「アキトは私が好き!」

 夢を見ていました。

「遅かりし復讐人。未熟なり」

 それはある戦争に関する夢でした。

「君の知っているテンカワ・アキトは死んだ」

 それは夢なのに妙に現実味を帯びていました。

「あの人に……任せます」

 その夢の中で様々な人の想いを感じました。

「決着をつけよう」

 熱血な人、頭の螺子が緩んでいる人、頭の良いお人形さん、外道……その他それに関わった全ての人の想いを。

「ごふっ!見事なり……」

 その中で一番多かったのは、熱血で、優しくて、優柔不断で、天然スケコマシで、パイロットで、コックさんで、復讐鬼で、テロリストでした。

 「アキト……アキトはどこ?」

 その人は偽りの幸せの中で、それでも確かな幸せを感じ、偽りだと気付かずに全てを奪われた人でした。

「あの人は大事な人だから」

 偽りだと気付いたのは全てが終わった後の事でした。

「あの、どちら様でしょうか?」

 でも、その人はそこで歩みを止める事はしませんでした。

「アキトさん…………」

 それはその人が漆黒になっている間に身に付けた悲しい強さなのかもしれません。

「すまないねアキト君」

 それとも本物を見つけからなのかもしれません。

「イヤダヨ、アキト!」

 どちらにせよその人の物語の最後はあまりいいものではありませんでした。

「皆、すまない」

 そして最後を飾るのはこれでした。

「ジャンプ」

 それを最後に夢は終わりを告げました。
 そして、目を覚ましました。


  機動戦艦ナデシコ 新たなる目覚め
  第一章 『漆黒』に染められました


「…………それより、アテナのその後はどうだ?」
「駄目です。あれ以来目を覚ました記録はありません」
 二人の白衣を着た男性が目の前で話している声が聞こえます。
「そうか……脳波も変わらずか?」
「はい。普通の人なら常に夢を見ている状態です」
 白衣を着ているって事は研究者でしょうか? 
「どうしましょう主任?このままですと廃棄が決定されますよ?」
「そうは言うが……」
 そこで二人はようやくこちらに視線を向けました。
 ?何かひどく驚いている感じですね?
「目を、開いている!?」
「脳波は!」
「え、あ、はい!」
 一人が慌てて近くの機械に走り寄るのを視界の端に捉えながら、目の前の人に注目します。
 何故でしょう?この人を見ていると、いえ、この場所にいる事が何故か不快です。
「どうだ!?」
「依然変わらず!覚醒の兆しはありません!」
「ちっ!」
 この人を人とも思わない態度……何故かひどく覚えがあります。
「いえ、待って下さい!少しずつですが覚醒しているようです!」
「何!?」
 そう、これは……これは……これは…………夢に見た/この身で体験した………………『火星の後継者』!!
「殺す!殺す!殺してやる!!」
 思い至った瞬間、目の前は真っ赤に染まり、何も考えずにごくごく当たり前の様に――それこそ呼吸をするかの様に――自然にこの身をモニターしているコンピューターをハッキングしこの施設を乗っ取り、隔壁を下ろし酸素と二酸化炭素を入れ替え、エレベーターの上下運動を狂わせ、警備ロボットの設定を変え全ての動く物を排除し、動かなくなった肉塊(元人間)を全て焼却炉に放り込みました。
「はあ、はあ、はあ…………」
 止まれたのは自分以外に動く物がいなくなってから。
「ここは……一体?」
 記憶がひどく混乱しています。
「確か…………ジャンプして……」
 いえ、違います。それは夢の中の事。夢の中の悲しい復讐鬼テンカワ・アキトの最後の場面。偽りに気付き、真実を手にして、最後に逃げ出した人の記憶。
 じゃあ、この身は?
『大丈夫か?』
「あ、」
 ドクン
『すまないね……』
「ああ……」
 ドクン
『今日は何も無いから、しっかり休みなさい』
「ああ!!」
 ドックン!
 そんなそんなそんな!!違う違う違う!!そんな事は間違っている!こんな記憶はありえない!
『アテナ。君は今日からアテナだよ』
 何で、何でこんな記憶が!!
『それは違う。君は人形じゃない人間だよ』  
「あ」
 駄目。思い出してしまいました。ここの人は……主任達はテンカワ・アキトの記憶にある人達と違って、とても良い人達でした。
「やだ…………やだよ…………主任」
 私に名前をくださり、実験体なのに良くして下さいました。
「主任、オシノさん……」
 それなのに私は『俺』の記憶に引きずられて皆さんを…………!
「あ、ああ、うぁ」
 何で?何でこんな事に?
「うわああああああ〜〜!!」
 ごめんなさい主任。ごめんなさいオシノさん。ごめんなさい皆さん!

