「アーキートー!!何してるの・・・ぽんぽん痛いの?」

また、この夢か・・・

俺とユリカの大切な思い出だ。

ユリカは忘れてたみたいだがな・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・やっぱり、俺はユリカを求めてるのか?



ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
 第十八話 恐怖





「ねえ、アキト!!

 ねえってば!!どうしたの?」

「・・・あっちにいっててよ、ユリカ」

忙しい親のせいで一人だった子供・・・か。

ユリカやおじさんに甘えればよかったのに・・・

変なところで頑固な、かわいくない子供だったんだがな、俺は。

ユリカはこいつのどこにほれたんだ?

「それじゃアキト!!

 元気の出る、おまじないしてあげようか?」

「元気の出るおまじない?」

・・・かわいそうだと思ったのか?

なら王子様になるわけないしな・・・

「うん!!だから目を閉じて!!」

言われるままに目を閉じる俺・・・

こういうところは素直だな。

そして、ユリカの姿が徐々に大きくなり・・・

ユリカの姿は純白のウエディングドレスを着た姿になり、

いつの間にか鳥瞰視点で見ていた俺の視点が、夢の中の俺と同じになっている。

やっぱり、俺はまだユリカのことを求めてるのか?

なら・・・夢の中でぐらい・・・

「アキト・・・これからはずっと一緒だよね。

 ルリちゃんと三人で、ずっと・・・」

「!!!」

な、何だ今の感じは・・・

「や、止めろ!!

 俺にこんなものを見せるな!!

 お前は死んだんだ!!

 亡霊は、幽霊は、過去の呪縛は・・・され!!」

怖い、どうしようもなく、ユリカが・・・怖い。

俺はただひたすら・・・逃げた。

怖い、ユリカが・・・全てが・・・怖い。

「わぁぁぁぁぁ!!」

は、はぁはぁ・・・

目が覚めたらしいな・・・

それにしても・・・俺は、どうしたらいいんだ?

「ふっ、二回目の俺は、

 この時点では既に決心がついてたのにな・・・」



「どうしたんですか、アキトさん?」

「いや、ただなんとなくね」

「そうですか?」

納得いかない様子のルリちゃん。

それはそうだろう、俺もなんだそれは、と思ってるんだから。

でも、俺にも解らない、ただ・・・自然と足がここに向かったんだ。

「大丈夫ですか?

 顔色が悪いですよ?

 医務室にいった方が・・・」

「いや、大丈夫だよ、なんでもない」

「そうですか?私にできることがあったら言って下さい」

「ありがとう、ルリちゃん」

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

三十分ほど経っただろうか?

俺とルリちゃんはただ並んで座っていた。

「・・・夢を見たんだ・・・」

「え?」

「今日、夢を見た。

 最初のときの・・・俺とユリカの結婚式の夢だ」

「そうですか。

 それで、どうなったんですか?」

「やっぱり・・・俺にはあの時のユリカを忘れる事はできない・・・

 でも・・・いざというとき・・・」

再びあの恐怖がこみ上げてくる。

何とも言えない恐怖・・・俺の周りのすべてが・・・怖い。

「だ、大丈夫ですか、アキトさん?」

「あ、ああ、大丈夫。

 怖かった、ユリカが、俺たちを祝福してくれてた皆が・・・どうしようもなく」

ガバッ!

突然ルリちゃんが俺を抱きしめてきた。

「ル、ルリちゃん?」

「大丈夫です、私がついていますから・・・

 ナデシコが出る前言ったじゃないですか。

 苦しかったら、泣いてもいいって。

 私には解りますから、私に甘えてくださいって」

「そうだったね、ごめん。

 割り切ったはずなのにな、

 ここのユリカはあのユリカとは違う、

 俺が頑張れば・・・全然違うようになる、もっと良くなる。

 そうしたら・・・重ねて見なくても済むようになるかもしれないって。

 ・・・なのに、駄目だな、俺は」

「そんなことありません、アキトさんは頑張ってます。

 だから・・・今回みたいな事なる前に・・・

 疲れて夢に見たりする前に・・・

 今みたいに甘えにきてください。

 私にはそれが嬉しいんですから・・・」

「ごめん、ありがとう・・・」

そしてそのまま俺はエリナさんにブリッジまで出頭を命じられるまで、

ルリちゃんに抱きしめられつづけた。

・・・何やってんだ、俺は。





そういえば・・・

なんでまだ正式に依頼(名目上)を受ける前にブリッジに出頭を命じられたんだ?

