「クルスク工業地帯・・・私たちが生まれる前には、陸戦兵器の生産で盛り上がっていた所よ」
ふぅ、対ナナフシ戦・・・か。
さて、どうする?
前みたいな事はできないし・・・
ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
第二十三話 徒労
「このクルスク工業地帯を、木星蜥蜴の奴等が占拠したの。
その上奴等ときたら、今迄見た事の無い新兵器を配置したわ・・・」
まずナデシコでの遠距離狙撃・・・これは無理だ、
どう考えてもナナフシの方が射程は上だからな・・・
「その新兵器の破壊が、今回の任務という訳ですね提督」
「・・・そうよ、司令部ではナナフシと呼んでいるわ。
今迄も軍の特殊部隊が破壊に向かったわ・・・三回とも全滅」
ま、あの兵器相手では、よほど特殊な兵器を持っていない限り勝つのは難しいからな。
「なんと不経済な・・・」
といって計算を始めるプロスさん。
「プロスさんは何の計算をしているんですかね、アキトさん?」
「う〜ん・・・
一 軍の推定被害総額。
二 破壊された分の兵器の発注でネルガルに入るであろう受注と、その分の材料確保など。
三 この任務の達成によって、軍から入るであろう追加報酬の予想。
四 その被害と、それによって得た情報の情報費の差・・・」
またルリちゃんにジト目で睨まれてしまった・・・
「ハイ、すいません」
この内どれかだとは思うんだけどな・・・
「そこでナデシコの登場!!
グラビティ・ブラストで決まり!!」
う〜む・・・
ここは意見をいったほうが良いかな・・・
「そうか、遠距離射撃か」
「その通り!!」
「安全策かな?」
「経済的側面からも賛同しますよ」
さて、どうするかな・・・
二回目は落ちたところを戦車に囲まれて、とんでもない事になった。
一応話をしといたほうが良いかな?
「基本的には賛成だが・・・」
皆の視線が俺に集中する。
「相手の戦力が解らない以上迂闊に責めるのは危険じゃないのか?」
「どういうこと?」
ユリカが聞き返してくる。
「つまり、相手が"見たことも無い新兵器"である以上、
どんな攻撃をしてくるか解らない、
ここは情報収集を・・・」
「駄目!!」
ユリカが怒鳴ってきた。
な、何か俺が気に障ることを言ったか?
「そんなこと言って、アキト「俺が先行偵察に行く」とか言って、
一人で敵をやっつけに行くつもりでしょう。
同じよく解らない敵なら、ナデシコで行ったほうが安全だもん。
この前も、その前も、アキトが全部一人でやっつけたんだから、
今回はアキトは休んでなさい。
これは艦長命令です!!」
「いや、俺は・・・」
「作戦はもう決まりました。
ナデシコで接近、有効射程まで近づいたら、グラビティ・ブラストで攻撃。
これは決定事項です。これ以上は反逆罪で、重営倉入りです」
・・・はぁ、仕方ない。
「解ったよ」
「しかし艦長、ナナフシのデータからこんなのが出てきましたけど・・・」
ルリちゃん、ナイス!!
「え?」
「ナナフシ討伐隊のデータ・・・
全て遠距離狙撃および対空攻撃システムによって倒されています。
ただ、データの不足により、詳しい事は不明ですが・・・」
「え?」
「なんと・・・となると遠距離射撃は危険かもしれませんな。
ふむ、二の徹を踏む愚を犯すのは、経済的にも賛同できません」
「え、え、え〜〜」
「俺が言いたかった事はそういうことだ」
「う〜〜・・・」
ま、これであんな事にはなるまい。
結局、今イネスさんたちがナナフシの戦力を分析している。
仕方がない、俺はお呼びがかかるまでシミュレータで、色々と試してみるか。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「ふう、やっぱりいくら工夫しても奥義レベルは無理か・・・
新技は全エネルギーをディストーション・フィールドにつぎ込めば、
使うだけなら一応使えるけど・・・
特に問題なのは"壬"か・・・
ブローディアのデータでシミュレートしても成功確率九十%・・・
ブラックサレナのデータじゃ四十五%か・・・
ま、この"壬"に関して言えば、技の性質上どうやったって今のエステじゃ使えないからな、
問題はないだろ。
他の技も一応コントロールだけはできるようになったけど、
ジェネレータの出力上どうやっても動きながらは使えないし・・・
ま、仮に出力を上げたとしても、
俺のイメージ力の問題で真直ぐ飛ぶぐらいしかできないんだけどね・・・」
まさかこの技のサポートプログラムを作ってくれなんて言える訳無いし、
もし言ったとしてもできるわけも無いからな。
それに、出力不足はどうしようもないか。
「これはブラックサレナができるまでの課題だな。
一応、フルコンタクト状態なら機動戦をしながらでも完全制御できるし・・・」
「止めて下さい!!」
「ル、ルリちゃん?」
みると、ルリちゃんと、コミュニケが繋がっている。
「い、いつからそこに・・・」
全然気付かなかった・・・
近くに人がくると、例えコミュニケを通してでも俺の生存本能が危険を知らせるんだけどなぁ・・・
「そんな事はどうでも良いんです!!
