「敵、チューリップ三機、戦艦約百機、

 バッタ、ジョロ、多数」

「連合軍より連絡、

 −敵の第一攻撃目標はナデシコと推測、

 よって連合軍とは距離を取って敵を撹乱されたし−

 以上です」

「敵、発砲。

 距離から考えて牽制と推測されます」

「そっちがそうなら!! こっちもその気!!

 てってーてきにやっちゃいます!!

 第一目的は敵の撹乱、

 第二目的はチューリップの破壊です!!」





ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
 第二十八話 暴走





「いいね〜、自分たちの活躍で祖国の平和を守れるなんて」

確かに草壁のやりたいようにやらせたら"祖国は"平和にならないでしょうが・・・

・・・ま、いいです。

目的は今の所取り敢えず同じ方向にありますから。

「了解」

ナナフシ戦の後なんとなくナデシコはギクシャクしています。

私のせいもありますが、

なんでもアキトさんがあの時のユリカさんについて少し話したそうです。

皆さんこれでアキトさんを理解してくれると良いのですが・・・

「行くよ〜」

「お仕事、お仕事」

「行くぜ・・・」

リョーコさんは特に元気がないです。

あの後アキトさんと何か話されていましたが・・・

ナデシコは賑やかで和気藹々としているのがとりえなんですから、

早く立ち直ってください。

「ダイゴウジ ガイ、行くぜ〜〜〜!!!」

この人は例外です。

そしてエステバリス隊は出撃しました。

「エステバリス全機、出撃しました」

「ナデシコより各機へ、

 ナデシコの防衛が最優先。

 テンカワ機はナデシコの下と後ろを、

 アカツキ機は右、

 スバル、イズミ機は左を、

 アマノ、ヤマダ機は・・・」

「ダイゴウジ ガイ!!」

「ナデシコの上についてくれ。

 また、ナデシコは敵の撹乱のため高機動戦を行うので、

 エネルギー供給フィールドの範囲に注意してくれ、

 以上だ」

ジュンさんの指示の後・・・

エステバリス隊からの攻撃が始まりました。

敵味方に向けて・・・

「あ、そういえばオモイカネの反抗期・・・」

確かこれが原因で・・・

「よっしゃ!!いただき!!

アカツキさんがロックオンした無人兵器に向けてミサイル発射。

・・・発射した後に、誘導マーカーが敵から味方に変更されます。

「なに!!」

やっぱりです。

確かこの後軍にアキトさんのデータが渡って・・・

アキトさんが出向して・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

嫌です。

アキトさんが遠くに行ってしまうのも・・・

アキトさんが、アキトさんの言っていた、あの事件に巻き込まれるのも・・・

何よりアキトさんが傷付くのが・・・

・・・・・・・・・・・・

何か良い方法は・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

・・・そうです!!

「フィリスさん、後を頼みます」

「え?」

「オモイカネ、全システム強制終了。

 全演算データを私に・・・

 フルコンタクト・・・開始・・・」

私がオモイカネの代わりをすれば良いんです。

こうすればオモイカネの暴走は食い止められる・・・

そうすれば、軍にアキトさんのデータがわたる事もない・・・

そうすればアキトさんが西欧に行く事もない・・・

そうすれば・・・アキトさんがあの事件に巻き込まれる事も無い。

そうすれば・・・アキトさんが傷付く事もない。

そうすれば・・・

そうすれば・・・





「え!!何!!何が起こったの!!」

ユリカが慌てている・・・

しかし、俺は内心もっと驚いた。

一度味方に切り替わった誘導マーカーが再び敵に切り替わったからだ。

オモイカネの反抗期ならこんな事は起きるはずがない・・・

でもだれかがわざわざ一度味方に誘導マーカーを会わせるとは思えない・・・

と、なると・・・

一度味方に誘導マーカーが切り替わったのはオモイカネの仕業だろう。

と、なると・・・

誰かがそれを元にもどした・・・

そんな事ができるのは・・・

・・・まさか!!

「ルリちゃん!!」

・・・反応がない。

それに、その姿は・・・

「え?どうしたの、ルリちゃん?」

ユリカも異変に気付いたらしい。

やはりそうか!

「ルリちゃん、やめろ!!そんなことしたら身体が持たない!!」

・・・・・・・・・・・・

くっ、反応がない・・・

無視しているのか、聞こえないのか・・・

いずれにせよほっとくわけには行かない!!

