「それじゃあシンジ君。荷物の整理が終わったら連絡するから」

「わかりました、アキトさん。また後で」

シンジがそう答えると、アキトは部屋の中へと入っていった。
空気の抜ける様な音がしてドアが閉まる。シンジはドアが閉まると自分の部屋へと向かった。
自分の部屋に向かって十秒と経たずにシンジは自分の部屋に辿り着いた。なにせ、シンジの部屋はアキトの隣である。
シンジがあらかじめ渡されていたカードキーをスロットに通すと、空気の抜ける様な音を立ててドアが開いた。
部屋の中は、タンスと棚、壁の方に蒲団がキレイに畳まれて置かれている。
契約の時に頼めば、タンスなど自分の持つ調度品は運んでもらえるが、シンジは持っていないため支給された物を使う事になっている。

「ここが僕の部屋か……。一人で使うにはちょっと広いかな」

シンジは部屋を見回して呟いた。アキトと別れてからまだそんなに時間は経っていないが既に荷物の整理は終わっている。
荷物の量は確かに多かったが、そのほとんどが衣類と調理道具である。タンスに服を入れ、棚に調理道具を入れればそれで終わりなのだ。
他の荷物は乗って来た自転車と小さくしてポケットにしまってある木刀とエアガンだけであるため、シンジには部屋が随分と広く感じられた。
前の世界では物置が部屋であったし、この世界に来てからはアキトと一緒の部屋であった。
シンジは一人で部屋を使った経験が少ない。異様に部屋を広く感じてしまうのはそのためであった。

シンジがボーっと天井を見つめていると、シンジのコミュニケに通信が入った。
この艦でシンジに通信を入れてくる人物は限られている。アキト、またはプロスかゴートだけである。
さっきの話もあり、シンジには通信の相手が誰かわかっていた。

《アキトだけど……シンジ君は荷物の整理終わった?》

シンジの予想していた通り、通信の相手はアキトであった。
アキトとシンジの荷物の量は大して変わらないので、既にアキトも荷物の整理を終えていた。
さっきの約束通り、荷物の整理を終えたアキトはシンジに通信を送ってきたのだ。

「はい。僕はもう終わりました。アキトさんも終わったんなら、そろそろ艦の見学に行きますか?」

《そうだね。俺も終わったから、今からシンジ君の部屋に行くよ》

アキトはそう言って通信を切った。シンジの部屋にアキトが来たのは、通信が終わってからそれほど時間はかからなかった。















赤い世界から送られし者


第二話『ナデシコ発進!』

「こう見えても……一応十八歳なんだけどなぁ……僕」












シンジの部屋にアキトが来た後、シンジ達は自分の職場である食堂へと向かった。
てっきり今日から働くと思っていた二人だったが、二人が働くのはナデシコが出航してからだと食堂へ向かう途中に言われた。
二人は食堂の場所を確認した後、特に行く場所が無かったため格納庫を見学する事にした。


「レッツゴー! ゲキガンガー!!」




「ちょっとちょっと、アンタ! パイロットの乗艦は三日後のはずだろうが!!」

シンジ達が格納庫に着いた時、そこではツナギを着た整備班の男性──『ウリバタケ・セイヤ』の声。
そして、人型機動兵器──『エステバリス(通称:エステ)』のパイロットである『ヤマダ・ジロウ』の声が響いていた。

「まだ最終調整が終わってないんだから、さっさと降りろ!

ウリバタケがメガホンを使って叫ぶが、ヤマダはまったく聞いている様子は無く、ロボットで様々なポーズを取り続けている。
突然ロボットがポーズを取るのを止めたと思うと、ヤマダが大声で叫んだ。

「諸君だけにお見せしよう! このガイ様の超スーパーグレート必殺技……ガイ・スーパー・ナッパーーーーーー!!!

そして、エステが拳を上に振り上げ、片足立ちのポーズを取った。
最中調整前にそんなポーズを取ったため、ポーズを構えたままエステが倒れていく。

「「「「「ああーーーーーー!!!」」」」」



ウリバタケ達整備班の悲痛な叫び声が響く。そして、大きな音を響かせてエステは完全に倒れてしまった。
まだ戦闘を一度も行なっていないにも関わらず、新品同様だったボディに傷がついてしまった。

「ゲキガンガーかぁ……」

アキトがヤマダの様子を見て、懐かしそうに呟く。それを見たシンジは不思議に思って尋ねた。

「あの『ゲキガンガー』って何ですか?」

「ああ、昔にやってたアニメだよ。実は俺も昔はよく見てたんだ」

シンジもたまにレイと一緒にアニメを見ていたが、そんなアニメは見た事がない。
特に興味があるわけでもなかったので、シンジはそれ以上そのアニメの事については聞かなかった。

「だーはははは」

ヤマダの笑い声が響き、シンジはエステの方に目を向ける。
シンジが目を向けた先では、整備班達によって助けられているヤマダが嬉しそうに笑い声を上げている。
そんなヤマダを見る整備班達の目は冷たい。自分達の整備した機体が傷つけられて嬉しいはずもない。