 泣き止んだのはそれから十数分後の事。
 本当はもっと泣いていたかった。もっと悲しんでいたかった。でも、私の中のテンカワ・アキトの記憶が、ラピス・ラズリの記憶がそれを許してくれませんでした。私と違い研究者に酷い事された彼らはDr.イネス・フレサンジュ以外を敵にしか思えないのです。故に、私の中の悲しみもその程度しか持続しないのです。
 先程まで見ていた夢。それは『遺跡』を巡る戦争の記録。不沈艦ナデシコに関わる記憶。そして、大半がテンカワ・アキトが体験した記憶。そのあまりの濃さは私の10年間を塗りつぶしてしまう位。
 でも、それはおかしい事なのです。だって今は2195年。ナデシコという戦艦は記録にはまだありません。なら、さっきまでのは本当に唯の夢?いえ、それは多分無いでしょう。おそらく此処とは違う、けれども殆ど変わり無い世界、所謂「平行世界」という所での未来の記憶でしょう。そして、私には『遺跡』のナノマシンが埋め込まれていますから、共振でも起こして記憶を追体験したって所でしょう。
 え?なんでそんなに分かるかって?それは乙女の秘密です♪
 …………本当に私はもう主任達の死を悲しめないのですね。
 とりあえずこれからどうしましょう?未来を知ってしまいました以上変える努力はした方がよいのでしょうか?…………そうですね。やっぱり悲しい事は少ない方がいいですよね。
 それでは早速大関スケコマシにメールしましょうか。幸いな事にアドレスは憶えていますし。
 ちょちょいのちょいっと♪後は送信♪これでOK。後は待つだけです。
 …………あの夢の所為で私の性格変わっちゃいました?


 ピロピロリン♪
「ん?メールだね」
 今日も今日とて会長室でエリナ君に見張られながら仕事をしている所にメールの受信音。良いタイミングだね。ちょうど休憩が欲しかった所なんだよ。
「会長、その妙に軽い受信音変えませんか?」
「ん?何でだい?よくないかい?この妙な軽さが」
 その答えにエリナ君は深々と溜息を吐いたけど、何かおかしなこと言ったかな? 
「さてさて、誰からかな〜って、アテナ君か」
「アテナ?誰ですかそれは?」
 流石エリナ君。僕のプライベートアドレスを知っている人は完全に覚えているみたいだね。
「さあ?僕も初めて知る名前だからね」
「な!?ちょっとそれって!」
 う〜ん、ここまで慌てるエリナ君も面白いね。
「さて、内容は、と」
 読んでいくうちに何時もの笑みが保てなくなっていくのが分かった。いやはや、こんな内容のメールなんて一体誰が予想できるんだい?
「エリナ君。プロス君とゴート君を至急呼んでくれるかい?」
「は、はい!」
 エリナ君が部屋から出て行くのを視界の隅っこで認識しながらもう一度メールを見ながらこれからの事を考えるけど、はあ、面白そうではあるんだけど大変そうだけね。
「失礼します。
 それで会長、一体どの様な用件でしょうか?」
 うん、余計な事を言わずに本題に入るのはいい事だよね。
「とりあえずこれを読んでくれるかい?」
 そう言って3人に見えるようにメールを拡大表示する。ついでに僕ももう一度読み返す。

 ネルガル会長、大関スケコマシで道楽トンボのアカツキ・ナガレさんへ♪
 初めましてこんにちは。
 突然のメールで驚いた事と思います。そこは深くお詫びします。
 さて、私が今日メールしたのは、ちょっとした事をお願いしたかったからです。大したお願いではないですよ?私をとある場所から助けて欲しいだけです。簡単ですよね?
 あ、ちゃんとネルガルにもメリットはありますよ。
 社長派を一掃出来る情報、欲しくありませんか?
 これだけで信用しろと言うのは難しい事なので、とりあえず不正金の流れを添付しておきます。
 ではでは、数日内に御会い出来るのを楽しみにしています。
 あ、追伸です。
 私はMCです♪これの意味は、分かりますよね?
                              by.アテナ・グリフィス

