「The map of a blank paper」
第6話
連合宇宙軍 第三艦隊旗艦
ミスマル・コウイチロウは地球大気圏を抜け、ターミナルコロニー、タキツへ向かう旗艦の中にいた。
十数時間前に発生した巨大なボソン反応の調査に、統合軍のみならず宇宙軍にも命令が降りた為だ。
火星の後継者の事件以後緊急発進など行う機会はほとんど無かったが、良く訓練された軍人達は自らの持てる力を存分に発揮して驚異的な時間で旗艦の発進を終えていた。
最大船速で地球重力圏を離脱する艦の艦橋で幕僚を相手に話をしている。
「やれやれ、各コロニーの反応から場所を割り出してみれば火星軌道の外側とはまた遠いな。お呼びがかかったがあそこらへんは統合軍の管轄だろう。我々が行っても縄張り争いになるだけでロクに調査もできん。」
「そうは言っても命令ですから。連合政府からの正式な命令を無視する訳にもいかないでしょう。」
「無視はせんよ。ただ、我々が統合軍と争って良い事など何も無いということだ。」
随行する駆逐艦等もふくめた艦隊状況を映し出すモニターを見ながら椅子に深く座り直し、首をふった。
「しかし、指令自ら現場に出なくてもよろしいのでは?」
「連邦政府のお偉方は今回の事も火星の後継者が起こしたのではないかと疑心暗鬼になっておるからな。前例のある統合軍では心許ないので連合宇宙軍を抑えに使おうという魂胆だろう。現地にわしがいることで睨みが利けばよいと思っておるのではないかな。」
自らが道化を演じている事を自嘲する。
「まあ、ここから先はゆっくり行けば良い。タキツまでの所要時間とその後の予定は?」
「はっ、タキツ到着は2050。コロニー公社へ各種記録の提示を求めて聴取と調査を行い、2230にゲートより当該空間の最寄りターミナルコロニーへジャンプする予定です。」
「無用な衝突は避けたい。コロニー滞在時間をもう少し伸ばしてかまわんぞ。理由は調査に万全を期す為とでも答えておけ。」
「了解致しました。」
幕僚が艦隊へ司令を伝える為離れると、通信士から連絡が入った。
「ミスマル指令、宇宙軍本部より通信が入っています。」
「本部から?誰だ?」
「イネス・フレサンジュ博士だそうです。」
「イネス博士?・・・かまわん繋いでくれ。」
通信ウィンドウが広がり、宇宙軍本部が映し出された。
画面中央に女性が立っている。
「やあ、イネス博士。お元気そうで何よりだ。」
『こんにちは、ミスマル指令。』
画面に映る美女がにこやかに返礼をする。
「宇宙軍本部からイネス博士が連絡とは驚いたよ。何かあったのかね?」
『ルリちゃんにお願いして繋げてもらいました。通信ではお話出来ない内容なので直接お会いしたいのですが・・・・何処かで会って頂けませんか?』
「まさかユリカの身に何かあったのかね!?」
愛娘の事となるといてもたってもいられないらしい。通信ウィンドウを破らんばかりの勢いだ。
「い、いえ。ユリカさんは大丈夫です。先ほど軍病院へ行って確認してきましたが快方へ向かっていますわ。」
イネスが狼狽えながら画面から引き、答える。
コウイチロウが通信ウィンドウへ詰め寄った為、本部の方ではウィンドウ一杯の巨大コウイチロウが表示されたのだ。
「そうか、それは良かった。」
一人納得するコウイチロウ。
「ふむ・・・会って話をするにしても現在我が艦は作戦行動中でタキツへ向かっている最中だ。地球に帰るのはかなり先になりそうだが。」
『・・・タキツ?作戦目的地を一般人に公開してもよろしいのですか?』
「かまわんよ。極秘任務という訳ではない。イネス博士ならもう知っているだろう?ターミナルコロニーで観測されたボソン反応の調査だよ。・・・・おお、どうだねイネスさん、貴方なら適任だ。調査を手伝ってくれんか?」
『お誘いいただけたのは光栄ですが、私も色々と都合がありますので・・・』
イネスが本当に残念そうに返答をする。
「そうか、貴方なら原因を突き止められると思ったのだが。」
こちらも本当に残念そうに答えるコウイチロウ。
『お力になれず残念です。ところで行き先のタキツで時間は取れませんか?』
「わしはコロニー管理部へ挨拶に行って会談があるだけだから取れなくは無いが・・・まさか直接コロニーへジャンプするつもりかね?」
