人類存亡の鍵を握るユリカを守るべく過去に向かったアキト、ジュン、ハーリー。
だが、その存在はすでに木星の遺跡に知られていた。
「敵対異分子の存在、確認。妨害工作、開始」
この遺跡の工作によって、ある人物の人生が大きく狂わされることとなる。
その人物とは……いったい……。
・ 第一話 『[男らしく]でいこう!』 自分が望む場所 ・
〜 ルリ 〜
「ハーリー君!! 急いでアンカーを切り離して!!」
目の前でボソンの光に包まれていくユーチャリスを見ながら、わたしは必死にナデシコCを守ろうと指示を叫んでいました。
しかし時はすでに遅く、広がり続けたジャンプフィールドは私の乗るナデシコCさえ飲み込み、私の視界はそこで途絶えました。
いったいどこに飛ばされるのでしょう?
でもどこに飛ばされてもいい。あの人のいる場所なら。
わたしは薄れていく意識の中でそう願っていました。
……そうして、どれぐらいの時間が経ったのでしょうか。
「う、ぅぅうん……」
わたしはゆっくりとまぶたを開き、まだハッキリしない意識の中でただボォっと周囲を見渡してみました。
見覚えのある景色。でもナデシコCのブリッジではないですね。
ここは……。
「あのぉ……大丈夫ですか?」
あら、その声は……。
「ハーリーくん?」
「はい。そうですけど……大丈夫ですか?」
「えぇ、平気です。それより状況の報告、お願いします」
「はぁ……いいですけど。現在ナデシコはサセボ・ネルガルドックで発進準備中です。発進予定時刻は八十四時間後、今はオペレーターの僕たちがオモイカネの調整と艦のチェックをしている最中です」
「いつの間にかサセボに来ていたんですか……」
「いつの間にも何も、ナデシコはまだ一度も発進したことないじゃないですか」
……? なにを言っているんですか。ナデシコCはもう何度も運行して……えっ?
思考がそこまで行き着いたところで、わたしの意識はようやくハッキリしました。
ここはナデシコCのブリッジじゃない。でもここはナデシコ。
じゃあナデシコB? 違う。ナデシコBのブリッジでもない。
忘れるはずがありません。ここは、このブリッジは……。
「ナデシコ?」
「さっきからそういっているんですけど……」
そう、そこは間違いなく一番初めの、もう失われてしまったはずの初代・ナデシコAのブリッジでした。
「ルリさん、寝ぼけているんですか? もうすぐ艦長だって来るのに」
「えっ? 艦長、ですか?」
「はい。この人です」
そう言うハーリーくんの操作で、わたしの目の前に一枚のウィンドウが表示される。
そこに書かれていたのは、見覚えのあるものでした。
『ミスマル・ユリカ。年齢は二十歳。火星出身。性別、女性。
地球連合宇宙軍提督ミスマル・コウイチロウのひとり娘で、地球連合大学の戦略シミュレーション実習を首席で卒業』
それは、わたしがナデシコに乗ったときのユリカさんのプロフィールでした。
ご丁寧に3サイズまで記入されていますけど。
「これは……いったい」
「……? えっと……ひょっとして、艦長ですか?」
事態がよく飲み込めていないわたしに、隣にいたハーリーくんが声をかけてきました。
「えっ?」
「いえ、ですから、『ナデシコC艦長のルリさんですか?』って聞いているつもりなんですけど……」
「そう……ですけど……」
「……ということは、無事にこっちに来れたんですね。よかった」
「こっち? どういうことですか?」
「簡単にいうと、ここは過去。2196年です。ちなみにここは発進を待つナデシコAのブリッジ」
ハーリーくんの言葉を聞いて、わたしは目を丸くしました。
ここが、過去? たしかに目線が幾分か縮んだ気がしますし、服装もあのころの制服です。
そういえばイネスさんが『ボソンジャンプは空間移動ではなく時間移動だ』と言っていましたね。
あのときのランダムジャンプの影響でわたしは過去に、あのころのナデシコに戻って来てしまったんですね。
「……あの、ルリさん?」
「あ、はい。なんですか?」
なんだかハーリーくん、わたしのことを『ルリさん』と呼んでいるみたいですね。まぁここではわたしは艦長じゃありませんからいいんですけど。
……なんだか変な感じです。
「僕、これから医務室にいるラピスの様子を見てきますけど、ルリさんはどうしますか?」
「ラピス……ラピス・ラズリですか? でも彼女はこのころまだ、ナデシコにいなかったはずですけど……」
「それをいったら僕だってここにいませんよ」
そういえば……そうですね。
どういうことなんでしょう。ここは過去のはずなんですけど、わたしの記憶と微妙に違う点があります。
とにかく、一度彼女にあってみる必要がありますね。ひょっとしたら彼女も……。
「わかりました。わたしもいっしょに行きます」
「そうですか。それじゃ行きましょうか」
そんなわけで、わたしとハーリーくんはラピスがいるという医務室へとむかうことになりました。
ところで、今日っていったい何日なんでしょう?