アキトさん、フルコンタクト状態で戦うのは絶対止めて下さい。
エステバリスはナデシコC級の戦艦とは違うんです。
あの状態は、いわば自分をコンピュータの一部にするような物なんですよ。
人とほとんど変わらない・・・AIと呼べるレベルのオモイカネ級コンピュータだからできるんです。
私は実験したから知っています・・・
コンピュータの冷たい思考を・・・
感情のかけらも無い・・・冷たくて、強力なあの思考を・・・
解りますか?コンピュータの考えてる事が、コンピュータの感情が・・・
そのデータを、無理やり詰め込まれる恐怖が・・・
絶対止めて下さい。
それに・・・あの状態を維持するには、
そのとき使っているデータの百倍近い空きスペースが必要なんです。
でないと、そのデータが頭の中に流れこんで来て死んでしまいます。
ナデシコBでは、完全なワンマンオペレーションができないのはそのせいです。
それは・・・エステバリスのデータは戦艦とは比べ物にならないぐらい少ないですけど・・・
とにかく危険です。絶対にやらないと約束してください!!」
「あ、ああ、解った、約束する・・・」
俺は思わず気圧されてしまった。
こんなに必至な、ルリちゃんを見たのは・・・
もしかしたらユーチャリスでナデシコCから逃げてた時以来じゃないだろうか・・・
あの時は即答で断れたのにな・・・
「本当に本当ですね」
「ああ、本当だよ、約束する」
ナデシコが、皆が危険な時以外使わないよ。
「・・・解りました、約束ですからね」
不服そうなルリちゃんを見て、俺は話を変える事にした。
「ああ、それよりルリちゃん、
見てたんだろ、俺の様子。
どう思った?」
「・・・そうですね、はっきり言ってむちゃくちゃですね。
北斗さんという方は、ここまでしないと勝てないのですか?」
「・・・そうだといったら?」
「そうなのでしたら仕方が無いのかもしれませんが・・・
はっきり言って、私は反対です。
こんな物をコントロールするなんて・・・いくらアキトさんでも無茶です、危険すぎます!!」
「・・・確かに北斗は強いよ、
でもここまでしなくても勝てるかもしれない」
「なら・・・」
「でもこの技は、対北斗用の技じゃないんだ」
「・・・もしかして、あの"己"という技は」
「ああ、その通り。
敵だけを、しかもコックピットは避けて破壊するための技だ」
「・・・・・・・・・・・・」
「今までは良かった。
でもこれからは白鳥さんたち木連の人たちが相手なんだ。
悪魔に魂を売る事も厭わないといった人が何を言うんだ思うかもしれないけど・・・
白鳥さんたちは助けたい・・・
そのためにできる事はすべてやるつもりだ」
「・・・解りました、でも、無理はしないで下さいね。
アキトさんが死んだら、だれがアキトさんの後を継ぐんですか?
それは、私も白鳥さんは助けたいです。
でも、そのためにアキトさんやユリカさんを見殺しにはできません・・・お願いです」
「解ってるよ。
解ってる、でも解ってるのとできるのは違う・・・
その時になったら・・・」
「解ります、良いんですよ、解っているのでしたら十分です」
「・・・ありがとう、ルリちゃん」
「それよりアキトさん」
「ん、何、ルリちゃん?」
「そろそろ分析が終わりそうですよ」
「そう?解った、今行く」
「ハイ、お待ちしております」
ピッ!!
