2196年10月
俺が先行量産型エステのコックピットから降りると、プロスさんが待っていた。
「テンカワさんの場合はいろいろやっておいていただかないとならないことがありますので
急な話で悪いんですが・・・明日、乗艦していただけませんか?」
「それはまた、ずいぶんと急な話ですね?
パイロットの乗艦まで1週間以上あるという話だったのでまだ何の準備もしていないんですよ?」
分かっていたことではあるが、一応苦情を訴えてみた。
「テンカワさんの私物はこちらで責任を持って送り届けさせていただきますので、
なんとか先に乗り込んでいただけないでしょうか?」
「分かってますよ、プロスさん。ちょっと言ってみたかっただけです。
荷物の準備もできてます。まぁ荷物と言っても、調理道具一式と簡単な着替えぐらいしかありませんし」
「なんだ、そうなんですか?
いやぁテンカワさんも人が悪い。では、頼みますよ!」
そう言ってプロスさんは去っていった。
「明日かぁ、ガイの奴、元気にしてるかなぁ」
俺は1回目の時と同じようにアイちゃんと出会い、彼女を巻き込む形でジャンプした。
ブローディアはみんなと一緒に地球に送ってあったし。
そして、地球に来た後は部隊の誰とも連絡をとらずに(極楽トンボは除く)ネルガルでテストパイロットをしていた。
そんな俺だったから、スキャパレリプロジェクトの話も真っ先に来た。
今現在、ナデシコには整備班が乗り込んでいる他は、ルリちゃんとミナトさんしか居ないそうだ。
後のクルーは明日。パイロットは1週間後の予定。
計画ではその後、ある程度の研修を行って、火星に向かう。
だが俺は知っている。それが計画にすぎないことを。
ネルガル重工試験場内個人所有格納庫
「ディア、出番が来たようだぞ?」
『待ち遠しかったよ、アキト兄。明日は大暴れして良いんだよね?』
「ブロスもいないんだし、多分囮役を命じられるんだから大暴れは出来ないぞ?
それにガイもいるだろうしな」
『ガイさんかぁ、結局アキト兄は周りがどんなに否定してもガイって呼ぶんだねェ』
「ガイは親友だからね」
そんな話をしながら俺は格納庫に備え付けられた仮眠室で寝た。
機動戦艦ナデシコ『時の流れに』after another
『Dream』第1話 前編
翌日
早朝、ブローディアを乗せたトラックで俺は実験場を後にした。
サセボ基地までなど今更ナビゲーションも必要ないのだが、
何故か取り付けられている。
ちなみに、ナビゲーターはディアだ。
道中は何事もなく(ラピスからのリンクでの呼びかけはあったが)無事にナデシコに到着した。
「3度目のナデシコ乗艦か・・・」
俺が感慨に耽っているとプロスさんが近づいてきた。
「早かったですね、テンカワさん」
「何が起きるか分かりませんからね。
ある程度時間の余裕を持って行動するのは基本ですよ」
「そうですね。
それでは、完成前からここに出入りしていたテンカワさんには今更艦内の案内は不要でしょうからブリッジに参りましょうか?」
「そうしますか」
歩き出した俺達が、キャットウォークに差し掛かったときだった。
「こんにちわ、プロスさん。」
案の定、ルリちゃんから声がかかった。
ルリちゃんの表情はどことなく不安そうだ。
だから俺は、動いた。
「久しぶりだね、ルリちゃん」
表情が劇的に変化した。
「アキトさん、アキトさん、アキトさん、アキトさん、アキトさん」
俺に抱きついたまま、泣き出してしまった。
「おや?テンカワさんはルリさんとお知り合いだったんですか?」
「ええ、そうなんですよ、プロスさん」
「そうですか。積もる話もあるでしょうから私は失礼しますよ」
そう言って、プロスさんは歩いていってしまった。
「アキトさん、アキトさん、アキトさん、アキトさん、アキトさん」
そう言って泣き続けているルリちゃんに俺は声をかけた。
「ルリちゃん、俺は今ここにいる」
頭のいいルリちゃんにはこの一言で充分だった。
それでも俺から離れようとしないルリちゃんをなんとか離して、肩の上に担ぎ上げた。
丁度オモイカネの中を進んだときと同じ体勢だ。
「ア、アキトさん、何するんですか?突然」
ルリちゃんの抗議の声は敢えて無視した。
「ルリちゃんに合わせて歩くと、ブリッジまで時間がかかっちゃうからね。
それともルリちゃんはイヤだった?」
火星においてアカツキに『女殺し』と言われた笑みをしながら言ってみた。
「そ、そんなことないですけど、突然で驚いただけです」
予想通りルリちゃんは真っ赤になって答えた。
「じゃあ、良いよね?・・・そろそろ、行こうか?」
俺達がブリッジに向かおうとしたところでそれは起こった。
「ガァァァイ、スウゥゥパアァァ・・・ナッパァァァ!!」
そう叫んだ片足立ちのエステバリスは当然のように倒れた。
「フッ、ガイの奴、変わってないな〜」
俺はため息と共に言った。
「アキトさん、ここは過去なんですよ?ヤマダさんが違っていたらその方が変ですよ?」
「まあ、本来はそうなんだけど・・・ね?」
歴史通り、ガイはコックピットから飛び出してきた。
グキッ
結構大きな音が格納庫に響いた。
「おい、パイロットの乗艦は1週間後のハズじゃなかったのか?」
セイヤさんがガイに声をかけた。
「いやぁ、久々にエステに乗れるってんで嬉しくなって気ちまいましたよ」
そんなガイに近づく女性がいた。
「ガイ、久しぶりだな。格納庫でエステが動いてるって言うから来てみれば・・・やっぱりか。
それより、足、大丈夫か?」
「ぃよう!万葉じゃないか。なんだ?お前も乗るのかこの艦?」
「私だけではないぞ。一応、副操舵士としてだが千紗も乗っているぞ?