〜 ラピス 〜
「アキト!! ジャンプフィールドが暴走しているよ!!」
わたしがアキトにむかって叫んだとき、ユーチャリスはすでにランダムジャンプを始めていた。
これまで体験してきたジャンプとは違う、物凄く不安定なジャンプ。
その揺らぎはわたしの意識を容赦なく刈り取っていく。
アキト! アキトのところにいたい。それが叶うならどこに飛ばされても構わない。
わたしは必死にアキトのことをイメージする。ジャンプはイメージがすべてだから。
ほどなくして、わたしの意識は深い眠りの中へと誘われていった。
そして、それからどれぐらい経ったのだろう……。
「んん……」
わたしの意識が眠りの淵からゆっくりと引き上げられていく。
どうやらわたしはどこかのベッドに寝かせられているらしい。
仰向けになったわたしの目に、見慣れない天井が映った。
「ここは……」
身体を起こし、あたりを見回してみる。
知らない部屋。でも清潔感はある。きっと医務室か何かだと思う。
でも、ユーチャリスじゃない。
ここは、どこ?
「アキト……」
わたしの口からアキトの名前がこぼれる。
そうだ、アキト。アキトはどこ?
(アキト……アキト……)
わたしはリンクを通してアキトに呼びかける。
答えはすぐに返ってきた。
(ラピスか?)
(アキト!)
嬉しかった。わたしはまだ、アキトと繋がっている。
(アキト、今どこ? アキトに会いたい)
(落ち着けラピス。いいか、よく聞け。ここは過去の世界だ。時代は2196年)
(2196年……たしか、初代ナデシコが造られた年)
(そうだ。どうやらあのランダムジャンプの影響で過去に飛ばされたらしい)
(ホントだ。わたし、六歳の身体に戻っている……)
アキトに過去に戻ったことを聞いて、わたしは自分の身体に目をやる。わたしの体は昔の、六歳のころの身体に戻っていた。
(これからどうするの?)
(俺はもうすぐナデシコに乗り込む。もう二度と、あんな思いをしなくてすむように)
(わたしは、どうするの?)
もしかしたら、わたしは捨てられるの? そんなの嫌だ。
(ラピスが今いるのはどこだ? あの研究所か?)
(えっ? えっと……)
アキトにいわれて思い出した。
ここはユーチャリスでも、昔いた研究所でもないことを。
それじゃ、ここはどこなんだろう。
そう思ったら、わたしの心にもの凄い恐怖が襲った。
(アキト、わたしは今どこにいるの? わからないよ、アキト!)
(落ち着けラピス! 大丈夫、大丈夫だから!)
(アキト! 助けてよ、アキト!!)
「アキト!」
恐怖のあまり、わたしはアキトの名前を叫んでしまった。
そのときだった。部屋のドアがシュンと小さな音を立てて開いたのは。
「ヒッ!」
わたしは思わずかけられていたシーツを握りしめて身構えた。
でも、その訪問者の顔を見たとき、張り詰めていた緊張はスゥっと消えていった。
そこにいたのは、わたしもよく知っている二人、ルリとハーリーだったから。
えっ? わたし、この二人を知っている?
