機動戦艦ナデシコ 欧州撤退戦

 

 

第1話

 

正義

 

 

2195年3月

 

ロシア モスクワ市郊外

 

 

「うわ、さっび〜。何て所だ」

 外のハンガーに置いてある愛機の様子を覗いてきたヤマダは、まるで昔のマンガにでも出で来るような鼻水をたらしながら急いでもどって来た。

「何言ってやがる。ハンガーで作業しているウリバタケたち整備員はどうする」

リョウコがヤマダをさとす。隊長としての責務が言わせた言葉ならいいのだが、絶対ヤマダをからかうだけの為に言っているに違いにない。

「うるさい!そうゆうお前らは、どうなんだよ。ストーブの前でダルマみたいに着込みやがって」

 ダルマか、いい得て妙だな。

 アヅマは素直に感心した。リョウコとヒカル、そしてイズミは、そのまま横倒しにすれば転がるのでは無いかと思うほど着膨れしている。ただ口に出すほど、無謀では無いだけだ。言われっぱなしで黙っているほどこいつらはかわいくない。早速ヒカルが反撃を開始した。

「ふーん。そうゆう事言うんだ。女の子にはね寒さは大敵なんだよ。そんな事だから女の子にもてないだよ。ねーっ。イズミちゃん」

「そんな事、今に始まったわけでも無しに。そうでしょ、リョウコ」

「まあ。当然だな」

散々な言われ様だが。何故か胸をはって言い張る。

「貴様らみたいなのは、女ではない!女と言うのはナナコさんみたいな人だけだ。それに、愛と熱血と友情と正義さえあれば貴様らみたいにブクブク太ったみたいに着込まなくても大丈夫なのだ!もしかして。本当に太ったのをごまかしているのか。わっはははのは、だ」

 言ってはいけない単語がある。特に女性には。基本的に言ってはいけない単語がある。そいつを堂々と言いやがった。この部屋に詰めている大半の人間は、避難を開始した。そうでない者は、ヤマダに迫っていく。前者が男と比較的薄着でスタイルに自信のある女性、後者が直接言われた3人と、かなり着込んでいた女性。

 バカな奴だ。本当にバカな奴だ。

 一斉にヤマダに飛び掛った女性陣の攻撃を逃れようと、ヤマダは外に飛び出すが、逃走に失敗、直ぐに連れ戻された。ロープでグルグル巻きにされて、回りから小突き回されていた。

 

 

 

現在こんな所に集っているのには訳がある。

 主要機材である、エステバリスが寒さと雪のために満足に動く事が出来ないでいる。

本来、真空と絶対零度の宇宙での使用を前提としているエステバリスには有っては成らない事なのだが。ネルガル設計陣は、ロシアの冬を甘く見ていたのかも知れない。

 ほおって置けば、生きた人間がそのまま凍ってしまうロシアの冬。上からでは無く、横から吹き付けてくる雪。そしてその雪は、あらゆる隙間から入り込んで機械を氷付かせる。最新鋭機とは言え避けられない事だった。

 現在各機体は、冬季戦装備を取りつけている。これはウリバタケたち整備隊が考案・製作した物だ。そのため数が少ない、ほとんど手作りなのだから仕方が無い。

全機換装まで、あと約一週間かかる予定だ。

本来は正式機材があるのだが、とどくまでに2ヶ月かかると言って来た。いくらロシアと言っても、冬が終って雪が解ける季節だ。ドロ水と汚泥の季節が始まっているはずだ。

まったく、なっちゃいない。

アヅマがそんな、いくら考えても仕方が無い事を考えていると、支援大隊長のオリベ・ユイ大尉がやってきた。

彼女は事実上この戦闘団の副長だ。年はアヅマより7歳上の34歳で既婚。10歳の女の子と7歳の男の子の2人。俗に言う一姫二太郎だ。外見の特徴としては美人でもかっこいいでもなく、可愛いだ。