 うん。何度読んでも変わらないね。
「これは…………」
「うむ」
「ちょっとこれって!」
 皆も驚いているね。
「とりあえず不正金の方は本物だと思ってくれて問題ないよ。
 で、どうしたらいいと思う?」
「ふーむ、そうですな、ここは行くべきでしょうな」
「あ、やっぱり?僕もそう思ったんだ」
 流石プロス君。僕と同じ考えに至ったみたいだね。
「ちょっと!何暢気に話しているのよ!MCって事はこっちの情報全部握られてるって事よ!」
 う〜ん、エリナ君は分かってないね。
「では、どうするべきだと?」
 お、ゴート君ナイス。
「そ、それは…………」
「ふむ、特に意見が無いようでしたら迎えに行く、という事で宜しいですね?」
「もう!分かったわよ!ほら、とっとと迎えに行きなさい!」
 おやおや、今日のエリナ君は面白いね。
「それでは会長、行って参ります。
 帰還はおそらく3日後になると思います」
「うん、お願いね。お土産楽しみにしているから」
 僕の言葉にプロス君は苦笑しながら出て行った。
「まったく、皆して」
 おや?エリナ君はまだ分かってないのかな?
「エリナ君は一体何を心配しているんだい?」
「そんなの決まっているじゃない!ネルガルの秘密が世間に公開されることよ!」
 何だそんな心配?
「それなら大丈夫だよ。そんな事は起きないから」
「なんでよ!?」
 エリナ君は頭が固いね〜。
「彼女は何か目的があってネルガルというか僕に接触してきた。これはいいね?」
 大人しく頷くエリナ君。
「で、メールから見て彼女は僕の事を良く分かっている。基本はギブ・アンド・テイク。なら脅しにしてもそれは使わないよ。信頼関係は大事だよね〜」
 考え込むエリナ君をいつもの笑みを浮かべて見ながらも、内心はちょっとドキドキしているのは内緒。
「……それなら納得出来るわね」
 ほっ、良かった。
「一体どんな娘だろうね?」
 3日後が楽しみだね。


 ふう、退屈です。メールを送ってから今日で2日目。読んですぐに動いたとしたら今日辺りに到着ですかね?
 とりあえずポットから出るのは簡単でした。中からでも出れる様になっていましたので。
 この2日間でまず私がした事は、自分を取り戻す事。あの記憶の濃さに掻き消された私の10年間を思い出す事。結果は駄目でした。何をしても最初に思い出せた主任達の事以外に思い出せた事はありませんでした。自分の容姿すら曖昧。それどころか、気を抜くと自分がテンカワ・アキトさんじゃないのか思ってしまうぐらい。それなのに女性の体については何も疑問を持たない変な矛盾。
 はあ、本当に私は私じゃない私なんですね。
 落ち込んだのはほんの数分だけ。こうなったら仕方がないと前向きに生きる事にしました。
 さしあたって現状の私がどれ位なのかを確認する事に。
 最初は容姿。MCは人が作っただけあって整った容姿をしています。私のその例に漏れず、結構な美少女です。黒い髪は腰の辺りまで伸びていて、MC特有の金色の瞳。透き通るような白い肌。すらっと伸びた手足。背は140後半位かな?3サイズは……これ位の年の娘に聞かないで(泣)
