火星を脱出することに成功したナデシコ。


 しかし、大気圏突破の不意をつかれ、チューリップへと飲み込まれてしまう。


「目標、次元跳躍門に突入。状況はすべて予定通りに進行中……」


 戦争の裏で繰り広げられる木星の遺跡の策謀。


 そして、ナデシコが現れる場所とは……。















・ 第八話 『温めの「冷たい方程式」』 気がつけば八ヶ月 ・










 〜 ??? 〜



 いやだ……やめろ!!


 こちらに迫る黒い影。


 実が凍りそうになる恐怖が心を支配する中で、自分の頭は今の状態を冷静に受け止めていた。


 あぁ……またこの夢なのか、と……。


 どれだけ抵抗しても無情に打たれる注射の針。


 そしてそこから体内に投与されるナノマシン。


 肉体を襲う激痛。


 そして、痛みを超えた先にあったものは、あまりにおぞましいもの。


 うぁあああああああ!!!!


 自分の絶叫と共に視界が暗くなり、暗転。


 場面が変わる。


 再び迫る黒い影。しかし、今度は集団だ。


 影たちは自分を取り囲み、この命を奪おうと可能な限りの暴力をふるう。


 痛い……苦しい……。


 どうして……こんな目にあわねばならない……。


 そして、命の炎が消えようとすると、再び視界が暗くなり、暗転。


 また場面が変わる。


 これで最後か……。


 冷え切った理性が夢の終わりを告げる。


 視界が晴れる。そこで見たものは……。


 幾多の人間の死体の上に立つ、血まみれの自分の姿と、おぞましいソレだった。


 う、あぁあ……。


 あぁあああああああああ!!!!


 絶叫。そして夢が覚めた。


「ハッハッハッ……」


 息が荒い。


 どうやら自分は寝言の類を言わないらしく、何度夢の中で絶叫しても現実にそれがもれたことはない。


 うつ伏せになったまま、乱れた息を整え、それからゆっくりと身体を起こす。


 周囲の状態を把握して、ホッと息をつく。


 どんな夢を見ているかはわからないが、安らかな寝顔をしている、自分が守ると決めた人たち。


 その安らかな寝顔を見ることができたから。










 〜 ルリ 〜



「うっ、うぅ〜んん……」


 ツンツン。ユサユサ。


「んん〜……」


 あと五分……。


 ツンツン。ユサユサ。


「ルリさん、起きてください」


「ルリ、おきて」


 もう……なんですか?


 わたしは低血圧で朝は弱いんですよ?


「そろそろおきないと……ナデシコが通常空間に戻りましたよ」


「ルリ、ちょっと状況がまずい。どうするの?」


 ん〜……ナデシコがどうかしたんですか?


 ナデシコ……ナデシコ?


 そういえば、ナデシコってどうなったんでしたっけ。


 寝ぼけていたわたしの頭がその疑問に行き着いたとき、ようやくわたしの意識は覚醒しました。


「そ、そうでした! 今の状況は!?」


「どこかの戦場に出たみたい」


 ラピスの指差す方向、そこにはナデシコブリッジの窓があり、そのむこうには戦闘と思われるいくつもの炎の花がついたり消えたりしていました。


「座標位置、でました。月と地球の中間にある宇宙空間ですね。時間は現在のナデシコのものは基準にできないのでわかりません」


「これは……ひょっとして」


「たぶん、第四次月攻略戦ではないかと思います。

 時代が蜥蜴戦争の時のままならこの宙域で起こった大規模な戦闘はこれだけです」


 どうやらそのようですね。


 しかし……。


「あの……ハーリーくん、ラピス。二人はどれぐらいに目を覚ましましたか?」


「ついさっきですけど」


「わたしも、ハーリーといっしょに」


 む……。なんでそこで赤くなるんですか、ラピス。


 ……って、わたしもなんで腹を立てているんでしょう?


 謎です。どうも最近ハーリーくんのことばかり気にかけている気がします。


 自分のことなのに……わけがわかりません。


 とにかく、アキトさんたちが展望台にいるはずです。そろそろ起こしましょう。


 わたしは展望室に通信を繋ぎました。


 案の定、アキトさんとユリカさん、イネスさんの三人は展望室の芝生の上で寝ていました。


 しかし今回、アキトさんはイネスさんとではなくユリカさんと向かい合っています。


 お互いに引き合う仲、ってわけですか?