将来の夢が、5〜6年たったら町へ娘と一緒に出かけて、「姉妹ですか」と言われる事らしい。

「団長。第13軍から支援要請です」

「無理だ。エステが動かん」

「エステはいりません」

 そうゆうと、オリベ大尉は一枚の紙。支援要請書を差し出して来たので、受け取って良く読んでみる。

こんな時まで文章にするとは、官僚主義にはまいったね。

と、思ったのは秘密だ。

「これならかまわないが、人数は足りているのか?」

「装備自体は余裕がかなりありますが、やはり人数が足りません。そこでご相談なのですが」

 チラリと、後ろで騒いでいるパイロットたちを見る。

「なるほど。・・・・・・確かにそうだな、いつまでも遊ばしておく訳にはいかんからな」

 アヅマは、納得したように頷く。オリベはとても嬉しそうにしている。

オリベは振り返り、声を上げた。

「全員傾聴!団長よりお話がある」

 アヅマはおもむろに立ち上がりこう言った。

「ピクニックに行くぞ」

 

 

 

 

「何がピクニックだ!何でこの俺がガキの相手しなくてはならないんだ。しかもこんな寒空に」

 キャンプより北東へ100km程の位置にあるP−7と言う何の捻り無い名前の付いた難民キャンプの設営・食料支援が、第13軍からの支援要請の中身だった。

彼等は今の戦線を維持しているのがやっとでとても難民支援に人員を裂けない。しかし要請を却下する事も出来ずにいた。

何処かの目端の利く参謀が、戦地にいながらまったく戦闘に参加していない部隊。すなわち試作機動兵器実験戦闘団を見付け、支援要請を回して来たのだった。

「こら、ヤマダ。もんくばかり言ってないで手を動かせ。終らんぞ」

 戦闘団長であるアヅマが、エアドーム型テント張りをしているので、渋々だが仕事をはじめた。だが、子供たちの多くが、母国語であるロシア語しか理解できず、列を作るだけで一苦労だった。

「くっっそー。何で言う事聞かないんだー!」

 むちゃ言うなよヤマダ。日本語ではダメだろ。ロシア語でしゃべれよ。

「そうだ、これは試練だ。ヒーローは試練に打ち勝ってこそ、ヒーローだ!熱血だー!!」

 などと叫んだと思ったら、体をかくかく動かし始めた。

言葉でいってはダメだと思ったのか、ゼスチャーで伝える事にしたようだ。「だー!」とか「ちっがーう!」などという叫び声が時折響いた。

 この支援作業には、ロシア正教の修道院から、多数のシスターたちが多数参加していた。さすがにシスターたちには共通語が通じる、そのためヤマダは、いつもシスターの誰かと一緒に行動していた。だが、結局子供たちと、一緒になってヒーローゴッコを始めたり、いつの間にか持ち込んだアニメの上映会などを始めていた。

 今1番忙しいはずのウリバタケが顔を出していた。どうやらシスターたちが目当てらしいが、オリベ大尉が一睨みすると、スゴスゴ帰っていったが。

 

 

「団長。少しよろしいですか」

2日ほど立ったある日。オリベが深刻そうな顔して、アヅマの元にやって来た。

「何が有った、大尉」

アヅマはよほど深刻な事態が起きたのだと、構えた。

「・・・実は。スバルさんの事なのですが」

「え?」

 アヅマはこの真冬に暖房用の燃料が切れたのだとか、疫病の発生、食料の不足、飲料水の不足など考えていたが、まさか隊員の事とは。しかもリョウコはさっき会ったが元気だったはず。