「すげえよなぁ、ロボットだぜロボット! 手があって足があって思い通りに動くなんて、もうすごすぎって感じ!!」

「最新のイメージフィードバックだからさ……。それがあれば子供だって動かせるけどね」

子供の様に喜ぶヤマダに、ウリバタケが手の甲のIFSを指さしながら言う。
ウリバタケの水を差すような物言いに、ヤマダの笑い声が止まるが、特に気にした様子もなく続ける。

「フッ……俺の名前は『ダイゴウジ・ガイ』まぁ、ガイって呼んでくれ」

「あれ? ヤマダ・ジロウってなってるけど……」

ヤマダの話を聞いたウリバタケが、資料を見ながら不思議そうな声を上げる。
ウリバタケの言葉に、ヤマダは「うっ!」っと詰まった声をあげるが、ウリバタケに言う。

「それは世を忍ぶ仮の名前……ダイゴウジ・ガイはの名前、俺の真実の名前なのさ!」

ウリバタケ達整備班だけでなく、それを聞いていたシンジもアキトも呆れたような目でヤマダ──ガイを見る。
しかし、ガイはそんな視線を気にした様子もなく立ち上がり、自分の台詞に酔ったのか遠くを見つめながら未だに続けている。

「ガイ……なんて素晴らしい名前なんだぁ……。さあ、木星人よ! 来るならこい!! このダイゴウジ・ガイ様が……」

長々と続けていたガイであったが、途中からだんだんと顔色が悪くなっていく。
その様子に気づいたウリバタケがガイに尋ねる。

「おい、どうした?」

「いやね……その……足がね……? 痛かったりするんだなぁこれが……」

さっきまでの自信溢れる声はどこへ行ったのだろうか。どんどん情けない声になっていき、最後には真っ青な顔をして倒れてしまった。
流石におかしいと思ったのか、慌ててウリバタケがガイの容態を調べる。

「ああ! おたく折れてるよこれ……」


「なんだとぉ!?」




ウリバタケにそう言われ、自分の足が折れてる事に気づくと情けない声を上げてガイは泣き叫ぶ。
そんなガイの様子にため息を吐きながらウリバタケと整備員が、持ってきた担架でガイを医務室へと運んで行く。
「いたたたたたたぁぁぁぁぁ」とガイは叫びながら運ばれて行く。シンジとアキトは呆然とした様子でそれを眺めている。
あまりの光景に何も言えないでいると、シンジのコミュニケにプロスから通信が送られてきた。

《シンジさん、それにアキトさんも一緒にいらっしゃいますな。そろそろブリッジクルーの方々と顔合わせがあるのでいらしてください》

「わかりました。これからそちらに向かいます」

「じゃあ、行こうかシンジ君」

アキトと二人でブリッジへ向かおうとしたが、そこで声をかけてきた人物がいた。

「おーい! そこの少年!!」



声をかけてきた人物──それは骨折パイロットのダイゴウジ・ガイであった。
ガイはアキトの方に手を伸ばしながら「少年」と呼んでいる。アキトが自分を指さすと、ガイは首を縦に振る。
あまり関わりたくないアキトであったが、声をかけられた以上無視するわけにもいかなかった。

「えっと……何?」

「コックピットの中に俺の宝物があるんだ。すまん! 取ってきてくれ〜」

両手を合わせて必死になって頼み込むガイの様子を見て、仕方なくアキトはその宝物を取りに行く事にした。

「シンジ君。俺、あいつの宝物ってやつを取りに行かなきゃいけないから先に行ってて」

シンジを待たせておく必要もないので、アキトはシンジに先に行くように言った。
シンジは「わかりました」とだけ言って、アキトを置いて先にブリッジへと向かう事にした。










「ちょっと、それどういう事!?」




シンジがブリッジに向かっている時、ブリッジではプロスとゴートが文句を言われていた。
ヒステリックな声で文句を言っているのは『ムネタケ・サダアキ』という連合軍の人間で、キノコ頭が特徴的な男である。
プロスはいつもの笑顔を浮かべ、ゴートはいつもの無表情のまま、ムネタケを宥めようとしていた。

「……バカばっか」

そんな様子を見て呟いたのは、ナデシコのオペレーターである少女──『ホシノ・ルリ』であった。
ルリの容姿は白い肌に白銀色の髪、そして金色の瞳とシンジと似た容姿をしている。
その金色の瞳は遺伝子操作をされたマシンチャイルドである事を示し、ルリがナデシコに乗っている理由である。
このナデシコに搭載されているスーパーコンピュータ──『オモイカネ』の性能を引き出すにはマシンチャイルドが一番適している。
そのために、まだ年齢的に幼いルリがスカウトされたのである。

