飛行虫出版
宇宙世代の軍用機 二二〇〇年二月号
特集 木星大戦の救世主
ネルガル重工エステバリス
著者 軍事評論家 ブラザー・トム
エステバリス
ネルガル重工エステバリスは、二二〇〇年現在においても、地球連合宇宙軍に広く採用されるとともに、連合陸軍、連合海軍、連合空軍、各自治領軍、そして統合軍にも採用されている。
エステバリスは飛行性能、対機動兵器格闘能力、火器管制能力、兵装、そして汎用性とどれをとっても世界最高位の汎用機動兵器である。
現代の代表的機動兵器エステバリスの能力、実力の一端をここで紹介する。
@エステバリス誕生
新型機動兵器の模索
二一八〇年代中頃から次期主力機動兵器の模索が続いていた。
当時宇宙軍は此れといった大きな紛争も無いものの、現行主力機のデルフィ二ウムは正式化から早二十年の年月が経ち数度の改良を行ってきたが地球上での運用の制限、火星・月などの植民地防衛には性能の限界に達していた。
また地上軍三軍(陸軍、海軍、空軍)が機動兵器を個別に開発し、そのために支払っていた莫大な開発費、維持のための部品供給経費の大幅な削減を狙い次期機動兵器統合計画が立案された。
このような状況下で空軍主体により開発された、半人型機動兵器EE-21であったが、海軍・宇宙軍の艦隊防空機動兵器としては重量軽減に成功せず、結局不採用となった。また空軍でも侵攻攻撃用機動兵器として実用化されたものの、接近・格闘戦には不適であり、次期機動兵器が必要となった。
結局機動兵器統合計画は明確な成果の無いまま実行に移されること無かった。
二一九三年初頭、火星〜木星間に横たわる小惑星帯で前触れも無く突然接触した小型無人機動兵器群は衝撃的であった。この時接触した小型機の多くが土木作業用、試作段階で不採用になった機体ばかりであり、脅威に成るような物は少なかった。
今日ほど木連に付いて明確な情報を持っていなかった上に、これらの機動兵器の情報は影さえ無かった。このように情報が限られている時代に、突然連合宇宙軍の前に姿を見せた木連機動兵器群は、その実態をはるかに凌ぐ性能を予感させた。
中でも後にバッタと命名される機体が装備していた、ディストンションフィールドは連合宇宙軍高官を大いに焦らせることになった。バッタのディストンションフィールドに対抗できる武装を装備した機体は連合宇宙軍に存在しなかった。
軍人という種族は、とかく正体の知れない敵を過大評価しがちであった。そこには備えは大きいほどいいという判断があるからだ。しかもこうした判断の元では彼らが手に入れたい兵器を買うのに抵抗が少ない。
この衝撃的な対抗馬が出現する前年の二一九二年、連合宇宙軍は国内機動兵器メーカー二十一社に対し次期主力機動兵器の基礎的な設計案の提出を求めていた。
二一九三年に連合宇宙軍は突然提案要求を行う事を決定。その年の初頭に確認された木連機動兵器への恐怖のために、連合宇宙軍の機動兵器像はメーカーの設計案以上の性能を求めていた。
結局提案請求を行った会社は、ボーイングエアロプレーン、ミヤコン・グレビッチ&スホーイ設計局、Bae、ダッソ−、明日香インダストリー、クリムゾン、マーベリックコーポレーション、ネルガル重工の九社であった。これに対して提案を行ったのは、わずかに五社であったが、すぐに明日香インダストリー社案が脱落し、続いてミヤコン・グレビッチ&スホーイ設計局案が脱落した。
連合宇宙軍次期主力機動兵器候補は五社案から三社案にまで絞り込まれた。残った三社は、ボーイングエアロプレーン、クリムゾン、ネルガル重工提出のもので、ボーイングエアロプレーン、クリムゾン案ともに半人型であるのに対し、ネルガル重工案は完全人型として一線を画していた。
ボーイングエアロプレーン案は、同社がすでに連合海軍向けに生産していた艦載攻撃機で強襲偵察機にコンバートそれていた半人型機動兵器RA−18Dと似たアウトラインを持っていた。
ネルガル重工の勝利