 後は、料理技術と戦闘能力。結果はどちらも優。流石はコックさん。流石は the prince of darkness。木連式柔やら抜刀術等はこの体格じゃ使えないので今度考えるとしましても、基礎が凄い。いえ、実際に使って使えない事は無いのですが、体重やら腕の長さやらで、北辰さんや月臣源一郎さんといった一流の人には通用しないと言う事なのです。二流以下の人相手なら問題無く通じる筈です。
 そんな事を考えながら私はフライパンを振るいます。着ているのは白いワンピース。皆さんが私に用意して下さった物です(泣)
 それにしても……実は私って凄いんじゃないでしょうか?美少女で料理も出来て頭脳明晰。財産はクリムゾンから1億程私の口座に移したし、自分で言うのもなんですけど性格だって悪くは無い筈ですし。戦闘だってそこらのSPやSSに負けない自信はある。問題があるとすれば、年齢とスタイルですけど、それは数年先を待つとしまして…………欠点らしい欠点が無いですね。
 そんな事を考えながら口に入れたのは、テンカワ・アキトさん特製チキンライス。勿論ルリちゃん好みの味付け♪うん、美味し♪
 ビービービー
 ん?何事ですか?ヘリコプターが3機?あれはNSS用のですよね。それでは此処まで招待してあげますか。
 ザッザッザッ
 ガチャガチャガチャ
「食事中です。そんな物騒な物はしまって静かにしていただけませんか?」
「ぬ」
 あのむっつりさんがゴート・ホーリーさんですね。
「これは失礼しましたお嬢さん。時に一つばかりかお聞きしたい事があるのですが、宜しいでしょうかな?」
「何ですか、NSSが長プロスペクターさん?」
「おや、ご存知でしたか」
「はい。赤いベストを着た眼鏡を掛けたちょび髭の男の人。間違いようはありませんね」
「そうですか。名刺が要らないというのは寂しいものですな」
 何時出したか分からなかった名刺を悲しそうに懐にしまうプロスペクターさん。仕方ないですね。
「プラスペクターさん。折角なので名刺頂けますか?」
「おお、そうですか。はい、こちらになります。1枚で宜しいですかな?」
 頷いてから差し出された名刺を受け取ります。それにしてもプロスペクターさん嬉しそうですね。
 さて、何時までここにいる訳にはいきませんよね。
「ご馳走様でした」
 手を合わせて軽く頭を下げます。作ったのは自分とはいえ感謝の心は忘れずに。
「あ、少し待っててくださいね」
 NSSの方が見守る中ちゃちゃちゃっと食器を洗い、元あった場所に戻します。多分二度と使う事は無いと思いますけど一応礼儀として。
「お待たせしました。それでは行きましょうか」
 ?おかしいですね?何で誰も来ないのでしょう?
「どうしたのですか?」
 食堂に戻っていまだそこにいるプロスペクターさんに声を掛けてみました。
「あ、いえ、あまりにも貴方の姿があれでしたので」
 あれ?
「いえ、気にしないで下さい。それで、一体どちらに行かれるのですか?」
 はい?
「何を言っているんですか?ネルガル本社に決まっているじゃないですか」
「と言う事は」
 あ、なるほど。
「そういえば言い忘れていましたね。私がアテナ・グリフィスです。お見知りおきを」
 にっこりと笑顔で自己紹介。ゴート・ホーリーさんやプロスペクターさんを含めて全員顔が真っ赤です。これは使えますね(ニヤリ)


