「さて、取り敢えず・・・ムネタケと話をつけるか」

後の用事は別に今すぐでなくてもいいけど、

この人にはなるべく早めに手を打たないといけないしな。





ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
 第十七話 対話





「提督、お話があります、入っても宜しいでしょうか?」

ナデシコにいると忘れそうになるが、普通部屋に入るときは許可をもらうものだよな。

・・・ま、ナデシコだからな。

「なに、アタシに陶酔して弟子にでもなりたいの?ま、いいわ、入りなさい」

・・・疲れると思うんだけどな、そういう人を見下した態度って。

「失礼します」

「で、何?」

「いえ、ただ単に、同類を哀れみに来ただけですよ」

同類・・・か、これで視野が広がってくれればいいけど・・・そんな簡単に行く訳ないか。

「あんた何言ってんの?」

「あなたと俺は同じタイプの人間ですよ、

 自分のやっていることの意味を見出せず苦しんでる所なんか特にね」

「あら、だったらあんたの思い違いね、アタシはアタシのやっていることの意味を知ってるわよ」

自分のやっていることを知っている・・・か、それが解ってるんだから、無能じゃないんだよな。

「意味を知っている、ではなく、意味を見出している・・・ですよ、提督」

「なんか違いでもあんの?」

「親の評判を落とさないため・・・自分のためではありません。

 自分が、自分のためにできることを見つけられず、人のために生きて自分をごまかす・・・

 ちょっと前の俺も同じでした」

俺はまだラピスがいた、ユリカを救い出せたという成果があった。

何もない人生・・・空っぽの人生・・・

でも、人生を充実させるのは、自分自身なんだよ。

「ふん、そうね。

 そうよ、どうせ皆アタシをアタシとして見てなんかくんないわ、

 どこまで行ってもアタシはムネタケ ヨシサダの息子、

 ムネタケ サダアキを見てくれる人なんていないわよ。

 あんたも同じ?謙遜も過ぎるといやみなだけよ。

 あんたみたいな化け物をほっとく人なんかいるわけないでしょ?

 自分を自分として見てくんない事がどんなにつらいか、あんたなんかに解る訳ないでしょ!!」

「・・・俺を俺として見てくれない人なんていない?

 それは違うな、皆俺の虚像を見ていて俺自身を見てなんかいない」

「自分の虚像でも自分を見てくれてるんじゃない」

ムネタケ ヨシサダの息子というのも立派な虚像ですよ。

「例えば・・・ユリカが地球圏脱出時に言った台詞ですが・・・

 あいつがミスマル家の長女でも、ミスマル提督の娘でもなく、

 あいつ自身でいられる場所はここだけなんだそうです」

「ふん、あんな能天気娘に何が解んのよ。

 士官学校主席?戦闘シミュレーションで無敗?そんな小娘に何が解るってのよ」

・・・ユリカはそれと戦っているんですよ、あなたと違って。

「ジュンは自分ができること、自分にしかできない事、

 ユリカの影・・・人を犠牲にしなければならない命令などをすることをここで見つけました」

「あらそう。で、何?

 アタシにもあの小娘のサポートでもしろっての?

 ジョーダンじゃないわよ!!」

そういう意味じゃない、ここでならあなたも自分を見つけられるだろうって事ですよ。

「ウリバタケさんも自分の腕を買ってくれる、理解してくれる場所としてナデシコに乗ってますし、

 メグミちゃんも自分にしかできないことを探してナデシコに乗っています。

 皆自分にしかできないこと、自分を必要としてくれる場所を探してナデシコに集まってきたんです。

 あなたみたいな、自分を見失っている人がナデシコに派遣されたのも、何かの縁だと思いますけどね」

「そうね、でもあんたたちとアタシは違うわ。

 あんたも艦長も、はっきり言ってアタシなんかにはない才能があるわ。

 親の七光りだけでここまで来たアタシの気持ちが解る訳ないでしょ!!」

自分を認めてもらえず、親に押しつぶされた人間・・・

最初のときも二回目のときも、俺はこの人を理解してなかったんだな。

「そうですか、これだけは言いたくなかったんですが・・・

 昔ちょっと人体実験のモルモットになったことがありましてね。

 その経験から言わせてもらいますが・・・

 モルモットの気持ちがわかりますか?

 人間としてみてくれるだけで、十分だと思えるようになりますよ」

「そ、だから?同情でもしてもらいたいの?