 〜 アキト 〜



 三回目となる今回も目が覚めてみれば……やっぱり戦闘の真っ只中だった。


 うっすらと開いた目のむこうに何かが見える。


 あれは……。


「ブッ」


 ゆ、ユリカ!?


 こ、今回はこっちむきに倒れていたのか。あーびっくりした。


 跳ね回る心臓を落ち着けつつ、俺はゆっくりと身体を起こした。


「ここは……やっぱり展望室か」


《起きたみたいですね、アキトさん》


《アキト、おはよ》


「あぁ、おはよう。ルリちゃん、ラピス」


《テンカワさん、早く艦長を起こしてください。ずっとこのままというわけにもいきませんから》


「あ、あぁ。わかった」


 ハーリーくんにせかされて、俺はさっそくユリカをおこしにかかった。


「おい、ユリカおきろ!! おきろってば!!」


 前回同様かなりの勢いでユリカの身体を揺さぶる。


 ん、おきたか?


「う〜〜〜ん、アキト〜〜〜〜」


 ……寝言を言いながらそのまま反対側に寝返りをうつ。


 ここまで前回といっしょかよ。


「……寝言かよ、ったく……」


《どうしますか? アキトさん》


 しかたない。ここはやはり同じ手を使うか。


「強硬手段に出る」


《強硬手段?》


「あぁ、ユリカはこうなるとなかなかおきてくれないからな」


《……ふぅ、ですね》


 ユリカの寝起きの悪さは、俺もルリちゃんもよく知っているからな。


 というわけで、さて、どうしようか……。


《……目覚めのキスでもしてみますか?》


 ルリちゃんがしらけた目でこちらを見る。いや、俺の後ろか。


 振り返ってみるとやはり頬を赤らめたユリカがいた。


 ったく……いい歳してなにしてんだよ、お前は。


「……じゃあ、お言葉に甘えて。ついでにその先もやっちゃおうか?」


「ほ、本当アキト!! でも、あの、その先って、あ……」


 やっぱり、狸寝入りか。


 俺の言葉に反応して跳ね起きたユリカに、俺達の白い視線が集中する。


《……バカ》


《ユリカ、ドジ》


《なにやってるんだか……》


 ルリちゃん、ラピス、ハーリーくんの三者三様の言葉の矢が次々とユリカの胸に突き刺さる。


「ふ、ふぇえええん! アキトぉ! ルリちゃんたちがいじめるよぉ!!」


「お前が狸寝入りなんてするからだろ。それより、状況の確認、しなくていいのか?」


「あ、そだった。ルリちゃん、現状の報告を」


《はい。ナデシコは無事、通常空間に復帰しました。現在、ナデシコ船外では戦闘が続行中》


「へ? 誰と誰が戦闘をしているの?……あれ? 私どうして展望室にいるの?」


 ルリちゃんからの報告に首をかしげたユリカはようやく自分が展望室にいることに気がついた。


 のん気だな、まったく……。というか、外から爆発音が聞こえてくるのに気づいてないのか?


《見たほうが早いですよ。モニターに出します》


 やはり今回もこっちのほうが早いと判断したルリちゃんによって、展望室に大きなモニターが表示される。


 モニターには連合宇宙軍と木星トカゲの戦闘が映し出されていた。


 縦横無尽に砲火が飛び交い、無数の戦闘機やバッタが飛び回る。


 そんなバッタのうちの一機がドアップでモニターの前を飛び去っていった。


「のぇえええええええ!!?」


 ユリカ、驚くのはわかるけどもう少し落ち着け。


 しかしこの光景……ひょっとして第四次月攻略戦か?


 どうやらあのチューリップに飲み込まれたことで前回と同じ道筋をたどったみたいだな。


 ……なんて思っていたら、ユリカがなんか凄いこと言い出したぞ?