「・・・テンカワ機よりナデシコへ、これより敵を殲滅する」

リミッタ−解除、

DFS作動、

ディストーション・フィールド、DFSに99%・・・

バーストモードは・・・

危険だな、やめておこう。





な、何が起きたの?

突然ミサイルが変な動きをして、

アキト君からルリルリに通信が入って・・・

ルリルリがおかしくって・・・

そしたらアキト君の機体も変になって・・・

「なに?何が起こってるの?」

艦長が騒いでるけど・・・

そんな事私が聞きたいぐらい・・・

何が起こってるの、なにをやってるの、ルリルリ・・・

ピッ!

「艦長!!テンカワの奴、何考えてるんだ!!」

「ど、どうしたんですか、ウリバタケさん」 

「どうしたもこうしたも・・・あいつ自分でエステのリミッタ−切りやがった」

「え?」

「普通の人間ならあそこまで加速すれば、強烈なGで気絶するぞ!!」

「そんな!!アキト!!」

艦長がウリバタケさんの言葉を聞いて動揺している。

「でも、アキト君いつもわざと攻撃に当たって加速したりしてるし、大丈夫なんじゃないの?」

気休めかもしれないけど、一応フォローしておいてあげる。

アキト君、貸し一だからね。

「確かに信じられない機動戦だが、バーストモードを使ったときとさして変わりはない。

 テンカワも完全に制御している。

 このままでも大丈夫だろうが?」

「そうですよ、強いんだから良いんじゃないんですか?」

シュッ!!

「良いでしょう・・・ウリバタケさんの心配事を私が説明しましょう」

イネスさんが突然現れる。

どうでも良いけど、ホントこの人っていつでも出てくるわよね。

「リミッタ−って言うのは、機体とパイロットにかかる負荷が一定以上にならないようについてるの。

 バーストモードを使うとエネルギーに余裕ができるから、

 エステバリスについている慣性制御システムの作動率も上がるわ。

 そうすれば急加速してもパイロットにかかる負荷・・・詰まりGは少なくてすむわけ。 

 詰まり今のアキト君の機体には、バーストモードなんか比較にならないぐらいのGがかかってるわけ」

「でもアキト君は普通にコントロールしてるんだから良いじゃない」

「そうね、

 仮に確かにGの方は問題ないのかもしれないわ。

 でも、バーストモードと違ってエネルギーに余裕があるわけじゃないから、

 防御用のディスト−ション・フィールドとDFSの同時作動なんて不可能なの。

 しかもDFSだって強化すればその瞬間に出力が上がるわけじゃないわ。

 どうしたってタイムラグが生じるの。

 普段のアキト君ならタイムラグまで考慮に入れて戦えるんでしょうけど、

 あの加速では、防御用にDFSの出力を落とす前に次の敵への攻撃に移らないといけないの。

 詰まり防御用のディスト−ション・フィールドを張る暇なんてない・・・

 常にDFSを作動させつづけているって訳」

「じゃ、じゃぁ・・・」

「そう、ミサイルの直撃はおろか、至近距離で爆発しても、

 バランスを崩して、慣性制御の追いついていない機体じゃ・・・

 シェイカーに入れられたようなものね、

 さすがのアキト君といけど、その状態でまともな操縦ができるとは思えないわ。

 そのまま海にドボン、無理な姿勢になって空中分解や、爆発する可能性もあるわ」

「そ、そんな・・・

 何でそんな事を!!」

艦長が怒鳴っている。

私も同感、何でアキト君はそんな事を・・・

「そんな事私に言われても困るわよ。

 でも、アキト君が考えも無しにあんな事するとは思えないから・・・

 多分ルリルリに関係有るんじゃないかしら?」

「え?」

「ルリルリが急に黙って光に包まれて、虚空を見つめている・・・

 普通じゃないわ。

 私たちはアキト君がルリルリに通信を入れたから、ルリルリの異変に気が付いた。

 アキト君は何でかは知らないけど、ルリルリの異変に気が付いたんでしょうね。

 アキト君が言ってたじゃない、

 "そんなことしたら体が持たない"って。

 多分なんでルリルリがこうなったのかも、何をしているのかも知ってるんでしょうけど・・・」

「じゃ、じゃあルリちゃんを元に戻せば・・・」

「危険ね、何が起こっているのかも解らないのに、

 下手に触ったら最悪命にかかわるわ。

 大体何でそうなっているのか解らないのに、戻しようが無いじゃない」

「そ、そんな・・・」

「で、どうするの、艦長?」

「・・・アキト。

 ルリちゃ・・・フィリスさん、アキトに通信・・・音声だけでも送れませんか?」

「はい、可能です」

「お願いします」

「はい、

 音声だけですけど、繋がりました」

「フィリスさん、ありがとうございました。

 アキト、お願い、もう止めて!!

