機動戦艦ナデシコ 欧州撤退戦
序章
ネルガル試作機動兵器実験戦闘団結成
2196年1月
東京 下町の某所
「こんにちは。ウリバタケ、いるかい?」
1人の男が、場末の町工場にそう言いながら入っていく。身なりは確りしている、どうやら軍人のようだ、その軍服が目を引く。
「いらっしゃい・・・あら、アヅマじゃない、どうしたの突然」
奥の部屋からエプロンで手を拭きながら1人の女性が出できた。多くの人が美人と言うだろう、疲れた表情でなければ、だが。
「ああ、こんにちは。旦那は?」
少し疲れた顔に心配そうな表情を浮かべながら、工場の奥を指差した。
「あの人なら奥にいるよ。今度はあの人、何をやったんだい」
アガツマは、思わず苦笑してしまいながら、ゆっくりと首を振る。
「大丈夫だよ。実は、今度俺がつく任務の相談に来たんだ」
「任務の・・・相談・・・家の人に?」
これまた怪訝な表情を作りながらつぶやく。
「任務って、軍隊のでしょ。あの人なんかに話して大丈夫なの。もし何か有ったら・・・」
オロオロしながら、どうやらとんでもない事を想像している様で、青ざめている。
「大丈夫だって、本当だから。エンジニアとしての旦那の意見聞きたいだけだから。・・・ね」
そう言い、オリエが落ち着いたのを見計らってから、工場の奥へ入って行く。直ぐに怪しい笑いを浮かべながら謎の機械をいじり回している男を見つける。
年のころは20代後半から30代前半、細めと言うよりはヒョロヒョロといっていい体つきをしている。
あの怪しい男、ウリバタケだな。
かなり失礼な感想を浮かべながら近づき、声をかける。
「ウリバタケ、突然で悪いんだが、少し話がある。チョット良いかい?」
「ぬっあっ!」
突然の声に相当焦ったらしく、奇妙な声を上げながら、手にもっていた工具を今いじっていた機械の上におとす。
「あっ・・・悪い。大丈夫か?」
アズマが謝っているそばで、その謎の機械が動き出す。良く見ると人型をしている、そのあちこちから何故か蒸気を噴出させながら。
「不味い!」
「へ?」
2人の声が重なるなか、謎の機械の全身から何故かロケットが迫り出す。さすがにアヅマも不味いとやっと思い、逃げ出そうとした瞬間、ロケットが発射された。
バッバーン、ドッドーン、チュドーンなど様々な音とが響き、色とりどりの光が狭い工場の中に広がっていく。
煤けた制服と、ボロボロのツナギを着て煙をプスプスと上げている2人の男が、薄れ始めた煙の中から現れる。
どうやら生きているようだ。
「・・・・・・ウリバタケ・・・貴様、またやってくれたな」
そう言うと、目から妖しい光りを発しながら、ウリバタケの右肩を、左手でガッチリとつかむ。
「なななな何を言う!貴様が急に声をかけるのが、悪いだろうが」
どもりながら必死の反撃を開始しながら、アヅマの手を振りほどこうとしているのだが、そこは鍛えられた職業軍人、そう簡単には手を離さない。
アヅマは懐に、残った右手を入れた。何かをつかんだようだ。
「本当は色々話が有ったのだが、まあ、いい。こいつを置いて行くので、後で読んでくれ。何か質問があったら、ネルガルのここの所に書いてある人に連絡してくれ」
そう言うとアズマは、懐から取り出した封筒を、ウリバタケの鼻面に押し付けんばかりに近づける。近すぎて字が全く見えなかったが、それを指摘する勇気はウリバタケには無かった。
「お、おうっ!ちゃんと読んで連絡するよ。・・・本当だって!」
アヅマのジト目に恐怖を覚えて、約束する。
「・・・そうか、そうしてくれると助かる。悪かったな騒がして」
やっと左手を緩め、最後に肩を軽く叩いてから、離れる。そのまま入口の方に行ってしまう。慌ててウリバタケが引き止めるが、「次があるから」と言い、出で行ってしまう。
「まったく、何だったんだ突然来て・・・あ〜っ!!俺のリリーちゃんが〜」