「グ、グラビティブラスト広域放射! 直後にフィールドを張って後退!!」


「ちょ、ちょっと待てユリカ! その命令は……!!」


《了解》


《あ! ラピスまっ……》


 ルリちゃんと俺が止めにかかるが、時すでに遅し。


 ラピスの手によってグラビティブラストは木星トカゲの群れに横から直撃した。


 ……何割かの連合軍を巻き込んで……。


 その後、連合軍は言いたいことを言ってさっさと後退していった。


 幸いにも死人は出なかったそうだけど……。


 しかし、今回はルリちゃんも怒っていなかったみたいだし、大丈夫だと思っていたんだけど……まさかラピスという落とし穴があったとは。


「ごめんなさい……」


 ……と、あとでラピスが謝ってきた。ラピスのせいじゃないよ……。悪いのは……。


 そう、その張本人はいじけているところにジュンとゴートさんの小言の追撃を受けているから。


《うぅぅぅ、わざとじゃないのに……》


《わざとならもっとまずいだろう》


《でもでもぉ、ちゃんと『ごめんなさい』って謝ったのにぃ!》


《ゴメンで済めば戦争なんておきない》


 うん、やっぱりそれは名言だよ、ジュン。


 ともかく、連合軍が戦っていた木星トカゲの残党がこっちにむかって攻撃を仕掛けてきている。


 俺達は急いで迎撃に出ることにした。ところが……。


《せめてブリッジにいれば、状況は見えた筈だ》


《うぅうう、だって気が付いたら展望室にいたんだもん……》


 そう、俺はすっかり忘れていた。


 ユリカのこの言葉の後に続く言葉がどれだけの波紋を呼ぶかを……。


《そうだ!! ねえアキト!! アキトはどうして私達が展望室にいたか、皆に説明出来ないかしら?》


 無理。


 俺の頭の中で即座にその回答が浮かんだ。


 いや、説明はできるがいまこの時期に言うことはできない。


 結局、前回同様の答えを返すしかなかった。


「え、そんな事を言われても……俺も何が何だか……」


 しかし、その答えに納得しない人たちの通信がブローディアのコックピットに集中する。


《私もその話に、興味があるんだけどなぁ〜、アキト君?》


《私も聞きたいです! 大体非常識ですよ、戦闘中に展望室に行くなんて》


 ヒカルちゃん、メグミちゃんが乱入。


 だいたい、なんで俺が実行犯みたいになっているんだよ……。


「って言われても、俺に説明なんてできるわけ……そうだ、イネスさん……って、あの人はまだ寝ているんだっけ……」


【現在展望室で熟睡中】


 ご丁寧な状況説明ありがとう、オモイカネ。


 くっ、やっぱり八方塞がりか?


《テンカワ……》


 あ! リョーコちゃん! そうだ、リョーコちゃん、って前回は追い詰める側にまわったんだっけ……。


《俺もその話に興味があるな》


 やっぱりかよ……。こうなるとルリちゃんの援護もいまいち期待できないし……。


 し、四面楚歌?


 そもそも、なんで俺がこんなに悩まなきゃいけないんだ?


