「あ、アキト〜〜〜!!」

「ん?何のようだ?」

「うぅ〜、この間あとでお話の続きするっていったのに、

 あれから全然お話してな〜〜い」

「すまん、忙しいんだ」

「駄目です、艦長命令です、私とお話しなさい!!」

「断る」

「ぶぅ〜〜」





ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
 第二十六話 過去



あれから数日、なかなかユリカはルリちゃんの機嫌が悪い事に気付かない。

ま、良くも悪くも我が道を行く奴だからな、細かい(?)事は気にしないんだろう。

お陰で俺がルリちゃんの機嫌を取ったり、ミナトさんに怒られたりと色々苦労する。

・・・小さい時みたいだな。

なんだか懐かしいなぁ。

ユリカが俺の後についてきて、問題を起こして、俺がその後始末をする、

ついでに親に怒られる、おじさんにも怒られる・・・

・・・思い出したらむかついてきた。

何でユリカじゃなくって俺が怒られねばなら無かったのだ?

百歩譲って俺の両親は良い、何でおじさんにまで?

・・・ユリカには早いところもうちょっと大人になってもらおう。





俺は今、厨房に立っている。

やる事は多いが、疲れた時にはここで色々と作る事にしている。

ホウメイさんの技を盗んだり、新しい料理の研究や、レシピを見ながらレパートリーを増やしたり・・・

なかなか楽しい、やっぱり俺はコックだと再認識させられる。

「テ〜ンカッワさ〜ん!!」

ホウメイガールズの一人、

ジュンコちゃんが話し掛けてきた。

「何だい、ジュンコちゃん?」

何か無性に嫌な予感がするんだが・・・

「あの〜、テンカワさんって彼女とかいませんよね?」

ガクッ

そういえば、前回はナナフシに向かう途中で同じような事をリョーコちゃんに聞かれたな・・・

「今は居ない・・・事になるのかな?」

嘘をつくと後でひどい目に会うからな・・・

少なくとも俺の場合。

「なるのかなってどういう意味ですか?」

「・・・そういう意味だよ」

ユリカは俺にとってなんなのか、

それに決着がつくまではどっちとも言えんだろう。

それに・・・なぜか居ないとはっきりも言いがたい・・・理由は不明だが。

「はぁ、そうですか、ですよね。

 なら、今はフリーなんですね?」

「一応はね。

 ところで・・・なんでいませんよねって確認するように聞くの?」

「本気ですか?はぁ、あのですね、

 仮にテンカワさんに彼女が居たら、少なくともナデシコのクルーでしょう?

 でも、ナデシコでアキトさんと付き合っている人が居るってうわさは聞きません」

「・・・なんでナデシコのクルーだと思うの?」

「はぁ、冗談・・・じゃないようですね。

 ・・・良いですか?誰が恋人を一人で戦艦に乗せるんですか?

 普通は引き止めます、絶対に。それが駄目ならついていきます!!」

・・・なるほど、道理だな。

「で、ルリちゃんとか艦長とかリョーコさんのかと付き合っているわけじゃないんですね?」

「・・・そうだよ」

「そうですよか、良かった」

・・・俺のどこに惚れたんだ、皆?

「で、で、じゃあ、あの、その・・・好きな人とかいます?」

「居るのかな?」

「え?居るんですか?

 誰ですか?教えてください!!

 ナデシコのクルーですよね?やっぱりルリちゃんとか、艦長とか・・・」

「ナデシコには乗っていない」

「え?じゃぁどこに・・・」

「遠い所に・・・ね、その人は・・・」

「遠い所って・・・それって・・・

 もしかして死ん・・・

 すいません・・・」

「良いよ、いつまでも引きずっていて良い問題じゃないしね」

「なら・・・少なくとも、その問題に決着が付くまでは、

 私が立候補しても・・・無駄ですね?」

「まぁ・・・そうかな。気持ちだけもらっておくよ、ごめんね」

「そんなっ、私の方こそ辛い事思い出させちゃって・・・すいません」

どうやら、少なくとも二回目よりは"色々な意味で"うまくいっているようだ。

ただ問題を先送りしただけともいえるが・・・





「おぅ、テンカワ、どうしたんだ、一体」

「いえ、さっきちょっと思いついた事がありまして・・・」

嘘じゃない、鍋を火にかけているところを見てたら思いついた。

「ナデシコに焼夷弾って有りましたっけ?」

「焼夷弾?なんに使うんだ?」

「何って・・・戦闘に決まってるじゃないですか。

 それ以外の何に使えるんですか?」

他に使い方があるんだったら見てみたい。

・・・森を焼き払えば農業にも使えん事はないか。

「わはは、そりゃそうだ。

 で、焼夷弾なんかどうすんだ?」

「いえ、敵に焼夷弾打ち込んだらどうかなって思ったんですけど・・・」

「どうかなって・・・どういうことだ?」

「いえ、少なくとも過負荷をかけつづけられるじゃないですか、

 ディストーション・フィールドの一箇所に張り付いて燃えつづければ・・・」

「なるほど!!