「さて、私の分析の結果から、ナナフシについて説明しましょう」
「はぁ・・・」
何で紙芝居形式?
それに飴・・・
ま、こういうレトロなの好きだけどさ・・・
「私の分析によると、ナナフシの正体は重力波レールガン・・・
つまり、マイクロ・ブラックホール砲だと推測されます」
「というと?」
ユリカが聞き返す。
「つまりこの間アキト君が北極海で使った・・・なんだっけ?」
「咆竜斬です」
「そう、その咆竜斬みたいな物と思ってくれて良いわ。
大きさその他から推測して、おそらく威力的にはあれ以上でしょうね」
「そ、そんな・・・」
「ま、移動力は無い・・・もしくは極小なのと、
チャージに相当な時間がかかると推測されているというのが救いといえば救いね。
ま、実際に見てみないことにはこれ以上は解らないわ、
もしかしたら決定的な思い違いを犯している可能性もあるもの。
そもそも極端に情報が不足し、かつ従来のデータが使えない場合における推測については・・・」
「はいはい、貴重なご意見どうも有り難うございました」
ま、イネスさんの説明に長々と付き合ってる暇は無いから仕方ないな。
しかし・・・
俺は未練たらしく俺たちを睨んでいるイネスさんに声をかける。
「ところでイネスさん」
「ハイ!!何、アキト君?
何か質問?」
ジャンプでもしたのかと思うような速度でイネスさんの顔がアップになる。
「い、いえ、チャージに相当な時間がかかると推測って・・・具体的にはどれくらいですか?」
俺はリンボーダンスのような姿勢で答える。
「私たちの手に入るデータから推測したところ・・・」
「ところ?」
いつの間にか皆がイネスさんに注目している。
「90%以上の確率で一時間から三日の間と出たわ」
「そんなの、解らないのと変わらないじゃないですか!!」
ユリカが大声をあげる。
「仕方ないでしょ、情報が決定的に不足してるんだから。
良い?そもそもデータからの推測とは、統計学における・・・」
「ハイハイハイハイ・・・」
人間素直に謝る事も大切だぞ、ユリカ。
「とにかく、これからどうするかです」
あ、開き直った。
見るとイネスさんはいじけている・・・
かわいそうだとは思うけど、イネスさんの説明を聞くのも嫌だし・・・
「敵の対空攻撃システムは、こちらの対応できるレベルを明らかに上回っています」
ルリちゃんが冷静に話を進める。
「となるとエステバリスで陸から?」
それが良いだろうな。
「いいえ!!それは駄目ね!!」
突然イネスさんが復活した。
「どういう事ですか?」
「良い?ナナフシの対空攻撃システム・・・つまりマイクロブラックホールのレールガンは、
ナデシコを完全にアウトレンジできるほど長くて、
ナデシコのディストーション・フィールドですら簡単に突破できるほどの威力があると推測されてるの」
「そうか、もしそれを水平発射されたら・・・」
ジュンが口を開く。
「その通り、エステバリスなんて跡形も無く消滅するでしょうね。
北極海のチューリップのように・・・」
・・・それは考えなかったな。
「対空高射砲の対戦車砲への援用・・・旧世紀のドイツ軍の使った手ですな」
プロスさんがそういうことに詳しいとは、思わなかったな。
「ふむ、非常に経済的な兵器の運用法ですなぁ」
・・・納得。
「じゃあどうするんですか?」
メグミちゃんが待ちくたびれたような声を出す。
「う〜ん・・・」
ユリカが悩んでいる。
さて、本当にどうする?