 俺は恥じるような真似はしていないぞ? 前回も言うように。


 ……た、たぶん……。


《なんでもいいから発進しろ! 後続が発進できないだろ!!》


《《《うるさい!!》》》


 こうなってしまってはジュンといえども効果なし。


 どうすれば……。


《……プロスさん、発進を邪魔している人たちのお給料、差っ引いたらどうですか?》


《ふむ……。では、これで発進が遅れている間にナデシコ被った被害を負担してもらうということで》


 な、なんかルリちゃんとプロスさんの間でとんでもない話が進行中なんですけど……。


 その話を聞いた俺は顔面蒼白になった。


《……そんなわけで、急いで出撃しないとお給料が減っていきますよ?》


 俺は四人の通信を振り切ってナデシコから発進した。


 女性も怖いが借金も怖いのだ。





 三回目のバッタの数もやっぱり前回、前々回同様に大量だった。


 幸い、というか、今回はナデシコが万全の状態で戻ってきているのでとりあえずはありがたい。


 だが、バッタも能力が強化されている。油断はできない。


 とりあえずアカツキとコスモスが合流してくれるまで粘るしかないな。


《リョーコ、作戦は?》


《この数だぜ? 各自戦況に応じて応戦だ!!》


《《《了解!!》》》


 と、リョーコちゃんの指示を合図に戦闘を開始した俺達だったが……。


 その足はすぐに止まることになった。


《うっそ〜〜〜!? バッタちゃん達のフィールドが強化されてる〜!?》


《……進化する兵器、って訳ね》


 バッタのフィールドが強化されたことにより、エステバリス隊のラピッドライフルが通じにくくなっていたのだ。


 射撃メインのヒカルちゃんとイズミさんはちょっとつらいだろう。


《へん! だからどうした!! それなら拳で決着をつけてやるだけだ!!》


《おう! 男なら拳で勝負!!》


《オレは女だ!!》


 リョーコちゃんの言葉にガイが賛同し、赤と青、二つのエステがバッタの群れに突入していく。


 リョーコちゃんの腕は折り紙つきだし、ガイも火星で戦ってみせたとおり、十分なほどの実力を持っている。


 瞬く間に二人の撃墜数が多くなっていった。


《へっ、やるじゃねぇか。ヤマダ!》


《ダイゴウジ・ガイだ!! お前もな! リョーコ!!》


 エステバリス隊では早くもガイとリョーコちゃんを前衛、ヒカルちゃんとイズミさんがそのサポートという形が組みあがっていた。


 一方、俺といっしょに単機行動をとっているジュンも、順調に敵を撃破していった。


 元々ブラックサレナのハンドカノンはエステバリスラピッドライフルより威力が高い。少々のフィールド強化などもろともしない。


 ブローディアも、リミッターが働いているとはいえ、基本武装はブラックサレナと互角。DFSを無理に使用しなければ苦戦はしなかった。


 しかし……敵の数が多い。前回よりも多い気がするんだが、ひょっとして、割と早い時間にジャンプしてきたのか?


 だとしたら連合軍はこっちに敵を丸投げしてきたことになるな。


 給料泥棒……。なんとなくそんな言葉が浮かんだ。





 そして、戦闘開始から二十分が経過した。


 いまだコスモスは現れず、徐々にエステバリス隊の消耗が激しくなってきていた。


《くっそぉ〜〜〜!! このままじゃジリ貧だぜ!!》


 なかなか数が減らずイライラし始めたリョーコちゃんがはき捨てるように叫んだ。


《ホントだよね。結構倒してきたはずなのにぜんぜん減った気がしないもん》


《いえ、だいぶ減ってきてはいます。ですが、元々の数が尋常ではありませんからそう錯覚しても仕方ありません》


 エステバリス隊を励まそうとしたのか、ルリちゃんから通信が入る。


【っ! アキト兄! 左舷前方、カトンボ級十隻を確認! その後方にヤンマ級三隻!!】


 なにっ!? ここで戦艦クラスの増援か!?


【アキト兄! 右舷後方からも来た! カトンボ級七隻にヤンマ級四隻!! このままじゃ挟撃されちゃう!!】


 ディアとブロスからの報告を聞いた俺は、自分の背中に嫌な汗が流れたような気がした。


 まずい……今の状況で戦艦の、それも挟撃で増援が出てこられるとなると……。


 ナデシコの方でもその機影を捉えたらしく、緊迫した空気が通信越しに伝わってくる。


 今のナデシコの戦力じゃこの状況を突破するのは難しい。


 ……やるしか、ない。


「ディア、ブロス。『フルドライブモード』、いくぞ」


【アキト兄!?】


【時間は三分間。それで決着をつけられなかったら……】


 ブローディアは戦線離脱。そうなればただでさえギリギリの戦いをしているナデシコの敗北は必至だ。


 だが……ほかに手はない。


「最初はDFSだけ、右舷後方の敵から叩く。ディア、ナデシコに連絡してくれ。いくぞ!!」


 俺はブローディアのスロットルを限界まで引き上げると、一気に加速して敵艦隊に突入した。


 DFSは無理に紅刃にしようとせず、白刃のまま長さを100メートルにまで伸ばす。


 そしてそのまま、カトンボの船体に白刃を振り下ろした。


 ディストーションフィールドのいくらかの抵抗の後、カトンボはその船体を真っ二つに切り裂かれた。


 続けて二隻目にむかってDFSが牙をむく。


 三隻、四隻と、次々にカトンボが炎に包まれる。


 だが、五隻目を破壊したところでブロスから警告がはいる。


【アキト兄! DFS使用限界まであと十秒! 一度DFSを解除して!】


「くっ……!」


 警告に従って、俺は即座にDFSを解除する。


 くそっ、あと少しなのに!!