 このままじゃアキトまで死んじゃう。

 アキトに・・・ルリちゃんに何が起こってるのかは解らない、

 でも、でも・・・

 私はナデシコの艦長です、クルーの安全は私の責任です。

 だから・・・何が起こっているのか教えて・・・

 私にも・・・協力させて・・・

 お願い・・・」

「・・・協力したいんなら何もするな、

 その場で待機、フィールドを全開にしろ」

「そんな、アキト・・・

 ナデシコにも・・私にも何か・・・」

「・・・・・・・・・・・・

 これだけは使いたくなかったんだが・・・

 ユリカ」

「何、アキト?」

「俺を信じろ」

「・・・解った、私はアキトを信じる。

 だから必ず帰ってきてね」

「ああ、

 しかし・・・

 数が多すぎる、ただでさえ時間が無いってのに・・・

 あの技・・・実戦では初めてだが・・・

 仕方が無い、一気にけりをつける。

 バーストモードスタート、

 フルコンタクト開始」

「な!!テンカワ、オメッ、今艦長と・・・」

「説教なら、後で聞きます」

「ふざけるな、おい!!」

「どうしたんですか、ウリバタケさん」

「テンカワの奴、あの状態でバーストモードなんか作動させやがった・・・」

「それは解りますけど・・・どうしたんです?」

「バーストモードは、ジェネレータの出力を短期間だがかなり上げるシステムだ。

 そしてさっきも言ったが、リミッタ−ってのはパイロットと機体に過負荷がかからないように付いてんだ。

 詰まり、このままじゃ仮にテンカワの奴がGに耐えられたとしても、エンジンの方がもたねぇ」

「詰まり・・・」

「いつ爆発してもおかしく無いってことよ」

「それだけじゃねぇ、あのGじゃいかに俺の整備したエステバリスといえど、

 そう長くは耐えられねぇ。

 爆発する前に故障して・・・いくらテンカワの奴が異常でも、

 故障した機体を自由にできるわけねぇ、

 何が起こるかは・・・神のみぞ知るって奴だな・・・」

「そ、そんな・・・」

「で、でもバーストモードって機体に過負荷がかかったら自動停止するんじゃ・・・」

確かそうだったはず・・・

「それがリミッターだ」

「え?」

「リミッターを解除した以上故障するか、パイロットが自分で止めるかしない限り、

 あの機体を止める事はできないわ」

「大丈夫です、アキトは私に信じてくれって言いました。

 必ず帰ってくるって・・・

 だから大丈夫です」

「信じるのは勝手だがな、艦長・・・」

「テンカワ機よりナデシコへ、

 その場で待機、フィールド全開、

 連合軍にもそう伝えろ」

突然アキト君から連絡が入る。

そういえば通信繋いだままだったわね。

「え?」

「どうするんだ、艦長?」

「・・・私はアキトを信じてます、

 それに・・・これ以上アキトの負担を増やしたくありません。

 ミナトさん、この場に停止、

 ジュン君、皆にそう伝えて、

 メグちゃん、連合軍に連絡」

艦長の言葉を受けて、ナデシコを停止させる。

「・・・それでいい。

 行くぞ」

その声と共にアキト君の機体が上へ上へと上っていく・・・

そして天に掲げたDFSが漆黒に染まり・・・

「あれは、マイクロ・ブラックホール!!