改めて工場内の惨状を確認して、ウリバタケは情け無い悲鳴を上げた。結局アヅマが置いていった封筒をウリバタケが読んだのは、夜になってからだった。
翌日、ウリバタケは朝一番で、ネルガル重工に連絡を入れた。
二週間後
神奈川 ネルガル重工横須賀工場
「ウリバタケ。ほんと言うとな、お前さんがこの話受けるとは、思ってなかった」
ウリバタケと肩を並べて歩きながら、アヅマは言った。ウリバタケはにやりと笑いながら、「これだから」とでも言うような態度で話し出す。
「なあ〜に、言ってやがる!家にいて女房の尻の下にしかれつづけるなんて、まっぴらゴメンだ。俺はな、今まで逃げ出せるチャンスをずっ〜と、うかがっていたんだ!こんなチャンスめったに無い。逃してたまるか」
話している内に興奮したのだろう、妙に早口でしゃべり続ける。そうこうしている内に2人は目的地に到着した。
入口で名前を名乗ると、資料とコミュニケーター、専用の身分証が渡された。中にはすでに100人近い人が集っている。その中の、舞台に近い人だかりの中に、見知った人物見つけ、アヅマは声をかけた。
「バローズチーフ。まさか貴方まで参加する訳では無いでしょうね」
彼、ネルガル重工、チーフ・テストパイロット、ロバート・J・バローズは、「まさか」とでも言うかのように、肩をくすめて見せる。
「残念ながらそれは、無い。軍の仕事が残っているのでな。そうで無かったら真っ先に名乗りを上げるのだが。失敗したよ」
さも残念そうに言うその言葉に、近くにいたパイロットらしき人物が答えた。
「チーフ。このオレ、ガイ、ダイゴウジ・ガイに任せておいて下さい!木星軍どもなど、このオレがバッタバッタと薙ぎ倒してやりますから!」
さも自信ありげに、ガイと名乗った男は言う。目聡くウリバタケが資料の中から、その男を見つける。
「なあ、あんた。資料にはヤマダ・ジロウと、書いてあるけど」
「ちっが〜う!それは世を忍ぶ仮の名。ダイゴウジ・ガイは、魂の名、真実の名前なんだ」
ウンウンと、勝手な自分の言葉に、自分でうなづいていると、周にいる女の子たちが、次々と話し始める。
「うるせーぞヤマダ。お前の声は頭にひびく」
「ダメだよ、ヤマダ君。夢見るアリスちゃんみたいな事いっちゃあ」
「ヤマダくん。自分の実力を客観的に判断できないと、長生きできないわよ」
ボロボロの言われようである、思わず2人が弁護してしまいたく成るほどに。もっとも1番先に声をかけたのは、バローズだったが。
「お前ら、その辺で止めておけ。ここにいる、アガツマ・アヅマ少佐はお前達の上官に成るのだからな。」
全員が一斉に顔をアヅマに向ける。長髪の女性が突然、手をポンと打つ、何事かと注目が集る中、資料に最後についているメモのページに字を書き出し、それをアヅマに指し示した。
「こう書くの?」
そこにはこう書いてあった。「吾妻吾妻」と。
「なんて素晴らしい名前。リョウコもそうおもうでしょ」
「そっかあ。変な名前だと思うけど。ヒカルはどう思う」
「イズミちゃんスゴーイ。良く解ったね。私は変わっているけどいいと思うけど」
本人の前で、しかもこれから上官に成る人物を捕まえて、良くそこまで言えるものだと感心したくなるほどだ。さすがに不味いと思ったのだろう、バローズがとがめる。
「お前らいい加減にしろ!さっきも言った通りにこの人はお前達の上官に成るんだ。しかも戦闘団長だ、わかったら、謝れ」
片手を上げて、バローズの言葉をさえぎる。
「ここは軍ではなく民間だからな、民間のやり方が有るのだろう。だがな」
と言い、イズミの持っていた資料を奪いそこに一気に字を書き、全員に見えるように差し出す。「吾妻東」と書いてあった。
「私の名前をあえて、漢字で書くとしたら、この字だ。解ってもらえたかな」
思いっきり気にしていたらしく、そう訂正する。
「そんな所でいいかな。こいつらを、まだ紹介していなかったな。改めて紹介するよ」
バローズが、その場を取り繕うとしてそうにいった。