二一九四年八月、連合宇宙軍は異例の速さでネルガル重工案を選定、ネルガル重工は、デルフィ二ウムに続く後継機種となるエステバリスの開発を契約した。
連合宇宙軍が求めたのは、次の一一項目であった。
○1人で操縦するコックピットと兵装システム。
○
通常の機動兵器作戦下で四.〇〇〇時間の機動時間。
○ コックピットからの三六〇度の視界。
○ 支援機材を使用しないスターターの装備。
○ 低い開発リスク。
○ 高い推力重量比。
○ 六・五という低い整備マン・パワー。
○
各コロニー内及び駐屯地・基地施設内における、機動戦闘可能。
○
新型防御兵器、ディストンションフィールドの装備。
○ 上記兵器装備機を撃破可能な攻撃兵装。
○
宇宙、空、地上等で運用可能でありながら、艦載機として利用可能。
まずネルガル重工は四十機の原型エステバリスを受注する。かつて無い数の原型機が製作された。
現代の機動兵器が搭載する電子機器は、年々多く複雑になり開発評価にはそれなりの手間と時間を要する。また機動兵器技術の進歩はとてつもない速さである。今や開発期間の短縮は、軍用機開発の逃れられない命題である。多数の機体を投入して、開発期間を短縮しようとしたのである。
しかもこれだけのまとまった数の原型機を発注したという影には、ネルガル重工案が当初の要求である開発リスクが少ないという項目を充分にクリアーしていると判断された事もある。
また同時に、各支援機材も受注したが、趣旨に外れるため、省略する。
これら四十機の原型機は、以下のように作業を分担していた。カッコ内の各記号の意味は以下のとおりである。
A・空戦フレーム、B・重機動フレーム、C・陸戦フレーム、D・0G戦フレーム、T・複座型アサルトピット装備機の設計別コード。
一号機(A1)・性能限界の探求、運用特性、外部搭載物のテスト。
二号機(A2)・F−100型重力波ユニットのテスト。
三号機(A3)・アビオニクス開発、対気流速度計測。
四号機(A4)・構造テスト、アサルトピット・テスト。
五号機(A5)・兵装テスト。
六号機(A6)・アビオニクス・テスト、飛行制御評価、ミサイル発射評価。
七号機(A7)・兵装、機体内バッテリ、兵装架。
八号機(A8)・スピン・テスト、高迎角評価。
九号機(A9)・機体、重力波ユニット適合試験。
十号機(A10)・レーダー、アビオニクス・テスト。
一一号機(B1)・性能限界の探求、運用特性、外部搭載物のテスト。
一二号機(B2)・構造テスト、アサルトピット・テスト。
一三号機(B3)・兵装テスト。
一四号機(B4)・兵装、機体内バッテリ、兵装架。
一五号機(B5)・機体、重力波ユニット適合試験。
一六号機(B6)・レーダー、アビオニクス・テスト。
一七号機(C1)・性能限界の探求、運用特性、外部搭載物のテスト。
一八号機(C2)・構造テスト、アサルトピット・テスト。
一九号機(C3)・兵装テスト。
二十号機(C4)・兵装、機体内バッテリ、兵装架。
二一号機(C5)・機体、重力波ユニット適合試験。
二二号機(C6)・レーダー、アビオニクス・テスト。
二三号機(D1)・性能限界の探求、運用特性、外部搭載物のテスト。
二四号機(D2)・アビオニクス開発、対気流速度計測。
二五号機(D3)・構造テスト、アサルトピット・テスト。
二六号機(D4)・兵装テスト。
二七号機(D5)・アビオニクス・テスト、飛行制御評価、ミサイル発射評価。
二八号機(D6)・兵装、機体内バッテリ、兵装架。
二九号機(D7)・機体、重力波ユニット適合試験。
三十号機(D8)・レーダー、アビオニクス・テスト。
三一号機(A11)・実用テスト、後実戦へ。
三二号機(B7)・実用テスト、後実戦へ。
三三号機(C7)・実用テスト、後実戦へ。
三四号機(D9)・実用テスト、後実戦へ。
三五号機(AT1)・複座アサルトピット評価型。後にネルガル重工社デモンストレーター。
三六号機(CT2)・複座アサルトピット評価型。後にネルガル重工社デモンストレーター。
