「○月×日、今日も事もなし・・・っと」
「ルリちゃん・・・さすがにそれだけってのは・・・」
「そんな事言ったって・・・ならアキトさんが書きますか?」
「いや、いい」
ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
第九話 苦悩
「暇・・・ですね」
唯一の仕事、航海日誌をつけ終わると、もう何もやることがありません。
「そうねー」
「私、戦艦ってもっと大変なところだと思ってました」
ミナトさんとメグミさんが雑誌を見ながら同意します。
「古来戦争など、実際戦っている時間は戦争全体の1パーセントにも満たない。
詰まる所、実際戦うときには勝負はほとんど決まっているからだ。
だからその前に勝つための準備をする」
「アキト君って、実際戦争をしたことがあるような事いうよね」
「更に言えば、戦争が始まった時点で、既に勝敗は決定している・・・
戦術と戦略と大戦略の関係・・・ですよね、アキトさん?」
「その通り」
「ルリちゃんもですよね」
実際やったことありますからね・・・
「そういえば・・・アキトとルリちゃんってどこで知り合ったの?」
ユリカさん・・・寝てたんじゃないんですか?
・・・やっぱり気になるんですね?
「そういえば気になりますね、アキトさんもルリちゃんもこう言ったら何だけど普通じゃないし・・・」
メグミさんも・・・やはり気になるのでしょうか・・・
この間の様子では、アキトさんに気があるようには見えませんでしたが・・・
「私は知ってるけど・・・」
「昔、一緒に住んでいました」
ズデ〜〜〜〜ン!!!!
私とアキトさん、ミナトさん以外の人が倒れました。
今日び、コントでもこう見事にはこけません、さすがナデシコですね。
「ア、アキトさんって変態だったの?」
「むう・・・そんな事実があったとは!!」
「えぇ〜!!ア、アキト、いくら私が引っ越して寂しかったからって大丈夫よ私は気にしないからアキトは気にするか持ってこの前メグちゃんが言ってたけどぉアキトはじめは大変かもしれないけどがんばって私が必ず正しい人の道に帰してあげるからでもでもぉやっぱり嘘だよねそんな事ないよねねぇアキトは私の王子様なんだからそんな事ないよねそうだよねそうって言ってよ〜〜ねぇねぇ何で黙ってるのアキト何とか言ってよそれは私もアキトが私がいない間に恋人が一人もいなかったなんて思わないしアキトも男の子だから多少の浮気は認めますでもでもぉ何でよりにもよってルリちゃんなのぉ〜それはルリちゃんはかわいいけどさ〜それは人間としてやっちゃいけないことだしアキトがいろいろ大変だったのはわかるけどぉわかったわかっちゃったアキトあれねその組織はやっぱり大変でそのせいなのねだからルリちゃんとそうかそうよね過去の過ちについてとやかく言うのはよくないよねアキトもおじさんたちの仇を打とうとして大変だったんだもんね大丈夫だよ私はアキトの味方だからねアキトは私が守ってあげるから!!!
艦長命令です!!今の話は忘れなさい!!!!!」
ユ、ユリカさん、よくそんなに息が続きますね?
「ルリルリ、やっぱりその言い方じゃ誤解を招くよ?」
「へ?誤解って?」
ユリカさんが半分裏返った声をあげます。
「俺とルリちゃんの関係だろ?まぁ、元家主と居候って関係かな?」
「え?そ、そうよね、アキトがそんなわけないよね?はははやだな〜〜
私はアキトを信じてたからね。本当だよ、本当の本当、ぜ〜〜ったい本当」
ユリカさん、説得力がありません。
「ルリルリ、艦長をからかっちゃだめよ」
「はい、今後は気をつけます、ミナトさん」
「うんうん、子供は素直が一番よ」
「・・・ミナトさん、私、少女です」
そういえば、もうミナトさんは私のことを「ルリルリ」と呼んでいますね。
・・・?