「あの人達ですよね? 火星でコロニーに戦艦を落としたのって……」

髪をみつあみにした女性──『メグミ・レイナード』が可愛らしい声で言う。
メグミはナデシコの通信士で、ナデシコに来る前は声優の仕事をしていた。

「まぁ、キャンキャン吠えたくなるのはわかるけどねぇ……」

メグミの言葉に答えたのは、制服の胸元をかなり広げて着ている女性──『ハルカ・ミナト』だ。
ミナトはナデシコの操舵士で、ナデシコに来る前は社長秘書であった。

「頼りない民間人が集まったこの戦艦に、せっかくあたし達プロが来てあげたって言うのに!」

ますます声を大きくしてムネタケが喚く。ムネタケのその様子に、だんだんとプロスの笑みも引き攣ってきている。
ヒートアップして頭に血が上ってきたムネタケに、相も変らぬ無表情でゴートが口を開く。

「彼らは各分野のエキスパート。そして艦長は、地球連合大学所属中、総合戦略シミュレーションにおいて無敗を誇った逸材です」

ゴートはクルー達の有能さをムネタケに説明する。しかし、ムネタケが落ち着く様子はまったくない。
ムネタケは既にこの事は一度言われている。ムネタケ達は、さっきから似た様な会話を何度も繰り返していたのだ。
そして、ムネタケは一際大きな声でもう何度目かになる台詞を言った。


「だから、その艦長は何処にいるのよ!」




ムネタケにそう言われ、さっきまで無表情を保っていたゴートの表情が僅かに動く。
ムネタケが言っている様に、艦長はまだ来ていなかった。つまり、遅刻である。
サセボドックに到着した事は聞いたのだが、どうやら艦長は迷ってしまったらしい。
ムネタケは既に我慢の限界に達していた。もう一度ゴート達を怒鳴りつけようとした時、ブリッジのドアが開いた。

「プロスさん。アキトさんはちょっと遅れて……え、えっと……どうかしたんですか?」

ブリッジに入ってきたのはシンジであった。突然入ってきたシンジにブリッジクルーの視線が集まる。
自分に視線が集まっている事に気づいたシンジは、戸惑った声を上げた。
一瞬の静寂……。そして、それを破ったのはムネタケであった。


「まさか、こんなガキんちょが艦長だって言うじゃないでしょうね!?」




(ガ、ガキんちょって……)

シンジを指さしながらムネタケは大声を上げ、「ガキんちょ」と呼ばれたシンジはこめかみに小さな青筋を浮かべていた。
ムネタケの言う通り、シンジは大人には見えない。サードインパクトが起こったてからの三年間、シンジの身体は十四歳のままであったからだ。
成長が止まってしまったと言うよりも、シンジが意識して姿を変えようとしない限り身体が変わらないのである。
その事をレイが言い忘れていたために、シンジの身体は未だに十四歳のままであった。
再び喚き始めたムネタケをシンジは無視してプロスの方へと近づいて行った。

「プロスさん。あの……キノコは何ですか?」

名前を知らないシンジはムネタケの頭を見て尋ねる。
プロスはシンジの「キノコ」という言葉に苦笑しながら答える。

「彼はムネタケ・サダアキさんと言って、あの第一次火星会戦に参加していた連合軍の方です。
 本当はフクベ提督だけをお呼びしたのですが、勝手に来てしまいまして……」

「フクベ提督……?」

「ええ、あちらにいらっしゃる方です」

プロスが目を向けた先には胸に勲章をつけ、立派な髭を生やした老人が立っている。
その老人は第一次火星会戦にてチューリップを落とした英雄──『フクベ・ジン』である。
軍を退役したフクベは、このナデシコの提督としてスカウトされていた。

「何で勝手に来た上に、あんなに偉そうなんですか……?」

「やはり、この御時世に民間が戦艦を飛ばすとなりますと色々と問題がありまして……仕方ないんですよ」


プロスが疲れたようにため息を吐く。その横ではまたムネタケが騒ぎ始めていた。
また、ヒステリックな声を上げるかと思われた時、再びブリッジの扉が開いた。

「遅くなりました〜」

入ってきたのは、フォトスタンドを落としていった女性とその連れの男性であった。

「私がこの船の艦長で〜す! ぶい!!


「「「「「ぶい〜〜〜〜!?」」」」」




藍色の髪を腰の辺りにまで伸ばしたナデシコの艦長──『ミスマル・ユリカ』は満面の笑顔でVサインをしている。
その後ろでは、ユリカの幼馴染でナデシコの副艦長である『アオイ・ジュン』がユリカの挨拶に涙を流している。

「またバカ?」

ユリカのかなりはずした挨拶に全員が呆然とし、ルリはどうでもいい様な声で呟いた。
そして、敵の襲来を告げる警報が鳴り響いたのは、ルリの呟きが終わったのとほぼ同時であった。









「ナデシコの対空砲火を真上に向けて、敵を下から焼き払うのよ!」

「上にいる軍人さんとか皆ふっ飛ばしちゃうわけ?」

「ど、どうせ全滅してるに決まってるわよ……」

「それって、非人道的じゃありません?」

ムネタケが指示を出すが、それに対してミナトとメグミが反対意見を出した。
民間人である二人には、ムネタケの指示があまりにも非人道的に感じられたからだ。

「きぃぃぃぃぃぃー!」

「艦長は何か意見があるかね?」

ムネタケがおかしな声を上げ、隣に立っていたフクベが冷静に艦長に意見を求める。というよりも、試しているという方が正しい。
ブリッジにいるクルー達の目がユリカに集まる。そこには、さっきとはうって変わった真剣な表情をしたユリカがいた。