『タキツには何度か行った事がありますから。ミスマル提督の都合に合わせます。なるべく早くお話をさせて頂けませんか?』
「わかった。時間調整が出来次第、連絡をしよう。ネルガル本社で良いのかね?」
『はい。それではご連絡お待ちしておりますわ。ミスマル提督。』
ウィンドウが消え、少しの間静けさが戻った。
「直接コロニーへ跳ぶ、か。わしらは船を使って時間をかけて到達する所へ彼女は一瞬で行ける。・・・畏怖し、利用しようとした草壁の気持ちが少しはわからんでもないか・・・・・」
虚空を見つめたまま、己の心の内を漏らす。
「総司令・・・」
最も近くにいた副官が声をかける。
他の将官に聞こえる声量では無いが、その発言は他人に聞かせるような物では無かったからだ。
「心配するな。草壁の思想に共感しているのではない。ジャンパーという者に対しての心情だ。私には娘のユリカもいる。理解はしているつもりだが・・・・人と違いすぎる力というものは拒絶と嫉妬しか生まないか・・・・・その為にアキト君は・・・・」
息子と呼んだ事もある青年の名を呼び、娘と息子が巻き込まれた痛ましい事件を思い出していた。
「ミスマル指令・・・・」
ある程度事情を知らされている副官はかけるべき声が見つからなかった。
「ああ、すまん。部下に心配をかけさせるようではワシもまだまだだな。」
苦笑いをしながら指令席から立ち、傍らの副官の肩を叩く。
「こんな事ではいかんな。父親としてしっかりせんと。」
「いえ。心中お察し致します。」
コウイチロウは頭を下げる副官に感謝した。
「世話をかけるな。」
「いえ。」
自らの思いを振り切るかのように頭を振ると、笑いながら声を出す。
「イネス博士のおかげでユリカもICUから出る事が出来、回復に向かっているのだ。彼女には感謝の言葉がいくらあっても足りんよ。」
普段と変わらぬ態度を取り戻すと、艦橋にいる者達へ指示を出した。
「さて、タキツでのわしのスケジュールを調整してくれ。おお、重要人物に会うという名目で滞在時間をさらに引き延ばしていいぞ。」
地球帰還軌道上 ネルガル会長専用機
「一番先にルリちゃんに会いに行ったみたいね。今も色々と動いているわ。」
エリナが地上からの報告書を読み上げる。
「やれやれ、イネス君もどうしたのかね?色々と手伝わされて大変だったというのに地球に戻らなければならないとは。」
文句を言いながら、専用機の中に作られた会長用のデスクに積まれた書類と格闘するアカツキ。
その会長の横に立った巨漢が書類を取り替えつつ整理するという雑用をこなしていた。
「簡単な暗号文しか送ってきませんでしたから詳しい事はわかりませんが、主要なナデシコクルーを集めているようです。本社に戻れば何かしらの説明があると思われます。」
巨体に似合わず、てきぱき細かい仕事をする姿はかなりの違和感がある。
「そう願いたいよ、ゴート君。委任状まで取られて佐世保では派手にやっているようだしねぇ。プロス君、予算足りるのかい?」
プロスと呼ばれたチョビ髭メガネの男が書類を見ながら説明を始めた。
「それが、会長の予算は少し減っている程度でほとんど使われておりませんな。」
「?それじゃあ何処から金が出てるんだい?・・・・まさか僕の個人口座からじゃないだろうね!?」
急いで端末から自分の隠し口座を確認しようとするアカツキを押しとどめ、プロスが説明を続ける。
「いえ、イネス博士が行っている作業のほとんどがナデシコBに関する事です。元々定期点検整備で連合宇宙軍から金が出ておりましたからな。その内容が大幅に書き換えられただけで・・・・特に主機関と並んで整備に金のかかる兵装部分を全てはぶいて、その分を他に回している様なのでトータルでの出費は少ないという訳です。」
「・・・それって大丈夫なのかい?」
手の止まったアカツキにゴートが容赦なく書類を押しつけた。
「連合宇宙軍に知られれば契約違反で違約金をがっぽり取られそうですが・・・・・どうやらそこら辺はルリさんが誤魔化してくれているようですなぁ。」
チョビ髭が説明を続ける傍らでアカツキが必死に書類をこなしていく。
