「火星・・・か、何もかもが懐かしい」
ところで・・・二回目、ラピスに、「火星についたら、こう言って」
と言われたんだが・・・なんでだ?
ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
第十一話 火星
「グラビティ・ブラスト、スタンバイ!!」
「グラビティ・ブラスト、発射準備完了」
「どうして今更グラビティ・ブラストの準備をするの艦長?」
「火星で待ち構えている、敵第2陣を一挙に殲滅します!!
ルリちゃん、チューリップの位置はサーチできた?」
「完了してます。
ミナトさん・・・このポイントに移動してください」
「・・・ふんふん、了解!!」
ドゴォォォォォォォォオオオオオオオンンンン!!
そしてナデシコの上空からのグラビティ・ブラストの一撃に、敵チューリップは殲滅した。
(・・・また重力制御を忘れたな、ユリカ)
全く、あらかじめ安全なところに避難してて正解だった。
「よ、良かったな、こっち側の壁際で休んでて」
「ほ〜んと」
「同感」
「ふ、ヒーローがこんなことで怪我したら話にならないからな」
よく考えたら、この場合悪いのはルリちゃんか?
「全く、うちのクルーはどっか抜けてるからな」
「おいお前ら、お前らだけ助かってんじゃね〜」
ウリバタケさん、だからさっき休みませんか?って言ったじゃないですか。
「どわぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!」
やっぱり落ちたか、仕方が無いな。
「ほいっと」
ドサッ
「お、おお、助かったぜ」
全く、ブリッジは何やってんだ?実際。
そう言えば格納庫はまだいいとして、厨房はどうなってるんだ?
・・・はぁ、下手したら皆して晩飯抜きになっちゃうぞ。
「では、今からナデシコはオリンポス山に向かいます」
「そこに何かあるんですか?」
プロスさんの話を聞いて、ユリカが質問する。
前回もぎりぎりだったからな、今回はもう少し早く話を進めるか。
「ネルガルの研究所だな、なら俺はエステで別行動させてもらう」
「何を言い出すんだテンカワ!!
今お前とエステを手放せるわけ無いだろう」
「火星については多分ここにいる誰よりも詳しいですよ、
詳しいことをここで説明することはできませんけどね?」
「しかし・・・」
「そこ以外にも生存確率が高く、
賢明な生き残りなら避難しているであろうところに心当たりがある。
俺だけじゃ探査能力に不安があるから、ルリちゃんを貸してくれ」
「へ?私ですか?」
「俺の単独行動になるからな、コックピットの中に大人二人じゃ、
万一戦闘になった場合邪魔になる」
「・・・かまわん、行ってきたまえ」
「提督!!何を言うんですか!!」
「火星についてはテンカワの方がはるかに詳しいようだ、この船は人助けにきたのだろう?」
提督・・・今回は貴方の心の傷をえぐるようなことはしないつもりだったんですが・・・
貴方の心中は理解できます。
でも、誰もそれを望んでません、本当に後悔してるなら生き続けるべきです。
貴方は、結局逃げてるんですよ。
ま、俺が言えた義理じゃないですけどね・・・
「何で私なんですか?てっきり私はユリカさんを止める役だと思ってましたが・・・」
「行き先は伝えてないんだ、追ってはこれないさ。
それに、会わせたい人もいるしな」
「会わせたい人・・・イネスさん以外にですか?」
「初めの時はイネスさん以外全滅したからな」
「・・・そうでしたね」
「さて、そろそろ見えてくるぞ」
「そうですね」
「ユートピア・コロニー・・・
どうせ戻るんだったらユートピア・コロニーが壊れる前に戻りたかったな・・・」
「アキトさんとユリカさんの故郷・・・
私も壊れる前のユートピア・コロニーを見てみたかったです」
「まぁ、今この時間をもう一度繰り返してるだけで奇跡に近いんだ。
これ以上は贅沢なのかもしれないな」
その頃ナデシコブリッジでは
「・・・問題ありますよね!!」
「良いじゃない・・・必要なデータはすべてあるし・・・敵さんもいないし」
「そうですよ艦長、ジュンさんもそう思いますよね?」
「ジュン君は私の友達だから私の味方だよね?」
「え?まぁ、確かにオペレーターがいないのは・・・」
「ジュンさんはアキトさんと艦長の味方をするんですか?」
「え?まぁ確かに必要なデータはあるから・・・」
「ジュン君!!ジュン君は友達を裏切るの?」
「ジュンさん!!貴方はこんな艦長の味方をするんですか!!」
「まあまあ、艦長もメグちゃんも落ち着いて・・・」
「さて、急がないとナデシコが敵に見つかるからな」
「確か穴が空くんでしたよね?」
「ああ、確かこの辺だったはずなんだけど・・・
あった、ここだ!ルリちゃん!!」
俺はルリちゃんを呼んで抱きかかえると飛び跳ねた。
ボコッ!!
