「イヤァ、予想はしていましたがもの凄い数のチューリップですなぁ」
ネルガルの研究施設を目前にして俺達は足止めされていた。
「テンカワ、あの数を突破して研究施設にたどり着くのは可能かい?」
「・・・無理だな。試験部隊のメンバーが全員揃っていれば、あるいは何とかなるかもしれないが」
このまま突入しても1回目の歴史のように返り討ちに合う可能性が高い。
『テンカワくん、大事なことを忘れていないかしら?』
移動のためシャクヤクにいた舞歌さんから通信が入った。
「舞歌さん。なんです大事な事って」
『この艦、シャクヤクは無人機の敵味方識別では未だに味方になっています。
ですから私達が先行して研究施設に侵入。エステバリスを使って脱出すれば、戦力はおよそ2倍になるわ』
「しかし、舞歌さんはどうするんです?戦艦無しでそこから脱出するのは困難ですよ?」
『テンカワくん?何か忘れていない?
木連優人部隊における艦長は?』
「・・・そうでしたね。わかりました」
「おい、テンカワ。
どういうことなんだ?」
「木連優人部隊の艦長って言うのは、最も優れた人物が就任するわけだから、艦長が即ち最高のパイロットを兼任しているって事なんだよ。
まぁ、北斗は例外としても、舞歌さんが向こうにいる優華部隊のメンバーの中では最高のパイロットなんだと思うよ?」
「アキトさん、北斗さんって何者なんです?」
「そろそろ聞いてくる頃だと思ったよ、ルリちゃん。
・・・あいつはね、ルリちゃんもよーく知っている人間の娘だよ」
「・・・・・・まさか!?」
「その、まさかだよ。
あいつは北辰の娘さ。ただし、今は危険性は殆ど無いと思って構わない。
まぁ、戦闘能力は俺とほぼ同じくらいだから、俺しか相手は出来ないんだけどね」
「そうですか。
まさかとは思いますが、北辰よりも強いなんて事は?」
「あれ?言わなかったっけ?
俺も北斗も北辰なんか足元にも及ばないくらいの強さを手に入れたんだよ?」
「そうなんですか?」
「さてと、ナデシコでは何かの会話が続いているようだけど、私達は無人兵器防衛網に突入、研究施設内にこの艦を隠し、
エステバリスで脱出するわ!!」
「「了解!!」」
シャクヤクには現在武器は搭載されていない。
形状は高杉くんの指示でナデシコに似せられても、その性能までは無理だった。
エンジン部は地球で言うところのカトンボ級からの流用なのだから、時空歪曲場も程度が低い。
重力波砲に至っては1回のチャージに1時間も掛かるのだ。
「舞歌様、研究施設に入りました」
「ありがとう、三姫。・・・各員、機動兵器格納庫に直行、エステバリスに乗り込んだらナデシコに連絡よ!!」
「しかし、舞歌様。私達は全員、IFS処理をしていませんが」
「そうなの?飛厘。多分医務室辺りにそういうのがあるでしょうから。京子!飛厘と一緒に言って探してきて!」
「了解しました、舞歌様」
駆けていった2人はものの数分で目的のものを見つけて戻ってきた。
そして、誰1人不適合になることなく、俺達はIFS所有者となった。(まぁ、俺は解りきっていたことだが)
舞歌様以下のメンバーがお互いの無事を確認している間に、俺は格納庫へと急いだ。
先刻、確認していた。
この格納庫の中に唯一、俺が乗るのに相応しいと思える機体があることを。
多分、アカツキさんが乗っていたであろうその機体はスーパータイプフレームを装備していた。
白銀のエステバリスに私が乗り込み、1機だけ特殊なエステに高杉くんが。
赤いエステに三姫がオレンジ色の機体に京子が。
空色の機体に飛厘が乗り、紫色のエステバリスに零夜が乗っている。
そしてもう1人が万葉が乗っていたであろう、支援型エステバリスに乗り込んだ。
「みんな、準備はイイ?」
「試作機と言うことらしいですから、多少動きがぎこちないところがあるようですが、
無人機を突破してナデシコに到達することは出来ると思います」
「高杉くんの方はどう?」
「この機体はそれなりに整備してあったようで後の機体には敵わないかもしれませんが
無人機が相手だったら、どうにかなるとは思いますよ?」
「そう・・・外にはナデシコのエステ隊もいるようだし、私と他の5人は直接ナデシコに向かいます。
高杉くんはナデシコの部隊と一緒に攻撃に参加して。いいわね?」
「…「了解!」…」
『テンカワさん!舞歌様は直接ナデシコに向かいますが俺は戦闘に参加させて貰います』
アカツキが使用していた機体に乗っているのであろう高杉くんが話しかけてきたが、
『高杉さん、その機体ではナデシコのエステ隊の邪魔になりかねません』
『そりゃないですよ、艦長』
『今の私は艦長じゃないですよ?』
ルリちゃんは気が付いていないようだ。
あの高杉が高杉大尉でないという事実に。
「ルリちゃんの言うとおりだ。
ナデシコのディストーションフィールド解除のタイミングを見計らってナデシコに帰艦しろ!