「何か有ったのか?言ってくれ、事故が発生したのか」

 オリベはさも言いずらそうにしていたが、位を決してしゃべり始めた。

「あの・・・スバルさんを炊事任務から外してもらいたいのです」

「へ?炊事任務から外す。リョウコを」

「はい、そうです」

今、自分が相当間抜けな顔をしている事をアヅマは自覚しているが、直す事が出来なかった。

オリベは続ける。

「スバルさんは、一生懸命にやってくれています、それは解っています。ですがあの料理はダメです。あの料理食べたら、人が死んでしまいます」

 食べたら死ぬ料理・・・どんなんだそれ。

 そう思った。だが、オリベがここまで深刻な顔をしているのだから事実なのだろう。

「・・・・・・解った。大尉、君の好きにするが良い。そうだな、リョウコには私の変わりに全般の監視をしてもらおう、ヤマダやウリバタケの事もあるし」

 オリベは飛び上がらんばかりに喜んだ。何度か頭を下げて炊事場の方に向かった、しばらくすると多分炊事場だと思う所から歓声が上がったが、アヅマは聞かなかった事にした。

 

 

「ちぇっ。いくら失敗したからって、外す事ないじゃないか」

 リョウコは炊事班から外された事が気にいらないのか、グチを言いながら歩いていた。その上新しい任務が、全般の監視と言えば聞こえがいいが、用はサボりを見張る事だ。それでは士気が上がらないのも無理は無い。

 そんな調子でぶらぶら歩いていると、ヒカルが人を集めて何かをやっている。

「あいつ、何やってんだ」

  ぶらぶらしていても仕方が無いので、そのようすを覗きにいった。

  どうせくだらない事だろう。

  などと想像していたが、本当にくだらなかった。

「そうそう。ここがいいんだよねぇ〜。やっぱ、萌え萌えって感じ〜でぇ」

 そこではリョウコには理解不能の言葉で会話がされていた。いや、決してリョウコがロシア語が判らないと言っている訳ではなく、自分の母国語のはずの日本語で会話されているのだが判らなかった。

「?何言ってんだ、あいつ」

リョウコのつぶやきなど関係なく話が続いていく。

「やっぱり、そうでですよね。先生」

「わかるの!わかってくれるの。隊では、だれもわかってくれなくて寂しかったの〜」

「はい、わかります!わかりますとも〜。私もだれもわかってくれなくて、寂しかったんです〜」

 そういい、2人はお互いの名前を呼び合って。ヒシッと、抱き合うのであった。周りにいる連中も何故か、ハンカチで涙を拭いている。

「オレにはわからん。わかりたくもなくねえ」

 なかなかの美女(美少女?)2人が抱きついている姿はウリバタケ辺りが見ていれば違ったのであろうが、リョウコにとってはどうでもいい事であった。それ以上に恐ろしいと感じ、その場を離れる事にした。

 

仕方が無くまたうろうろしていると、今度はイズミが人を集めていた。

「あからさまに妖しいな・・・」

 近寄らなければいいものに。リョウコはまた、近づいていく。

「うひょひょこひょひょ〜っ」

 奇怪な声が聞えてくる。リョウコはそれだけで回れ右してしまいたくなった。それでも好奇心がまさったため、近づいていく。

「さすがです!師匠」

「これがわかるとは。貴女、良いセンスしてるわね」

 そう言うと2人は、ガッチリと握手をしていた。

「訳わからん」

 リョウコは一言いうと去っていった。

 

「2度あることは3度ある。と言うが今度は何だ」

 リョウコはうんざりしながら、人だかりを見ていた。こちらは比較的まともなようだ。

「チビッコのみんな〜。さあ、一緒に叫ぼう。みんなのヒーローの名を!」

何故かアヅマが司会をしているが、ヒーローショーのようだ。

「せ〜の、ハイ!ゲキガンガー!」

「「「「「ゲキガンガー!!!!」」」」」

 アヅマの音頭で子供たちが一斉に叫ぶ。するとステージの袖から奇妙なハリボテが現れた。どうやらそれが、ゲキガンガーらしい。

 そのハリボテが、ステージの反対側にいる。これまた奇妙なハリボテにオーバーアクションで指を、「ビッシット」と声に出して言いながら指差す。

「このキョアック星人め。この緑の地球とみんなの平和を乱す事は、このゲキガンガー許さない!」

 そう言うと子供たちが一斉に歓声を上げた。

なかなかの人気だ。どうやら中身はヤマダらしい。

日本語だが、良いのか?