それに1週間後にはヒカル、リョーコ、イズミにカザマが合流の予定だそうだ」
「そうなのか・・・イテテテテ、やっぱり足挫いたかな?万葉、肩貸してもらって良いか?」
「まったく、しょうがない奴だな。ほらよ」
ガイが万葉ちゃんに肩を貸してもらいながら歩いていく。
が、ふと何かを思いだしたように振り返り、
「そうだ、コックピットに大事なもん忘れて来ちまった。
お〜い、そ・・・・・・・・」
歴史通り「そこの少年」と叫びたかったのだろうガイの視線が俺に固定されたまま、
ガイと万葉ちゃんの顔が驚きに満たされていく。
「どうした?ガイ、万葉ちゃん、たった一年顔を合わせなかったぐらいで俺の顔を忘れちまったのか?」
俺は少し悪戯を込めて2人の表情に返した。
「・・・アキト、テメェ、アキトだな?
生きてたんなら生きてたで連絡ぐらいよこしやがれ!!」
「隊長!ガイの言うとおりですよ!!」
2人の叫びに今度はルリちゃんが目を丸くした。
「アキトさん、ヤマダさんや御剣さんと知り合いだったんですか?」
「・・・ああ、その話は後でするよ。それより今は、ルリちゃん敵が来る。ブリッジに戻るんだ」
真面目モードでルリちゃんを肩から降ろしながらそう言った。
「・・・ちょっと名残惜しいですけど、わかりました。
今のアキトさんが飛蝗如きに遅れをとるとは思えませんが気を付けて下さいね?」
ルリちゃんがブリッジへ向かうのを見届けてから俺は格納庫に降り立った。
「久しぶりだな、ガイ、万葉ちゃん」
2人からの返事は俺の両側から迫ってくる拳だった。
ドゴオオオォォォン
外に木連軍のバッタ・ジョロの混成部隊による攻撃が始まったようだ。
「な、何だぁ、この音はぁ!?」
「まさか、隊長?」
ガイと万葉ちゃんが声を上げた。
「ガイ、万葉ちゃん!医務室かブリッジに行くんだ。
これはおそらく・・・いや、間違いなく木星蜥蜴の攻撃だ。
この戦艦の相転移エンジンの微かな反応を嗅ぎ付けられたんだろう」
「おぅ、分かったぜ、アキト」
「隊長、ブリッジには司令が副提督として乗り込んでいます。
時間があれば挨拶くらいして上げてください。あの人もそれなりに心配してましたから」
2人が格納庫から出るより早く、俺は愛機『ブローディア』の元に歩いていった。
「さあ、出撃だ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<あとがき>というか中書き
ルリ :・・・・・・・・・・・・(赤)。
アキト:どうしたの?ルリちゃん。
ルリ :いえ、こちらのアキトは随分違うなぁと思いまして。
アキト:まあ、いろいろやってきてるみたいだしね。
ルリ :そうなんですか?
アキト:作者から貰った資料によると、既に3人ほどイイヒトがいるらしい。
ルリ :(怒)なんなんです?それは。
アキト:いや、資料によると、だから詳しいことは分からないんだけど。
ルリ :・・・今、プロローグを読み返してみたんですが
既にリョーコさんとアリサさんをおとされているようですね?(怒)
アキト:そうみたいなんだよね。でも、後1人って誰なんだろうね?
ルリ :ま、新たな疑問が出てきたところで後編に続きます。
アキト:え?これってあとがきじゃなかったの?