こちらのエステ隊は既に六連に対したときと同等の実力を持っている}
『!?・・・解りました。帰艦します』
しかし、敵無人兵器の攻撃は想像以上に激しく、交代で出撃した優華部隊のエステも損傷し、
その上ナデシコのフィールドも大気圏内でエンジンの反応が悪くなったところを波状攻撃され、消失。
エステバリス隊が善戦するも、ナデシコは自力での火星引力件脱出が不可能なほどの損傷を受けてしまった。
そんな時に・・・何故か外に出ていたフクベ提督が『クロッカス』を見つけて帰ってきたのだ。
「テンカワくん、君のいう過去2回のワシはこの時どうしたのか。教えてもらえんかね?」
「・・・今の提督のお考えと差ほどの違いもありませんよ。
やはり、疲れましたか?演じることに」
「そうだな・・・ワシは疲れていたのかもしれん。
火星に落ちるチューリップの軌道を変えた程度のことで、軍はワシを英雄として奉りおった。
火星にいた一般人の犠牲は蜥蜴の責任にした。
しかし、ワシはその責任を忘れた日はなかった。
地球に帰り着いてから今日までワシは熟睡したことすらない。
そろそろ、潮時じゃろう。
だから、テンカワくん。おとなしくワシのやることを見送ってはくれんかね?
作られた英雄の最後の仕事を」
「・・・提督、確かに過去2回の貴男は今考えてることを行動に移しました。
が、亡くなられたことはありませんよ」
「しかし、今回も同じとはかぎらんじゃろ」
「解りました。
・・・提督、お元気で」
「ハルカさん、チューリップへの侵入コースは?」
「ルリルリ?」
「出ました。送ります」
「ホシノくん、ディストーションフィールドは保つかい?
チューリップに侵入したら何が起こるか解らない
フィールドは張っておきたいんだが」
「エンジンがいまいち不調ですが、50%の出力を維持することは出来ます。
ジャンプするには・・・ギリギリのレベルですね」
「ホシノくん・・・そうか、そうだったね」
ジュンさんやっと納得してくれたようですね。
『ここはワシが援護する。
火星からの自力脱出が困難な以上、他に手段は無いだろう』
クロッカスからの提督の言葉にボクは決断した。
「補助エンジンで航行を。
相転移エンジンはフィールド出力維持を最優先。
ナデシコ総員、何が起こるか解らないから、総員対ショック姿勢のまま待機せよ!!」
背後にいたクロッカスが反転、信号が消失するのとほぼ時を同じくしてナデシコはチューリップに完全に侵入した。
そして、ボク達の意識は白い光に飲み込まれていった・・・
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<あとがき>
ここまで出番の無かったフクベ提督に見せ場が出来ました。
代理人の感想
・・・TV版のOPでは、木連の無人兵器がグラビティブラストをばんばん撃ってたような気がしましたけど・・・
気のせいかな(爆)?