「海底ゲートを抜けて一旦海中へ。その後浮上して、敵を背後より殲滅します」

フクベに尋ねられたユリカは直ぐに作戦を立てる。その様子に、さっきの挨拶の事も忘れて皆感心していた。
プロスも自分の目に狂いはなかったと、頷きながらユリカを見ている。
その中で、一番驚いていたのは何を隠そうシンジであった。

(すごい……。ミサトさんよりもちゃんとした作戦を立ててる……)

シンジはユリカとミサトを比べ、ミサトよりも若いユリカの方がちゃんとした作戦を立てている事に驚いていた。
ミサトの場合、使徒というほとんど情報も無い敵であったため仕方ないと言えるかもしれない。
しかし、それを差し引いてもユリカの方が優れているとシンジは感じていた。

(ミサトさんが出した最初の指示って、『歩いてみて』だもんなぁ……。しかも、敵の前で……)

そんな事を考えているシンジの隣で、突然大きな声が響いた。


「そこで俺の出番というわけだ!」


シンジの隣で声を上げたのはガイであった。左足にギブスをつけ、ウリバタケと整備員に肩を借りて立っている。
自分が足を折っている事を忘れているのか、なおもガイは続ける。

「俺のロボットが囮となって出撃し、敵を牽きつける! その間にナデシコは発進!!なんて燃えるシチュエーションなんだぁ!!

「囮ならもう出てます。エレベーターにロボットが……」

この状況に燃えているガイに、ルリがあまり感情のこもっていない声で報告する。
ルリの報告を聞いて、全員の目が正面のモニターに向けられる。正面のモニターにはエレベーターに乗ったエステが映っている。

「一体誰が乗っているんだ?」

ゴートが疑問の声を上げて正面のモニターを見る。ゴートが疑問に思うのは無理もない。今ナデシコにいるパイロットはガイだけだ。
他のパイロットは、後で別の場所で合流する予定になっているのだ。
ゴートの言葉を聞いて、ルリが艦のコンソールに手を置いて操作する。すると、正面のモニターにコックピットの中が映し出された。

「な、なんでアキトさんがロボットに……」

信じられない光景に驚いたシンジは呆然とした様子で声を上げていた。
モニターに映し出されたのは、服の中にオモチャの人形を入れたアキトだった。

「ああー! 俺のゲキガンガー!!」

「君は誰だ? 所属と名前を言いたまえ」

ガイが服の中に入っている人形を指さして叫び声を上げ、フクベがアキトに尋ねる。
突然入った通信にアキトは慌てて答える。

「テ、テンカワ・アキト……所属はコックです!」

「あの人って、カバンを落とした時に会った人だよね?」

ジュンがモニターに映ったアキトの顔を見て、ナデシコに来る時に起こった事故を思い出しながら言う。

「アキト? アキト……アキト……アキト……アキト……アキト……」

「どうしたの、ユリカ?」

アキトの名前を聞き、ユリカが何かを思い出そうとするように何度もアキトの名前を呟く。
そんなユリカの様子を不思議に思ったジュンがユリカに声をかけるが、ユリカにはまるで聞こえていないようであった。
何度もアキトの名前を呟いていると、不意に小さい頃の自分と一緒に遊んでいた男の子の姿がユリカの脳裏に浮ぶ。


「あー! アキト! アキトだ!! ねぇ、アキトなんでしょう?」

ガイの叫び声に勝るとも劣らない声でユリカが叫ぶ。あまりの声の大きさに、ブリッジにいたほとんどの者が耳を押えている。
押えていないのは、ユリカと同じで声の大きいガイと幼馴染で慣れているジュンだけであった。
狭いコックピットの中にいたアキトに至ってはかなり危険な状態である。

「ユ、ユリカ……お前そこで一体何を……」

何とか復活したアキトが耳を押えながらユリカに尋ねる。
すると、ユリカの代わりに隣にいたプロスが顔に笑顔を浮かべて答えた。

「テンカワさんには言い忘れてましたが、ユリカさんはこのナデシコの艦長です」

「そうだよ、ユリカはナデシコの艦長さんなんだぞ。えっへん!」

ユリカは両手を腰に当てて胸をそらし、自慢げに答える。
しかし、アキトに逢えて嬉しそうだった表情を変えてユリカは尋ねた。

「でも、アキトはどうしてそんな所にいるの? そこにいると戦闘に巻き込まれるよ……? 
 そうか! アキトは私達のために囮になってくれるのね!」

「お……囮? ちょ……ちょっと待て! 囮ってなんだよ囮って!?」

ユリカの「囮」という言葉に、耳が痛い事も忘れてアキトは声を荒げるが、ユリカは聞いていない。
アキトが色々と言っている間にも、エステを乗せたエレベーターは地上に向かって着々と上昇していく。