わたしは自分の感じたことに戸惑いを覚えた。
わたしはルリとは何度か会ったことがある。電脳世界での電子戦で。
でもそのとなりにいるハーリーとは面識がなかったはず。それに、ルリの姿はわたしと同じく幼くなっているのに、わたしはすぐにルリだとわかった。
どうして? どうしてわたしはこんなことを知っているの?
それに、この胸が温かくなるこの気持ちは、なに……?
「あ、ラピス。もう起きても大丈夫なんですか?」
「う、うん……」
わたしは戸惑いながら返事を返す。
「ラピス・ラズリ、ですね? ユーチャリスオペレーターの」
「ルリ……。そう、あなたも」
「えぇ。そう答えるということはあなたも逆行してきた一人なんですね」
「うん。アキトもそう」
わたしがそう答えると、ルリは少し目を大きくした。
たぶん、驚いているんだと思う。
「リンク……ですか?」
「うん。ルリ、ここはどこ?」
「ここですか? ここはサセボ・ネルガルドックに停泊しているナデシコの医務室です」
「ナデシコ……」
わたしはルリに教えてもらった場所を、さっそくアキトに伝える。
(アキト、わたし今ナデシコにいるみたい)
(ナデシコに? そうか。ならよかった)
(アキト?)
(いや、なんでもない。それじゃ俺はこれからナデシコにむかうから)
(うん。あ、アキト……)
(ん?)
(ルリとハーリーも戻って来ているから)
(……そっか、ルリちゃんも)
そうつぶやくアキト。リンクから懐かしむ心が流れてくる。
(それじゃ、ナデシコで待っているよ)
(あぁ)
アキトの言葉を最後にわたしはリンクを終え、ゆっくりと瞳を開いた。
〜 ルリ 〜
わたしたちの目の前で、ラピスは目を閉じてブツブツと何かをつぶやいています。
きっとアキトさんと連絡を取り合っているのでしょう。
……少し、羨ましいです。
彼女のこの能力があるからアキトさんは無事……とはいいがたいですけど、生きていられました。
でももし、その役を担っていたのがラピスでなくわたしだったら……。
止めましょう。結局は終わったことです。
アキトさんが今どんな状態かはわかりません。でもわたしたちが昔の身体に戻っている以上、アキトさんもきっと同じように戻っているはずです。
味覚が、五感が破壊される前の身体に……。
そこまで考えて、ふとあることに気がつきました。
たしかハーリーくんって、ラピスと同い年のはずでしたよね?
前に見た資料では、たしかにラピスの2196年時の歳は六歳のはず。
そしてハーリーくんも、あの時代の年齢から逆算すると間違いなく六歳のはずです。
しかし、ハーリーくんの肉体を見る限りでは六歳とはいいがたいです。
どう見ても九歳前後に見えます。
なぜ……? どうしてハーリーくんだけ?