 リョウコの感想はもっともだが、子供たちには関係ないようだ。

「これはこれで良いか」

リョウコは問題なし。として次に行く事にした。

 

 いつの間にかしっかり見回りをしている自分に苦笑を浮かべつつそのまま歩きつづけていた。リョウコはいつの間にかあまり人のいない地区まできてしまった。

「ちっ。いつの間にかこんな所にきちまった」

 そういい、引き返そうとする。だが視界の端に何かが動いた気がした。不信に思いもう少し奥に行って見る事にした。

 しばらく行くと女性専用地区の裏側に出た。洗濯場や浴場の集まっている地区で、こんな所にこんなふうに来る奴はかなり怪しい。慎重に調べる事にした。

 

 

「さあ。こちらを向いて下さい」

「だ、大丈夫です。自分で出来ます」

「そう遠慮しないで下さい。手が使えないのですから、恥ずかしがらないで下さい」

「ままま、まって下さい。右手が使えないだけです。左手があります〜」

「遠慮は無しですから」

「遠慮なんてしてません!」

 どうやら、シスターが軽症者をフロに入れているようだ。そこまでは良い、会話がおかしいと思う人もいるかも知れないがそこは良いだろう。

だが、壁に張り付いている連中はかなりおかしい。

「た、隊長良いんでしょうか」

「良いに決まっている。こんな所に天国があるのだから確認せずにいられるか」

「そっすか」

「そうだ」

「そっすよね」

「そうだ」

「いいすよね」

その会話に入り込む一つの声があった。

「良いわけ有るか」

「「「え゛!」」」

 ゆっくりと振り返る一同。顔に縦線はいっている。

「・・・よ〜」

「「「・・・うぐ〜」」」

 そんな声出しても、はっきり言ってかわいくない。

「覗きたーいい度胸しているじゃねえか。え〜、ウリバタケとその他大勢」

 バックにオーラを背負いながら、拳をバキバキと音を立てている。

「ままままま、まった、リョウコ。話を聞いてくれ。これには訳がある!」

 ウリバタケが必死の形相で話してくる。少し興味があったのかリョウコは聞いてみる事にした。

「言ってみろ。もしくだらなかったら。わかっているだろうな」

 ウリバタケは、リョウコの形相にビビリながら話した。

「俺たちはここ2週間休みなしで働いてきたんだ。少しぐらい息抜きしてもいいじゃないか。そうだろ」

 ウリバタケの言には一理ある。だが、それとフロの覗きとどう関係が有るというのだ。

「それだけか?」

「・・・それだけだが。」

 リョウコの中で、ウリバタケとその他大勢の処遇は決定した。

「そんな理由、認・め・ら・れ・る・か〜!」

「「「アン、ギャー!!!」」」

 リョウコは以外にもこの仕事にやりがいを見付けたようだ。何しろ毎日ウリバタケら、整備隊の連中がフロや着替え、シスターや現地の女の子たちの尻を追かけに来たのだ。

「お前ら、冬季戦装備への換装作業進んでいるのか」

 その質問には、「資材不足だが、進められる所まで進めている」と返事が返ってきた。事実、仕事はしっかりしているようだ。

その上この騒ぎ。バイタリティーにあふれた連中だ。

 

 

 支援任務自体は1週間で終了。設備が完成した後は、修道院などのボランティア団体に後を託した。一部陸軍が駐屯しているが、実験戦闘団が撤退すればほとんど軍人の姿は見えなくなる。

たった一週間だったが往きとは違い、大量のお土産をもって帰った。

「あ〜あ。あっという間だったね、イズミちゃん」

「そうだな。ヒカル」

2人は輸送ヘリの座席に座りながら両手一杯のお土産を抱えながら話していた。

「うわっはははっ!ヒーローに国境無い。正義と熱血は、不滅だ!」

「お前、毎回毎回同じ事を。良く飽きないな」

「飽きる事など何も無い!」

 握りこぶしを作って力説しているヤマダを、やれやれと見ているリョウコ。

 キャンプには、冬季戦装備に換装が済んだ彼らの愛機が待っている。

現代の戦場の主役。

その高い機動力で戦場の主役として君臨する事が決まっている。現代の騎士、エステバリス。

その初陣は2日後であった。

 