「ナデシコと私達の命、あなたに預けます……。アキト、必ず生きて帰ってきてね……!」

ユリカが瞳に涙を滲ませて言い終えるのと、エレベーターが地上に着いたのはほとんど同時であった。
アキトの乗るエステの周りを敵の機動兵器が円を成して囲んでいる。

「作戦時間は十分間……とにかく敵を牽きつけろ」

ゴートが作戦を簡潔に伝えるが、アキトにゴートの声は届いていなかった。
敵に囲まれ、あの火星のシェルターでの事を思い出してしまったため、アキトの身体は恐怖に震えていた。
恐怖が強まり、叫び声を上げそうになったその時、アキトの脳裏にユリカの言葉と姿がよぎった。


ナデシコと私達の命、あなたに預けます……



「クッソーーーー!!!」



恐怖を振り払う様にアキトは大声を上げてコントローラーパネルへと手を伸ばす。
IFSを付けた右手がパネルに置かれると、エステの目に光が灯り大きく跳躍した。

「きたねぇよなぁ! 泣くなんてよーー!!」

跳躍したアキトのエステは機動兵器の円を飛び越えると、全速力で逃げ出した。









──話は少し遡る

ユリカが大声を上げた後、シンジはブリッジの外へと出て格納庫へと来ていた。
シンジの目の前には青いエステが置かれている。

(これがエステバリス……。何となくEVA零号機に似てるような気がする)

目の前にあるエステは一つ目で、顔の造りなどもレイの乗っていた零号機に似ている。
零号機に似たエステを見て、シンジは前の世界での事を思い出していた。
流されるままに戦い、肝心なときには逃げていた情けない自分。親友、仲間──大切な人達を誰一人として守る事が出来なかった。

(大切な人を失うなんてもうたくさんだ……。だから、アキトさん。僕が行くまで無事でいてください……)

首から提げたロザリオを握り締めて祈るように心の中で呟くと、シンジはエステのコックピットに乗り込む。
シンジがエステに乗り込むのを見た整備員が、慌ててシンジに声をかけた。

「ちょ、ちょっと君!? 何してるんだ!」

「すみません、ちょっと借ります!」

「借りますって、君IFS付けてるのか!?」

エステは基本的にはIFSで動かすのだが、IFSが無くてもマニュアルで動かす事が出来る。
しかし、マニュアルでの操縦は非常に難しい。マニュアルで戦闘を行なうなどはっきり言って無謀である。
整備員の止める声を無視し、シンジはコックピットのハッチを閉める。
ハッチを閉めたシンジはコントローラーパネルに手を添え、エステを動かすために力を解放した。

(行くぞ……バルディエル!

シンジがバルディエルの名を呟くと、自分の身体が大きく──まるで自分がエステバリスになった様な感覚を感じた。
不思議な感覚であるが、EVAとシンクロするのと同じ感覚であるためシンジにとっては懐かしい。
バルディエルの力でエステとシンクロしていくシンジ。完全にシンクロするとエステの目が光った。
確認のために右手を動かすイメージを浮かべてみると、思った通りにエステが動いた。

(久しぶりにこの力を使ったけど問題ないな……。何か武器は……ライフルが二丁ある。これで……)

シンジはエステの直ぐ側に置かれていたライフル──『ラピッド・ライフル』を両手に一丁ずつ持つ。
一つは自分用であるが、もう一つはアキトに渡すためのものだ。
二丁のライフルをエステに持たせると、シンジはエレベーターに乗り込み地上へと向かった。









ブリッジのモニターには地上の様子が映し出されていた。
アキトの乗るピンク色のエステが、敵の攻撃に当たらないように逃げている。
アキトを攻撃している敵の数が少しずつ増えてきていた。アキトの囮役が成功している証拠だ。
だが、その分アキトを襲う敵の攻撃が益々激しくなっている。

「まずいな……。あれだけの敵を一人で相手にするのはもう限界だろう。このままでは墜とされるのも時間の問題だ」

モニターの中で逃げ続けるアキトのエステを見てゴートが言う。
ゴートの言う通り、致命的なダメージこそ受けていないが、少しずつ損傷率が上がってきていた。

「ええ、もともとテンカワさんはコックです。それに、あの数を相手に一人で囮をするとなると……プロでも難しいでしょう」

ゴートの話を聞いていたプロスが、メガネをいじりながら答える。
まだ作戦が始まってから三分程しか経っていないが、あまりにも敵の数が多すぎた。
しかも、その数は今も増え続けている。サセボドックを襲っていた敵がアキトの所に次々と集まってきているのだ。

「おい、ゲキガンガーはもう一体あっただろ! 俺が援護に出るから格納庫に連れて行ってくれ!!」

ガイがウリバタケの襟首を掴み、前後に激しく揺すりながら格納庫に連れて行くように頼む。
ウリバタケは激しく揺すられて気持ち悪くなったが、何とかガイの腕を掴み、未だに揺すり続けるガイの腕を自分から引き剥がす。

「ゲキガンガーじゃなくてエステバリスだ! それに、アンタ骨折して歩けないのに戦闘なんか出来るわけないだろ!」

ギブスをつけたガイの左足を指さしながら、声を荒げるウリバタケ。
骨折した事を言われて一瞬何も言えなくなってしまったガイ。だが、モニターを指さしてそれでもなんとか言い返す。

