突然の奇襲を跳ね除け、無事飛び立ったナデシコ。


 来訪した漆黒の鎧を受け入れたナデシコは、大気圏突破を控え試運転のために海上を航行していた。


「あの威力を見た以上、戦艦ナデシコ及び機動兵器を放置するわけにはいかん」


 力を欲する軍の陰謀が裏で進む中、ナデシコに迫る三隻の軍艦。


 そして……その近海に潜むチューリップが静かに動き出そうとしていた……。















・ 第二話 『[緑の地球]はまかせとけ!』 試される決意 ・










 〜 アキト 〜



 ジュンのエステバリスが帰還したことを見届けた俺は、誘導にしたがってブラックサレナを格納庫に入れた。


 元々ナデシコの格納庫は後で新型エステバリスに交換することを想定していたのである程度余裕ができるように造られている。


 俺がブラックサレナのコックピットから出ると、足元で手を振っているユリカの姿を見つけた。どうやらジュンはさっさとブリッジにむかったらしい。


 俺はユリカから少しずらした位置を着地地点に定め、そのまま飛び降りた。


 以前から何度もやっていたことだが、ナデシコでは初めてやったためみんな驚いたような顔をしている。


 もっとも、一番驚いたのは自分の目の前に飛び降りられたユリカだろうが。


「び、びっくりしたぁ……。アキト、あんな高いところから飛び降りて大丈夫なの?」


「あぁ、前から何度もやっているし、問題ないよ」


「凄いね……。あ、ねぇアキト」


「ん?」


「アキト、地球にはいつ来たの? おじさんやおばさんは元気?」


 来た、と俺は頭の隅でそう思った。


 ユリカにしてみれば世間話のつもりだろう。あのことを知らないんだから当然といえば当然だが。


 さて……どう話したものか……。


 まぁあんまり深く悩んでもしょうがないし、前と同じように話せばいいか。


「地球に来たのは一年ぐらい前だ。親父とお袋は……」


「……? どうかしたの?」


 やっぱり、割り切っていても人の死を伝えるというのはいい気分がしないな……。


「死んだ」


「えっ?」


「死んだよ……、二人とも。

 ちょうどお前と別れたあの日、火星の宇宙港で爆弾テロがあったんだ。それに巻き込まれて二人は死んだ……ことになっている」


「ことにって……」


「俺は見たんだ、二人が銃で撃たれて殺されていたのを。爆発に巻き込まれて死んだんじゃない。二人は殺されたんだ」


「そんな……」


「俺は……真相を知りたかった。この一年、ずっと仕事をしながら情報を集めていたけど……でも、なにもわからなかった」


 ……この辺はウソだな。


 この事件の真相はとっくに知っている。


 ネルガルの前会長が暗躍していたことも、二人がなぜ狙われたのかも。


「……っと、せっかく再会したってときにするような話じゃなかったな」


 ユリカの表情が暗くなっていることに気づいた俺は、話をそこできりあげることにした。


「う、ううん。わたしが最初に聞いたんだから気にしないで」


「あぁ……。ところでさぁ」


「なに?」


「お前、たしか艦長だったよな? そろそろブリッジに戻ったほうがよくないか?」


「え〜、もう少しお話したいよぉ……」


「プロスさん」


 その名前を聞いた瞬間、ユリカがピタッと止まった。


「怒ると怖いぞ?」


「……あ、あははは! わたし、そろそろブリッジに戻るね。それじゃ!!」


 そういって青い顔をしたユリカは全速力でブリッジにむかって走っていった。


 このころのユリカには効果が薄いと思ったんだけど……案外効果があったな。これも未来のユリカが中にいる影響なのかな?


 さて、それじゃ俺も食堂にむかうとするか。










 〜 ルリ 〜




 わたしはいま、ラピスとともに格納庫にいるアキトさんの元へと向かっています。


 あの戦闘の後、艦長のユリカさんは誰にも気づかれないうちにブリッジを抜け出し、悠々とアキトさんの下へとむかってしまいました。


 まったく、油断も隙もあったもんじゃありません。


 っとと、それはおいておくとして。


 本当ならその後わたしたちオペレーターは戦闘の事後報告や戦闘データのバックアップ、周囲の索敵などの仕事があるんですが、どういうわけか、ハーリーくんが全部代わってくれたんです。