エリナさんはそんなにいいかげんなタイプじゃない・・・

少なくともこの時点では違ったんだけどな・・・

深く考えても仕方ないか。





ブリッジではユリカとムネタケが口喧嘩をしていた。

が、昨日の事についてムネタケなりになんか考えたのか、

前回程ではない。

「確かにネルガルは軍と共同戦線を張っていますが、

 理不尽な命令に対しては、我々には拒否権が認められている筈です」

「ええ、そうね」

「本艦クルーの総意に反する命令に対しては、このミスマル ユリカ・・・

 艦長として拒否しますのでご了承ください」

「当然ね、私も変な命令受けて死にたくは無いからね」

・・・ま、そう簡単には変われないか。

「でも、あなたたちへの命令は戦う事じゃないわ。

 敵の目をかいくぐって、救出作戦を成功させる事よ」

「救出作戦!?」

ムネタケの言葉に皆が驚く。

・・・ま、ナデシコの扱い・・・パシリって立場を考えれば、

予想できない事も無いんだけどな。

しかし・・・ナデシコのクルーほとんどの人が、

軍にいい感情を持ってないんだから、あえてその感情を逆なでする事も無いだろうに・・・

「木星蜥蜴の攻撃は無くても、

 地球の平和を守るというナデシコの目的は・・・果たさないと駄目よね〜」

いつからナデシコの目的は地球の平和を守る事になったんだ?

「で、この北極海域ウチャツラワトツクス島に取り残された、親善大使を救出するのが目的よ」

そう言って地図の一点を指差すムネタケ。

「しつも〜ん!!」

「何、艦長?」

「どうしてこんな所に、大使はとり残されたのですか?」

「大使が行きたがったからよ、

 現地はブリザードが吹き荒れる大変なところなのにね〜」

ま、熊にはあそこの方が住みやすいだろうな。

以後、ムネタケの説明が延々と続くが俺は無視した。

ん?

視線を感じて振り向くと・・・ユリカだった。

何かいいたそうだが・・・俺は夢のことを思い出して、素知らぬ振りを決め込んだ。

すまんな、今はお前と話したくない。

「オ〜オ〜、なんだかアキト君と艦長の間がギクシャクしてる〜」

「幼馴染の仲もこれまで、かな?」

・・・楽しそうだな、ヒカルちゃん、イズミさん。

「ほらほらリョーコ、チャンスチャンス!!」

「な、何を言ってるんだよ!!お前等!!」

やっぱりリョーコちゃんもか。

今回はディアたちに言われて気をつけたつもりなんだけどな。

「でも艦長と・・・って言うより皆とって感じよね〜」

・・・鋭いですね、ミナトさん。

「雑談はもういいわね!!」

ムネタケの一喝によりその話は途絶えた。

「いい事!!絶対この作戦は成功させるのよ!!

 解ったわね艦長!!」

「は、はい!!絶対成功させましょう!!」

ふう、一応ムネタケも考えてはいるみたいだな。



「ふう〜、移動中は私たちパイロットって暇よね〜」

「ま、現場につかないと俺たちに仕事は無いよな」

食堂では、例によって三人娘が駄弁っている。

その横で俺は今朝の事について考えていた。

俺は・・・どうすれば良い?

俺は・・・まだユリカを求めているのか?

・・・あの時のユリカを忘れられない、

これは確かだろう。

でも、あのときのユリカはもう死んだ、二度とあの時には戻れない。

今の・・・ここのユリカを、俺は求めてるのか?

・・・違う!!

俺に、ここのユリカを愛する事はできない。

できない・・・はずだ。

それに・・・怖い。

どうしようもなく・・・怖い。

・・・・・・・・・・・・

でも、俺にはユリカを忘れる事はできない・・・

・・・・・・・・・・・・

俺は・・・どうすれば良い?



「やあ、テンカワ君。

 今暇ならちょっと付き合って欲しいんだ、け、ど・・・そんな意味じゃないよ君たち」

・・・タイミングよく距離を取るべきだったかな?これは。

「ちょっとトレーニングルームまで来てもらおうかな」

最初のときはユリカのことを、二回目は皆の事を聞かれたが・・・

今の俺には答えられない・・・

俺は・・・どうしたら良いんだ?