 言いたい事はそれだけ?

 いやみを言いに来たんならさっさと出て行って」

・・・筋金入りで空っぽなんだな、この人は。

「いえ、本題はこれからですよ。

 あなたにその気があるのなら、

 俺は・・・ナデシコはあなたがあなたでいられる場所を提供できますよ」

「そんなことできる訳ないじゃない。

 アタシみたいなくだらない人間にはね」

「そうでしょうね。あなたが望んでくだらない人間になってるんですから」

「何よそれ」

「親の名声に押しつぶされた人間。

 親の名声を足がかりに人より少ない努力で、より高い所まで上れたはずなのに、

 それをせずに自滅していった人間・・・

 あなたが望んでそうなったんでしょう?」

ちょっときつかったかな?

でもこの人にはこれくらい言わないと・・・

「言うわね。

 で、アタシに何をしてほしいの?

 何かしてほしいことがあるから、そんな話持ってきたんでしょ?」

「別に、何もしなくてもかまいませんよ。

 何もしないなら、何もしないで、本当にただ居るだけにしてくれれば、俺は困りませんから。

 ただ一ついえることは、何もしなくては状況は悪くはなっても、良くなることはありません」

ほっとくとドンドン悪くなるんだよ、本当に・・・

「あなたが何をしたってあなたの父親は大丈夫ですよ、

 あなたが何かして、その程度のことで失脚する程度の人ならあなたがそこまでする必要はないし、

 あなたが何をしても特に問題ないのなら、あなたが遠慮する必要はありません。

 現状で、一番あなたをなめてるのはあなたの父親ですよ、多分。

 見返してやろうとは思わないんですか?」

「・・・あたしに何ができるってのよ?」

よし、かかった。

「軍とナデシコのパイプ役はあなただけじゃないですか?

 ならあなたにしかできないことは解るでしょう?」

「アタシに軍を裏切れっての?」

「別に裏切る必要はありません。

 長期的な目で、あなたが軍の、地球連合のためになると思ったことをすれば良いんです。

 報告なんてオモイカネなら自動でできるのに、

 わざわざあなたを派遣した意味はそこなんじゃないんですか?

 前線でしか見えないことを踏まえて、判断してほしい。

 報告する必要が有るか無いかを決めるのは、あなたでしょう?

 俺はそう思いますけどね?」

ちょっと無理があるかな?

「・・・・・・・・・・・・」

「自分のために全てを犠牲にして良いとは言いませんけどね、

 人のために自分を全て犠牲にする必要もありませんよ。

 ただ、あなたが俺たちの敵になるんなら・・・ま、楽に殺してあげますよ」

そう、あなたは助けたい、でもそのために他のクルーを犠牲にはできない。

「・・・・・・・・・・・・」

「あなたが俺たちに協力してくれるのなら、俺はあなたに協力しますよ。

 場合によっては軍にたてついても・・・ね?」

軍属でもないし、何か逆らえない理由があるわけでもないですしね。

「・・・・・・・・・・・・」

「自分が死ぬとき、もっとも後悔せずにすむ生き方、

 それがその人にとっての正義だ。

 この世でもっとも悲惨な戦いは宗教戦争と民族戦争だ。

 互いが、自分の全てをかけて戦っているからな、妥協点などない。

 絶対的正義と絶対的正義の戦いだからな。

 結果、強い方が生き残る。正義なんてそんなものだ。

 勝てば官軍、負ければ賊軍、両方正義なんだから仕方がない」

正義・・・か。

思い出してください、あなたが信じた正義を。

「・・・・・・・・・・・・」

「だれかを追いかけていても決してその人を追い越すことはできない。

 もし超えたい人がいるのなら・・・その人以外の人を目指すか、

 その人とは違う道からその人を目指すべきだ」

「・・・・・・・・・・・・」

ま、これだけ言えば多少は変化があるに違いない。

俺も・・・少し痛いがな。





次は・・・イネスさんだな。

色々と話したいことも有るし、やってもらいこともあるからな。





「あら、どうしたのアキト君、こんなところに来て」

「ちょっと話があって」

「そう、別にいいけど。

 ねぇ、あれからいろいろ考えたんだけど、

 やっぱり"あの約束"って何のことか解んないんだけど?」

・・・そういえばそんな話もあったな。

「たいしたことじゃ有りませんよ。

 それより、あの時はすいませんでした」

「そうね、謝ってもらうぐらいのことはされたかもね。

 別に良いわ、あなたにも色々と都合があるみたいだから。

 ただ・・・あなたの目的って何?」

「・・・俺と俺の仲間を幸せに・・・かな?」

「あなた、私に言ったわよね?

