「ミッション・コンプリート、

 これよりナデシコに帰・・・」

ドゴォォォォンン。

「アキト!!」





ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
 第二十九話 分裂





「くっ、右推進システム大破、

 無理しすぎたか!」

目の前でアキトのエステバリスがドンドン高度を下げていく・・・

「アキト、待ってて、今助けにいくから、

 ミナトさん、急いでアキトのところへ、

 エステバリス隊にも助けに行かせて!!」

「無理だ」

ア、アキト、何言ってるの。

「ナデシコが来るまで持たない」

「そんな・・・アキト・・・」

「俺なら大丈夫だ、

 今からナデシコまで跳ぶ」

「跳ぶ?」

どういうこと?

「イメージング・・・

 ・・・・・・・・・ジャンプ」

その瞬間、アキトのコミュニケが七色の光に包まれて・・・

「エリナさん、今のは・・・」

「ええ、多分あれが・・・」

プロスさんにエリナさん、

何を・・・

「プロ・・・」

次の瞬間には・・・

・・・・・・・・・・・・

今一瞬コックピットに誰もいなかったような・・・

でも更に次の瞬間・・・

ドゴゴオオォォォォォォォンンンンンン!!!

「ア、アキトォォォォォォーーーー!!!」

私たちの目の前で、アキトのエステバリスが・・・

爆発した。

「・・・アキトォ」

そのとき、目の前に七色の光が現れ・・・

その光の中から・・・

「煩いな、俺なら大丈夫だと言っただろう」

「・・・アキト・・・アキト、

 アキトォォォーーー!!!」

「やはり・・・」

「そうね」

「アキトォ〜」

「ユリカ、すまない、

 話は後だ」

え?

そのままルリちゃんに近づく・・・

そ、そうだ、今はルリちゃんを・・・

「ルリちゃん、もう良い、もう終わったんだ、止めろ、

 ルリちゃん!!」

アキト・・・ルリちゃん・・・

「ち、意識ごと飲み込まれてるのか?

 なら・・・」

意識ごと飲み込まれてる?

どういうこと?

そのままアキトがオモイカネのコントロールパネルに手を叩きつける。

「全システム強制終了、

 IFS強制切断、

 五秒後に再起動・・・」

「テ、テンカワさん、何故貴方が・・・」

「話は後だ」

次の瞬間、ナデシコの全システムが停止した。

オモイカネとリンクした?

アキトが?

何で・・・

驚くみんなの前で、アキトはルリちゃんをオペレータ席から抱き起こし、

床に寝かせる。

「脈拍・・・乱れてよく解らない、

 体温は・・・三十九?

 呼吸も不規則・・・

 ちっ、やばいな」

どういうこと、ルリちゃん・・・病気なの?

そのとき、ナデシコの全システムが復活した。

とたん再びアキトがオモイカネノコントロールパネルに手を叩き付ける。

「オモイカネ、貴様何をやったか解ってるのか!!」

ア、アキト?

・・・違う、あんなのアキトじゃない。

アキトはあんなに怖くない。

アキトはあんな目をしていない。

違う、今のアキトは・・・

こんなのアキトじゃ・・・

「ふざけるな、貴様のやっている事は・・・

 ち、良いだろう、貴様のやった事がどういうことか、

 何をやったのか教えてやる!!