 確かにそいつは厄介かもしれねーな。

 さっそく試してみるか」

・・・試す?

「ウ、ウリバタケさん、試すって・・・」

「ん?エステのフィールドに、粘性の高い可燃物を付けて燃やしてみるんだが・・・それがどうかしたか?」

「そんなことしたらとんでもない事になりますよ」

「大丈夫大丈夫、俺の整備したエステはそんなにやわじゃねーよ」

「いや、そういう問題じゃなくって・・・」

結局、この後ウリバタケさんを何とか止めて、プロスさんの許可の元、

小規模なフィールドに油をたらして実験した。

結果は上々で、使い方によっては下手な爆発物より効果的だとわかった。

プロスさん曰く、今度入荷するそうだ。

よし、これでナデシコ自体の戦闘力が少し強化されたな。



「おい、テンカワ!!」

さっき聞いたうわさの真相を確かめるため、俺がテンカワを探していると、

テンカワは自販機の前のベンチに座っていた。

「ん?どうしたの、リョーコちゃん?」

「え?あの、その・・・

 いや、お前が一人でこんなとこに居るの珍しいからどうしたのかなぁって思ってな」

「俺だってたまにはここで何か飲む事だってあるよ」

「そ、そうだよな、いや、別に悪いって言ってんじゃねーぞ」

な、何を言ってるんだ俺は、言う事があるだろうが。

「で、何か話があるんじゃないの?

 ここじゃ言い難い事?場所を移そうか?」

「い、いや、良いんだ、ここで良い、別に・・・」

「そう・・・で?」

よ、よし、言うぞ・・・

「その・・・お前さ、どこであんな技を身につけたんだ?

 やっぱその"組織"か?」

・・・言えよ、俺。

「いや、あれは俺のオリジナルだよ。

 大体DFSはウリバタケさんが最近作ったんだ、

 それが無いとつかえない技を教えてもらったわけ無いだろ?」

「そ、それもそうだな・・・

 ええ〜と・・・そういえば、お前あの技以外にも色々有るんだろ?

 他にどんなのがあるんだ?」

「それはそのときのお楽しみ」

「そ、そうか・・・」

「話ってそれ?」

・・・勇気を出せ、今言わないでいつ言うんだ。

「い、いや、あの、その・・・テンカワ、さっきヒカルから聞いたんだが・・・

 お前・・・その・・・なんだ、

 お前・・・昔の恋人を殺した事があるってほんとか?」

だ〜〜〜何言ってんだ俺は、もうちょい言い方ってもんがあるだろうが。

「・・・・・・・・・・・・」

な、何とかフォローしねーと・・・

「い、いや良いんだ、すまねー。変な事聞いちまったな。

 じゃ、じゃあな」

・・・失敗だ、完全に嫌われちまった・・・俺の・・・馬鹿・・・

俺はテンカワに背を向けて立ち去る事にした・・・

「・・・リョーコちゃん座ったら?」

・・・テンカワ、俺が嫌いになったのは解る、だけど、せめてこれ以上俺を惨めにしないでくれ・・・

「・・・ま、似たようなもんだよ」

「え?」

な、何を言ってるんだ?

