輝ける未来を
第九話

あれから6日経ち、月での修理を終えたナデシコはようやくサツキミドリ2号に到着した。

木星蜥蜴の襲撃により本来積む筈であった荷物の20%が積み込み不可能となってしまったが

本来の目的である戦力の補充、エステバリスの回収は問題無かったので、プロスやゴートなどの

企業関係者はホウメイ以外誰もいない食堂でとりあえず安堵のため息をついていた。

「いやはや、アキトさんが居たおかげで大半の荷物が回収できました。本当にタイミングが良かったですね」

「しかしミスター、偶然としては余りにもできすぎているとは思わないか?」

突然の機体のテスト、そして機体が到着してすぐに蜥蜴の襲来。確かに図ったのごとくのタイミングの良さである。

「彼らを疑っているのですか?」

「無論だ。とくに艦長が怪し過ぎると思わないか」

「・・・・・確かに怪しいとは思いますが、職務はきちんとこなしますしクルーとの間の関係も良好、

 パイロットや料理人、技術士としての腕も確かです。今こちらから変に疑いをかけて関係を悪くする

 よりもじっくり観察していく方が良いとは思いませんか?」

「しかし・・・・・」

「それにこれは会長の御意志でもありますし」

「会長の意志だと!?」

「ええ、『ネルガルにとって害にならないのであれば泳がしといても構わない』と言っていました」

さすがに会長の意志であるならば企業の人間として逆らうわけにはいかない。よってこれ以上の追及はできない。

「それよりも明日は、艦長と新しいパイロットの就任式及び歓迎式をやる予定でしたね」

「うむ、皆張りきって準備している。特に整備班の者が」

「・・・・・ウリバタケさん、やり過ぎなければ良いのですが」

「無理だろう」

「でしょうね。・・・・・それよりも気がついていますか?」

「何をだ?」

「先ほどから入り口でこちらを見ている人が一人いるのですが」

「何だと!!」

動こうとしたゴートに動かないで下さいと目で合図をする。その意図に気付いたゴートは素直に従った。

が、ゴートのちょっとした動きに気付いたのかすぐにその場から去った。

「一体誰が」

「さあ、誰かはよく分りませんが、ここまで上手く気配を消せて、そして引き際の良さ。

 相当のてだれですね」

「追わなくて良いのか?」

「もう追いつけませんよ」

「明日の式典は中止にした方が良くないか」

「もう殆どの作業が済んでいるのですよ、今更中止にできますか?」

今更中止にしたら暴動が起きるのは必死だ。間違い無く整備班を中心にして。

「私達が気をつけておけば良いでしょう。さて、私達も休みましょうか、明日も忙しくなりますし」

プロスは二人分の勘定を済ました後自室に戻っていった。





自分の家の近くにある公園のブランコで小さな女の子が泣いていた。理由をいくら聞いてもただ泣きじゃくるばかりで

答えようとしない。その頃はこういった時にどう対処すれば良いか解らず、だからと言ってこの子をほっとくほど薄情にも

なれず、泣き止むまで傍らに立ちひたすら待ち続けた。それからどのくらい時間が経っただろうか、少女はぽつりぽつりと話し始めた。

自分の親が事故で死んでしまい、親戚がおらず施設に引取られたが施設で虐めに遭い逃げ出してきたことなどを。

自分はこの時生まれて始めて心から人を助けたいと思った。

「・・・・・ねえ、僕の家に来ない?」

「・・・・・えっ」

「だから、僕の家で一緒に暮らさない?僕の家、家族少ないから父さんも母さんもきっと君が来てくれると

 喜ぶと思うんだ」

少女は突然の提案に一瞬戸惑ったが首を横に振った。

「もう行くあてがあるの?」

「・・・・・ない」

「それだと元に居た所に逆戻りしちゃうよ」

その一言を聞いたとたんに少女の体が恐怖により震え出す。その時自分が言ってはいけない事を

言ってしまったことに気がつき、謝ってみるが彼女の震えは止まらない。どうしたらいいか解らなくなってきた時

ふと、自分が泣いたときいつも母が優しく抱きしめてくれたことを思い出し、少女を後ろから抱きしめる。

「大丈夫だから、もう怖くは無いから」

そう言い強く抱きしめてみるが少し強すぎたみたいで苦しそうな表情だったので少し力を抜く。

「・・・・・実はね、僕の父さんと母さんは本当の父さんと母さんじゃ無いんだ」

「・・・・・・・・・」

「今の父さんは本当の父さんのお兄さんで本来なら叔父さんで・・・・・僕が生まれた時

 『家には男がもう三人居るから要らない』と言って叔父さんの家に連れてこられたんだって。

 でもね、叔父さんと叔母さんはは実の息子でもない僕を、本当の息子のように扱ってくれる

 とってもいい人なんだ。決して君のことを虐めたりなんかしないよ、絶対に。だから家に

 来て一緒に暮らそう」

抱きしめていた手を放し、少女の手を包み込むように握る。

「・・・・・ねっ」

「・・・・・お兄ちゃん、名前は?」

「明斗、天河 明斗。君の名前は?」

「み・・まる・・・・り・・」





明が目を開けると最近ようやく見なれた天井、艦長室の天井が目に入る。

まだ少しぼーとする頭を振り起き上がりながらさっきまで見ていた夢を思い出す。

(随分と懐かしい夢を見た物だな・・・・)