と、わたしがそんなことを考えているうちにラピスがリンクを終え、ゆっくりと目を開きました。
「……アキトさんはなんと言っていましたか?」
「もうすぐナデシコに来るって」
「……そうですか」
それを聞いてホッとしました。
もしアキトさんが来なかったら……。そんなこと考えたくもありません。
「……あ、ルリさん」
「はい?」
「そろそろ時間ですけど……」
「時間?」
一体なんのですか? と、ハーリーくんに聞き返そうとしたそのとき、それは鳴り響きました。
ナデシコ内部に響き渡る警報。それを聞いてわたしはようやく事態を理解しました。
もうそんな時間になっていたんですね。
残念ですけど、アキトさんの出迎えはできそうにないですね。
「ブリッジに行きましょう。さすがにオペレーターが三人ともここにいたらマスターキーがあっても動けませんから」
「そうですね。急ぎましょう」
ハーリーくんの提案にうなずきながらわたしは医務室を出ようとドアへとむかいました。
すると、ハーリーくんはラピスに目線を合わせるようにしゃがんでいました。
「ラピス、体調のほうは大丈夫?」
「うん。もう平気、急ごう」
ラピスはそういうと、モゾモゾとベッドから起きだし、わたしたちといっしょに医務室を飛び出しました。
とはいえ、わたしたちの足ではどんなに急いでも時間がかかりますね……。
わたしたちがブリッジに到着したとき、ブリッジにはすでにミナトさんやメグミさん、軍のお偉いさんにプロスさんとゴートさん、それにフクベ提督が集まっていました。
わたしたちはすぐに持ち場であるオペレーター席に戻ると、状況の把握を始めました。
「オペレーターくん、状況は?」
艦長であるユリカさんがまだ来ていないため、指示を出しているのはフクベ提督です。
「敵機動兵器、上空より多数飛来。数、およそ400」
「連合軍はすでに迎撃を始めています。しかし、今のところ敵軍に効果的なダメージなし」
「ナデシコ、相転移エンジン停止状態。マスターキー不在。ついでに艦長も不在」
わたし、ハーリーくん、ラピスがそれぞれ調べた状況を報告していきます。
その合間にわたしは格納庫の様子を……って、あれ?
どうしてまだピンクのエステバリスがあそこにあるんでしょうか?
そこにはヤマダさんが横転させたエステバリスがそのままの状態で放置されていました。
アキトさんは? アキトさんはまだ来ていないんですか?
わたしの動揺をよそに、ブリッジにいよいよあの人がやってきました。
「ぜー、はー、ぜー、はー。み、皆さぁん、私が、艦長、です。ブイ」
よほど急いできたのでしょうか。息を切らせながら艦長のユリカさんが力なくVサインを出していました。
とはいえ、力ない状態でもこんなときにそんな登場の仕方をすれば、当然皆さん呆れるわけで……。
そんなことはお構い無しにユリカさんはマスターキーをさし込み、ようやくナデシコの相転移エンジンが動き出しました。
で、艦長も到着してようやく作戦会議です。
「敵の攻撃が我々の頭上に集中していることから見ても、明らかに敵の狙いはナデシコだ」
「そうとわかれば反撃よ!」
ゴートさんがブリッジの床にあるモニターを見ながら現状について説明し、それを聞いた副提督が甲高い声を上げています。
「どうやって?」
「このナデシコの主砲を真上に向けて、敵を下から焼き払うのよ!」
「上にいる軍人さんとか吹っ飛ばすわけ?」
「ど、どうせ全滅しているわ……」
「それって『反人道的』っていいません?」
「キィイイ―――!!」
自分の提案をメグミさんとミナトさんに非難されて、副提督が金切り声を上げます。
サルですか、あなたは。
「それに、そんなことしたら落盤でナデシコがペシャンコになりますよ?」
「あ……」
当然ですよね。
地表までおよそ40メートル弱。さすがのグラビティブラストでも、ヒビ一ついれずに地盤を貫通するなんてできません。というか、連合艦の主砲とかでも絶対無理です。
いったいなんでこんな作戦を考えたんでしょうね。
ハーリーくんに問題点を指摘されて、副提督がポカンと口を開けています。
「艦長は、なにか意見はあるかね?」
「エステバリスを使った陽動作戦を行います。
ナデシコを海底ゲートから海中へ、そしてエステバリスが敵を合流地点におびき寄せた所に浮上。グラビティブラストで焼き払います」
「そぉこで俺の出番さぁ!!」
やっぱりというか、そこで名乗りをあげたのは、ウリバタケさんに肩を借り、松葉杖をついているヤマダさんでした。
「俺が地上に出て囮になる。その間にナデシコが発進! っかぁあ――!! 燃えるシチュエーションだ!!」
「……おたく、今骨折中だろ」
……バカ?
ヤマダさん、少しは自分の状態を確認してから発言して下さい。ウリバタケさんが呆れています。
……えっ?
そのとき、オモイカネを通してわたしのところにリフト上昇中の報告が届きました。
「(アキトさん、間に合ったようですね)囮なら出ていますけど」
「「「「えっ?」」」」
「ふふっ、間に合ったみたいですね」
えっ、ユリカさん?
