機動戦艦ナデシコ『時の流れに』after another
『Dream』第4話 『ルリちゃん』航海日誌
今回私の悪戯により、サツキミドリに死者はありません。
しかし、艦長であるジュンさんはブリッジにいません。
サツキミドリで合流したリョーコさん達、パイロットと共にシミュレーションルームにこもり、戦闘訓練の真っ最中です。
今回のことで解ったのですが、ジュンさん、器用貧乏なのかIFSも持っているようです。
なんでも、連合大学の研修で訪れた火星でテロリストの襲撃を受けたとき助けてくれた機動兵器に憧れて処理に踏み切ったようです。
アキトさんは過去に跳びすぎたことを好機ととっていろいろ未来を変えるための下準備をしていたようです。
ジュンさん然り、キノコ然り、ヤマダさん然り、イツキさん(怒)然り。
ナデシコ・シミュレーションルーム
一通り、訓練を終えた俺達は思い思いの格好でくつろぎながらディスカッションをしていた。
この意見交換が実戦での阿吽の呼吸を生み出してくれるのだ。
しかし、いくら気心の知れた仲間しかいないとはいえ、女性陣の格好はいささかラフすぎる。
ホラ、ジュンが目のやり場に困ってる。
リョーコちゃんとイツキちゃんは
タンクトッブにホットパンツ。ヒカルちゃんと万葉ちゃんに至っては下は
ホットパンツだが、上はチューブトップだ。リョーコちゃんは俺の右肩に寄りかかり、左肩にはイツキちゃん。
ガイの両脇にもヒカルちゃんと万葉ちゃんがくっついている。
千紗ちゃんは普通の格好だが、比較的小さめのそのTシャツからそのスタイルの良さが滲み出ている。
「ジュン。IFSを持っているのは解るが、艦長が自ら機動兵器で出撃するわけにもいかないだろう?」
「それはそうなんだが、だからこそ艦長として、機動兵器部隊のクセを把握しておきたいんだ」
「弛まぬ努力か。・・・お前が連合大学次席だったわけが解るような気がするよ」
「どういう意味だ?」
「お前のことだ。ユリカのクセを研究してユリカより少し成績が悪くなるように振る舞っていたんだろ?」
「ま、そういうことだ」
流石はジュン、皆が主席ねらいで頑張っている中、初めから次席を狙うとは。
「じゃあ、テンカワ。僕はブリッジに戻るけど、お前らはどうするんだ?」
「・・・そうだな。もう少し、連携に関して練習してからブリッジに行くよ」
「これ以上、練習するのか?
殆ど完璧じゃないか」
「火星にいたときに比べると2人足りないからな。
抜けた2人の分を補うような連携を考えておく必要があるんだよ」
「そうか・・・じゃあ」
そう言ってジュン艦長はシミュレーションルームを出ていった。
「やっぱ、あいつスゲェよな」
「そうだよね。艦長としても努力してるし、その上、エステちゃんの扱いも軍の中でもトップクラスだと思うよ?」
「そうね。比較対象が私達になってしまうのが不幸と言えば不幸なのかもしれないけど」
「パイロットとして優秀。艦長としても優秀。まるで何処かの軍隊ね?」
「ハハハ、でもあいつにとっての幸運は極早い時期に艦長になったって事だろうな」
「そうだな。ミスマル=ユリカ、現極東方面軍司令、ミスマル=コウイチロウの娘。
連合大学を主席で卒業するもその天才による作戦は常人には理解不能。
その上、超が着くほどのお嬢様育ちのため、社会的常識に欠けるところがある。か」
「そんな奴が艦長だったら、ここまで来れたかどうかも分かったモンじゃねぇな」
俺達がユリカに対して言いたい放題言っていたときだった。
『アキトさん、ジュンさんは?』
ルリちゃんからコミュニケの連絡が入った。
「ジュンなら5分くらい前にブリッジに行くって言って、出ていったけど・・・。
ジュンに直接連絡したのかい?」
『さっきから何度も連絡しているんですが、応答がないんです』
「・・・ジュンが何処にいるか分かるかい?」
『シミュレーションルームと同じフロアにいることは分かるんですが、なにぶんブリッジから遠いモノですから、
アキトさん、様子見てきてくれませんか?』
「わかった」
コミュニケを閉じると、俺は
「そういうわけだから、みんなはもう少し練習しててよ」
「いや、良い頃合いだからな。オレ達も行くよ」
「そう?リョーコちゃんもみんなも悪いね?」
そう言ってシミュレーションルームを出た俺達の前にいたのは床に倒れ、意識を失っているらしいジュンだった。
「おい、どうした?艦長」
口々に呼びかけるが当然反応はない。
「ルリちゃん、ジュンが倒れた。
俺はこれからジュンを医務室に運ぶ。
ルリちゃんは・・・・・・独断で良いから暫く指揮を頼む」
『・・・知りませんよ?ジュンさんの戻る場所が無くなっても』
不吉な言葉を残して、ルリちゃんが通信を切った。
「なぁ、アキト。いくら何でも無理なんじゃねぇのか?