「それでも誰かが行かなきゃコックが死んじまうんだぞ! それにあそこには俺のゲキガンガーが……

ガイの言う通り、このままではナデシコが発進するまでアキトは持ちそうもなかった。
ガイの言葉に、誰も言葉を発する事が出来ずブリッジが静かになる。そんな沈黙の中、ルリの声がブリッジに響く。

「また出てますよ。エレベーターにロボットが……」


「「「「「え!?」」」」」




ルリの報告を聞き、ブリッジの中にいたクルー全員が驚いてモニターを見た。
ルリがコンソールを操作すると、地上を映した映像が小さくなって画面の端に移動した。
次に、エレベーターに乗った青いエステの映像が映し出され、最後にコックピットの映像が出た。

「ちょ、ちょっと! なんでさっきのガキんちょが乗ってるのよ!?」

モニターには、心を落ちつかせるためか、ロザリオを握り締めて目を閉じているシンジが映っている。
それを見て最初に声を上げたのはムネタケだ。ゴートは何も言わないが、いつもより僅かに険しくした顔でシンジを見ている。

「君は誰だ? 所属と名前をいいたまえ」

フクベがアキトに尋ねた時と同じ事をシンジに尋ねる。フクベに尋ねられたシンジは、目を開けて答えた。

「碇シンジ……。所属はコックです」

「またコック!? 一体この艦はどうなってるのよ!」

ムネタケのヒステリックな声がブリッジに響く。それは、ブリッジにいた者達のほとんどが思っていた事であった。









「あと七分!? そんなに逃げられるわけねーだろが!!」

アキトは残り時間を示すウィンドウを見て声を荒げた。
後ろにはかなりの数の敵が迫ってきていた。今までなんとか逃げ続けてきたが、さすがに限界であった。
IFSを付けているとはいえアキトはパイロットではない。当然、パイロットとしての訓練など受けていないのだ。

「何か武器はないのか!? バルカンとかマシンキャノンとか……!」

アキトは慌てて出てきてしまったため、ライフルなどの武器を持ってきていなかった。
そのため、アキトの乗るエステには遠距離用の武器がなかった。何かないかと調べていると、ナイフが一本装備されている事がわかった。

「『イミディエット・ナイフ』!? ナイフって近づかなきゃダメじゃ……いや、これでも時間稼ぎぐらいには……!」

アキトは装備されていたナイフを右手に持つと、反転してナイフをおもいきり投げた。
ナイフといっても、エステのサイズに合わせた大きさである。当たればかなりのダメージを与えられるだろう。
アキトの投げたナイフはバッタに当たり、後に続いていた敵を巻き込んで爆発した。

「や……やった?」

爆発による煙のため視界が悪く、どうなったのかよくわからない。
注意深く煙の中を見ていると煙の中に赤く光る物が見えた。赤く光る物──それはバッタの目の光であった。
その光の正体を知るや否や、アキトはエステを反転させて再びエステを走らせた。
アキトの予想を遥かに越えた爆発であった。だが、数をだいぶ減らす事が出来たが、やはり全部を破壊するには至らなかった。

「他に武器は……『ワイヤード・フィスト』って何だ? フィストって事はやっぱ、これも接近戦用の……」

装備されていた武器──イミディエット・ナイフも投げてしまい、アキトにはもう武器が残されていない。
唯一使えそうな物が、ワイヤード・フィストであった。だが、その名前からアキトには接近戦用の武器にしか思えない。

「ああクソ! もうこれに賭けてみるしか……」

ドガガガガガ



意を決してエステを反転させた時、後方からライフルの音が聞こえ、アキトを追っていた敵が爆発していく。
アキトが音のした方を見ると、そこには青い一つ目のエステがライフルを構えて立っていた。

《大丈夫ですか、アキトさん!》

シンジの心配そうな声がアキトのコックピットの中に響いた。









サセボシティにあるビルの屋上、そこで歌を口ずさんでいる者がいた。
曲はベートーヴェンの『交響曲第九番ニ短調』かつて、渚カヲルがシンジと初めて会った時に口ずさんでいた曲だ。
歌声の主は全身黒ずくめで、顔は双眼鏡を使っているためよくわからない。
ただ、その人物が見ているのはサセボドック──現在戦闘が行なわれている場所である。

「あの青いロボットのパイロット……リリンとして完全に覚醒してる。それにこの感じ、私に似てる……」

双眼鏡を顔からどけて呟く。その声は若くて高い。
月が雲に隠れて辺りが暗いため顔はわからないが、身長は160センチ前後で髪は黒い。声や外見からすると十四、五歳ぐらいの少女である。
その黒ずくめの少女は懐から何かを取り出した。少女が取り出した物は紅い玉であった。
少女が何か小声で呟くと黒い影の様な物が突然現れる。そして、少女はその影に取り出した紅玉を放り込んだ。

「いい実験になるわ」

少女はそう呟くと、また双眼鏡を顔に当てて戦闘を見始めた。









シンジとアキトは少しずつではあるが、確実に敵の数を減らし続けていた。
アキトはシンジに渡されたライフルで遠距離から援護を、シンジはナイフで近接攻撃を繰り返していた。
シンジが来てから二分の時が経ち、作戦時間も後五分という所で、突然異変が起こった。

(なっ!? この感じはATフィールド!)