「緑色の頭のが、スバル・リョウコ。隣のメガネが、アマノ・ヒカル。長髪が、マキ・イズミ。そして、そこのうるさいのが、ヤマダ・ジロウ」
「ちっが〜う!俺の名前はガイ!ダイゴウジ・ガイだ」
「・・・こうゆう奴だ」
「よく分かりました」
紹介された女たちが色々言ってきた。
「最初に言っておくが。オレをリョウコちゃん何て言ってみろただじゃおかないぞ」
「私ヒカルでいいよ〜」
「私はイズミでいい」
などと言っていきた。
「なるほど。では、リョウコにヒカルにイズミとヤマダでいいか?」
「オレは名前で呼んでいいとは言ってない!」
「俺は!ダイ・・・」
「ハイハイ〜。話がややこしくなるから、黙ってましょうね」
「そうそう」
リョウコが迫ってくる横で怒鳴ろうとしたヤマダを、ヒカルとイズミがブロックして、口をふさいでいる。
「うむ。ではこうしよう、君の事はスバルちゃんと呼ぶ事にしょう」
「なんでスバルちゃんなんて呼ぶんだ」
当然のように、怒鳴り返してくるが、アヅマは平然といってのける。
「スバルちゃんがリョウコちゃんとも、リョウコとも呼ぶなと言ったもんでねこう呼ぶ事にした。何か代案有るかい?」
リョウコはものすごく悔しそうにしていたが、しばらくしてぽつりと言った。
「・・・リョウコでいい。」
アヅマはとても嬉しそうにこういった。
「よろしく、リョウコ」
そんな、くだらない話をしている内に時間になったらしく、ネルガルの重役たちと、軍の高官たちが入ってくる。
この日、ネルガル重工を中心として、連合宇宙軍装備調達本部並びに機動兵器・航空/航宙本部支援の元、試作機動兵器実験戦闘団が結成された。
使用主機材:次期主力機動兵器エステバリス
戦闘団団長宇宙軍少佐:アガツマ・アヅマ
航空隊隊長ネルガル重工パイロット:スバル・リョウコ
輸送・補給・衛生・業務支援大隊大隊長連合宇宙軍大尉:オリベ・ユイ
整備隊隊長ネルガル重工契約社員:ウリバタケ・セイヤ
この後2週間、訓練と部隊間の調整を日本で行う。
のち、ロシア・欧州方面に派遣され、現地で実戦を行いながら、エステバリスの熟成をはかる。
地球連合には、次期装備機を後方で熟成させる時間はすでに無くなっていた。
予告です。
戦闘団は最前線・ロシア戦線に投入された。
想像を絶する寒さにより起動不能になる機動兵器群。
そんな中、軍司令部より命ぜられた1つの任務。
それは、軍の仕事と言うよりもボランティアの仕事だった。
―我々はこんな事しに来たんじゃない!―
ふてくされるガイ、何故か元気なウリバタケ。
気合の入るリョウコ、たくさんの人がいた。
だが、そこは戦線の後方でしかなかった。
次回、機動戦艦ナデシコ 欧州撤退戦
第1話
「正義」
―ワタシ、ハナクコトモデキナイノ―
見てください。
後書きです。
赤とんぼです。
今回初めて連載物をはじめさせていただきます。
色々おかしな所があると思います、特に原作キャラを使用した連載物は初めてなのでキャラの性格がおかしい所がありますが、ご勘弁願います。
知人にも言われたのですが、この話の中ではミスマル・ユリカやテンカワ・アキト、ホシノ・ルリなどメインキャラのほとんどが登場する予定がありません。
この時期に戦場に出てしまうと本編に続ける事が出来なくなり、話が収拾できなくなる為です。
実力のある人ならいくらいじっても大丈夫なのでしょうが。
タイトルの「欧州撤退戦」で想像ついている方もいらっしゃると思いますが、ヨーロッパでの敗北の記録になり、話は暗くなると思いままが、お付き合い願えれば幸いです。
宜しくお願い致します。
代理人の感想
んー、それはなんか違うような(苦笑)。
こう言う始まり方をした時点で、すでにTV本編にはそのまま繋がらなくなっています。
ナデシコなら必ずアキト達を出さにゃならんということもないのですから、
ナデシコキャラを流用したオリジナルの戦場ものと言えばいいんじゃないでしょうか?