三七号機(A12)・開発・評価・試験には使用されず、実戦へ。
三八号機(B8)・開発・評価・試験には使用されず、実戦へ。
三九号機(C8)・開発・評価・試験には使用されず、実戦へ。
四十号機(D10)・開発・評価・試験には使用されず、実戦へ。
このように原型機四十機は急遽実戦に投入された四機を除いて、さまざまなテスト、評価に投入された。
原型機一号機は契約締結わずか九ヶ月余りの、二一九五年六月四日、ネルガル重工神奈川工場から正式に引き出すロールアウトの式典を終えた。
一号機はC−104大型輸送機の貨物室に収められて横田基地から北米アメリカ自治領カリフォルニア州エドワーズ連合宇宙軍基地に搬入、整備後、六月二八日初飛行に成功した。
初飛行で操縦桿を握ったのは、ネルガル重工社、チーフ・テストパイロットのロバート・J・バローズだった。
五〇分間のモハビ砂漠上空での初飛行で一号機は最大速度こそ毎時三六〇kmであったが、高度は三六六〇mに達していた。
以後一号機はエドワーズで飛行試験をつづけ、翌二一九六年二月、一〇〇〇回の飛行を行い、高度三八.〇〇〇m、最大速度マッハ三・五を記録した。また空中発進で高度五.〇〇〇.〇〇〇m、同高度での最大加速一〇〇Gを記録した。
多数の原型機による、開発、試験、評価は大戦勃発によりわずか一年弱で終了したが、その間一部手直しがあったが、基本的な設計変更は行われなかった。
A連合宇宙軍の要求対する回答
エステバリスのアウトライン
エステバリスから、連合宇宙軍がこれに課した要求が見て取れる。一昔前の汎用機動兵器にはまず採用されなかった、装甲材料に樹脂系の素材が採用されていた。
これは機体総重量を軽減し高い推力重量比を獲ようとした事に始まることなのだが、ディストンションフィールドの実用化が大きく影響をしている。ディストンションフィールドにより従来の直接防御方式から間接防御方式へと完全に移行する事ができた。
空戦フレーム試験、評価運用中にディストンションフィールドは空気抵抗の軽減させる効果が改めて確認され、これにより機体の大胆なデザインラインの変更が可能となった。
連合宇宙軍は月や火星に置いての地上戦の一端を担っており、これらの状況には、拠点内防衛戦も含まれている。多くの拠点内の利用可能な空間はせいぜい高さ七m前後、幅一四m前後であった、この限られた空間で戦術機動を行おうとすると、従来機のような前高一〇mに達するようでは、完全に不可能であった。
そこでこの要求をクリアーするために動力炉内臓式ではなく、重力波ビームによる、外部よりエネルギー供給方式がとられた。このことにより、大幅な重量軽減に成功した、動力炉の代わりとして巨大なF−100型重力波ユニットを背面に二機装備し、母艦や基地、移動式重力波ビーム供給装置より供給される重力波ビームによるエネルギーによって、重力波ユニットが生み出す推力をえた。これにより機体自身の重量を比率で表した推力比を要求以上にする事も可能となった。
アサルトピット方式を採用することで、金額の高騰し易い、レーダー等の電装系や重力波ユニットを全機種共通とさせることにより調達費の軽減も可能とした。アサルトピット自体を脱出装置とすることによりパイロットの生存性も向上させた。
エステバリスには、単座型のほか、複座型も存在するが、この両者のアサルトピットの大きさはさほど変わらず、外見から判断するのは困難となっている。
エステバリスの心臓
エステバリスの大きな推力重量比を生み出しているのは、地球連合内でも有数の重力制御技術を持つ、ネルガル重工社の火星支社、ネルガル火星第三研究室が開発した、重力波ユニット、F−100である。
このF−100を装備したエステバリスは、従来の科学反応式推進装置を廃し、重力波推進装置を機動兵器としては初めて装備した画期的機体となった。この成功には、ディストンションフィールドの標準装備や機体重量の大幅な軽減も有っての事であった。
