機動戦艦ナデシコ 新たなる目覚め
  第二章 姉妹の『絆』の創り方


「どうですかアテナさん、ラピスさん。これが我が社が誇る地球最強の戦艦、ナデシコです!」
 プロスペクターさんがナデシコをバックに誇らしげに言うのを聞きながら、後ろの戦艦を眺めます。
「お姉ちゃん?」
「ん、何でもないよ」
 少し目を細めて見ていた所為かな?
「変な形だよねお姉ちゃん」
「そうだね。
 それにいつまで地球最強でいられる事かしらね」
「いやはや、手厳しいですな」
 苦笑している余裕貴方にあげませんよ。
「それより、本当にここにいてよかったのですか?」
 うん、思ったとおり無表情になりましたね。
「あの時言いましたよね?あれは決して嘘じゃないですよ。それなのにまだそこにいるのですか?」
 本音で言えばいてくれた方がいいのですが、ここで覚悟を聞いておかなければ後で後悔する事になりかねませんからね。
「正直に言いますと少し迷いました。あれが序の口かもしれない世界にこれからも身を置くのは、正直身を滅ぼすかもしれない事も理解しました。それでも、止める訳にはいかない理由を見付けました。だからこそ、私はまだここにいるのです」
 真正面から私を見るプロスペクターさん。プロスペクターさんが見付けたという理由は私には分かりかねますが、そこまで言うからには余程の理由なんでしょうね。
「そこまで言うなら私は何も言いません。これからもよろしくお願いしますプロスさん」
「!私の名前を」
「お姉ちゃん?」
 そこまで驚く事?
「知っているでしょ?貴方でまだ二人目ですが、呼び名の省略化は私にとっての信頼の証。これからもよろしくお願いしますプロスさん」
「そこまで信頼されるならば全力でお応えしましょう」
 しっかりと握手を交わす私達は傍から見たらおかしいでしょうね。大の大人が少女とですから。
 傍らで嫉妬しているのか、頬を膨らませているラピスが可愛らしいですね。
「ところでアテナさん。何故嘘じゃないと言い切れるのですか?」
 ちっ、しっかりと聞いていましたか。
「今舌打ちしませんでしたか?」
「いえ、そんな事しませんよ?」
「はあ、そうですか。それで、何故でしょうか?」
「それは、乙女の秘密です♪」
 ニッコリ
「そ、そうですか。それなら仕方ありませんな(真っ赤)」
「お姉ちゃん(真っ赤)」
 効果絶大。あれから練習したら、本気なれば多分もっとすごい事になるかな?
「それより、ブリッジに案内しましょう。今の時間ならあの人もいらっしゃりますからね。
 あ、そうそう。こちらがコミニュケになります。身分証明書の代わりにもなる物ですから、失くさないで下さいね」
 私はささっと腕に着けてから、隣で悪戦苦闘しているラピスのを着けてあげました。
「さあ、参りましょう」


「ホシノさん。少しよろしいですか?」
「はい、何でしょう?」
 あの子がホシノ・ルリちゃん。電子の妖精って呼ばれるようになる子ね。
「紹介したい人がいるのですよ」
「はあ」
「さあどうぞ」
「初めましてアテナ・グリフィス、オペレーター兼パイロット兼その他色々です。よろしくねルリちゃん♪」
「初めましてラピス・ラズリ、サブオペレーターです!よろしくルリ姉♪」
「…………」
 驚いてる驚いてる♪
「どうしたのルリちゃん?」
「ルリ姉?」
「あ、はい、ホシノ・ルリ、オペレーターです。よろしくお願いします」
 うん、礼儀正しくて良い子。記憶通りなら感情が乏しくて、無表情だったよね。普通の女の子みたいに笑ってくれる様にするのが私が自分に課した使命の一つ。頑張るよ〜。
「では、後は若い方達に任せましょう。何かあればコミニュケに連絡しますので、艦内でしたら好きな場所にいて下さって結構ですよ」
 プロスさんっていつも忙しそうだね。
「お姉ちゃん、ルリ姉!食堂行こ食堂!」
 ラピスは本当に元気だね。
「そうだね。そこならゆっくりお話も出来るだろうしね。案内お願い出来るルリちゃん?」
「あ、あの、すみませんアテナさん、ラピスさん」
「私の事はアテナでいいよ」
「ラピスもラピスでいいよルリ姉!」
「あ、では、私の事はルリでお願いします」
 う〜ん、ルリね……
「ごめん無理」
「ラピスも……」
「何故ですか?」
 いや、何故って聞かれてもね。
「ずっとそういい続けてたからすっごく違和感があるの」
「みーとぅー」
 ラピス何で英語?