異変に最初に気づいたのはシンジだ。ATフィールドの力を感じて上空を見上げると、そこには影が現れていた。
その影はディラックの海。シンジがこの世界に来る時にも使われた力である。
シンジが注意深くディラックの海を見ていると、そこから何かが落ちてくるのがシンジには見えた。

(何だ……紅い……玉? あ、あれってまさか『コア』じゃ!?)

ディラックの海から落ちてきたのは、先程黒ずくめの少女が影に放った紅玉であった。
その紅玉はバッタが集まっているところに向かって落ちていき、バッタ達はそれに惹かれるようにして集まっていった。

「な、なんだ!? 一体何がどうなってるんだよ……」

アキトは紅い玉が落ちてきた事に気づいておらず、突然攻撃を止めて集まり出したバッタを見て困惑している。
それだけでなく、アキト達が破壊した敵の残骸も宙を舞って紅玉──コアに向かって飛んで行く。
バッタやその残骸が集まっていき、だんだんと形が造られていく。
最初に胴体が出来上がる。そして、腕、足、最後に頭が出来上がるとそれは完全な人型になった。

「が、合体……? 昔の特撮物じゃあるまいし……」

《二人とも、敵はどうやら新型のようだ。ナデシコは後五分ほどで発進できる。十分気をつけて戦え……》

呆然とした様子で敵を眺める二人に、ゴートからの通信が入った。
まるでそれが合図かのように、エステよりも二回りほど大きくなった敵が二人に向けて攻撃を放った。

ドガガガガガガガガ

ドガガガガガガガガガ


ドガガガガガガガガガガ



巨人バッタから大量のバルカン砲が放たれる。二人はなんとかそれを避けて反撃に移る。
二人はなるべく動きを止めないように移動しながら、ライフルで攻撃を加えていく。

「クソッ! 全然効いてない!!」

アキトの言う通り、敵のバリア──『ディストーション・フィールド』が強力になっているため効果がない。

「アキトさん、僕が接近戦を仕掛けます! 援護をお願いします!」

「ちょ、ちょっとシンジ君、危ないよ! もうすぐナデシコが来るから待って……」

アキトが止めるのを聞かず、シンジは巨人バッタに向かって走る。
巨人バッタがシンジに向けて攻撃してくるが、シンジはそれを避けながら攻撃範囲へと入っていく。
シンジは右手の拳にディストーション・フィールドを集中し、さらにその上からATフィールドを纏わせた。
エステが飛び上がって右手を突き出す。そして、敵のフィールドを突き破ってその拳が敵に当たる。

「くらえー!」

拳が敵に当たるのと同時に、右手に纏っていたATフィールドを敵に向けて放出する。
二重の衝撃が巨人バッタを襲い、巨大なクレーターが巨人バッタに出来上がる。

「や、やったか? ……なっ!?」

エステを着地させて巨人バッタに目を向けると、シンジは驚きの声を上げた。
シンジの攻撃で出来上がったクレーターに、またバッタが集まり修復されていくのだ。

「アキトさん……逃げますよ」

シンジが小さな声で呟くが、アキトはよく聞こえなかったため聞き返す。

「え? 何……」

「逃げますよ!!」

シンジはそう叫ぶと反転し、巨人バッタに背を向けて全速力で逃げ出した。
いきなりの事で反応出来なかったアキトだが、置いていかれた事に気づくと急いでシンジを追いかける。

「シ、シンジ君! 逃げるって言うけどどうするんだよ!?」

「そろそろナデシコが発進するはずです! それまで何とか逃げ延びれば……」

攻撃に当たらないよう、右に左に動きながらシンジとアキトは逃げ続ける。
逃げる二人を、巨人バッタがバルカン砲を撃ちながら追いかけている。

「う、海!?」

二人が逃げていた方向は海がある方であった。反転しようにも、後ろには巨人バッタが迫ってきている。
『絶対絶命』──そんな言葉が二人の脳裏に浮かんだその時、コックピットに通信が入った。

《二人とも、海に向かって飛べ!》

ゴートの声がコックピットの中に響く。

「と、飛ぶって大丈夫なのかよ……ああ! どうにでもなれ!!」

アキトが海に向かって飛ぶ。シンジも渋ってはいたが、近づいてくる巨人バッタの足音を聞いて思い切り飛んだ。

「あれ? し、沈まない……」

二人のエステは沈む事なく海の上に立っていた。不思議に思って下を見ると、海の中から何かが浮上してきていた。
だんだんとその正体が明らかになっていく。浮上してきていたのはナデシコであった。

《お待たせ! アキト》

「し、死ぬかと思った……」

ユリカの明るい声が響き、アキトはかなり疲れた声を上げる。
初めての戦闘でこれだけの戦いをして疲れないはずもない。
少し空気が緩んでしまったが、まだ戦闘は終わっていない。まだ巨人バッタが残っているのだ。