 首を洗って待ってろ!!」

そう言ってコントロールパネルから手を下ろすと、

ルリちゃんの方を向き直る・・・

その目は・・・いつものアキトの目だった。

優しくって、包んでくれて・・・

きれいで・・・深い・・・

「イネスさん、急患一名。

 お願いします」

「え、ええ、解ったわ」

そういうと、アキトはルリちゃんを抱きかかえて、

ブリッジを出ようとする。

が、扉の前で立ち止まった。

「フィリスさん、オモイカネを監視しといてくれ」

「え?は、はい」

「頼む」

そういうと今度こそアキトがブリッジを出る。





「アキト・・・ルリちゃん・・・」

「そういえば・・・アキトさんって、どうやって帰ってきたんですかね?」

「そうよねぇ〜、どう考えても変よね」

「もしかしてアキトさんって、瞬間移動ができるんですかね」

「う〜ん・・・流石にそれはないと思うけど・・・

 でも、そうとでも考えないと、説明がつかないわよね」

「そうですよねぇ・・・

 あ、でもチューリップも瞬間移動みたいな事できるんだし、

 不可能じゃないんじゃないんですか?」

「でも・・・チューリップって、ディストーション・フィールド無しで入ったら・・・」

「う〜ん・・・」

「あ、そういえば・・・」

「何、何か思いついたの、艦長?」

「プロスさん、エリナさん、

 さっき、アキトが"跳んだ"時、何か知ってるみたいでしたよね」

「そ、そんな事ないわよ」

「そうなんですか、プロスさん」

「はぁ・・・」

「ゴートさん」

「い、いや・・・」

「言いなさい」

「そ、それは・・・」

「い・い・な・さ・い」

「う、ウム・・・」

「いえ・・・企業秘密と言うものでして・・・」

「プロスさんには聞いてません」

「良いわよ、艦長、

 今のでプロスさんたち・・・ひいてはネルガルは何かを隠してるってことはわかったから」

「・・・そう言われて見るとそうですね」

「・・・プロスさん・・・ネルガルは何を企んでるんですか?」

「いえ、べつにそんなことは・・・」

「エリナさん?」

「か、関係ないでしょ!」

「関係有ります!!

 私は艦長としてクルーの安全を確保する必要があります。

 また自分たちが正体不明の計画に荷担しているとなれば、クルーも不安になります。

 私は艦長として、クルーの不安を可能な限り軽くする義務があります!!」

「それはそうですが・・・

 しかし我々といたしましても、民間の企業ですので、

 やはり利益がなくてはならないわけですし・・・

 なんと言ってもネルガルにはたくさんの社員がいる訳でして、

 彼等に払う給料の事も考えると、ナデシコばかりにお金をかけるわけにも・・・

 元々戦争と言うものは莫大な消費活動でして、

 ものを生み出す能力は低いと言わざるを得ませんし・・・

 その中で何らかの利益を得るためには、軍から払われる分だけでは少々・・・

 ミサイル代や、ナデシコやエステバリスの修理費などで・・・

 これと言うのも、貴方方ナデシコのクルーの皆さんは給料が・・・

 危険手当や海外赴任手当、さらに各種保険の・・・」

「誤魔化さないで下さい!!」

「煩いわね、貴方たちが知る必要のないことよ!!」

「そんな!!」

「はいはい、この話はこれで終わり!!