「私の事を知っていたのですか?」
「うん。まあ、その話は長くなるから後にしといて、どうしたのルリちゃん?」
「あ、はい、それが今日の分の調整がまだ終わっていないので、食堂にはちょっと行けません」
 あ、何だそんな事か。
「後どの位?」
「ざっとこんなものです」
 ルリちゃんが表示してくれたのは確かに今のルリちゃんにとっては大変だろうね。
「ちょ〜とごめんねルリちゃん」
「アテナ?」
 ルリちゃんに横に退いてもらって、コンソールに手をついてアクセス。
「初めましてオモイカネ。私がアテナ・グリフィス。あそこにいるのがラピス・ラズリだよ」
『初めましてアテナ、ラピス。私はオモイカネです。よろしくお願いします』
「早速だけど頑張ってね」
『はい?』
 オモイカネの返事を半ば無視して、処理を開始。その速度は今のルリちゃんの倍以上。
『わ、わ、わ、』
 やっぱり無理ですか。
「ルリちゃん、ラピス。手伝って貰えるかな?」
「らじゃだよお姉ちゃん♪」
「え、一体何をすればいいのでしょうか?」
「大丈夫。ルリちゃんならすぐ理解できるよ」
 それだけ言って私は自分の世界に集中します。うん、さっきより断然処理速度が上がってるね。ルリちゃんとラピスがしっかり通訳してくれてる証拠。二人の実力が私の予想通りかそれ以上の証。これであれは大丈夫。
「これで終了っと」
『疲れた』『アテナ凄すぎ』『ルリ、ラピスありがとう』
 オモイカネのウインドウに少し苦笑。
「じゃあ、食堂行こ。ルリちゃんが聞きたい事答えてあげるから、もうちょっと待ってね」


「ここが食堂です」
 食堂までの道中特に会話は無かったけど、どこか気まずい沈黙では無かった。ラピスを真ん中に私が右に、ルリちゃんは左にと、三人で仲良く並んで来たの。ラピスはニコニコ、私はニッコリ、ルリちゃんは一人困惑している感じだったの。だから嫌な雰囲気にはならなかったのです。
「それじゃあ何頼もうか?」
「お姉ちゃん特製チキンライス!」
「それはちょっと無理かな」
 苦笑混じりにラピスに言う。
「じゃあ、お姉ちゃんと一緒!」
「はい、りょーかい。ルリちゃんは?」
 横を見ればすっごく真剣な顔をしているルリちゃんがいたのです。
「ルリちゃん?」
「…………」
 返事は無し。何悩んでいるんだろう?
「おーい、ルリちゃーん」
「え、あ、はい、何でしょうか?」
「何にするか決めた?」
「……すみませんが、アテナと同じ物でいいですか?」
 へ?
「別にいいけど……いいの?あんなに悩んでたのに?」
「はい……実を言いますとこういうのは初めてですので…………」
 なるほど。確かにそうだったね。
「分かった。じゃあ、注文だけど、何処で?」
 辺りを見回しても、券売機は準備中だし、肝心の料理人もいないようだし。もしかして営業前?
「あ、それは大丈夫です。ホウメイさんがいますので」
「ほうめい?」
 確かナデシコの料理長だよね。
「そうですよラピス。ナデシコの料理長です」
「誰かいるのかい?っとルリ坊か」
 なんか都合よく現れましたね。
「ん?そっちの2人は見ない顔だね。新人かい?」
「初めましてアテナ・グリフィスです。こっちはラピス・ラズリ。今日乗艦しました」
 ラピスは隣でペコリとお辞儀しました。
「丁寧にありがとう。
 あたしはリュウ・ホウメイ。ここの料理長さ。
 それで注文かい?」
「はい。紅茶のホットとショートケーキを三つずつで。あ、お砂糖とミルク付けて下さい」
「紅茶の葉は?」
「う〜ん……」
 そこまで聞いてくるとは……
「お任せします」
「あいよ!座って待ってな」
 私達以外に人がいないので、厨房から程よく近い席に座る事に。私の向いにルリちゃんが座って、ラピスは私の隣。
「さて、何から聞きたい?」
「確認しておきたいのですが、二人はMCですよね?」
 まずはそこからね。
「そうだよ」
「ラピスとお姉ちゃんはルリ姉と一緒!」
「でも、何処で?」
 それは当然の疑問。でも、あまりラピスの前でして欲しくなかったな。
「何処って研究所だよ?」
 あれ?意外に平気そう?私が気にしすぎ?