「艦長、敵の胸部に高エネルギー反応があります」

「そこが弱点かね?」

「可能性としては高いと思います」

ルリとフクベのやり取りを聞いていたユリカは一度頷くと、モニターに映る巨人バッタを指さして攻撃命令を出す。

「目標はあの大きいバッタ! てぇぇぇぇぇぇぇぇー!!」

ナデシコの主砲──『グラビティ・ブラスト』が巨人バッタに向けて発射される。
巨人バッタはグラビティ・ブラストに飲み込まれ、身体のあちこちが爆発していく。
その攻撃は胸部にあったコアまで届き、コアは完全に破壊されて巨人バッタは十字架の炎を上げて爆発した。

「「す、すごい……」」

一撃で巨人バッタを倒してしまったその破壊力に、二人は驚嘆の声を上げた。

「戦況を報告せよ」

騒がしくなり始めたブリッジでフクベが声を上げると、ルリが落ち着いた口調で答える。

「新型のバッタにほとんどの敵が集まっていたため、敵の残存兵力は0。地球軍の被害は甚大だが、戦死者数は五」

「そんな……偶然よ、偶然だわ!」

民間人の得た戦果があまりにも信じられないのか、ムネタケが騒ぐ。
そんなムネタケを落ち着かせるためにフクベが声をかける。

「認めざるを得ないようだな」

「まさに逸材!」

プロスも自分がスカウトしたクルー達による勝利に喜んでいる。
またブリッジが騒がしくなり始めたが、そんな中で一際大きな声がブリッジに響く。

「すごい! すごいよアキト! やっぱりアキトはユリカの王子様だね!!」

ブリッジだけでなく、コックピットの中にもユリカの声は響いている。
その声に二人とも鼓膜を痛めてしまったため、耳を押えて苦しんでいる。
やはり、狭いコックピットの中でのユリカの声はかなり効くらしい。二人ともかなり辛そうだ。
アキトは未だに痛む耳を押さえながら、ユリカの言葉に文句を言う。

「な、なんだよそれ……。別に俺はお前を助けるために戦ったわけじゃ……」

「いいのよアキト! 私、わかってるから……アキトは照れてるのよね!」

「んなわけあるかー!」

ユリカのかなり間違った解釈に、アキトが声を荒げるがユリカはほとんど聞いてはいない。
その後も、色々と言い合う二人だったが、プロスがコックピットに通信を送ったため中断される。

「艦長もテンカワさんもそれぐらいにして、二人ともそろそろ戻ってきてください。色々とお話もありますので……」

プロスは用件を伝えると一方的に通信を切り、ブリッジを出て格納庫へと向かった。
ブリッジを出て行くプロスを見て、ゴートもプロスに続いてブリッジを出て行く。

「ミスター。今回の件についてだが、二人にはどういった処罰を与えるのだ?」

「処罰なんて、ここは軍ではありませんから……。まぁ、ヤマダさんが骨折してしまったので、二人には予備のパイロットでも……」

「だが、碇はともかくテンカワは素人だぞ?」

ゴートはさっきの戦闘を見て、シンジに戦闘の経験がある事を感じ取っていた。
だが、アキトの方は素人よりマシという程度でしかなかった。

「確かにテンカワさんは素人ですが、素質はあると思いますよ? 火星育ちですからIFSの扱いになれているんでしょうなぁ」

プロスは先ほどの戦闘で、アキトにはパイロットとしての才能があると感じていた。
パイロットとしての訓練を何もしていないにもかかわらず、アキトは囮役をしっかりとこなしていた。
それに、あの場面でナイフを投げて使うという発想、ライフルでの援護もプロほどではないが出来ていた。

「二人にはコックとパイロットを兼任してもらいましょう」

プロスはそう言ってメガネを中指で押し上げると、格納庫に向かう足を少し速めた。









「やっぱり、魂のないバッタじゃATフィールドは張れないか……」

少女は、グラビティ・ブラストで破壊された巨人バッタの事を思い出しながら呟く。
紅玉が破壊された事については、特に気にしていないようだ。

「まぁ、今日はおもしろいものが見つかったからいいか。私と似た波動を持つリリンか……おもしろそう」

口の端を曲げて少女は微笑む。それはまるで、新しいおもちゃでも見つけた子供ような笑い方だ。
少女は双眼鏡を懐にしまうと、ポケットに両手を入れて歩き出す。

「そろそろ帰らないと。いつまでも遊んでると、また文句言われるし……レリエル

現れたディラックの海に飛び込み、少女は消えてしまった。







つづく
































あとがき



こんにちわ。アンタレスです。
三話目を書き終えて、やっと原作で言う一話目が終わりました。
一応クロスオーバーなので原作どおりではなく、少しオリジナルっぽいものを入れてみたんですが……やっぱり難しいです。
次の更新もなるべく早く出来るようにがんばります。……代理人様感想よろしくお願いします。





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代理人の感想

シンジがいるのに原作そのままの展開になるわけがない、と思うのですがいかにw

つーか、そうでないならそもそも書く意義が無いでしょ。(笑)