「やあ、初めましてアテナ君。君に会えるの凄く楽しみにしていたよ。僕が会長のアカツキ・ナガレさ」
 うわ、髪をかき上げるなんて凄くキザ。それにどうやって歯を光らせているんだろう?
「私は会長秘書のエリナ・キンジョウ・ウォンよ。よろしく」
 何か固そうな雰囲気。こんな人がああなるの?
「初めまして、アテナ・グリフィスです。
 助けていただいてありがとうございます」
 言葉と一緒にペコリ。こういうのは始めが肝心だからちゃんとやっておくのです。
「それは構わないさ。
 それじゃあ、早速本題に入ろうか?」
「はい。あ、でも、その前に一ついいですか?」
 今のこの場には私達以外にゴート・ホーリーさんとプロスペクターさんがいらっしゃいます。この人達に、特に交渉人でもあるプロスペクターさんに対して、私の交渉術どこまで通用するでしょうか?
「ん?なにかな?」
「メールで書かなかったのは卑怯かな?とも思ったのですが、あれだけで私から情報を貰えると思っていましたか?」
「へえ、なるほどね。確かに公平じゃないね。いいよ、言ってごらん」
 流石会長さん。話が分かります。あそこで怒鳴りそうになっている会長秘書さんとは大違いです。
「ありがとうございます。とは言うものの、殆どがネルガルの利益に繋がると思います。
 まず、私の様な生体実験にされている子供達の救出への協力。これの研究所は社長派の物ですからそちらには何の問題は無いと思います。私も行きますので証拠を逃す事も無いですし」
 一度区切ってから皆さんの様子を見ます。アカツキ・ナガレさんとプロスペクターさんは真剣な顔をして私を見ていました。エリナ・キンジョウ・ウォンさんは何か言いたげな御様子で、ゴート・ホーリーさんは相変わらずむっつりしたままです。
「二つ目は私ともう一人MCをナデシコに乗せる事。オペレーターとパイロットが増えますよ?」
 これには少し驚いた表情。
「で、最後ですけれども、私のナデシコに於いての非束縛権。ああ、安心してください。例え私がナデシコを沈めたとしても、アカツキ・ナガレさんの不利益に繋がる事は致しません。尤も一時的には落ちるかもしれないですけれども大局的には問題は無い筈です。
 何か質問はありますか?」
「あるに決まってるじゃない!貴方一体何を考えているのよ!」
 吼えたのは予想通りエリナ・キンジョウ・ウォンさん。あーうるさいです。
「何をっと聞かれると返答に困るんですけど……そうですね、大雑把に分類しますと復讐に入るのでしょうか?」
『はい?』
 首を傾げて言った言葉に皆さん同じ様に驚いて下さいました。
「まあ、そんなたいそれた事ではないのですけれども、ただある個人に少々思い入れがありまして」
 まあ、これは嘘ではないですからね。
「まあ、復讐うんぬんはとりあえず置いといてだ、二つ目のパイロットっていうのは?」
「あ、私です」
「君がかい?」
 何か失礼な驚き方ですね。
「はい。私の創造理念は一にして全、まあ、簡単に言いますと“万能”ですから。戦闘、暗殺、諜報活動、デスクワーク、家事等全て知識は頭の中に入っていまし、実行も出来ます。
 ああ、夜伽も出来ますよ?」
 最後は顔を真っ赤に染め上げて言いました。別に言う必要は無いのですけれどもちょっと見返したくって。
「そ、それは済まない事を聞いたね」
 アカツキ・ナガレさんも顔を赤くして謝ってきました。そんな顔されるともっと恥ずかしいのですけど。
「そ、それで、どうでしょう?私の条件は呑んで頂けますか?」
「う〜ん、正直言って呑んであげたいんだけどね、最後のはちょっと無理かな」
「そうですな〜流石に何でも自由というのはちょっと無理でしょうな〜」
 ん〜と、なら、
「それでしたら艦長があまりにも信用できない場合は駄目でしょうか?」
 力技は使いたくないですからこれで決まって欲しいです。
「…………それならいいかな?ナデシコにはプロス君も乗るし……そうだね。じゃあ、プロス君が認めた場合に限り許可しようか。
 いいよねプロス君?」
「責任重大ですな〜分かりました。やりましょう」