 

 

 

 

「キヨウツケ−」

 オリベ大尉の鋭い声が響く。アヅマが手で休むように指示する。

「第13軍が戦線の一部を突破された」

 前触れもなしにアヅマは話し出した。それ程急を要する事態だという事だ。

「投入可能な隊の内、4個小隊、20機を支援に向かわせ、残りの2個小隊、10機でキャンプの防御を行う」

いくつかのウインドーが開き、部隊編成が通達される。

「緊急時には、キャンプの放棄も許可する。留守部隊も気を抜くな」

 全員が緊張した。事態はそれ程緊迫しているという事だ。

「準備出来次第出発だ。始め」

 アヅマの号令の元部隊が動き始めた。

この時すでに第13軍は、戦線の数箇所をチュウリップと名付けられた、敵母艦により食い破られ、全軍崩壊の危機に瀕していた。

「指揮車、支援車、先行させる。準備できた小隊から追従せよ」

 アヅマは自分の乗る8輪装甲車や重力波ビーム供給車を先行させた。エステと基本的に足の速さが違うためだった。

「マキ小隊追従します」

空戦フレーム装備のマキ小隊が素早く準備を終え出発した。すぐに先行したアヅマの隊を追い抜き先頭にたった。

 

 

 

 イズミは信じられない光景を目の当りにした。

 第13軍が押し流されていた。圧倒的な物量で押してくる木星軍によって。まるで洪水に立ち向かう家のように、直ぐにボロボロに成っていった。

「全機、分隊を維持しつつ交戦せよ。絶対に単機になるな」

 イズミの命に従い部下たちが2機づつになって交戦を開始した。

 地上では第13軍残存部隊が必死の抵抗を続けていたがそれも次第に減っていった。

 

 バッタどもの放つミサイルが次から次へとディストーションフィールドに命中し、弾き返される。片っ端から落としているのだが、一向に減った気がしない。

「弾倉交換!」

 部下の1機が弾巣交換の申告をしてきた。一体何回目かわからない。はっきり言って不味い状況だ。

 35o突撃銃。こんなもの選んでくるんじゃなかった。弾がすぐ無くなる。

 エステバリスはまだ正式化されておらず、武装も試作段階のものが多数ある。その内の一つがこの突撃銃だ。他に20o自動小銃と12.7o機銃があった。銃自体の大きさはそれ程変わらないため、口径が小さいほど弾が多くなっている。

「全機。残弾報告せよ」

 たまらずイズミは残弾の報告をさせた。その結果このままでは後10分で全機弾薬がきれる事がわかった。考えているうちにも弾は減っていく。

 くっ。もっと早く決断していれば、最低限だがエアカバーを続ける事が出来たものを。

 今からでは補給に一部を戻しているうちに残りは弾薬が切れる。全機で後退するしかない。戦闘団本隊はすでに別の敵と接敵しており、増援は無い。

「全機に告ぐ。後退して補給を受ける」

 今、下で戦っている者にとっては事実上の死刑宣告であった。

「第21機械化連隊、こちら実験戦闘団付属飛行隊。これより補給のため帰投する。・・・すまない、直ぐに戻ってくる」

 約束できない約束を口に出してしまった。イズミは自分が追い詰められている事を改めて確認した。少しでも精神的に楽になりたいのだ。

「実験戦闘団付属飛行隊、こちら第21機械化連隊。後方には民間人の多くが残っている、撤退を支援してやってくれ。こっちは自分たちでどうにかするさ」

 彼等は軍人。その責務を果たすつもりだ。

「そう・・・幸運を」

 イズミから、今贈れる精一杯の言葉。

「我々に必要なのは武運だ。幸運が必要なのは君達だ。以上」

「ありがとう。・・・離脱する」

逆に励まされ、マキ小隊は離脱した。

 途中数度敵部隊と遭遇。弾薬のほとんどを失い帰還した。

 

