連合議会に通達することもなく、ただひたすら強引にビッグバリアを突破してしまったナデシコ。

艦長に昇格したジュンがデルフィニウムで襲い掛かるはずもなく、アキトのことを思い出してもいないユリカが来るはずもなく、

ナデシコはネルガル所有のコロニー、サツキミドリ２号に向かって航行していた。

『Ｄｒｅａｍ』第３話　水色宇宙に『ときめき』の再会

サツキミドリ２号パイロット待機室

ここには私を含めて４人のパイロットがいます。

でも、私を含めて３人はやる気無しと言った感じでただ此処に居るだけです。

約１年前、ここに来たばかりの頃は私達はその容姿のせいもあって声を掛けられることが多かったんですが、

私とリョーコさんには一年前の面影はありません。

髪はボサボサ、全く手入れしていない髪は枝毛だらけ。

また同様に手入れしていない肌は１８歳という年齢には見えないほどに荒れてしまっています。

ヒカルさんの個室には以前は書きかけの同人誌が沢山あったのに、今はヤマダさんからの手紙で溢れかえっています。

あっ、気が付いたらイズミさんがいませんでした。

パタパタパタパタっ

ガアーーー

「ヒカル、リョーコ、イツキ」

イズミの奴が部屋に入るなり、そう言った。

「何だよ？うるせぇな」

「３人とも、すぐに散髪に行ってきなさい！」

「なんでですか？そんなもの此処に居る限り必要ないじゃないですか？

　戦艦が来たところで・・・必要とは思えません」

イズミに応えてイツキが言う。

「フフフフフッ、この映像を見てもそんなこと言ってられるかしら？」

そう言ったイズミが出した映像を見て・・・オレ達は固まった。

雲霞の如く佐世保ドックに襲い掛かるジョロやバッタ。

そのド真ん中には火星の部隊にいたときの同僚機、支援型エステバリスだった。

２機、つまり各務と御剣が居るということだ。

それはオレにとって関係ないことだ。

しかし、ヒカルの奴は部屋を出ていった。

ライバルにみっともない格好は見せられないのだろう。

オレとイツキはそのまま映像を見続けていた。

遠くに離れていたチューリップ付近の映像がズームアップした瞬間、オレ達は再度、固まった。

たった１機の黒い機動兵器によって破壊されるチューリップ。

パーソナルカラーが黒で、単独でチューリップを破壊できる機動兵器など地球圏にはオレの知る限り１機しかいない。

ガアーーー

オレが振り返ると、イツキが駆けだしていくのが見えた。

当然、オレもその後に続く。

「イツキ、抜け駆けすんなよ！」

「リョーコならすぐに来ると思ってましたから」

オレ達は少し前を先行するヒカルを追い抜かす勢いで散髪所へ急いだ。

ナデシコ

「アキトさん、このまま行くと後２日ほどでサツキミドリ２号に着くわけですが、どうします？」

ルリちゃんがブリッジに２人だけになったときに話しかけてきた。

「そうだね。リョーコちゃん達に穏便に乗艦して貰うためにも、何か策を取らないとね。

　・・・ルリちゃん、サツキミドリに警報を鳴らせるようなウィルスって作れるかい？」

俺は出来ることがわかっていたが、聞いてみた。

「ええ、出来ますよ。この手の悪戯はよくハーリー君とやりましたから」

クスクスと笑いながら、そう答えるルリちゃん。

「・・・お陰でラピスの実力が良く解りました」

俺は苦笑することしかできなかった。

「で？どのくらいの距離まで近づけば、向こうに送ることが出来るかな？」

「そうですね。直接やるとなるとかなりの距離まで近づかなければ出来ませんが、

　通信衛星を経由すればここからでも可能ですよ？」

「そう。じゃあ、そういうことで・・・。

　ルリちゃん、俺はこれから食堂に行くけど、何か欲しいものある？」

「・・・そうですね。アキトさん特製のチキンライスください」

泣きそうな（演技かな？）顔を見たら断るなんて出来るわけ無いじゃないか。

このルリちゃんはあっちとは違うんだ。

某同盟の創始者じゃないんだ。

「厨房を貸してくれだぁ？！」

コック生活の中でこれほど驚いたことはなかったよ。

パイロットがカウンター席に座って食事を取り終えたあとに言う一言じゃあないね。

「あんた、経験はあるのかい？」