たかが11歳の女の子に艦長代理なんて」
「普通なら、そうだろうな。
以前話したことがあるだろ?俺の時間逆行に巻き込んでしまった義理の娘がいたって。
それがルリちゃんなんだよ。だからルリちゃんは外見11歳だけど、内面は17歳。
しかも、未来ではナデシコ級のメインオペレーター兼艦長だったんだ。
だから、大丈夫なのさ」
「そうか。だからああいった発言が出てくるのか」
俺達がジュンを運んで、医務室に着くと、そこにはメグミちゃんが待っていた。
「私、准看の資格、持ってますから。
それに、出撃も無し近くに友軍もいない状況では通信士の仕事もありませんし」
「わかった。
・・・そう言えば千紗ちゃんも看護婦の資格、持ってたよね?」
「えぇ」
「なら、ここに残って彼女を手伝ってくれないかな?」
「ハイ、分かりました。
今ブリッジに行っても・・・」
逆行してから今日まで千紗ちゃんの口から『ミナトさん』の言葉を聞いたことがない。
ここでの勝負云々よりも自分の中で未だに決着が付いていないからだろう。
俺も万葉ちゃんもその事を指摘したことはない。
「そうね、千紗。貴女もいっそのこと、ここで少し休んでいったら?
ナデシコ出港以来の貴女は明らかに働き過ぎよ?」
万葉ちゃんがそう言ったのを最後に俺達は医務室を出て、ブリッジに向かった。
「我々は〜断固抗議する〜」
ブリッジに着いた俺達を待っていたのはセイヤさん率いる抗議団だった。
いつの間にやらリョーコちゃんとヒカルちゃんがセイヤさんの両脇にたっている。
「おい、アキト!これ見たか?」
リョーコちゃんが俺の目の前に契約書をつきだしてきた。
「あぁ、契約書だろ?それがどうかしたのか?」
「一番下、読んでみたか?」
「男女交際は禁止いたしませんが、交際は手を繋ぐまでって、ここはナデシコ保育園かぁ?!」
そう言ったセイヤさんがリョーコちゃんとヒカルちゃんの手を取る。
「「調子に乗るな!」」
「でもさ、リョーコちゃん、ヒカルちゃん。
自分の契約書、読んだことある?」
「いや、ねぇけどさ」
「良い機会だよ。読んでごらんよ?パイロット専用契約書」
「・・・無い。件の一文が見事に無くなってるぞ?」
「俺もこの一文はない方が都合が良かったからね。
契約書作成の段階であいつと相談して削除しておいたんだよ」
「フ〜ン、ならこの抗議はオレ達には関係ないわけだ。
じゃあなウリバタケのおっさん」
リョーコちゃんの言葉を合図に2人がこっちに来る。
契約書を熟読していたらしいイツキちゃんは抗議に加わってすらいなかった。
ズゴォォォーーーーン
『直撃です。ディストーションフィールド一瞬ですが60%まで出力低下』
オモイカネからの報告がブリッジに表示された。
「この攻撃はこれまでの様子見の物とは違います。
契約書の件は戦闘が終わった後で再交渉していただくと言うことで。
オモイカネ、艦内第一種警戒体制発動。
パイロット各員は出撃してください」
そこで一旦言葉を切ると、ルリちゃんは俺に近づき、
「アキトさん、今回の攻撃は前回の物より明らかに激しい物です。
このくらいの敵機にアキトさんが遅れをとることは万が一にもあるとは思えませんが、気を付けてください」
そう耳打ちした。
「了解。
・・・ルリちゃんは艦の制御に集中して。
俺達への指揮はムネタケ副提督に任せればいい」
「・・・キノコにですか?」
「副提督はね、俺達が火星で試験エステバリス隊をしていたときの部隊司令なんだ。
過去の彼とは比べ物にならないくらい頼りになる存在なんだよ」
「・・・少し不安ですが、解りました」
俺はルリちゃんから離れ、
「パイロット各員、配置は千紗ちゃん、万葉ちゃんが遠距離射撃戦仕様でナデシコ直衛。
敵機を1機たりとも近づけるな!