嬉しい・・・はずなんですが・・・なんでしょう、今・・・
胸にチクンッ!って
「ま、アキトさんがロリコンでも私には関係ないんだけど」
・・・やはり今回のメグミさんはアキトさんに好意を抱いているわけじゃなさそうですね。
アキトさんの負担が減ったのはいいことです。
『作戦成功・・・だね』
『まぁ、まだまだ敵は多いけどひとつづつクリアしていかないと』
『さしあたっては、ユリカさんとリョーコさんか・・・』
『リョーコさんはともかくユリカさんは強敵だね』
『う〜ん、まあ時間はあるし・・・』
『そうそう、壊れる人さえ出さなければ、アキト兄がはっきりしさえすればどうにでもなるさ』
『問題はユリカさん・・・だね』
「ルリちゃん・・・」
「ごめんなさい、ちょっとユリカさんをからかうつもりだったんですが・・・」
アキトさんが自室にいるのを確認してから、通信を繋げて謝罪します。
恨めしそうな顔でアキトさんが私を見ます。
「二回目にも同じことがあって、あの時あんなことを言ったのは、これを防ぐためだったんですね?」
「・・・まあな」
・・・?
また・・・不機嫌ですね?
一体なぜ?
「まあ、いずれにしても私とアキトさんの関係は、いつかだれかに聞かれることになったと思います。
これで特に理由がなくても話せますね?」
「・・・そうか、あのときのことを思い出してるんだな」
アキトさんの声から不機嫌さは消えましたが、表情が暗くなり、
私の表情も暗くなったと思います。
「・・・あの時、墓地で再会してから後のアキトさんは私を避けていました」
「あのときが・・・本当の意味でルリちゃんたちとの決別を決めたときだからね。
俺の手は余りに血に汚れすぎた・・・
それなのに、最後には結局巻き込みたくなかったルリちゃんまで巻き込んで」
「あのときから、幾度となく連絡をとりましたよね?
でも、アキトさんは一度もまともに応えてくれなかった。
ユリカさんの救出が終わった後でも・・・」
「消え去るつもりだったからね・・・完全に皆の前から・・・
俺は、俺が許せなかった、ユリカを守りぬけなかった俺もだけど、
ともすればユリカやルリちゃんたちに甘えて、今までの罪を忘れそうになる自分が・・・特にね」
「今ならわかります。アキトさんは・・・私が思っていたよりずっと弱い人でした。
もし・・・あの時私ともう一度会っていたら、アキトさんは私の前からいなくなれなかったでしょうから・・・
・・・私・・・だめですね。宇宙軍最年少の少佐、とか言われて舞い上がっていたんです。
アキトさんの・・・ずっと好きだった人の気持ちに気づかないなんて・・・
迷惑・・・でしたよね?アキトさんは・・・私に会うたびに苦しんでたんですよね?
私は・・・アキトさんのため・・・とか言って逆にアキトさんを苦しめてたんですよね。
ごめんなさい・・・
私なんか・・・アキトさんのそばにいる資格なんて、ないですよね」
「そんな事ないよ、俺・・・嬉しかった。
ルリちゃんは、少なくともルリちゃんだけは俺を理解してくれている、
俺の罪を許してくれる、俺をA級ジャンパーテンカワ アキト、
コロニーを襲った大量虐殺犯という虚像じゃなく俺本人をみてくれる。
それが・・・嬉しかった。
そうじゃなければ、いつまでも太陽系をうろちょろしてなかったよ。
それに・・・ルリちゃんがいたから、こうやってやり直す機会を手にできたんだ。
感謝こそすれ、恨む理由なんてないよ」
「ありがとう・・・ございます・・・」
「また連絡してよ、何かあるんなら・・・相談に乗るからさ」
・・・やはり、アキトさんはこうでないといけません。
やさしくて、人のことを第一に考えて・・・いつも悩んでいる。
「・・・悩んでいる、きっと・・・それが大事なんですね」
「え?」
「あのときの私は・・・アキトさんを連れ戻すことが正しいことだと信じて、
悩んだりしていませんでした。でも・・・それじゃ草壁と同じですよね?
考えていれば・・・悩んでいれば・・・きっとアキトさんの気持ちもわかったはずです。
アキトさんも・・・連絡してください、私も、相談に乗りますから」
「・・・ルリちゃんって、俺に似てるね」
「え?」
「責任感が強くて自虐的で何でも一人で背負い込んじゃうとこなんてそっくりだよ」
「・・・そうですか?」
「そう、俺が自分がすべての不幸の根源だって思っているのと、
ルリちゃんが自分が俺を苦しめてる・・・って考えてるの、
結局、自分にすべての責任があるって考えている点で一緒だよ。
・・・もうちょっと自分の好きにやってかまわないんだよ。
自分ひとりで何でもできるなんて、思い上がりもいいとこだよ。
ルリちゃんは11歳の少女なんだろ?