「研究所ですか?」
「うん。だよねお姉ちゃん?」
「世の中には裏もあるって事よ」
 う〜ん、あまり理解している感じではないね。
「紅茶とショートケーキお待たせ」
 流石ですね。早い上になかなかに美味しそうなケーキですよ。
「ゆっくりしていきな」
 とりあえず紅茶を一口。美味しい。
「次は?」
 言外にさっきのはもうお仕舞いと言いましたが、これには気付いてくれたみたい。
「えっとですね、二人は血の繋がりは無いのですよね?」
 なんだろう?分からないけど、とりあえずは頷く。
「何で『お姉ちゃん』なんですか?私も『姉』ですし」
 それは私よりもラピスかな。ラピスを見れば、ちょうど上の苺を口に入れたところ。膨らんだ頬が可愛らしい。
「ラピス。クリーム付いてるよ」
 ナプキンで口の周りを拭いてあげる。ラピスは目を細めて気持ち良さそうにしてて、その姿が又可愛らしい。
「ありがとうお姉ちゃん」
「じゃあ綺麗になったところでルリちゃんの質問に答えようか」
「うん!」
 元気に頷いたラピスはニコニコ笑顔のまま、ルリちゃんの方に向き直りました。
「えっとね、お姉ちゃんが連れ出してくれて、名前をくれたからお姉ちゃんなの」
 はい?
「えっと?」
 いや、こっち見られても分からないし。
「どういう事ですか?」
「お姉ちゃんが研究所からラピスを外に連れて行ってくれてね、名前を知らなかったラピスに名前をくれたの。だからお姉ちゃんはお姉ちゃんなの」
 ん〜、つまり刷り込みみたいなもの?あれ?でも……
「ラピスあの時寝てたよね?私は何も言ってないし。どうやって知ったの?」
「お姉ちゃんずっと抱き締めてくれてたでしょ?お姉ちゃんの暖かさは忘れないよ」
 それは光栄。
「それで『お姉ちゃん』ですか。私の場合は?」
「ルリ姉の方が年上じゃん」
「なるほど。
 ちなみに名前の由来はなんですか?」
 ラピスには教えていなかったから自然に私に視線が集まります。
「ラピスラズリ。七宝の一つ。美しい青色をしていて、黄金色の細かい点が入った鉱物。紺色の宝石」
 一度言葉を切って二人を見てから一番重要のところを口に乗せます。
「和名、瑠璃」
 キョトンとした顔が二つ。それを見ながら私はニッコリ笑顔で眺めながらケーキを口に運ぶ。うん、美味しい♪
「えっと、つまり私とラピスは一緒?」
「うん、名前はそうだね」
「ラピスはルリ姉の代わりだったの?」
 なんですと?勢いよくラピスを見れば何時泣いてもおかしくない表情で私を見つめてたの。
「わ、わ、泣かないでラピス。そんな事は無いから。ラピスはラピス。ルリちゃんの代わりだなんて考えた事無いから」
 泣きそうになるとは考えてもいなかったから、結構慌ててラピスを慰めます。
「本当?」
「本当だよ」
 柔らかく笑いながら、ラピスの髪を優しく撫でる。良かった。笑顔に戻ってくれた。
「代わりではないのなら何故その様な名前にしたのです?」
「ただの願掛けなんだけどね」
 ラピスの髪を撫で続けながらルリちゃんに苦笑を向ける。
「ルリちゃんとラピスが仲良く笑っていられますように、て」
 普段の意図的にニッコリ笑うのと違い、100%天然使用、優しさ成分100%の笑顔が自然に浮かびました。その威力の凄い事。向かいに座っているルリちゃんは元より、隣に座っていて顔をちゃんと見られない筈のラピスまでもが顔を真紅に染めていたのです。
 固まった彼女達が再起動するにはちょっと時間が掛かりそうだから、次に来ると思われる質問に私から答えますか。
「じゃあ、そろそろ私がルリちゃんを知っていた理由教えようか?」
「あ、はい、お願いします」
「まあ、言うほど長くも複雑でも無いけどね。
 ところでルリちゃんの趣味って何?」
「はい?趣味、ですか?」
 頷く。
「特には無いですが、しいて挙げるならハッキングでしょうか?」
 そうだね。
「ラピスは?」
 こっちも知っているけどあえて聞いてみる。
「ハッキング!」
「ラピスもハッキング出来るのですか?」
「うん!お姉ちゃんが教えてくれたの!」
 思った以上に覚えが良くって、お姉ちゃん喜ぶべきなのか悲しむべきなのか。
「そうなのですか。
 それでアテナ。これが何か関係あるのですか?」
「まあね。実を言うと私の趣味もハッキングなの」
 ここまで言えば分かるかな?
「はあ?」
 ダメか。まだ経験が浅いからかな?