 良いわね!!」

「エリナさん!!」

「これで終わり!!」

「・・・解りました、でも一つだけ聞かせてください。

 アキトはその計画に参加してるんですか?」

「してないわ、

 彼の協力なんて、こっちから願い下げよ」

「しかし、彼の協力は・・・」

「ゴートさん、それ以上は・・・」

「う、ウム・・・」





「ネルガルって、何考えてるんですかね?」

「うまく誤魔化されちゃったしね」

「あら、そんな事ないわよ」

「ミナトさんは何か解ったんですか?」

「少しね、

 まず、ネルガルはただ地球を守るためにナデシコを造ったわけじゃない。

 火星にいたイネスさんたちを助けるためってのも考えられるけど、

 それなら、帰ってきた時点で金食い虫のナデシコなんか軍に売ちゃえば良いのに、それをやらない・・・

 他にも目的があると考えた方が自然だわ。

 次に、ネルガルの真の目的は、多分さっきアキト君がやった"瞬間移動"ね、

 そこを突っ込まれたら慌ててたもの。

 ま、確かにあの"瞬間移動"の技術を手に入れられたらネルガルのシェアは広がるでしょうしね。

 後、鍵はアキト君が握ってるわね。

 少なくともアキト君はあの"瞬間移動"を自由にできる、

 そしてその事をネルガルは知っている・・・

 でもアキト君とネルガルは協力関係にないわ、

 多分前に交渉して失敗したんでしょうね。

 ネルガルの計画について解った事はこの程度ね。

 アキト君の持つ"瞬間移動"の技術を手に入れるため、ナデシコを造った・・・

 そしてその計画はうまく進んでいない・・・

 ただ・・・

 アキト君の"目的"が、わからないのよね」

「ミナトさん凄い・・・」

「名探偵みたい・・・」

「誉めても何もでないわよ、

 それより・・・フィリスさんは何か知りません?」

「え、私ですか?」

「そ、ナデシコがわざわざ危険を犯してまで火星に言ったと言う事は、

 火星でさっきの"瞬間移動"について研究していて、そのデータの回収に行った・・・

 こう考えるのが一番自然よ」

「すいません、私はプログラム専門だったので、

 そのようなプロジェクトには参加していなかったのです」

「良いのよ、

 フィリスさんが悪いんじゃないんだから・・・」

「でも・・・"瞬間移動"ですか・・・」

「そうね、ネルガルも何から何まで信用するわけには行かないわね」





「それは良いとして・・・

 ルリルリ・・・大丈夫かしら?」

「そうですよね、普通じゃなかったですよね」

「ルリルリが変になって、アキト君が・・・」

「そうです、アキトはルリちゃんのせいであんな事したんです。

 ユリカ、プンプンです」

「・・・

 艦長、

 ルリルリはそんな子じゃないわよ」

「え?」

「ルリルリはわざわざ人に迷惑をかけたりしないわよ」

「でもルリちゃんのせいでアキトは・・・」

「ルリルリが何を考えてたのかは私にも解らないわ。

 でも・・・

 艦長はもう少し周りを見たほうが良いわね、

 アキト君も言ってたわよ、

 "ユリカは人の気持ちを考えてない"って」

「そ、そんな事ないもん、

 ユリカ、ちゃんと考えてるもん」

「そう?

 じゃあ聞くけど、アキト君の貴方に対する気持ちは?」

「それはもちろん、"好き"に決まってるじゃないですか、キャ〜」

「・・・

 それはどうしてそう思うの?」

「そんなの決まってるじゃないですか、

 "愛"の力ですよ、キャ〜」

「はぁ、艦長。

 それは単なる思い込みよ。

 アキト君はこうに違いないって決め付けて、

 アキト君じゃなくて、アキト君を通して王子様を見てるのよ、艦長は」

「えぇ〜、だってアキトは・・・」

「いい加減にしなさい!!

 確かに艦長は戦術指揮能力は一流よ、

 でも人の気持ちを考えなさ過ぎるわ!!

 例えば、最近ルリルリの様子が変なのに気付いてる?

 気付いてないでしょうね。

 ルリルリ艦長に対して怒ってるのよ。

 "ユリカさんは自分がよければそれでいいと思ってる"って、

 "ユリカさんはアキトさんに自分の理想を押し付けて、

 そのせいでアキトさんが苦しんでるのに気が付いてない"って

 アキト君は艦長の王子様なんかじゃないわ、

 そんなの艦長の勝手な思い込みよ!!」

「そ、そんな事ないもん」

「そう、ならそれを証明できる?

 私はアキト君が艦長の王子様じゃないと言う事を証明できるわ」

「そ、そんな事、そんな事・・・」

「証明できるの?」

「・・・・・・・・・・・・」

「良いんですか、ミナトさん」

「良いのよ」

「はぁ、それにしても・・・

 本当に言ってたんですか?

 アキトさんが、あんな事?」

「言ってないって言ったら?」

「それは・・・その・・・」

「確かに言ってないわ、

 でもこのままじゃかわいそう過ぎるでしょ?

 アキト君も、ルリルリも・・・

 ま、二人に言わせると、そこが艦長の良い所らしいんだけど・・・」

「・・・はぁ」

「抱え込みすぎなのよ、二人とも・・・

 いつも人のことばかり考えて・・・

 皆の事、ナデシコの事・・・

 あんな事言ってた割に・・・ね。

 もう少しは羽目を外しても良いのに・・・

 ま、羽目を外しすぎて、艦長みたいになるのもどうかと思うけど・・・」

「ミナトさんって、お母さんみたいですよね」

「失礼ね、まだそんな年じゃないわ、せめてお姉さんにしてくれない?」





「ふう・・・」

あれ、ユリカが落ち込んでる・・・

俺がきた事にも気付いていない・・・か。

ならここは・・・下手に声をかけるより何があったのか調べる方が先決か、

事前調査と情報収集は基本だからな。

「ミナトさん、ユリカ・・・どうしたんですか?」

「知らないわ」

・・・怒ってる?