「二人とも話したいこととかあるでしょうし、仕事は僕がしておきますからいってきたらどうですか?」


 ……と、そんなことを言われてしまいました。


 ハーリーくんの成長ぶりには驚かされましたが、せっかくの申し出なので今回はハーリーのお言葉に甘えさせてもらうことにしました。


 そんな経緯があり、今わたしたちはアキトさんのところにむかっているわけです。


 っと、ちょうどアキトさんが格納庫から出てきたところですね。


「アキトさん!」


「アキト!」


「ルリちゃん、ラピス」


 わたしたちはアキトさんの名前を呼びながらそばに駆け寄りました。ラピスなんかそのままアキトさんに抱きついています。


「アキトさん、お疲れ様でした」


「アキト、お疲れ様」


「そんなにたいしたことはしてないよ。そのセリフはむしろジュンのほうがあっているだろうし」


「そういえばアキトさん、どうしてブラックサレナに? プロスさんやゴートさんとも知り合いみたいですし……」


「あぁ、そのことか。……まぁ話せばちょっと長くなるけどね。

 俺は二人のように今日に飛ばされたわけじゃないんだ。もう一年ぐらい前なるかな。

 そのころに飛ばされた俺は、二度とあんな歴史を繰り返さないために、ネルガルのテストパイロット兼SSとして入社したんだ」


「アキト、ネルガルの社員なの?」


「まぁね。そこで俺は同じようにむこうから飛ばされてきたハーリーくんと出会ったんだ」


「ハーリーくん、そのころにはもうこっちに来ていたんですね」


「あぁ。おかげで予定よりもずっと早くブラックサレナの完成にこぎつけられたよ。

 一応あのブラックサレナはネルガルのエステバリス・ニューモデルの試作機でね。火星から戻ってくるころには完成しているはずだ」


「そうなんですか。あっ、ひょっとしてラピスやハーリーくんがナデシコに乗っているのは……」


「いや、俺じゃないよ。俺が入社したときにはすでにラピスは救出されていた。理由は俺も知らないけど……」


 アキトさんが二人を救出したからなのでは、というわたしの質問にアキトさんは首を横に振りました。なにかのきっかけで歴史が変わったんでしょうか?


 それにしてもネルガルに入社なんてずいぶんと大胆に動きましたね。てっきり歴史の流れ通りに動くものだと思っていましたけど。


 あ、そういえば……。


 わたしはあのことを思い出し、アキトさんに聞いてみることにしました。


「アキトさん、ユリカさんに事情は話したんですか?」


 さっきの通信で結構親しそうに話をしていたのでもしやと思ったのですが、アキトさんはまたも首を横に振りました。


「今はまだ時期が早すぎるよ。まだボソンジャンプのこととか何も知らないのに話したところで信じてもらえないと思うからね。

 でも、いつかは言わないといけなくなる。きっと……」


 ……アキトさん?


「……さて、俺はこのまま食堂に行くけど、二人はどうする?」


「そうですね……。わたしとしてはこのままアキトさんについていきたいところなんですけど……」


「ん〜……」


「?」


 こ、困りましたね。


 まさか『ハーリーくんが気がかりでブリッジに戻ろうかと』なんて言えないですし……恥ずかしくて。


 とはいえ、できればブリッジの様子を見ておきたいんですけど……。


 そういえばラピスも隣でうなっていますね。どうかしたんでしょうか?


「アキト、わたし一度ブリッジに戻るね」


「そうか? わかった」


 あ、ラピスずるい!!


 ……って、なんでわたしこんなこと思っているんでしょう? ワケがわかりません。


 しかし、できるならわたしもブリッジにいたいです……しかし、アキトさんと離れるというのも……。


 なにかいい手は……。あ、そうです。


「アキトさん、わたしもブリッジに戻ります」


「ルリちゃんも? そっか。なんなら出前でも届けようか?」


「えっ!?」


「どうかした?」


「い、いいえ!」


 驚きました。まさか先手を打たれてしまうとは……。


 でもちょうどいいので頼んでしまいましょう。


 でもラピス、どさくさに紛れていっしょに注文しないでください。










 〜 アキト 〜




 ふぅ。とりあえず二回目の流れに乗ったかな。


 ルリちゃんとラピスの注文をうけた俺はそのまま食堂へとむかった。


 ホウメイさんとホウメイガールズ(まだ仮称)のみんなに挨拶を済ませ、俺は二人の注文にあった料理を持ってブリッジへとあがった。


 なんだかユリカが二人の出前を羨ましそうに見ていたが、注文しないと料理は来ないぞ?