 アキト君、ナデシコごと吹き飛ばすつもり?」

「大丈夫です、アキトを信じてください。

 ミナトさん、このまま現在の位置に待機、

 フィリスさん、ディストーション・フィールド全開」

「は、はい」

そしてDFSはさらに圧縮され・・・

「な、何なのあれは・・・

 あの咆竜斬ですら十メートルぐらいは有ったのに・・・

 アキト君、何をするつもりなの?」

そして私たちの目の前でDFSが一メートルほどに圧縮されていき・・・

漆黒を超えて周囲の空間まで黒く染めているDFS・・・

エステバリスとも大きさの比もあって、ちょうどラグビーボールみたいな・・・

その暗黒のラグビーボールを持つ漆黒のエステバリス・・・

「イ、イネスさん・・・あれが暴走したら・・・」

メグちゃんの声が震えている・・・

「ええ、間違いなくナデシコ・・・いえ、この空域にいる連合軍ごと全部消し飛ぶわ・・・」

「アキト・・・信じてるからね・・・」

艦長が呟く。

そしてDFSをさらに高く掲げ・・・

「邪なる物と戒められし古の王たちよ・・・

 太古の想いを現の物とし・・・

 破滅の記憶にて・・・

 我が敵を撃ち滅ぼせ・・・

 冥竜剣・・・

 第陸契約・・・

 己・・・」

その囁くような声と共に一気に振り下ろし・・・

そのラグビーボールからまるでグラビティ・ブラストのように純白の光が放たれた・・・

ドゴゴゴゴゴゴゴオオオオォォォォォォォォォォォォォォンンンンンン!!!!





ドガァァァァンンン!!

「キャ!」

「うわ!」

「ノウェ!」

「キャァッ!」

「ア!」

「オオ!」

「っと!」

「ム」

「いたたたたたた・・・・

 フィリスさん、現状を報告してください」

「は、はい・・・

 ナデシコ本体、および各エステバリスに具体的なダメージは無し、

 連合軍に対しても具体的な被害は無いようです。

 ・・・・・・・・・・・・

 あ、後・・・」

フィリスさんの報告が止まった。

「どうしたんですか?」

「ナ、ナデシコ、および連合軍周囲の木星蜥蜴の殲滅を確認・・・」

「え?」

「敵・・・残りは前方敵本隊だけです・・・」

「な、なんて・・・技・・・な、の・・・」

イネスさんが腰が抜けたように崩れ落ちる・・・

「グラビティ・ブラストみたいな技でしたよね・・・」

メグちゃんが感想を漏らす。

「あ、貴方ね、何をとぼけた事言ってるの!!

 あんなに大量のディストーション・フィールドをあそこまで圧縮して、

 ばらばらにして全部前に飛ばすなんて並大抵の事じゃないわ」

「どういう事ですか?」

何なの、アキト・・・何をやったの・・・

「DFSを使ってディストーション・フィールドを、

 剣の形に圧縮するのはそう難しい事じゃないわ。

 リョーコさんたちでも機動戦をしながらでなければ、

 サポート無しででもできたのは言ったわよね?

 ところが刃を飛ばすのは低出力でも無理だった。

 さっきのあの技、グラビティ・ブラストみたいな技というより、

 散弾銃のような技と言うべきね。

 DFSでは、円錐状の刃を作る事も飛ばす事も不可能。

 あの技は大量の刃を前に円錐状に飛ばしているの。

 低出力とはいえあの数の刃を同時に作って飛ばす・・・

 全ての刃を同時にイメージする・・・

 一つの強力な刃をイメージするよりよほど難しいわ。

 しかもそれを飛ばすなんて・・・」

・・・どういうこと?

「詰まり・・・どういう事?」

ミナトさんが私の代わりにイネスさんに質問する。

「つまり、一つの強いイメージより、

 弱くてもたくさん事を同時にイメージをする方が難しいという事よ。

 例えるなら、四次方程式を解くより、

 ランニングと、一次方程式を解くのと、折鶴を作るのと、

 九九を唱えるのと、本を読むのと、裁縫と、野菜を切るのと、音楽を聴くのと、

 リンゴの数を数えるのを同時にやる方が遥かに難しいといえば解りやすいかしら?

 あの完全に円錐状に見えるほど大量の刃のうち、

 一つでも制御しそこなったら、

 その刃がどうなるか解らないわ。

 どこかとんでもない方向に飛んでいくだけならいいけど、

 反対に飛んでエステバリス自体を破壊する可能性もあるし、

 刃状に圧縮しているイメージ自体が制御を失って爆発・・・

 そのせいで他の刃も暴走・・・

 そのままエステバリスごとマイクロ・ブラックホールに飲み込まれる可能性もあるわ」

「そ、そんな・・・」

そんな恐ろしい技だったの・・・

「しかもそれを味方には当たらないように完全にコントロールするなんて・・・

 アキト君、貴方一体・・・」

「でも・・・アキト"第陸契約"って言ってましたよ。

 ってことは、あんな技が最低五つ・・・」

「後九つですな」

「へ?どういうことですか、プロスさん?」

「そうね、"第陸契約"が"己"である以上"第拾契約"まであるでしょうね」

「しかし・・・あの混戦状態で敵だけを・・・

 しかもこの広範囲にわたって破壊するとは・・・」

「ですが経済的に見て非常に有効な技です」

「プロスさん!!