「ええ、火星にいた頃、部隊に良い料理人がいなかったせいもあって俺が厨房を取り仕切ってましたから」

「それなら、任せるけどね。持ち出す前に味見はさせて貰うよ。

　ここの厨房を使うからにはあたしの味覚を満足させないことにはダメだからね」

「ハイッ！」

そう言って料理を作り始めたあいつの姿は食堂にいる者を驚かせた。

あたしの様にとはいかないがそれでも、流れるようなその動きに無駄はない。

「完〜成」

テンカワが盛りつけたチキンライスをレンゲで口に運ぶ。

味付けそれ自体は問題ない。このまま食堂で出せるレベルだが。

「テンカワ、味付けは誰かに習ったのかい？」

味付けがあたしの料理に似ている。

「・・・スイマセン、それだけは・・・勘弁してください」

それだけ言うと、テンカワは料理をおか持ちに入れると食堂を出ていってしまった。

「今度来たら、厨房の方にでも誘ってみようかねぇ」

（流石に乗員２００余名をあたし１人で捌くのは難しいからね）

「こちらは機動戦艦ナデシコ、サツキミドリ２号、応答願います」

メグミさんの通信に応えたのは・・・意外な人物でした。

『ナデシコか？どのぐらいの距離だ？』

「すいませんが貴女の名前を教えていただけますか？」

『オレはスバル＝リョーコ。そっちに配属予定のパイロットだ。

　こっちは今、突如鳴り始めたエマージェンシーで大騒ぎなんだ。

　最悪のケースも考えられる。出来ればそっちのパイロットを回して欲しいんだがな』

それだけ言ってリョーコちゃんからの通信は突如切れた。

「相変わらずだな、あいつは」

俺の横にいたガイがそう呟く。

「テンカワ。エステバリス隊、発進。

　サツキミドリで向こうのパイロットと合流した後の判断は任せる」

ジュンはここ数日で艦長という地位を固めつつある。

「了〜解。ジュン、だいぶ艦長らしくなってきたじゃないか」

「ハハッ、みんなが協力してくれてるおかげだよ」

俺はジュンと明るく会話しながら、格納庫に向かった。

『素潜り、行ってみようかぁ〜！』

『ガイ、表示をよく見ろ！隊長の機体から重力波が照射されてるぞ』

『そうだよ、ガイさん。あたしのこと、忘れないでよねぇ！』

ガイのかけ声に、万葉ちゃんとディアが反論する。

今回の出撃から千沙ちゃんと万葉ちゃんのエステもカスタム機に変更されている。

嘗ての世界で一般的に使用されていたレールガンを装備しているようになったのだ。

「千沙ちゃん、万葉ちゃんそれにガイ、急いで行くぞ！」

俺はそう声を掛けて、サツキミドリに急いだ。

警報が鳴り始めたとき、私達は偶然格納庫にいました。

私物をまとめ、ナデシコに行く準備を整えていたときでしたので、短時間で発進することが出来ました。

しかし、出撃してみても、敵影は何処にも無し。

誤報かと思っていると、

『こちらは機動戦艦ナデシコ、サツキミドリ２号、応答願います』

ナデシコから通信が入りました。

リョーコさんが応えたようですが

『火星の方角よりチューリップ接近中。

　コロニーの乗員が脱出するまで約３０分。

　時間を稼いでくれ！！』

サツキミドリから脱出中のシャトルから通信が入りました。

「リョーコさん、どうします？」

『無人機が出てきたら、各自散開。ナデシコが接近次第、向こうの部隊と合流する』

「リョーコさん？嬉しそうですね？」

『おめぇだって嬉しいんだろイツキ！』

「それは嬉しいですよ。あの人は・・・アキトさんが生きてるんですから」

『いいよねぇ、リョーコとイツキちゃんは。

　愛しの彼にもうすぐ会えるんだから』

敵機が接近しているのにそんな会話をしながら私達はナデシコからの増援を・・・あの人を待っていました。

『各自散開！フォーメーションは『１７（セブンティーン）』。トップは俺が取る』

戦闘時の『おふざけ』は後からの報復が恐い。

酷いときにはアキトの奴に１週間も無視されたこともある。

オレ達は接近してきたアキト達に軽い声を掛けることなく、指示に従った。

この戦法はトップを取った１機が囮となりそこに集中する敵戦力を後方にいる７機が叩くことにある。

機動兵器戦のみならず白兵戦においても、オレ達が最も得意とする戦法だ。