足元の地面が崩れるが、今回は完璧に準備が整ってるので、
さして問題ない。
スタッ!!
見事に着地!!
・・・って・・・女の子抱えて穴に落ちるのがうまい俺って、一体・・・
ま、まぁ気を取り直して、周りを見回す。
・・・誰もいない。
一回目はイネスさんが、二回目は男たちがいたんだが・・・
「誰もいないな・・・」
「そうですね」
「仕方ない、こっちから探すか」
「はい」
「・・・ルリちゃんいいかげん降りてくれないかな?」
「え?あ、は、はい」
と、ルリちゃんを下ろそうとした瞬間
「誰だ!!お前たちは!!」
「ああ、俺た・・・」
「きっと木星の奴等に違いない!!」
「い、いえ違・・・」
「何!!ここまで見つけたのか!!」
「「ちょっ・・・」」
「畜生!!仕方が無い、仲間を呼ばれる前に殺っちまえ!!」
勝手に話を進めて、勝手に俺たちを敵と勘違いして襲い掛かってくる。
そのタイミングと余りの傍若無人さに俺は思わず固まってしまった。
なんか・・・ここって・・・来るたびに状況が悪くなるような・・・
って、そんなことを考えてる暇は無いな。
量はともかく質は最低・・・普通ならこれが十倍いても片手で倒せるのだが・・・
今発見したが、俗に言うお姫様抱っこと言う奴は、じつに戦闘向きではない。
ドラマなんかだと、この状態のままかっこよく敵を倒すのだが、
この状態だと、手が使えず、体を傾けるのも難しいので、非常にバランスがとりにくい。
さらに余り激しく動くわけにも行かず、足も高く上げられない。
必然的に攻撃は余り体重の掛かってない蹴りだけになる。
これでは攻撃力は無いに等しい。
仕方が無い、ここに来た目的は喧嘩を売ることじゃなくって人の救出だからな。
「ルリちゃん、逃げるぞ」
「はい」
・・・なんで嬉しそうなんだ?こっちは結構大変なんだぞ。
20秒ほど逃げ回り・・・
「確かこの辺に・・・居た」
物陰にイネスさんを発見した。
「あら、お姫様を抱えて逃亡かしら?」
「別に逃げたくて逃げてるわけじゃない、
この子を預かってくれるんなら30秒で全滅させてやるがどうだ?」
「私は結構よ。女の子とはいえ、人一人抱えてあの動き、本当に30秒で全滅させられるわね」
「解ってくれたことに感謝する。ついでと言ってはなんだが、あいつらの説得も頼めるか?」
「解ったわ」
「それで、勇敢なナイトさんはどこから来たのかしら?」
「地球から来ました、目的は貴方方の救出です、ドクター イネス フレサンジュ」
「断るわって、私自己紹介したかしら?」
「ネルガルの戦艦、もっと言えば貴方方の設計したナデシコに乗ってきたんだ。
さっきも言ったように目的は火星の生き残り・・・はっきり言えば逃げ送れたネルガルの研究員の救出だ。
ナデシコの開発者の一人である貴方の顔を知っていても不思議じゃないだろう?」
「なるほど、それもそうね。で、貴方たちは?」
「あ、私はホシノ ルリです。」
「俺はテンカワ アキトだ」
「テンカワ、貴方もしかしてあのテンカワ夫妻の・・・」
「ええ、息子ですよ。ま、そんなことはどうでもいいでしょう?
もう一度聞きます、ナデシコには乗らないんですね?」
「ええ、はっきり言ってナデシコでは・・・」
「火星の脱出すらままならない・・・か。そうだな、俺もそう思います」
「あら、木星の先発隊を倒して英雄気取りなのかと思ったけど中々冷静じゃない」
「しかしここに居てもらうわけにはいかないんだ」
「どういうこと?火星から脱出できないって解っていながら火星に来たり、
貴方言ってることが支離滅裂よ?」
「ナデシコに乗らないのなら・・・貴様等にはここで死んで貰う」
俺は銃を取り出してイネスさんに向け、殺気をぶつける。
「ちょっ、アキトさん」
「ここで貴様等を生かしておくと、
貴様等を捕虜にして木星蜥蜴が新兵器を開発させる恐れがあるんでな。
ああ、これはネルガルの意見じゃない、俺個人の意見だ。
別に断っても良いぞ?