「ま、ようはハッキングしてたらルリちゃんの情報を見付けた訳なのさ。で、会いたくなっちゃったから研究所を脱出。途中ラピスの情報を見付けて救出。で、今に至る訳なのです」
「えっと、つまりラピスがお姉ちゃんに会えたのはルリ姉のおかげ?」
「そうなるね」
 実際は違うけどね。
「何で私なんかに会いたいと思ったのですか?」
 むむ、『なんか』って事はないでしょうに。
「同じMCだからね。興味があったんだ」
「そうですか」
 ちょっと寂しそうな顔?
「でも、それは建前」
「え?」
「本当はルリちゃんが一人で寂しい想いをしているんじゃないかなって思ったの。実際映像で見たルリちゃんはそんな顔してたし」
「寂しい?」
 驚きと困惑が混ざったような顔をしてルリちゃんは呟いた。ま、その表情の変化に気付けるのは今の所私位だろうけど。
「そんな事は無いです。私はそんな事を思った事は一度もありません」
「そうなの?じゃあ私の勘違いだった訳なんだ」
 ま、今はまだ分からないだろうからこれでいいかな。
「でも、私達に会ったのは嫌じゃないでしょ?」
「そ、それは」
「え?ルリ姉、ラピス達に会いたくなかったの?」
「そんな事は無いです。私は二人に会えて良かったです」
 そう言ってくれるなら十分だよ。
「後は?何聞きたい?」
「あ、では、アテナの仕事が多い理由聞いてもいいですか?」
 あーそれね。
「それはねお姉ちゃんが何でも出来るからお願いされたんだよ」
「何でも?お願い?」
 ラピス。アカツキさんの事は一応内緒なのは分かってる?
「誰にですか?」
「えっと」
 一応分かっているのね。
「そうね。ネルガルの上の方って言っておこうかな」
「そうですか。それで何でもっていうのは?」
「私は“万能”だからね」
 ルリちゃんが不思議そうな顔をするけど、ごめんね。こればっかりはラピスの前では話したくないの。
「お姉ちゃんね凄いんだよ!エステバリスも動かせるし、ハッキングも早いし、頭いいし、ゴートさんよりも強いし、料理も美味しいの!」
「そ、そんなにですか」
「あ、あはははは」
 そんなに言われると恥ずかしいな。
「そんなに上手いのかい?」
「ホウメイさん」
 誰もいないから、私達の声が厨房まで届くのは当たり前か。
「何が?」
「お姉さんの料理だよ」
「うん!お姉ちゃんのご飯すっごく美味しいよ!」
「ラピスは褒めすぎだよ」
 自分でもある程度は美味しいとは思うけど、ラピスは絶対褒めすぎ。
「そんな事無いよ!」
 そこでそんなに頬を膨らませなくても……
「そんなに言われるならアテナ。何か作ってみてくれないか?」
「はあ、いいんですか?」
「ああ、あたしがいいって言ってるからな。ルリ坊も興味あるだろ?」
「ええ、まあ、一応は」
 それなら仕方ないね。
「じゃあ、厨房借りますね、リュウ・ホウメイさん」
「あいよ。
 それとあたしの事はホウメイでいいよ」
 それは無理です。
「残念ですが、私は私が認めた人以外はフルネームで呼ぶようにしているので」
「そうかい。それなら仕方ないね」
 ふん?こんな子供の言う事に反発したりしないんだ。
「あの、私は最初からルリちゃんだったんですけど?」
 当たり前じゃん。
「妹をフルネームで呼ぶ筈無いじゃん」
「妹?」
 あ!
「妹ってどういう事ですか?」
 はあ、しまったな。
「大した事じゃないんだけどね」
「じゃあ、言って下さい」
 参ったな。ラピスに助けてコールを送っても笑うだけだし。仕方ない。白状しますか。
「ただね、ルリちゃんにもお姉ちゃん扱いしてもらいたかったの」
「お姉ちゃん?」
「うん。ま、気にしなくていいよ」
 呼んでくれたら嬉しいけどね。
「じゃあ姉さん。私の事はルリと呼んで下さい」
「え?」
 今何って?
「どうしたのですか姉さん?」
「お姉ちゃん?」
「アテナ?」
「あ、いえ、ちょっと驚いて。
 いいのルリちゃん?私がお姉ちゃんで」
「はい。姉さんの方が断然姉さんっぽいですから」
 私の方が姉さんっぽいね。精神的にって事かな?でもね、私が聞きたいのは違うの。
「違うよルリちゃん。そういうのに興味無さそうにしてたのに、何で私の事『姉さん』って呼ぶの?」
「そ、それは……」
 ん?ラピスの方を見た?………………あ、なるほど。つまり、そういう事。
「ル〜リ〜ちゃ〜ん♪」
「な、何ですか姉さん、その笑みは」
「あ、ルリ姉気を付けて。お姉ちゃんのその笑顔は」
「羨ましかったんだ?」
 ラピスが変な事を言い終える前にさっくり言っちゃいました。
「な!」
 顔を真っ赤にして叫ぶ一歩手前のその顔が可愛い可愛い♪
「え?羨ましい?」
「へえ、なるほど」
 おや?意外に頭の回転は早いのですね。
「な、何で私がラピスを羨ましがるんですか姉さん!」
 おやおや。いいのかな?
