輝ける未来を
第十一話
明は展望室を出た後会場に向う前に服を着換えるために自室に向っていたが、
自室まで後もう少しと言うところまで来た時足を止めた。
「・・・オモイカネ、聞こえるか」
『はい、何ですか?』
明のすぐ隣にオモイカネ専用のウインドウが開き、明の呼びかけに答える。
「倉庫」
『・・・倉庫がどうかしたんですか?』
「倉庫に誰かいる気がする。確認してくれないか」
『別に良いですけど、どうしたんですかいきなり?』
「いや、別にただなんとなくそんな気がしたんだ」
『はあ、わかりました。ちょっと待ってくださいね』
明のいきなりで唐突なお願いに戸惑いながらも、指示されたとうりに倉庫の中を確認してみるが
カメラにはなにも映らないし、センサーでも何も確認できない。
『何も映りませんよ。気のせいじゃあないんですか?』
「・・・はたしてそうだろうか」
目を瞑り体を自然体にすると、神気を放出し体が紫金色に包まれる。
『天河さん、その光は一体何なんですか!?』
いきなり明の体が光に包まれた出来事に驚き無数のウインドウが彼の
周りを取り囲むが一切無視して神経を集中すること数分、やっと目を開ける。
「やはりいたか、行くぞオモイカネ」
『ちょっ、ちょっと待ってください』
いきなり駆け出した明の後を追い、明に平行するようにウインドウを移動させる。
『いきなりどうしたんですか?』
「俺の勘があたった。倉庫に一人いる」
『でも、何も反応しませんでしたよ。気のせいですよ』
「まあ見ていろ。すぐに証明してやる」
廊下を走ることで時間を短縮し約3分ぐらいすると目的の格納庫についた。
ドアが開き1歩中に足を踏み入れると再び神気を放出し、
そのまま横の方に移動し無造作に床に積んでいた積荷を少しずらしてみると
そこから人の足が出現した。
『体温が反応しなかったってことは、この人死んでいるんですか!?』
「かもしれんな」
『ねえ、どうしましょう、どうしましょう天河さん、艦内でこんな怪奇事件
みたいな事が起きるだなんて洒落になりませんよ』
無数のウインドウが明の周りをくるくると回りだす。オモイカネは製造されたばかりなので
こういった場合にどのように対処して言いか解らずひたすら混乱するばかりだ。
そんなオモイカネの様子を暫くの間見ていた明の顔には笑みが浮かんでいた。
『どうして笑うんですか』
「すまない。君の行動が余りに人間くさかったからついな。大丈夫だこの人は死んでいない。
ただ寝ているだけだ」
『本当ですか!!』
「ああ、体温は限りなく低いが生きていることは確かだ」
『どうしてそんな事が解るんですか?』
「機械には判らないだろうが人の体内には『氣』と言う物がが流れていて、
その流が途絶えない限り人は生き続けるんだ」
『そんな非科学的なことを信じろと?』
「信じる信じないは君の勝手だ」
明はゆっくりと被さっていた荷物を全て取り去ってみると倒れていた人の全容が明らかになる。
「・・・女性だな」
『・・・女の人ですね』
その女性の容姿から年は20歳前後だと推定され、紫がかった黒い髪は紐でポニーテール
にしている。服装は今の明と殆ど変わらないような全身真っ黒の衣装で統一されている。
『密航者ですか』
「いや、どちらかと言うと監視者あるいは刺客と言ったところだろう」
『どうしてそう言えるんですか?』
「しいて言えば、長年培った俺の勘だ」
『またそんな非科学的なことを』
オモイカネが明の答えに不満を漏らしているのを尻目に眠っている女性を起こさない様に
そっと抱き上げ部屋から出ようとする。
『ちょっと、天河さんその人をどこに連れていくんですか』
「どこって、こんなところで寝かしていたら風邪引くだろ。とりあえず俺の部屋に連れていく
つもりだが?」
『・・・・・』
「どうかしたか」
『天河さん、まさかその人を組み敷こうとするつもりじゃあないですよね』
「・・・はあ!?」
明は最初オモイカネが何を言いたいのかわからなかったが、すぐに真意を理解し
顔を真っ赤に染め上げた。
「そんなことするか!!!」
『本当ですか?』
「あたりまえだ!!見ず知らずの人を襲うほど俺は飢えちゃあいない。たく、どんな目で
俺を見ているんだよ」
『わかりませんよ、容姿も整ってますし体躯も引き締まって無駄が一つもありません。
明さんも男なのだから、思わずむらむらっときて襲っちゃうかもしれませんよ』
「むらむらってなあ・・・そんなこと誰に教わったんだよ」
『ルリと琥珀さんです』