 良かった。これで準備OK。
「ねえ、貴方何でナデシコの事知っているの?あれはトップシークレットなのよ。それに何でそれに乗りたがるのよ?」
 あう、誰にも聞かれなかったからスルー出来るかなと思ったのに無理でしたか。
「それは勿論ネルガルのメインコンピューターをハッキングしたからですよ。私はMCなのですよ?それぐらい朝飯前です」
「ちょっとそれは!」
「あははは、確かにMCの前じゃどんなプロテクトも無意味か。
 それで、乗りたい方の理由は?」
「ルリちゃんがいるからですよ」
『ルリちゃん?』
「はい、ホシノ・ルリちゃん。私自身まだ会った事無いですけど、多分あの子一人じゃないかなって思って」
「一人って周りに大人とかいるわよ?」
 これだから頭が固い人は。
「違います。ルリちゃんはMC唯一の成功例ですよ?そんな子の傍に誰がいるって言うのですか?」
「なるほどね〜宝物の様にちやほやされはするけど、友達とかはいないと」
「アテナさんはそんなルリさんの傍にいる為にもう一人MC連れてナデシコに乗るのですね。いや〜なんとお優しい」
「うむ」
 いや、その理由もあるにはあるんですけど、なんでそこまでばれたの?
「あら?顔を赤くして照れてるの?」
 くっ、何ですかその勝ち誇った様な笑みは!
「エリナ君。あまり苛めるんじゃないよ?」
「あら?そんな事はしませんよ会長」
 嘘です!この会長秘書さんは嘘吐きです!
「まあ、その話は置いといて、アテナ君。条件はこれでいいのかい?」
「あ、はい、ありがとうございます。
 それで、これが社長派の悪事を纏めた物です。これだけでも十分ですけれども、研究所に連れて行ってもらえれば確実ですよ?」
「う〜ん、そうだね…………」
「ちょっといいかしら?」
 今度は一体なんですか?
「それだけで威力は十分なんでしょ?なのになんでわざわざ研究所に行くのよ?彼らに封鎖を命じればそれですむじゃない」
「言われてみればそうだね。何か理由でもあるのかい?」
 これは結構痛い質問ですね。
「簡単な事ですよ。研究者の殆どが自分達で創ったMCを物扱いしています。それを封鎖した上で取り上げられると知ったら自分達の手で壊す事を選ぶでしょう」
 言ってて悲しくなります。いかに主任達が特別だったか、いかに私が幸せだったかまざまざと突き付けられます。
「なるほどね。
 ねえアテナ君。君は離れた場所にタイムラグ無しで情報とか送れたりするのかい?」
「地球上でしたら殆ど無しで、と私という存在に誓って答えます」
「うん。いい答えだね。
 じゃあ後、研究所の場所教えてくれないかい?」
 そう言ってコンピューター端末を私に渡してきました。
「はあ、先程アカツキ・ナガレさんに渡したディスクにも載せてはいましたんですけど」
 とりあえず手を載せて、えいやっと。
「これが研究所の場所と所載です」
「結構ありますね」
「この横の人名はもしや」
 ゴート・ホーリーさんがまともに喋るの初めて聞きました。
「はい、NSSの人達です。研究所の警備やら構造等から最適と思われる人を割り振ってみました」
「へえ、やるねえ♪」
「おや?ここは私一人ですか?」
「いえ、私も行きます」
「君とプロス君だけで?」
 そんなに驚く事ですか?
「はい。私とプロスペクターさんの2人でです」
「まあ、止めはしないけど、ここには何があるんだい?君が行くからには何かあるんだろ?」
 流石です。その辺の頭の回転はいいですね。
「他の研究所に比べて、ここに流れるお金は桁が2つも違うのです。又、社長宅からの距離を考えますと、おそらくなのですがこの研究所が1番重要なのでしょう。予想なのですが、生きたMC、少なくても成功したMCは此処にしかいないと思います」
 本当の理由は他にもありますけど。
「なら、今から5時間後に緊急会議開くから、アテナ君とプロス君は今からその研究所に行って証拠を僕に送ってくれるかな?」
「ちょっと人使いが荒いですけど、問題は無いですね」
「じゃあ解散!皆頑張ってくれよ」
 勿論です。貴方の為ではなく私の為にですけど。