「ルリくんが?そりゃまあ、彼女にかかったら書類上は誤魔化せるだろうけど、定期点検が終わって連合宇宙軍に納める時には、ばれるよねえ?」
「その可能性はありますが、ルリさんが艦長ですからな。どうにかしてくれるでしょう。」
「どうにかって・・・・ルリくん次第かい?」
「全ての武器が使えないと言う訳ではありませんし、戦闘になりそうな事と言えば火星の後継者残党追跡の件ぐらいですが・・・」
プロスは手元の資料をめくって説明を続けた。
「火星の後継者残党との戦闘については、回数こそ多いもののアキトさんですら数ヶ月間大規模な戦闘にはなっておりません。恐らくゲリラ戦しか出来ない程兵力が減っていると思われますな。ナデシコBも何度か残党と遭遇しておりますが、戦闘にもならず相手から投降してきているので問題は無いかと。」
「アキトは、残党が投降の意志を示しても無視して殲滅するからな。受け入れてくれるナデシコBは案外ありがたい存在になっているのかもしれん。」
「さすがに次の定期点検までそのままと言う訳には行かないから、一応月ドックの方へ兵装交換部品は回しておくわ。任務の合間にでも隠れて交換すればいいでしょ。」
「なんとかなるならいいけど。・・・しかし減らないねぇ」
そつなくそれぞれが仕事をする中、一人溜まった仕事に涙する会長。
「他に特別な出費はCCを大量に集めている程度ですが・・・・元々さして高価という訳ではありませんし。」
「やれやれ、大丈夫かな?」
心配性な会長。
「そんなのわからないわよ。」
他人ごとの会長秘書。
「うむ。わからん。」
我関せずの雑用担当。たまに警備。
「現在の所は。この先は分かりませんな。」
電卓片手の謎のチョビ髭経理主任。
お気楽ネルガル御一行を乗せたシャトルは地球への最終アプローチに入っていった。
佐世保ドック
ナデシコBが定期点検で停泊しているドックの中、大声で作業指示をしているウリバタケ・セイヤの姿があった。
自身もドック脇に設けられた仮設クレーンを使ってエステバリスの整備をこなしている。
「相転移炉のリアクター交換終わったら次は核パルス収束器だ、交換後のパラメータ再設定忘れんなよ!」
「おい、ジャンプフィールド発生器の調整は慎重にやれ!動きませんでしたじゃ済まねえぞ。」
スパナを振り回し、どつきながら各メカニックに指示をだしていた。
「手が空いた者がいたらグラビティブラストだけでいいからメンテしとけ。イネスはああ言ったが只でさえ不完全なんだ、何かあった時の事も考えておかないとな。オペレーションシステムを最適化する余裕が無いからルリちゃんは艦の制御で手一杯になるはずだ。火器管制コントロールは副長席に繋げとけ。」
大勢のメカニックが絶え間なく動き回り、着々と整備、改造をこなしていく。
「しっかしイネスも無茶言ってくれるぜ。これだけの仕様変更を1週間で終わらせろだと?」
きっちりと自分の仕事はこなしながら他への指示を的確に行っていく所はさすがと言うべきだろう。
「しかも何だぁこの改修項目は?防御だけなら以前の2倍近い。しかし艦隊中央に突っ込んで掌握戦をするにはコンピュータはそのままだから無理・・・武装は整備しないから全力で撃ち合いもできねぇ」
文句を言いながらもウリバタケの顔には笑顔が浮かんでいた。
それは微妙に歪んだ微笑みであったが。
「どう見積もっても仕様変更指示に従うだけで手一杯だが、他の奴ならいざ知らずルリちゃんにそんなアンバランスな船渡せるか!このウリバタケセイヤ様の名にかけて戦闘にも耐えられる状態にして引き渡してやらぁ!フフフ・・・見てろよ、イネス!」
スパナを握りしめて高笑いを続けるウリバタケの傍らで呼び出し音が鳴る。
『ウリバタケ主任!』
メカニックの一人がコミュニケで呼びかけてきた。
「おう、何でぇ?」
『オペレーションシステムと既存のレーダー管制が接続できないんですよ。何度か試してるんですが上手くいかなくて・・・・』
現場のメカニックが困り果てた表情をしている。
同じチームのメカニックが背後でチェックを繰り返しているのが見えるが、状況は芳しくないらしい。
「あぁ?規格は合ってるだろうが、全く駄目なのか?」
『いえ、物理的な接続は出来ているはずなんですが、システム側に入力が来ないんですよ。ダミーデータ流したりして試してるんですが反応が無くて・・・』