 そして二人に料理を渡し終えたところで、プロスさんが話を始めた。


「今までナデシコの行き先を明らかにしなかったのは妨害者の目をあざむくためです。

 これよりナデシコはスキャパレリプロジェクトの一端を担い、軍とは別行動をとります!」


「我々の目的地は火星だ」


 艦内放送で、フクベ提督が静かに行き先を述べる。老人特有の厳格な表情のままだが、俺にはどこか疲れているように見える。


 ……提督、贖罪は必ずしも『死』によってしか行われないものではないはずですよ。


 それでも、あなたは……。


「では、今地球に起きている危機は見過ごす、と?」


 別にそうする必要はないんだけど、とりあえずつじつまを合わせるようにジュンが問う。


「多くの人々が火星や月に殖民していたというのに連合軍はこれらを見捨て、地球にのみ防衛線を張りました。

 火星に残された人々や資源はいったいどうなったのでしょう?」


「それでネルガルが戦艦造って拾いに行こうと?」


 ハーリーくん、その言葉はなんか含みがあるぞ?


 まぁ、あるんだろうなぁ……。


「『拾う』というのは語弊がありそうですが、とりあえずはそうです。確率が低いとはいえ残されている以上、確かめてみる価値は……」


《ないわね、そんなもの》


 来たか、ムネタケ。


 ムネタケの通信を合図にブリッジに軍人たちがなだれ込んでくる。


「ムネタケ、血迷ったか!?」


 ブリッジに入ってくるムネタケにフクベ提督が一喝する。


 が、本人はいたくもかゆくもないというように歩いてくる。


「提督、この艦をいただくわ」


「この程度の人数でなにができる?」


「慌てないの。ほら、来たわよ」


 おっと、そろそろヤバイな。


 俺とルリちゃん、ラピス、ハーリーくん、ジュンの五人はさっさと耳栓をする。


 そして、その通信は開かれた。


《ユぅリカぁああああ!!!》


「お父様!?」


 二度目とはいえ相変わらず凄まじい声だな。


 それにしても、元気そうだな。お義父さんも。


 とはいえ、ブリッジメンバーの半数以上が意識を手放しているというのは……ちょっとまずいんじゃないか?


 ……ふと思ったんだけど、この大声って敵を捕縛するときに使えないかな?