俺はここには生き残りはいなかったと報告するだけだ」
「きょ、脅迫・・・よ、それは。ここで死ぬか、ナデシコで死ぬか・・・
別に木星蜥蜴が私たちを捕虜にするとは限らないじゃない」
「あれだけの無人兵器を作る技術があるんだ、
技術者を無意味に殺すとは思えん。
なるべく不確定要素は減らしたい・・・貴様も科学者ならわかるな」
「で、でも皆の意見も・・・」
「なら以下の三名だけでいい。
まず、イネス フレサンジュ、貴様だ。
次に、イリス フレサンジュ、貴様の養母だ。
最後が、フィリス クロフォード、この三名だ。
この三名が来るのなら残りはどうでもいい、
ここで木星蜥蜴に殺されるなり、
戦争終了時までおびえて暮らすなり好きにしろ」
「か、義母さんは良いとして、フィリスは・・・」
「ああ、その点なら問題ない。
ルリちゃんも彼女と同じ体質だ。
ナデシコにはそんな事気にする奴はいない」
「わ、解ったわ、そう伝えてくる」
そのまま走っていくイネスさんを見送る。ふう、これで一応何とかなるな。
「アキトさん!!」
「ああ、解ってる、誉められたやり方じゃないってな。
でも、これ以外に方法が思いつかなかった」
「そんなことじゃありません!!」
・・・何が言いたいんだ?
「で、どうだった?」
「一応連れて来たけど・・・」
「安心しろ。別に俺も死ぬつもりは無い、一応切り札もある。
フィールドランサーといってな、ディストーション・フィールドを一時的に消去する武器だ。
それに、いざとなったらチューリップに入ってみるのもいい。
お前等なら気づいてるだろ?あれがワープゲートの一種だと」
「え、ええ」
「この子本当にIFS強化体質ですね。
私は行きます、この子がこんなに生き生きと過ごしているナデシコを見てみたいですから」
期待通りの結果だな、さて次は・・・
「ふむ。一人は決定か、ではお前等は?」
「・・・一応考えてはいるみたいね?
仕方ないわね、私たちも行くわ。行かなきゃ殺されるんだもの」
どうやら三人とも乗ってくれるみたいだな。
俺は銃をしまうと、殺気を撒き散らすのをやめ、笑いかけた。
「ありがとうございます。機動戦艦ナデシコはあなた方を歓迎しますよ」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
何だこの「間」は?
とにかく俺はナデシコに向かうことにした。
もし資材があったら回収する、
と言う名目で対ショックアブソーバー付きコンテナを持って来てよかった。
コックピットに5人は絶対に無理だ。
でも、ルリちゃんはいつの間にかコックピットに潜り込んでいた。
女の子って皆ジャンプができるんじゃなかろうな?
「アキトさん、会わせたい人って、フィリスさんですか?」
「ああ、俺もそんなに話したこともないから、どんな人かはよく知らないんだが・・・
彼女もIFS強化体質だから、ルリちゃんの姉みたいな存在かな?
できれば皆助けたかったんだが・・・」
「本当にあそこの人たちは木連の捕虜になるんですか?」
「ああ、少なくともイリスさんとフィリスさんは捕虜になっていた。
他の人については・・・・解らない・・・
もしかしたら殺されたのかもしれない。
あるいは俺みたいに山崎に改造された恐れもあるな」
「そんな・・・」
「だから急いでるんだ、イネスさん達にナデシコに乗れば助かるかもって思わせて、
あの人たちを説得してもらわないと・・・」
「・・・私たちって自分勝手ですね?私たちの仲間、私たちの仲間の関係者、
その人たちを優先的に助けて、他の人は見殺しにしてるんですから・・・」
「そんな事はない、俺たちは皆助けようとしたじゃないか。
大体このコンテナじゃ機材をつんだら3人が精一杯だ。
急いで帰って、ナデシコを無傷で勝たせられればあの人たちも助けられる。
それに・・・自分の仲間、仲間の関係者を優先的に助けることがそんなに悪いことなのか?