「ねぇアキト、アキトはどう思う?」
俺に聞くなよ、俺は実戦指揮ならともかく、作戦立案には自信ないぞ。
「ねぇ?ねぇってば!!」
これは何か言わないと収まらないな・・・
「そうだなぁ・・・
敵の戦力はナナフシ以外にどれくらい居るんだ?」
「不明ね、戦車が多数・・・としかいえないわ。
情報が無さ過ぎるのよ・・・」
そうか、そうだよなぁ。
「え?戦車なんてあるの?」
ヒカルちゃんが嬉しそうな声を出す。
「ええ、木星蜥蜴は、廃棄された戦車の製造プラントを乗っ取ったみたいね」
「へ〜戦車があるんだ〜戦車戦車戦車〜〜♪」
「あの〜、戦車ってなんですか?」
ま、普通の人は知らないよな。
「説明しましょう!!」
イネスさんが喜声をあげる。
「戦車とは旧世代の陸戦兵器であり元々は古代中国などで攻城兵器として・・・」
「ま、つまりキャタピラ・・・つまりベルトのようなタイヤをつけて走破性を上げた、
移動砲台みたいな物だよ」
イネスさんが戦車の起源にまで遡って説明しようとしていたので、
俺が掻い摘んで説明する。
「確かにエステバリスに比べるといずれの性能も遥かに劣るが、
数がそろうと厄介だ」
ゴートさんが俺の説明を補足する。
「となると、ナデシコの防衛も必要か・・・」
「大丈夫です、戦車がいくら来ようとグラビティ・ブラストで・・・」
「戦車に勝ってもナナフシに勝たないと、意味無いのよね〜」
ミナトさんが脱線しかけた話をさらっと本題に戻す。
「う〜んとぉ・・・話をまとめると、
一 ナナフシにマイクロ・ブラックホール弾を撃って貰う。
二 ナデシコを守りつつエステバリスで陸から攻撃。
三 戦車部隊を突破。
四 ナナフシを破壊」
何をどうまとめたのか解んないけど、
ユリカが作戦の基本的な流れを説明する。
「安全策かな?」
「経済的側面からも賛同しますよ」
「それしかないかな」
ま、それ以外に手が無い訳じゃないが・・・
許可するはずが無いよな・・・
「やっぱり、ナデシコを囮にするしかないよ」
堂々巡りの小田原評定の後、ユリカがそんな事を言い出す。
確かにエステを囮にするわけには行かないな。
「仕方がないでしょうな」
「ユリカ、ナデシコが被弾したら相転移炉の出力が落ちてしまうじゃないか。
そしたら、ナデシコの防衛が・・・」
その通りだな、ナデシコの護衛も必要だ。
「う〜ん・・・ならならぁ・・・」
またループにはまろうとするユリカ。
仕方がない、二回目と同じ策で行くか。
ナデシコが危険にさらされるのは不本意なんだが・・・
ドギャァァァァァァァァァンンン・・・
「キャ!!」
「な、何!!」
な、何だ。
ドゴォォォォォォォンンン!!!
「ディストーション・フィールド消失!!」
これは・・・ナナフシの攻撃!!一体何故・・・
「被害は十一ブロックに及んでいます」
と、とにかく・・・
「相転移エンジン停止!!」
「へ?」
「きっとナナフシよ、先手を取られたわね、これは」
「イネスさん・・・説明ご苦労様です。
って、今はそれどころじゃないんですってば!!」
「操舵不能!! 墜落します!!」
「補助エンジン全開」
ゴォォォォォォォォォォ!!
「ちょっと、私の説明を聞いてるの艦長?」
「聞いてる場合じゃないんですってば〜〜〜〜!!」
ズザザザザザザザザザザザアアアア・・・
「恐らくこちらがいつまでもここにとどまっているから、あっちから移動してきたのね」
「え?だってナナフシは移動・・・」
「移動力は無い・・・もしくは極小と推測される・・・と言ったはずよ。
だれも動けないとは言ってないわ」
・・・さて、どうする?
第二十四話に続く
あとがき
と、いうわけで[育て方]の第二十三話です。
今回は、「苦労が実るとは限らない」というお話です。
アキト君は、ナナフシとの戦いが少しでも有利に進むように色々と画策しましたが、
結局何もやらなかったのと同じという結果になってしまいました。
ま、あのナナフシのような攻撃力の高い兵器に、
ナデシコのような独立部隊をぶつける事自体が、間違っているのではないでしょうか。
独立部隊の強みは、あくまで判断の素早さと、隠密性であって、
それを利用して、戦局をかき回す事にあるはずです。
ちょうどユーチャリスのような戦い方が、ベストといえるでしょう。
神出鬼没、ヒットアンドアウェイを得意とする最強の独立部隊。
独立部隊ゆえ、情報や戦局から活動範囲を割り出しにくいですし、
敵としては、非常に戦略を立てづらい不確定要素です。
また、活動範囲を木星圏まで広げておけば、
敵はどこに居ても警戒態勢を解けず、効果を倍増します。
ま、そんな事言っても始まらないのですが・・・