 たとえば、音量を最大ボリュームにしたあと相手に通信を送ってお義父さんが名乗り声を上げれば、少なくともブリッジは沈黙すると思うけど……。


 ……やめよう。味方にまで被害が出そうだ。


 さて、ブリッジを見回してみると、意識があるのは俺やルリちゃんなど耳栓をしていた人と、耐性があるらしいユリカぐらいか。


 しかもこれ幸いにとミスマル親子は世間話を始めているし……。


「相変わらず凄い声ですね」


「まったくだ」


「アキト、耳が痛い……」


「しばらくは耳栓をしていたほうがいいよ、ラピス」


「うん、そうする……」


 初めてのラピスにはちょっときつかったかな? ハーリーくんに言われたとおり、素直に耳を塞いでいる。


「それはそうと、アキトさん」


「ん?」


「……どうしますか?」


 ルリちゃんの顔が真剣味を帯びる。つまり、動くかどうかってことか……。


「今は、動くつもりはないよ」


「今は……ですか。

 それじゃ、アキトさんの目の前に死ぬとわかっている人がいても、それでも動かないんですか?」


 時間と場所が少々ずれたけど、やはりその質問がやってきた。


 ウソもごまかしも許さない、そんなルリちゃんの視線と共に。


 そして、俺は自分の中にある答えを口にする。


「いや、そのときは迷わず動くよ」


 その答えにルリちゃんは目を丸くした。


「迷わず、ですか?」


「あぁ。それが歴史の不確定要素になろうと、救えるはずの命を見捨てることは俺にはできない。

 俺は神でも英雄でもない。運命なんて信じないし、救える命なら届かなかろうが全部に手を伸ばすよ。全力で」


 もうあんな思いは、自分の腕の中で命が消えていくような思いは二度としたくはない。


 だから俺は、俺のもてる全力でその命を救う。


 たとえ、偽善者と罵られることになろうと。


「……アキトさん、ずいぶんと変わりましたね」


「そうかい?」


「はい。……今のが、アキトさんの答えなんですね?」


「そうだ。ウソ偽りのない、俺の正直な想いだ」


「わかりました。それでこそアキトさんです」


「そうかな……」


 自分じゃよくわからないけどね。


 そうしている間にむこうの話は進んでいたらしく、俺達は軍人たちに連行されて食堂へと集められることになった。










 〜 ルリ 〜




 呆然、ですね。


 なにがって、今のこの状況ですよ。


 食堂について、さてこれからどうしようかと考え始めた矢先にハーリーくんが食堂の奥から手袋を取り出してきて、アキトさんと頷きあったんです。


 なんだろうと思い見てみると、いきなりアキトさんがドアをこじ開けてしまいました。


 そこにはまだブリッジにむかうところの副提督たちが呆然としていました。


「あ、あんたたち! そこでおとなしく……うぐっ!」


 食堂から出ようとしたアキトさんを副提督が怒ろうとしたようですが、それよりも早くアキトさんの拳が副提督の頬にめり込みました。


 驚きで硬直していた軍人さんたちが一斉にアキトさんに銃をむけます。


 しかし、その銃から弾が発射されることはありませんでした。


 なぜなら、彼らの持っていた銃はすでにグリップを残してバラバラになっていたんですから。


「そんな鉄くずで何をしようというんですか?」


 いつもより冷たい目で軍人さんを睨みつけるハーリーくん。


 その両手の指先から見える光の筋。あれは……糸?


「鋼糸鉄線。バラ肉になりたいなら遠慮なくどうぞ」


 迫力、といえばいいんでしょうか。見た目子供のハーリーくんに軍人さんたちが気圧されています。


 いったい私の知らないこの一年の間に何があったんでしょう。


 そして、わたしの胸にある、この安心感はいったい……。


「ぐぐぐ……あ、あんたたち、あたしたちにこんなことしてタダで済むと思ってんの!?」


 副提督がアキトさんたちにむけてヒステリーな声を上げます。


 しかし、二人の二人はまったく気にせず歩を進めています。


「セイヤさん、こいつらをふん縛って格納庫に集めてください。あとでトビウメに回収してもらうんで」


「お、おう!」


「じゃ、ハーリーくんはブリッジ、俺は格納庫だ」


「了解」


 二人は短く作戦を立てると、そのまま二手に分かれてしまいました。


 わたしたちも慌てて後に続きます。


 なお余談ですが、この事態に『まったく』気がつかなかったヤマダさんが一人、食堂に残ってゲキガンガーのアニメを見続けていたそうです。誰もいないことに気がついたのは騒動が終わった後だとか。