「え、ラピス?」
「あ」
 やっと自分の失態に気付いたね♪
「嵌めましたね姉さん」
「なーんの事かしら〜♪」
 半眼で睨んでくるけれども、ルリちゃんがやると可愛いだけだよ?
「ねえねえ、どういう事なの?なんでラピスが羨ましいの?」
「それはね」
「それ以上言いますと『アテナさん』と呼ぶますよ?」
「ごめんラピス。これ以上は言えない」
 ルリちゃんが怖いの。
「ぶ〜、ルリ姉のいじわる」
 ごめんねラピス。弱いお姉ちゃんを許して。
「それより姉さん。早く作って下さい」
「ん、りょーかい。
 あ、そうそうルリちゃん」
「はい?」
「ありがとねルリ」
「はい」
 姉さんと呼んでくれた事に対してお礼を言うと、ルリはくすぐったそうに目を細めました。
「じゃあ作りますか」
「お姉ちゃんお姉ちゃん!」
「大丈夫。分かってるから」
 ラピスに苦笑を向けて、厨房に足を踏み入れます。ちゃんとエプロンをして、長い髪を一つに纏めて、手を洗い、準備万端!材料を揃えて、いざ、料理開始!
 〜中略〜
 お皿に綺麗に盛って、終了!
「お待たせしました。ラピスのリクエスト通りチキンライスだよ」
「ありがとうお姉ちゃん!」
 早速食べるラピス。本当元気だよね。
「いただきます姉さん」
「ん」
 ルリはどんな反応するかな?
「見た目はかなりいいね」
「ありがとうございます」
「さて、味の方は……」
 ある程度は大丈夫の筈なんだけど……
「!こいつは!」
 え?嘘?マジですか?
「変……ですか?」
「いえ、とっても美味しいですよ姉さん」
 良かった。でも本職の人が……
「すまないね驚かせて。味も悪くないよ。ただちょっとね」
 …………ああ、なるほど。
「どこかおかしいのですか?私には美味しく感じられるのですが」
「ラピスも!お姉ちゃんのは美味しい!」
「いや、違うんだよ。ただあたしの味に似ていたから驚いたんだよ」
 やっぱりそれですか。
「そうなのですか?」
「ああ。多分分かる者はそうはいないと思うが、この味の根底はあたしの味だと断言出来るよ」
 さっすが♪
「ホウメイさん凄い」
「ありがとねラピス。だけどな、あたしよりもお姉さんを褒めてやりな」
「お姉ちゃんを?」
 どういうことでしょう?
「どうして姉さんを褒めるのですか?」
「なに、その年でこんな料理を作れるんだ。たいしたもんだろ」
 いや、そこまで言われても。
 でも、変に詮索しない人でよかった。
「味付けの事は聞かないのですか?」
 る、ルリ〜
「いいんだよ。言う気があるなら本人から言うだろ」
 ……この人本当にまともな人だ。
「それよりもアテナ。相談があるんだが」
「なんでしょうか?」
「仕事が暇な時でいいんだけど、食堂の手伝いを頼めないかい?正直子供のあんなにこんな事を頼むのは心苦しいのだけれども、そうも言ってられない状況なんでね」
 なんだ、そんな事。
「そんなにひどいのですか?」
「ああ。コックはあたし一人で後は五人の補助がいるだけなんだよ」
「大変なの?」
 大変だよラピス。実質一人で数百人の三食作るんだから。一体プロスさんは何を考えて人を雇ったんだろ?
「別に構いませんよ。と言うよりも、最初っから私の仕事内容に含まれていることですから、心配する必要はありません」
「本当かい?だけどそんな連絡受けてないよ?」
 あの眼鏡め(怒)。
「そういえば姉さんの仕事の色々って何があるのですか?」
「ん?えっと、調理師、整備士、保安、会計、医者…………後何かあったけ?ラピス憶えてる?」
「ん〜確かお姉ちゃんが出来るの全部って言ってなかったけ?」
「あー、確かに言ってたかな?でもそうなると全部って事になるよ。時間とか体力とかを考慮しないで、って条件付だけど」
『はあ?』
 変な声をあげてどうしたのでしょう?