「敵・第14派確認。カク小隊迎撃体制を整えよ」

 アヅマ率いる実験戦闘団本体は、たび重なる敵部隊との戦闘で疲労が溜まってきた。

「全員気合いれろ!ヘたっているひまなんぞねーぞ」

 リョウコの叱咤が飛ぶ。

「うーん、元気元気。負けないもん」

「ピンチほどヒーローは燃えるものだ!熱血」

 などと答えが返ってきた。

まだ心は折れていない。

「団長。マキ小隊、弾薬の補給のため、一時戦線を離脱しました」

 オペレーターの報告に適当な返事をしながら、アヅマは今後の作戦行動を考えていた。

 すでに戦線は崩壊し、敵と味方が混在してしまっている。救助すべき味方はあちこちに存在し、民間人の避難も出来ていない。最悪だ。キャンプには撤退命令を出すべきかもしれない。ちっ、俺はただの少佐だ!

 アヅマは、決断した。

「オリベ大尉に連絡。キャンプ地を放棄する。支援各隊はモスクワまで、第二次防衛線まで撤退せよ」

「我が隊は、機動防御を行いつつ友軍各部隊の撤退を支援する」

 上級司令部よりの命令無しにアヅマは撤退の命令を出した。本来誉められた事ではないが敵に戦線を突破された現在、維持する戦線など無かった。

「戦闘団本部、こちら支援大隊。マキ小隊の補給後、キャンプ地を放棄し撤退を開始する」

 オリベからの報告。

 これで一つ心配事が減る

「まずは、目の前の敵を片付けるぞ」

 全小隊の攻撃の圧力が上がった。

 

 

「マキ第2分隊。補給のために後退せよ」

 すでにマキ小隊各機は5回以上出撃を繰り返している。数少ない空戦フレームのため、酷使され続けていた。

すでに小隊単位として運用されておらず、分隊、時には1機単位で運用されていた。

「落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ〜!」

 ヒカルが12.7o機銃を撃ちまくっていた。当たっているのだが、なかなか落ちない。弾が軽すぎるのだ。

「あ〜ん。リョウコと同じ20oにすればよかった〜」

 後悔先に立たず。この意味がよくわかった。

 そんな中、一本の救援要請が飛び込んできた。

それは、最悪の所からだった。

「こちらP−7難民キャンプ防衛隊。敵部隊と接触。現在交戦中!来援を求む。・・・・・・だれか来てくれ」

 隊員たちは、色めきたった。

「団長。助けに行かなきゃ」

「そうだよ、団長。いこうぜ!」

「・・・・・・」

 ヒカルとヤマダが真っ先に言って来た。だが、アヅマは答えない、答えられないが正解だった。

 リョウコも声が出なかった。

助けたい。だが、戦闘団全体を危険にさらしてしまう。

自分の目の前に出ている、戦略スクリーンの内容がそう示している。

しかも、間にあわない。

機動防御戦闘を行い、移動し続けたがP−7の位置から70qも離れた所にいる。

平時なら全く問題にならない距離だ、1時間もあれば到着する。だが戦闘時には、絶望的な距離になる。

「団長。イズミを先行させれば、あるいは・・・」

「リョウコ。本気で言っているのか」

 アヅマもリョウコも同じ戦略スクリーンを見ている。判断がずれる事はほとんど無いはずだ。

「たった5機で何が出来る。ドラマや映画では無いんだぞ。嫌がらせするのが関の山だ」

「だ、だがよ・・・」

それでもリョウコ食い下がってきた。

「しかもそれは、到達出来ればだ。」

 そんな事はリョウコもわかっていた。

戦闘団とP−7の間には敵主攻が横たわっていており、現在までに小型機動兵器、10,000機、戦闘艦、100隻。その上敵母艦も4隻確認された。他にまだ存在する事は確実だった。