 だけど、ここでとまるわけにはいかない。俺は右腕にフィールドを集中させてカトンボの船体を殴りつけた。


 右腕は敵のフィールドを突破し、戦艦の装甲に穴を開ける。すかさずそこにハンドカノンを叩き込んだ。


 穴から亀裂が走り、それを伝うように炎が駆ける。そしてカトンボは轟沈した。


 これで六隻! 残りはカトンボ一隻とヤンマ四隻!!


 残りの無人戦艦をにらみつけ、俺はその方向にブローディアを飛ばす。


 だがそのとき、ヤンマから漆黒の閃光が放たれた。


「くっ!」


 グラビティブラストか!!


 緊急回避でグラビティブラストを回避するブローディア。反応速度が高いため、かすることなく全弾の回避に成功する。


 しかし、そのグラビティブラストは予想外の被害を出した。


 流れ弾の一発がナデシコのエンジン部に被弾した。


《右舷相転移エンジン、被弾!》


《エンジン出力、どんどん低下してる……》


《ディストーションフィールド、出力低下》


 っっっ!! しまった!!


 エンジンに被弾し、出力の落ちたナデシコに無人兵器が殺到する。


 やるしかない!! 


「ブローディア、フルドライブ……!?」


 ナデシコの危機に、俺がフルドライブモードを発動させようとしたそのとき、ナデシコに殺到した無人兵器が漆黒の閃光に飲まれ、次々に火の玉へと姿を変えていった。


 どうやら、間に合ったようだな……。


《君達、下がりたまえ!! ここは危険だ!!》


《誰だよ、テメーは!!》


 謎の機体からの通信に驚くリョーコちゃん。


 しかしあの機体……なるほど、とりあえず新型は完成したみたいだな。


 おそらくアカツキが搭乗しているだろうその機体を見ながら俺は納得する。


 あれはネルガルで開発が進められている新型のエステバリスだ。たぶんブラックサレナの中に入っているエステバリスを量産しやすいように改良したものだろう。


 そして、幾筋もの閃光が木星蜥蜴の軍に襲いかかった。


《敵、二割がた消滅》


《うっそ〜〜!!》


《第二波感知》


 後方から飛来するグラビティブラストにブリッジでも驚きの声が上がる。


 さらにコスモスの砲撃は続いた。


《す、凄い!!》


《多連装のグラビティブラスト、だと!?》


《そ、それじゃあ!!》


 その後、コスモスの活躍により木星蜥蜴の軍は壊滅。ナデシコは無事にコスモスと合流を果たした。








 〜 ルリ 〜



 とりあえずナデシコは無事コスモスに合流。


 避難民の人たちはイネスさんを除いて全員コスモスで地球へと帰れることになりました。


 なんでもしばらくの間はネルガルの保護を受けられるそうです。


 まずは一安心ですね。


「チューリップを通り抜けると、瞬間移動する……とは限らないのね」


 現在、やっと起きてきたイネスさんを交えた主要なメンバーを集めて、ブリッジで今後の対応について話し合いが行われています。


「少なくとも火星での戦いから、8ヶ月が経過しているのは事実よね」


 アクシデントはありましたが、どうやら今回も八ヶ月が過ぎていたようです。


 その間にネルガルと連合は和解、コスモスを完成させて月を奪還する作戦を決行したみたいです。


 で、結果はご存知の通り、というわけです。


 あ、イネスさんが説明に入ろうとして止められた。


 相変わらず見事なフォローです、プロスさん。


「それでネルガル本社は、連合軍と共同戦線をする事になりまして……ね、艦長」


「あ、それで……ナデシコは地球連合海軍 極東方面に編入されます」


 ユリカさんは暗い表情でそのことを打ち明けます。


 やっぱり軍人紛いのことをしなければいけないことが嫌なんでしょうか。


「私達に軍人になれって言うの?」


 ミナトさんの口からみんなの心を代弁するようなセリフが出てきました。


 それに返したのはアカツキさん。


「ま、一時的な共同戦線みたいなものかな」


 そう言いながらミナトさんにナンパしています。


 無駄ですよ。ミナトさんは見た目と違ってそういう声かけには応じない人ですから。


 それほど時間もかからずアカツキさんは撃沈しました。


 ホント、バカ。








 〜 アキト 〜



 とうとう二度目の攻撃が始まった。


 アカツキから挑発のようなものを受けもしたが、前回ほどでもない。


 まぁ一年の間にアカツキとそれなりに親しくしていたのが大きいのかもしれない。


 お互い、相手の考えをよく知っているからな。


《リョーコ、隊列はどうするの?》


《鳳仙花だ!!》


《りょーかい!!》


 俺達は四方に散って行き、無人兵器の各個撃破に出る。


《さて、その新型の力を見せてもらおうかな?》


「無理を言うなよ……」


 リミッターが働いている今の状態じゃ、このブローディアの三割の実力も出せない。アカツキにもその報告はきているはずだ。


 俺はすばやくハンドカノンでこちらにむかってくるバッタ八体を叩き落す。


「七……八、と。軽くこんなもんだ」


《どうやら腕は落ちていないようだね。まぁ前線に居たんだから当然か。相変わらず、君は敵には回したくないね》


 それはお前次第だぞ、アカツキ。


「えっ?」


 俺の目の端を……バッタともつれながら、ガイのエステバリスが飛んで行った様な気が……した?