「そんなに仕事があるのかい!?っというよりもそんなに色々な事が出来るのかい!?」
「そんなに沢山の仕事したら姉さんの体が壊れてしまいますよ!」
「私は“万能”ですからね。一応出来ない事が無いって言うのが自慢の一つです。
 それから、心配しなくても大丈夫だよルリ。色々の仕事は時間がある時に適当にやってって言われているから」
「そ、そうかい」
「それならいいです」
「心配してくれてありがとね」
 自然に笑顔が浮かんできます。やっぱりその威力の凄く……って言うまでも無い事ですね。
「お姉ちゃん(真っ赤)」
「姉さん(真っ赤)」
「おやおや(少し赤い)」
 う〜ん、どうやったらこの笑顔を自由に使えるんだろう?練習したのでも十分な威力はあるんだけど、こっちはもっとだからね。練習したのが威力100だとしたら自然のは、ん〜150位?使いこなしたいな〜。
「ま、そういう事なので、時間がある時は優先して食堂に来ますね」
「あ、ああ。悪いねアテナ」
「気にしないで下さい。一応仕事ですから」
「ふぁ〜」
 ん?ラピス?
「お姉ちゃん、眠い」
 そっか。もうお昼寝の時間か。
「ラピスがこうなので失礼しますね」
「あいよ。時間があった時はよろしくね」
「はい。
 じゃあ行こうかルリ」
「え?あ、はい。
 それではホウメイさん。ご馳走様でした」
 眠そうなラピスの手を引いて食堂を後にしました。
 リュウ・ホウメイさん。なかなかの好人物でしたね。もしかしたら一番早いかもしれませんね。
「ところで姉さん達の部屋ってどこなんですか?」
「ルリと一緒だよ。聞いてない?」
「はい。プロスペクターさんに『一人でこの部屋はどうかと思う』と言ったのですが、企業秘密だと言われてしまいまして」
 あの人はあの人で変な所で遊ぶ癖があるからね。
「同室嫌だった?」
「姉さん達なら大歓迎です」
 なら良かった。ルリの意見も聞かないで結構無理矢理だったからね。
「あ、ここです」
 ドアを開けてくれたルリの脇を通り、ベッドに一直線。
「ほらラピス。ゆっくり寝て、体力回復させなさい」
「ふにゃ、ありがとお姉ちゃん、くぅー」
 とりあえずこれで良し。
「ルリはこの後どうするの?何かやる事ある?」
「いえ、姉さんさえ良ければさっき聞けなかった事聞いてみたいのですが」
 そう。ちゃんとラピスの前では遠慮してくれたんだ。
「いいよ。答えられる事ならは答えてあげるから、言ってみな」
「“万能”……教えていただけますか?」
 それ、ね。
「聞いて後悔しないならいいよ」
「しません。だから教えて下さい」
 即答…………
「悩まないんだ」
「姉さんの事ですから。今さっきとはいえ出来た姉妹の絆は大事にしつつ、色々知りたいです」
 そっか。そんな風に考えてくれるんだ。
「まあ、他ならない妹のお願いだし答えてあげましょう。
 私の創作理念。一つ事のみに突出した存在ではなく、全てにおいて一流以上の事が出来る存在。それが私。『人造神計画』試作固体シリアルナンバーA01。名称“アテナ”、通称“万能”。生まれながらにして全ての事柄を刻まれた人造の女神。
 そして、“万能”を足掛かりに出来る筈だった私の妹が、完成固体シリアルナンバー未定。名称未定。通称“全能”もしくは“神”。全てにおいて完璧にこなす事が出来る存在。結局生まれてこなかった計画上の、人の欲望が生もうとした、欲塗れでいながらにして純粋無垢だった筈の私の……私達の妹」
「もういいです。すみません姉さん。私……」
 もう。一体なんて顔してるのよ。
「ルリ」
 顔を挟んで私と強制的に顔を合わせます。
「姉さん」
「どうしてそんな顔をするの?ルリがそんな顔をする理由が無いじゃん」
「でも」
「私の話を聞いて後悔したの?」
「いえ、それは……」
「うん。してないよね?ただ私の身の上がルリよりも酷いって思っただけでしょ?」
「……はい」
 うん。本当にいい子だね。
「なら安心して。私の過去は酷かったかもしれないけど、今はルリとラピスがいるから平気だよ」
「私と……?」
 私流復讐の進め。計画、ん〜何段階目だったけ?まあいいけど。スタート!