 と、とにかくアキトに連絡、

 敵はほぼ殲滅されたので帰還・・・」

「断る」

「ア、アキト!!」

何で・・・

「連合軍に連絡、

 ディストーションフィールド全開、

 全観測システムを停止、

 全速後退」

「え?」

「良いから早くしろ!!

 後俺が合図したら、ナデシコも同じようにして欲しい」

「解った、アキト・・・信じてるからね」

「ああ、俺を信じろ」

「うん、

 皆さん、今アキトが言った通りにしてください」

「解ったわ」

「アキトさん、何するつもりでしょうね?」

メグちゃんがミナトさんと話している・・・

「そうね、北極海の一件で、もうアキト君に驚かされる事は無いと思ったけど・・・

 今のは流石に驚いたわね」

「でも今のより凄い技は流石に無いと思いますよ」

「そうね」

アキト・・・

「フィリスさん、光学観測だけは残して置いてください」

「はい」

ごめんね、アキト・・・

言われた通りにしなくて・・・

でも・・・





どうする・・・

あの数・・・あれだけの広範囲に散らばっていては・・・

もしかして・・・あれなら・・・

しかし、成功する確率自体・・・

やるだけの価値はある・・・か。

ん?通信か?

何、帰還命令?

「断る」

「ア、アキト!!」

「連合軍に連絡、

 ディストーションフィールド全開、

 全観測システムを停止、

 全速後退」

「え?」

「良いから早くしろ!!

 後俺が合図したら、ナデシコも同じようにして欲しい」

「解った、アキト・・・信じてるからね」

「ああ、俺を信じろ」

「うん、

 皆さん、今アキトが言った通りにしてください」

良し、それでいい。

そのまま俺は一気にエネルギー供給フィールドぎりぎりの位置まで行く。

そこでDFSを掲げフィールドを集中させる。





「アキト・・・大丈夫かな・・・」

「ユリカ、艦長の君が信じてあげないでどうするのさ」

「うん、そうだよね、

 ありがとう、ジュン君」

「ほら、始めるみたいよ」

イネスさんの声で、私たちが前を見ると、

モニターに映ったアキトのエステバリスの持つDFSに、

ディストーション・フィールドが集中していくのが見えた。

「・・・今更驚か無いけど・・・器用ね」

「そうなんですか?」

「ええ、一つのDFSで、剣を三つに別けて作るなんて・・・

 一応理論上は可能だけど・・・」

「でもさっきはもっと・・・」

「あれは違うわ。

 さっきのは言うならば、高密度のマイクロ・ブラックホールを、

 少しずつ切り離していたのよ。

 飛ばしてしまえばアキト君がコントロールする必要はないから、

 実質アキト君がコントロールしていたのは、

 DFS本体と切り離す一瞬だけ、

 ま、それでも狙った方向に狙った出力で飛ばすんだから、たいしたものなんだけどね」

「ふ〜ん」

「そんなこと言ってるうちに・・・チャージし終わったみたいね、

 でも・・・三つそれぞれ出力が違うみたいね、

 何をするつもりかしら?」





ディストーション・フィールドのチャージが終わった。

俺のDFSは上から漆黒、薄い黒、真紅の、

三つの刃に分かれている。

そして、唱言を唱える。

「我が心に巣食う荒ぶる神々よ・・・

 我が目前にて・・・

 滅びのときを現世に示せ・・・

 冥竜剣・・・

 第玖契約・・・

 壬・・・」

その呟くような声と共に俺は全速後退を始め・・・

機体が最高速に達した瞬間、

DFSを振り下ろし・・・・

次の瞬間今度は全速前進を始めた。

振り下ろしたDFSは、漆黒の刃を、薄い黒の刃が包む形で飛び出し、

真紅の刃はDFSに残す。

そして、再び最高速に達した瞬間、

振り下ろしていたDFSを振り上げる!!