「レーダー使えなきゃ目隠しして飛ぶようなもんじゃねえか。もう少し試してみろ。こっちで都合して助っ人を送ってやる。」
『すいません、お願いします。』
コミュニケを切ると艦橋付近を見上げ頭を掻いた。
「まいったな。途中の回線の問題ならいいが、システム側の問題だと原因究明に時間がかかるぞ・・・・ハーリーかルリがいれば話は早いんだろうがなぁ・・」
ぼやくウリバタケの背後に近づく人影。
「いますよ。」
「!?!?」
突然かけられた声に驚くウリバタケ。
「おいおい、驚かせないでくれ。こっちに来るとは聞いてねぇぞ。」
ウリバタケの背後から私服姿のルリが姿を現す。
「イネスさんが私の予定を全てキャンセルして暇だから、オモイカネとお話ししようと思って。」
ルリの服は白のワンピースに薄いグリーンのスカートを組み合わせ、髪の色と相まって良く似合っている。
その姿を見たウリバタケはすぐさま手近にあったカメラで盗撮録画を始めた。
私服姿のルリの映像は貴重品だ。宇宙軍、統合軍問わず画像の収められたディスクが高値で取引されている。
今のルリの服装は、ウリバタケに売り上げ過去最高記録を予感させるほど似合っていた。
「オモイカネと?今朝調整は終わったんじゃ無かったか?」
「終わってます。仕事じゃ無く、ちょっと個人的な相談です。」
ウリバタケの動きを気にする事もなく、ルリは作業台の近くにあった椅子に座る。
「オモイカネに相談?」
ウリバタケはコーヒーを用意してルリの前に置くと、自分もルリの向かい側に座った。
ルリに隠れてコミュニケを使い、全メカニックに『ルリ撮影中接近問い合わせ禁止』を通達して付近から人を遠ざける。
ウリバタケが周囲への警告を発している間、ルリはコーヒーをかき混ぜていたが、ぽつりと言葉を漏らした。
「迷ってる事があります。」
「迷うって何を?」
「ある所へ・・・行くかどうかです。」
呟くように言葉を出すルリの表情は冴えない。
「ルリちゃんが迷うとは珍しいな。」
ウリバタケは普段見慣れないルリの自信なさげな姿に驚いた。
「行かなくても問題無しです。でも行くべきだ、という気もします。」
ルリは視線を落としたまま、自らの迷いを言葉にしていく。
「矛盾してます。でも自分で整理出来ません。」
小さく首を振り、物憂げな表情をする。
「?良く分からんが・・俺で良ければ相談してみな。」
「ウリバタケさんに?」
ルリはウリバタケの言葉に伏せていた顔を上げた。
「おう、知識ではオモイカネに敵わねぇが、人生経験はあるしな。一人で悩んで解決しない時は人に話してみると意外と簡単だったりするぞ?」
ウリバタケの言葉に、しばし考え込んでいたルリが口を開く。
「・・・・そうですね。ウリバタケさんなら適任かもしれません。」
何を基準に適任と言っているのか、ウリバタケには解らなかった。
ナデシコBについてルリが悩む事は無い。いつもウリバタケに遠慮無く言ってくる。
オモイカネについても同じだ、思い悩む必要性が無い。
それ以外で相談するよう事は・・・・ウリバタケには想像もつかなかった。
ウリバタケの思考をよそに、ルリが質問する。
「ウリバタケさん。」
「なんだ?」
「あなたは・・・・・自分の子供に『明日から会えない』、と言われたらどう思いますか?」
「・・・また変わった質問だな」
ウリバタケはルリからの意外な質問に戸惑った。
ルリから親子の事について質問されるとは思っていなかったからだ。
「・・・・・・そうだな、寂しい、だろうな。」
「寂しい、ですか・・・」
「あぁ・・子供はいつか親から離れていくもんだ。覚悟はしていても・・・・寂しいと思うね。ま、二度と会えない訳じゃない。離れても元気でいてくれればいい。」
ルリの意図する事がわからないが、自らの子供にあてはめて心情を伝える。
「・・・・・・・・・」
「たまに顔を見せて、少し話しでも出来れば寂しさも我慢できるさ。」
ウリバタケの言葉にルリの反応は無かった。
余りの反応の無さに不安を覚え、ルリに声をかけた。
「いや、まあ、それ以外にも電話や・・・」
ウリバタケの言葉を遮るように、ルリが質問をする。
「2度と会えなければどうです?」