一般に信じられているような、単純に強力な重力波推進装置を持っていれば、高加速、高機動ができるというものではない。もしそうであるのなら、より強力な重力波推進装置をもつ大型戦闘艦、例えばナデシコのような、大型艦の方が高機動を行える事になる。実際はその様な事は無い。
何故なら、質量が大きくなればなるほど、重力波推進装置が実際にそれらを前進させためにはより多くのエネルギーが必要となる。又その速度を維持したまま、急旋回を行うには、今まで加速に使っていたエネルギーのベクトルを強引に変えなくては成らず、これにまた多くのエネルギーを使用してしまうことになる。
いかに強力な動力炉を持つ軍用艦艇とはいえ、無尽蔵にエネルギーを取り出せるわけではない。逆にいえば、質量が小さくなればなるほど、同じエネルギーで高加速、高機動が得られることになる。
何よりのこの、F−100型重力波ユニットを装備した事の利点は、機体内に爆発物である、推進材をほぼ搭載しなくて済むことにある。機動兵器の損傷理由の一つに、推進剤の爆発が上げられる。従来機の多くは、機体のけして小さくないスペースを推進剤運搬のために使っている。これは推進剤の搭載量=航続距離であり、航続距離とは、戦闘力が発揮できる時間となる。
そのために、デルフィ二ウムは機体の何倍にもたっする、推進材槽を装備する事になった。推進材槽はそのまま防御上の弱点となった、それを解消すべく様々な措置が取られた。
まずは、推進材槽自体の装甲化がされたが、重量が増加してしまい、機動力の低下を招いた。推進材槽を幾つも装備して、使い終わった物から投棄していったが、運用コストを引き上げた。
だが重力波推進装置のおかげで、それらの重く整備の手間を多くとり、爆発の危険性があった推進材槽を廃止する事ができた。
F−100重力波ユニットは、エステバリスのほか、同じくネルガル重工社製エステバリス2(一般には量産型エステバリスとして知られている)にも採用されている。エステバリスに装備されている、F−100は、量産の間に数多くの改造を受けた。エステバリス2に装備されている、F−100−BTX−Fは、一般にアフター・バーナー付きといわれている。増加加速装置やシステムの改造により大幅に外見を変えているが、部品の多くが未だに共通している。この二機種を大量に装備している連合宇宙軍にとっては、重力波ユニット部品補給、整備の祭広い互換性があり、好都合となっている。
エステバリスの目
エステバリスの目となるのが、頭部に装備したYSW−20−B火器管制装置である。
YSW−20レーダーの最大探知距離は、目標となる機体の、レーダー・クロス・セクション(投影面積)によるが、小型無人機動兵器程度で、大気圏内で約二一五km、レーダー波の大気による減退の無い大気圏外で約一五.六〇〇kmという。
さらに連合各軍の空中警戒指揮機や電子戦/対電子戦専用艦の高いレーダー探知能力と機上/艦上コンピュータ、情報データリンクと併用した時、迎撃能力は格段に高められる。
エステバリスの特徴として、頭部バリエーションの多さが上げられる。これは、YSW−20−B火器管制装置が、とても小さく作られている事が関係している。
頭部設計を行う時、レーダー・アンテナや各種センサー、カメラ・アイの位置を比較的自由に動かすことができた。
このことを利用して、パイロットが自分の特色を出すために独自のデザイン。いわゆる、専用機化を行ったためである。
エステバリスのウエポン・システム
エステバリスは、設計の段階で多彩な対機動兵器兵装の母機となるように考えられていた。人間と同じような多彩な対機動兵器兵装が導入された。
エステバリスの対機動兵器兵装は、その守備範囲といえる射程から三種、三段階が用意されている。(重機動フレームは別項)
最大射程のものは、9K112−2レールカノンである。二一八六年三月、すでに連合宇宙軍は機動兵器による外部支援装置無しによる初のレールカノン発射実験を成功させている。
