?」
俺にはそれが一番の疑問だった。
「此処まで・・・と言われましても、私達は2隻がジャンプしたところから直接此処にジャンプした訳なのですが・・・」
「そうなのか?・・・ま、それは置いておくとしても、よく来たな、瑪瑙が居てくれれば戦力は激増だな!」
「いえ、父上達と違って、私には実戦経験がありませんので、暫くは足を引っ張ることにもなりかねないと思うのですが・・・」
瑪瑙は謙虚だ。この謙虚さはいったい誰からの遺伝なのだろうか。
「いやいや、瑪瑙の実力がナデシコC部隊に加わってくれれば、テンカワさんと北斗殿がこれまで以上に動けるようになる。
 これで、俺達は戦力倍増だよ!」
「サブロウタおじさま!」
瑪瑙はそう言うなり、サブロウタに飛びかかった。
瑪瑙にとっては挨拶代わりなのだろうが、当のサブロウタが本気で受けなければならないくらいの組み手だ。
これを毎日のようにやっていれば、サブロウタも直に昂気が使えるようになるだろう。
「ところで、瑪瑙、お前部屋はどうする?」
サブロウタも結構余裕がありそうだ。瑪瑙の蹴りを受け流しながらそんなことを口に出した。
瑪瑙は素早くサブロウタの元から俺の元に走り寄ってきた。
「父上、今は母上とは別の部屋なのですか?」
その問いに俺が反応するより早く、北斗が答えた。
「そうだな、俺と枝織が分離したから、今の俺の同居人は枝織だ。
 ナデシコの部屋は基本的には2人が限度だからな。
 ・・・ん?そう言えば、アキト。お前今一人部屋だったよな?」
まさか北斗がこんな爆弾発言をするとは思わなかったが・・・。
「そうなのですか?では私は父上と同じ部屋が良いのですが」
瑪瑙の発言も尤もだ。そしてプロスさんは
「よろしいんじゃないですか?」
簡潔に言い残し、格納庫から出ていってしまった。
「さあて、自己紹介も一段落したし、それに戦闘の後だ。風呂にでも入って、その後食堂で歓迎会にしようか」
アカツキの発言で瑪瑙を含めたパイロット全員が共同浴場に向かった。
 
私が母上につづいてお風呂場に入ろうとするのをリョーコさんに止められました。
「おい!瑪瑙、お前はあっちだろ?」
リョーコさんの指し示す方向は男湯です。
・・・心外です。
表情の変化に乏しいと言われる私ですが、父上と母上は寂しそうな私の表情に助け船を出してくれました。
「リョーコちゃん、瑪瑙がどう見えたのかは知らないけど、こいつは女の子だよ」
父上が私の髪に手を入れてクシャクシャッとしながら言ってくれました。
誰もいないところでされるのは好きなのですが、人前では少し恥ずかしいです。
私のキャラクターが崩れてしまうじゃないですか。
そんな父上の言葉は、事情を知らなかったパイロットの方々に大きな混乱を呼びました。
「で〜!?マジかよ?」
「うっそ〜!」
そんなごく普通の驚きの声から、
「よかった〜。こんな美男子がいたら、こっちは大変だったよ」
なんて言うよくわからない声まで。
尤も、そんな発言をした方は直後に傍にいた女の人に何処へともなく連れていかれましたが。

「てぇことは何か?アキトはこれから女性と同じ部屋になるってことなのか?」
ガイの奴、みんなが驚きのあまり忘れていたことを蒸し返すなよ。
その瞬間、俺の周囲が凍り付いたかのように寒くなった。
女性陣からの視線が怖い。
「な、何言ってるんだガイ。それに瑪瑙は俺の実子なんだし」
「ん?それもそうか」
ガイが単純なだけかと思ったが、みんなもそれなりに単純だったようだ。女性陣からの視線が穏やかになった。
その後、俺達は1時間以上も風呂に入ったあげく、2時間以上も待たされて浴場を後にした。
 
アキトの部屋改、アキトと瑪瑙の部屋
 
部屋に入り、ドアが閉じた瞬間、瑪瑙が抱きついてきた。
「パパァ、瑪瑙寂しかったの。
 本当はね、最初何処か知らないけど無人兵器がいっぱいいるところに出ちゃったの。で、無人兵器がチューリップに入っていくのを見て、
 それにくっついてチューリップに入っていったら此処に出たの」
流石に慣れたとはいえ、この変化は何なのか。
戦闘に赴くときの瑪瑙は凛々しい男装の美少女である。
それが一度、プライヴェート空間にはいると・・・こうなってしまうのである。
しかも、北斗のような二重人格ではない。
「瑪瑙、いつものことだがこの変化、いい加減どうにかしないか?」
「瑪瑙もどうにかしたいんだけど、一種の癖みたいなものなのかな?それに、瑪瑙はこっちの方が好きなんだけど、こっちのままで戦闘に出たら、みんなが混乱しちゃうでしょ?」
この変化は本当に知る者が少ない。俺と北斗の2人しか知らない。最も瑪瑙と過ごしている時間の長い高杉三重ちゃんですら知らないはずである。
さては北斗の奴、この変化が苦手だったから・・・逃げたな。
瑪瑙はそれだけ言うと、俺に抱きついたまま眠ってしまった。
そして俺は部屋から出るに出れなくなってしまったのだ。
歓迎会は順延だな。
 
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オリジナルメカ
『ディアス』
 ブローディア2号機
 専用AI『アス』(今回未登場)によって制御される。
 カラーリングは瑪瑙の昂気の色レッドガンメタル。
 性能はブローディア比0.8(流石にそのままでは扱えないらしい)
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<あとがき<>
未来に跳んでしまったナデシコに更にキャラクターが2人、合流しました。