俺は・・・ルリちゃんと見知らぬ人、どっちかを助けろって言われたら、ルリちゃんを助ける。
あのときの俺のようにな。
俺はあの時の事を・・・俺の罪を忘れたことは無いし忘れるつもりも無い。それは・・・人として当然だ。
だが、俺はあの時の事を後悔はしていない。
それは、あの行動を正当化するつもりは無いが・・・
俺は・・・あの時点では、あれが俺にできた最良の行動だと思ってる。
それに・・・助けるなと言われたんだ。俺たちの責任じゃない、あの人たちの責任だ。
あの人たちに俺たちに助けられる義務は無い。俺たちにあの人たちを無理やり連れてくる権利もないんだ。」
「解っています、あの人たちの意見は正しいです、アキトさんの意見も解ります。
私たちがこんなことを言えるのは、未来を知っているからです。
私もあの人たちの立場なら、一つの可能性だけ強調されても納得できません。
でも・・・悔しいんです。危険だと知っていて、それでもそこから逃がしてあげることができない・・・
何のために・・・私はここにいるんですか?何のために・・・私たちは今を生きてるんですか?」
「・・・・・・・・・・・・
・・・俺は、俺のため、ルリちゃんのため、ナデシコのクルーのために生きている。
それは、そのために他はどうなってもいいとは言わんが・・・
倉廩実ちて即ち礼節を知る。
自分たちが幸せにならないと、他人の幸せを考える余裕なんかできるわけ無い、
そんな人が他人を幸せにできるわけ無いじゃないか。
冷たいとは思うが、皆を幸せにすることはできない。
例えば草壁の幸せは木連による地球圏と、ボソンジャンプの完全支配だ。
だが、これは俺たちの不幸につながる・・・
俺たちは神じゃない、皆を幸せにできるのは神だけだ」
「ねえ、ミナトさ〜ん、お願い!!」
「お願いされても居場所すら解らないのに、行き様が無いじゃない」
「ユリカ、いいかげんあきらめてテンカワたちが帰ってくるのを待ってようよ」
「ぶ〜〜〜、だってアキトとルリちゃんが一緒なんだよ!!」
「艦長、ルリちゃんに本気で嫉妬・・・テンカワ機より通信が入ります」
「え!!本当メグちゃん!!」
「はい、通信出します」
ピッ!
「ユリカ、3時の方向にチューリップを発見した。急いで合流する」
「アキト・・・」
「聞いてるのか。ユートピア・コロニー後で、生き残りの人たちを発見。
代表者三名と共に合流する」
「なんでルリちゃんを抱っこしてるの〜」
だからルリちゃんにはコンテナに入っていてほしかったんだよ。
良いけどさ、もう。
「コンテナには現在三名の代表者と、各種機材が入っていて狭いからです。
ここが一番広いし、他の代表者の方は皆さん大人なので万一戦闘になった場合邪魔です。
必然的に私はここ以外居場所が無いんです」
ルリちゃんナイス。
「まあまあ、艦長も落ち着きなさいよ」
ほう、前回はミナトさんも怒ってるようだったが、今回は違うか。
・・・なんでだ?
「とにかくユリカ、チューリップがいるんなら急いでテンカワたちと合流しないと」
「ルリルリがいないとナデシコってうまく動かないものね」
「そうね、急いで合流すべきね。
ミナトさん、アキトたちのところに向かってください」
「はいはい」
第十二話に続く
あとがき
と言うわけで「育て方」の第十一話です。
自らの幸せと、自分の知人の幸せと、見知らぬ人の幸せと、自分の敵の幸せ・・・
等価値であるはずはありませんが、難しい問題です。
誰だって自分の恋人と、赤の他人、どちらかしか助けられないのなら、
恋人を選ぶと思います。
これは人間として当然です、逆をする人がいたら、ちょっとおかしいでしょう。
まぁ、恋人と、赤の他人数万人だったら意見が分かれるでしょうが・・・
しかしこの場合、何とか三人は助けられた・・・
三人助けるのもやや無理をした結果なのですから、そう落ち込むことは無いのかもしれません。
ですが、自分の無力さを呪うのも人として当然です。
自分が幸せになるために、どの程度まで人を不幸にしていいのか?
所詮人は生きている以上誰かしらに迷惑をかけ、不幸にしているのです。
ルリ君は解っていないようですが、アキト君は解っています。
アキト君はそれを自覚しつつ、自分の幸せを追い求めています。
自分が幸せにならないと、人を導き幸せにすることはできない。
自分が幸せになると、その分誰かが不幸になる。
どちらにしろ不幸になる人がいるのでしたら、
どうせでしたら、自分の知らない人に不幸になる役を引き受けてもらいたい。
傲慢ですが、そう割り切らないと生きていけない・・・
と言うより、そう割り切れることが、生きる為の「資格」なのではないでしょうか?
全く持って「俺たちは神じゃない、皆を幸せにできるのは神だけだ」なのです。
でも人間である以上何とかしたくなるのも当然ですが・・・
代理人の感想
おいおいおい(汗)。
いくらなんでもルリ連れて行きますか!?
ルリの留守中に無人兵器に襲われて、身動きの取れないナデシコは
アキト達が帰って来る頃にはスクラップの山、って事だって十分有り得たでしょうに・・・・・。