ちょっとぐらい失敗しても誰も怒らないし、そんなに張り詰めてると、疲れるだろ?
それに・・・ルリちゃんはさっき悩んでいたら俺の気持ちに気づいたはずだって言ってたけど、
そんな状態じゃ、見えるものも見えないよ」
「でも・・・」
「その「でも」がだめなんだって、
悩むのが大事だって言ったよね?
多分悩むって言うのは、「これこれはどうだ」って言う固定観念を捨てることから始まるんだよ。
「でも」なんて言ってたら、何にも変わらないよ。
ルリちゃんはもっと楽に生きるべきなんだよ、きっとね?」
「・・・はい、それと・・・」
「ああ、心配しなくても。もう俺は俺の幸せを捨てるつもりはないよ。
ここは、あの世界とは違うんだ」
「そうですか、それを聞いて安心しました。
私は通常業務に戻りますね」
「ああ、頑張ってね」
今回もお葬式はありません。多分"も"です。保証はありませんが、確信はしています。
お陰で逆にユリカさんたちは暇を持て余してます。
・・・よかったですね、暇で。
「う〜〜ん、暇だよ〜、ルリちゃ〜ん」
だからって私に絡まないで下さい。
業務の邪魔です。
「お暇でしたら、艦内の見回りとか、各部署の責任者との意見交換とかしてたらどうです?」
艦長が、ブリッジで居眠りしてたり「暇だよ〜」なんて言ってたら、士気にかかわります。
・・・もっとも、このナデシコのクルーのテンションは、いつも異常に高いですが。
「うん、それがね。
ユリカが見回りをしてるのに皆で私を無視するの。
私はナデシコの艦長さんなのに・・・
ねぇ、ルリちゃん、艦長ってなんだろうね?」
「知りたいですか?
教えてあげることはできませんが、データなら・・・」
−中略−
「うえ〜〜ん」
・・・ユリカさん、ハーリー君みたいです。
そういえばハーリー君は元気でしょうか?ラピスと仲良くやっていればいいのですが・・・
「ルリちゃん、艦長はどこに行ったのかな?」
「メグミさん・・・実はここに篭ってます。
オモイカネ、艦長の居場所を表示」
『了解!!』
「瞑想ルーム?
何をやってるのかしら?」
「瞑想してますね」
「・・・それはわかってるわよ、ルリちゃん」
「そうですか」
・・・ま、ユリカさんの悩みに見当はつきますが。
ここは適任の人がいますし。
アキトさんとジュンさん・・・どっちにしましょうか・・・
ジュンさんじゃこの場合逆効果かもしれませんね。
やはりここはアキトさんでしょうか?
「大丈夫ですよ、今は攻撃もありませんから」
「そうよね・・・それに、ジュンさんがいれば平気よね」
・・・ユリカさん、今回は人望がありませんね。
まぁ、ジュンさんを立てるためには仕方ありませんが・・・
でも、そろそろ確りしてくれないと困るのですが・・・
「じゃあ、私はこれで今日の仕事は終わるからね。
ルリちゃんも、ちゃんと休むんだよ」
「はい、解りました。
お疲れ様です、メグミさん」
そして、メグミさんはブリッジを出て行きました。
さて、アキトさんに連絡を取りますか・・・
「アキトさん、実は・・・」
「ユリカ、何か悟れそうか?」
「あ、アキト。ううん、ぜんぜん」
いや・・・まあそうでしょうねユリカさん。
でも、それを覗き見している私も、余り良い趣味じゃありませんね。
・・・お二人が心配だからいいんですよ。
物に疚しい気持ちは・・・アキトさんの二回目の話を聞く限りあるかもしれませんが・・・
「で、何を悩んでるんだ?」
「アキトはさ、私はちゃんと艦長をやれてると思う?
私・・・必要ないのかなって・・・
地球を脱出するときも、サツキミドリのときも、皆で私を無視してたし・・・」
やはりその事ですか・・・
そういう細かいことや都合の悪いことはすぐに忘れるタイプだと思ってましたが。
・・・十分予想できる事態ですが、アキトさん、どう答えるのですか?