あの後明は両親に少女の身の上を話し、引取ってくれる様に頼みこんだ。

少々自分に対し条件がついたもののその後の手続きはスムーズに進み3日後には自分の家に家族として向い入れられた。

それから明があの事故でジャンプするまでの5年間一緒に住んだ。その間何をする時も二人一緒だった。

そんな懐かしい思い出に耽っていたが時計を見ると6:00を指していたのでいそいそと服を着換え

エプロンを付けると朝食の献立を考え始める。

「さて、今日は何にするかな」

そう言いながらキッチンに向おうとした時、机の上に1通の封筒が置いてあるのを見つけた。

もちろん昨日の夜までに部屋にはなかった物だ。

いぶかしみながら封を破り中の手紙を取り出して読んでみる。

「えーーと、『9時に展望室にきてください。』ってこれだけ?しかも9時って言ったら式が始まる時間じゃないか。」

どうしたものか悩んでいたが、自分が部屋に居る状態で気配を出さずに潜入し

これを置いて行った者なのだから少なくともこの艦の人間ではない。つまり外部からの潜入者であり

この船の艦長としてほっとくわけには行かない。

コミュニケでプロスとの通信を開き、式をづらすことを申請する。理由を聞かれるかと思ったが

難なく許可を得ることができた。

「さて、何が出てくるやら。」

服を戦闘用のに着がえ武器を手入れしながらそう呟いた。





格納庫はナデシコの大半のクルーが式の始まりを待っていた時、プロスが壇上に上った。

「皆さんご静粛に。」

まさに鶴の一声。格納庫は一瞬にして静寂に包まれる。

「式は9:00を予定していましたが主賓の一人である艦長の天河 明さんの都合によりづらす

 ことになりました。」

プロスが予想した通り観客から不満の声が嵐のように格納庫を包む。

「しかし、いくら私用とは言え大事な式をづらす訳ですからそれ相当なことでないと我々も

 納得しません。しかし、艦長の私用はいつも秘密になっています。よって式の始まる間艦長の

 秘密を少しの間見てみましょう」

「ちょっと待ってください!」

「どうしましたかアオイさん」

「いくらなんでもプライバシーの侵害ですよ、覗き見なんて」

最近めっきり台詞の無かったアオイ副長が実に常識的な意見を言う。

「それに、明君はコミュニケ越しの相手の気配が解る化物なんですよ」

・・・・・何気にひどい事を言っているな、あんた。

「ははははははは・・・・・、大丈夫だ。こんなこともあろうかと、こんなこともあろうかとってな」

群集を掻き分けてウリバタケが出てきた。

「今回はルリルリにも手伝ってもらって、あいつでも気付かないように色々仕組んでいるからな」

「と言う訳で、大丈夫ですよ」

「大丈夫って、そんなわけ無いでしょう!!」

「・・・・・すみませんが、少し眠っていてください」

素早くジュンの首筋に手刀を叩きこみ、一撃でジュンを昏倒させる・・・・・ジュン哀れ。

「では、Let`sショータイム」

そして何時の間にか壁に取り付けられた巨大なスクリーンに明の姿が映し出された。



明が展望室についたときそこに白銀のマントを身にまといこちらに背を向けて立っている

黒髪の少女がいた。

「・・・・・2分の遅刻だよ」

明にとって聞き覚えのある声、もう2度と聞くことが無いと思っていた声が静まり返った

部屋に染み渡る。

「・・・・・そのくらい大目に見てくれても良いだろう」

「駄目だよ。そんなこと言ってると時間通りに来ることができなくなっちゃうもん」

「相変わらず真面目な性格だな。少しくらい肩の力抜かないと疲れるぞ・・・・・百合香」

少女・・・・・御統 百合香が振り返り明を見つめ、やがて彼女の黒い瞳から一筋の涙がこぼれる。

「・・・・・本当に久しぶりだね、明斗お兄ちゃん」

「そうだな、5年ぶりか。元気だったか」

「もちろん。元気が取柄の一つだもん」

さっきとは一転して満面の笑みに変わる。

「それでね、お兄ちゃん・・・・・」

「何だ?」

「えーーーと・・・・」

体をもじもじと動かし落ち着きが無い。もちろん、明・・・もとい明斗は百合香が何をしたいのかが

解っているが、あえて気がつかない振りをしている。彼は意外といじめっこの性格なのである。

もちろん、彼女限定ではあるが。

「どうした・・・・トイレか?」

「・・・・・・・・・バカ」

頬を膨らましてそっぽを向く百合香が思え可愛らしくて、彼女の下に歩み寄りあの時と同じように

抱きしめる明斗に、百合香は明斗の胸に頬擦りをして甘える。

「ごめん、冗談のつもりだったんだ」

「・・・・・ショートケーキ」

「えっ」

「お兄ちゃん特製ショートケーキで許してあげる」

「了承」

それからしばらくの間二人は互いの温もりを感じ取っていたが、明斗は重大なことに気付いた。

「でさ、どうして百合香がこの世界に居るんだ?」

「それは・・・・・」

「説明しましょう!!!」

(この声は!)

百合香と同じように2度と会う事が無い人の声が聞こえた方に顔を向ける。その先には・・・・・

「久しぶりですね、明斗さん。いえ明さん」

アキトと琥珀を助け、自分の主だったあの女性だった。






後書き

お久しぶりです、akiraです。・・・・・またオリジナルキャラが増えてしまいました。(泣)

まあ、名前の通りあの人の子孫です。詳細はまったく決めていません。

よって、今回のオリキャラはなっしんぐです。

明に関して、今回明の名前が明斗(アキト)となってますがこの事に関しても番外編にでも書こう

と思っています。

では、また次回にお会いしましょう

 

代理人の感想

・・・・・・え〜と。

本当にわけがわからなくなってきましたな。

ユリカがいなくなって百合香がでてきて・・・・先が読めん。