「艦長、なにかご存知で?」
「はい。先程整備班の人達が『パイロットが負傷した』って話していましたから。一応保険をかけておいたんです」
「ほぅ、保険ですか」
ユリカさんの言葉にプロスさんが興味深そうに目を細めています。
それにしても保険って、一体誰なんでしょう?
もしかしてユリカさん、アキトさんだと気づいているんじゃ……。
「とりあえず通信を繋いでください」
「了解」
ユリカさんに言われて、わたしはエステバリスに通信を開きました。
そこには、あまりに予想外な人が映っていました。
《こちらエステバリス、ブリッジ、なにか用か?》
「おや、アオイさん。そこで何をしているんですか?」
《ユリカに囮役を頼まれた。今、地上に向かっている》
「もしや、艦長の言っていた保険とは……」
「はい、ジュンくんのことです」
ユリカさんは自信満々に答えます。けど……なんか不安。
でも、エステバリスに乗っているのはアキトさんじゃなかった。それじゃ、アキトさんは今どこに?
「エレベーター停止、エステバリス地上に出ます」
わたしが考え事をしている間に、ハーリーくんが報告を続けています。
その顔には特に不安の色はなく、とても落ち着きをはらっているように見えます。
いつの間にこんな大人みたいな顔ができるようになったのでしょう?
おっとっと、今はそれどころじゃないですね。
モニターに目を移すと、そこにはジュンさんの乗り込んだエステが地上のジョロを引き連れて合流地点へとむかっています。
その動きはまったく隙がなく、逆にジョロやバッタに隙があればそれを撃墜していきます。
でも、ジュンさんってこんなにエステバリスの操縦が上手だったでしょうか?
「いやはや驚きましたな。士官候補生のアオイさんがIFSを持っていたこともそうですが、あの操縦テクニックもすばらしい。
しかし、どうして艦長はアオイさんがIFSを持っていることを知っていたのですか?」
「じつはジュンくん、士官学校時代からよく備え付けのシミュレーターで訓練していたんです。
私、偶然そこに居合わせたことがあって、それからですよ。
まぁジュンくんには『自分がIFSを持っていることは黙っておいてくれ』って頼まれましたから黙っていましたけどね」
こっちのジュンさんは学生時代にすでにIFSを持っていたんですね。
でも、どうしてIFSをつける気になったんでしょう?
やはりこの時代はわたしの知っている過去とは少し違うみたいですね。
「注水八割方終了、ゲート開きます」
ジュンさんが奮戦している間にナデシコは発進準備を完了し、海底ゲートをくぐっていきました。
そして前回のアキトさんと同じように海上へジャンプしたジュンさんのエステバリスをブリッジ上部に乗せ、ナデシコは浮上しました。
「敵、有効射程にほとんど入っています」
「目標、敵まとめてぜ〜んぶ!! てぇ!!」
ユリカさんの発射の合図でわたしはグラビティブラストのトリガーを引きました。
発射されたグラビティブラストが集まってきた敵を一掃し、ナデシコの前に無数の火の玉が散っていきました。
「戦況を報告せよ」
戦闘終了を告げるようなフクベ提督の状況確認の声に、わたしたちはそれぞれ集めた状況を報告していきます。
「バッタ、ジョロとも残存ゼロ」
「地上の連合軍の基地も施設の被害は甚大だけど、戦死者数は五人だって」
わたしとラピスの報告を聞いて、ブリッジに安堵する声が聞こえ始めました。
しかしそれは、ハーリーくんからの緊急報告によって粉々に打ち砕かれてしまいました。
「待ってください。ナデシコ後方の海中に浮上中のチューリップを確認」
ハーリーくんの報告にブリッジに緊張が走り抜けました。
そんな、この戦闘はあの攻撃で終わりのはずです!