「ナデシコへ、今だ、全速後退!!」

「ミナトさん!!」

「もうやってるわ」

それと同時に再び全速後退を始める。

同時にフィールドを全て防御に回し、全開にする。

俺の放った二組の刃は、

黒い刃を真紅の刃が追いかける形で突き進み・・・

徐々にその差を縮めていき、

真紅の刃が黒い刃に追いついた瞬間、

太陽が生まれた・・・





音にもならないような轟音が過ぎ去り、

ホワイトアウトしていたモニターが復活したとき、私たちは言葉を失った。

そこには、何も無かった。

敵どころか、雲も・・・

海でさえも削り取られていて、クレーター状にへこんでいた・・・

そんな状態から、いち早く回復したのは、艦長だった。

ま、流石というべきかしらね。

「ア、アキトは・・・フィリスさん!!」

「は、はい、現在停止していたシステムを復旧しています。

 光学観測も先程の影響で一部不鮮明なところがありますが・・・

 取り敢えず敵は殲滅したようです。

 テンカワ機については現在調査中・・・」

「艦長・・・」

「大丈夫です、アキトは無事です、急いでシステムを復旧してください」

「だが・・・」

「流石のアキト君でも・・・」

「ミナトさん!!」

「でも艦長、おそらく今の技はブラックホールの蒸発を・・・」

「聞きたくありません、メグちゃん、アキトからの通信は?」

「有りません・・・」

「さっきの爆発の影響で通信状況が悪いのね。

 そもそもさっきも言ったけど、あれはブラックホールの蒸発を利用した技だと推測されます。

 一瞬で崩壊する程度の低密度のマイクロ・ブラックホールを、

 ディストーション・フィールドで強引に安定させ・・・」

「テンカワ機を発見、

 左舷前方30度、仰角76度の方向です。

 通信、繋がります」

説明が・・・

・・・え?

アキト君が見つかったって?

次の瞬間、ブリッジにコミュニケが開いた。

ピッ!!

「ミッション・コンプリート、

 これよりナデシコに帰・・・」

ドゴォォォォンン。

「アキト!!」

私たちの目の前でバーニアが爆発するアキト君のエステバリス。

やっぱり無理が祟ったのね、

そもそもエステバリスの素材のクリープ強度は・・・

・・・そんなこといってる場合じゃないわね。





第二十九話に続く





あとがき

と、言うわけで「育て方」の第二十八話です。

アキト君大暴走・・・

好きなんですよ、アキト君がリミッター外して暴走する話・・・

でも、この話の設定じゃあそこでやるのは、ちょっと無理が有る・・・

と、言うわけでここでやらせていただきました。



今回の話は、ルリ君とアキト君の目的の違いです。

アキト君は皆の幸せが最優先、自身の幸せはその次ですが、

ルリ君はアキト君の無事を優先した・・・

という事です。

しかし、そのために自分を危険にさらすのですから、

似た物同士ですね・・・

いつかも書きましたが、

私は、ルリ君とアキト君は似ていると思うのです。



私のオリジナル技、

冥竜剣

第二十三話で言っていた技です。

後、イネスさんたちが、全部で十有ると言った理由は、

国語辞典を引いてください。

十干(じっかん)を引けば、多分解るはずです。

ちなみに"壬"の読みは、"じん"です。



しかし・・・我ながらとんでもない技ですね・・・

己・・・

敵味方識別式の、広域殲滅技・・・

スパロボをやった事がある方は、マップ兵器と言ったほうが良いかもしれません。

また、やった事がある方なら、この使い勝手のよさを理解いただけるものと思います。

混戦状態で雑魚を一掃できますからね。



壬・・・

ブラックホールの蒸発を能動的に使う技は、前から考えていました。

ただそこそこの距離で蒸発させると、威力が強すぎ、

威力を押さえると、自分も巻き込まれそう・・・

というわけで、このような方法を取らせていただいたしだいです。

イネスさんの説明を補完させていただくと、

不安定な超低密度のマイクロ・ブラックホールを、

高密度のディストーション・フィールドで包む事によって強引に安定させ、

それをDFSの刃で狙撃する事によって、

包んでいるディストーション・フィールドを破壊する。

それによって、再び不安定になったマイクロ・ブラックホールを、蒸発させる事によって、

それなりに離れた、任意の位置で低出力のマイクロ・ブラックホールを蒸発させる事ができる・・・

と言う技です。

しかし・・・むちゃくちゃですな・・・