 なにやっているんでしょうね、まったく。










 わたしが格納庫に到着したころには軍人さんたちはすでに捕らえられた後でした。


 わたしはマニュアル発進をするアキトさんの管制のために管制室へとはいりました。


「今回もマニュアル発進です……けど」


 わたしはつい言葉を詰まらせてしまいました。


 なぜなら今回のアキトさんの機体はエステバリスではなくブラックサレナ。歩行をまったく考えていないこの機体でいったいどうやって歩くつもりなのか……。


「大丈夫なんですか? アキトさん」


「あぁ心配ないよ。たしかにあの間抜けな発進はできないけどね」


 ……嬉しそうですね、アキトさん。


 それに今回は空戦フレームへの換装もないので、ヤマダさん『完全に』イイとこなしですね。


 そしていよいよブラックサレナの発進となりました。


 しかし器用ですね、アキトさん。


 両肩のバーニアで機体を浮かせ、足のブースターで飛び立っていきました。


 さて、わたしもブリッジに向かわないと……。










 〜 アキト 〜




 当初の予定よりもずっと早く俺達はナデシコ奪還を開始した。


 その理由の一つとして海中のチューリップがあった。


 史実どおりなら、このあとチューリップが浮上してクロッカス、パンジーを飲み込むのだが、それを甘んじて受け入れていたら変えられる未来も変えることができなくなる。


 それでは、なんの意味もないんだ。


 予定を早めたおかげで、なんとかチューリップが完全に浮上する前に戦闘空域に到着することができた。


 俺は、ブラックサレナの二つのハンドカノンを前回の戦闘同様、一つの砲身に繋ぎ合わせた。


 このブラックサレナは一度目の歴史のブラックサレナをブローディアの技術を応用して改良、完成させたものだ。当然、武装にも手を加えてある。


 その一つがハンドカノンだ。左側の後部と右側の前部に連結部を造り、特殊製造した弾丸を装填する。


 その結果、ハンドカノンはナデシコのグラビティブラストに匹敵する破壊力を持つ砲、グラビティカノンへと姿を変える。


 機動兵器用のグラビティカノンは、まだ試作段階で、現在は三発しかストックがないので無駄遣いはできないが。


 ブラックサレナの右腰にマウントされるグラビティカノン。俺はその照準をチューリップへとむけた。


 そして、砲門から放たれる重力の閃光。


 次の瞬間、チューリップは爆散し、チューリップの吸引力から逃れたクロッカスとパンジーは無事にトビウメに合流している。


 これで、火星でフクベ提督が居残るようなことはなくなったな。これが吉と出るか凶と出るか……。


 ふと、トビウメのほうから何かが飛んでくるのに気がついた。


 ユリカとプロスさんの乗ったヘリだ。


《アキト、またチューリップを倒してくれたの?》


「まぁな。それよりとっととナデシコに戻れよ。マスターキーがないんじゃどうしようもない」


《了解♪ アキト、また後でね♪》


 そういうとユリカは通信を切ってしまった。


 そういえば、ジュンの姿が見当たらなかったような……。


 また置いて来たのか、まったく……。今回のジュンは前回とは違うからな。覚悟しておいたほうがいいぞ、ユリカ。


 さて、後はムネタケたちか……。


 俺は、コンテナに詰め込まれたムネタケたちをトビウメに運ぶと、ナデシコへと帰還した。










 戦闘終了後、食器の回収にむかった俺はブリッジでルリちゃんやミナトさんと出会った。


「やっほ〜、アキトくん」


「どうかしましたか? アキトさん」


「あぁ、出前の食器の回収にね」


「あっそうですか。はい」


 ルリちゃんは足元から食べ終えた食器を俺に手渡した。


「……ふぅ〜ん♪」


 その光景をミナトさんがなぜか面白そうに見つめている。


「どうかしましたか? ミナトさん」


「ん〜、別に? ただルリちゃんってアキト君と仲がいいんだなぁって思っただけ♪」


「はい、そうなんです。ミナトさん」


 前回もそうだったけど、ここで俺は何らかの意思表示をするべきなんだろうか?


 いや、止めておこう。俺も命は惜しい。


「アキト君も艦長とルリちゃんを、天秤にかけたりしないわよね〜」


「なんの天秤ですか、なんの」


 ついツッコミをいれてしまったが、そもそもユリカもルリちゃんも大事な人間に変わりはないんだからどっちが重いかなんて決められるわけがない。


「アキトさんはそんな事しませんよ、ミナトさん」


「ふ〜ん、アキト君の事には詳しいんだ。ルリちゃんは」


「……というより、顔見知りなんですけどね」


 そこで横から会話に参加してきたのは、同じくブリッジにいたハーリーくんだった。


「あらハーリーくん。顔見知りってどういうこと?」


 ミナトさんが嬉々とした表情で問いかける。


 一方ハーリーくんは別に何でもなさそうに答える。


「アキトさんはネルガルのテストパイロットで、ブラックサレナ開発の関係で僕やルリさんたちとも面識があったんです」


「ふぅ〜ん……そうなんだ。でも、ルリちゃんの本命はアキトくんか……。てっきりわたしはハーリーくんだと思ったけど」


「なっ!?」


 ミナトさんが耳元でルリちゃんに何かをささやくとルリちゃんの顔が真っ赤に染まる。


 ……いったいなんなんだ?


「わ、わたしはべつにハーリーくんのことなんて……!!」


「そう? けっこう楽しそうだったけどなぁ……」


 ミナトさんが楽しそうに笑い、ルリちゃんが赤くなりながらうつむく中、俺はふとハーリーくんのほうに視線を向ける。


 そこには、苦笑しているハーリーくんの姿があった。


 ただなぜだろうか。その苦笑がひどく悲しそうに見えたのは……。















 とうとうはじまった物語。


 その歯車は順調に回っているように見える。


 しかし、アキトは歯車のひとつを組み替えた。これが歯車に狂いをもたらすものとなりうるのか。


 物語という名の歯車が狂う。その先に待つ未来は幸福か、絶望か。


 結果が示されるその時は、まだまだ先のこと……。










 ・ あとがき ・



 とりあえず第二話です。ナデシコ占拠もスピード鎮圧されてしまいましたね。


 ハーリーくんの鋼糸鉄線はピースランドで枝織が使用していたアレに昂氣を付加させて切れ味を上げたものです。


 もちろん、ハーリーくんの昂氣によって切れ味が上下するので、切れる切れないは本人の意志で決めることができます。


 それからブラックサレナのグラビティカノンですが、イメージとしては種ガンのバスターといっしょです。形は違いますけど……。


 あ、あとルリちゃん&ラピスのコンビの心境の変化については、今の段階では何もいいません。ネタバレになるので……。


 ……でも、ひょっとしてもうバレてる?


 〜〜〜っ。ま、まぁいいや! とにかく、次は防衛ライン突破です!! ジュンはいったいどう動くのか……。


 乞うご期待!!(あんまり時ナデと違わないとは思うけど……)

 

 

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

・・・・まぁなんだ、がんばれハーリー君。

しかしジュンは今回セリフすらもろくになしですか。

次回で取り返せるといいね、なんか作者さんのコメント読んでると期待薄だけど!(爆)