 あなたの害になることじゃないって。

 それは、私はあなたの仲間って事よね。

 ならなんであの状況で私をナデシコに連れて来たの?

 それは今こうして生きて、地球に来てるけど・・・

 あの状況じゃ火星で死んでた確率の方が高いわ」

・・・流石に頭がいいな、イネスさんは。

「・・・仲間ですよ、イネスさんは。

 ナデシコに乗っている以上はね。

 それに・・・助けましたよ、何が何でも。

 助けられるって確信してましたから」

「・・・アキト君、あなた何者なの?

 あなたは私を知っているみたいだった。

 それは良いわ、私も別に知る人ぞ知るって訳じゃないからね。

 でも、あなたは私に会ったことがあるみたいだった。

 それにあのランサー、聞けばあなたの発案、しかも設計までしたそうじゃない。

 あんなものを設計できる人を私が知らなかったって言うのは、ちょっと納得がいかないわ。

 たとえそれがあのテンカワ夫妻の息子でも・・・ね?

 話してくれない?」

・・・まだです、まだ話せません。

「・・・そのときになれば、話しますよ。

 それより協力してくれませんか?」

「・・・嫌よ。話してくれるのなら別だけど」

〔・・・どうしようか?〕

『仕方ないね、会った事は有るし、ランサーはアキト兄の発案じゃないし・・・』

『なかなか鋭いことを言ってるからね』

『仕方ないよ、会った事はあるって言うしかないんじゃない?』

〔・・・そうか仕方ないな〕

「わかりました。

 あなたとは会ったことはありますよ、

 覚えてないでしょうけど。」

「いつ?どこであったって言うの?」

『アキト兄、アキト兄にとっての時間の感覚で言えば良いよ』

『そうだね、六年ぐらい前なら覚えてなくても変じゃないからね』

〔あ、ああ、そうだな〕

「そうですね、あれは・・・六年程前ですか?

 あ、八ヶ月を入れてないから・・・

 とにかくそれくらい前にユートピアコロニーでですよ」

「・・・覚えてないわね。

 でもあなた確か私と会うのは初めてって事になるって言ってなかった?」

〔・・・どうする?〕

『そ、そういえば・・・』

『ど、どうするって言われても・・・』

『で、でもこのイネスさんと会った訳じゃないし』

『そうそう、このイネスさんと会った訳じゃない、うんそうだ』

〔おい、無理がないか?それ〕

『・・・そうだ、"アキト兄が""イネスさんと"会ったのは初めてってことにしよう』

『なるほど、それは良いかもね?』

〔大丈夫か?それで〕

『何とかなるって』

『そうそう』

「"俺が""イネスさんと"会うのは初めてってことになる・・・そういうことですよ」

「・・・アキト君?何を隠してるの?」

『仕方ない。アキト兄、暗い過去攻撃だ』

・・・やっぱりディアを作ったのはラピスだよな。

「・・・聞かないで下さい」

「・・・そ、まぁ良いわ。

 で、頼みごとって何?」

「聞いてくれるんですか?」

「少し教えてくれたからね、

 聞くだけは聞いてあげるわ」

「そうですか、実はですね・・・」

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「と言うアイデアが有るんですけど・・・」

「このアイデアを本当にあなたが考えたの?

 技術的うんぬんの以前の問題として発想が突飛過ぎる・・・

 普通に技術を進めていったら、遥かに遠回りしてたどり着くようなアイデアよ、これは」

「手伝ってくれますか?」

「・・・これだけ面白いアイデアを見せられたのよ。

 今更手を出すなって言ったって、手伝わせてもらうわ。

 でもこのアイデア・・・はっきり言って天才よ」

「取り敢えず、DFSとエステの改造をお願いしたいんですけど・・・」

「良いわ、そのアイデアをベースに設計をしてみるわ。

 DFSはある程度できてるって言ってたわね。

 なるほど、これがあれば戦艦相手にでも十二分に戦えるかもしれないわね」

かもじゃなくて戦えるんですよ。

「あ、後イリスさんとフィリスさんにも話しといて下さい」

「ええ、解ったわ」

「じゃあ取り敢えず格納庫へ・・・」

ふう、取り敢えずイネスさんの説得終わり、っと。





さて次はウリバタケさんだな。

ジュン用のエステの改造は時間がかかるだろうし・・・

・・・ルリちゃんも連れてくか。

この時間なら・・・オペレータはフィリスさんの筈だしな。

「あ、ちょっと用事があるんで、先に格納庫に行っといて下さい」

「ええ、解ったわ」

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

行ったな。

ピッ!