イズミさんは中距離射撃戦仕様で俺達が撃ち漏らした敵機の撃破を。
その他は近距離もしくは格闘戦仕様で敵機を蹴散らせ」
「…「了解」…」
セイヤさんを含め、俺達は格納庫に向かって走り出した。
「確かに、前回に比べると攻撃が激しいな」
「隊長、ナデシコ火星接近は木連にとって一大事ですから」
「千紗ちゃん、そうなんだけどね、前回、前々回はこれほど激しくはなかったんだよ」
「今回は機動兵器の数が多いですから、木連も警戒したのではないでしょうか?」
「エステバリス隊隊長機。テンカワ=アキト、ブローディア発進よろし」
重力カタパルトで打ち出された。
『アキト兄、変だよ?敵機の後方にナデシコそっくりの戦艦とエステバリス、神皇シリーズがいるよ?』
ディアの索敵能力はナデシコ・オモイカネのそれをはるかに上回る。
「なに?・・・本当なのか?それ」
『あたしを疑うのぉ?ちなみに艦種、機種判明。
ナデシコは外見は殆どナデシコBそっくり、エステバリスは青いスーパータイプ。
神皇シリーズは6機。それとね・・・
赤いサレナタイプがいるよ。アキト兄」「前に出てくる様子は?」
『赤いサレナを他の機動兵器が押さえてる状況みたい。
おそらく歴史と違うこちらの編成を見て様子をうかがってる状況みたい』
「わかった・・・千紗ちゃん、万葉ちゃんナデシコ直衛はイズミちゃんに任せて前線へ移動」
俺は作戦の変更を余儀なくされた。
『了解しましたが、隊長。開戦前に作戦変更とはどうしたんです?』
「千紗ちゃん、万葉ちゃん。秘匿回線を開いてくれ」
これで通信は俺と千紗ちゃん、万葉ちゃんの間だけになる。
「2人には重いことかもしれないけどね、
無人兵器部隊の向こうにナデシコらしき戦艦と神皇シリーズがいるらしいんだ。
試しに長距離射撃してみてくれないかな?」
この時、2人がこっちに来てからの中で最も大きな驚きを示した。
『ほ、本当なんですか?』
『アキトさん、グラヴィティブラスト発射します。
そこは射線上です。退避してください』
俺達が退避を完了させた直後、先ほどまで俺達がいた宙域をグラヴィティブラストの奔流が通過した。
「千紗ちゃん、万葉ちゃんはここから射撃で牽制。俺は無人兵器を殲滅しつつ敵後方に向かう!」
火星を目の前にして『俺達の戦い』が始まる。
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<あとがき>
ルリ :スーパーエステはサブロウタさんとして、他の機体はなんなんです?
アキト:『時の流れに』読んだ?ルリちゃん。
ルリ :就寝前に読むようにしているんですが何しろ大作な物ですから
やっとアキトさんが西欧方面に出向する辺りまでしか読んでないんです。
アキト:やっとオリジナリティ全開になる辺りだね?
ルリ :でも、神皇シリーズって過去に御剣さん達が乗っていたようですね?
アキト:そう、そして赤いサレナにはおそらく俺のライバルが乗っているハズなんだ。
ルリ :アキトさんのライバル?いったい何者なんです?
アキト:北辰の娘だよ。尤も本人は息子って名乗ってるけどね。
ルリ :北辰の?安全なんですか?その人。
アキト:ルリちゃんが言うのがどういう意味なのかは解らないけど、
あいつは正々堂々と闘うことに美意識を感じているからね。
そういう意味では安全だよ。
ルリ :そういう意味では?では、他の方面では危険なんですか?
アキト:精神面での発達が未熟だし、本人が男と名乗っているせいもあるからね。
ルリ :それなら安全ですね。(これ以上ライバルは必要ありません)
アキト:次回「運命の選択」みたいな。お楽しみに!!
代理人の感想
・・・よほどユリカがお嫌いなようで(苦笑)。