「それよりルリルリは?」

「過労・・・だそうだ」

「なんだ、

 ただの過労か、

 良かった、安心したわ」

「良くないわね、

 ただの過労じゃない、

 重度の過労よ」

今ドアの開く音しなかったような気が・・・

「どう言う事?」

「元々FIS強化体質って言うのは、精神的負担に強いの。

 オモイカネの大量のデータを管理するんだから当然ね。

 とにかくIFS強化体質のルリルリが過労で倒れるって事は、

 普通の人間なら死ぬような莫大な負担がかかったって事よ。

 私の見立てでは、約一ヶ月の入院が必要・・・

 ま、IFS強化体質のルリルリの場合はどうなのか解らないけど・・・」

「そう、

 で、ルリルリはどうしてるの?」

「鎮静剤と精神安定剤をうって眠らせたわ。

 対処法としては、ゆっくり眠らせるしかないわね」

「そう・・・

 それよりアキト君、何があったの?」

「そうよ、私もそれを聞こうと思ってたの。

 あのルリルリにあそこまで負担をかけるなんて・・・

 なんだったの、あれは」

「あれは・・・」

「連合軍から連絡、

 今回の戦闘開始時にあった、

 ナデシコの攻撃についての調査を行う為の調査船を送る、

 以上です」

「フィリスさん、オモイカネを監視!!」

「え?」

「早く!!」

「は、はい」

ピピピ

「な、なんですか、これは・・・

 駄目です、オモイカネさん、止めてください」

「く、ユリカ!!」

「・・・・・・・・・・・・」

「ユリカ!!

 マスターキーを抜け!!」

「・・・・・・・・・・・・」

「ユリカ!!」

「・・・・・・・・・・・・」

「ミ、ミサイル発射」

ちっ、遅かったか・・・

「調査船に命中、

 脱出は成功したようです」

ピピピ

「だっ駄目です。

 今度命中したら・・・」

「ユリカ、確りしろ!!」

「・・・え?

 アキト?」

「そうだ、俺だ、

 いいからマスターキーを抜け!!」

「え?何で・・・」

「早く!!」

「う、うん」

ピュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン・・・・・・・・・・・・

これでミサイルが撃たれる事はないだろう。





第三十話に続く





あとがき

と、言うわけで「育て方」の第二十九話です。

ネルガル・・・信用されていません。

元々怪しすぎですから・・・

自分の目的のために他人を道具のように扱う事は、

他人に不信感を抱かせます。

これは、「時の流れに」においてジュン君が、

復讐をしようとしていて嫌われたのと同じ理由です。

人を利用しようとする人は信用されません。



ま、だからと言ってアキト君が信用されているかと言うと、

必ずしもそうとは限らないのですが・・・

ですが、アキト君は少なくとも"信用"はされていなくても"信頼"はされています。

疑いながらもついていく・・・

それが最善の道ではなくても、より良い道だと思えるから・・・

その先に光を見出せるから・・・



後、とうとうミナトさんがユリカと本格的に対立してしまいました。

人はその本質ではなく、行動によって評価されると言う事です。

賛否両論色々あるでしょうが、少なくともユリカは悪人ではありませんし、

私利私欲のために人を利用しようなどと考えてはいません。

ですが、視野が狭いために結果的にはそれと大差ないことになっています。

その為信用はされない・・・そういうことです。



しかし・・・人間関係が複雑なことになっていますね・・・

早く手を打たないといけませんね。

ちなみにこの話は結末は既に考えています。

ハーピーエンド・・・とは行かなくても、バッドエンドにはならない予定です。

でもこの調子ではそうならないかも・・・