私は少々疑問があった。

コロニーで見た映像に映っていたエステバリスは３機のみ。

なのに接近してくるエステは４機いた。

どうせアカツキくんだろうと思っていたんだけど、接近するに連れ大きくなるその機影は・・・。

「万葉、抜け駆けは無しだよ〜」

ナデシコ部隊に於いても・・・それ以前にエステバリスをトリコロールカラーに塗装する人物なんて私は１人しか知らない。

アキトくんだけじゃなくてガイくんまでいるとは・・・正直、私は散髪に行っておいて良かったと思った。

私にとって火星以来聞く彼の声は、やる気と勇気を与えてくれるモノでした。

囮となるアキトは危険度が飛躍的に高いわけですが、被弾させないために部隊内１番と言われた私の射撃、その命中度の高さを発揮します。

ふざける人物に対しては冷たく当たるアキトですが戦闘においての一番の功労者には『ご褒美』が待っています。

（今日は寝れないかもしれませんね）

そんなことを考えながらも私はアキトの周囲に群がる無人兵器を片づけていきました。

「殲滅、終了」

最後に俺がチューリップを撃破して戦闘は終了した。

人的被害は０ながら、コロニーは再使用不能なほどに破壊された。

「ナデシコ、コロニーは再使用不能だ。

　プロスさんと相談してのことだが、破壊しておいた方がいいと思う」

俺は後顧の憂いを排除するために提案した。

『そうですな。宇宙空間でのグラヴィティブラストの試射もしておきたいですし・・・』

実に呆気なく受け入れられてしまった。

俺達がブリッジにはいると、

「全員揃ったな？

　ではルリくん、グラヴィティブラスト、目標サツキミドリ、発射〜！！」

出力１００％のグラヴィティブラストによってコロニー・サツキミドリは消え去った。

後に起こるはずだったあの事件と共に。

「さてと、今回の戦闘の最大の功労者は誰かな？」

トレーニングルームにパイロット全員が集合している。

「先ず、リョーコちゃんが２５機撃墜。

　リョーコちゃんにしては少ない数だけど、今回は射撃が中心だったから仕方ないよね？

　それよりリョーコちゃん、髪、染めない方が綺麗だよ？」

「ま、いいんだけどね。

　次に、ヒカルちゃんとイズミさんがそれぞれ２８機。

　千沙ちゃんと万葉ちゃんが同様に３４機撃破。

　ガイは言うまでもなく最低撃破数、１６機。

　ガイ、もう少し射撃の腕も磨いてくれ」

「良いんだよ俺は射撃が出来なくても、後ろは２人に任せることにしてるんだから」

万葉ちゃんとヒカルちゃんを見ながら言う。

当の２人が頷いている以上、俺に言う言葉はない。

「最後に、イツキちゃん。

　撃墜数、６４機。

　流石は部隊内トップの射撃の腕だよね。

　で？今回の『ご褒美』は何がイイ？」

「そんな、アキトくん。

　・・・人前で言うのはちょっと・・・」

「くぉら、イツキィ！抜け駆けすんじゃねぇよ」

「ダメですよ、リョーコさん。

　これだけは譲れません」

「わかったよ。イツキちゃん、３０分後に俺の部屋ということで。

　では、解散」

翌日、目を真っ赤に充血させたテンカワ＝アキトとヤケに血色の良いイツキ＝カザマが目撃されたという。

更には医務室にヤマダ＝ジロウ（ダイゴウジ＝ガイ）が逃げ込み、

それを追いかけるアマノ＝ヒカルと御剣　万葉も目撃されたという。

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＜あとがき＞

ルリ　：・・・・・・（怒）

アキト：どうしたの？ルリちゃん。

ルリ　：何をされていたんです？

アキト：それは・・・例えあとがきでも言うことは出来ないよ。

ルリ　：ヤマダさんといい、アキトさんといい、契約書のこと解ってるんですか？

アキト：その事はまた次回と言うことで。

ルリ　：次回は火星に着くんですか？

アキト：それは解らない。

　　　　セイヤさん達の反乱までで終わるかもしんない。

ルリ　：私にとっては人ごとですね。

　　　　既に解約書は熟読して変更してからサインしましたから。

アキト：俺の契約書は次回公開。

ルリ　：やっぱり、このくらいの誘導尋問では口は割りませんか。