 いや、多分……目の錯覚だろう。


 前回ならともかく、今回のガイは早々バッタに後れをとるようなことはない。


 きっと気のせいだ……。そう自分に言い聞かせた。



 だが、格納庫に戻った後事情を聞いて俺は舌打ちした。


 なんでも、そのときガイにバッタが集中していたらしく、しかも無理な機動の連続に推進部の磨耗が早かったらしい。


 結果、バッタの捨て身によってガイは月にむかって飛ばされてしまった、ということらしい。


《自力での帰艦は無理なんですか?》


「エネルギーフィールドの外に完璧に出ている上に推進部を損傷しているからな……まず自力での帰艦は無理だ。

 それどころか内蔵バッテリーが切れれば、そこで酸欠でアウトだからな」


 ユリカの質問に、ウリバタケさんが頭を掻きながら返事をする。


《わかりました。プロスさん、ナデシコの修理はもうそろそろ終わりですよね?》


《はぁ……しかし、内臓のバッテリーは残量を考えると約二十分。

 ナデシコが修理を終えてエステバリスを回収するポイントに到着するまで約三十分かかります》


《間に合わない、ですか……。アキト》


「なんだ?」


《ブローディアってたしか、相転移エンジンを積んでいたよね?》


「あぁ。……言いたいことはわかった。俺がガイを救出にいってくる」


《さっすがアキト! 以心伝心だね》


 いや、以心伝心っていうか前回と同じことするだけだし……なんて、いまのユリカにはいえないけどな。


 ま、ノーマル戦闘機よりは安全なのはたしかだな。


 このナデシコのみんなが、俺にとって最初の仲間だから。


 だから、誰一人として失いたくはないんだ。


《アキトさん、必要ないと思いますけど……気をつけてくださいね》


「あぁ。まぁ機体はブローディアだからね」


《アキト、頑張って》


「ありがとう、ラピス」


《進路、オールクリア。ブローディア、発進OKです》


「了解、ハーリーくん。テンカワ・アキト、ブローディア・ゼロ、出るぞ!」


 とりあえず、今回は女性陣によるお仕置きはなさそうだな。よかったな、ガイ。


 俺はナデシコから出撃しながら、そんなことを思った……。



 途中、バッタ何機からか襲撃を受けるが物の数ではなかった。


 ガイのエステバリスは推進部を除けば大きな損傷は見られず、ガイも意識はハッキリとしていた。


《ワリィな、アキト。ドジ踏んじまったぜ》


「気にするな。セイヤさんもエステのほうが限界に来ていたっていていたからな。ガイが悪いわけじゃないさ」


《あぁ。どうもエステが鈍く感じてよぉ……。今度博士と相談してみるか……》


 ガイ、とうとうエステバリスの反応に不満を持ち始めたか。


 これは本気でテストタイプ二号機にガイを乗せるように相談してみる必要があるかもな。


 あとでアカツキと話してみるか……。



「……で? こうして食堂に呼んだってワケかい?」


 帰還後、俺はさっそくアカツキに相談してみることにした。


「あぁ。お前のことだ。テストタイプ二号機もコスモスにもって来ているんだろ?」


「まぁね。僕の機体は量産も視野に入れたテストタイプ三号機だからね。近いうち、ナデシコのエステバリスも総取替えする予定さ」


「そうか……。追加装甲のほうは?」


「一応近接戦用の装甲は組みあがって持ってきてはいる。

 今地上にあるネルガルの実験場では量産をメインにしたものを、エステバリス・ネオを使用して実験を続けているからね。

 ただ、今回もってきたのはあくまで試作型だ。ブラックサレナ同様にパイロットのことは度外視している」


「構わないさ。もともとナデシコのパイロットは『腕は一流』で集められているからな。俺から見ても乗りこなす素質は高いと思うぞ」


「さすがは我がネルガルの誇った元・No.1テストパイロット、というところかな?」


「褒めても何もでないぞ?」


「食事は出るだろう? ここは食堂で君はコックなんだから」


 戯れ程度の言葉を交わし、アカツキは食堂を出て行った。


 とりあえずは順調、だな。あとはガイが近接戦闘用追加装甲を使いこなせるかどうか、だな……。





 その後、ナデシコは副操舵士のエリナさんと副提督として乗り込んできたムネタケを乗せてコスモスと別れた。


 ムネタケは相変わらず……いや、前より少し沈んでいるかな?


 なんというか、以前より覇気がなくなったように感じる。


 なにかあったのか?