「と、言っても見捨てるには忍びないな。戦闘団全体で支援する。幸いこの地域の味方は混乱から立ち直ったからな」

 そういい、戦略スクリーンを各機に転送。作戦を伝えた。

それは大規模な迂回作戦であった。

敵部隊が通りすぎたあとの空間を縦断して救援に向うというものだった。移動距離約200q、到達予想時間6時間。

 実験戦闘団は現在の敵を駆逐しつつ、迂回作戦を開始した。

 

 

 

 

 

「・・・なに・・・これ・・・は」

 作戦開始から10時間、予定より4時間遅れで、先頭のアマノ小隊がP−7に到着した。そこには冗談のような光景が広がっていた。

 ヒカルは部下が止めるのも聞かずに機体から降りた。

 

 永遠と続くような人・人・人・人・人・人・人・人・人であった。

 

 首だけが集められた場所。

 

串刺しにされた人がいく人も並んでいる場所。

 

 いく人もの人たちが複雑に絡み合ってまるでオブジェのようになっている場所。

 

 腕や足を切り落とされだ、人が並んでいる場所。

 

 腹が裂かれ、内臓を外にまるで噴水のように吐き出した人が集められている場所。

 

 etc・・・・・・

 

男も女も老人も子供も全ていた。

 

 そこには死が充満していた。

 

だが、生きた人は1人もいなかった。

 

 ヒカルは遠くで声がするのを聞いた。部下が慌てて本隊に連絡を取っているようだ。

ふと、近くの死体に目が止まった。見知った顔がそこにあった。

この前マンガの話をしていた男の子の1人だった。

股が裂かれ、痛みのにより凄まじい顔をし、凍り付いていた。そのため一目でわからなかった

 ・・・ワタシ・・・モウダメ・・・ダ・・・

 ヒカルは、その場にへたりこみ、涙が出た。だが、ロシアの冬は涙を凍り付かせ、涙が落ちる事は無かった。

 ワタシハ、ナクコトモデキナイノ

 ヒカルは、ただ、悔しかった。

 

 後続の各隊が続々と到着し始めたが。みな言葉無く呆然と立ち尽くしていた。数少ない例外も怒りに震えていた。

「ぢぐじょ〜!木星軍の奴ら!ぜっていに許さん!許さんぞ〜!!」

 ヤマダが全員を代表するかのように、吼え、その手を地面に打ちつけていた。

「・・・こ、こんなのって。ひどいよ」

 リョウコは両手で自分の体を抱きしめて震え、イズミはただ、立ち尽くしていた。

 

「貴様ら!何をしている」

 外部と連絡していたアヅマが戻ってきた途端、叫んだ。

「かわいそうに。いつまであんな姿をさらさせるつもりだ!」

 アヅマの一喝で部隊がまた、動き出した。

 パイロットたちが、エステで地面に穴を掘り始めた。冬のロシアでは穴を掘るためには、爆薬を使わなくてはならないほど堅く凍り付いている。

 死体も凍り付き、形を変える事が出来ない。

仕方なく穴を大きく掘りそこに埋めていく。

バラバラな死体は多分そうだろうと思われる、1人分のパーツを集め、埋めた。

 そんな時一人の隊員が一枚のプレートを見付けた。

そこにはこう書かれていた。

「正義の鉄槌を、邪悪なる地球人に下した記念にこの碑をここに建てる。木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ・及び他衛星国家間反地球共同連合体・地球攻撃総軍・欧州進行軍」

 そのプレートを読み上げた隊員から、ヤマダが強引にプレートを奪い。へし折った。

「ふざけるなー!てめーらこそが邪悪な悪の帝国だ!」

 作業はオリベたちが増援に事により、翌朝までに終了した。

のちモスクワに撤退を行った。

 

 

 

 

 

 

 

 三日後

 

第二次防衛線内モスクワ市

 