あの二人なら納得したのごとくため息をつくと、さっさと自室に向い去って行った。
「やっぱりこうなる運命だったんだな」
今、会場の端のほうにいる明の目の前で行われている飲めや食えやの大宴会を見ながら
そう呟いた。
倉庫をでた後、なるべく振動を与えず早足で自室に戻ると女性を布団に横たわらせ、
普段着用している艦長服に着換え、簡単にサンドイッチを作り書置きと共に簡易テーブルの上に
置くと急いで会場に向って走り出した。途中で奥義の歩法なんかを使っちゃったりして
先ほどの時間の約半分で目的地に着くと、すぐに壇上に上り
「用事とは言え、私的な物で遅れてすまない」
と謝罪を述べた。1時間以上遅れたわけで不満の声や理由について聞いてくると予想していたが
誰一人として聞いてこなず、不審に思った明は近くにいたプロスに聞いてみたが
「皆さん、艦長のことを信頼しているからですよ」
と言い、かってに式を始め出した。始めた以上追及できないので諦めておとなしく
しておいた。式は着任したパイロット四人娘と新艦長の明が順々に挨拶をして
その後は、冒頭の状態である。
(しかし、アキトさんの歴史ではイツキさんはこの場にいなかったはずだ。
やはり俺や琥珀ちゃんのようなイレギュラー的存在が歴史を少しづつ
変えていっているんだろうな・・・)
「天河さん何を考えているんですか?」
「えっ」
振り向いたその先には何時のまにかイツキが隣にいた。
「カザマさんか、どうしたんだこんな端のほうに来て」
「私、賑やかな所はあまり好きでは・・・それに天河さんと少し話でもしようかなって
思ったんです。・・・迷惑でしたか」
「でもカザマさん、俺と話なんかよりもアキトさんと話をしたほうが楽しいと思うよ」
「あの人とはもう話はしました。と言っても隣にいた琥珀さんやホシノさん、ラピスちゃんが、
ずっとこちらを見ているから落ちつきませんでしたが」
そう、サツキミドリの襲撃の後ラピスはアキトにくっついてナデシコにやってきた。
当初、プロスは良い顔をしなかったがアキトやルリがラピスの有能性を説明し、
ルリとラピスの電子戦での模擬戦で互角とは言えないものの良い結果を出したことで
オペレーター見習としてナデシコの一員として迎え入れられた。
しかし、勤務時間外の彼女は常にアキトにくっ付いて片時も離れ様としない。
当然妻である琥珀にとっては面白くないことこの上なく、彼女もまたアキトの傍らにつき
ラピスを徹底的に妨害する。時には取っ組み合いにまで進化する事すらある。
それに続きころあいを見計らったのごとくルリが現れ漁夫の利を得ようとするが
必ずと言って良いほど琥珀かラピスのどちらかが気付き、戦況が悪化する。
その結果、最近プロスは懐に胃薬を常に携帯するようになり、明に回ってくる
仕事の数も倍になった。
「三人とももう少し自重してくれないかな」
「何の話ですか?」
「いや、なんでもない」
再び二人の間に沈黙が訪れる。暫くは持っていた飲み物を飲んでいたがそれが尽きると
なぜか気まずい雰囲気が漂う。
「・・・あの」
「何か」
「一つ聞いて良いですか?」
「答えれる範囲でなら」
明がそう言うと、イツキは決心を決めたのごとく顔を引き締め明の正面に立つ。
「あの日、サツキミドリが襲撃された時に親子を守りながら戦っていたのは
あなたですね」
「いったい何の「正直に話してください」・・・」
「その時間帯にナデシコ内にも基地内にも居なかったことは証明済みです。
そして、基地外にでた形跡も無いんです」
「それっておもいっきり矛盾していないか?」
「だからこそ聞いているんです。お願いです答えてください」
「・・・仮に、サツキミドリに居たのが俺だったとしたらどうするつもりなんだ」
「・・・知りたかったんです。どうやって小太刀なんかでバッタたちを切り裂いたのか」
「そんなこと聞いてどうするつもりなんだ。まねするつもりか?」
「・・・・・」
沈黙は肯定。そう受け取った明はその場を去るとする。
「何処行くんですか!」
「最初に言った通り人違いだ。俺には関係ない」
そう言い残し明は会場から出ていった。
取り残されたイツキはポケットの中にあるものを強く握り締める。
それはあの日ほぼ無傷な状態で破壊されていたバッタに突き刺さっていた
極細の針だった。
後書き
・・・・・死して屍拾うものなし
代理人の感想
他人を覗く事は考えても覗かれる事は考えていないと見える(笑)。
……さて、いつばれるかな(笑)。