しかし次のハーリーくんの報告にわたしたちはさらにド肝を抜かれることになります。
「そのチューリップの上空に重力波反応を感知。これは……グラビティブラスト?」
えっ? グラビティブラスト? どうしてそんなところに……。
わたしの疑問をよそに、事態はどんどん先へと進んでいきます。
後方のチューリップに突き刺さる黒い稲妻の閃光。その光に貫かれ、爆散していくチューリップ。
すべてがはじめて見る光景でした。
「これは、グラビティカノンの砲撃。ということは……」
「えぇ、どうやら間に合ってくれたようですね」
後ろの方で事情を知っているらしいプロスさんとゴートさんがホッとするようにうなずきあっています。
一体どういうことなんでしょう?
そんなわたしの疑問に答えるように繋がれる通信。そこにはわたしが待ち望んでいたあの人が映っていました。
《ナデシコ、無事か?》
「いやぁ、テンカワさん。助かりましたよ」
「まったく、相変わらずたいした腕だな。テンカワ」
そこにはナデシコの黄色い制服を着たアキトさんが映っていました。
プロスさんやゴートさんと知り合いだということにも驚きましたが、アキトさんの乗機を見て、わたしはさらに驚いてしまいました。
アキトさんの乗機、それは巨大な砲身を抱えたブラックサレナだったのですから。
グラビティカノンと呼ばれていたあの巨大な砲身を抱えていること以外は、間違いなくわたしの知るブラックサレナそのものでした。
「あのぉ、ぶしつけな質問で申し訳ありませんけど……」
映像のアキトさんを見ていたユリカさんが首をかしげながらアキトさんに声をかけました。
あ、これはもしかして……。
「あなた、私とどこかでお会いしたことありませんか?」
やっぱり、あのときの質問ですね。
でもこの質問って坂道で出会ったときにしたはずじゃ……。ひょっとしてアキトさん、ユリカさんと出会っていないんですか?
アキトさん、いったいどんな答えを返すんでしょう……。
《……まぁ、十年近く会っていなかったんだし、わからないか。
覚えているか? 火星でお隣さんだった……》
「……あ、あぁぁあああ!! アキト、アキトでしょ! わぁ久しぶり、いつ地球に来たの? 連絡ぐらいしてくれてもいいのに」
……正直ビックリです。
あのアキトさんは、間違いなく逆行してきたアキトさんです。ブラックサレナをみればわかります。
でも、今のアキトさんからはあの時見せていた後ろ暗さが感じられません。ユリカさんと自然に会話しています。
横目でラピスのほうを見ると、やはり驚いたように目を丸くしています。
彼女もアキトさんのあの表情を見たのははじめてみたいです。
あとで問いただす必要がありそうですね。
ともあれ、今度こそ戦闘は終了したようです。
無事にアキトさんもナデシコに合流できたみたいでよかったです。
時をさかのぼり、再びあの日々へと戻ってきたルリ。
自分の知る過去とのわずかな違いに困惑するも、とりあえずアキトと合流できてホッとした様子。
いまだ明かされぬ三度目の逆行者の秘密、彼女たちがそれを知る日は……。
・ あとがき ・
どうも、AKIです。
いよいよ始まっちゃいました『機動戦艦ナデシコ 三旗竜』。
名前の由来は三人の主人公、アキト、ジュン、ハーリーから来ています。理由は……作中に書いていくつもりなので気長に付き合っていただければ幸いです。
プロローグから第一話へと一気に来たわけですが、どうだったですか?
とりあえずアキトたち三人が三度目の歴史に逆行してナデシコが出航しました。
一応原作からは変化しています。ハーリーとラピスがもうナデシコに乗っていたり、囮役が変わっていたり、チューリップが浮上したり、ブラックサレナが出てきたり。
ただこの後の数話が原作の〜 時の流れに 〜とそれほど大きな変化がないかもしれないのがちょっと心配。
ちゃんと最後まで書き終えられるかな……。
えぇい! とにかくがんばるぞ! オォ――ッ!!
代理人の感想
なんか初々しいなぁ(笑)。
実際、ストレートで丁寧な逆行ものは久しぶりな気がするので、そのせいかもしれません。
とりあえずジュンとハーリーくん、頑張れ。