「俺が殺したようなもんだよ、あいつは・・・

 結局、俺が・・・俺だけが助かって、あいつは死んでしまった。

 俺が・・・もうちょっと確りしてたら、もうちょっと力があれば・・・

 あの時、無理やりにでも・・・

 あの時、まずあそこから・・・

 あの時・・・

 俺が殺したんだ、あいつは・・・」

・・・こいつらしいな、俺のした事なんか気にしちゃいねー。

でも・・・こいつの力でもかなわなかった奴って・・・

「結局、今俺がやってる事なんて、単なる自己満足のために過ぎないんだよ」

・・・・・・・・・・・・

こいつ・・・

「すまねー、俺なんかが聞いていいことじゃなかったな」

「いいよ、気にしちゃいないから。

 俺もわかってるんだ、良い加減吹っ切れないといけないって」

もしかして、こいつは・・・

「それに・・・もしかしたら誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない・・・」

やっぱり・・・こいつは・・・

「迷惑だよな、そんな事打ち明けられたって・・・」

・・・俺は・・・馬鹿だ。

「ごめんリョーコちゃん、やっぱり・・・一人にしてくれないか?」

俺はテンカワの何も見てなかった。

こいつの強さにばかり目を奪われて・・・

こいつの気持ちなんか考えた事も無かった・・・

こいつに俺の理想を重ねていたんだ・・・ 

馬鹿だよな、俺は。

こいつは俺の考えてたような奴じゃない。

「テンカワ、すまねー。

 俺はお前の事誤解してた。

 やっと解ったよ、お前が北極海で言った事の意味が・・・

 テンカワ・・・お前って・・・もっと強い奴だと思ってた。

 だけど安心したぜ、おめーでも悩む事があるんだな。

 俺はもう行くぜ、頑張れよ、テンカワ」

そう言って俺は自分の部屋に向かった。



俺はそういうことは苦手だが、これくらいは解るつもりだ。

あいつは頭では解ってる、

あいつに必要なのはアドバイスじゃない、時間だ。

後・・・俺にもな。

俺はどうなんだ?

まだ・・・あいつが好きなのか?

この間の一件で、俺はあいつが好きなんだと気付いた・・・つもりだった。

でも俺が好きになったのは、あいつの虚像なんじゃねーのか?

親父に言われた言葉・・・お前の一番星をつかめ。

俺はそれを探していた・・・

そしてあいつこそ俺の一番星だと思った。

俺が百人居てもかなわないぐらいのエステバリスライダーで・・・

常に真直ぐ前を向いていて・・・

どんなときも冷静で・・・

料理もうまくて・・・

優しくて・・・

聞いた話だが技術にも詳しいらしい。

まさに完璧な奴だと思っていた・・・

始めは悔しかった・・・

俺以上のエステバリスライダーが要るって聞いたときには。

絶対に追い抜いてみせる・・・そう思った。

でも、あいつの戦いを見て超えられない才能の差を感じた・・・

そして、あいつに会ってこいつなら超えられなくても仕方が無いと思った・・・

でも・・・違った。

あいつは俺の考えてた一番星じゃない。

それでも・・・俺はあいつが好きなのか?

そもそも・・・一番星って・・・なんだ?

俺は強い奴だと思ってた・・・

だから・・・俺より弱い奴とは付き合わない、そう考えていた。

でも・・・違うのか?

そもそも・・・強いって何だ?

俺にとっての一番星・・・俺にとって?

俺にとっての一番星は・・・ヒカルやイズミにとっても一番星じゃねーのか?

どういう・・・事だ?

親父は・・・何が言いたかったんだ?





第二十七話に続く





あとがき

と、言うわけで「育て方」の第二十六話です。

西欧編ひいてはオモイカネ暴走事件の前に、

キャラの心境を整理しておこうというのが今回のお話です。

取り敢えず今回はホウメイガールズとリョーコさんです。



リョーコさん・・・いろいろと考えてます。

月並みですけど、私も彼女はナデシコのクルーの中で、

実は彼女が一番女らしいキャラなのではないかと思っています。

その辺りを書きたかったのですけど・・・

物も見事に失敗してしまいました。

ま、まぁ、彼女もアキト君の本当の姿を見ぬいた訳ですし、

「時の流れに」の序章終了時よりはアキト君のふさわしい人物になっているはずです。

彼女はまだアキト君をあきらめません。

そのうちアキト君を支え続ける自信をなくして身を引いてもらうつもりですが・・・



「時の流れに」を呼んで気にいらなかった場所・・・

アキト君が"・・・いる・・・いや違うな、いたと言うべきかな"

といっているそばからリョーコさんが告白するシーンです。

どう考えてもまだその人の事が忘れられないという事ぐらい解るはずです。

まぁ、この場合リョーコさんにも

「今言わないと、もう二度とこんなチャンスは来ない」

という思いがあったでしょうからまだいいです。



しかし、帰ってきた後アキト君が責められるシーンは納得が行きません。

話の前後からどう好意的に見ても

"かなり手痛い失恋をした"

程度は予測されてしかるべきです。

その人を"付き合う事を考えているのは本当か"などと責めるのはちょっと・・・

なんだかなぁ〜という印象を拭えません。

まぁ、"恋は盲目"とも申しますが、ならミナトさんが止めると思いますし、

大体ルリ君はアキト君の気持ちを知っているはずです。

で、ある以上止める事は有ってもその逆をするのは・・・かなり無神経と言わざるを得ません。

第二章では「人の思い出を・・・」等と言って貰っておりますが、(確かこんな感じの台詞があったはず・・・)

このような人には遠慮は不要でしょう。

"あの"ルリ君なら、思う存分思い出に土足で踏み込んでいただいても全く心は痛みません。

人はそれを因果応報といいます。

ま、アキト君のように行動に見合った幸運を手にしていない人もいますから、

その逆の人がいてもかまわないのかもしれませんが・・・

と、言う事は・・・アキト君の幸運はルリ君に吸い取られているのでしょうか?