 一方、エリナさんのほうはなんだか俺のほうを睨んでいる。


 まるで『なぜ黙っていたのか』というようだ。


 どうやらあの映像を見たようだな。まさか自分たちの社員の中にボソンジャンプができる人間が居るとは思わなかったんだろう。


 もっとも、ナデシコに乗る時点でネルガルではほとんど解雇に近い扱いになっていたし、命令されても聞く気はないから別にいいけど。


「まったく……どうして会長秘書が直接乗り込んで来るんです?」


 またプロスさんがブヅブツと隠れてつぶやいている。


 やっぱり上司は近くに居ないほうがいいらしい。


 こうしてナデシコは前回のメンバーにフクベ提督を加えて再び動き始めた。


 さて……また忙しくなりそうだ。








 火星から帰還したナデシコ。


 八ヶ月という月日は敵と味方、両者に力を与えたようだ。


 軍と共同戦線を張り、今度は地球で戦いを続けるナデシコ。


 次回は北の大地、北極……。















 ・ 第一回・あとがき座談会 ・



AKI「どうも、AKIです」


ルリ「呼ばれてきました。お馴染み『電子の妖精』ことホシノ・ルリです」


ラピス「理由同上、ラピス・ラズリだよ」


ハーリー「以下同文、マキビ・ハリです」


AKI「さて、始まりました『第一回・あとがき座談会』」


ルリ「なんでまた、いきなりこんなこと始めたんですか?」


AKI「ん? まぁ第八話に入ったし、火星から地球に戻ってきたからね。心機一転のつもりで」


ハーリー「ただ単にあとがきで独白書くのがつらくなってきただけなんでしょう?」


AKI「あぅ……」


ラピス「まぁしょうがないよね。あとがきっていったって、そのときの話を振り返って次回予告して、それだけだもん」


AKI「はぅあ!(グサッ)」


ルリ「真実は、時に人の心を傷つけるんですよね……」


ハーリー「ルリさん、それをいっちゃあ……」


ラピス「それで? 今回は何を話すの? やっぱり今まで通りにやる?」


AKI「……それじゃ芸がないだろ。今指摘されたばっかりなのに」


ハーリー「じゃあ、なにをするんですか?」


AKI「……なにしよう?」


三人「…………はぁ」


AKI「(汗)じ、じゃあ質問コーナーとかしてみるか」


ルリ「質問……ですか?」


AKI「うん。というわけで、なにか質問は?」


ラピス「唐突だね……」


ハーリー「苦し紛れのセリフだったんじゃないかな……」


AKI「質問は!?」


ルリ「……じゃあ、わたしが」


AKI「はい、ルリちゃん」


ルリ「なんで『三旗竜』はアキト×ルリじゃなくてハリ×ルリなんですか?」


AKI「へっ?」


ラピス「あれ、ハーリーって相手ルリになってたの?」


AKI「い、いや……まだどっちにするか決まってないけど……」


ハーリー「いいんですか? そんなことで……」


AKI「だってここでバラしたら二人のファンの人たちが読まなくなるかもしれないし」


ルリ「そう、そこです」