「なんですか、アキトさん?」

「ああ、今から格納庫に来れない?

 ジュン用のエステについてウリバタケさんに話があるんだけど・・・」

「解りました、今行きます」

「ごめんね、忙しいところを」

「そうですね、そういうことは、あらかじめ教えといてほしかったです」

「ごめん、今度からそうするからさ」

「そうしてください、じゃあ、後で」

ピッ!

ふう、本気で怒ってはいなかったようだったから良かったけど・・・

ルリちゃんを怒らせると怖いからな・・・





「ウリバタケさん」

「おおテンカワ、イネスさんから話は聞いたぞ・・・ってルリルリも一緒か

 まずかったか?」

「いや、ルリちゃんも知ってますから」

「そうか、こういうものは

 "こんなこともあろうかと"って言って出さないといけないからな。

 知ってる人は最小限にとどめないとな」

・・・そうなのか?

いまいち解らん。

「でもよ、エステの改造計画・・・あの指揮官用の方だが・・・

 あれはどう考えたって無理だぞ?

 俺も同じようなことを考えてはいるがな、

 あのエネルギーを出すには出力が足りない。

 出力を上げるには大きさが足りない。

 大きくすると、機動力が足りない。

 機動力を得るにはエネルギーが・・・

 ってな具合でいたちごっこが始まっちまうし、

 それを無理やり何とかすると、構成素材がそのエネルギーに耐えられなくなっちまう」

・・・この頃からあのXエステバリスの構想はあったのか。

「ですから、思い切って機動性は無視して、移動砲台兼司令塔みたいなものを・・・

 回避力が落ちた分は強力なディストーション・フィールドと、高出力の武器で補うという・・・

 戦術指揮にはなるべく広い視野が必要ですから機動戦をしながらってのは難しいですし・・・」

「なるほど、それなら可能かもしれねーな。

 しかしこのアイデア、何で黙ってたんだこのヤロー」

「そ、それよりDFSと、バーストモードの方は・・・」

目が怖いですよ、ウリバタケさん。

「ん?ああ、DFSの方は大体形になった、お前が言ったみたいな高出力にはまだ耐えられんが・・・

 何、今日明日中には何とかなる。

 それとバーストモードの方は簡単な改造で済む。

 むしろプログラミングの方に時間がかかると思ってたんだが、ルリルリがいれば何とでもなるぜ」

そうか、ならこれでここは大丈夫だろ。

後はナナフシ戦までに・・・テニシアン島での戦いは使うのは難しいし、

バーストモードの実験もしたいから・・・

北極海か?

「ところで・・・なんでこんな高出力が必要なの?」

「それは今度の戦いで教えますよ」

「そうだぞ、必殺技や新兵器の正体は人には秘密にしておいて、

 みんなを驚かせる、これぞ漢のロマン!!」

な、何がそこまでウリバタケさんを駆り立てるんだ?

「え、ええ。そうね、私が悪かったわ、アキト君」

「い、いえ、良いですよ」

ま、一応ごまかせたから良かったですけど・・・





ふう、次は・・・ってもうこんな時間か、

早い所厨房に行かないとな。

残りは・・・明日でいいか。





第十八話に続く





あとがき

と、言うわけで「育て方」の第十七話です。

見ての通りアキト君とムネタケさん、イネスさんとの会談です。

ウリバタケさんに色々と頼んでもいますが・・・

それだけです、他に言うことはありません。



追記

今の「ジュン君」には、チハヤさんに対して思い入れはないでしょうが、

「見知らぬ女」だからといって、

助けられる人を見捨てられるような人ではないと思いますよ、ジュン君は。

それにジュン君は、「自分の力不足で死んでしまった人がいる」ぐらいの事しか知りません。

それにナデシコに乗っているより、エステバリスに乗って、指示を出しつつ戦う人のほうが、

必要とされている事も解っているでしょうし・・・