9Kレールカノンは、つぎつぎに改良を加えられ、9K10型、20型、30型、(40型はアジア的思想により欠番)50型、60型、70型、80型、90型、100型、110型まで存在するが、連合宇宙軍が採用したのは、エステバリス用に再設計された110型の改良型9K112−2であった。四十o砲弾を使用、最大加速一.〇〇〇.〇〇G以上、貫通能力、丙種第7号装甲板九〇度で一.二〇〇oに達した。
9Kレールカノンの場合、砲身から完全に砲弾が発射しきるまで戦術機動を行う事ができず、目標に対して完全に停止または直進しかできない。例え一秒に満たない時間とは言え戦闘中に戦術機動を停止する事は、パイロットに大きな負担強いることに成った。
連合各軍は実戦においてエステバリスを使用したが、バッタに対しての、9Kの使用確率は全体の五分の一となった。しかしより強力なディストンションフィールドを持つが、鈍重な大型機動兵器や戦闘艦艇に対する、使用率は二分の一となる。
9Kは、目まぐるしく動く格闘戦よりも、迎撃戦闘や対艦戦闘に適していることがわかる。
もう一つの射撃兵器は、ラビット・ライフルである。ラビット・ライフルはレールカノンである9K112−2に比べ加速率が低く、使用弾薬が二十oと小さく打撃力が弱く、次々と強力に成っていく、敵機のディストンションフィールドには有効性が低くなっている。
しかしながら、ラビット・ライフル以上に、短距離射撃戦で、急激な機動を互いに行なう機動兵器同士の射撃・格闘戦に適したライフルは無い。
9K112−2レールカノン、ラビット・ライフルの短射程よりさらに接近した目標に対しては、エステバリス両脚部付根部分に格納されている、イミデッエッド・ナイフを使用することになる。
人間の使用する、いわゆるコンバット・ナイフと同じような、形状をしている、事実上のエステバリス最後の武器である。
例外的兵装にワイヤード・フィストがある。これは、エステバリス唯一として良い固定兵装であるが、実戦においてあまり使用実績が無い。その多くが戦闘兵装というよりも、障害物突破や僚機牽引などに使われた。
ワイヤード・フィストはその名の通りに手で、両腕の肘より前半分のあたりが分離し、その断面にはワイヤーが中央に固定されており、ワイヤーを囲むように四つのロケット推進装置がある。そのロケット噴射によって打ち出され、ワイヤーを巻き取る事によって回収される、いわゆるロケットパンチと呼ばれるものである。
イミデッエッド・ナイフを事実上最後の武器と説明したが、本当の意味での最後の武器はこの、ワイヤード・フィストである。
だが多くのパイロット達は、このワイヤード・フィストを最後の武器とはしていない。なぜならワイヤード・フィストを使う状況があまり考えられないためである。
全ての武器を失っても戦わなければ成らない状況とは部隊又は軍全体の崩壊を意味している。(それ以外の状況では撤退を行う・行えるためである。)そのような状況において、二つしかない手を飛ばしてしまい、しかも一機しか破壊を望めない上に、相手に迎撃された場合、その二つしかないものの一つを損傷あるいは破壊される可能性が高かった。
それは他の兵装と違い直接機体自体が損傷することを意味し、損傷や破壊は手を失うことになる。『手を持つものは何かをつかむことができる。』このことが手は万能の武器といわれる由縁である。
手が有れば最低自分と愛機を守るために何かをつかんで投げつけたりして戦闘を行えるが、無ければ逃げ回る以外に選択肢がなくなるのである。そのためパイロット達は手を失うことを恐れている。
このワイヤード・フィストは、ネルガル重工機動兵器設計部門のアジア的より厳密には日本的趣味の産物と言われている。
重機動フレーム専用兵装(一般的には砲戦フレームと呼ばれている)