「お、そういえば良い機会だな。

 俺もテンカワとは模擬戦をやってみたかったんだ」

「あ〜、私もアキト君と模擬戦してみた〜い!!」

「・・・私も興味があるわ」

「お、男同士の話がしたかったんだけどね・・・」

なら、暇そうにしてる人の前で面白そうな話を持ち出すなよ。



「もらったぜテンカワ!!」

「甘いね」

物陰からヒカルちゃんが狙ってる事には解ってるけど・・・

ここは一つ誘いに乗ってみるのも手か。

「やった〜、も〜らいっと!」

「まだまだ」

ヒカルちゃんの狙撃を紙一重で避けた俺は、

ヒカルちゃんの攻撃の巻き添えを食わないように一瞬注意がそれたリョーコちゃんに対して、

一気に間合いを詰める。

「うっそ〜、あれを避けたの〜」

「馬鹿、ヒカル、何やってんだ」

「え〜、ちゃんとやったよ〜」

そのまま一気にコックピットを破壊する。

さて、残りは二人。

「あ〜、リョーコちゃんがやられちゃった〜」

「なかなかやるわね。でも、これならどう?」

二点からの同時攻撃・・・か。

「さあ?・・・こんな手も、アリなんじゃないんですか?」

俺はその場にあったリョーコちゃんのエステの残骸を盾にして攻撃をしのぎ、

リョーコちゃんのライフルをヒカルちゃんに向かって投げつけ空中で狙撃する。

ボガン!!

目の前で爆発したライフルに一瞬ヒカルちゃんの動きが止まる。

その隙を逃さず・・・

ドドドン!!

全弾命中。

「そんな〜」

さて、後一機。

「なるほどね、そういう手もあるって訳ね・・・」

近付いたら不利と判断したのか、間合いの外ぎりぎりの位置まで下がるイズミさん。

なるほど、これなら下手の動いた方の負けになる。

「ふふふふふふふふ・・・」

やめましょうよ、その笑い・・・

こういう持久戦には有効でしょうけど・・・

さて、いつまでもこんなことしてる暇は無いからな・・・

「判断は悪くないけどね・・・もうちょっと周りを見るべきだったな」

俺はライフルでリョーコちゃんのエステのエンジンを打ち抜く・・・

ゴォォォォンンン!!!

その爆風を利用して一気に加速して斜め上に飛ぶ。

これでイズミさんの攻撃はあたらないけど、俺の攻撃は当たるはずだ。

ドドドドドンドドドドドン!!

有効射程ぎりぎりでもこれだけ当たれば・・・

ドゴォォォォォンン!!

全機撃破。

『Winner テンカワ アキト!!』

ウインドウに俺の勝利を知らせる文字が大写しになり・・・

俺対パイロット三人娘の戦いは終わった。



プシュー!!

「負けた負けた!!テンカワ、オメーすげーよ!!」

「むう・・・悔しいけど完敗ね」

「・・・しかも、まだまだ余裕があるみたいだし」

「誉めても何もでませんよ」

俺は必要だから、力を得たまでだ。

皆を俺を守り、幸せにするにはこの力が必要だったんだ。

その力のせいで災いを呼び寄せてるとは皮肉だけどね。

「さて、それじゃあ僕とも一応模擬戦をしてもらおうかな」

「・・・止めた方がいいんじゃないの、アカツキ君。

 手も足も出せずに終わると惨めだよ〜」

「ま、男の意地だとでも思ってくれたまえ」

「へえへえ、勝手にしな・・・俺たちはどうするイズミ?」

「結果は解ってるけど・・・」

「私はアキト君がどんな戦法使うか見てみたい〜」

「そうだな、テンカワの戦法は気になるな」

「い、いや、いてもらうと困るんだけど・・・」

うろたえるアカツキ。

・・・調子に乗りすぎたか?

「そうか?ま、自分が負けるところは見せたくないってか。

 わかったよ、武士の情けだ、俺たちは食堂にでも行こうぜ」

「そうだね、アキト君後でどうやって倒したか教えてね〜」

そして三人は食堂に帰っていった。

「僕が負ける事は既に決まってるのかい?

 まあ、ギャラリーが居なくなってくれたのはいいんだけどね。

 じゃあ、早速やろうかテンカワ君」

「ええ、いいですよ」

こうして、俺対アカツキの戦いが始まった。



ドンドンドン!!