AKI「はい?」


ルリ「わたしはいいんですよ。『AKIさんのところのホシノ・ルリ』ですから。

 でも世間一般のSSのカップリンクでは、アキト×ルリが主流で、次がカイト×ルリ、ハリ×ルリはかなり少なかったと思うんですけど……」


AKI「……あぁ、つまりなんでマイナーなハリ×ルリでSSを書いたかってことか」


ルリ「はい」


AKI「ま〜なんというか、それこそがまさに答えなんだよね」


三人「えっ?」


AKI「アキト×ルリって主流、ようするにみんな書いてるわけで、あちこちでいろんな作家さんが書いている。それをいくつも読んでいてこうなったわけ」


ラピス「どういうこと?」


AKI「ハッキリ言ってアキト×ルリは飽きた」


ハーリー「それはまた、あちこちの人を敵に回しそうなことを……」


AKI「まぁ嫌いってほどでもないけど、自分で書こうとは思わない、そんな感じ」


ラピス「じゃ、何で相手がハーリー?」


AKI「ん〜〜たぶん、アクションの山のようなSSを読んだのが原因」


ハーリー「というと?」


AKI「あんまり扱いがひどいもんだから……、なんつーか、反骨心? みたいな感じで」


ラピス「……ハーリー、哀れまれてたんだ」


ハーリー「はぁ……どうせ僕なんて……」


ルリ「……そろそろ時間のようですね」


AKI「おっと、話が長くなっちゃったか。それじゃ次回予告を……トップバッター、ルリちゃん!」


ルリ「はい。

 地球に帰還したナデシコにはじめて送られてきた指令は前回同様の北極・親善大使救出任務でした。

 二回目ではアキトさんが暴走したこの地で、再び試作DFSの実戦テストが行われます。

 そのとき目覚めたものとは……。

 次回、機動戦艦ナデシコ 〜 時の流れに 〜 三旗竜 第九話 [『奇跡の作戦「キスか?」』 現臨する鬼神]

 とりあえず、暇なら読んであげてください」


AKI「以上、あとがき座談会でした♪」


















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代理人の感想

うーん、やっぱり現状では戦闘よりもそれ以外のところが面白いかな?

マシンチャイルド三人組の恋の鞘当(?)とかアキト=アカツキラインの悪巧みとか。

戦闘が苦手と感じたらそれ以外に重点をおくのも一つの手ではありますね。

 

後書きに関してはまったく同感。

余り多すぎると食傷します。

で、同様に食傷するのが「逆行したのに原作どおりの展開でしか進まない逆行SS」。

作者の人に「歴史を変えようとあがくのに結局変えられない無力さ」を見せたいとかの意図があるならまだしも、

過去を知っていて歴史を変えようと努力してるわけですから、全く同じになるわけ無いですよね、普通。

細かいことから始まって大筋はどんどんずれていくはずです。

私は逆行した経験が無いので断言は出来ませんが。

AKIさんにはそういう点でもちょっと頑張ってみて欲しいかなと思います。では。