まぁ、これはあの方々全員に言えることなのですが・・・

あまり幸せになって欲しいと思えないのですよね、

せめて何か一つでも失ってもらいたい・・・

私は、アキト君より他の人に非があると思っています。

人の幸せを考えない人は、本当の意味で人を幸せにはできない・・・

人を幸せにできない人は、自分も本当の意味で幸せにはなれない・・・

「時の流れに」開始時のアキト君は、人も自分の幸せにできないタイプで、

彼女たちはどちらも幸せにできたでしょうが、

「時の流れに」の序章終了時はアキト君は人も自分も幸せにできますが、

彼女たちは両方幸せにはできないタイプだと思うのです。

「時の流れに」の序章終了時の彼女たちの姿勢は「時の流れに」開始時のアキト君とは対極の姿勢ですが、

「陽極まれば即ち陰なり」と言う事ですね。

実際にはそうなっていませんが・・・

やはりアキト君の幸せを吸い取っているのでしょうか?



大体どう考えても序章終了時のアキト君は、

彼女たちを「仲間」もしくは「友人」としては受け入れていても、

「恋人」としては拒否しているでしょう。

彼女たちも、一度ぐらい破滅を経験すれば少しは成長する・・・しないような気もしますが、

少なくとも、一度ぐらい全てを失ってみなければ、あの手の人間は変わりません。

それでも変わらない人は変わりませんし、

ルリ君みたく既に破滅を経験している人もいますが・・・

少なくとも、あのままの彼女たちと、アキト君はくっ付かないで欲しい・・・

ま、つくづくアキト君は不幸だという事です。



また、第一「時の流れに」において、彼女たちの中で、

アキト君への気持ちを「愛」まで昇華させた方がいるでしょうか、いえ、いないと思います(反語)

もしかしたら「恋」程度まででしたら昇華させた方もいらっしゃるかもしれませんが、

「愛」まで昇華させた方は皆無だと思います。

私的には、TV版でメグミちゃんがアキト君をあきらめたのは、彼女の彼に対する気持ちが、

「憧れ」であって、「恋」や「愛」ではないと気付いたからだと思うのです。

エリナ様が、TV版において控えめな態度だったのは、

「憧れ」を直接「恋」や「愛」に結び付けなかったからだと思うのです。

また、我が敬愛するイネスさんが控えめだったのは、

要するに逆行者の苦悩と同じような理由でしょうし・・・

解りやすく言うとアキト君は変わらないのに自分は変わっている・・・

あのときの自分と今の自分は、自分の中では一人の人間なのに、

アキト君にとっては違う(だろうと思っている)

詰まり、自分の一面を完全否定される事への恐怖・・・だと思うのです。

また、TV版においても、途中でメグミちゃんがぬけた辺りからアキト君争奪戦がなりを潜めるのは、

リョーコさんやユリカが、アキト君への気持ちを「愛」にまで昇華させたためだと思うのです。

この辺り、「時の流れに」におけるアキト君以外の方々は、TV版より未熟ではないでしょうか?

平たく言うと、ユリカやリョーコさん、メグミちゃんは、TV版よりナデシコで学んだ物は少ない、と言う事です。

また、それだけならいいのですが、エリナ様は、TV番登場時よりも子供だと言う事になります。

イネスさんは・・・子供とも大人ともつきませんが・・・

強いて言えば単純・・・キャラの掘り込みが浅い・・・と言う事でしょうか?



今のところアキト君への思いを「愛」まで昇華させて、正面から受け取っているのはルリ君だけ、

リョーコさんは「愛」まで昇華させてはいますが、まだ正面から捕らえきっていない・・・

イネスさんは・・・彼女は特殊ですからね・・・まぁ、正面から捕らえていない事だけは確かです。

ユリカはまだ「憧れ」のレベルですし、

エリナさんはあまり好印象は待っていません。

ユリカとエリナ様とイネスさんについては、

詳しくは次回書かせていただきますので、あまり期待しないで待っていてください。



しかし・・・

初期プロットとはまるで違った話になってしまっています。

こんなに内向的な話の予定じゃなかったのですが・・・