「ユリカ、お前は何のためナデシコに乗ったんだ?」
「え?ナデシコに乗ったわけ・・・私が私でいられる場所を探すため、かな?」
ユリカさんの目を真っ直ぐ見ながら、アキトさんが話します。
多分、今アキトさんの心中は穏やかじゃないでしょうね・・・
あの時、アキトさんと一番親しかったのは、ユリカさんですから。
「そうじゃない、ナデシコで何をしたいんだ?
ナデシコという艦を使って、何をするつもりなんだ?
それを皆に示すのがお前の仕事だろう。
艦長であるお前が俺たちの進む道を示してくれないと、俺たちはどこに向かえば良いんだ?」
「そ、それは・・・」
「まぁすぐに答えが出るなんて思ってないけどな。
それとな、もう少し回りを見ろ、何でジュンはあの時お前の指揮権を凍結したと思ってるんだ?
お前に俺を見殺しにさせるのが嫌だったからだ、お前にそれはできないと思ったからだ。
副官の仕事は艦長のできないこと、苦手なことをやることだ。
お前のできることはお前がやるべきだろう?
もう少しジュンを信じてやれ、お前にはもったいないような副官だぞ」
「ジュン君を・・・」
アキトさん、やはり、ユリカさんを避けてるんですか?
まるで、ジュンさんとユリカさんをくっつけようとしているみたいですよ?
「後な、艦隊構成艦のひとつだったら違うかもしれないが、ナデシコは単独動いてるんだ。
お前が戦術だけじゃなく戦略も立てないといけないんだ。
例えば今だって、火星に向かうコースはたくさんある、その中のどれを選ぶか?
敵を発見したら逃げるのか?倒すのか?
敵をほとんど殲滅してから火星に降りるのか?速攻で進入してすぐに逃げるのか?
火星に降りた後はどうするのか?
部隊を分けて同時に広範囲を捜索するのか?ナデシコで一箇所づつ探していくのか?
もし部隊を分けるのならどういう編成にするのか?
その分け方で、探索能力、戦闘力にばらつきはないか?その戦力で危険はないか?
それが戦略だ。この前も言ったが、戦略は戦術に勝るんだ。こんなところで悩んでる暇はないぞ」
・・・まぁ、間違ってはいませんが。
そんなに一気に言ってもユリカさんだって困りますよ?
「・・・うん、そうだね。私が確りしないから、皆が無視するんだよね?
アキト、私頑張る。頑張って、立派な艦長になるからみててね!!」
・・・さすがはユリカさん・・・というべきでしょうか?
第九話に続く
あとがき
と、言うわけで「育て方」の第九話です。
なんか、非常に内向的な話です。
ルリ君はともかくユリカはレベルが上がりました。
チャラチャラチャ〜〜ン♪
まぁ、それはともかく、結局メグミちゃんはジュン君に好意をもってもらうことにしました。
御都合主義という奴です。
アキト君に15人もくっついている・・・なんて話を書ききる自信がないからです。
メグミちゃん×アキト君派の方、すいません。
まぁ、どうしてもメグミちゃん×アキト君でなくてはいやだ!!
って人はこの話を読んでいないような気もしますが・・・
しかしどうしてもルリ君とアキト君二人だけで会話させると、あんな感じになってしまいます。
アキト君は意外と大人だなぁ、という感じですし、
ルリ君は謝ってばっかりで、非常に自虐的です。
まぁこんな内向的な話ですけど、これからもよろしくお願いいたします。
追記、
「私的キャラの精神分析」は、諸事情により中止させていただきます。
このことに関し、関係者各位にご迷惑をおかけしました事を
この場を借りて深くお詫びいたします、
どうもすいませんでした。
って・・・なんか政治家みたいですね。
あれはすべて電波がやったことであり私は一切関与していません。(核爆)
無論冗談です、本気にしないで下さい。
代理人の感想
「ま、アキトさんがロリコンでも私には関係ないんだけど」
この後に「だって、既成事実を作ってしまえば関係ないもの」とゆー
彼女の心の声が聞こえてしまった私は固定観念に毒されているのでしょうか(爆)。
追伸について
こちらこそ失礼しました。
討論自体は好きなので熱中してしまいましたが・・・少し場を誤ったようです。