「アヅマ、話とは何だ」

 ウリバタケが不機嫌な顔で入ってきた。書類仕事中だったアヅマは中断し、ウリバタケにもっと近づくように、手まねきをした。

「話とは何だ」

 もう一度繰り返した。この前の一件からまだだれも立ち直っていない。みんなイライラしていた。

「この前の集計が出てきた。だが、死体が少ない事に気付いた」

「ふざけるな!死体が少ない。だと!もっと死んでれば良かった。とでも言うつもりか」

ウリバタケが叫んだ。だが、アヅマは冷静に話し始めた。

「焦るな、人の話は最後まで聞け。・・・いいか人数のことを言っているのでは無い。死んでいるとされている人間の数と、死体の数が合わないと言っているのだ」

 そう言うと、死亡者リストと遺体確認済みリストを差し出した。ウリバタケは奪うようにそれを見た。

「・・・確かにズレは有るが、こうゆう場合は良くある事だろ」

「確かに、そうゆう事はある。・・・だがな、女ばかり消えているのはおかしくないか」

 ウリバタケは改めて最初から確認しなおした。

「確かに、若い女ほど、確認されていない・・・・・・まさか、おい」

 アヅマは陰惨な笑いを浮かべていた。ウリバタケが思わず恐怖を覚えるほどに凄まじい笑いだった。

「多分、そうだろう。木星の連中は現地調達を始めたらしい。そこで一つお願いがあるわけだ」

 デスクから、一つの箱を取り出し、投げてよこしてきた。箱に書かれている文字が何であるか示していた。

「何だこれは?・・・オイ!これって。まさか」

「うちの隊員は女性の比率が高く、しかも幸か不幸か美人が多い。そこでそいつをアサルトピットの中に置いておいてくれ」

 ウリバタケに視線に、少し肩をくすめてみせる。

「奴らに捕まったらどんな目にあうかわからん。それならいっそのこと・・・と思ってな」

 その箱は、軍の特殊部隊員が機密保持用に携行が義務付けられている自決用の毒薬であった。

 

 

 

翌朝、木星軍がモスクワ市内に突入してきた。

 

 

 

予告です。

 

第212宙雷戦隊は火星まで進出してきた。

火星に物資投下するために。

だが一本の通信が運命を変えた。

―地球は火星を見棄てようとしているのに、火星は地球を見棄てていない―

戦隊司令官カンベ准将は自分が何者かを思い出した。

簡単な事であった。

ふと、カンベはここに至る過程を想いおこした。

今始まりの大地に突入する。

 

次回、機動戦艦ナデシコ 欧州撤退戦

 

第2話

 

「始まり」

 

―我々連合宇宙軍軍人の基本的使命は、市民の生命と財産を守る事である―

 

見てください。

 

 

 

後書きです。

赤とんぼです。

予定より随分投稿が遅れました。

・・・まぁ、誰も気にしてはいないでしょうね。

 

最初にお詫びです。

実は私、木連が嫌いです。

地球連合も好きでは無いですが、木連に比べればかわいいものです。

木連好きやロマンを感じていられる方には不快な想いをさせてしまうかもしれません。

人間としては「好き」と言える人物もいますが政治体制による言動が嫌いなのです。

その為に扱いがもの凄く悪くなります。

非人道ぶりは連合のそれを遥かに超える予定です。

今回のもその流れによります。

ここの人は気にしないかもしれませんが。

 

次回は火星の話のはずですが随分変わってしまっています。

何所まで流れてしまうのか心配です。

 

それでは皆さん失礼します。

第二話・始まり。でお会いできる事を楽しみにしています。

 

次は早かったら良いですね・・・

 

 

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

とりあえずてにをはをどうにかしてください。

「ディストンションフィールド」のような誤字もどうにかしてください。

無意味な残虐描写もどうにかしてください。

 

私は貴方の残虐性を見せ付けられて楽しめる精神状況には無いのです。

あなたは木連が嫌いと言いますけれども、残虐な描写をして楽しんでいるのは作者である貴方なのです。

ヘイトというのは誰かを醜悪に書くことによって自分自身の憎しみをその誰かにぶつけているだけに過ぎないのです。