「そう。さっき私がルリを知った過程は話したでしょ?私はそのおかげで『人造の女神』という人形から人間になれたの。だから二人にはすっごく感謝しているの」
「そ、それを言うなら私もそうです!たった数時間ですけど、姉さんとラピスのおかげで私は人形じゃなかった!こうやって叫んだり、顔を赤くしたり、泣きそうになったり、人間らしい事が出来ました!」
 胸に飛び込まれてちょっとビックリ。
「そっか。
 ねえルリ。お姉ちゃんから一つお願いいいかな?」
 こくりっと、ルリは頷いてくれた。
「私の事は嫌いになってくれてもいいし、誰か大好きな人を見付けて結婚しても……悔しいけどいいよ。でもね、どうかお願いだから私より先に死なないでね。多分ルリがいなくなったらそれだけで私は人間じゃなくなっちゃうから」
「そ、それなら私も同じです!姉さんだけでもラピスだけでもダメなんです!二人がいて初めて私は人間でいられるんです!だから姉さんこそ死なないで下さい!」
 これなら成功だね。
「なるべく努力はするけど、私の命と引き換えに妹達が助かるんだったら私は躊躇い無くやると思うな」
「…………そんなのずるいです」
「ごめんね。でもお姉ちゃんってこういうのじゃないのかな?妹の為になら何でもするって感じ」
「それでもずるいです」
「ごめんね。約束できなくって」
 ルリの髪を優しく撫でながら謝る事数分。
「すぅーすぅー」
「あらあら」
 日頃の疲れの所為か寝ちゃったルリをラピスの横に運びます。
「お休み二人とも」
 電気を消して外に。
 さて、時間もあることだし、カリバーでも見てこようかな?アーサーも退屈しているだろうし。
 格納庫に足を向けて、私は数日後の出会いを楽しみにしています。


 そして運命の日。ナデシコの輝かしい歴史の始まりの日。あの人が搭乗してくる日。
「ちょっと、早く何とかしなさいよ!あたしはこんな所で死にたくないわよ!」
 そうは言われましてもね。
「無理です。この戦艦は今マスターキーが無いので動けません。出来るのは精々レーダーで地上の様子を見ながら出来る範囲で発進の準備を進める位です」
「なら早くマスターキーを持ってきなさいよ!」
「マスターキーはネルガルの会長もしくは艦長しか持っていません。これは「お姉ちゃん、地球軍の損害率60%超えたよ」ありがとラピス。 
 そういう訳ですので少し大人しくしていてください。えっと、ムネタケ・キノコさんでしたっけ?」
 至極真面目な表情で言ってあげました。周りから笑いの声が聞こえますね。
「サダアキよサダアキ!」
「そうでしたか。それは失礼しましたムネタケ・キノコ・サダアキさん」
 笑いが大爆笑に変わりましたね。ルリやフクベ・ジンさんでさえお腹を押さえていますね。
「ちょっと小娘!わざと言っているでしょう!」
「ええ、勿論です。皆さんこういう事態に慣れていないと思いまして、和ませようとちょっとした冗談です。副提督には付き合ってもらって感謝しています」
 理由が理由だけにこれ以上は怒れないですよね?普段使わない悪者チックな笑みを浮かべて対応しました。
「ふ、ふん。そういう理由なら仕方がないわね」
「あ、でも、気に入ったのでこれからはそう呼びたいです。どっちがいいですか?」
 ニッコリと笑顔を作って聞けば又もや爆笑の渦。いいですねこれ。
「ちょ、あな」
「あ、後者は長いので、前者で呼びますね。よろしくお願いしますムネ茸・キノコ副提督」
「あ、あんた、今変な漢字変換したでしょう!」
 勘がいいですね。
「いいえ?何の事でしょう?」
『楽しんでいる所悪いんだけどアテナ。地球軍全滅したよ』
 あらあら。
「ありがとオモイカネ。でも何で私に?」
『一番頼りになる』
 光栄ですね。
「それでルリ。今艦長何処にいるか分かる?」
「は、はい。も、もう来ます」
 笑い過ぎた所為か少し息が荒れているルリの発言の後にドアが開き、何も考えていなさそうな笑顔と共に一人の女性が入ってきました。
「私が艦長のミスマル・ユリカでーす!!ぶい!!」
『ぶい!?』
 そのあまりにも何も考えていなさそう笑顔と発言に皆さんキレイにはもりましたね。そして妹達と言えば、
「馬鹿?」
「姉さんの方が……」
『アテナの方が安心できる』
 あら、オモイカネまで。
「ユ、ユリカ〜一つ位持ってくれても〜って、申し訳ございません。アオイ・ジュン副艦長只今着任しました。許可をお願いします」
 最初の情けない台詞が無かったらよかったのに。
「許可しよう」
 しない場合もあるのでしょうか?