正式化された中では最大の口径を誇るのが、M120−68一二〇oカノン砲である。(このM120−68は、カノン砲といわれているが、外見上の特徴である、短い砲身長により、榴弾砲である可能性が高い。)現在の機動兵器においてこれ以上大口径の実体弾兵装は史実上搭載できないとされている。そのためこのM120−68一二〇oカノン砲は、最強の兵装と思われているが、実際は異なる。
本来このM120−68一二〇oカノン砲は制圧兵器で、極端な所、敵が頭を下げていてもらえれば、当たらなくても良いという兵装である。絶え間ない間接射撃で敵が行動不能となっているうちに、他の各フレームが接近し、その直射火器を持って敵を撃破するという戦術思考に則っており、この時撃破出来れば儲け物と、考えるのが妥当な兵装である。
だが、エステバリスには高度な射撃統制能力のある、YSW−20−B火器管制装置がある。YSW−20レーダーによって、小型無人機動兵器に対して、M120−68一二〇oカノン砲を直撃させる事が可能となった。
そのために本来は制圧兵器であった、M120−68一二〇oカノン砲での機動兵器撃墜が多く行われた。
だが所詮は榴弾を主体とした弾薬しか持たないM120−68一二〇oカノン砲と高機動戦闘を苦手とする重機動フレームは、各フレームに9K112−2レールカノンか多数装備されると、対機動兵器戦闘任務から外され、本来の制圧射撃に専念していく事になる。
重機動フレーム専用兵装その二は、四連装ミサイルランチャーである。重機動フレームの両肩に一機ずつ装備されているこの兵装は、エステバリスが装備する数少ない、精密誘導兵器である。搭載されているミサイルは、AG−30Lである。
AG−30Lは、YSW−20−B火器管制装置の持つ、高度な、索敵、照準、誘導支援能力により、二〇〇q離れた目標も撃破可能とされている。
誘導方式は、画像追尾誘導+パッシブ・レーダー誘導+(利用可能な場合)衛星航法、弾頭重量一五四s。
本来対地・対艦用なのだが、ディストンションフィールド貫通能力がありYSW−20レーダーによって小型機動兵器にも直撃させることが可能であったことにより、対機動兵器戦闘にも多数投入されたが、M120−68一二〇oカノン砲と同様に、対機動兵器戦闘任務からしだいに外され、本来の任務対地・対艦戦闘に専念していく。
最後に
エステバリスが本格的に開発されていた二一九五年、この年の一〇月、火星にて地球連合、連合宇宙軍第一艦隊が木連、正式名称、木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ・及び他衛星国家間反地球共同連合体との初の正規部隊同士による、武力衝突が行われ、なし崩し的に全面戦争に突入していく。
この大戦により、傑作汎用機動兵器としての確固たる地位をエステバリスは築く。現在までにシリーズ全体で、二十万台以上の生産台数を誇り、新型機動兵器として、クリムゾン社製ステンクーゲルが配備されつつある今日に有っても、地球連合各軍や統合軍の主力機動兵器として、君臨している。
この状況は、ステンクーゲルなどの新型機が大量生産を望めない事により、後一〇年以上は変わらないと予想されている。
あとがきです。
皆様、御初にお目にかかる方も多いと思いますが、赤トンボと申します。
まだまだ未熟者ですが、宜しくお願いします。
これは私なりのナデシコにおける、機動兵器エステバリスの歴史的・軍事的・技術的の裏付けをしたいと思って書いたものです。
あれだけの性能と信頼性を持った機体がスキャパレリー・プロジェクトの立案されたであろう、二一九五年一〇月から、ナデシコが出撃したであろう、二一九六年一二月までの、わずか一年余りで開発・製作され、しかも当然のように連合各軍に採用されるとはとても思えなかったためです。
各型番は私が勝手に付けたものですが、原作で名称を付けられた物については、改めて名称型番は付けませんでした。
以上簡単でありますが、あとがきとさせていただきます。
今後とも宜しくお願いします。
代理人の感想
むー。
まぁ、書くほうも読むほうもこれは趣味の産物ですね(笑)。
要は「俺設定」ですから。