「ん?」
「遠くに、とても遠くに離れて、もう2度と会えない、連絡も出来ない。子供はそれを知っていたら親に別れの言葉を言うべきですか?」
ウリバタケに問いかけるルリの表情はさらに暗く、心の中にわだかまっている思いの深さが見て取れた。
「・・・・・どうした?さっきから変だぞ?まるで・・・・・・」
「ウリバタケさん、答えてください。言った方がいいですか?言わない方がいいですか?」
今まで聞く事の無かったルリの真剣な口調に、ウリバタケは少し考え込み・・・・
そして口を開いた。
「・・・そうだな、2度と会えないのが分かってるなら・・・・・俺なら・・自分の子供には言って欲しい、な。」
「・・・・・・・・・」
ウリバタケは、ルリの質問から導き出される答え、その内容と目の前のドックで行われている事が一瞬頭の中で結びつくが、すぐに思考の隅に追いやり、質問へ答える事に集中する。
「もし・・・・・その会えなくなる子供が覚悟をしているなら、その意志は伝えなければ意味がねえ。伝える為には・・・・話はしないと駄目さ。会って話をして、その目と態度に決意の色が見えれば親は納得するしかねぇんだ。」
「最後だと言ってくれれば、自己満足に過ぎねえかもしれんが精一杯の言葉と愛情を伝えてやる事が出来る。頑張れと励ます事も出来る。別れてしまった後も自分の心は伝えた、だから頑張っているはずだ、元気でやれよ、と祈る事も出来る。」
今まで両親の事など滅多に口にしなかったルリが、それを相談してくる・・・ウリバタケには事の重大さが十分理解出来た。
「だが、普段と同じように接して、そのまま別れちまったら・・・・悔やむだろうな。何故もっと話を聞いてやらなかったのか、もっと話していれば止める事が出来たんじゃないか、最後の時、何か言いたい事があったんじゃないかって、日々自分を悔やみ続けるだろうな。」
「別れる子供も、後で悩むよりは言った方がすっきりするさ。その場で喧嘩になったとしても、自分の意志を伝えていれば・・・いつかは自分の事を理解してくれるかもしれないしな。」
「例え短い時間でも、話をしてお互いを理解するんだ。それは親と子供の最低限の義務だと思うがな。」
「・・・・・そうですか。」
「ルリちゃん。」
「はい。」
「俺はこんな事しか言えねぇが質問に対する答えになったか?」
ルリに普段全く見せない父親の顔で語りかける。
「まだ迷ってますが・・・参考にはなりました。」
ルリの表情が少し普段の顔に戻っていた。
「そうか。」
ウリバタケは自分の言葉が少しはルリに通じた事に安堵する。
「最後に・・・これは独り言だ。すぐに忘れてくれ。」
「?」
「ナデシコBはきちんと仕上げてやる。その間にきちんと話をして、心を軽くしてから帰って来い。」
「・・・・ウリバタケさん・・・」
「独り言だ。返事はいらねぇ。」
少し照れくさいのか横を向いてコーヒーを一気に飲み干した。
ルリはウリバタケの心遣いに感謝する。
「じゃ、これも私の独り言です。」
ルリは手にしたコーヒーを見つめ、誰に聞かせるでもない様子で言葉を出す。
「ありがとう。ウリバタケさん。」
コーヒーを飲み干したルリが椅子から立ち上がる。
「私、ブリッジ手伝ってきます。」
「おう、たのまあ。あれだけのシステムになるとオペレーターがいないと調整が大変でな。」
「はい。」
明るく返事をしたルリは艦内へ向かった。
ウリバタケは小さくなっていくルリの姿にため息を吐く。
体を動かして物陰に置いてあったカメラを手に取ると録画していたディスクを抜き、手にしたスパナで粉々に打ち砕いた後ごみ箱へ放り込んだ。
「・・・・・がんばれよ、ルリちゃん。」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
自らの才能とボキャブラリの無さを痛感する次第です。
後半のルリとウリバタケの会話、苦労しました。
本当に苦労しても、この程度の物しか書けませんでした・・・許してください。
この様な文章を読んで頂けて感謝致します。
変な所等ありましたら遠慮無くご指摘下さい。
代理人の感想
難しかったと思います。
でも、それなりに成功してると思います。ウリバタケ、いい感じでした。