アカツキの先制攻撃を軽くかわす俺。

「くっ!!流石に普通に撃っても当たってくれないね!!」

すぐに移動するかと思いきやこちらを伺うアカツキ。

・・・なるほど、こっちを見失うよりはましだと思ったのか。

なら、こっちから逃げさせてもらおう。

慌てて追いかけて来るアカツキだが・・・

「・・・くっ、見失ったか。

 もっとも、君からは僕が丸見えなんだろうね」

もちろんだ。

「いくつか質問していいかな?」

さて、何を聞くつもりだ・・・心当たりがありすぎて解んないな。

「沈黙は了承と考えるよ・・・

 まず一つ目の質問・・・君はどこまで知ってるんだい?」

「・・・仇の片割れに自分のカードを見せると思うんですか?」

俺は不規則に高速移動しながら答える。

これで通信方向からの割り出しは困難になるはずだ。

「・・・なるほどね。

 じゃあ、次の質問・・・君の目的はなんだい?」

「少なくとも、ネルガルへの復讐じゃありませんよ。

 ネルガルの出方によってはネルガルに協力してやっても良いですし」

「そうか、それはどうも・・・ってそこか」

なかなかの腕だなアカツキ、あの状態で方向を割り出したか。

「次の質問だ。

 君はどこでこれほどの腕を身につけたんだい?

 うちのSSに調べさせたが、君がそういった組織に所属していた記録はおろか、

 接触した可能性すら見つけられなかった。

 これほどの腕を持ちながらだ」

「別にどこでもいいでしょう?」

「なっ!!

 後ろだと!!」

遅い。

俺はアカツキの機体を後ろに引き倒しつつ、手に持つ銃を蹴り飛ばす。

そして一応自爆装置を打ち抜くと、コックピットにポイントし・・・

「次の質問は何ですか?」

「何故これだけの腕を持ちながら軍に入んなかった?」

「軍にいたら俺の目的が果たせないからですよ」

「・・・なるほどね」

「質問はそれだけですか?」

「最後に一つ・・・君は彼女たちのだれが一番好きなんだい?」

「・・・その質問には答えられない。

 俺自身が分裂してるからな」

「は?」

「お前には解らないだろうな。

 俺が彼女たちと・・・ナデシコのクルーと居る時に感じる至上の幸福と底抜けの恐怖は・・・」

「何を言ってるんだい?」

「質問の答えだが・・・しいて言えばユリカかな?

 あいつには思い入れがある。

 ・・・その分近くに居て感じ折る恐怖もひとしおだけどね」

「そうかい?

 僕は君の本命はルリちゃんかと思ってたんだけどね」

「・・・そう・・・ですか?

 確かにルリちゃんにも思い入れがありますけど・・・

 好きとか言うんじゃなくて、落ち着くんですよ、ルリちゃんと居ると。

 別の意味での恐怖もありますが・・・

 他のクルーと居るときに感じる恐怖を感じずに済む存在・・・

 一緒にいて苦にならない、二人のときに自分が自分で居られる存在・・・かな?

 ま、特に思い入れがあるのはその二人です。

 ただ・・・仮に彼女たちがあなたを選んだんなら、俺はあなたたちを祝福しますよ。

 俺は彼女たちの人を見る目を信じています。

 彼女たちがその人といれば幸せになれると判断したんなら、そうなんでしょうから・・・

 質問はそれで最後ですか」

「ああ、だが最後に一つ・・・

 ルリちゃんぐらいの子に手を出すのは犯罪だよ」

「・・・うせろ」

ドゴォォォォンンン!!

ふう、何を言い出すかと思いきや。





第十九話に続く





あとがき

と、言うわけで「育て方」の第十八話です。

アキト君はユリカのことをどう思っているのでしょうか?

彼女を助けるために大量虐殺までした男ですから、

少なくとも、何とも思っていないという事は無いでしょう。

しかし、それはあの時のユリカであって、ここのユリカではありません。

その矛盾点を、アキト君は恐怖として受け取っています。

恐怖に耐えかね、ルリ君に慰められるシーン。

こういうアキト君の弱さ、脆さが今回のメインです。

アキト君のアンバランスさを読み取っていただければ幸いです。

 

 

 

代理人の感想

ロリコン(爆笑)。