「何だ?上の方が騒がしいな」
「きっと又馬鹿な侵入者ですよ。そのうち警備の奴等が黙らせてくれますよ」
「そうだな。それじゃあ、今日の分を始めるか。時間は有限だ。一秒の遅延も勿体無い」
「そうですね。他では“万能”を創って殆ど成功しているらしいですからね。我々も負けてはいられませんよ」
「うむ。そこで今日はこれを試そうと思っている」
「お〜それですか。それでは早速」
 何ですかこの人達の会話は!
「待ちなさい!」
 走る勢いをそのまま扉を蹴破る力に変換します。普段なら決してやらないけれども、今は非常時。女の子がどーの、スカートがどーの何て言ってられません。
「待ちなさい!」
 扉を蹴破る前に言った言葉を今度は男の人達に向かって言います。
「な、何だお前は!」
「私の事はどうでもいいです!私の事よりその子です!」
 私は男達の後ろで水で満たされたポットの中で目を閉じている桃色の妖精を見てから、男の人達に向かって言います。
「どうしてそんなひどい事が出来るんですか!?その子を殺す気ですか!!」
「何を言うかと思えばそんな事か」
 そんな事!?
「この人形は私達が創った物だ。なら、何をどうしようが創った私達の勝手だろ?」
 人形?物?勝手?
「ふざけないで!例え創られた命でも、人は人でしかありえません!それを他人がどうこうしていい筈がない!」
「何を言っているんだこの小娘は?」
「おい、それよりそいつの目!」
「!なるほど。だからあんな事言い出したのか」
 もう駄目。これ以上は我慢なりません。今初めてテンカワ・アキトさんの記憶と私の気持ちが一致しました。
「もういいです。これ以上息しないで下さい」
「何?」
 息をしないでって言ったでしょうが。
 腰に差していたナイフを抜き、男の元に駆け寄ります。そのままの流れで首を切り裂いてあげました。多分苦しまずに逝けた筈です。私って慈悲深いですね。
「な!」
 だから息をするな!
 男の人の血を浴びながら、振り抜いた力のまま体を半回転させ、投擲。狙い違わず心臓を一突きしました。こっちの人も苦しんでいない筈です。
 本当に腐った人達でした。殺しましたけど、出来る事ならもう何度か殺したいですね。本当に私がいた所が如何に特殊で、私が如何に幸せだったか思い知りました。
 とりあえず考えるのはこれ位にしまして、やる事やりますか。
 死体を部屋の隅にやります。一応見た感じ寝ていますが、彼女がこれを見て怯えないですむならそれに越した事はありません。
 ポットの水を抜き、持ってきたタオルで包んであげても起きる気配はありませんね。
「ごめんねラピス。貴方は身に覚えは無い筈だけど、他の世界で貴方は復讐の手伝いをしていたの。貴方自身が望んだ事とはいっても普通の女の子らしい生活なんて出来なかったの。
 ここでもそう。一応ある程度は女の子らしい生活は出来るけど、今度は私が復讐するの。それに貴方を手伝わせちゃうの。しかも貴方が望む望まない関係無しに。人殺しをさせる訳じゃないけどごめんね」
 ラピスの髪を優しく撫でながら自分にも聞こえない位の声でそっと呟いた。
 幾ら私の復讐があれとはいえ、復讐に巻き込む事には変わりはないの。正確に言うならラピスだけじゃない。アカツキ・ナガレさんやエリナ・キンジョウ・ウォンさん、プロスペクターさん、ゴート・ホーリーさん、他にもまだ会っていないナデシコの皆さん全員そう。私が関わる人全員が私の復讐に巻き込まれると言っても間違いじゃないの。そう理解していても復讐を止める気はありません。復讐自体が間違っているって分かっていても私は止めないし、後悔もしない。それ位の覚悟はあるの。唯………………
「無事救出出来たようですな」
「……処理場でも見たのですか?」
 突然掛けられた声に内心で悲鳴を押し殺して、冷静を装って聞き返します。
「…………分かりますか?」
「いえ、唯の予想です。プロスペクターさんが向かった方にありましたので見たのは間違いないと思いまして。唯、ここまで動揺するのは予想外でしたが」
「アテナさんには敵いませんな」
 苦笑しているのが分かりました。分かってしまったので後ろを向く事が出来ないで、ラピスの髪を撫で続けました。
「…………あれは本当に人のする事なのですか?」
「……彼らを人と認識しているのでしたら肯定します」
 私ならあんなのでも人は人だと言いますけどね。
「アテナさんはあれを」
「甘く見ないで下さい」
 何を言いたいのか瞬時に理解出来たので、言葉をかぶせて言い切りました。
「地獄も天国に見える地獄。
 死すらも甘く思える修羅場。
 人が行ってはいけない禁忌の領域。
 他に的確な表現はありますか?」
「いえ、私には思いつきません」
 そして流れる沈黙。元から私には会話のネタは無く、プロスペクターさんは何かを考えているのか口を開く様子はありません。
「正直これ程の物を見た事がありません」
 沈黙が長いので、いい加減帰りましょうと提案しようとした矢先にプロスペクターさんが口を開きました。これで帰りが又遅くなりますね。早く帰ってラピスに服を着せたいのに。
「私はネルガルの裏を司る長として色々の闇を見てきました。ここ以外にも人体実験を行っている研究所の制圧等もやった事あるのです。ですがここまでのは…………」
 まったく、そんな事ですか?
「プロスペクターさんが今迄闇だと思っていたのは唯の裏であって、闇ではなかった。唯それだけじゃないですか」
 息を呑むのが聞こえます。
「プロスペクターさん」
 これぐらいでもういいでしょう。
「はい、なんでしょうか?」
 ラピスを抱えたまま立ち上がりまして、プロスペクターさんと向き合います。血塗れの私の姿を見て驚いて様ですが、特に気にする事無く口を開きます。
「これ位で揺らぐようでしたら引退をお勧めします。世の闇がこの程度だと思えません」
 驚くプロスペクターさんの横を抜け出口に向かって行きました。