「それより艦長。早くマスターキーを」
「はいはーい!今いれまーす。カチッと」
 ん。動き始めたね。
「相転移エンジン起動します。エンジンチェック、よし。出力20%です」
「火気管制システムおーるぐりーん。グラピティブラストチャージ開始だよ」
「艦内異常無し。戦闘態勢に移行を確認」
 ちなみに、メインオペレーターがルリで火器とサブにラピス。私はパイロットも兼ねているからサブ扱いなのです。
「木星トカゲの行動から察するに攻撃目標はナデシコのようです」
「迎撃よ!艦長がいるんだから出来るでしょ!?」
 ルリの報告に又うるさくするし。
「どうやってですか?」
 この人は通信士のメグミ・レイナードさん。
「しゅ、主砲を上に向ければいいのよ!」
 それ無理ですから。
「まだ軍人さんがいるんじゃないの?」
 で、こっちの人が操舵士のハルカ・ミナトさんっと。
「ど、どーせもう死んじゃっているわよ!」
「それって非人道的ですよね」
 この辺でいいですよね?
「どちらにせよナデシコの主砲は前方にしか撃てない不良品ですので無理ですよ。これぐらい乗艦前に確認して下さいムネ茸・キノコ副提督さん」
「あなた!本当にその名前であたしを呼ぶ気なの!?」
「勿論です。こんなのスキンシップじゃないですか。それともこんな年端もいかない少女に言われて本気で怒りましたか?あ、それとももう一つの方が良かったのですか?それならそうと言って下さい」
 この人はからかうと面白いですね。
「それで艦長。何かいい作戦はあるかね?」
「はい!ドッグに海水を注入後、海中ゲートを通って敵の背後に回り込み、グラピティブラストにより殲滅します」
 記憶通りね。
「ふむ。よい作戦だ」
「しかし、それには囮がいるな」
『そこで俺の出番だ!ゲキガンガーで出撃して敵を引きつける!くぅ〜燃える展開だぜ!!』
「貴方足を骨折している筈では?」
 後、暑苦しい上にうるさい(怒)。
『し、しまった!!』
「ええー!?他にパイロットいないんですか!?」
 ここにいますよ。
「私がそうですけど、今から格納庫に行きましても十分は掛かりますよ?」
「いえ、つい先程もう一人パイロットを雇いましてね。その人は格納庫に行くと仰られていたのであるいは」
 はい?コックじゃなくってパイロット?テンカワ・アキトさんじゃないの?
「艦長!エステバリスから通信です!」
「すぐに繋いで下さい!」
 繋がったウインドウに映ったのは見慣れたエステバリスの操縦席。
『こちらテンカワ・アキト』
 そしてそこにいたのは見覚えのある一人の青年。
『至急作戦内容を頼む』
 その人は――黒かった。


〈あとがき〉
 とりあえず第二章でした。
 いやー、難しいですね。書きたい内容はあったのですが、自分の構成力が及ばず頭を抱える事抱える事。世の作家さん達の凄さを実感しました。
「それは貴方が未熟なだけでしょう?」
 それはそうなのですが…………っと言う訳で色々なSSを読んでいる時からやってみたい思っていました、あとがきに本編キャラを登場させて作者とトーク、やってみました。今回は我等(?)がヒロインにして主人公のアテナ・グリフィスです!
「何が『と言う訳で』なのかしら」
 まあ、そんな硬い事言わないで。
「まあ、いいけど。
 それで?私に何をさせたい訳?」
 それは本編で?それともここで?
「両方よ」
 本編の方では次の話であの方が登場します。
「最後のあれね」
 そうです。今回の最後の所は絶対にやりたいっと思って辿り着いた所なのです。
「ふ〜ん。それで?」
 で、いきなりでなんですけど、君の復讐は終わります。
「そう」
 あれ?怒ったりしないのですか?
「彼が出てきた所で予想は出来ているわ」
 おお〜
「それに私の事。違う方法でも考えるのでしょう?」
 それはノーコメントで。
「まあいいわ。
 で、ここでは?」
 特に何も。
「は?」
 しいて言うなら私と喋っていてくださればそれでOK。
「それなら質問。ラピスはあんなに喋れていいの?」
 それは私も思いました。始めはルリとの挨拶の時に年齢も入れようと思ったのですが、この年齢でこんなに喋っていいのだろうか?と思いまして年齢は割愛。まあ、MCだからっという理由も無い訳ではなかったのですが、それもなんだかなーと思いまして。
「それを言うなら私は?」
 君の場合は“万能”+夢の分がありますから。
「そう。まあいいわ。
 そろそろ私は帰るわ。なるべく早く次ぎの話書き上げなさいよ」
 仕事の合間に考えているものですから必ずとは言えませんが、今月中にもう一話書き終えるよう善処します。
 アテナ・グリフィスでした!
 それでは今回はこの辺で。ここまで読んで下さった方に感謝の気持ちを込めまして、又次の話で!

 

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

テンカワスマイルまで使えるのかこいつは(笑)。

まぁ技能を継承している以上充分可能なこと・・・なのか?(爆)

 

追伸

メモ帳(テキストファイル)で問題ないですよ。