「やあ、アテナ君。この間は助かったよ。おかげでようやくネルガルを一つに出来たよ。
 ところであの子の名前はどんなのにしたのかな?」
 そう言って爽やか(?)な笑顔で現れたのはアカツキ・ナガレさん。実に5日ぶりの対面です。
「お姉ちゃん、誰これ?」
 そんなアカツキ・ナガレさんを不思議そうな顔で眺めて、指を差したのはラピス。この5日間でだいぶ私に懐いてくれたのです。
「アカツキ・ナガレさんよ」
「ネルガル会長で、大関スケコマシで道楽トンボの?」
「そうだよ。ほら自己紹介しな?」
「うん。
 初めましてアカツキさん。ラピス・ラズリです」
 ラピスが自己紹介しているのに返事もしないで泣いているなんて、失礼な人ですね。
「お姉ちゃん、上手く出来たよ。えらい?えらい?」
「うん。えらいよ。
 でもねラピス。例え相手が誰であれ人なら指差すのは失礼なんだよ?」
「そうなの?」
「うん。そうなの」
「分かった。もうやらない」
 素直で可愛らしいです。
「あの、ラピス君?」
「なに?」
「誰に聞いたんだい?」
「?何を?」
 何の話でしょうか?
「大関スケコマシに道楽トンボ」
 ああ、その話ですか。
「お姉ちゃん」
 そんな怨めしげな目で見られましても。
「なんですか大関スケコマシで道楽トンボの会長さん?」
「…………いい。なんでもない」
 涙目で言われましても。
「本当の事でしょ?」
「アテナ君?世の中には言っていい本当の事と言って悪い本当の事があるんだよ?」
「知っていますよ。でも、アカツキ・ナガレさんは言われて喜ぶ特殊な人だと聞きましたが?」
「な、なな」
 あら、面白い顔ですね。
「ちなみに情報源はエリナ・キンジョウ・ウォンさんです」
「エリナ君〜(泣)」
「お姉ちゃん、何でアカツキさん泣いてるの?」
「気にしなくて大丈夫だよ」
「うん。分かった」
 本当に可愛いですね。
「ふみゅ〜、お姉ちゃん暖かい」
 気付けばラピスを抱き締めていましたが、嫌がっていないから問題ないですね。
「ところでアカツキ・ナガレさん。一体何用ですか?」
 ラピスを抱きながら泣き真似を続けるアカツキ・ナガレさんに話し掛けます。
「ああ、うん、そうだった。すっかり忘れていたよ」
 笑いながら言う事ではありませんね。
「お姉ちゃん」
「どうしたの?」
 腕の中でラピスが私の事を上目使いに見ています。はあ、可愛い。
「あれ、馬鹿で合ってる?」
「そうだね。あれを見事に表す最高の単語よ」
「ア、アテナ君〜」
「うるさいです馬鹿」
「うっさい馬鹿」
 今度は部屋の隅で泣き出すし。仕方がないですね。
「さて、苛めるのはこれ位にしまして、と」
 アカツキ・ナガレさんの目が本当にって問い掛けてきますね。
「え?もうお仕舞いなの?」
 あらあらラピスったら。
「真面目な話を混ぜないと反応に変化が無くってつまらないでしょ?」
「あっ、そっか」
 はい、そこ。また泣かない。
「それで、本当に何の用なのですか?」
「うん、とりあえずはラピス君の意思の確認。話はしてあるんでしょ?」
「してないですよ。そういうのは普通雇い主からするものでしょ?」
「まあ、そうだけど」
「なんの話お姉ちゃん?」
 まあ、今は私から話しますか。
「今度ね私ナデシコっていう戦艦に乗るの。それにラピスもサブオペレーターとして乗って欲しいの。駄目かな?」
「乗る!」
 そ、即答ですか。
「決断が早くて助かるよ。これでラピス君の件はOKっと。
 じゃあ次はアテナ君」
「私ですか?」
 何かしましたっけ?
「そう君。実は君専用のエステを造ろうと思っているんだ。だからこの日時に工場の方に行ってくれるかい?あ、エステは知っているよね?」
「エステバリスは知っていますが、何で私の専用機を?」
「簡単な話ではあるんだけど、シートが君のサイズに合わないんだよ」
「あ」
 なるほどです。女性のパイロットはいましても子供のパイロットはいないですからね。
「まあそれで、ついでだから君の専用機を造ろうってなった訳。納得してくれた?」
「はい。どの様な機体にするかは当日メカニックさんに言えばいいんですよね?」
「うん?もう考えてあるのかい?」
「いえ、今思いついたのです」
 本当はちょっと前なんですけどね。
「ふ〜ん、一体どんなのだい?」
「それは、ヒ・ミ・ツ、です♪」
 ニッコリと笑顔を作って言いました。ふふ、ラピスもアカツキ・ナガレさんも顔が真っ赤ですね。
「そ、そうかい。じゃあ、当日は宜しく頼むよ」
 これで下準備は整いましたね。ナデシコ発進まで後数ヶ月。何をしましょうかね?
「お姉ちゃん」
「どうしたの?」
「お腹空いた」
 小さく、くぅ〜って音が聞こえますね。それに合わせてラピスの頬がちょっと赤くなっているし。可愛いすぎ!
「ごめんね。今から作るからもうちょっと待っててね?」
「うん」
 さて、今日は何を作りましょうかね?


〈あとがき〉
 初めまして、こんにちは。蒼月と言います。
 まずは、こんな文章でも読んで下さった方に感謝を。ありがとうございます。少しでも楽しんでいただければ幸いです。
 …………ネタがない。どうしましょう?ここはこれを書くに至った思考を書くぺきでしょうか?っという訳で、これが出来るまでの簡単な流れを紹介します。
 まず、ナデシコは以前から知っていました。そこで最近になって初めて二次小説を読みまして。そこから、二次小説楽しい→ネタを思いついた→よし!書くか!以上終了。
 …………単純。いいのかこれで。まあ、きっといいのでしょう。
 とりあえず、最初なのでこの辺で。
 最後まで読んで下さって本当にありがとうございます。

 

 

 

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代理人の感想

うーん。w

色々とツッコミどころはありますけど中々楽しい作品ですね。

次回も期待してますので頑張ってください。